説明

液体噴射装置、及び、液体噴射装置のメンテナンス方法

【課題】液体からの気泡除去性を改善すること。
【解決手段】液体貯留部と、液体貯留部内の圧力を調整する圧力調整手段と、液体貯留部から流出された液体を再び液体貯留部に戻す循環流路と、循環流路内の液体を循環させる循環手段と、循環流路の途中に設けられ、複数のノズル開口から液体を噴射可能なヘッドと、ヘッドのキャップと、ヘッドのノズル開口面にキャップを当接させて複数のノズル開口をそれぞれ独立して封止した状態で、循環手段により循環流路内の液体を循環させる際に、圧力調整手段により液体貯留部内の圧力を大気圧よりも低い圧力に減圧させる制御手段と、を備える液体噴射装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置、及び、液体噴射装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置の一例として、ヘッドに設けられたノズル開口からインク(液体)を噴射させるインクジェットプリンター(以下、プリンター)が知られている。このようなプリンターでは、ノズルと連通し且つインクが充填されたインク室内のインクを加圧することによってノズル開口からインクが噴射される。そのため、ヘッドやインク流路内のインクに気泡が混入してしまうと、インクを適切に加圧することができずに噴射不良を起こしたり、気泡がインクの流れを妨げてヘッドに十分な量のインクを供給することができなかったりしてしまう。
【0003】
そこで、インクを貯留するインクタンクとヘッドを繋ぐインク流路内のインクを循環させて、ヘッドやインク流路内のインクに混入した気泡をインクと共にインクタンクに送るプリンターが提案されている(例えば、特許文献1参照)。インクタンクでは、気泡が液面で弾けて消滅し、インク内から気泡を除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−198403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、インクに混入した微小な気泡はインクの流れに乗り難いため、ヘッドやインク流路内の隅部や狭い隙間などに微小な気泡が滞留してしまう問題があった。また、インクタンクにおいても、微小な気泡は、液面に上昇することなく、インクに混入したままとなる。そうすると、微小な気泡を含むインクが、インクタンクからヘッドやインク流路内に送られてしまう。
そこで、本発明では、液体(インク)からの気泡除去性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する為の主たる発明は、液体を貯留する液体貯留部と、前記液体貯留部内の圧力を調整する圧力調整手段と、前記液体貯留部から流出された液体を再び前記液体貯留部に戻す循環流路と、前記循環流路内の液体を循環させる循環手段と、前記循環流路の途中に設けられ、複数のノズル開口から液体を噴射可能なヘッドと、前記ヘッドのノズル開口面に当接可能なキャップと、前記ヘッドのノズル開口面に前記キャップを当接させて前記複数のノズル開口をそれぞれ独立して封止した状態で、前記循環手段により前記循環流路内の液体を循環させる際に、前記圧力調整手段により前記液体貯留部内の圧力を大気圧よりも低い圧力に減圧させる制御手段と、を備えたことを特徴とする液体噴射装置である。
本発明の他の特徴は、本明細書、及び添付図面の記載により、明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】プリンターの全体構成ブロック図である。
【図2】プリンターの概略上面図である。
【図3】メンテナンスユニットを説明する図である。
【図4】メンテナンス方法を示すフローである。
【図5】図5A及び図5Bはインクに混入した気泡を除去する様子を示す図である。
【図6】変形例におけるインク循環経路を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
===開示の概要===
本明細書の記載、及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかとなる。
【0009】
