液体噴射用オリフィスプレート
【課題】流体噴射装置その他に備えられる液体を噴射するためのオリフィスプレートより噴射される流量のばらつきを小さくし、安定化させる。そのために、たとえば、切り口面に形成されるだれの大きさを切断輪郭にそって均一にする。
【解決手段】平均結晶粒径が3μm以下の微細粒組織を有するステンレス鋼で構成されており、せん断加工で打抜かれた切り口面を有する液体噴射用のオリフィスプレートを形成する。微細粒材を使用すれば穴抜き加工のクリアランスの変動に伴うだれの大きさの変動の絶対値が小さい。従って、細穴の切断輪郭の変動幅も小さくなるので、オリフィスプレートより噴射される流量のばらつきを小さく出来る。
【解決手段】平均結晶粒径が3μm以下の微細粒組織を有するステンレス鋼で構成されており、せん断加工で打抜かれた切り口面を有する液体噴射用のオリフィスプレートを形成する。微細粒材を使用すれば穴抜き加工のクリアランスの変動に伴うだれの大きさの変動の絶対値が小さい。従って、細穴の切断輪郭の変動幅も小さくなるので、オリフィスプレートより噴射される流量のばらつきを小さく出来る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、板状ステンレス鋼のプレス加工により得られる液体噴射用オリフィスプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オリフィスプレートの製造技術としては、被加工材を所定の寸法に打抜くプレスせん断加工方法が知られている。通常のプレスせん断加工では、図13に示すように、切り口面は、だれ、せん断面、破断面、および、かえりからなり、「だれ、かえりが大きい」「破断面が多く、せん断面が少ない」「せん断面と破断面が同一面上にない」などの問題がある。これに起因して、液体噴射用オリフィスプレートでは、流量のばらつきが発生する。
【0003】
このようなプレスせん断加工で打抜かれた被加工材の打抜き面に対して、だれ3や破断面5が少ないか又は生じないような精密な打抜きのためのせん断加工方法としては、一般にはシェービング加工やファインブランキングなどの方法がある。
【0004】
シェービング加工は、例えば特許文献1に示されているように、必要な寸法に対して適当なシェービング取り代を残した寸法形状であらかじめ打抜き(荒抜き工程)を行い、次にその取り代の部分だけをシェービング工程で精度よく打抜く方法である。このシェービング加工においては、加工の難度または加工の精度によっては、シェービングの回数は1〜数回実施して、だれや破断面の少ない平滑なせん断面の多い切り口面が得られるようにしている。しかし、シェービング加工の回数を多くしたり、金型をより精密なものにする必要があるので、生産コストがアップし、工程の増加、金型精度の向上という問題がある。
【0005】
また、ファインブランキングは、例えば特許文献2に示されているように、突起形状のある板押えを持ち、パンチとダイとのクリアランスを極端に小さくすることで,材料内部に高い圧縮応力を生じさせ材料の延性を高め亀裂の発生を遅くする加工方法である.その結果,だれや破断面の少ない平滑なせん断面の多い美しい切り口面が得られるが、パンチとダイは高精度を要求され、金型のコストアップが大きくなるという問題や、微細な部品に対しては金型構造上困難なことや、穴抜き製品には適応することはできないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
せん断加工では、切断輪郭に沿って板厚の数%のクリアランスを維持してパンチとダイを嵌合させる必要があるため、材料の板厚が薄くなると金型製作が難しくなり、型製作費が増加するという問題以外に、微小クリアランス条件の下では、パンチとダイが振動して衝突しやすく、厚板材のせん断加工に比べて型寿命が短くなる。このプレス加工により形成される切り口面は、上部からだれ、せん断面、破断面及びかえりから成るが、せん断面の部分はパンチ表面部の転写により平滑になるが、破断面の部分は材料の引張りにより面が荒れた状態になる。
【0007】
以上の通り、金属製板材の穴抜きせん断加工においては種々の課題があるが、本願発明の目的は、流体噴射装置その他に備えられる液体を噴射するためのオリフィスプレートより噴射される流量のばらつきを小さくし、安定化させることにある。そのためには、たとえば、切り口面に形成されるだれ(図13を参照)の大きさ(図13中のだれの高さh及び幅w)を切断輪郭にそって均一にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、前記問題点を解決するためになされたものであって、その目的を達成するために、平均結晶粒径が3μm以下の微細粒組織を有するステンレス鋼で構成されており、せん断加工で打抜かれた切り口面を有することを特徴とする液体噴射用のオリフィスプレートを提供するものである。このオリフィスプレートにおいては、連続精密穴抜き加工が行なわれた製品間においてオリフィスの入口形状が突発的にわずかでも変化する頻度が極めて少なく、またオリフィス入口側から見た等高線の均一性が保たれていることが望ましい。
【0009】
以下に述べるように、超微細粒鋼は、だれの少ないせん断加工面を提供できる。超微細粒鋼は、強度−絞りバランスに優れ高い冷間圧造性を持つが、微細粒鋼の特徴である加工硬化が小さい、絞りが大きいという特性はせん断加工特性にも大きな影響を与える。本願発明者らは超微細粒鋼のせん断加工特性に注目し、鋭意研究してきた。
