液体噴射装置、および、その制御方法
【課題】フラッシング動作において、ノズルから噴射される液体を所定の部材に着弾させ、装置内の他の部材に液体が付着することを防止できる液体噴射装置、および、その制御方法を提供する。
【解決手段】ノズル30から着弾対象6に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッド2と、噴射動作を行う際の液体噴射ヘッド2のノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、着弾対象6を支持する支持手段5と、液体噴射ヘッド2から着弾対象6に対して液体が噴射される支持手段5における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段13と、該液滴捕集手段13に設けられた電圧被印加部15と、該電圧被印加部15に電圧を印加する電圧印加手段58と、を備え、液体噴射ヘッド2から液滴捕集手段13に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、電圧印加手段58が電圧被印加部15に電圧を印加する。
【解決手段】ノズル30から着弾対象6に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッド2と、噴射動作を行う際の液体噴射ヘッド2のノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、着弾対象6を支持する支持手段5と、液体噴射ヘッド2から着弾対象6に対して液体が噴射される支持手段5における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段13と、該液滴捕集手段13に設けられた電圧被印加部15と、該電圧被印加部15に電圧を印加する電圧印加手段58と、を備え、液体噴射ヘッド2から液滴捕集手段13に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、電圧印加手段58が電圧被印加部15に電圧を印加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に関し、特に、圧力発生手段の駆動により圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射装置、および、その制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記のプリンター等で使用される記録ヘッドでは、近年、画像向上等の要求に応えるため、ノズルから噴射されるインクの液量を小さくする傾向がある。このような微量の液滴を記録媒体に対して確実に着弾させるために、液滴の初速が比較的高く設定される。これにより、ノズルから噴射された液滴は、飛翔中に引き伸ばされて、先頭のメイン液滴(主液滴)とそれよりも後のサテライト液滴(副液滴)に分離する。このサテライト液滴の一部又は全部は、空気の粘性抵抗により速度が急激に低下し、記録媒体に到達することなくミスト化してしまうことがある。ミスト化したサテライト液滴(ミスト)は、装置内を汚染し、記録ヘッドや電気回路等の帯電しやすい部材への付着によって動作不良を発生させたりする問題があった。このような問題は、記録媒体に液滴を噴射する記録動作時だけでなく、増粘した液体や気泡を強制的に排出させるために、記録媒体から外れた位置にあるインク受け部材に液滴を噴射するフラッシング動作時においても同様に発生する。特に、増粘した液体は飛翔中に引き伸ばされ易いため、フラッシング動作の方がよりミストを発生し易い。
【0004】
このような不具合を防止すべく、ノズルから噴射される液滴を帯電させると共に、記録時の記録媒体を支持する支持部材(或いはプラテン)に設けられた液滴を吸収する吸収部材と、記録ヘッドのノズル形成面との間に電界を形成することで、ミストを吸収部材に確実に着弾させようとする試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。また、キャップ部材の内部に電極部材を配置し、該電極部材と記録ヘッドのノズル形成面との間に電界を形成した状態で、フラッシングを行うものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−173324号公報
【特許文献2】特開2009−90630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図14(a)の模式図に示すように、記録ヘッドのノズル80から噴射されたインクが電極部材81に向けて伸びる過程で、プラスに帯電した電極部材81からの静電誘導により、電極部材81に近い側の先頭部分(メイン液滴Mdとなる部分)にはマイナスの電荷が誘導される一方で、これとは反対のノズル80に近い側の後端部分にはプラスの電荷が誘導される。そして、図14(b)に示すように、ノズルから噴射されたインクが、例えばメイン液滴Mdと、第1のサテライト液滴Sd1と、第2のサテライト液滴(ミスト)Sd2とに分離した場合、メイン液滴Mdはマイナスに帯電し、第2のサテライト液滴Sd2はプラスに帯電し、第1のサテライト液滴Sd1は無帯電となる。この場合、メイン液滴Mdと第1のサテライト液滴Sd1が電極部材81に着弾したとしても、第2のサテライト液滴Sd2は、プラスに帯電した電極部材81に反発して記録媒体のノズル形成面の近傍でミスト化して漂ってしまう。このミストの一部はノズル形成面に付着する。ノズル形成面にミストが付着した場合、ノズル形成面をワイピング部材によって定期的に払拭する必要性が生じる。また、ノズル形成面に付着しなかったミストは、当該ミストと極性の異なるプリンター構成部品に付着して汚染してしまう虞があった。
【0007】
ところで、インクの帯電を防止するべく、ノズル形成面と電極部材との間に電界を形成しないようにする構成も考えられるが、当該構成においてノズルからインクを噴射した場合においても噴射されたインクが帯電することが判っている。すなわち、ノズルから噴射されたインクは、電極部材に向けて飛翔している間、レナード効果によりプラスの帯電が強まる傾向にある。即ち、インクが帯電している場合、液滴の中心部分にプラス電荷が集まる一方で、表層部分にマイナス電荷が集まる。そして、飛翔中における表層部分の蒸発や分裂により液滴が次第にプラスに偏っていく。このように、ノズル形成面と電極部材との間に電界を形成しないようにする構成においてもノズルから噴射されたインクが帯電するため、ミストがノズル形成面やプリンターの構成部品に付着するという不具合が生じていた。
【0008】
以上のような現象は、圧電振動子には限られず、発熱素子等の、駆動電圧の印加により作動する他の圧力発生手段でも同様に生じる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フラッシング動作において、ノズルから噴射される液体を所定の部材に着弾させ、装置内の他の部材に液体が付着することを防止できる液体噴射装置、および、その制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、駆動信号の印加により駆動して前記ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
該液滴捕集手段に設けられた電圧被印加部と、
該電圧被印加部に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記液体噴射ヘッドから前記液滴捕集手段に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、フラッシング動作中は電圧被印加部に電圧を印加しないので、ミストが静電誘導により電圧被印加部と同極性に帯電することを防止でき、フラッシング動作が終わってから電圧被印加部に電圧を印加することで、電圧被印加部にミストを捕集することが可能となる。これにより、これらのミストが装置内の他の構成部品(例えば、モーター、駆動ベルト、リニアスケールなど)に付着することが低減される。その結果、ミストの付着による故障が抑制され、液体噴射装置の耐久性および信頼性が向上する。
【0012】
上記構成において、前記フラッシング動作は、少なくとも2つ以上の短期フラッシング動作を有し、
一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することが望ましい。
【0013】
この構成によれば、短期フラッシング動作が終わるごとに電圧被印加部に電圧を印加することで、ミストの飛散を防止でき、より確実に電圧被印加部にミストを捕集することが可能となる。
【0014】
上記各構成において、前記電圧印加手段は、負極性の電圧を前記電圧被印加部に印加することが望ましい。
【0015】
この構成によれば、レナード効果により、ミストが正極性(プラス)に帯電した場合に、電圧被印加部にミストを捕集することが可能となる。
【0016】
また、前記液体の導電率が、10(mS/cm)以下であることが望ましい。
【0017】
この構成によれば、レナード効果によるミストの帯電量を大きくでき、電圧被印加部にミストをより確実に捕集することが可能となる。
【0018】
上記構成において、前記電圧被印加部から前記ノズル形成面に向かう電界の強さが160(V/mm)以上であることが望ましい。
【0019】
この構成によれば、レナード効果によるプラスの帯電量が小さい場合でも、電圧被印加部にミストをより確実に捕集することが可能となる。
【0020】
そして、本発明の液体噴射装置の制御方法は、液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、駆動信号の印加により駆動して前記ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
該液滴捕集手段に設けられた電圧被印加部と、
該電圧被印加部に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、を備えた液体噴射装置の制御方法であって、
前記液体噴射ヘッドから前記液滴捕集手段に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする。
【0021】
また、上記制御方法において、前記フラッシング動作は、少なくとも2つ以上の短期フラッシング動作を有し、
一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの要部断面図である。
【図3】圧電振動子の構成を説明する断面図である。
【図4】記録ヘッドの電気的構成を説明するブロック図である。
【図5】フラッシング動作および電圧生成部の電圧制御を説明するタイミングチャートである。
【図6】噴射駆動パルスの構成を説明する波形図である。