即ち、液体を貯留する液体貯留部と、前記液体貯留部内の圧力を調整する圧力調整手段と、前記液体貯留部から流出された液体を再び前記液体貯留部に戻す循環流路と、前記循環流路内の液体を循環させる循環手段と、前記循環流路の途中に設けられ、複数のノズル開口から液体を噴射可能なヘッドと、前記ヘッドのノズル開口面に当接可能なキャップと、前記ヘッドのノズル開口面に前記キャップを当接させて前記複数のノズル開口をそれぞれ独立して封止した状態で、前記循環手段により前記循環流路内の液体を循環させる際に、前記圧力調整手段により前記液体貯留部内の圧力を大気圧よりも低い圧力に減圧させる制御手段と、を備えたことを特徴とする液体噴射装置である。
このような液体噴射装置によれば、循環手段及びヘッド内の液体に含まれる気泡を液体貯留部に送り易くすることができ、液体貯留部にて気泡を消滅させ易くすることができる。従って、液体からの気泡除去性を改善することができる。
【0010】
かかる液体噴射装置であって、前記制御手段は、前記循環手段により前記循環流路内の液体を循環させた後に、前記圧力調整手段により前記液体貯留部内の圧力を大気圧よりも高い圧力に加圧させて、前記ノズル開口から液体を噴射させること。
このような液体噴射装置によれば、例えば、ノズルのような微小な空間にも液体を充填することができ、ノズル開口から適正な量の液体を噴射することができる。
【0011】
かかる液体噴射装置であって、前記循環流路は、前記液体貯留部から流出された液体を前記ヘッド内に流入させる往流路と、前記ヘッド内から流出された液体を前記液体貯留部に戻す返流路と、を備えること。
このような液体噴射装置によれば、ヘッド内の液体に含まれる気泡量を減らすことができる。
【0012】
かかる液体噴射装置による液体噴射装置のメンテナンス方法。
このような液体噴射装置のメンテナンス方法によれば、循環手段及びヘッド内の液体に含まれる気泡を液体貯留部に送り易くすることができ、液体貯留部にて気泡を消滅させ易くすることができる。従って、液体からの気泡除去性を改善することができる。
【0013】
===印刷システム===
「液体噴射装置」をインクジェットプリンター(以下、プリンター)とし、プリンターとコンピューターが接続された印刷システムを例に挙げて、実施形態を説明する。
図1は、プリンター1の全体構成ブロック図であり、図2は、プリンター1の概略上面図である。なお、図2では、ヘッドユニット30の上方からヘッド31及びノズル開口の配列を仮想的に示す。
【0014】
コンピューター60は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1に画像を印刷させるための印刷データをプリンター1に出力する。
【0015】
プリンター1内のコントローラー10は、プリンター1における全体的な制御を行うためのものである。インターフェース部11は、外部装置であるコンピューター60との間でデータの送受信を行う。CPU12は、プリンター1の全体的な制御を行うための演算処理装置であり、ユニット制御回路14を介して各ユニットを制御する。メモリー13は、CPU12のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。また、プリンター1内の状況を検出器群50が監視し、コントローラー10はその検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0016】
搬送ユニット20は、用紙、布、フィルム等の被記録媒体(以下、媒体S)を搬送方向の上流側から下流側へ搬送するためのものである。媒体Sは、図2に示すように、搬送ローラー21a,21bによって回転する搬送ベルト22上を、ヘッドユニット30の下面と対向しながら停まることなく一定の速度で搬送される。
【0017】
ヘッドユニット30は、対向する媒体Sに向けてノズル開口からインクを噴射するためのものである。本実施形態のプリンター1では、媒体Sの搬送方向と交差する紙幅方向に並んだ4個のヘッド31(1)〜31(4)がヘッドユニット30の下面に設けられ、各ヘッド31の下面に、イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),ブラック(K)の4色インクを色ごとに噴射するノズル列が設けられている。各ノズル列では、インクを噴射するノズル開口が紙幅方向に所定の間隔おきに並んでいる。また、紙幅方向に並ぶヘッド31に各々設けられたノズル列の端部は重複している。従って、ヘッドユニット30の下面では、多数のノズル開口が紙幅方向に所定の間隔おきに並んでいることになる。
