説明

液体噴射ヘッド

【課題】液体流路からの放熱を防ぐと共に、ノズル近傍を効率的に加熱することで、噴射する液体の粘度を調節し、信頼性の高い液体噴射ヘッドを提供することにある。
【解決手段】ヘッドケース32の側面に装着したヒーター39と、該ヒーターに少なくとも一部が当接する側面部分33aと、該側面部分と連結して、ノズルプレート34側に屈曲すると共に、ノズルプレートに対してヘッドケースとは反対側で対向する底面部分33bと、により構成され、流路ユニット38の周縁を覆うヘッドカバー33と、を備え、底面部分は、ノズルプレートのノズル37が露出するように窓部33cを開口し、該窓部の開口縁の先端が、ノズルプレートに対して、リザーバー34に対応する領域とノズルとの間に当接し、ノズルプレートと底面部分との間であって、リザーバーに対応する領域に空隙を形成した液体噴射ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルに連通する圧力室に圧力変動を与えて、圧力室内の液体をノズルから噴射させるインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液滴として噴射させる液体噴射ヘッドとしては、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)などの画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)、液晶ディスプレイなどのカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)などの電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどがある。
【0003】
例えば、上記の記録ヘッドでは、リザーバーから圧力室を経てノズルに至る一連の液体流路が形成された流路ユニットや圧力室の容積を変動可能な圧力発生素子を有するアクチュエーターユニットなどを樹脂製のヘッドケースに取り付けて構成されている。上記流路ユニットには、複数のノズルを開設した金属製のノズルプレートが接合されている。
【0004】
このような記録ヘッドから噴射する液体には、液体の種類に応じて、例えば、常温でおよそ4mPa・sなどのように、噴射に適した粘度がある。液体の粘度は、温度と相関関係にあるために、温度が低いほど粘度が高くなり、温度が高いほど粘度が低くなる特性がある。そのため、各ノズルから噴射される液体の粘度を噴射に適した粘度に保持するために、液体を加熱するための加熱層を流路ユニット内のリザーバーの直下に備え、さらにその下に断熱層を備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−296498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、加熱層はリザーバーの直下であるため、リザーバー内の液体に加えた熱がノズルに至る液体流路において放熱され、ノズルから噴射するまでの間に液体の温度が下がる虞があった。即ち、加熱層の設定温度とノズルにおける液体の温度とが乖離し、液体の粘度調整が適切に行えない可能性があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体流路からの放熱を防ぐと共に、ノズル近傍を効率的に加熱することで、噴射する液体の粘度を調節し、信頼性の高い液体噴射ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
複数のノズルを形成したノズルプレートと、前記ノズルに連通する圧力室と該圧力室に液体を供給するリザーバーとが形成された流路形成基板と、を積層した流路ユニットと、
前記リザーバーに液体を供給する共通液体流路が形成され、前記流路形成基板に対して前記ノズルプレートとは反対側に接合されたヘッドケースと、
該ヘッドケースの側面に装着したヒーターと、
該ヒーターに少なくとも一部が当接する側面部分と、該側面部分と連続して、前記ノズルプレート側に屈曲すると共に、ノズルプレートに対して前記ヘッドケースとは反対側で対向する底面部分と、により構成され、前記流路ユニットの周縁を覆うヘッドカバーと、を備え、
前記底面部分は、
前記ノズルプレートのノズルが露出するように窓部を開口し、
該窓部の開口縁の先端が、ノズルプレートに対して、前記リザーバーに対応する領域と前記ノズルとの間に当接し、