【図7】(a)フラッシングボックスの上方に記録ヘッドがあるときのミストの捕集を説明する図、(b)フラッシングボックスの上方に記録ヘッドがないときのミストの捕集を説明する図である。
【図8】液滴の導電率とレナード効果による帯電量との関係を表すグラフである。
【図9】液滴の滞空時間とレナード効果による帯電量との関係を表すグラフである。
【図10】液滴の帯電量と電解による液滴回収率との関係を表すグラフである。
【図11】第2の実施形態におけるフラッシング動作および電圧生成部のON/OFF制御を説明するタイミングチャートである。
【図12】第3の実施形態におけるフラッシングボックスの構成を説明する図である。
【図13】第4の実施形態におけるフラッシングボックスの構成を説明する図である。
【図14】ノズルと電極部材間に電界を形成した構成においてノズルから噴射されたインクが帯電する様子を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置1(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0024】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5(本発明における支持手段に相当)と、フラッシング動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたフラッシングボックス13(本発明における液滴捕集手段に相当)と、キャリッジ4を記録紙6(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する搬送機構8と、を備えている。
【0025】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)がプリンターコントローラー51(図4参照)に送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスEPを、主走査方向における位置情報として出力する。
【0026】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート24:図2参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録が可能に構成されている。
【0027】
プラテン5は、噴射動作を行う際の記録ヘッド2のノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、記録紙6を支持する。本実施形態では、主走査方向に長尺な板状に形成され、その表面には長手方向に沿って所定の間隔で複数の支持突起5aが突設されている。各支持突起5aはプラテン面よりも上方(記録動作時における記録ヘッド2側)へ突出している。各支持突起5aの上面は、記録紙6を支える当接面となり、記録紙6の背面(インクが着弾する記録面とは反対側の面)を部分的に支える。また、プラテン5の表面であって、各支持突起5aから外れた部分には、インク吸収部材5bが配設されている。このインク吸収部材5bは、例えばフェルトやウレタンスポンジ等で作製された吸液性を有する多孔質部材から成る。
【0028】
また、プラテン5の主走査方向の端部、詳しくは、プラテン5における記録紙6に対してインクが噴射される領域(インク噴射領域)から外れた領域、より詳しくは、インク噴射領域よりも主走査方向の外側に外れた領域であって、プリンター1が対応可能な最大サイズの記録紙6がプラテン5上に配置されたときの当該記録紙6の幅方向端部(最大記録紙幅)よりも外側となる位置に、フラッシング動作における記録ヘッド2から噴射されたインクを捕集するフラッシングボックス13が設けられている。このフラッシングボックス13は、プラテン5の主走査方向両側に設けることが望ましいが、少なくとも一方に設けられていればよい。本実施形態におけるフラッシングボックス13は、図7(a)に示すように、上方(記録ヘッド2側)に開口した箱体状に形成され、その内部の底面には、例えばウレタンスポンジ等で作製されたインク吸収材14が配設されている。なお、本実施形態におけるフラッシングボックス13は、接地されている。また、インク吸収材14の内部には、フラッシングボックス13の底面における副走査方向の幅に亘って、インク吸収材14から上部を露出させた状態で電極線15(本発明における電圧被印加部に相当)が配設されている。この電極線15は、金属等により紐状あるいは棒状に形成されており、後述する電圧生成部58からの電圧が印加されるように構成されている。なお、フラッシング動作および電極線15への電圧の印加については後述する。また、電極線15は、複数回折り返して、網目状に形成することもできる。
【0029】
図2は、記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド2は、ケース16と、このケース16内に収納される振動子ユニット17と、ケース16の底面(先端面)に接合される流路ユニット18と、カバー部材45等を備えている。上記のケース16は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット17を収納するための収納空部19が形成されている。振動子ユニット17は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子20と、この圧電振動子20が接合される固定板21と、圧電振動子20に駆動信号を供給するフレキシブルケーブル22とを備えている。
【0030】
図3は、振動子ユニット17の構成を説明する素子長手方向の断面図である。同図に示すように、この圧電振動子20は、共通内部電極39と個別内部電極40とで、圧電体41を挟んで交互に積層して形成された積層型の圧電振動子20である。ここで、共通内部電極39は、全ての圧電振動子20に共通な電極であり、接地電位に設定される。また、個別内部電極40は、印加される駆動信号の噴射駆動パルスDP(図6参照。)に応じて電位が変動する電極である。そして、本実施形態では、圧電振動子20における振動子先端から振動子長手方向(積層方向とは直交する方向)の半分程度まで若しくは3分の2程度までの部分が自由端部20aとなっている。また、圧電振動子20における残りの部分、即ち、自由端部20aの基端から振動子基端までの部分が基端部20bとなっている。
【0031】
自由端部20aには、共通内部電極39と個別内部電極40とが重なり合った活性領域(オーバーラップ部分)Aが形成されている。これらの内部電極に電位差を与えると、活性領域Aの圧電体41が作動して変形し、自由端部20aが振動子長手方向に変位して伸縮する。そして、共通内部電極39の基端は、圧電振動子20の基端面部で共通外部電極42に導通している。一方、個別内部電極40の先端は、圧電振動子20の先端面部で個別外部電極43に導通している。なお、共通内部電極39の先端は圧電振動子20の先端面部よりも少し手前(基端面側)に位置しており、個別内部電極40の基端は自由端部20aと基端部20bの境界に位置している。
【0032】
個別外部電極43は、圧電振動子20の先端面部と、圧電振動子20における積層方向の一側面である配線接続面(図3における上側の面)とに一連に形成された電極であり、配線部材としてのフレキシブルケーブル22の配線パターンと各個別内部電極40とを導通する。そして、この個別外部電極43の配線接続面側の部分は、基端部20b上から先端側に向けて連続的に形成されている。共通外部電極42は、圧電振動子20の基端面部と、上記の配線接続面と、圧電振動子20における積層方向の他側面である固定板取付面(図3における下側の面)とに一連に形成された電極であり、フレキシブルケーブル22の配線パターンと各共通内部電極39との間を導通する。そして、この共通外部電極42における配線接続面側の部分は個別外部電極43の端部よりも少し手前から基端面部側に向けて連続的に形成されており、固定部取付面側の部分は振動子の先端面部よりも少し手前の位置から基端側に向けて連続的に形成されている。
【0033】
上記の基端部20bは、活性領域Aの圧電体41の作動時においても伸縮しない非作動部である。この基端部20bの配線接続面側にはフレキシブルケーブル22が配置されており、基端部20b上で個別外部電極43及び共通外部電極42とフレキシブルケーブル22とが電気的に接続される。そして、このフレキシブルケーブル22を通して駆動信号が各個別外部電極43に印加される。
【0034】
流路ユニット18は、流路形成基板23の一方の面にノズルプレート24を、流路形成基板23の他方の面に振動板25をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット18には、リザーバー26(共通液室)と、インク供給口27と、圧力室28と、ノズル連通口29と、ノズル30とが設けられている。そして、インク供給口27から圧力室28及びノズル連通口29を経てノズル30に至る一連のインク流路が、各ノズル30に対応して形成されている。
【0035】
上記ノズルプレート24は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル30が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズルプレート24には、ノズル30を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル30によって構成される。このノズルプレート24のノズル30からインクが噴射される側の面が、本発明におけるノズル形成面に相当する。
【0036】
上記振動板25は、支持板31の表面に弾性体膜32を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板31とし、この支持板31の表面に樹脂フィルムを弾性体膜32としてラミネートした複合板材を用いて振動板25を作製している。この振動板25には、圧力室28の容積を変化させるダイヤフラム部33が設けられている。また、この振動板25には、リザーバー26の一部を封止するコンプライアンス部34が設けられている。
【0037】
上記のダイヤフラム部33は、エッチング加工等によって支持板31を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部33は、圧電振動子20の自由端部20aの先端面が接合される島部35と、この島部35を囲む薄肉弾性部とからなる。上記のコンプライアンス部34は、リザーバー26の開口面に対向する領域の支持板31を、ダイヤフラム部33と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー26に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0038】