【0018】
ヘッドユニット30の下を搬送方向に移動する媒体Sに向けてノズル開口からインクが噴射されることで、搬送方向に沿う複数のドット列が紙幅方向に並んだ2次元の画像が印刷される。なお、ノズル開口からのインク噴射方式は、駆動素子(ピエゾ素子)に電圧をかけてノズルと連通するインク室を膨張・収縮させることによりインクを噴射させるピエゾ方式でもよいし、駆動素子(発熱素子)によりノズル内に気泡を発生させ、その気泡でインクを噴射させるサーマル方式でもよい。
【0019】
メンテナンスユニット40は、ヘッド31やインク流路内のインクから気泡を除去しつつ、ヘッド31やインク流路内にインクを充填するためのものである(詳細は後述)。
【0020】
===メンテナンス方法===
<<メンテナンスユニット40の構成>>
図3は、メンテナンスユニット40を説明する図である。説明の容易のため、図3では紙幅方向に並ぶヘッド31の端部を重複させずにヘッド31の位置をずらしている。メンテナンスユニット40は、図2に示すように、媒体Sが搬送される印刷領域よりも紙幅方向の奥側(非印刷領域)に位置し、メンテナンス時にはヘッドユニット30が紙幅方向の奥側に移動する。
【0021】
メンテナンスユニット40は、供給ポンプP1と、圧力調整ポンプP2及びそれに接続する空気チューブ46と、循環ポンプP3と、インクを貯留するインクカートリッジ43及びサブタンク45と、インクの流路となる供給チューブ44及び循環チューブ47と、開閉弁431と、インク受け部41と、キャップ42と、廃液タンク48と、を有する。なお、プリンター1には、ヘッド31が吐出可能なインクの色(YMCK)毎に、インクカートリッジ43や循環チューブ47等が設けられているが、メンテナンス方法は色に関係なく同じであるため説明を共通にする。
【0022】
インクカートリッジ43とサブタンク45は供給チューブ44を介して連通し、供給チューブ44の途中に開閉弁431と供給ポンプP1が設けられている。供給ポンプP1の稼働により、インクカートリッジ43内のインクがサブタンク45に供給される。
【0023】
サブタンク45には、循環チューブ47の両端が設けられ、循環チューブ47の途中には、循環ポンプP3と4個のヘッド31(1)〜31(4)が設けられている。循環ポンプP3の稼働により、サブタンク45内のインクは、循環チューブ47内を流れつつ途中でヘッド31内を通過し、再びサブタンク45に戻る。循環チューブ47のうち、サブタンク45から流出されたインクを各ヘッド31に流入させる部位を「往路チューブ47a」と呼び、各ヘッド31から流出されたインクをサブタンク45に戻す部位を「返路チューブ47b」と呼ぶ。つまり、サブタンク45,往路チューブ47a,ヘッド31,返路チューブ47b,サブタンク45の順にインクは循環し、この経路を「インク循環経路」と呼ぶ。なお、循環ポンプP3は、ヘッド31よりもインク循環経路の上流側に位置する。
【0024】
また、サブタンク45の空気層(インク液面の上部)には、圧力調整ポンプP2に接続された空気チューブ46の端部が設けられている。圧力調整ポンプP2は、サブタンク45の空気層から空気を抜き出してサブタンク45内の圧力を大気圧よりも低い圧力に減圧したり、サブタンク45の空気層に空気を供給してサブタンク45内の圧力を大気圧よりも高い圧力に加圧したりする。
【0025】
各ヘッド31には、ノズルNzと、ノズルNz毎に設けられ且つ各ノズルNzと連通するインク室311と、複数のインク室311に連通する共通インク室312と、が設けられている。サブタンク45からのインクは往路チューブ47aを介して各ヘッド31の共通インク室312に供給され、ヘッド31内のインクは共通インク室312から返路チューブ47bを介してサブタンク45に戻される。なお、往路チューブ47aと返路チューブ47bは、それぞれ、4個のヘッド31(1)〜31(4)の各共通インク室312と連通するように途中で分岐している。
【0026】
キャップ42は、略直方体形状の部材(例:弾性部材)であり、ヘッド31毎に設けられている。図2に示すように、ヘッドユニット30における4個のヘッド31(1)〜31(4)の配置に応じて、4個のキャップ42(1)〜42(4)も紙幅方向に並んでいる。従って、メンテナンス時にヘッドユニット30が非印刷領域に移動すると、ヘッド31のノズル開口面(下面)とキャップ42が対向した状態となる。キャップ42は、上下方向に昇降可能であり、ヘッド31のノズル開口面と密着(当接)することができる。ヘッド31のノズル開口面にキャップ42が密着すると、各ノズル開口はそれぞれ独立して封止されて大気と連通しない状態となる。