前記ノズルプレートと前記底面部分との間であって、前記リザーバーに対応する領域に空隙を形成したことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ヘッドケースの側面に装着したヒーターと、該ヒーターに少なくとも一部が当接する側面部分と、該側面部分と連続して、ノズルプレート側に屈曲すると共に、ノズルプレートに対してヘッドケースとは反対側で対向する底面部分と、により構成され、流路ユニットの周縁を覆うヘッドカバーと、を備え、底面部分は、ノズルプレートのノズルが露出するように窓部を開口し、該窓部の開口縁の先端が、ノズルプレートに対して、リザーバーに対応する領域とノズルとの間に当接し、ノズルプレートと底面部分との間であって、リザーバーに対応する領域に空隙を形成したので、ヒーターによってケースの側面から共通液体流路を加熱することで液体流路内の液体を温めることに加え、ヒーターに当接したヘッドカバーを介してノズルプレートのノズル近傍を加熱することでノズル内の液体を温めることができる。また、リザーバーに対応する領域に空隙を形成したので、空隙を断熱層として機能させることで、リザーバー内の液体が放熱するのを防ぐことができる。これにより、液体噴射ヘッド内の液体を効率的に加熱することができ、噴射する液体の粘度をより適正に調節することができる。その結果、液体噴射ヘッドの信頼性を高めることができる。さらに、ヒーターおよび断熱機能を簡単な構造で実現可能としたので、容易に製造できる。
【0010】
上記構成において、前記空隙内に断熱材を設けた構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、リザーバーに対応する領域に断熱材を設けたので、リザーバー内の液体が放熱するのを確実に防ぐことができる。
【0011】
上記各構成において、前記空隙が前記窓部とは反対側で液体噴射ヘッド外の大気と連通することを防ぐ封止材を、前記ヘッドケースと前記ヘッドカバーの間に設けた構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、空隙と大気が連通することを防ぐため、リザーバーの熱が空隙を介して大気中に逃げることを防ぎ、リザーバー内の液体が放熱するのをより確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】プリンターの構成を説明する断面図である。
【図2】ヘッドモジュールの構成を示す平面図である。
【図3】単位ヘッドの構成を説明する正面図である。
【図4】図3における領域Aの拡大断面図である。
【図5】図4におけるB−B線断面図である。
【図6】ヒーターの構成を説明する平面図である。
【図7】第2の実施形態の図3における領域Aの拡大断面図である。
【図8】第3の実施形態の図3における領域Aの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。なお、本実施形態では、液体噴射装置の一形態である画像記録装置、詳しくは、ノズル開口群を等間隔で噴射対象物(又は記録媒体)となる記録紙の最大記録幅に相当する長さに配置した長尺な液体噴射ヘッド(以下、記録ヘッドという)を搭載したインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという)を例に挙げて説明する。
【0014】
図1は本発明に係るプリンター1の概略構成を説明する断面図、図2はプリンター1におけるヘッドモジュール3の周囲の平面図である。本実施形態のプリンター1は、搬送ユニット7による記録紙4(噴射対象物の一種)の搬送方向(相対送り方向。以下、第一方向X)に直交する方向(以下、第二方向Y)に複数の単位ヘッド11を配列して構成される記録ヘッドとしてのヘッドモジュール3(本発明の液体噴射ヘッドの一種)と、記録紙4を積層状態で収納する給紙トレイ5a及び装置下部に設けられた下段給紙カセット5bからなる給紙部5と、これらの給紙部5a,5bから給紙された記録紙4をヘッドモジュール3の下方を通過させて排紙トレイ10側に搬送する搬送ユニット7と、ヘッドモジュール3によって記録が行われ、搬送ユニット7側から排出された記録紙4を保持する排紙トレイ10とを備え、ヘッドモジュール3を第一方向Xに走査することなく記録紙4の記録領域の全幅にテキストや画像等を記録できるように構成されている。
【0015】
