説明

液体噴射装置、および液体噴射装置を用いた医療機器

【課題】ノズルから液体を噴射している状態と、噴射を停止した状態とを速やかに切り換える。
【解決手段】二重管の内側の管には先端にノズルを設けて液体噴射管とし、外側の管は、液体噴射管との間で吸引流路を形成する吸引管として、吸引流路から液体を吸引する。また、吸引管の先端には、外力によって変形可能な先端部材を取り付け、先端部材の先端には、ノズルから噴射された液体が通過する位置からオフセットした位置に通過口を設ける。こうすれば、外力で先端部材を変形させた時にだけ、ノズルからの液体が通過口を通過して外部に噴射され、先端部材を変形させていない時に、ノズルから噴射された液体が通過口を通過することなく吸引流路で吸引される。この結果、液体を噴射している状態と、噴射を停止した状態とを速やかに切り換えることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水や生理食塩水などの液体を加圧して、ノズルから生物組織に向けて噴射することにより、生物組織の切開や切除を行う液体噴射装置が開発されている。このような液体噴射装置には、加圧された液体を脈動させてパルス流、すなわちパルス状の液体噴射を実現する装置が知られている(特許文献1)。パルス状の液体は、少ない噴射量で生物組織を切開あるいは切除することが可能なので、術部に溜まる液体を低減することができる。
【0003】
このような液体噴射装置は、ノズルに接続された液体室と、液体室の容積を変動させるアクチュエーターとを備えており、液体室は液体を圧送する供給ポンプに接続されている。供給ポンプから液体室への液体の圧送は、可撓性を有する接続チューブを介して行われる。これにより、供給ポンプで液体が満たされた液体室の容積をアクチュエーターで変動させることで、液体室内の液体を加圧してノズルからパルス状に噴射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−82202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように供給ポンプから接続チューブを介して供給される液体を噴射する液体噴射装置は、液体を噴射している状態と、液体の噴射を停止している状態とを速やかに切り換えることができないという問題があった。すなわち、供給ポンプが停止されている状態では接続チューブ内に圧力がかかっていない。このため供給ポンプを起動した直後は、供給ポンプが圧送される液体が接続チューブの内圧を高めるために使用されてしまい、ノズルから液体を噴射することができない。また、ノズルから液体を噴射している状態で供給ポンプを停止しても、接続チューブ内の圧力が抜けるまでの間はノズルから液体が流れ続けてしまう。このように、液体の噴射を開始しようとしても直ちに噴射を開始することはできず、逆に噴射を停止しようとしてもしばらくの間はノズルから液体が流れ続けてしまうという問題がある。また、この問題は、供給ポンプから接続チューブを介して液体を供給する液体噴射装置であれば、パルス状に液体を噴射する場合に限らず、連続的に液体を噴射する場合にも同様に生じ得る。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、ノズルから液体を噴射する液体噴射装置で、液体を噴射している状態と、液体の噴射を停止している状態とを速やかに切り換えることが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体噴射装置は次の構成を採用した。すなわち、
液体を供給する液体供給手段に接続チューブを介して接続され、該液体供給手段から供給された液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記液体を噴射するノズルが先端に設けられた液体噴射管と、
前記液体噴射管が内側に挿通され、該液体噴射管との間に吸引流路を形成している吸引管と、
前記吸引流路から前記液体を吸引する吸引手段と、
前記吸引管の先端に取り付けられて、前記ノズルから噴射された液体が通過する通過口が形成され、外力によって変形可能な先端部材と、
を備え、
前記先端部材は、
前記通過口に加えて、前記ノズルから噴射された液体が衝突する衝突部が形成されており、