【0027】
インク受け部41は、メンテナンス時に、ヘッド31のノズル開口面と対向する位置(キャップ42の下方)に設けられ、ヘッド31のノズル開口から噴射されたインクを受けるためのものである。インク受け部41が受けたインクは廃液タンク48に回収される。
【0028】
<<メンテナンス方法>>
図4は、メンテナンス方法を示すフローであり、図5A及び図5Bは、インクに混入した気泡を除去する様子を示す図である。図5Aは、供給チューブ47の隅部に滞留する気泡を示し、図5Bは、サブタンク45内のインクに混入している気泡を示す。
【0029】
プリンター1の使用を長時間に亘って停止する場合、ヘッド31のノズル開口面とキャップ42を密着させることで、ノズル開口からの空気の混入を抑制することができる。しかし、空気の混入を完全に防止することは難しく、長時間に亘って停止したプリンター1では、ヘッド31やインク流路内のインクに気泡(空気)が混入した状態となる。また、インクカートリッジ43などを交換する場合にも、ヘッド31やインク流路内に空気が混入し易い。
【0030】
ヘッド31やインク流路内に気泡が混入していると、気泡がインクの流れを妨げてインク供給が不十分になったり、インク室311内のインクを適切に加圧することが出来ずにノズル開口から正しくインクが噴射されなかったりしてしまう。
【0031】
そこで、本実施形態のプリンター1は、長時間に亘って停止した後(例:一日における運転開始時)や、インクカートリッジ43などを交換した後に、ヘッド31やインク流路内に混入する気泡を除去するメンテナンス処理を実行する。なお、上記のタイミングでメンテナンス処理を実行するに限らず、例えば、印刷処理中に定期的にメンテナンス処理を実行してもよい。また、メンテナンス処理によりヘッド31やインク流路内にインクが充填されるので、例えば、ヘッド31やインク流路を洗浄・交換した後などにインクを初期充填することを目的とした場合にも、メンテナンス処理を実行してもよい。
【0032】
以下、具体的なメンテナンス処理の流れについて説明する。
まず、プリンター1のコントローラー10は、供給チューブ44の途中に設けられた開閉弁431を開いて、供給ポンプP1を稼働し、所定量のインクをインクカートリッジ43からサブタンク45に補充する(S01)。サブタンク44へのインク補充が終了すると、コントローラー10は開閉弁431を閉じて、インクカートリッジ43とサブタンク45の間でのインクの往来を抑制する。
【0033】
次に、コントローラー10は、ヘッド31のノズル開口面とキャップ42の上面を対向させて、その後、キャップ42を上昇させてヘッド31のノズル開口面とキャップ42を密着させる(S02)。その結果、各ヘッド31のノズル開口はそれぞれ独立して封止されて大気と連通しない状態となる。
【0034】
次に、コントローラー10は、循環ポンプP3を稼働し、サブタンク45、ヘッド31、及び、循環チューブ47内のインクを循環する(S03)。具体的には、まず、サブタンク45内のインクが往路チューブ47aを通ってヘッド31に圧送される。そして、ヘッド31内のインクが返路チューブ47bを通ってサブタンク45に圧送される。なお、この時、サブタンク45内の空気層は大気圧となっている。また、ヘッド31のノズル開口面とキャップ42が密着しているため、ノズル開口からのインク漏れが抑制される。
【0035】
このように、サブタンク45、ヘッド31、及び、循環チューブ47内のインクを循環することで、ヘッド31や循環チューブ47内のインクに混入している気泡がインクと共にサブタンク45に送られる。サブタンク45では気泡がインクの液面で弾けて消滅し、サブタンク45内のインクから気泡が除去される。
【0036】
しかし、インクに混入した微小な気泡はインクの流れに乗り難い。そのため、循環ポンプP3でインクを循環するだけでは、図5Aの左図に示すように、ヘッド31や循環チューブ47の隅部や、狭い隙間、部材の接合部などに微小な気泡が滞留してしまう。よって、ヘッド31や循環チューブ47内のインクから十分に気泡を除去することが出来ない。