そして、上記の島部35には圧電振動子20の先端面が接合されているので、この圧電振動子20の自由端部20aを伸縮させることで圧力室28の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室28内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル30からインクを噴射させるようになっている。
【0039】
カバー部材45は、流路ユニット18の側面やヘッドケース16の側面を保護する部材であり、ステンレス鋼等の導電性を有する板材から作製されている。本実施形態におけるカバー部材45の一部は、ノズルプレート24のノズル30を露出させた状態でノズル形成面の周縁部に当接しており、当該ノズルプレート24に対して電気的に導通している。カバー部材45は接地されており、ノズルプレート24に接触して導通することで、例えば、記録紙6等から発生した静電気がノズルプレート24を通じて伝達することによる駆動IC等の損傷やノズルプレート24の帯電を防止するようになっている。
【0040】
次に、プリンター1の電気的構成を説明する。
図4は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置50は、例えばコンピューターやデジタルカメラなどの画像を取り扱う電子機器である。この外部装置50は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1において記録紙6等の記録媒体に画像やテキストを印刷させるため、その画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0041】
本実施形態におけるプリンター1は、搬送機構8、キャリッジ移動機構7、リニアエンコーダー10、記録ヘッド2、電極線15、及び、プリンターコントローラー51を有する。
【0042】
プリンターコントローラー51は、プリンター1の各部の制御を行うための制御ユニットであり、インターフェース(I/F)部54と、CPU55と、記憶部56と、駆動信号生成部57と、を有する。インターフェース部54は、外部装置50からプリンター1へ送信される印刷データや印刷命令を受信したり、外部装置50にプリンター1の状態情報を送信したりする等、プリンター1とのデータの送受信を行う。CPU55は、プリンター1全体の制御を行うための演算処理装置である。記憶部56は、CPU55のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。CPU55は、記憶部56に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。
【0043】
CPU55は、リニアエンコーダー10から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成するタイミングパルス生成手段として機能する。そして、CPU55は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号生成部57による駆動信号COMの生成等を制御する。また、CPU55は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2のヘッド制御部53に出力する。ヘッド制御部53は、プリンターコントローラー51からのヘッド制御信号(印刷データおよびタイミング信号)に基づき、記録ヘッド2の圧電振動子20に対する駆動信号COMの噴射駆動パルスDP(図6参照)の印加制御等を行う。
【0044】
電圧生成部58(本発明における電圧印加手段に相当)は、フラッシングボックス13の電極線15に印加する電圧を生成する電源である。本実施形態では、マイナスの電圧を印加することで、電極線15をマイナスに帯電させるように構成されている。この電圧生成部58は、CPU55によってオン・オフが制御されるようになっている。具体的には、図5に示すように、記録ヘッド2がフラッシングボックス13の上方に移動して、ノズル30からフラッシングボックス13に向けて液体を1回あるいは複数回噴射するフラッシング動作を行っている期間Tfの間は、電圧生成部58をオフの状態にしている。フラッシング動作期間Tfが終了すると、続いて、電圧生成部58をオンの状態に切り替えている。本実施形態では、フラッシング動作期間Tfが終了した直後から電圧印加期間Teの間、電圧生成部58をオンの状態に切り替えている。これにより、電極線15に対して電圧が印加される状態となり、電極線15と記録ヘッド2のノズル形成面との間に電界が形成される(図7(a)参照。破線は、電気力線を模式的に表している。)。また、記録ヘッド2がフラッシングボックス13の上方から外れた位置に移動した場合は、電極線15と移動した記録ヘッド2のノズル形成面の他、プリンター1を構成する部材(例えば、ガイドロッド、駆動ベルト、リニアスケール、筐体)やフラッシングボックス13との間に電界が形成される(図7(b)参照。破線は、電気力線を模式的に表している。)。なお、電圧生成部58をオンの状態に切り替えるタイミングは、フラッシング動作期間Tf後、多少の時間を置いても良い。要は、フラッシング動作後に続いて(一連の処理として連続させて)、電圧生成部58をオンの状態に切り替えれば良い。また、電圧生成部58をオンにする期間Teおよび電極線15に印加する電圧については、後述する。
【0045】
駆動信号生成部57は、駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。また、駆動信号生成部57は、上記の電圧信号を増幅して駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、記録紙6に対する記録動作時、あるいはフラッシング動作時に記録ヘッド2の圧力発生手段である圧電振動子20に印加されるものであり、繰り返し周期である単位期間内に、例えば図6に示す噴射駆動パルスDPを少なくとも1つ以上含む一連の信号である。ここで、噴射駆動パルスDPとは、記録ヘッド2のノズル30から液滴状のインクを噴射させるために、圧電振動子20に所定の動作を行わせるものである。
【0046】
図6は、駆動信号COMに含まれる噴射駆動パルスDPの構成の一例を示す波形図である。なお、図6において、縦軸は電位であり、横軸は時間である。また、図6に示すように、本実施形態の噴射駆動パルスDPは平均するとプラスの極性である。噴射駆動パルスDPは、基準電位(中間電位)Vbから最大電位(最大電圧)Vmaxまでプラス側に電位が変化して圧力室28を膨張させる膨張要素p1と、最大電位Vmaxを一定時間維持する膨張維持要素p2と、最大電位Vmaxから最小電位(最小電圧)Vminまでマイナス側に電位が変化して圧力室28を急激に収縮させる収縮要素p3と、最小電位Vminを一定時間維持する収縮維持(制振ホールド)要素p4と、最小電位Vminから基準電位Vbまで電位が復帰する復帰要素p5と、を含んでいる。
【0047】
噴射駆動パルスDPが圧電振動子20に印加されると次のように作用する。まず、膨張要素p1により圧電振動子20が収縮し、これに伴って圧力室28が基準電位Vbに対応する基準容積から最大電位Vmaxに対応する最大容積まで膨張する。これにより、ノズル30に露出しているメニスカスが圧力室28側に引き込まれる。この圧力室28の膨張状態は、膨張維持要素p2の印加期間中に亘って一定に維持される。膨張維持要素p2の後に続いて収縮要素p3が圧電振動子20に印加されると、当該圧電振動子20が伸長し、これにより、圧力室28が上記最大容積から最小電位Vminに対応する最小容積まで急激に収縮する。この圧力室28の急激な収縮によって圧力室28内のインクが加圧され、これにより、ノズル30からは数pl〜数十plのインクが噴射される。この圧力室28の収縮状態は、収縮維持要素p4の印加期間に亘って短時間維持され、その後、制振要素p5が圧電振動子20に印加されて、圧力室28が最小電位Vminに対応する容積から基準電位Vbに対応する基準容積まで復帰する。
【0048】
次に、フラッシング動作、および、これに伴い発生するミストの捕集について説明する。本実施形態のフラッシング動作は、噴射駆動パルスDPを少なくとも1つ以上含む一連の信号により動作し、フラッシング動作期間Tfの間にインクを少なくとも1回以上吐出する。なお、フラッシング動作は、長期間に亘って記録動作が行われていない場合や、インクカートリッジの交換が行われた場合等に実施され、増粘したインクや、インク内に混入した気泡等を排出する。
【0049】
フラッシング動作によってノズル30から噴射されたインクは、飛翔中に引き伸ばされて、例えば、先頭のメイン液滴(主液滴)と、それよりも後に発生する微小なサテライト液滴と、それよりも更に微小なミストに分離する。ここで、上記したように、フラッシング動作期間Tfは、電圧生成部58をオフの状態にしているため、電極線15とノズル形成面の間に電界が形成されることが無い。このため、これらの液滴が、電極線15とノズル形成面の間の電界による静電誘導によって帯電することは無い。しかしながら、これらの液滴はレナード効果によって帯電する。すなわち、液滴は、飛翔中における表層部分の蒸発や分裂によりプラスの帯電が強まる。そして、これらの液滴のうち、サテライト液滴や、これよりも更に微小なミスト(以下、ミスト等Ms)は、フラッシングボックス13内に着弾せずに浮遊する。
【0050】
これら浮遊するミスト等Msは、フラッシング動作後の電極線15によって回収される。具体的には、図7(a)に示すように、フラッシング動作が終了した後、電圧生成部58をオンの状態に切り替えると、電極線15と記録ヘッド2のノズル形成面との間に電界が形成される。本実施形態では、電極線15にマイナスの電圧を印加するため、プラスに帯電したミスト等Msが電極線15に引き寄せられて、吸着する。また、記録ヘッド2がフラッシングボックス13の上方から外れた位置に移動していた場合でも、図7(b)に示すように、電極線15と移動した記録ヘッド2のノズル形成面の他、プリンター1を構成する部材やフラッシングボックス13との間に電界が形成される。このため、プラスに帯電したミスト等Msがマイナスの電圧が印加された電極線15に引き寄せられて、吸着する。これにより、これらのミスト等Msが装置内の他の構成部品(例えば、モーター、駆動ベルト、リニアスケールなど)に付着することを低減することができる。
【0051】
なお、ミスト等Msが電極線15に引き寄せられる力は、ミスト等Msの帯電量と電極線15によって形成される電界の強さとの積によって決定される。またレナード効果によるミスト等Msの帯電量は、ミスト等Ms(インク)の導電率および、ミスト等Msの飛翔時間(滞空時間)によって決定される。このため、電極線15に印加する電圧の強さおよび電圧の印加時間は、使用するインクの導電率および、記録ヘッド2のノズル形成面とフラッシングボックス13内の底面(電極線15)との距離d(図7(a)参照)によって決定することができる。
【0052】