また、筐体2の内部には、各部の電気的な制御を行うプリンターコントローラー9が設けられている。このプリンターコントローラー9は駆動信号発生回路(図示せず)を有し、この駆動信号発生回路からの駆動信号を信号ケーブルを通じて各単位ヘッド11に出力する。さらに、図示しないが、筐体2の内部にはインク(本発明における液体の一種)を貯留したインクカートリッジ(液体供給源)が配置される。そして、エアポンプ等によるインクカートリッジ内の加圧によって、カートリッジ内に貯留されているインクがインク供給チューブを通じてヘッドモジュール3の各単位ヘッド11に供給(圧送)されるように構成されている。なお、記録紙4に対してヘッドモジュール3を第一方向Xに走査しながら記録を行う構成を採用することもできる。
【0016】
上記給紙トレイ5aは、上下方向に移動可能に構成されており、記録紙束の上面(最上部の記録紙4の上面)が常にピックアップローラー6と一定圧で当接するように筐体2に対する上下方向の位置が制御されている。そして、ヘッドモジュール3による記録動作の実行タイミングに応じて、記録紙束の最上部から記録紙4がピックアップローラー6により引き出され、分離ローラー12と分離パッド13とにより一枚毎に分離されて下流側へ給送される。記録紙4は、図示しない紙センサー間を通った後、上下一対のレジストローラー14a,14bのニップ部に突き当たる。なお、下段給紙カセット5bからの記録紙4は、複数の中間ローラー15を経由してからレジストローラー14a,14bのニップ部に到達する。これにより、記録紙4の先端姿勢が揃い、記録紙4のスキューが補正される。その後、レジストローラー14a,14bは、規定のタイミングで記録紙4を互いにニップした状態で1枚ずつ搬送ユニット7側へと給送し、記録紙4が搬送ユニット7の搬送ベルト17に到達してから所定のタイミングでニップ状態を解放する。
【0017】
搬送ユニット7は、図示しない駆動モーターの駆動力によって回転される駆動ローラー18と、駆動ローラー18よりも上流側に配設された従動ローラー19と、駆動ローラー18及び従動ローラー19の間に張設される無端状の搬送ベルト17と、搬送ベルト17に張力を付与するテンションローラー20と、押えローラー21とにより構成されている。テンションローラー20は、駆動ローラー18と、従動ローラー19との間に配設されて搬送ベルト17に内側から当接し、ばね等の付勢部材の付勢力により搬送ベルト17に張力を付与している。また、押えローラー21は、搬送ベルト17を挟んで従動ローラー19の直上に配設され、搬送ベルト上の記録紙4を搬送ベルト17側に押し付けて、記録紙4の搬送ベルト17に対する密着性を高める。
【0018】
駆動ローラー18は、ヘッドモジュール3の記録動作に同期して駆動されることで搬送ベルト17を回転させ、記録紙4をヘッドモジュール3の下方を通過させて下流側へと搬送するように構成されている。また、搬送ベルト17の回転量は、エンコーダーによって検出される。そして、このエンコーダーの検出信号は、エンコーダーパルスとしてプリンターコントローラー9に出力される。
【0019】
記録紙4に対し一方の面のみに記録を行う場合は、一方の面の記録が終了した後、搬送ユニット7から排紙トレイ10へと排紙される。一方、記録紙4の両面に記録を行う場合は、一方の面の記録が終了した後、搬送ユニット7の下流に配設されたフラッパー22により、用紙反転経路R2へ搬送される。記録紙4が用紙反転経路のUターン部Tまで到達した後、搬送方向を転換させ、記録紙4は再度レジストローラー14a,14b、搬送ベルト17へと順次送られて他方の面の記録が終了した後、搬送ユニット7から排紙トレイ10へと排紙される。
【0020】
ヘッドモジュール3は、図2に示すように、ヘッドホルダー24に複数の単位ヘッド11を第二方向Yに配設するように構成されている。そして、複数のヘッドモジュール3、本実施形態においては4つのヘッドモジュール3a〜3dが、ヘッド長手方向を第2方向Yに揃えた姿勢で第1方向Xに一定の配置間隔でモジュール取付枠25に取り付けられている。
【0021】
図3は、単位ヘッド11の構成を説明する正面図であり、図4は、図3における破線で囲った領域Aの断面図、図5は、図4におけるB−B線断面図である。本実施形態における単位ヘッド11は、圧電振動子群28、固定板29、及び、フレキシブルケーブル30等をユニット化した振動子ユニット31と、この振動子ユニット31を収納可能なヘッドケース32と、リザーバー(共通液体室又はマニホールドとも言う。)34から圧力室36を通りノズル37に至る一連のインク流路を形成する流路ユニット38と、ヘッドケース32の側面に配置されたヒーター39と、流路ユニット38の縁部と側面を被う状態でヘッドケース32の先端側に取り付けられるヘッドカバー33と、を備えて構成される。
【0022】