また、サブタンク45においても、微小な気泡はインクの液面に上昇し難く、図5Bの左図に示すように、微小な気泡がインクに混入したままとなる。そうすると、微小な気泡を含むサブタンク45内のインクが循環チューブ47やヘッド31に送られて、ヘッド31や循環チューブ47内のインクから十分に気泡を除去することが出来ない。
【0037】
そこで、コントローラー10は、次に、圧力調整ポンプP2を稼働してサブタンク45の空気層から空気を抜出し、サブタンク45内の圧力を大気圧よりも低い圧力に減圧する(S04)。つまり、インク循環経路内(サブタンク45,循環チューブ47,ヘッド31)を減圧しつつ、インクを循環する。
【0038】
インク循環経路内を減圧することで、図5Aの右図に示すように、気泡の滞留箇所(隅部,狭い隙間,部材の接合部など)に滞留していた微小な気泡が膨張する。膨張した気泡は微小な気泡よりもインクの流れに乗り易い。そのため、滞留箇所に滞留していた気泡をサブタンク45に送ることができる。よって、ヘッド31や循環チューブ47内のインクに含まれる気泡をより確実に除去することができる。
【0039】
また、サブタンク45内を減圧することで、サブタンク45内のインクに混入していた微小な気泡が膨張する。膨張した気泡は、微小な気泡よりも浮力が大きく、インクの液面に上昇し易い。そのため、サブタンク45内のインクに混入していた気泡を液面にて消滅させることができる。よって、サブタンク45内のインクに含まれる気泡をより確実に除去することができ(消滅させることができ)、気泡を含んだインクがサブタンク45から循環チューブ47やヘッド31に送られてしまうことを防止できる。
【0040】
更に、サブタンク45内を減圧することで、循環ポンプP3でインクを圧送しつつ、サブタンク45にインクを引っ張ることができるため、サブタンク45へのインクの流れを速くすることができる。インク循環経路におけるインクの流速が高まることで、滞留箇所に滞留していた気泡をよりインクの流れに乗せ易くすることができ、ヘッド31や循環チューブ47内のインクに含まれる気泡をより確実に除去することができる。
【0041】
なお、サブタンク45内を減圧するために、圧力調整ポンプP2にサブタンク45内の空気層を減圧させる。そうすることで、圧力調整ポンプP2にインクが流入し、圧力調整ポンプP2が故障してしまうことを防止できる。
【0042】
また、サブタンク45では、往路チューブ47aの端部を、供給チューブ44の端部及び返路チューブ47bの端部よりも、上下方向の下方に位置させる。そうすることで、返路チューブ47b及び供給チューブ44からサブタンク45に流入したインク、即ち、気泡を含むインクを、往路チューブ47aからヘッド31に向けて再び流出させてしまうことを抑制できる。よって、ヘッド31や循環チューブ47内のインクに含まれる気泡をより確実に除去することができる。
【0043】
また、サブタンク45では、返路チューブ47bの端部を、供給チューブ44の端部及び往路チューブ47aの端部よりも、上下方向の上方に位置させる。そうすることで、返路チューブ47bの端部から、気泡を含むインクをインクの液面近くに流出させることができる。よって、返路チューブ47bから流出されるインクに含まれる気泡をインクの液面に上昇させ易くすることができ、気泡を消滅させ易くすることができる。
【0044】
こうして、圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内を減圧しつつ、所定量のインクを循環した後に、コントローラー10は、圧力調整ポンプP2の稼働を停止してサブタンク45内を大気開放し、循環ポンプP3の稼働を停止してインクの循環を停止する(S05)。
【0045】
圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内を減圧しつつ循環するインク量(所定量)を、サブタンク45間を循環する流路体積以上のインク量、即ち、循環チューブ47と4個のヘッド(1)〜31(4)に含まれるインク量以上とする。そうすることで、ヘッド31や循環チューブ47内のインクに滞留していた気泡を膨張させつつサブタンク45に送ることができ、ヘッド31や循環チューブ47内のインクに含まれる気泡をより確実に除去することができる。
【0046】