前記外力によって変形していない状態では、前記ノズルから噴射された液体が前記衝突部に衝突するが、前記外力によって変形すると、前記ノズルから噴射された液体が前記通過口を通過可能となる部材であることを要旨とする。
【0008】
このような本発明の液体噴射装置においては、吸引管の先端に先端部材が取り付けられている。この先端部材は、ノズルから噴射された液体が通過する通過口が形成されており、且つ、外力によって変形可能となっている。そして、先端部材が外力によって変形していない状態では、ノズルから噴射された液体は衝突部に衝突する。その結果、噴射された液体は、通過口を通過することなく、吸引流路を介して吸引される。一方、先端部材を外力によって変形させると、ノズルからの液体は、先端部材に形成された通過口を通過して外部に噴射される。すなわち、先端部材を変形させない状態では、ノズルから噴射した液体が通過口を通過することなく吸引されるが、先端部材を変形させると、液体が通過口を通過して外部に噴射される。このため、先端部材を変形させるか否かによって、液体を噴射した状態と、噴射を停止した状態とを速やかに切り換えることが可能となる。また、先端部材に外力を加えて変形させるだけで液体の噴射を開始し、外力を取り除くだけで液体の噴射を停止させることができるので、液体噴射装置の構造を単純に保っておくことが可能となる。
【0009】
尚、吸引管は、内側に液体噴射管が挿通された状態となっていれば良く、必ずしも液体噴射管が実際に挿通されなくても良い。従って、例えば、予め二重管として供給された管状部材の内側の管を液体噴射管として使用し、外側の管を吸引管として使用しても良い。あるいは、内側の管が外側の管に対して偏心した状態で内側の管と外側の管とが一体に形成された二重管の、内側の管を液体噴射管として使用し、外側の管を吸引管として使用しても良い。
【0010】
また、上述した本発明の液体噴射装置では、次のようにしてもよい。先ず、容積を変更可能に構成した液体室を設け、この液体室に液体噴射管を接続する。そして、液体室の容積を減少させることによって、液体噴射管の先端に設けたノズルから、パルス状に液体を噴射するようにしてもよい。
【0011】
このような液体噴射装置では、液体はノズルから間欠的に噴射されることになるので、液体が噴射されてから次に噴射されるまでの間に、液体が噴射されない期間が発生する。そして、先端部材が変形していない状態では、ノズルから噴射された液体は衝突部に衝突して、次に液体が噴射されるまでの期間に吸引流路から吸引される。このため、吸引流路から液体を吸引するための吸引力をむやみに上げなくても、通過口から液体が流れ出すことを回避することが可能となる。
【0012】
また、上述した本発明の液体噴射装置では、先端部材が変形すると、先端部材に設けられた通過口の位置が、ノズルから噴射された液体が通過しない位置から、液体が通過可能な位置に変位するようにしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、先端部材の適切な位置に通過口を形成しておき、先端部材を変形させるだけで、液体が通過口を通過せずに吸引流路から吸引される状態と、通過口を通過して外部に噴射される状態とを切り換えられる構成を、極めて簡単に実現することができる。尚、先端部材の変形方向は、たとえば液体の噴射方向に交差する方向(たとえば直交方向)とし、液体を噴射しようとする対象物(手術の場合であれば術部)に先端部材を接触させると、先端部材に設けられた通過口が、ノズルからの液体が通過する位置に変位するように構成してもよい。こうすれば、液体を噴射しようとする対象物に先端部材を接触させるだけで、即座に液体を噴射することが可能となる。
【0014】
また、上述した本発明の液体噴射装置では、先端部材が変形すると、通過口の開口面積が大きくなって、ノズルから噴射された液体が通過可能となるようにしても良い。尚、先端部材が変形していない状態では、通過口が閉じていても良いし、通過口がある程度の開口面積を有していても良い。
【0015】
