説明

液体噴射装置および液体噴射装置における供給液体切り替え方法

【課題】淀んだ液体を早く排出するとともに、排出するまでに噴射する液体の液量を抑制する液体噴射装置および供給液体切り替え方法を実現する。
【解決手段】複数の分岐流路41〜50ごとに対応して設けられた液体室41A〜50Aの内部容積を増減させる容積増減手段29と、各分岐流路における液体室とノズル開口部41k〜50kとの間となる位置に各々設けられ、対応する分岐流路を開閉する流路開閉手段28と、流路開閉手段を駆動させ、複数の分岐流路のうち、第1の下流側流路を開放し、かつ液体供給口からノズル開口部に至るまでの流路を流れるインクの流路抵抗が第1の下流側流路よりも小さい第2の下流側流路を閉鎖したのち、第1の下流側流路及び前記第2の下流側流路に各々設けられた前記容積増減手段を駆動させ、第1の下流側流路及び前記第2の下流側流路における液体室の内部容積を増減させる制御部27と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置および液体噴射装置における供給液体切り替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体噴射装置の一種として、液体噴射ヘッドに設けられたノズルから液体の一種としてのインクを用紙などの媒体に噴射して印刷を行うインクジェット式のプリンターが広く知られている。
【0003】
こうしたプリンターにおいて、液体噴射ヘッドに供給するインク(供給液体)の種類を、例えば噴射対象となる媒体の種類に応じたインクなど、異なる種類のインクに切り替えることが行われることがある。そして、このようなインクの切り替えに際しては、切り替え後に液体噴射ヘッドに設けられたノズルから切り替え前のインクが噴射されないようにするべく、液体噴射ヘッド内の全ノズルについて、各々のノズル開口部に至るまでの流路内に切り替え前のインクが残留しないようにする必要がある。
【0004】
その一つの技術が、例えば特許文献1に提案されている。特許文献1の提案技術では、まず、ノズル列を形成する全ノズルから排出対象となる切り替え前のインクをフラッシングによって噴射させ、液体噴射ヘッド内のインクを切り替え後のインクに置換するようにしている。そして、ノズル列を形成する全ノズルのうち端ノズルについては、インクの置換性が悪い場合もあることを考慮し、この端ノズルからのフラッシングの実行回数を追加することによって更にインクを噴射するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−280175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の提案技術では、端ノズルからの追加したフラッシングによるインクの噴射によって、端ノズルのノズル開口部から切り替え前のインク以外に切り替え後のインクも排出される確率が高くなる。このため、切り替え後のインクにおいて、印刷に用いることなく液体噴射ヘッドから排出されて無駄になってしまうインクが多くなるという課題がある。
【0007】
また、端ノズルに供給されるインクは、ノズル列の中央部分のノズルに供給されるインクよりも、通常、上流側のインク供給口から下流端のノズル開口部に至るまでのインクの流路が長いため流路抵抗が大きく流れにくくなっている。このため、端ノズルにおいては、例えば流路の壁面などに切り替え前のインクが残留し易くなっているとともに、この残留した切り替え前のインクが切り替え後のインクと混ざることによって切り替え後のインクが淀んでいる確率も高い。従って、切り替え前のインクを含む淀んだインクを液体噴射ヘッドから排出するまでに、端ノズルにおいて切り替え後のインクを多量に流さなければならないという課題もある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、液体を供給する流路内から排出対象となる液体を残留させることなく迅速に排出することができるとともに、その排出が完了するまでに必要となる液体の噴射量を抑制することができる液体噴射装置および供給液体切り替え方法を実現することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射装置は、液体供給口から液体が供給される上流側流路と、前記上流側流路から分岐形成され、各々の流路途中に容積可変の液体室を有すると共に、前記液体室よりも下流側に前記液体を噴射するノズル開口部を有する複数の下流側流路と、前記複数の下流側流路ごとに対応して設けられ、対応する下流側流路における前記液体室の内部容積を増減させる容積増減手段と、前記各下流側流路における前記液体室と前記ノズル開口部との間となる位置に各々設けられ、対応する下流側流路を開閉する流路開閉手段と、前記流路開閉手段を駆動させ、前記複数の下流側流路のうち、第1の下流側流路を開放し、かつ前記液体供給口から前記ノズル開口部に至るまでの流路を流れる前記液体の流路抵抗が前記第1の下流側流路よりも小さい第2の下流側流路を閉鎖したのち、前記第1の下流側流路及び前記第2の下流側流路に各々設けられた前記容積増減手段を駆動させ、前記第1の下流側流路及び前記第2の下流側流路における前記液体室の内部容積を増減させる制御部と、を備えた。