まず、振動子ユニット31について説明する。圧電振動子群28を構成する圧電振動子40(圧力発生素子の一種)は、縦方向に細長い櫛歯状に形成されており、数十μm程度の極めて細い幅に切り分けられている。そして、この圧電振動子40は縦方向に伸縮可能な縦振動型の圧電振動子として構成されている。各圧電振動子40は、固定端部を固定板29上に接合することにより、自由端部を固定板29の先端縁よりも外側に突出させて所謂片持ち梁の状態で固定されている。そして、各圧電振動子40における自由端部の先端は、後述するように、それぞれ流路ユニット38におけるダイヤフラム部50を構成する島部52に接合される。フレキシブルケーブル30は、固定板29とは反対側となる固定端部の側面で圧電振動子40と電気的に接続されている。このフレキシブルケーブル30の表面には、各圧電振動子40の駆動等を制御するための制御用IC41が実装されている。また、各圧電振動子40を支持する固定板29は、圧電振動子40からの反力を受け止め得る剛性を備えた金属製の板材によって構成される。本実施形態では、厚さが1mm程度のステンレス鋼板によって作製されている。
【0023】
ヘッドケース32は、例えば、エポキシ系樹脂などの樹脂により作製された中空箱体状部材であり、その先端面(下面)には流路ユニット38を固定し、ケース内部に形成された収容空部42内には、アクチュエーターの一種である前記振動子ユニット31を収容している。また、ヘッドケース32の内部には、その高さ方向を貫通してケース流路43(本発明における共通液体流路に相当)が形成されている。このケース流路43は、インクカートリッジ側からのインクをリザーバー34に供給するための流路である。
【0024】
さらに、本実施形態のヘッドケース32の内部、具体的には、収容空部42を区画している区画壁の内部には、図3に示すように、区画壁の補強芯材として、金具44がその長手方向の両端部を外側に露出させた状態でインサート成型されて固定されている。この金具44は、例えば、ステンレス(SUS)などの金属部材によって構成され、ヘッドケース32の高さ方向に亘って配置されている。
【0025】
次に、流路ユニット38について説明する。流路ユニット38は、ノズルプレート45、流路形成基板46、及び振動板47から構成され、ノズルプレート45とは反対側の振動板47がヘッドケース32に接合されている。本実施形態では、図4に示すように、流路ユニット38はヘッドケース32よりも小さく、ヘッドケース32の外周縁よりも内側で接合されている。そして、この流路ユニット38は、ノズルプレート45を流路形成基板46の一方の表面に、振動板47をノズルプレート45とは反対側となる流路形成基板46の他方の表面にそれぞれ配置して積層し、接着等により一体化することで形成される。
【0026】
ノズルプレート45は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル37を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。本実施形態では、例えば、180個のノズル37を列状に開設し、これらのノズル37によってノズル列を構成している。そして、このノズル列を横並びに2列設けている。
【0027】
流路形成基板46は、リザーバー34、インク供給口35、及び圧力室36からなる一連のインク流路を形成する板状部材である。具体的には、この流路形成基板46は、各ノズル37に対応させて圧力室36となる空部を隔壁で区画した状態で複数並べて形成すると共に、インク供給口35およびリザーバー34となる空部を形成した板状の部材である。そして、本実施形態の流路形成基板46は、シリコンウェハーをエッチング処理することで作製されている。上記の圧力室36は、ノズル37の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成され、インク供給口35は、圧力室36とリザーバー34との間を連通する流路幅の狭い狭窄部として形成されている。また、リザーバー34は、インクカートリッジに貯留されたインクを各圧力室36に供給するための室であり、インク供給口35を通じて対応する各圧力室36に連通している。
【0028】