0.002および0.01C-0.3Mn-0.2Siの組成のフェライト単相超微細粒鋼(平均粒径0.7mm)を温間溝ロール圧延により棒材を作製し、その他に、上記0.01C-0.3Mn-0.2Siの組成のフェライト単相超微細粒鋼の一部に650℃で熱処理を施して、0.01C-0.3Mn-0.2Siの組成のフェライト単相粗粒鋼(平均粒径13mm)の棒材を作製した。また、比較のため、0.3C-1.5Mn-0.3Siの組成のフェライト+パーライト組織鋼(平均粒径20mm)を熱間圧延によって作製した。図1に各棒材の応力−ひずみ曲線を示す。これらの材料から放電加工及び表面研削によって、幅18mm×厚さ1mmの薄板形状のサンプルを作製し、図2に示す金型を用いて、穴開け加工を行った。パンチの直径は3.00mm、ダイス(ダイ)の内径は3.04mm、3.12mm、3.20mmで、クリアランスは2.0%、6.0%、10.0 %とした。そして、穴と抜けの観察を行った。その内、抜けの側面における、だれ、せん断面、破断面の長さを計測し、だれ比率、せん断面比率及び破断面比率に換算し、クリアランスの影響をまとめた結果を図3に示す。クリアランスが小さくなると、だれ比率が減少し、せん断面比率が増加し、破断面比率が減少する。この変化の挙動は、フェライト単相組織かフェライト+パーライト組織か、更には結晶粒径が微細か粗粒かにもよらない傾向である。また、クリアランスが10%から6%へと小さくなっても、両クリアランス間における差は小さいが、2%まで小さくなると、これらの傾向が大きくなる。引張強さTSが同等である0.01C微細粒材と0.3Cフェライト+パーライト材を比べた場合、だれ比率は、クリアランスによらず、微細粒材が小さく、だれが抑制されることを示している。クリアランス2%の時のだれ比率は、0.01C微細粒材及び0.002C微細粒材で、それぞれ1.6%及び2.3%と小さいが、0.01C粗粒材では5.6%、そして0.3Cフェライト+パーライト材では4.5%であり、大きくなっている。このように、微細粒はだれ比率を小さくできるとともに、だれの大きさのクリアランス依存性を小さくできる。
そこで、せん断加工により多数ショットの連続精密細穴抜き加工を実施して、オリフィスプレートを製造する場合を考えると、多数ショット間でクリアランスがわずかに変動した場合、微細粒材を使用すればクリアランスの変動に伴うだれの大きさの変動の絶対値が小さい。従って、微細粒材を用いれば細穴の切断輪郭の変動幅も小さくなるので、オリフィスプレートより噴射される流量のばらつきを小さくし、安定化させるのに寄与することがわかる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明により、噴射される液体の流量ばらつきが小さいオリフィスプレートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】超微細粒材と粗粒材の応力−ひずみ曲線を示すグラフである。
【図2】せん断加工試験に用いた金型の模式図である。
【図3】だれ、せん断面 破断面の比率に及ぼす組織とクリアランスの影響をまとめた結果である。
【図4】実施例1用〜実施例3用の試験材の応力−ひずみ曲線を示すグラフである。
【図5】比較例1用の試験材の応力−ひずみ曲線を示すグラフである。
【図6】実施例1〜3、比較例1の結晶組織のEBSP解析像である。
【図7】実施例1〜3及び比較例1におけるプレス穴抜き加工のオリフィスの配置及び加工角度を概略説明する平面図及び側面図である。
【図8】(a)は、実施例1〜実施例3、及び比較例1における10,000ショット目の連続精密細穴抜き加工後におけるオリフィスの入口形状のSEM写真である。(b)は、(a)と同一オリフィスを、非接触の3次元測定器で焦点移動法により測定した像である。
【図9】実施例1〜3及び比較例1において、9,881ショットから10,000ショットまでの連続120個の穴抜き加工での同一オリフィスポジションで、突発的に入口形状が変化したオリフィスの数を示すグラフである。
【図10】実施例2及び比較例1について、9,996ショットから10,000ショットまでの連続5個の穴抜き加工での同一オリフィスポジションでのオリフィス入口形状を例示するSEM写真である。
【図11】実施例1〜3及び比較例1において、10,000ショットの連続穴抜き加工時の穴抜き初期、中期及び終期の20枚の各オリフィスプレートから噴射された液体の流量とそのばらつき状態を示すグラフである。
【図12】一般的に行なわれているパンチとダイによるプレスせん断穴抜き加工方法を説明する模式図である。
【図13】金属薄板の打抜きせん断加工面の特徴的形態の概略説明図である。
【図14】実施例1〜3用及び比較例1用の試験材についての引張試験片の形状・寸法を示す図である。
【符号の説明】
【0012】
1 中心線
2 オリフィス
2a 一定ポジションのオリフィス
3 だれ
4 せん断面
5 破断面
6 かえり
7 被加工材
8 ダイ
9 パンチ
10 上ダイ(パンチホルダー)
11 プレス
12 ひずみゲージ
13 被加工材締付けボルト
14 荷重
t 板厚
Dp パンチ直径
Dd ダイ直径
θ 加工角度
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明は、液体噴射用オリフィスプレートに関するものであって、結晶粒径が3μm以下の微細粒組織を有するステンレス鋼で構成されており、コイル状ステンレス帯鋼に対しせん断加工により穴抜きを行い、その加工によって得られた穴に関するものである。
そして本願発明に係る液体噴射用金属製オリフィスプレートを製造するための被加工材の調製としては、オリフィスプレートの厚さを考慮して適切な厚さのオーステナイト系ステンレス鋼帯に対して、冷間圧延と、当該冷間圧延による加工誘起マルテンサイトを所定%以下となるようにする逆変態熱処理とを繰り返すことにより、所望の厚さとする。この際、逆変態熱処理条件を調整することにより、平均オーステナイト結晶粒径を3μm以下に微細化する。更に望ましくは0.5μm以下にする。
【0014】