次に、コントローラー10は、圧力調整ポンプP2を稼働してサブタンク45の空気層に空気を供給し、サブタンク45内の圧力を大気圧よりも高い圧力に加圧する(S06)。そうすると、サブタンク45内のインクが加圧されて、サブタンク45からヘッド31にインクが送られるため、ヘッド31内のインクも加圧される。その後、コントローラー10は、ヘッド31のノズル開口面に密着していたキャップ42を下降させて、ヘッド31とキャップ42を離間させる(S07)。そうすると、圧力調整ポンプP2によりヘッド31内のインクは加圧されていたため、ノズル開口から勢いよくインクが噴射される。コントローラー10は、ノズル開口から所定量のインクを噴射させた後に、圧力調整ポンプP2の稼働を停止する(サブタンク45内を大気開放する)。
【0047】
圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内を減圧しつつ循環ポンプP3によりインクを循環することで、ヘッド31や循環チューブ47内のインクから気泡を除去することができ、ヘッド31や循環チューブ47にインクを充填することができる。しかし、ノズルNzのような微小な空間にはインクが充填され難く、循環ポンプP3によるインク循環後もノズルNz内に気体(気泡)が存在する虞がある。そのため、インク循環後に、圧力調整ポンプP2によりヘッド31内のインクを加圧して、ノズル開口からインクを噴射することで、ノズルNzからインクと共に気体が排出され、ノズルNz内にもインクを充填することができる。
【0048】
ここでは、圧力調整ポンプP2の加圧によりノズル開口から噴射させるインク量を、インクが充填されていない空間の体積以上のインク量、即ち、ノズルNz内に含まれるインク量以上とし、サブタンク45間を循環する流路体積未満のインク量、即ち、循環チューブ47と4個のヘッド(1)〜31(4)に含まれるインク量未満とする。
【0049】
このようなメンテナンス処理(図4)により、ヘッド31及び循環チューブ47内のインクから気泡を除去しつつ、ヘッド31及び循環チューブ47にインクを充填することができる。
【0050】
以上をまとめると、本実施形態のプリンター1は、インク(液体)を貯留するサブタンク45(液体貯留部に相当)と、サブタンク45内の圧力を調整する圧力調整ポンプP2(圧力調整手段に相当)と、サブタンク45から流出されたインクを再びサブタンク45に戻す循環チューブ47(循環流路に相当)と、循環チューブ47内のインクを循環させる循環ポンプP3(循環手段に相当)と、循環チューブ47の途中に設けられ、複数のノズル開口からインクを噴射可能なヘッド31と、ヘッド31のノズル開口面に当接可能なキャップ42と、ヘッド31のノズル開口面にキャップ42を当接させて複数のノズル開口をそれぞれ独立して封止した状態で、循環ポンプP3により循環チューブ47内のインクを循環させる際に、圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内の圧力を大気圧よりも低い圧力に減圧させるコントローラー10(制御手段に相当)と、を備える。
つまり、本実施形態のプリンター1は、インク循環経路内(サブタンク45,循環チューブ47,ヘッド31)を減圧しつつ、インクを循環する。
【0051】
そうすることで、ヘッド31や循環チューブ47内のインクに含まれる気泡を膨張しつつ、サブタンク45へ流れるインクの流速を高めることができる。その結果、気泡が滞留し易い箇所(隅部,狭い隙間,部材の接合部など)に滞留していた微小な気泡が膨張し、インクの流れに気泡を乗せ易くすることができ、より多くの気泡をサブタンク45に送ることができる。
また、サブタンク45内のインクに混入していた微小な気泡を膨張させることができ、膨張した気泡を液面に上昇させて消滅させ易くすることができる。そのため、気泡を含んだインクがサブタンク45から循環チューブ47やヘッド31に送られてしまうことを防止できる。
【0052】
つまり、本実施形態のプリンター1によるメンテナンス方法は、圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内を減圧しないメンテナンス方法に比べて、ヘッド31や循環チューブ47内のインクに含まれる気泡を少なくすることができ、インクからの気泡除去性を改善することができる。
【0053】