振動板47は、ステンレス鋼等の金属製の支持板48上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂フィルム49をラミネート加工した二重構造の複合板材であり、圧力室36の一方の開口面を封止してこの圧力室36の容積を変動させるためのダイヤフラム部50を有すると共に、リザーバー34の一方の開口面を封止するコンプライアンス部51が形成された部材である。そして、ダイヤフラム部50は、圧力室36に対応した部分の支持板48にエッチング加工を施し、当該部分を環状に除去して圧電振動子40の自由端部の先端を接合するための島部52を形成することで構成されている。この島部52は、圧力室36の平面形状と同様に、ノズル37の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、この島部52の周りの樹脂フィルム49が弾性体膜として機能する。また、コンプライアンス部51として機能する部分、すなわちリザーバー34に対応する部分は、このリザーバー34の開口形状に倣って支持板48がエッチング加工で除去されて樹脂フィルム49のみとなっている。
【0029】
そして、上記の島部52には圧電振動子40の先端面が接合されているので、この圧電振動子40の自由端部を伸縮させることで圧力室36の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室36内のインクに圧力変動が生じる。そして、ヘッドモジュール3を構成する各単位ヘッド11は、この圧力変動を利用してノズル37からインク滴を噴射(吐出)させる。
【0030】
次に、ヒーター39について説明する。ヒーター39は、その一部が金具44の露出面に重ねられて接触した状態でヘッドケース32の外周面に貼付されることで、ヘッドケース32の外周面を覆うように密着した状態で装着されている。また、図4に示すように、ヒーター39の外側に位置する絶縁体55の表面には、後述するヘッドカバー33の一部が当接される。このように、ヒーター39が、ヘッドケース32の側面とヘッドカバー33の間に両方に接触する状態で配置される。ここで、ヒーター39は、図6に示すように、可撓性を有する帯状の絶縁体55によってニクロム線などの電熱線56を封止した、所謂フィルムヒーターである。電熱線56は、その表面が絶縁体55によって覆われており、絶縁体55の幅内で等間隔に蛇行するように配置され、電流が流れることにより発熱する。
【0031】
ヘッドカバー33は、例えば金属製の薄板部材によって作製され、ヘッドケース32の側面に対向する側面部分33aと、側面部分33aと連続して、ノズルプレート側に略90度屈曲すると共に、ノズルプレート45に対してヘッドケース32とは反対側で対向する底面部分33bと、により構成されており、流路ユニット38の周縁を覆うように形成されている。このため、流路ユニット38やヘッドケース32の縁部は、ヘッドカバー33の側面部分33aや底面部分33bによって囲繞され、保護される。また、底面部分33bは、ノズルプレート45のノズル37を露出するように窓部33cが開口されている。この窓部33cの開口縁の先端(底面部分33bの内側先端部分)は、図4に示すように、リザーバー34とインク供給口35の境界付近に対応する位置からノズルプレート側へ斜めに屈曲して延び、ノズルプレート45と接する位置でノズルプレート45の底面と平行になるように再度屈曲して、ノズル37と重ならない程度に当該ノズル37に近い位置(本実施形態では、インク供給口35と圧力室36の境界付近に対応する位置)まで延びている。そして、図4、5に示すように、この窓部33cの開口縁の先端がノズルプレート45に対して、リザーバー34に対応する領域とノズル37との間に当接しているので、ノズルプレート45と底面部分33bとの間であって、リザーバー34に対応する領域に空隙58が形成される。この空隙58が、断熱層として機能する。一方、側面部分33aは、ヘッドケース32との間でヒーター39を挟持しており、上述したように一部がヒーター39の絶縁体55に当接している。このため、ヒーター39からの熱をヘッドカバー33に伝導させることができる。なお、ヘッドカバー33はグランドに接続することで、ノズルプレート45の帯電を防止することができる。
【0032】
次に、ヒーター39に電流を流すことによる熱の伝導を説明する。まず、ヒーター39の電熱線56に電流を流すことによって、ヒーター39が発熱する。そして、ヒーター39の熱は、ヒーター39と接触するヘッドケース32の側面及びヘッドケース32に埋設された金具44に伝導する一方、ヘッドカバー33の側面部分33bのうちヒーター39に当接した部分に伝導する。そして、ヘッドケース32側に伝導した熱は、流路ユニット38側にも伝導し、ケース流路43、リザーバー34、インク供給口35、圧力室36及びノズル37(一連の液体流路)内のインクを加熱する。ここで、ノズルプレート45と底面部分33bとの間であって、リザーバー34に対応する領域に空隙58が形成されており、空隙58内の空気を断熱層として機能させることができる。このため、他の液体流路と比して面積が広く、液体流路のうち放熱しやすいリザーバー34からの放熱を防ぐことができる。また、ヘッドカバー33がノズルプレート45に対して、リザーバー34に対応する領域とノズル37との間に当接しているため、ヘッドカバー33に伝導した熱が、ノズル37近傍のノズルプレート45および流路形成基板46に伝導することにより、或いは、ヘッドカバー33から雰囲気中に放熱された熱により、ノズル37内のインクをより直接的に温めることができる。