次に、せん断加工によって打ち抜かれた穴は、図12に概略を示すような、一般的なパンチ4とダイ5によるプレスせん断穴抜き加工方法で打抜かれた穴とする。特殊な装置を用いることなく、簡単な工程で且つ低コストで製造することができる。なお、図12中、加工角度θは0〜50度程度とする。また、オリフィスのアスペクト比(板厚/穴径は板厚/パンチ径で近似する)は特に限定しないが、0.8以下の場合に対しても適用できる。また、板厚が1.2mm以下、更には0.1mm以下の極薄オリフィスプレートの場合にも本願発明の効果が発揮される。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本願発明の有効性を具体的に説明する。なお、本願発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記発明を実施するための形態に記載の範囲内において、適当に変更を加えて実施することがもちろん可能であり、それらはいずれも本願発明の技術的範囲に包含される。
【0016】
表1(a)に示す化学成分組成を有するJIS G 4305、板厚3mm、No.2B仕上げのSUS304冷間圧延ステンレス鋼帯を50〜60%の冷間圧延と、冷間圧延で生じた加工誘起マルテンサイト量がフェライト含有量測定器で5%以下となるような条件での逆変態熱処理を繰り返し、板厚0.1mmに加工した。最終の逆変態熱処理条件(温度、時間)を適宜調整する事で平均オーステナイト結晶粒径の異なる実施例1〜実施例3用試験材を得た。
【0017】
本実施例の項において述べる比較例1に供する材料は、JISG 4313、1/2H仕上げのSUS304ばね用ステンレス鋼帯であって、表1(b)の化学成分組成を有する板厚0.1mmで、板幅が20mmのコイル状の冷延鋼帯である。
【0018】
【表1】
【0019】
(実施例1〜実施例3、比較例1)
上記の通り調製された板厚が0.1mmで長さが約500mのコイル状の薄帯鋼帯からなる実施例1〜実施例3用、及び比較例1用の各試験材を、引張試験、硬さ試験及びEBSPによる組織観察、並びに精密プレス穴抜き加工試験に供した。
その結果、以降述べるように、実施例1〜実施例3はいずれも本願発明に係る液体噴射用オリフィスプレートの範囲内にあることがわかる。以下、詳述する。
【0020】
(材質試験方法について)
引張試験では、引張方向が板の圧延方向(L方向)及び圧延方向に対して直角方向(C方向)となるように採取した図14に記載の試験片を引張速度0.5mm/分で試験し、引張強さ及び全伸びを測定した。硬さ試験では鋼板表面のビッカース硬さを測定した。そして、EBSPによる組織観察では、板厚方向中央部におけるL方向に平行な断面での平均オーステナイト結晶粒径の測定を行なった。結晶粒径は円換算の直径とした。
【0021】
(材質試験結果について)
図4に実施例1〜実施例3の試験材の応力−ひずみ曲線を示し、図5に比較例1の試験材の応力−ひずみ曲線を示し、表2に引張強さ及び全伸びを示す。また表2には、各試験材の平均オーステナイト結晶粒径を示し、平均オーステナイト結晶粒径の測定部における結晶組織のEBSP解析像を図6に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
実施例についてみると、平均オーステナイト結晶粒径は、逆変態条件の調整により、1.52μm以下となっており、特に実施例1では0.45μmの超微細粒オーステナイト組織となっている。また、いずれの実施例においても残留マルテンサイトはフェライト含有量測定器で5%以下となっている。そして、0.45μmへの超微細粒化により、引張強さは1.2GPaを超える高強度が得られ、これに伴いビッカース硬さ(HV)も400まで上昇している。図4から明らかなように、平均結晶粒径が0.45μmまで超微細粒化した実施例1では、加工硬化が小さく、降伏後は一様伸びを示さず塑性不安定によるくびれを示した。
【0024】
これに対して、比較例1では、結晶粒の微細化処理を施していないので、平均オーステナイト結晶粒径は9.10μmと粗粒であり、実施例1〜実施例3に比べるとそのいずれよりもはるかに大きいが、1/2H仕様の冷間圧延を施してあり、引張強さは実施例3の引張強さ(858〜870MPa)と同等の水準(880〜910MPa)となっている。全伸びは42.5〜46.4%と相応の水準にあり、強度−全伸びのバランス状態を微細粒組織鋼である実施例2及び実施例3と比較した場合には、大きな差は見られない。しかしながら、後述するように、精密プレス穴抜き加工試験の結果における「エッジ部」(後述では オリフィスの入り口輪郭)の形成の安定性に関して、実施例1、実施例2及び実施例3は比較例1より優れているという結果が得られている。
【0025】
(精密プレス穴抜き加工の試験方法について)
前述した実施例1〜実施例3用の試験材、及び比較例1用の試験材について、プレス穴抜き加工試験を次の通り行なった。
板厚0.1mmの試験材を、パンチ径:0.137mmφ、ダイ径:0.147mmφ、クリアランス:5%(クリアランス量:0.005mm)のセンタークリアランスで、加工角度:33.5度、加工油:植物系プレス加工油を用いてプレス斜め打抜き加工を行なった。そして、オリフィスの形状はストレート抜きとした。
始めに比較例1として、比較例1用の試験材を用いて10,000ショットの連続精密細穴抜き加工を実施した。その後パンチのみを交換して、実施例1として、実施例1用の試験材を用いて10,000ショットの連続精密細穴抜き加工を実施した。実施例2及び実施例3についても実施例1と同様にパンチのみを交換して10,000ショットの連続精密細穴抜き加工を実施した。ここで、加工されたオリフィスは、板厚0.1mmの板1枚に対して図7に示すように、その中心線1の左右両側に対称に計12穴を、同図に示すように中心線1に関して対称にそれぞれ外側に傾けて、33.5度の角度で打抜かれたものである。
【0026】
(細穴の形状及び打抜き加工面状態の測定方法について)