【0010】
上記構成によれば、上流側流路から分岐した複数の下流側流路における液体室の内部容積の増減を通じ、各下流側流路のうち、液体供給口からノズル開口部に至るまでの流路抵抗が第1の下流側流路よりも小さい第2の下流側流路へ供給された液体を、第1の下流側流路に流動させることができる。従って、第1の下流側流路の液体室に供給される液体が増加するため、第1の下流側流路内を液体がノズル開口部に向けてより速く流れるようになる。この結果、流路抵抗の大きい第1の下流側流路内において生じる淀んだ液体を液体噴射ヘッドから早く排出できる確率が高くなる。また、第1の下流側流路内から淀んだ液体を排出するまでに当該第1の下流側流路のノズル開口部から噴射することが必要となる液体の噴射量を抑制することができる。
【0011】
本発明の液体噴射装置において、前記制御部は、前記第1の下流側流路と前記第2の下流側流路とにおいて、各々に設けられた前記液体室の内部容積を同時に増減させるように前記容積増減手段を駆動させる。
【0012】
上記構成によれば、第2の下流側流路において液体室の内部容積が減少されることで加圧された液体が第1の下流側流路側に流れるタイミングと、第1の下流側流路において液体室の内部容積が減少されることで液体が加圧されるタイミングとが一致する。従って、第2の下流側流路の液体室において加圧された液体が上流側流路内を経由して第1の下流側流路の液体室に流入するのと同時に第1の下流側流路の液体室において液体が加圧されるので、液体が第1の下流側流路の液体室から上流側流路内に流れることを抑制することができる。この結果、淀んだ液体が第1の下流側流路のノズル開口部から排出され易くなり、ひいては、淀んだ液体を排出完了するまでに第1の下流側流路のノズル開口部から噴射することが必要となる液体の噴射量を抑制することができる。
【0013】
本発明の液体噴射装置において、前記制御部は、前記第1の下流側流路における前記液体室の内部容積が増加するときには、前記第1の下流側流路を閉鎖するように前記流路開閉手段を駆動させる。
【0014】
上記構成によれば、第1の下流側流路において、液体がノズル開口部側から液体室へ流入つまり逆流することが抑制されるので、液体室よりも上流側から液体室へ流入する液体の量を多くすることができる。従って、下流側流路内の淀んだ液体を上流側流路から供給される液体によって、早く排出することができる確率が高くなる。
【0015】
本発明の液体噴射装置において、前記液体供給口に供給する前記液体の種類を切り替える供給液体切替部を有し、前記制御部は、前記供給液体切替部によって前記液体供給口に供給される前記液体の種類が切り替えられたとき、前記流路開閉手段および前記容積増減手段を駆動させる。
【0016】
上記構成によれば、全ての下流側流路におけるノズル開口部から液体を噴射したのち、流路抵抗が相対的に大きい第1の下流側流路について液体の流速を速くして液体を噴射することによって、上流側流路を通じて液体供給口から供給された異なる種類の液体への切り替えが第1の下流側流路において完了するまでの時間を短縮することができる。また、切り替えの際に、第1の下流側流路のノズル開口部から噴射される切り替え後の液体の噴射量を抑制できる確率が高くなる。
【0017】
本発明の液体噴射装置において、前記複数の下流側流路ごとに対応する複数のノズル開口部は、一方向に並んだノズル列を形成し、前記制御部は、前記ノズル列の少なくとも一方の端部側に位置するノズル開口部と対応する下流側流路を前記第1の下流側流路として、前記流路開閉手段および前記容積増減手段を駆動させる。
【0018】
上記構成によれば、その下流端にノズル開口部を各々有した複数の下流側流路に対して液体供給口が1つ設けられている場合は、液体噴射ヘッドにおいて流路抵抗が最も大きい下流側流路は、ノズル列の少なくとも一方の端部に位置するノズル開口部と対応する下流側流路になる確率が高い。従って、ノズル列の端部から所定数の端ノズルと対応する下流側流路を第1の下流側流路として流路開閉手段及び容積増減手段を制御することで、淀んだ液体が排出され易くなり、ひいては淀んだ液体が排出されるまでに噴射することが必要となる液体の噴射量を抑制することができる。