図8に、インク滴(液滴)の導電率とレナード効果によるインク滴の帯電量の関係を表したグラフを示す。このグラフは、当初帯電していなかったインク滴の一定時間飛翔した後における帯電量を、導電率の異なるインク滴についてそれぞれ測定し、プロットしたものである。グラフの横軸はインク滴の導電率(mS/cm)を、縦軸はインク滴の帯電量(C)を表している。グラフから分かるように、インク滴の導電率が約10(mS/cm)以下において、インク滴の帯電量が増加する傾向にあることが分かる。すなわち、より確実にミスト等Msを電極線15に吸着させるためには、導電率が約10(mS/cm)以下のインクを使用することが望ましいことが分かる。また、図9は、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズル30)と着弾対象(電極線15)との距離と飛翔するインク滴のレナード効果による帯電量の関係を表したグラフである。このグラフは、当初帯電していなかったインク滴の着弾対象に着弾したときの帯電量を、ノズル形成面から着弾対象までの距離を変えてそれぞれ測定し、プロットしたものであり、導電率が30(μS/cm)(図9における○)、1(mS/cm)(図9における△)、および12(mS/cm)(図9における□)のそれぞれのインクにおいて測定した値を表している。なお、インク滴の吐出速度は一定にしている。また、グラフの横軸はインク滴の吐出から着弾対象までの距離(mm)、すなわち飛翔時間(滞空時間)を、縦軸はインク滴の帯電量(C)を表している。このグラフによれば、インク滴の滞空時間が長ければ長いほどインク滴の帯電量が増加する傾向にあることが分かる。また、インク滴の導電率が小さいほど、その傾向が強まることが分かる。このように、インクの導電率および、記録ヘッド2のノズル形成面と電極線15との距離dが決まれば、ミスト等Msの帯電量を求めることができる。
【0053】
また、ミスト等Msにかかる力は、ミスト等Msの帯電量と電界の強さとの積によって決定される。図10に、電極線15によって形成される電界の強さと液滴(ミスト等Ms)の回収率との関係を表したグラフを示す。このグラフは、液滴の着弾対象への回収率を、着弾対象(電極線15)に印加する電圧の強さを変えてそれぞれ測定し、プロットしたものであり、液滴の終端(着弾したとき)における帯電量が、2.3×10−17(C)(図10における○)、1.2×10−16(C)(図10における△)、3×10−16(C)(図10における□)、5×10−16(C)(図10における×)のそれぞれの場合において測定した値を表している。例えば、液滴の終端における帯電量が2.3×10−17(C)(インクの導電率が約10(mS/cm)以下の場合と略同じ帯電量)の場合は、ノズル形成面と電極線15との間に少なくとも約160(V/mm)の電界を形成すれば、液滴をほぼ100(%)回収することができる。このため、記録ヘッド2のノズル形成面と電極線15との間で、少なくとも160(V/mm)の電界を形成するように、電極線15に電圧を印加すればよい。このように、ミスト等Msの帯電量が分かれば、電極線15に印加する電圧を決定できる。ここで、上記のようにインクの導電率、および、記録ヘッド2のノズル形成面と電極線15との距離dからミスト等Msの帯電量を求めることができるため、これらの設定値を決定すれば、電極線15に印加する電圧を決定することができる。
【0054】
ところで、インク滴が移動する速度は、インク滴の質量、ノズルから打ち出された際の初速度、電界の強さ等によって決まるが、微小なミスト等Msが移動する速度は、主に電界の強さに依存する。ここで、液滴をほぼ100(%)回収することができる電界をかけたときのミスト等Msの速度は、遅くても1(m/s)以上であることが、確認されている。このため、ノズル形成面と電極線15との距離をd(m)とすると、電極線15に電圧を印加する時間Te(図5参照)を、少なくともd(s)とすればミスト等Msを確実に回収することが可能となる。
【0055】
このように、記録ヘッド2からフラッシングボックス13に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に続いて、電極線15に電圧を印加するため、フラッシング動作中は電極線15に電圧を印加しないで、ミスト等Msが静電誘導により電極線15と同極性に帯電することを防止でき、フラッシング動作が終わってから電極線15に電圧を印加することで、電極線15にミスト等Msを捕集することが可能となる。これにより、これらのミスト等Msが装置内の他の構成部品に付着することが低減される。その結果、ミスト等Msの付着による故障が抑制され、プリンター1の耐久性および信頼性が向上する。また、電極線15に負極性の電圧を印加したので、レナード効果により、ミストが正極性(プラス)に帯電した場合に、電極線15にミスト等Msを捕集することが可能となる。
【0056】
ところで、フラッシング動作は、上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、図11に示す、第2の実施形態におけるフラッシング動作では、フラッシングを行う期間を分割して、2つの短期フラッシング動作を有するように構成している。そして、先の短期フラッシング動作期間Tf1の後、その次の短期フラッシング動作期間Tf2の前、および短期フラッシング動作期間Tf2(フラッシング動作期間Tf)の後に、電圧生成部58が電極線15に電圧を印加している。なお、各短期フラッシング動作は、噴射駆動パルスDPを少なくとも1つ以上含む一連の信号により動作し、各短期フラッシング動作間Tf1、Tf2の間にインクを少なくとも1回以上吐出する。また、本実施形態では、フラッシング動作期間Tfが終わってから電極線15に電圧を印加する期間Te2は、短期フラッシング動作間Tf1、Tf2の間において電極線15に電圧を印加する期間Te1よりも長く設定されている。上記したように、電圧印加期間Te1がd(s)以上であることが望ましいが、少なくとも電圧印加期間Te2がd(s)以上であればよい。さらに、その他の構成は、第1の実施形態のプリンター1と同じであるため、その説明を省略する。
【0057】
このように、本実施形態では、短期フラッシング動作が終わるごとに電極部に電圧を印加することで、ミストの飛散を防止でき、より確実に電極部にミストを捕集することが可能となる。なお、フラッシング動作期間Tf内の短期フラッシング動作は2つに限らす、フラッシング動作期間Tf内に2つ以上の短期フラッシング動作を有する構成にすることもできる。この場合、少なくとも一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、電極線15に電圧を印加すればよい。
【0058】
また、電圧生成部58により電圧が印加される電圧被印加部は、上記した電極線15に限られない。図12に示す、第3の実施形態では、フラッシングボックス13の底面に配設されたインク吸収材14の上方(記録ヘッド2側)であって、フラッシングボックス13の側壁の内側に、金属製の電極板61が側壁に沿って環状に配置されている。この電極板61を電圧被印加部とし、電極板61に電圧生成部58を接続している。このように構成すると、電極板61の面積、すなわち大気に接する面積を線材の場合よりも大きく設定できるので、ミスト等Msを広い範囲で捕集することができ、ミスト等Msの回収効率を高めることができる。なお、その他の構成は、第1の実施形態のプリンター1と同じであるため、その説明を省略する。
【0059】
さらに、図13に示す、第4の実施形態では、フラッシングボックス13の底面に配設されたインク吸収材14′を金属製のスポンジ等で作製された吸液性を有する多孔質部材で形成することで、電圧被印加部としている。すなわち、インク吸収材14′に電圧生成部58を接続することで、インク吸収材14′に電圧を印加可能に形成している。この場合、ミスト等Msを直接インク吸収材14′に捕集することができる。なお、その他の構成、及び効果は、第1の実施形態のプリンター1と同じであるため、その説明を省略する。
【0060】
ところで、上記各実施形態では、フラッシング動作は、記録ヘッドをフラッシングボックス上に移動し、ノズルからフラッシングボックスに向けて液体を噴射するように構成したが、これには限られない。例えば、記録ヘッドのノズル形成面をキャッピング部材により封止し、この状態でノズルからキャッピング部材に向けてインクを噴射するフラッシング動作を行うこともできる。この場合、液滴捕集手段であるキャッピング部材に、上記各実施形態で例示したフラッシングボックス内の電圧被印加部と同様の構成を採用すればよい。これにより、ミスト等がノズル形成面に付着することを防止できる。また、フラッシング動作後に記録ヘッドがプラテン側に移動して記録動作を行う場合に、記録ヘッドの移動に伴って発生する気流によってミスト等が飛散することを抑制できる。
【0061】
また、フラッシング動作に用いる圧電振動子を駆動するための駆動パルスは、図6に示した噴射駆動パルスDPに限られない。インクの増粘の度合い等に応じて、駆動パルスの波形を変更することもできる。要は、インク滴をノズルからフラッシングボックスに向けて噴射できれば、どのような波形を用いても良い。
【0062】
また、本発明は、圧力発生手段を用いて液体の噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0063】
1…プリンター,2…記録ヘッド,5…プラテン,6…記録紙,11…キャッピング部材,13…フラッシングボックス,14…インク吸収材,15…電極線,20…圧電振動子,24…ノズルプレート,30…ノズル,58…電圧生成部,61…電極板
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に関し、特に、圧力発生手段の駆動により圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射装置、および、その制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記のプリンター等で使用される記録ヘッドでは、近年、画像向上等の要求に応えるため、ノズルから噴射されるインクの液量を小さくする傾向がある。このような微量の液滴を記録媒体に対して確実に着弾させるために、液滴の初速が比較的高く設定される。これにより、ノズルから噴射された液滴は、飛翔中に引き伸ばされて、先頭のメイン液滴(主液滴)とそれよりも後のサテライト液滴(副液滴)に分離する。このサテライト液滴の一部又は全部は、空気の粘性抵抗により速度が急激に低下し、記録媒体に到達することなくミスト化してしまうことがある。ミスト化したサテライト液滴(ミスト)は、装置内を汚染し、記録ヘッドや電気回路等の帯電しやすい部材への付着によって動作不良を発生させたりする問題があった。このような問題は、記録媒体に液滴を噴射する記録動作時だけでなく、増粘した液体や気泡を強制的に排出させるために、記録媒体から外れた位置にあるインク受け部材に液滴を噴射するフラッシング動作時においても同様に発生する。特に、増粘した液体は飛翔中に引き伸ばされ易いため、フラッシング動作の方がよりミストを発生し易い。