穴抜き加工後のオリフィスについて、その入口形状をSEMで観察した。またその入口形状を非接触の3次元測定器(Alicona社製 IF−2000)を用い、焦点移動法により等高線像を測定した。
【0027】
1.オリフィスの切断輪郭とだれの安定性に関する結果
(1−1)10,000ショット目の穴抜き加工後における結果
10,000ショット目の穴抜き加工をした後のオリフィスの入口形状に関しては次の通りである。
オリフィスの入口の輪郭形状については、比較例1においては、穴の周りに不均一な箇所が見られたが、実施例1〜3にはそれは見られなかった。即ち、オリフィスの輪郭形状が実施例1〜3の方が滑らかな曲線を呈していた。図8(a)に、実施例1〜実施例3、及び比較例1のそれぞれにおける10,000ショット目の連続精密細穴抜き加工後における板のオリフィスポジションが2a(図7中の符号2aのオリフィスを指す)であるオリフィスのSEM写真による入口形状を例示する。また、図8(b)には、実施例1〜3及び比較例1の当該SEM写真と同一オリフィスを、非接触の3次元測定器で焦点移動法により測定した像を例示する。これによれば、実施例1〜3の方が比較例1よりも等高線に均一性が保たれており望ましく、しかも平均結晶粒径が小さくなるにつれて、等高線の均一性が保たれ、平均結晶粒径が0.45μmと最も小さい実施例1は極めて望ましい。即ち、板材料の平均結晶粒径が微細化するほど、切り口輪郭が滑らかになる優れたオリフィスが得られている。
【0028】
(1−2)10,000ショット目に隣接する直近120ショットの連続穴抜き加工間の安定性結果
実施例1〜3、及び比較例1のそれぞれおいて、9,881ショット目から10,000ショット目までの連続120ショットの穴抜き加工で得られた120箇所のオリフィスについて、オリフィスポジションが2a(前記図7中の符号2aのオリフィスを指す)であるオリフィスの形状をSEM写真で観察した。観察内容は、連続加工された120箇所のオリフィスについて入口形状が突発的に変化しているオリフィスはないかどうかを調査し、突発的に入口輪郭形状が変化しているオリフィスをカウントした。突発的入口輪郭形状変化の判定基準は、50倍の顕微鏡検査によって、官能的に輪郭形状の変形及び膨らみの発生をXショット目とX+1ショット目を比較し、その変化がある場合にカウントを行った。
【0029】
図9に、突発的に入口輪郭形状が変化したオリフィスの数を、実施例1〜3、及び比較例1のそれぞれについて示す。なお、図10には、実施例2及び比較例1について、9,996ショット目から10,000ショット目までの連続5個の穴抜き加工で得られたポジション2aのオリフィス入口輪郭形状を例示する。同図において、オリフィスの入口輪郭形状の突発的変化は実施例2では認められないが、比較例1においては、突発的輪郭形状変化が認められる。
【0030】
上記結果より、比較例1においては、120箇所中74箇所においてオリフィス入口輪郭形状が直前の形状との違いが認められたが、実施例1、2、3においてはそれぞれ120箇所中7箇所、11箇所及び15箇所となり、オリフィス入口輪郭形状の違い発生の頻度は著しく減少して比較例1の1/10〜1/5倍程度になっている。このように実施例1〜3においては、連続穴抜き加工にけるオリフィスの入口輪郭形状の安定性が優れている。
【0031】
次に、実施例1〜3及び比較例1のそれぞれの場合について、上述した10,000ショットの連続穴抜き加工を実施して得られたオリフィスプレートの穴抜きはじめ初期の20枚、5,000ショット目を中間とした中期の20枚、及び穴抜き終期の20枚の各オリフィスプレートを用い、特定時間内に前記図7に示した12穴のオリフィスプレートから噴射された合計液体流量を測定した。なお、液体の噴射条件は、液体としてドライソルベントを使用し、圧力300KPaにて測定を行った。
【0032】
図11は、10,000ショットの連続精密細穴抜き加工を実施したときに、得られたオリフィスの入口輪郭形状が、オリフィスプレートから噴射される液体噴射流量のばらつきに及ぼす影響を表しているものである。
【0033】
図11のデータから、実施例1、2及び3のオリフィスプレートを使用した場合の当該オリフィスプレートの各ショット数加工の近隣オリフィスの最大最小値差、差の縮小率及びばらつき(標準偏差)を計算すると表3,4及び5のようになる。
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
実施例にて確認を行ったいずれのショット数量での状況においても、比較例1と比べ、実施例1、2、及び3のオリフィスプレートを用いた流量の最大最小値差、及びばらつき(標準偏差)が縮小されている。この結果、実施例が示す範囲での流量の公差の縮小が可能となる。また、本オリフィスが連続して複数個配置されているような液体噴射部品については、その複数個間での流量ばらつきが低減されているため、複数個のオリフィスプレートより均等な液体を噴射することが可能となる。例として、実施例の様にオリフィスプレートが20個並んでいる様な製品に用いた場合、各オリフィスプレートより噴射される流量ばらつきは、実施例1では50%の削減、実施例3においても少なくとも25%の削減が可能となる。以上より、この製品に対する流量公差の削減が可能となる。このようなオリフィスを用いることで、それまで噴射部品毎に調整機能部品を付属させ噴射流量のコントロールを行っていた方式から、1つの流量調整機能部品から分配して複数個の噴射体よりばらつきの低減された液体の噴射を行う方法も可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】特開2000−51964号公報
【特許文献2】特開2007−61992号公報
【技術分野】
【0001】