このように通過口の開口面積を大きくすることによって、ノズルからの液体を通過可能とした場合には、通過口の位置を移動させなくても、液体が通過口を通過するようにすることができる。このため、例えば、液体を噴射しようとする対象物が、狭く奥まった場所にある場合のように、液体噴射装置の先端(すなわち先端部材)を自由に動かせない状況下においても、液体を噴射している状態と、噴射を停止した状態とを速やかに切り換えることが可能となる。加えて、先端部材が変形していない状態での通過口が閉じた状態(開口していない状態)となっている場合には、次のような効果もある。すなわち、先端部材の通過口が閉じた状態となっているので、ノズルから噴射して衝突部に衝突した液体が通過口から外部に流出しにくくなる。このため、液体の噴射を停止している状態の時に、通過口から流れ出した液体が対象物にかかったり、あるいは手術の場合であれば術部の視認性を阻害したりする事態を抑制できる。また、液体の噴射を停止している状態では通過口から液体が流出し難くなるので、液体の流出を避けるために吸引手段の吸引力をむやみに増加させる必要もない。
【0016】
こうした本発明の液体噴射装置では、先端部材の先端側(液体の噴射方向)に突部を形成しておき、この突部に外力が加わると先端部材が変形して、ノズルからの液体が通過口を通過するようにしてもよい。尚、突部は、先端部材の先端側の端面から、液体の噴射方向に突設された突部とすることができる。あるいは、先端部材の先端側の端面を、液体の噴射方向に対して斜めに形成して、該端面の突出した側(先端側)を突部とすることもできる。更には、先端部材の先端側の側面から外側に向けて、突部を突設してもよい。
【0017】
このような構成によれば、液体を噴射しようとする対象物に突部を接触させるだけで、対象物への液体の噴射を開始することができる。また、先端部材の先端側の端面から液体の噴射方向に突部を突設した場合や、先端部材の先端側の端面を液体の噴射方向に対して斜めに形成することによって突部を形成した場合は、液体を噴射しようとする対象物から、先端部材の本体部分までの距離を確保することができる。このため、液体を噴射しようとする対象物の視認が、先端部材によって邪魔される事態を抑制することが可能となる。
【0018】
こうした本発明の液体噴射装置は、生物組織に向けて液体を噴射することで、生物組織の切開や切除を行う医療機器において、液体を噴射する用途に特に好適に適用することができる。従って、本発明は、上述した本発明の液体噴射装置を用いて生物組織に向けて液体を噴射する医療機器の態様で把握することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施例の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】脈動発生部の詳細な構成を示した断面図である。
【図3】流路管の詳細な構成を示した説明図である。
【図4】生物組織に液体を噴射する動作を示した断面図である。
【図5】変形例1ないし変形例3の流路管を示した説明図である。
【図6】変形例4の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図7】変形例5の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図8】変形例6の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
A−1.液体噴射装置の構成:
A−2.脈動発生部の構成:
A−3.流路管の構成:
B.本実施例の液体噴射動作:
C.変形例:
【0021】
A.装置構成 :
A−1.液体噴射装置の構成 :
図1は、本実施例の液体噴射装置10の大まかな構成を示した説明図である。図示した液体噴射装置10は、水や生理食塩水などの液体を生物組織に向けて噴射することで、生物組織を切開あるいは切除する手術方法に用いられるものである。
【0022】
図示されているように、本実施例の液体噴射装置10は、水や生理食塩水などの液体をパルス状に噴射するための脈動発生部100と、噴射する液体を脈動発生部100に供給する液体供給手段300と、噴射する液体を収容する液体容器306と、噴射された液体などを吸引するための吸引手段400と、脈動発生部100や液体供給手段300や吸引手段400の動作を制御する制御手段200などから構成されている。尚、本実施例の液体噴射装置10では、液体供給手段300の駆動と同期して吸引手段400も駆動する。
【0023】
液体供給手段300は、第1接続チューブ302を介して液体容器306と接続されており、液体容器306から吸い上げた液体を、第2接続チューブ304を介して脈動発生部100に供給する。本実施例の液体供給手段300は、2つのピストン(図示省略)がシリンダ内で摺動する構成となっており、一方のピストンが前進しているときは他方のピストンが後退して2つのピストンが互いに逆位相で摺動することで、途切れることなく脈動発生部100に向かって一定圧力で液体を圧送することが可能である。尚、第2接続チューブ304は、本発明の「接続チューブ」に相当している。