【0019】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射装置における供給液体切り替え方法は、液体供給口から液体が供給される上流側流路と、該上流側流路から分岐形成され、各々の流路途中に容積可変の液体室を有すると共に、該液体室よりも下流側に前記液体を噴射するノズル開口部を有する複数の下流側流路と、を備えた液体噴射装置における供給液体切り替え方法であって、前記液体供給口に供給する前記液体の種類を切り替える切り替えステップと、前記切り替えステップの後に、前記複数の下流側流路のうち、第1の下流側流路を開放し、かつ前記液体供給口から前記ノズル開口部に至るまでの流路を流れる前記液体の流路抵抗が前記第1の下流側流路よりも小さい第2の下流側流路を閉鎖する流路開閉ステップと、前記流路開閉ステップの後に、前記各下流側流路における前記液体室の内部容積を増減させる容積増減ステップと、を備えた。
【0020】
上記方法によれば、液体供給口からノズル開口部に至るまでの流路抵抗が相対的に小さい第2の下流側流路に上流側流路を通じて液体供給口から供給された液体を、液体室の容積変化を利用して、流路抵抗が相対的に大きい第1の下流側流路に流入させることができる。この結果、例えば第の下流側流路の流路中に淀んで存在する切り替え前の液体を第1の下流側流路のノズル開口部から噴射させることができる。従って、第1の下流側流路において上流側流路を通じて液体供給口から供給された異なる種類の液体に切り替わるまでの時間を短縮することができる。また、切り替えの際に、第1の下流側流路のノズル開口部から噴射される切り替え後の液体の噴射量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る実施形態のプリンターの概略構成を示す斜視図。
【図2】(a)(b)は、プリンターが備えるインクの切り替えに関する機構構成図。
【図3】インクの切り替え処理における動作を示すフローチャート。
【図4】(a)(b)はインクの切り替え時において、液体噴射ヘッドにて行われるインクの噴射動作を示す模式図。
【図5】(a)は液体供給口がノズル列の一方の端部に位置する液体噴射ヘッドの模式断面図、(b)は液体供給口がノズル列の中心部に位置する液体噴射ヘッドの模式断面図。
【図6】液体供給口がノズル列の両端部にそれぞれ1つずつ位置する液体噴射ヘッドの模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を、キャップを備えた液体噴射装置の一種であるインクジェット式のプリンター(以下、単に「プリンター」ともいう。)において具体化した実施形態について、以下、図を参照して説明する。なお、以降の説明を容易にするため、図1に示したように、鉛直方向における重力方向を下方向、反重力方向を上方向とする。また、これと交差する方向であって、プリンターに給送された用紙Pが画像の形成時において搬送される搬送方向を前方向、搬送方向と反対方向を後方向とする。さらに鉛直方向および搬送方向の双方と交差する方向であってキャリッジ16が往復移動する方向すなわち走査方向を、前方から見て、それぞれ右方向、左方向と呼ぶことにする。
【0023】
さて、図1に示すように、プリンター11における略矩形箱状をなすフレーム12内の下部には、その長手方向である左右方向に沿って支持台13が延設されるとともに、フレーム12の後方面の下部には紙送りモーター14が設けられている。そして、この紙送りモーター14の駆動を通じて図示しない紙送り機構により、支持台13上にその後方側から用紙Pが給送されるようになっている。
【0024】
フレーム12内における支持台13の上方には、該支持台13の長手方向である左右方向に沿ってガイド軸15が架設されている。このガイド軸15にはその軸線方向において往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。詳しくは、キャリッジ16に左右方向において貫通する支持孔16aが形成されるとともに、この支持孔16aにガイド軸15が挿通されている。
【0025】