本願発明は、板状ステンレス鋼のプレス加工により得られる液体噴射用オリフィスプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オリフィスプレートの製造技術としては、被加工材を所定の寸法に打抜くプレスせん断加工方法が知られている。通常のプレスせん断加工では、図13に示すように、切り口面は、だれ、せん断面、破断面、および、かえりからなり、「だれ、かえりが大きい」「破断面が多く、せん断面が少ない」「せん断面と破断面が同一面上にない」などの問題がある。これに起因して、液体噴射用オリフィスプレートでは、流量のばらつきが発生する。
【0003】
このようなプレスせん断加工で打抜かれた被加工材の打抜き面に対して、だれ3や破断面5が少ないか又は生じないような精密な打抜きのためのせん断加工方法としては、一般にはシェービング加工やファインブランキングなどの方法がある。
【0004】
シェービング加工は、例えば特許文献1に示されているように、必要な寸法に対して適当なシェービング取り代を残した寸法形状であらかじめ打抜き(荒抜き工程)を行い、次にその取り代の部分だけをシェービング工程で精度よく打抜く方法である。このシェービング加工においては、加工の難度または加工の精度によっては、シェービングの回数は1〜数回実施して、だれや破断面の少ない平滑なせん断面の多い切り口面が得られるようにしている。しかし、シェービング加工の回数を多くしたり、金型をより精密なものにする必要があるので、生産コストがアップし、工程の増加、金型精度の向上という問題がある。
【0005】
また、ファインブランキングは、例えば特許文献2に示されているように、突起形状のある板押えを持ち、パンチとダイとのクリアランスを極端に小さくすることで,材料内部に高い圧縮応力を生じさせ材料の延性を高め亀裂の発生を遅くする加工方法である.その結果,だれや破断面の少ない平滑なせん断面の多い美しい切り口面が得られるが、パンチとダイは高精度を要求され、金型のコストアップが大きくなるという問題や、微細な部品に対しては金型構造上困難なことや、穴抜き製品には適応することはできないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
せん断加工では、切断輪郭に沿って板厚の数%のクリアランスを維持してパンチとダイを嵌合させる必要があるため、材料の板厚が薄くなると金型製作が難しくなり、型製作費が増加するという問題以外に、微小クリアランス条件の下では、パンチとダイが振動して衝突しやすく、厚板材のせん断加工に比べて型寿命が短くなる。このプレス加工により形成される切り口面は、上部からだれ、せん断面、破断面及びかえりから成るが、せん断面の部分はパンチ表面部の転写により平滑になるが、破断面の部分は材料の引張りにより面が荒れた状態になる。
【0007】
以上の通り、金属製板材の穴抜きせん断加工においては種々の課題があるが、本願発明の目的は、流体噴射装置その他に備えられる液体を噴射するためのオリフィスプレートより噴射される流量のばらつきを小さくし、安定化させることにある。そのためには、たとえば、切り口面に形成されるだれ(図13を参照)の大きさ(図13中のだれの高さh及び幅w)を切断輪郭にそって均一にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、前記問題点を解決するためになされたものであって、その目的を達成するために、平均結晶粒径が3μm以下の微細粒組織を有するステンレス鋼で構成されており、せん断加工で打抜かれた切り口面を有することを特徴とする液体噴射用のオリフィスプレートを提供するものである。このオリフィスプレートにおいては、連続精密穴抜き加工が行なわれた製品間においてオリフィスの入口形状が突発的にわずかでも変化する頻度が極めて少なく、またオリフィス入口側から見た等高線の均一性が保たれていることが望ましい。
【0009】
以下に述べるように、超微細粒鋼は、だれの少ないせん断加工面を提供できる。超微細粒鋼は、強度−絞りバランスに優れ高い冷間圧造性を持つが、微細粒鋼の特徴である加工硬化が小さい、絞りが大きいという特性はせん断加工特性にも大きな影響を与える。本願発明者らは超微細粒鋼のせん断加工特性に注目し、鋭意研究してきた。
0.002および0.01C-0.3Mn-0.2Siの組成のフェライト単相超微細粒鋼(平均粒径0.7mm)を温間溝ロール圧延により棒材を作製し、その他に、上記0.01C-0.3Mn-0.2Siの組成のフェライト単相超微細粒鋼の一部に650℃で熱処理を施して、0.01C-0.3Mn-0.2Siの組成のフェライト単相粗粒鋼(平均粒径13mm)の棒材を作製した。また、比較のため、0.3C-1.5Mn-0.3Siの組成のフェライト+パーライト組織鋼(平均粒径20mm)を熱間圧延によって作製した。図1に各棒材の応力−ひずみ曲線を示す。これらの材料から放電加工及び表面研削によって、幅18mm×厚さ1mmの薄板形状のサンプルを作製し、図2に示す金型を用いて、穴開け加工を行った。パンチの直径は3.00mm、ダイス(ダイ)の内径は3.04mm、3.12mm、3.20mmで、クリアランスは2.0%、6.0%、10.0 %とした。そして、穴と抜けの観察を行った。その内、抜けの側面における、だれ、せん断面、破断面の長さを計測し、だれ比率、せん断面比率及び破断面比率に換算し、クリアランスの影響をまとめた結果を図3に示す。クリアランスが小さくなると、だれ比率が減少し、せん断面比率が増加し、破断面比率が減少する。この変化の挙動は、フェライト単相組織かフェライト+パーライト組織か、更には結晶粒径が微細か粗粒かにもよらない傾向である。また、クリアランスが10%から6%へと小さくなっても、両クリアランス間における差は小さいが、2%まで小さくなると、これらの傾向が大きくなる。引張強さTSが同等である0.01C微細粒材と0.3Cフェライト+パーライト材を比べた場合、だれ比率は、クリアランスによらず、微細粒材が小さく、だれが抑制されることを示している。クリアランス2%の時のだれ比率は、0.01C微細粒材及び0.002C微細粒材で、それぞれ1.6%及び2.3%と小さいが、0.01C粗粒材では5.6%、そして0.3Cフェライト+パーライト材では4.5%であり、大きくなっている。このように、微細粒はだれ比率を小さくできるとともに、だれの大きさのクリアランス依存性を小さくできる。