【0024】
脈動発生部100には、円筒形状の流路管150が接続されている。後述するように、流路管150は二重管となっており、内側の管は液体を噴射するための管(液体噴射管)として用いられる。また、流路管150の先端には、弾性材料で形成された先端部材152が取り付けられており、先端部材152の先端側には、液体が通過する通過口154が開口している。液体供給手段300から脈動発生部100に供給された液体は、脈動発生部100内で瞬間的に加圧されて、先端部材152の通過口154からパルス状に噴射される。また、本実施例の液体噴射装置10では、脈動発生部100にパルス噴射スイッチ120が設けられており、操作者がパルス噴射スイッチ120をONにすることで液体噴射が開始され、パルス噴射スイッチ120をOFFにすることで液体噴射が停止するようになっている。尚、流路管150や、脈動発生部100の詳細な構成については後述する。
【0025】
吸引手段400は、脈動発生部100の近傍において流路管150に設けられた図示しない吸引口と第3接続チューブ402を介して接続されている。先端部材152の通過口154から生物組織に向けて噴射された液体や、生物組織から流れ出た血液などは、術部(切開あるいは切除する生物組織やその周辺)に溜まることによって視認性を悪化させる。そこで、二重管に形成された流路管150の内側の管と外側の管との間の流路を介して、吸引手段400によって吸引する。
【0026】
制御手段200は、脈動発生部100の動作、液体供給手段300の動作、および吸引手段400の動作を制御する。本実施例の液体噴射装置10では、パルス噴射スイッチ120の状態(ONあるいはOFF)が制御手段200に入力される。そして、制御手段200では、パルス噴射スイッチ120の状態に基づいて、脈動発生部100の動作を制御している。脈動発生部100の動作は、制御手段200から圧電素子112に印加される駆動電圧によって行われる。
【0027】
液体供給手段300から脈動発生部100に液体を供給する第2接続チューブ304は、樹脂やゴムなどの弾力性を有する材質で構成されている。このため、液体供給手段300を起動してもその直後は圧力が第2接続チューブ304の変形によって吸収されてしまい、脈動発生部100の圧力上昇に遅れが生じる。一方、液体供給手段300の停止直後においては、第2接続チューブ304が収縮して圧力低下に遅れが生じる。このように、液体供給手段300が起動してもパルス状の噴射が可能となるまでに一定の時間が必要となり、液体供給手段300が停止しても液体の流出が止まるまでに一定の時間が必要となる。
【0028】
A−2.脈動発生部の構成 :
図2は、脈動発生部100の詳細な構成を示した断面図である。図2(a)に示されているように、脈動発生部100の内部には、液体が充填される円板形状の液体室110や、液体供給手段300から供給される液体を液体室110まで導く入口流路102や、液体室110内の液体を流路管150へと導く出口流路104などが設けられている。この液体室110の一端面は、金属薄板などで形成されたダイアフラム114によって構成されている。
【0029】
また、ダイアフラム114を介して液体室110に隣接する円柱形状の内部空間116には、積層型の圧電素子112が収納されている。この圧電素子112は、一端が内部空間116の底面(ダイアフラム114に対向する面)に固定されており、他端がダイアフラム114と接している。このように構成された脈動発生部100では、圧電素子112に駆動信号が印加されることによって、次のように液体を噴射する。
【0030】
先ず、前述したパルス噴射スイッチ120がOFFになっており、圧電素子112に駆動信号が印加される前の状態では、圧電素子112は駆動されておらず、図2(a)中に太い破線の矢印で示したように、液体供給手段300から供給される液体で液体室110が満たされる。このように液体室110が液体で満たされた状態で、パルス噴射スイッチ120がONになり、駆動信号が圧電素子112に印加されると、図2(b)に示すように、駆動電圧の増加によって圧電素子112が伸長し、ダイアフラム114を液体室110に向けて押す(変形させる)ので、液体室110の容積が減少し、その結果、液体室110内の液体が加圧される。こうして液体室110内で加圧された液体は、図2(b)中に太い破線の矢印で示したように、出口流路104から流路管150内を通って、流路管150の先端に取り付けられた先端部材152の通過口154(図1参照)から噴射される。