【0004】
このような不具合を防止すべく、ノズルから噴射される液滴を帯電させると共に、記録時の記録媒体を支持する支持部材(或いはプラテン)に設けられた液滴を吸収する吸収部材と、記録ヘッドのノズル形成面との間に電界を形成することで、ミストを吸収部材に確実に着弾させようとする試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。また、キャップ部材の内部に電極部材を配置し、該電極部材と記録ヘッドのノズル形成面との間に電界を形成した状態で、フラッシングを行うものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−173324号公報
【特許文献2】特開2009−90630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図14(a)の模式図に示すように、記録ヘッドのノズル80から噴射されたインクが電極部材81に向けて伸びる過程で、プラスに帯電した電極部材81からの静電誘導により、電極部材81に近い側の先頭部分(メイン液滴Mdとなる部分)にはマイナスの電荷が誘導される一方で、これとは反対のノズル80に近い側の後端部分にはプラスの電荷が誘導される。そして、図14(b)に示すように、ノズルから噴射されたインクが、例えばメイン液滴Mdと、第1のサテライト液滴Sd1と、第2のサテライト液滴(ミスト)Sd2とに分離した場合、メイン液滴Mdはマイナスに帯電し、第2のサテライト液滴Sd2はプラスに帯電し、第1のサテライト液滴Sd1は無帯電となる。この場合、メイン液滴Mdと第1のサテライト液滴Sd1が電極部材81に着弾したとしても、第2のサテライト液滴Sd2は、プラスに帯電した電極部材81に反発して記録媒体のノズル形成面の近傍でミスト化して漂ってしまう。このミストの一部はノズル形成面に付着する。ノズル形成面にミストが付着した場合、ノズル形成面をワイピング部材によって定期的に払拭する必要性が生じる。また、ノズル形成面に付着しなかったミストは、当該ミストと極性の異なるプリンター構成部品に付着して汚染してしまう虞があった。
【0007】
ところで、インクの帯電を防止するべく、ノズル形成面と電極部材との間に電界を形成しないようにする構成も考えられるが、当該構成においてノズルからインクを噴射した場合においても噴射されたインクが帯電することが判っている。すなわち、ノズルから噴射されたインクは、電極部材に向けて飛翔している間、レナード効果によりプラスの帯電が強まる傾向にある。即ち、インクが帯電している場合、液滴の中心部分にプラス電荷が集まる一方で、表層部分にマイナス電荷が集まる。そして、飛翔中における表層部分の蒸発や分裂により液滴が次第にプラスに偏っていく。このように、ノズル形成面と電極部材との間に電界を形成しないようにする構成においてもノズルから噴射されたインクが帯電するため、ミストがノズル形成面やプリンターの構成部品に付着するという不具合が生じていた。
【0008】
以上のような現象は、圧電振動子には限られず、発熱素子等の、駆動電圧の印加により作動する他の圧力発生手段でも同様に生じる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フラッシング動作において、ノズルから噴射される液体を所定の部材に着弾させ、装置内の他の部材に液体が付着することを防止できる液体噴射装置、および、その制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、駆動信号の印加により駆動して前記ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
該液滴捕集手段に設けられた電圧被印加部と、
該電圧被印加部に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記液体噴射ヘッドから前記液滴捕集手段に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、フラッシング動作中は電圧被印加部に電圧を印加しないので、ミストが静電誘導により電圧被印加部と同極性に帯電することを防止でき、フラッシング動作が終わってから電圧被印加部に電圧を印加することで、電圧被印加部にミストを捕集することが可能となる。これにより、これらのミストが装置内の他の構成部品(例えば、モーター、駆動ベルト、リニアスケールなど)に付着することが低減される。その結果、ミストの付着による故障が抑制され、液体噴射装置の耐久性および信頼性が向上する。
【0012】
上記構成において、前記フラッシング動作は、少なくとも2つ以上の短期フラッシング動作を有し、
一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することが望ましい。
【0013】
この構成によれば、短期フラッシング動作が終わるごとに電圧被印加部に電圧を印加することで、ミストの飛散を防止でき、より確実に電圧被印加部にミストを捕集することが可能となる。
【0014】
上記各構成において、前記電圧印加手段は、負極性の電圧を前記電圧被印加部に印加することが望ましい。
【0015】
この構成によれば、レナード効果により、ミストが正極性(プラス)に帯電した場合に、電圧被印加部にミストを捕集することが可能となる。
【0016】
また、前記液体の導電率が、10(mS/cm)以下であることが望ましい。
【0017】
この構成によれば、レナード効果によるミストの帯電量を大きくでき、電圧被印加部にミストをより確実に捕集することが可能となる。
【0018】
上記構成において、前記電圧被印加部から前記ノズル形成面に向かう電界の強さが160(V/mm)以上であることが望ましい。
【0019】
この構成によれば、レナード効果によるプラスの帯電量が小さい場合でも、電圧被印加部にミストをより確実に捕集することが可能となる。
【0020】
そして、本発明の液体噴射装置の制御方法は、液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、駆動信号の印加により駆動して前記ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
該液滴捕集手段に設けられた電圧被印加部と、
該電圧被印加部に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、を備えた液体噴射装置の制御方法であって、
前記液体噴射ヘッドから前記液滴捕集手段に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする。
【0021】
また、上記制御方法において、前記フラッシング動作は、少なくとも2つ以上の短期フラッシング動作を有し、
一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの要部断面図である。
【図3】圧電振動子の構成を説明する断面図である。
【図4】記録ヘッドの電気的構成を説明するブロック図である。
【図5】フラッシング動作および電圧生成部の電圧制御を説明するタイミングチャートである。
【図6】噴射駆動パルスの構成を説明する波形図である。
【図7】(a)フラッシングボックスの上方に記録ヘッドがあるときのミストの捕集を説明する図、(b)フラッシングボックスの上方に記録ヘッドがないときのミストの捕集を説明する図である。
【図8】液滴の導電率とレナード効果による帯電量との関係を表すグラフである。
【図9】液滴の滞空時間とレナード効果による帯電量との関係を表すグラフである。
【図10】液滴の帯電量と電解による液滴回収率との関係を表すグラフである。
【図11】第2の実施形態におけるフラッシング動作および電圧生成部のON/OFF制御を説明するタイミングチャートである。
【図12】第3の実施形態におけるフラッシングボックスの構成を説明する図である。
【図13】第4の実施形態におけるフラッシングボックスの構成を説明する図である。
【図14】ノズルと電極部材間に電界を形成した構成においてノズルから噴射されたインクが帯電する様子を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置1(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0024】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5(本発明における支持手段に相当)と、フラッシング動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたフラッシングボックス13(本発明における液滴捕集手段に相当)と、キャリッジ4を記録紙6(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する搬送機構8と、を備えている。
【0025】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)がプリンターコントローラー51(図4参照)に送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスEPを、主走査方向における位置情報として出力する。
【0026】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート24:図2参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録が可能に構成されている。
【0027】
プラテン5は、噴射動作を行う際の記録ヘッド2のノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、記録紙6を支持する。本実施形態では、主走査方向に長尺な板状に形成され、その表面には長手方向に沿って所定の間隔で複数の支持突起5aが突設されている。各支持突起5aはプラテン面よりも上方(記録動作時における記録ヘッド2側)へ突出している。各支持突起5aの上面は、記録紙6を支える当接面となり、記録紙6の背面(インクが着弾する記録面とは反対側の面)を部分的に支える。また、プラテン5の表面であって、各支持突起5aから外れた部分には、インク吸収部材5bが配設されている。このインク吸収部材5bは、例えばフェルトやウレタンスポンジ等で作製された吸液性を有する多孔質部材から成る。
【0028】