そこで、せん断加工により多数ショットの連続精密細穴抜き加工を実施して、オリフィスプレートを製造する場合を考えると、多数ショット間でクリアランスがわずかに変動した場合、微細粒材を使用すればクリアランスの変動に伴うだれの大きさの変動の絶対値が小さい。従って、微細粒材を用いれば細穴の切断輪郭の変動幅も小さくなるので、オリフィスプレートより噴射される流量のばらつきを小さくし、安定化させるのに寄与することがわかる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明により、噴射される液体の流量ばらつきが小さいオリフィスプレートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】超微細粒材と粗粒材の応力−ひずみ曲線を示すグラフである。
【図2】せん断加工試験に用いた金型の模式図である。
【図3】だれ、せん断面 破断面の比率に及ぼす組織とクリアランスの影響をまとめた結果である。
【図4】実施例1用〜実施例3用の試験材の応力−ひずみ曲線を示すグラフである。
【図5】比較例1用の試験材の応力−ひずみ曲線を示すグラフである。
【図6】実施例1〜3、比較例1の結晶組織のEBSP解析像である。
【図7】実施例1〜3及び比較例1におけるプレス穴抜き加工のオリフィスの配置及び加工角度を概略説明する平面図及び側面図である。
【図8】(a)は、実施例1〜実施例3、及び比較例1における10,000ショット目の連続精密細穴抜き加工後におけるオリフィスの入口形状のSEM写真である。(b)は、(a)と同一オリフィスを、非接触の3次元測定器で焦点移動法により測定した像である。
【図9】実施例1〜3及び比較例1において、9,881ショットから10,000ショットまでの連続120個の穴抜き加工での同一オリフィスポジションで、突発的に入口形状が変化したオリフィスの数を示すグラフである。
【図10】実施例2及び比較例1について、9,996ショットから10,000ショットまでの連続5個の穴抜き加工での同一オリフィスポジションでのオリフィス入口形状を例示するSEM写真である。
【図11】実施例1〜3及び比較例1において、10,000ショットの連続穴抜き加工時の穴抜き初期、中期及び終期の20枚の各オリフィスプレートから噴射された液体の流量とそのばらつき状態を示すグラフである。
【図12】一般的に行なわれているパンチとダイによるプレスせん断穴抜き加工方法を説明する模式図である。
【図13】金属薄板の打抜きせん断加工面の特徴的形態の概略説明図である。
【図14】実施例1〜3用及び比較例1用の試験材についての引張試験片の形状・寸法を示す図である。
【符号の説明】
【0012】
1 中心線
2 オリフィス
2a 一定ポジションのオリフィス
3 だれ
4 せん断面
5 破断面
6 かえり
7 被加工材
8 ダイ
9 パンチ
10 上ダイ(パンチホルダー)
11 プレス
12 ひずみゲージ
13 被加工材締付けボルト
14 荷重
t 板厚
Dp パンチ直径
Dd ダイ直径
θ 加工角度
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明は、液体噴射用オリフィスプレートに関するものであって、結晶粒径が3μm以下の微細粒組織を有するステンレス鋼で構成されており、コイル状ステンレス帯鋼に対しせん断加工により穴抜きを行い、その加工によって得られた穴に関するものである。
そして本願発明に係る液体噴射用金属製オリフィスプレートを製造するための被加工材の調製としては、オリフィスプレートの厚さを考慮して適切な厚さのオーステナイト系ステンレス鋼帯に対して、冷間圧延と、当該冷間圧延による加工誘起マルテンサイトを所定%以下となるようにする逆変態熱処理とを繰り返すことにより、所望の厚さとする。この際、逆変態熱処理条件を調整することにより、平均オーステナイト結晶粒径を3μm以下に微細化する。更に望ましくは0.5μm以下にする。
【0014】
次に、せん断加工によって打ち抜かれた穴は、図12に概略を示すような、一般的なパンチ4とダイ5によるプレスせん断穴抜き加工方法で打抜かれた穴とする。特殊な装置を用いることなく、簡単な工程で且つ低コストで製造することができる。なお、図12中、加工角度θは0〜50度程度とする。また、オリフィスのアスペクト比(板厚/穴径は板厚/パンチ径で近似する)は特に限定しないが、0.8以下の場合に対しても適用できる。また、板厚が1.2mm以下、更には0.1mm以下の極薄オリフィスプレートの場合にも本願発明の効果が発揮される。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本願発明の有効性を具体的に説明する。なお、本願発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記発明を実施するための形態に記載の範囲内において、適当に変更を加えて実施することがもちろん可能であり、それらはいずれも本願発明の技術的範囲に包含される。
【0016】
表1(a)に示す化学成分組成を有するJIS G 4305、板厚3mm、No.2B仕上げのSUS304冷間圧延ステンレス鋼帯を50〜60%の冷間圧延と、冷間圧延で生じた加工誘起マルテンサイト量がフェライト含有量測定器で5%以下となるような条件での逆変態熱処理を繰り返し、板厚0.1mmに加工した。最終の逆変態熱処理条件(温度、時間)を適宜調整する事で平均オーステナイト結晶粒径の異なる実施例1〜実施例3用試験材を得た。
【0017】