また、本実施形態のプリンター1では、コントローラー10が、循環ポンプP3により循環チューブ47内のインクを循環させた後に、圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内の圧力を大気圧よりも高い圧力に加圧させて、ヘッド31とキャップ42の密着を解除し、ヘッド31のノズル開口からインクを噴射させる。なお、ヘッド31とキャップ42の密着を解除した後に、圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内を加圧して、ノズル開口からインクを噴射させてもよい。
そうすることで、インクが充填され難いノズルNzのような微小な空間にもインクを充填することができ、ノズル開口から適正な量のインクを噴射させることができる。
【0054】
また、本実施形態のプリンター1のように、インク循環経路を減圧しつつインクを循環することで、ヘッド31や循環チューブ47にて気泡(気体)が存在する空間、即ち、インクが充填されていない空間を、ノズルNz空間だけにすることができる。そのため、インク循環後に圧力調整ポンプP2の加圧によりノズル開口から噴射させるインク量を、ノズルNz空間の体積程度にすることができる。
【0055】
仮に、圧力調整ポンプP2でサブタンク45内を減圧せずにインクを循環した場合、インク循環後もヘッド31や循環チューブ47内のインクに気泡が残留した状態となってしまう。そのため、インク循環後に圧力調整ポンプP2の加圧によりノズル開口から噴射させるインク量を、サブタンク45間を循環する流路体積以上のインク量(即ち、循環チューブ47と4個のヘッド31に含まれるインク量以上)としなければ、気泡の影響により噴射不良などが発生してしまう。
【0056】
つまり、本実施形態のプリンター1のように、インク循環経路を減圧しつつインクを循環して、より多くの気泡をインクから除去することで、インク循環後に圧力調整ポンプP2の加圧によりノズル開口から噴射させるインク量を削減することができる。即ち、本実施形態のプリンター1では、インク消費量の少ないメンテナンス処理を実行することができる。
【0057】
また、循環チューブ47は、サブタンク45から流出されたインクをヘッド31内に流入させる往路チューブ47a(往流路に相当)と、ヘッド31内から流出されたインクをサブタンク45に戻す返路チューブ47b(返流路に相当)と、を備える。つまり、ヘッド31(共通インク室312)がインク循環経路の一部として構成されている。
【0058】
そのため、ヘッド31よりも上流側の往路チューブ47a内に存在していた気泡がインクと共にヘッド31内に流入したとしても、その気泡を含むインクを返路チューブ47bから流出させて、サブタンク45に戻すことができる。従って、ヘッド31内のインクに含まれる気泡量をより減らすことができ、インク循環後に圧力調整ポンプP2の加圧によりノズル開口から噴射させるインク量を削減することができる。
【0059】
===変形例===
図6は、変形例におけるインク循環経路を説明する図である。前述の実施形態のインク循環経路(図3)では、ヘッド31にインクを流入させる往路チューブ47aとヘッド31からインクを流出させる返路チューブ47bが設けられているが、これに限らない。この変形例のように、循環チューブ47の途中で分岐した分岐チューブ47cにのみヘッド31が連通するインク循環経路でもよい。この場合にも、サブタンク45内のインクをヘッド31に供給しつつ、循環チューブ47内のインクに含まれる気泡をサブタンクに戻すことができる。
【0060】
ただし、この構成の場合には、ヘッド31内のインクに含まれる気泡がサブタンクに戻り難い。そのため、インク循環後に圧力調整ポンプP2でサブタンク45内を加圧して、ヘッド31体積以上のインク量を気泡と共にノズル開口から噴射させるとよい。そうすることで、ヘッド31内のインクに含まれる気泡を除去することができる。
【0061】
また、前述の実施形態では、インクカートリッジ43のインクがヘッド31に供給される前に一度サブタンク45に供給されているが、これに限らない。例えば、サブタンク45を設けることなく、インクカートリッジ43とヘッド31を繋ぐ循環チューブによってインクを循環してもよい。
【0062】
また、前述の実施形態のメンテナンス方法(図4)では、サブタンク45内が大気開放された状態でインクの循環を行った後に、圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内を減圧しているが、これに限らない。例えば、循環ポンプP3によりインクの循環を開始すると同時に、圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内を減圧してもよい。