また、プラテン5の主走査方向の端部、詳しくは、プラテン5における記録紙6に対してインクが噴射される領域(インク噴射領域)から外れた領域、より詳しくは、インク噴射領域よりも主走査方向の外側に外れた領域であって、プリンター1が対応可能な最大サイズの記録紙6がプラテン5上に配置されたときの当該記録紙6の幅方向端部(最大記録紙幅)よりも外側となる位置に、フラッシング動作における記録ヘッド2から噴射されたインクを捕集するフラッシングボックス13が設けられている。このフラッシングボックス13は、プラテン5の主走査方向両側に設けることが望ましいが、少なくとも一方に設けられていればよい。本実施形態におけるフラッシングボックス13は、図7(a)に示すように、上方(記録ヘッド2側)に開口した箱体状に形成され、その内部の底面には、例えばウレタンスポンジ等で作製されたインク吸収材14が配設されている。なお、本実施形態におけるフラッシングボックス13は、接地されている。また、インク吸収材14の内部には、フラッシングボックス13の底面における副走査方向の幅に亘って、インク吸収材14から上部を露出させた状態で電極線15(本発明における電圧被印加部に相当)が配設されている。この電極線15は、金属等により紐状あるいは棒状に形成されており、後述する電圧生成部58からの電圧が印加されるように構成されている。なお、フラッシング動作および電極線15への電圧の印加については後述する。また、電極線15は、複数回折り返して、網目状に形成することもできる。
【0029】
図2は、記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド2は、ケース16と、このケース16内に収納される振動子ユニット17と、ケース16の底面(先端面)に接合される流路ユニット18と、カバー部材45等を備えている。上記のケース16は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット17を収納するための収納空部19が形成されている。振動子ユニット17は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子20と、この圧電振動子20が接合される固定板21と、圧電振動子20に駆動信号を供給するフレキシブルケーブル22とを備えている。
【0030】
図3は、振動子ユニット17の構成を説明する素子長手方向の断面図である。同図に示すように、この圧電振動子20は、共通内部電極39と個別内部電極40とで、圧電体41を挟んで交互に積層して形成された積層型の圧電振動子20である。ここで、共通内部電極39は、全ての圧電振動子20に共通な電極であり、接地電位に設定される。また、個別内部電極40は、印加される駆動信号の噴射駆動パルスDP(図6参照。)に応じて電位が変動する電極である。そして、本実施形態では、圧電振動子20における振動子先端から振動子長手方向(積層方向とは直交する方向)の半分程度まで若しくは3分の2程度までの部分が自由端部20aとなっている。また、圧電振動子20における残りの部分、即ち、自由端部20aの基端から振動子基端までの部分が基端部20bとなっている。
【0031】
自由端部20aには、共通内部電極39と個別内部電極40とが重なり合った活性領域(オーバーラップ部分)Aが形成されている。これらの内部電極に電位差を与えると、活性領域Aの圧電体41が作動して変形し、自由端部20aが振動子長手方向に変位して伸縮する。そして、共通内部電極39の基端は、圧電振動子20の基端面部で共通外部電極42に導通している。一方、個別内部電極40の先端は、圧電振動子20の先端面部で個別外部電極43に導通している。なお、共通内部電極39の先端は圧電振動子20の先端面部よりも少し手前(基端面側)に位置しており、個別内部電極40の基端は自由端部20aと基端部20bの境界に位置している。
【0032】
個別外部電極43は、圧電振動子20の先端面部と、圧電振動子20における積層方向の一側面である配線接続面(図3における上側の面)とに一連に形成された電極であり、配線部材としてのフレキシブルケーブル22の配線パターンと各個別内部電極40とを導通する。そして、この個別外部電極43の配線接続面側の部分は、基端部20b上から先端側に向けて連続的に形成されている。共通外部電極42は、圧電振動子20の基端面部と、上記の配線接続面と、圧電振動子20における積層方向の他側面である固定板取付面(図3における下側の面)とに一連に形成された電極であり、フレキシブルケーブル22の配線パターンと各共通内部電極39との間を導通する。そして、この共通外部電極42における配線接続面側の部分は個別外部電極43の端部よりも少し手前から基端面部側に向けて連続的に形成されており、固定部取付面側の部分は振動子の先端面部よりも少し手前の位置から基端側に向けて連続的に形成されている。
【0033】
上記の基端部20bは、活性領域Aの圧電体41の作動時においても伸縮しない非作動部である。この基端部20bの配線接続面側にはフレキシブルケーブル22が配置されており、基端部20b上で個別外部電極43及び共通外部電極42とフレキシブルケーブル22とが電気的に接続される。そして、このフレキシブルケーブル22を通して駆動信号が各個別外部電極43に印加される。
【0034】
流路ユニット18は、流路形成基板23の一方の面にノズルプレート24を、流路形成基板23の他方の面に振動板25をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット18には、リザーバー26(共通液室)と、インク供給口27と、圧力室28と、ノズル連通口29と、ノズル30とが設けられている。そして、インク供給口27から圧力室28及びノズル連通口29を経てノズル30に至る一連のインク流路が、各ノズル30に対応して形成されている。
【0035】
上記ノズルプレート24は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル30が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズルプレート24には、ノズル30を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル30によって構成される。このノズルプレート24のノズル30からインクが噴射される側の面が、本発明におけるノズル形成面に相当する。
【0036】
上記振動板25は、支持板31の表面に弾性体膜32を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板31とし、この支持板31の表面に樹脂フィルムを弾性体膜32としてラミネートした複合板材を用いて振動板25を作製している。この振動板25には、圧力室28の容積を変化させるダイヤフラム部33が設けられている。また、この振動板25には、リザーバー26の一部を封止するコンプライアンス部34が設けられている。
【0037】
上記のダイヤフラム部33は、エッチング加工等によって支持板31を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部33は、圧電振動子20の自由端部20aの先端面が接合される島部35と、この島部35を囲む薄肉弾性部とからなる。上記のコンプライアンス部34は、リザーバー26の開口面に対向する領域の支持板31を、ダイヤフラム部33と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー26に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0038】
そして、上記の島部35には圧電振動子20の先端面が接合されているので、この圧電振動子20の自由端部20aを伸縮させることで圧力室28の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室28内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル30からインクを噴射させるようになっている。
【0039】
カバー部材45は、流路ユニット18の側面やヘッドケース16の側面を保護する部材であり、ステンレス鋼等の導電性を有する板材から作製されている。本実施形態におけるカバー部材45の一部は、ノズルプレート24のノズル30を露出させた状態でノズル形成面の周縁部に当接しており、当該ノズルプレート24に対して電気的に導通している。カバー部材45は接地されており、ノズルプレート24に接触して導通することで、例えば、記録紙6等から発生した静電気がノズルプレート24を通じて伝達することによる駆動IC等の損傷やノズルプレート24の帯電を防止するようになっている。
【0040】
次に、プリンター1の電気的構成を説明する。
図4は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置50は、例えばコンピューターやデジタルカメラなどの画像を取り扱う電子機器である。この外部装置50は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1において記録紙6等の記録媒体に画像やテキストを印刷させるため、その画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0041】
本実施形態におけるプリンター1は、搬送機構8、キャリッジ移動機構7、リニアエンコーダー10、記録ヘッド2、電極線15、及び、プリンターコントローラー51を有する。
【0042】
プリンターコントローラー51は、プリンター1の各部の制御を行うための制御ユニットであり、インターフェース(I/F)部54と、CPU55と、記憶部56と、駆動信号生成部57と、を有する。インターフェース部54は、外部装置50からプリンター1へ送信される印刷データや印刷命令を受信したり、外部装置50にプリンター1の状態情報を送信したりする等、プリンター1とのデータの送受信を行う。CPU55は、プリンター1全体の制御を行うための演算処理装置である。記憶部56は、CPU55のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。CPU55は、記憶部56に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。
【0043】
CPU55は、リニアエンコーダー10から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成するタイミングパルス生成手段として機能する。そして、CPU55は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号生成部57による駆動信号COMの生成等を制御する。また、CPU55は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2のヘッド制御部53に出力する。ヘッド制御部53は、プリンターコントローラー51からのヘッド制御信号(印刷データおよびタイミング信号)に基づき、記録ヘッド2の圧電振動子20に対する駆動信号COMの噴射駆動パルスDP(図6参照)の印加制御等を行う。
【0044】