本実施例の項において述べる比較例1に供する材料は、JISG 4313、1/2H仕上げのSUS304ばね用ステンレス鋼帯であって、表1(b)の化学成分組成を有する板厚0.1mmで、板幅が20mmのコイル状の冷延鋼帯である。
【0018】
【表1】
【0019】
(実施例1〜実施例3、比較例1)
上記の通り調製された板厚が0.1mmで長さが約500mのコイル状の薄帯鋼帯からなる実施例1〜実施例3用、及び比較例1用の各試験材を、引張試験、硬さ試験及びEBSPによる組織観察、並びに精密プレス穴抜き加工試験に供した。
その結果、以降述べるように、実施例1〜実施例3はいずれも本願発明に係る液体噴射用オリフィスプレートの範囲内にあることがわかる。以下、詳述する。
【0020】
(材質試験方法について)
引張試験では、引張方向が板の圧延方向(L方向)及び圧延方向に対して直角方向(C方向)となるように採取した図14に記載の試験片を引張速度0.5mm/分で試験し、引張強さ及び全伸びを測定した。硬さ試験では鋼板表面のビッカース硬さを測定した。そして、EBSPによる組織観察では、板厚方向中央部におけるL方向に平行な断面での平均オーステナイト結晶粒径の測定を行なった。結晶粒径は円換算の直径とした。
【0021】
(材質試験結果について)
図4に実施例1〜実施例3の試験材の応力−ひずみ曲線を示し、図5に比較例1の試験材の応力−ひずみ曲線を示し、表2に引張強さ及び全伸びを示す。また表2には、各試験材の平均オーステナイト結晶粒径を示し、平均オーステナイト結晶粒径の測定部における結晶組織のEBSP解析像を図6に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
実施例についてみると、平均オーステナイト結晶粒径は、逆変態条件の調整により、1.52μm以下となっており、特に実施例1では0.45μmの超微細粒オーステナイト組織となっている。また、いずれの実施例においても残留マルテンサイトはフェライト含有量測定器で5%以下となっている。そして、0.45μmへの超微細粒化により、引張強さは1.2GPaを超える高強度が得られ、これに伴いビッカース硬さ(HV)も400まで上昇している。図4から明らかなように、平均結晶粒径が0.45μmまで超微細粒化した実施例1では、加工硬化が小さく、降伏後は一様伸びを示さず塑性不安定によるくびれを示した。
【0024】
これに対して、比較例1では、結晶粒の微細化処理を施していないので、平均オーステナイト結晶粒径は9.10μmと粗粒であり、実施例1〜実施例3に比べるとそのいずれよりもはるかに大きいが、1/2H仕様の冷間圧延を施してあり、引張強さは実施例3の引張強さ(858〜870MPa)と同等の水準(880〜910MPa)となっている。全伸びは42.5〜46.4%と相応の水準にあり、強度−全伸びのバランス状態を微細粒組織鋼である実施例2及び実施例3と比較した場合には、大きな差は見られない。しかしながら、後述するように、精密プレス穴抜き加工試験の結果における「エッジ部」(後述では オリフィスの入り口輪郭)の形成の安定性に関して、実施例1、実施例2及び実施例3は比較例1より優れているという結果が得られている。
【0025】
(精密プレス穴抜き加工の試験方法について)
前述した実施例1〜実施例3用の試験材、及び比較例1用の試験材について、プレス穴抜き加工試験を次の通り行なった。
板厚0.1mmの試験材を、パンチ径:0.137mmφ、ダイ径:0.147mmφ、クリアランス:5%(クリアランス量:0.005mm)のセンタークリアランスで、加工角度:33.5度、加工油:植物系プレス加工油を用いてプレス斜め打抜き加工を行なった。そして、オリフィスの形状はストレート抜きとした。
始めに比較例1として、比較例1用の試験材を用いて10,000ショットの連続精密細穴抜き加工を実施した。その後パンチのみを交換して、実施例1として、実施例1用の試験材を用いて10,000ショットの連続精密細穴抜き加工を実施した。実施例2及び実施例3についても実施例1と同様にパンチのみを交換して10,000ショットの連続精密細穴抜き加工を実施した。ここで、加工されたオリフィスは、板厚0.1mmの板1枚に対して図7に示すように、その中心線1の左右両側に対称に計12穴を、同図に示すように中心線1に関して対称にそれぞれ外側に傾けて、33.5度の角度で打抜かれたものである。
【0026】
(細穴の形状及び打抜き加工面状態の測定方法について)
穴抜き加工後のオリフィスについて、その入口形状をSEMで観察した。またその入口形状を非接触の3次元測定器(Alicona社製 IF−2000)を用い、焦点移動法により等高線像を測定した。
【0027】
1.オリフィスの切断輪郭とだれの安定性に関する結果
(1−1)10,000ショット目の穴抜き加工後における結果
10,000ショット目の穴抜き加工をした後のオリフィスの入口形状に関しては次の通りである。
オリフィスの入口の輪郭形状については、比較例1においては、穴の周りに不均一な箇所が見られたが、実施例1〜3にはそれは見られなかった。即ち、オリフィスの輪郭形状が実施例1〜3の方が滑らかな曲線を呈していた。図8(a)に、実施例1〜実施例3、及び比較例1のそれぞれにおける10,000ショット目の連続精密細穴抜き加工後における板のオリフィスポジションが2a(図7中の符号2aのオリフィスを指す)であるオリフィスのSEM写真による入口形状を例示する。また、図8(b)には、実施例1〜3及び比較例1の当該SEM写真と同一オリフィスを、非接触の3次元測定器で焦点移動法により測定した像を例示する。これによれば、実施例1〜3の方が比較例1よりも等高線に均一性が保たれており望ましく、しかも平均結晶粒径が小さくなるにつれて、等高線の均一性が保たれ、平均結晶粒径が0.45μmと最も小さい実施例1は極めて望ましい。即ち、板材料の平均結晶粒径が微細化するほど、切り口輪郭が滑らかになる優れたオリフィスが得られている。