フレーム12の後壁内面において上記ガイド軸15の両端の近傍にあたる位置には、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとがそれぞれ回転自在に支持されている。駆動プーリー17aにはキャリッジモーター18の出力軸が連結されるとともに、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとの間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が巻き掛けられている。上記プリンター11は、キャリッジモーター18を駆動することにより、タイミングベルト17を介してキャリッジ16をガイド軸15によってガイドしつつ左右方向において往復移動させることの可能な構造になっている。
【0026】
上記キャリッジ16の下面側には液体噴射ヘッド19が設けられている。この液体噴射ヘッド19には、複数(ここでは10個)のインク噴射用のノズル41N〜50N(図2(a)参照)が設けられている。そして、液体噴射ヘッド19の下面となるノズル形成面19a(図2(a)参照)には、各ノズル41N〜50Nの開口孔であるノズル開口部41k〜50kが一方向に並んだノズル列を形成するように開口形成されている。なお、図2(a)では前から1番目のノズル41Nの開口孔であるノズル開口部41kと前から10番目のノズル50Nの開口孔であるノズル開口部50kのみに符号図示している。
【0027】
一方、キャリッジ16には液体噴射ヘッド19に対して、種類(例えば、色相、彩度、明度(濃度)、組成など)の異なるインク(液体)を供給するためのインクカートリッジ22A,22Bがそれぞれ着脱可能に装着されている。そして、液体噴射ヘッド19に対してインクカートリッジ22Aおよびインクカートリッジ22Bのいずれかのインクが択一的に供給されるように流路を切り替えて供給する供給液体切替部20が、キャリッジ16内に備えられている。この供給液体切替部20によって流路が切り替えられることにより、供給流路20aを介して液体噴射ヘッド19にインクが供給される。そして、供給されたインクは、液体噴射ヘッド19内に形成された液体室41A〜50A(図2参照)において生ずる圧力により、液体噴射ヘッド19の各ノズル41N〜50Nから支持台13上に給送された用紙Pに噴射されるといったように印刷が行われる。
【0028】
また、フレーム12の内部における支持台13よりも右側の領域、すなわち印刷時において使用されない領域(ホームポジション領域)には、液体噴射ヘッド19のクリーニング等のメンテナンスを行うためのキャップ30を有するメンテナンス装置23が設けられている。プリンター11では、液体噴射ヘッド19をホームポジション領域に移動させることによってノズル41N〜50Nのノズル開口部41k〜50kをキャップ30と対峙させ、ノズル41N〜50Nからキャップ30内にインクを強制的に噴射させるフラッシング処理が行われる。なお、キャップ30をノズル形成面19aに対してノズル41N〜50Nのノズル開口部41k〜50kを囲うように当接させるとともにメンテナンス装置23を作動させることによって、ノズルを介して液体噴射ヘッド19内のインクを吸引してクリーニングするクリーニング処理も行われる。
【0029】
次に、プリンター11において液体噴射ヘッド19から噴射されるインクの切り替えに関する構成について、液体噴射ヘッド19の構造を含めて、図2(a)(b)を参照して説明する。
【0030】
図2(a)に示すように、キャリッジ16内に備えられる供給液体切替部20は、インクカートリッジ22Aに収容されたインクAおよびインクカートリッジ22Bに収容されたインクBのうち、いずれか一方のインクを流通させる三方電磁弁からなる切り替え弁を有して構成されている。そして、本実施形態では、供給液体切替部20におけるインクの切り替え動作は、制御部27から出力される制御信号SLによって行われるようになっている。
【0031】
制御部27は、CPUやASICあるいはメモリーなどの電子部品によって構成された電気回路を有する基板であり、キャリッジ16またはプリンター11のフレーム12に取り付けられている。なお、制御部27は、メモリーに格納されたプログラムなどのソフトウエアや、電気回路に組み込まれたロジックなどのハードウエアなどによってインクの切り替えに伴う動作を司る。なお、制御部27は、プリンター11において他の動作(例えば印刷処理やクリーニング処理など)を司るようになっていてもよい。
【0032】