【0033】
このように、単位ヘッド11内の液体流路の上流側と下流側との両方を効率良く加熱することができ、加えて、ノズルプレート45と底面部分33bとの間の空隙58が断熱層として機能し、リザーバー34からの放熱を防ぐことができるため、単位ヘッド11内のインク、特に、ノズル37近傍のインクを効率的に加熱することができる。例えば、ノズル37内のインクの温度を40度に設定する場合、ヒーター39の温度は約40〜43度に設定すればよい。この様にすると、インクの粘度を噴射に適した粘度に調整することができ、圧電振動子40の圧力変動によってノズル37から吐出されるインクを、設計通りの量と速度で吐出させることができる。その結果、単位ヘッド11(ヘッドモジュール3)の信頼性を高めることができる。また、ヒーター39をヘッドケース32の側面に装着し、ヘッドカバー33を上記のように簡単な構造としたので、容易に製造が可能である。
【0034】
ところで、本発明は、上記した第1の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。例えば、他の実施形態として、図7に第2の実施形態、図8に第3の実施形態を示す。
【0035】
まず、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態と同様にノズルプレート45と底面部分33bとの間に空隙58を設け、この空隙58内に断熱材59を設けてある。断熱材59は、ノズルプレート45に対して、リザーバー34に対応する領域と略同じ領域を覆うシート状の部材であり、熱伝導率の低い部材(例えば、シリコーン(熱伝導率約0.16W/m・K)やエポキシ樹脂(熱伝導率約0.21W/m・K)等を主成分とするスポンジや接着剤等。)を用いることができる。この断熱材59は、空隙58の厚さと略同じであり、一方の面をノズルプレート45に接着し、他方の面をヘッドカバー33の底面部分33bの内面に当接している。なお、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0036】
このように、リザーバー34に対応する領域に断熱材59を設けると、リザーバー34内のインクが放熱するのを確実に防ぐことができ、単位ヘッド11内のインクをより効率的に加熱することができる。このため、インクの粘度を噴射に適した粘度に調整することができ、圧電振動子40の圧力変動によってノズル37から吐出されるインクを、設計通りの量と速度で吐出させることができるため、単位ヘッド11(ヘッドモジュール3)の信頼性を高めることができる。
【0037】
ここで、断熱材59の厚さは、第2の実施形態に限定されるものではなく、空隙58の厚さよりも薄くても良く、一方の面をノズルプレート45に接着し、他方の面とヘッドカバー33の間に空隙を形成することもできる。さらに、断熱材59の大きさは、ノズルプレート45に対して、リザーバー34に対応する領域より小さいものでも良い。要は、空隙58内であって、リザーバー34に対応する領域の少なくとも一部に、断熱材59が設けられていれば良い。
【0038】
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、ノズルプレート45と底面部分33bとの間に空隙58を設けてある点では、第1の実施形態と同じであるが、流路ユニット38より外側であって、ヘッドケース32とヘッドカバー33の間に封止材60を設けてある点で第1の実施形態と異なる。本実施形態では、流路ユニット38より外側のヘッドケース32の底面縁部と、ヘッドカバー33の底面部分33bとの間を封止材60によって封止している。このため、空隙58が窓部33cとは反対側で単位ヘッド11(ヘッドモジュール3)外の大気と連通することを防ぎ、空気を閉じ込めることで、空隙58内の熱を閉じ込めることができる。なお、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。また、本実施形態の場合も第2の実施形態と同様に、空隙58内に断熱材59を設けることも可能である。
【0039】