【0028】
(1−2)10,000ショット目に隣接する直近120ショットの連続穴抜き加工間の安定性結果
実施例1〜3、及び比較例1のそれぞれおいて、9,881ショット目から10,000ショット目までの連続120ショットの穴抜き加工で得られた120箇所のオリフィスについて、オリフィスポジションが2a(前記図7中の符号2aのオリフィスを指す)であるオリフィスの形状をSEM写真で観察した。観察内容は、連続加工された120箇所のオリフィスについて入口形状が突発的に変化しているオリフィスはないかどうかを調査し、突発的に入口輪郭形状が変化しているオリフィスをカウントした。突発的入口輪郭形状変化の判定基準は、50倍の顕微鏡検査によって、官能的に輪郭形状の変形及び膨らみの発生をXショット目とX+1ショット目を比較し、その変化がある場合にカウントを行った。
【0029】
図9に、突発的に入口輪郭形状が変化したオリフィスの数を、実施例1〜3、及び比較例1のそれぞれについて示す。なお、図10には、実施例2及び比較例1について、9,996ショット目から10,000ショット目までの連続5個の穴抜き加工で得られたポジション2aのオリフィス入口輪郭形状を例示する。同図において、オリフィスの入口輪郭形状の突発的変化は実施例2では認められないが、比較例1においては、突発的輪郭形状変化が認められる。
【0030】
上記結果より、比較例1においては、120箇所中74箇所においてオリフィス入口輪郭形状が直前の形状との違いが認められたが、実施例1、2、3においてはそれぞれ120箇所中7箇所、11箇所及び15箇所となり、オリフィス入口輪郭形状の違い発生の頻度は著しく減少して比較例1の1/10〜1/5倍程度になっている。このように実施例1〜3においては、連続穴抜き加工にけるオリフィスの入口輪郭形状の安定性が優れている。
【0031】
次に、実施例1〜3及び比較例1のそれぞれの場合について、上述した10,000ショットの連続穴抜き加工を実施して得られたオリフィスプレートの穴抜きはじめ初期の20枚、5,000ショット目を中間とした中期の20枚、及び穴抜き終期の20枚の各オリフィスプレートを用い、特定時間内に前記図7に示した12穴のオリフィスプレートから噴射された合計液体流量を測定した。なお、液体の噴射条件は、液体としてドライソルベントを使用し、圧力300KPaにて測定を行った。
【0032】
図11は、10,000ショットの連続精密細穴抜き加工を実施したときに、得られたオリフィスの入口輪郭形状が、オリフィスプレートから噴射される液体噴射流量のばらつきに及ぼす影響を表しているものである。
【0033】
図11のデータから、実施例1、2及び3のオリフィスプレートを使用した場合の当該オリフィスプレートの各ショット数加工の近隣オリフィスの最大最小値差、差の縮小率及びばらつき(標準偏差)を計算すると表3,4及び5のようになる。
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
実施例にて確認を行ったいずれのショット数量での状況においても、比較例1と比べ、実施例1、2、及び3のオリフィスプレートを用いた流量の最大最小値差、及びばらつき(標準偏差)が縮小されている。この結果、実施例が示す範囲での流量の公差の縮小が可能となる。また、本オリフィスが連続して複数個配置されているような液体噴射部品については、その複数個間での流量ばらつきが低減されているため、複数個のオリフィスプレートより均等な液体を噴射することが可能となる。例として、実施例の様にオリフィスプレートが20個並んでいる様な製品に用いた場合、各オリフィスプレートより噴射される流量ばらつきは、実施例1では50%の削減、実施例3においても少なくとも25%の削減が可能となる。以上より、この製品に対する流量公差の削減が可能となる。このようなオリフィスを用いることで、それまで噴射部品毎に調整機能部品を付属させ噴射流量のコントロールを行っていた方式から、1つの流量調整機能部品から分配して複数個の噴射体よりばらつきの低減された液体の噴射を行う方法も可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】特開2000−51964号公報
【特許文献2】特開2007−61992号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状ステンレス鋼よりなり、オリフィスがせん断加工により形成された液体噴射用オリフィスプレートであって、前記ステンレス鋼の平均結晶粒径が3μm以下であることを特徴とする液体噴射用オリフィスプレート。
【請求項1】
板状ステンレス鋼よりなり、オリフィスがせん断加工により形成された液体噴射用オリフィスプレートであって、前記ステンレス鋼の平均結晶粒径が3μm以下であることを特徴とする液体噴射用オリフィスプレート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−264389(P2010−264389A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117888(P2009−117888)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(592189206)株式会社小松精機工作所 (4)
【出願人】(592197706)株式会社特殊金属エクセル (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(592189206)株式会社小松精機工作所 (4)
【出願人】(592197706)株式会社特殊金属エクセル (9)
【Fターム(参考)】
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