さて、供給液体切替部20において上流側から下流側へ流通するように切り替えられたインクは、液体噴射ヘッド19の上面側に設けられた液体供給口25から液体噴射ヘッド19内に形成されたリザーバー26に流入するようになっている。そして、リザーバー26内に流入したインクは、リザーバー26から更に下流側へ複数に分岐形成された各分岐流路(図2(a)では前から1番目のノズル41Nを含む1番目の分岐流路41と前から10番目のノズル50Nを含む10番目の分岐流路50のみに符号図示)41〜50内に流入するようになっている。また、各分岐流路41〜50の途中にはリザーバー26から各分岐流路41〜50内に流入したインクを一時的に貯留可能な液体室41A〜50Aが各々形成されている。そして、各液体室41A〜50Aに流入したインクは、各分岐流路41〜50の下流側部分である各ノズル41N〜50Nを通じて液体噴射ヘッド19外へ噴射されるようになっている。
【0033】
従って、本実施形態においては、リザーバー26が液体供給口25からインクが供給される上流側流路として機能するとともに、各分岐流路41〜50が流路途中に液体室41A〜50Aを有すると共に該液体室41A〜50Aよりも下流側にノズル開口部41k〜50kを有する下流側流路として機能する。そして、これらの液体供給口25からリザーバー26を介して各分岐流路41〜50におけるノズル開口部41k〜50kに至るまでの流路形状の違いなどに起因して生ずる流路抵抗に応じて、各ノズル41N〜50Nに対して供給されるインクの流れ方(例えば流速)がそれぞれ異なることになる。すなわち、液体噴射ヘッド19には、大別すると、液体供給口25からリザーバー26を経由して各分岐流路41〜50のノズル開口部41k〜50kに至るまでの流路における流路抵抗が、相対的に大きい分岐流路(これを「第1の下流側流路」と呼ぶ)と相対的に小さい分岐流路(これを「第2の下流側流路」と呼ぶ)とが存在することになる。
【0034】
また、各分岐流路41〜50におけるノズル開口部41k〜50kと液体室41A〜50Aとの間となる各位置には、制御部27から出力される電圧信号S1によって駆動され、各々の分岐流路41〜50を閉鎖または開放する流路開閉手段28が、それぞれ同様に設けられている。また、各液体室41A〜50Aと個別に対応する位置には、制御部27から出力される電圧信号S2によって駆動され、対応する液体室41A〜50A内の容積つまり内部容積を増加および減少させる容積増減手段29が、それぞれ同様に設けられている。この流路開閉手段28および容積増減手段29の構成について、前から3番目のノズル43Nおよび液体室43Aを含む分岐流路43を一例として、図2(b)を参照して説明する。なお、図2(b)は、図2(a)において一点鎖線で囲んだ領域を示している。
【0035】
図2(b)に示すように、流路開閉手段28は、分岐流路43におけるノズル開口部43kと液体室43Aとの間となる位置に設けられるとともに、一方向(ここでは上下方向)に伸長および収縮する板状部材により構成されている。そして、流路開閉手段28は、その一端部(ここでは上端部)が、液体噴射ヘッド19において、板状部材が伸長および収縮したときの変位が生じ難い剛性の高い部分に固定され、他端部(ここでは下端部)が分岐流路43内におけるノズル開口部43kと液体室43Aとの間となる位置に進入することによって、分岐流路43を閉鎖または開放するようになっている。
【0036】
具体的に、本実施形態では流路開閉手段28は電歪性を有する圧電材料で形成され、制御部27から出力される電圧信号S1に応じて伸長することによって下端部が下方に移動し、分岐流路43を閉鎖するように構成されている。あるいは、制御部27から出力される電圧信号S1に応じて収縮することによって下端部が上方に移動し、分岐流路43を開放するように構成されている。
【0037】
なお、本実施形態では、流路開閉手段28の下端部にはシール部28aが形成され、同じく分岐流路43内においてシール部28aと上下方向で対向する位置に設けられたシール部43aと当接するようになっている。流路開閉手段28は、このシール部28aとシール部43aとの当接によって、液体室43Aからノズル開口部43kへインクが流れないように、分岐流路43を閉鎖するようになっている。シール部28a,43aの材料としては、例えば圧縮変形可能な弾性部材や、比較的柔らかい金属材料など、当接したときに互いに密着性の良い材料が採用可能である。
【0038】
また、図2(b)に示すように、容積増減手段29は、液体噴射ヘッド19内に設けられ、一方向(ここでは上下方向)に伸長および収縮する板状部材により構成されている。そして、容積増減手段29は、その一端部(ここでは上端部)が液体噴射ヘッド19において板状部材が伸長および収縮したときの変位が生じ難い剛性の高い部分に固定され、他端部(ここでは下端部)が液体室43Aを形成する一部の壁部(ここでは上壁部)において上下方向に変位可能に形成された薄板壁39のほぼ中央に固定されている。