このように、空隙58と大気が連通することを防ぎ、空隙58内に空気を閉じ込めることで、リザーバー34の熱が空隙58を介して大気中に逃げることを防ぎ、リザーバー34内のインクが放熱するのをより確実に防ぐことができる。このため、インクの粘度を噴射に適した粘度に調整することができ、圧電振動子40の圧力変動によってノズル37から吐出されるインクを、設計通りの量と速度で吐出させることができるため、単位ヘッド11(ヘッドモジュール3)の信頼性を高めることができる。なお、上記の封止材60は、ヘッドケース32とヘッドカバー33の間の領域であって、ヒーター39よりも鉛直方向の上方(底面部分33bとは反対側)に設けるようにしても良い。この構成によれば、間隙部58からヒーター39を含む部分までを封止することができるので、ヒーター39からの熱が逃げることが防止される。したがって、ヘッド構成部品に対する加熱効率を向上させることが可能となる。
【0040】
さらに、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、ヘッドケース32内に金具44をインサート成型する構成を例示したが、これに限られず、ヘッドケース32全体を樹脂や金属で作製しても良い。ヘッドケース32全体を金属で作製した場合には、ヘッドケース32の伝熱効率を高めることができる。また、ヘッドカバー33を金属製の薄板部材によって作製される構成を例示したが、これに限られず、ヘッドカバー33を樹脂部材と金属部材との両方によって構成しても良い。即ち、ヘッドケース32及びヘッドカバー33の少なくとも一部を金属部材によって構成し、金属部材をヒーター39に当接すると共に、ノズルプレート45のリザーバー34に対応する領域に断熱機能を備えたことで、ヒーター39の熱を効率良く伝導させることができ、さらにリザーバー34内の液体の放熱を防ぐことができる。
【0041】
また、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動モードの圧電振動子40を例示したが、これには限られない。例えば、所謂撓み振動モードの圧電振動子や発熱素子を用いる場合にも本発明を適用することが可能である。
【0042】
そして、本発明は、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…プリンター,3…ヘッドモジュール,32…ヘッドケース,33…ヘッドカバー,33a…側面部分,33b…底面部分,33c…窓部,34…リザーバー,36…圧力室,37…ノズル,38…流路ユニット,39…ヒーター,43…ケース流路,44…金具,45…ノズルプレート,46…流路形成基板,55…絶縁体,56…電熱線,58…空隙,59…断熱材,60…封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを形成したノズルプレートと、前記ノズルに連通する圧力室と該圧力室に液体を供給するリザーバーとが形成された流路形成基板と、を積層した流路ユニットと、
前記リザーバーに液体を供給する共通液体流路が形成され、前記流路形成基板に対して前記ノズルプレートとは反対側に接合されたヘッドケースと、
該ヘッドケースの側面に装着したヒーターと、
該ヒーターに少なくとも一部が当接する側面部分と、該側面部分と連続して、前記ノズルプレート側に屈曲すると共に、ノズルプレートに対して前記ヘッドケースとは反対側で対向する底面部分と、により構成され、前記流路ユニットの周縁を覆うヘッドカバーと、を備え、
前記底面部分は、
前記ノズルプレートのノズルが露出するように窓部を開口し、
該窓部の開口縁の先端が、ノズルプレートに対して、前記リザーバーに対応する領域と前記ノズルとの間に当接し、
前記ノズルプレートと前記底面部分との間であって、前記リザーバーに対応する領域に空隙を形成したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記空隙内に断熱材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記空隙が前記窓部とは反対側で液体噴射ヘッド外の大気と連通することを防ぐ封止材を、前記ヘッドケースと前記ヘッドカバーの間に設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−11560(P2012−11560A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147248(P2010−147248)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】