電圧生成部58(本発明における電圧印加手段に相当)は、フラッシングボックス13の電極線15に印加する電圧を生成する電源である。本実施形態では、マイナスの電圧を印加することで、電極線15をマイナスに帯電させるように構成されている。この電圧生成部58は、CPU55によってオン・オフが制御されるようになっている。具体的には、図5に示すように、記録ヘッド2がフラッシングボックス13の上方に移動して、ノズル30からフラッシングボックス13に向けて液体を1回あるいは複数回噴射するフラッシング動作を行っている期間Tfの間は、電圧生成部58をオフの状態にしている。フラッシング動作期間Tfが終了すると、続いて、電圧生成部58をオンの状態に切り替えている。本実施形態では、フラッシング動作期間Tfが終了した直後から電圧印加期間Teの間、電圧生成部58をオンの状態に切り替えている。これにより、電極線15に対して電圧が印加される状態となり、電極線15と記録ヘッド2のノズル形成面との間に電界が形成される(図7(a)参照。破線は、電気力線を模式的に表している。)。また、記録ヘッド2がフラッシングボックス13の上方から外れた位置に移動した場合は、電極線15と移動した記録ヘッド2のノズル形成面の他、プリンター1を構成する部材(例えば、ガイドロッド、駆動ベルト、リニアスケール、筐体)やフラッシングボックス13との間に電界が形成される(図7(b)参照。破線は、電気力線を模式的に表している。)。なお、電圧生成部58をオンの状態に切り替えるタイミングは、フラッシング動作期間Tf後、多少の時間を置いても良い。要は、フラッシング動作後に続いて(一連の処理として連続させて)、電圧生成部58をオンの状態に切り替えれば良い。また、電圧生成部58をオンにする期間Teおよび電極線15に印加する電圧については、後述する。
【0045】
駆動信号生成部57は、駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。また、駆動信号生成部57は、上記の電圧信号を増幅して駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、記録紙6に対する記録動作時、あるいはフラッシング動作時に記録ヘッド2の圧力発生手段である圧電振動子20に印加されるものであり、繰り返し周期である単位期間内に、例えば図6に示す噴射駆動パルスDPを少なくとも1つ以上含む一連の信号である。ここで、噴射駆動パルスDPとは、記録ヘッド2のノズル30から液滴状のインクを噴射させるために、圧電振動子20に所定の動作を行わせるものである。
【0046】
図6は、駆動信号COMに含まれる噴射駆動パルスDPの構成の一例を示す波形図である。なお、図6において、縦軸は電位であり、横軸は時間である。また、図6に示すように、本実施形態の噴射駆動パルスDPは平均するとプラスの極性である。噴射駆動パルスDPは、基準電位(中間電位)Vbから最大電位(最大電圧)Vmaxまでプラス側に電位が変化して圧力室28を膨張させる膨張要素p1と、最大電位Vmaxを一定時間維持する膨張維持要素p2と、最大電位Vmaxから最小電位(最小電圧)Vminまでマイナス側に電位が変化して圧力室28を急激に収縮させる収縮要素p3と、最小電位Vminを一定時間維持する収縮維持(制振ホールド)要素p4と、最小電位Vminから基準電位Vbまで電位が復帰する復帰要素p5と、を含んでいる。
【0047】
噴射駆動パルスDPが圧電振動子20に印加されると次のように作用する。まず、膨張要素p1により圧電振動子20が収縮し、これに伴って圧力室28が基準電位Vbに対応する基準容積から最大電位Vmaxに対応する最大容積まで膨張する。これにより、ノズル30に露出しているメニスカスが圧力室28側に引き込まれる。この圧力室28の膨張状態は、膨張維持要素p2の印加期間中に亘って一定に維持される。膨張維持要素p2の後に続いて収縮要素p3が圧電振動子20に印加されると、当該圧電振動子20が伸長し、これにより、圧力室28が上記最大容積から最小電位Vminに対応する最小容積まで急激に収縮する。この圧力室28の急激な収縮によって圧力室28内のインクが加圧され、これにより、ノズル30からは数pl〜数十plのインクが噴射される。この圧力室28の収縮状態は、収縮維持要素p4の印加期間に亘って短時間維持され、その後、制振要素p5が圧電振動子20に印加されて、圧力室28が最小電位Vminに対応する容積から基準電位Vbに対応する基準容積まで復帰する。
【0048】
次に、フラッシング動作、および、これに伴い発生するミストの捕集について説明する。本実施形態のフラッシング動作は、噴射駆動パルスDPを少なくとも1つ以上含む一連の信号により動作し、フラッシング動作期間Tfの間にインクを少なくとも1回以上吐出する。なお、フラッシング動作は、長期間に亘って記録動作が行われていない場合や、インクカートリッジの交換が行われた場合等に実施され、増粘したインクや、インク内に混入した気泡等を排出する。
【0049】
フラッシング動作によってノズル30から噴射されたインクは、飛翔中に引き伸ばされて、例えば、先頭のメイン液滴(主液滴)と、それよりも後に発生する微小なサテライト液滴と、それよりも更に微小なミストに分離する。ここで、上記したように、フラッシング動作期間Tfは、電圧生成部58をオフの状態にしているため、電極線15とノズル形成面の間に電界が形成されることが無い。このため、これらの液滴が、電極線15とノズル形成面の間の電界による静電誘導によって帯電することは無い。しかしながら、これらの液滴はレナード効果によって帯電する。すなわち、液滴は、飛翔中における表層部分の蒸発や分裂によりプラスの帯電が強まる。そして、これらの液滴のうち、サテライト液滴や、これよりも更に微小なミスト(以下、ミスト等Ms)は、フラッシングボックス13内に着弾せずに浮遊する。
【0050】
これら浮遊するミスト等Msは、フラッシング動作後の電極線15によって回収される。具体的には、図7(a)に示すように、フラッシング動作が終了した後、電圧生成部58をオンの状態に切り替えると、電極線15と記録ヘッド2のノズル形成面との間に電界が形成される。本実施形態では、電極線15にマイナスの電圧を印加するため、プラスに帯電したミスト等Msが電極線15に引き寄せられて、吸着する。また、記録ヘッド2がフラッシングボックス13の上方から外れた位置に移動していた場合でも、図7(b)に示すように、電極線15と移動した記録ヘッド2のノズル形成面の他、プリンター1を構成する部材やフラッシングボックス13との間に電界が形成される。このため、プラスに帯電したミスト等Msがマイナスの電圧が印加された電極線15に引き寄せられて、吸着する。これにより、これらのミスト等Msが装置内の他の構成部品(例えば、モーター、駆動ベルト、リニアスケールなど)に付着することを低減することができる。
【0051】
なお、ミスト等Msが電極線15に引き寄せられる力は、ミスト等Msの帯電量と電極線15によって形成される電界の強さとの積によって決定される。またレナード効果によるミスト等Msの帯電量は、ミスト等Ms(インク)の導電率および、ミスト等Msの飛翔時間(滞空時間)によって決定される。このため、電極線15に印加する電圧の強さおよび電圧の印加時間は、使用するインクの導電率および、記録ヘッド2のノズル形成面とフラッシングボックス13内の底面(電極線15)との距離d(図7(a)参照)によって決定することができる。
【0052】
図8に、インク滴(液滴)の導電率とレナード効果によるインク滴の帯電量の関係を表したグラフを示す。このグラフは、当初帯電していなかったインク滴の一定時間飛翔した後における帯電量を、導電率の異なるインク滴についてそれぞれ測定し、プロットしたものである。グラフの横軸はインク滴の導電率(mS/cm)を、縦軸はインク滴の帯電量(C)を表している。グラフから分かるように、インク滴の導電率が約10(mS/cm)以下において、インク滴の帯電量が増加する傾向にあることが分かる。すなわち、より確実にミスト等Msを電極線15に吸着させるためには、導電率が約10(mS/cm)以下のインクを使用することが望ましいことが分かる。また、図9は、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズル30)と着弾対象(電極線15)との距離と飛翔するインク滴のレナード効果による帯電量の関係を表したグラフである。このグラフは、当初帯電していなかったインク滴の着弾対象に着弾したときの帯電量を、ノズル形成面から着弾対象までの距離を変えてそれぞれ測定し、プロットしたものであり、導電率が30(μS/cm)(図9における○)、1(mS/cm)(図9における△)、および12(mS/cm)(図9における□)のそれぞれのインクにおいて測定した値を表している。なお、インク滴の吐出速度は一定にしている。また、グラフの横軸はインク滴の吐出から着弾対象までの距離(mm)、すなわち飛翔時間(滞空時間)を、縦軸はインク滴の帯電量(C)を表している。このグラフによれば、インク滴の滞空時間が長ければ長いほどインク滴の帯電量が増加する傾向にあることが分かる。また、インク滴の導電率が小さいほど、その傾向が強まることが分かる。このように、インクの導電率および、記録ヘッド2のノズル形成面と電極線15との距離dが決まれば、ミスト等Msの帯電量を求めることができる。
【0053】
また、ミスト等Msにかかる力は、ミスト等Msの帯電量と電界の強さとの積によって決定される。図10に、電極線15によって形成される電界の強さと液滴(ミスト等Ms)の回収率との関係を表したグラフを示す。このグラフは、液滴の着弾対象への回収率を、着弾対象(電極線15)に印加する電圧の強さを変えてそれぞれ測定し、プロットしたものであり、液滴の終端(着弾したとき)における帯電量が、2.3×10−17(C)(図10における○)、1.2×10−16(C)(図10における△)、3×10−16(C)(図10における□)、5×10−16(C)(図10における×)のそれぞれの場合において測定した値を表している。例えば、液滴の終端における帯電量が2.3×10−17(C)(インクの導電率が約10(mS/cm)以下の場合と略同じ帯電量)の場合は、ノズル形成面と電極線15との間に少なくとも約160(V/mm)の電界を形成すれば、液滴をほぼ100(%)回収することができる。このため、記録ヘッド2のノズル形成面と電極線15との間で、少なくとも160(V/mm)の電界を形成するように、電極線15に電圧を印加すればよい。このように、ミスト等Msの帯電量が分かれば、電極線15に印加する電圧を決定できる。ここで、上記のようにインクの導電率、および、記録ヘッド2のノズル形成面と電極線15との距離dからミスト等Msの帯電量を求めることができるため、これらの設定値を決定すれば、電極線15に印加する電圧を決定することができる。
【0054】