【0031】
このようにして液体を噴射したら、駆動電圧の減少により圧電素子112が収縮して元の長さに戻ることから、それに伴って液体室110の容積が元の容積に復元するとともに、液体供給手段300から液体室110に液体が供給されて、図2(a)に示した状態に復帰する。その後、再び駆動電圧の増加により圧電素子112が伸長して、図2(b)に示したように液体室110で加圧された液体が噴射される。こうした動作を繰り返すことにより、本実施例の液体噴射装置10では、液体をパルス状に噴射する。
【0032】
A−3.流路管の構成 :
図3は、流路管150の詳細な構成を示した説明図である。図3(a)には、流路管150の構造を示す断面図が示されており、図3(b)には、流路管150を先端側から見た様子が示されている。図3(a)に示すように、流路管150は、吸引管172の内側に液体噴射管160が設けられた二重管となっている。液体噴射管160の内部は、液体室110から圧送された液体が通過する液体流路156となっており、液体噴射管160の外側と吸引管172との間の空間は、吸引手段400によって吸引された液体が通過する吸引流路158となっている。また、液体噴射管160の先端には、液体が噴射されるノズル162が取り付けられている。更に、吸引管172の先端には、先端部材152が取り付けられている。
【0033】
先端部材152は、本実施例ではゴムや樹脂といった弾性を有する素材から形成されている。また、図3(b)に示すように、先端部材152の先端には、液体が通過する通過口154が形成されているが、通過口154が開口する位置は、ノズル162の位置に対してオフセットされている。従って、通常の状態では、ノズル162から噴射された液体は、通過口154を通過することなく、先端部材152の先端側の内壁に衝突する。この液体が衝突する部分が衝突部155となる。
【0034】
B.本実施例の液体噴射動作 :
図4は、生物組織Tに液体を噴射する動作を示した断面図である。図4(a)は、流路管150が生物組織Tに対して非接触の状態を示している。図4(b)は、操作者が流路管150を生物組織Tに接触させた状態を示している。流路管150は生物組織への接触に応じて矢印Aの反力を受けているので、先端部材152が弾性変形している。
【0035】
流路管150が生物組織に対して非接触の状態では、図4(a)に示されるように、ノズル162から噴射された液体は、先端部材152の内部で衝突部155に衝突する。また、衝突部155に衝突した液体は、吸引流路158を介して吸引手段400に吸引される。更に、吸引手段400が吸引流路158内の空気や液体を吸引することにより、通過口154からは外部の空気や液体が流れ込んでいるため、衝突部155に衝突した液体が通過口154から外部に流出することはない。尚、圧電素子112が駆動されていない場合でも、液体供給手段300が液体を供給していれば、ノズル162から液体が流出する。このような場合でも、吸引手段400で吸引していれば、通過口154から液体が外部に流出することはない。
【0036】
一方、生物組織Tに液体を噴射する場合には、流路管150の先端に取り付けられた先端部材152を生物組織Tに接触させて、先端部材152を弾性変形させる。先端部材152の先端には通過口154が設けられているから、先端部材152を変形させると、ノズル162から噴射した液体が通過口154を通過するようにすることができる。図4(b)には、ノズル162から噴射された液体が通過口154を通過するように、先端部材152を変形させた様子が示されている。こうすることにより、生物組織Tに液体を噴射して、生物組織Tの切開や切除を行うことができる。また、操作者が生物組織Tから先端部材152を離すと、弾性変形していた先端部材152が元の形状に戻る。その結果、図4(a)に示したように、通過口154から液体が噴射されない状態とすることができる。このように、本実施例の液体噴射装置10では、流路管150の先端に取り付けられた先端部材152を生物組織Tに接触させるか否かによって、生物組織Tに液体を噴射する状態と、噴射しない状態とを速やかに切り換えることができる。