【0063】
また、前述の実施形態のメンテナンス方法では、循環ポンプP3によりインクの循環を行った後に、圧力調整ポンプP2によりサブタンク45内を加圧して、ノズル開口からインクを噴射させているが、これに限らず、循環ポンプP3によりインクを循環させるだけでもよい。
【0064】
===その他の実施の形態===
上記の実施形態は、主として液体噴射装置について記載されているが、液体噴射装置のメンテナンス方法等の開示が含まれている。また、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【0065】
<液体噴射装置>
前述の実施形態では、液体噴射装置として、インクジェットプリンターを例に挙げているが、これに限らない。例えば、カラーフィルター製造装置、ディスプレイ製造装置、半導体製造装置、及び、DNAチップ製造装置などの液体噴射装置でもよい。
【0066】
<プリンターについて>
前述の実施形態では、固定されたヘッド31の下を媒体Sが通過するプリンター1を例に挙げているが、これに限らない。例えば、所定方向に移動するヘッドからインクを噴射させる動作と、所定方向と交差する方向に媒体を搬送する動作とを、繰り返すプリンターでもよいし、所定方向に移動するヘッドからインクを噴射させる動作と、媒体に対して所定方向と交差する方向にヘッドを移動する動作と、を繰り返すプリンターでもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 プリンター、10 コントローラー、11 インターフェース部、
12 CPU、13 メモリー、14 ユニット制御回路、
20 搬送ユニット、21a 搬送ローラー、21b 搬送ローラー、
22 搬送ベルト、30 ヘッドユニット、31 ヘッド、
40 メンテナンスユニット、P1 供給ポンプ、P2 圧力調整ポンプ、
P3 循環ポンプ、41 インク受け部、42 キャップ、
43 インクカートリッジ、431 開閉弁、44 供給チューブ、
45 サブタンク、46 空気チューブ、47 循環チューブ、
48 廃液タンク、50 検出器群、60 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する液体貯留部と、
前記液体貯留部内の圧力を調整する圧力調整手段と、
前記液体貯留部から流出された液体を再び前記液体貯留部に戻す循環流路と、
前記循環流路内の液体を循環させる循環手段と、
前記循環流路の途中に設けられ、複数のノズル開口から液体を噴射可能なヘッドと、
前記ヘッドのノズル開口面に当接可能なキャップと、
前記ヘッドのノズル開口面に前記キャップを当接させて前記複数のノズル開口をそれぞれ独立して封止した状態で、前記循環手段により前記循環流路内の液体を循環させる際に、前記圧力調整手段により前記液体貯留部内の圧力を大気圧よりも低い圧力に減圧させる制御手段と、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記制御手段は、前記循環手段により前記循環流路内の液体を循環させた後に、前記圧力調整手段により前記液体貯留部内の圧力を大気圧よりも高い圧力に加圧させて、前記ノズル開口から液体を噴射させる、
液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置であって、
前記循環流路は、前記液体貯留部から流出された液体を前記ヘッド内に流入させる往流路と、前記ヘッド内から流出された液体を前記液体貯留部に戻す返流路と、を備える、
液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の液体噴射装置による液体噴射装置のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−43314(P2013−43314A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181293(P2011−181293)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】