ところで、インク滴が移動する速度は、インク滴の質量、ノズルから打ち出された際の初速度、電界の強さ等によって決まるが、微小なミスト等Msが移動する速度は、主に電界の強さに依存する。ここで、液滴をほぼ100(%)回収することができる電界をかけたときのミスト等Msの速度は、遅くても1(m/s)以上であることが、確認されている。このため、ノズル形成面と電極線15との距離をd(m)とすると、電極線15に電圧を印加する時間Te(図5参照)を、少なくともd(s)とすればミスト等Msを確実に回収することが可能となる。
【0055】
このように、記録ヘッド2からフラッシングボックス13に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に続いて、電極線15に電圧を印加するため、フラッシング動作中は電極線15に電圧を印加しないで、ミスト等Msが静電誘導により電極線15と同極性に帯電することを防止でき、フラッシング動作が終わってから電極線15に電圧を印加することで、電極線15にミスト等Msを捕集することが可能となる。これにより、これらのミスト等Msが装置内の他の構成部品に付着することが低減される。その結果、ミスト等Msの付着による故障が抑制され、プリンター1の耐久性および信頼性が向上する。また、電極線15に負極性の電圧を印加したので、レナード効果により、ミストが正極性(プラス)に帯電した場合に、電極線15にミスト等Msを捕集することが可能となる。
【0056】
ところで、フラッシング動作は、上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、図11に示す、第2の実施形態におけるフラッシング動作では、フラッシングを行う期間を分割して、2つの短期フラッシング動作を有するように構成している。そして、先の短期フラッシング動作期間Tf1の後、その次の短期フラッシング動作期間Tf2の前、および短期フラッシング動作期間Tf2(フラッシング動作期間Tf)の後に、電圧生成部58が電極線15に電圧を印加している。なお、各短期フラッシング動作は、噴射駆動パルスDPを少なくとも1つ以上含む一連の信号により動作し、各短期フラッシング動作間Tf1、Tf2の間にインクを少なくとも1回以上吐出する。また、本実施形態では、フラッシング動作期間Tfが終わってから電極線15に電圧を印加する期間Te2は、短期フラッシング動作間Tf1、Tf2の間において電極線15に電圧を印加する期間Te1よりも長く設定されている。上記したように、電圧印加期間Te1がd(s)以上であることが望ましいが、少なくとも電圧印加期間Te2がd(s)以上であればよい。さらに、その他の構成は、第1の実施形態のプリンター1と同じであるため、その説明を省略する。
【0057】
このように、本実施形態では、短期フラッシング動作が終わるごとに電極部に電圧を印加することで、ミストの飛散を防止でき、より確実に電極部にミストを捕集することが可能となる。なお、フラッシング動作期間Tf内の短期フラッシング動作は2つに限らす、フラッシング動作期間Tf内に2つ以上の短期フラッシング動作を有する構成にすることもできる。この場合、少なくとも一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、電極線15に電圧を印加すればよい。
【0058】
また、電圧生成部58により電圧が印加される電圧被印加部は、上記した電極線15に限られない。図12に示す、第3の実施形態では、フラッシングボックス13の底面に配設されたインク吸収材14の上方(記録ヘッド2側)であって、フラッシングボックス13の側壁の内側に、金属製の電極板61が側壁に沿って環状に配置されている。この電極板61を電圧被印加部とし、電極板61に電圧生成部58を接続している。このように構成すると、電極板61の面積、すなわち大気に接する面積を線材の場合よりも大きく設定できるので、ミスト等Msを広い範囲で捕集することができ、ミスト等Msの回収効率を高めることができる。なお、その他の構成は、第1の実施形態のプリンター1と同じであるため、その説明を省略する。
【0059】
さらに、図13に示す、第4の実施形態では、フラッシングボックス13の底面に配設されたインク吸収材14′を金属製のスポンジ等で作製された吸液性を有する多孔質部材で形成することで、電圧被印加部としている。すなわち、インク吸収材14′に電圧生成部58を接続することで、インク吸収材14′に電圧を印加可能に形成している。この場合、ミスト等Msを直接インク吸収材14′に捕集することができる。なお、その他の構成、及び効果は、第1の実施形態のプリンター1と同じであるため、その説明を省略する。
【0060】
ところで、上記各実施形態では、フラッシング動作は、記録ヘッドをフラッシングボックス上に移動し、ノズルからフラッシングボックスに向けて液体を噴射するように構成したが、これには限られない。例えば、記録ヘッドのノズル形成面をキャッピング部材により封止し、この状態でノズルからキャッピング部材に向けてインクを噴射するフラッシング動作を行うこともできる。この場合、液滴捕集手段であるキャッピング部材に、上記各実施形態で例示したフラッシングボックス内の電圧被印加部と同様の構成を採用すればよい。これにより、ミスト等がノズル形成面に付着することを防止できる。また、フラッシング動作後に記録ヘッドがプラテン側に移動して記録動作を行う場合に、記録ヘッドの移動に伴って発生する気流によってミスト等が飛散することを抑制できる。
【0061】
また、フラッシング動作に用いる圧電振動子を駆動するための駆動パルスは、図6に示した噴射駆動パルスDPに限られない。インクの増粘の度合い等に応じて、駆動パルスの波形を変更することもできる。要は、インク滴をノズルからフラッシングボックスに向けて噴射できれば、どのような波形を用いても良い。
【0062】
また、本発明は、圧力発生手段を用いて液体の噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0063】
1…プリンター,2…記録ヘッド,5…プラテン,6…記録紙,11…キャッピング部材,13…フラッシングボックス,14…インク吸収材,15…電極線,20…圧電振動子,24…ノズルプレート,30…ノズル,58…電圧生成部,61…電極板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、駆動信号の印加により駆動して前記ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
該液滴捕集手段に設けられた電圧被印加部と、
該電圧被印加部に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記液体噴射ヘッドから前記液滴捕集手段に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記フラッシング動作は、少なくとも2つ以上の短期フラッシング動作を有し、
一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、負極性の電圧を前記電圧被印加部に印加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体の導電率が、10(mS/cm)以下であることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記電圧被印加部から前記ノズル形成面に向かう電界の強さが160(V/mm)以上であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、駆動信号の印加により駆動して前記ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
該液滴捕集手段に設けられた電圧被印加部と、
該電圧被印加部に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、を備えた液体噴射装置の制御方法であって、
前記液体噴射ヘッドから前記液滴捕集手段に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【請求項7】
前記フラッシング動作は、少なくとも2つ以上の短期フラッシング動作を有し、
一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする請求項4に記載の液体噴射装置の制御方法。
【請求項1】
液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、駆動信号の印加により駆動して前記ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
該液滴捕集手段に設けられた電圧被印加部と、
該電圧被印加部に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記液体噴射ヘッドから前記液滴捕集手段に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記フラッシング動作は、少なくとも2つ以上の短期フラッシング動作を有し、
一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、負極性の電圧を前記電圧被印加部に印加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体の導電率が、10(mS/cm)以下であることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記電圧被印加部から前記ノズル形成面に向かう電界の強さが160(V/mm)以上であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、駆動信号の印加により駆動して前記ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
該液滴捕集手段に設けられた電圧被印加部と、
該電圧被印加部に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、を備えた液体噴射装置の制御方法であって、
前記液体噴射ヘッドから前記液滴捕集手段に向けて液体を噴射するフラッシング動作後に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【請求項7】
前記フラッシング動作は、少なくとも2つ以上の短期フラッシング動作を有し、
一の短期フラッシング動作の後、その次の短期フラッシング動作の前に、前記電圧印加手段が前記電圧被印加部に電圧を印加することを特徴とする請求項4に記載の液体噴射装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−240257(P2012−240257A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110957(P2011−110957)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]