【0037】
尚、以上では、脈動発生部100に設けられたパルス噴射スイッチ120を操作者が操作することによって、圧電素子112の駆動開始あるいは駆動停止を制御するものとして説明した。しかし、上述したように、本実施例の液体噴射装置10では、流路管150の先端を生物組織Tに接触させると生物組織Tに液体を噴射可能となり、流路管150の先端を生物組織Tから離すと生物組織Tに液体を噴射できない状態となる。従って、流路管150の先端に接触センサー(図示せず)を設けておき、接触センサーで生物組織Tへの接触が検知されると、圧電素子112の駆動を開始するようにしても良い。こうすれば、液体噴射装置10の操作者がパルス噴射スイッチ120を操作する必要がなくなるので、手術に際しての操作者の負担を軽減することが可能となる。
【0038】
また、本実施例では、流路管150の先端に取り付けられた先端部材152によって、ノズル162と生物組織Tとの距離が、ほぼ同じ距離に保たれる。この結果、液体噴射装置10の切開能力を一定に保って安定した切除が可能となるので、操作者の負担を軽減することもできる。
【0039】
C.変形例 :
図5は、各種変形例の液体噴射装置10の大まかな構成を示した説明図である。図5(a)に示した変形例1は、吸引管172に対する液体噴射管160aの相対的な位置関係が、上述した実施例と相違する。
【0040】
すなわち、上述した実施例では、吸引管172および先端部材152と、液体噴射管160とが同心位置に設けられていたが、変形例1では、吸引管172に対して液体噴射管160aが偏心して配置されている。液体噴射管160aの偏心は、吸引流路158aの断面積や通過口154aの開口面積を大きくすることができるので、比較的に大きな切除塊等の吸引を円滑化することができる。
【0041】
図5(b)に示した変形例2は、先端部材152bに設けられた通過口154の形状が、上述した実施例と相違する。すなわち、上述した実施例では、衝突部155の近傍に1つの通過口154が形成されていた。従って、生物組織Tに向けて液体を噴射するためには、先端部材152を特定の一方向(図4(b)の矢印Aの方向)に変形させる必要があった。これに対して変形例2の先端部材152bには、衝突部155bを取り囲むように(図示した例では3カ所に)通過口154bが形成されている。このため変形例2では、どのような方向に先端部材152を変形させても、生物組織Tに液体を噴射することが可能となる。
【0042】
図5(c)および図5(d)には、変形例3の先端部材152cが示されている。変形例3の先端部材152cは、先端部材152cが変形することによって、通過口154cの開口面積が大きくなり、その結果、ノズル162から噴射された液体が通過可能となる点で、上述した実施例と相違する。例えば、図5(c)に示した変形例3の先端部材152cでは、先端部材152cの先端側の端面(通過口154cおよび衝突部155cが形成されている端面)が、液体の噴射方向に対して傾斜され、且つ、先端部材152cが変形していない状態では通過口154cが閉じている点で、上述した実施例と相違する。
【0043】
こうすれば、斜めに形成された先端部材152cの端面の先端側を生物組織Tに接触させて、先端部材152cを変形させることで、通過口154cの開口面積を大きくして、生物組織Tに液体を噴射することができる。尚、先端部材152cを変形させて通過口154cの開口面積を大きくすることができるのであれば、先端部材152cの先端側の端面は、必ずしも斜めに形成しなくてもよい。例えば、図5(d)に示したように、先端部材152cの先端側に突部152sを設けておき、この突部152sを生物組織Tに接触させて先端部材152cを変形させることによって、通過口154cの開口面積が大きくなるようにしても良い。また、このような突部152sを突設させる方向は、図5(d)に例示したように液体を噴射する方向に限らず、例えば先端部材152cの側面から、液体の噴射方向とは直交する方向に突設させることも可能である。
【0044】
変形例4の液体噴射装置10dは、図6に示されるように、圧電素子112dがノズル162の近傍の液体噴射管160の内部に設けられている点で、上述した実施例の液体噴射装置10と相違する。一方、変形例5の液体噴射装置10eは、図7に示されるように、レーザー発振器112eを用いて液体を噴射している点で、圧電素子112を用いて液体を噴射とする上述した実施例の液体噴射装置と相違する。また、変形例6の液体噴射装置10fは、図8に示されるように、ヒーター112fおよびヒーター駆動回路113fを用いて液体を噴射している点で、圧電素子112を用いて液体を噴射とする上述した実施例の液体噴射装置と相違する。このように、本発明は、液体を噴射するための駆動方式を問わずに適用することができる。さらに、本発明は、圧電素子その他のアクチュエーターの装備位置に関わらず適用が可能であり、さらにアクチュエーターを装備せず、液体を連続的に噴射する液体噴射装置にも適用可能である。
【0045】
以上、本発明の液体噴射装置について各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
10…液体噴射装置、 100…脈動発生部、 102…入口流路、
104…出口流路、 110…液体室、 112…圧電素子、
112e…レーザー発振器、 112f…ヒーター、
113f…ヒーター駆動回路、 114…ダイアフラム、 116…内部空間、
120…パルス噴射スイッチ、 150…流路管、 152…先端部材、
152s…突部、 154…通過口、 155…衝突部、
156…液体流路、 158…吸引流路、 160…液体噴射管、
162…ノズル、 172…吸引管、 200…制御手段、
300…液体供給手段、 302…第1接続チューブ、
304…第2接続チューブ、 306…液体容器、 400…吸引手段、
402…第3接続チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を供給する液体供給手段に接続チューブを介して接続され、該液体供給手段から供給された液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記液体を噴射するノズルが先端に設けられた液体噴射管と、
前記液体噴射管が内側に挿通され、該液体噴射管との間に吸引流路を形成している吸引管と、
前記吸引流路から前記液体を吸引する吸引手段と、
前記吸引管の先端に取り付けられて、前記ノズルから噴射された液体が通過する通過口が形成され、外力によって変形可能な先端部材と、
を備え、
前記先端部材は、
前記通過口に加えて、前記ノズルから噴射された液体が衝突する衝突部が形成されており、
前記外力によって変形していない状態では、前記ノズルから噴射された液体が前記衝突部に衝突するが、前記外力によって変形すると、前記ノズルから噴射された液体が前記通過口を通過可能となる部材である液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体噴射装置であって、さらに、
容積を変更可能に構成され、前記液体噴射管に接続された液体室と、
前記液体室に前記液体を供給する液体供給手段と、
を備え、
前記液体室の容積を減少させることによって、前記ノズルから前記液体をパルス状に噴射する液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置であって、
前記先端部材の前記通過口は、該先端部材が変形することによって、前記ノズルから噴射された液体が通過しない位置から、該液体が通過可能な位置に変位する通過口である液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の液体噴射装置であって、
前記先端部材の前記通過口は、該先端部材が変形すると開口面積が大きくなって、前記ノズルから噴射された液体が通過可能となる通過口である液体噴射装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の液体噴射装置であって、
前記先端部材は、先端側に突部が形成されており、該突部に前記外力が加わることによって変形する部材である液体噴射装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の液体噴射装置を用いた医療機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−85597(P2013−85597A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226544(P2011−226544)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】