【0039】
具体的に、本実施形態では、容積増減手段29は電歪性を有する圧電材料で形成され、制御部27から出力される電圧信号S2に応じて上下方向に伸長または収縮するようになっている。従って、電圧信号S2に応じて、容積増減手段29が伸長したときは薄板壁39が下方に凸状態となることによって液体室43Aの内部容積が減少し、容積増減手段29が収縮したときは薄板壁39が上方に凸状態となることによって液体室43Aの内部容積が増加するようになっている。なお、薄板壁39は、別体の薄板が、その周辺を液体噴射ヘッド19に密着固定された状態で形成された構成も採用できる。
【0040】
そこで次に、液体噴射ヘッド19から噴射されるインクの切り替えに関して、このように構成されたプリンター11において実行されるインクの切り替え処理に伴う作用(動作)について、図3を参照して説明する。なお、この切り替え処理は、液体噴射ヘッド19をホームポジション領域に移動させノズル41N〜50Nのノズル開口部41k〜50kをキャップ30と対峙させた状態で行われるようになっている。
【0041】
図3に示すように、インク切り替え処理が開始すると、まず供給液体切替部20の切り替え弁を制御してインクを切り替える(ステップS1)。すなわち、制御部27は、制御信号SLを出力してインクカートリッジ22AのインクAおよびインクカートリッジ22BのインクBのいずれか一方のインクが供給液体となるように流路を切り替える(切り替えステップ)。ここでは、供給液体を切り替え前のインクAから切り替え後のインクBに切り替えるものとする。
【0042】
次に、各分岐流路41〜50を開放する(ステップS2)。すなわち、制御部27は、電圧信号S1を出力して各流路開閉手段28を収縮させ、全てのノズル41N〜50Nと対応する全ての分岐流路41〜50を開放する。
【0043】
次いで、各液体室41A〜50Aの内部容積を同時に増減させて、所定量のインクを各ノズル41N〜50Nから噴射させる(ステップS3)。すなわち、制御部27は、電圧信号S2を出力して、各ノズル41N〜50Nと対応した液体室41A〜50Aにおける各々の容積増減手段29が収縮と伸長とを交互に所定回数繰り返すように制御する。一例として、ノズル43N及び液体室43Aが設けられた分岐流路43での作用を具体的に説明する。
【0044】
図2(b)に示したように、電圧信号S2によって容積増減手段29が収縮して液体室43Aの内部容積が増加すると、リザーバー26側からインク(ここではインクA)が分岐流路43内の一部である液体室43Aに供給される。そして、続いて電圧信号S2によって容積増減手段29が伸長して液体室43Aの内部容積が減少すると、液体室43A内のインクは加圧されることになる。この加圧によって、リザーバー26側に戻るインク以外のインクは、ノズル開口部43kから噴射される。従って、容積増減手段29が収縮と伸長を交互に所定回数繰り返すことによって、ノズル開口部43kから所定量のインクが噴射される。なお、本実施形態では、この噴射によって、インクAが液体噴射ヘッド19から排出され、全ての分岐流路41〜50のうち、少なくとも第2の下流側流路となる分岐流路(例えば、液体供給口25からの距離が相対的に短い分岐流路など)についてインクAからインクBへの切り替えが完了した状態となるように、噴射すべきインクの液量(噴射量)が所定量として設定されている。
【0045】
図3に戻り、次に、第2の下流側流路となる分岐流路を閉鎖する(ステップS4)。すなわち、制御部27は、電圧信号S1を出力して流路開閉手段28を伸長させ、各分岐流路41〜50のうち相対的に流路抵抗の小さい第2の下流側流路となる分岐流路を閉鎖する(流路開閉ステップ)。
【0046】
次いで、各液体室41A〜50Aの内部容積を増減させて、第1の下流側流路となる分岐流路(例えば、液体供給口25からの距離が相対的に長い分岐流路など)から所定量のインクを噴射させる(ステップS5)。すなわち、制御部27は、全ての分岐流路41〜50の液体室41A〜50Aごとの各容積増減手段29に対して電圧信号S2を出力して、各容積増減手段29が収縮と伸長とを交互に所定回数繰り返すように制御する(容積増減ステップ)。
【0047】
ステップS4とステップS5での作用について、図4(a)(b)を参照して具体的に説明する。なお、ここでは、図2(a)に示すようにリザーバー26における液体供給口25からノズルまでのインクの流路長に応じて、ノズル41N,42Nが相対的に流路抵抗の大きい第1の下流側流路のノズルであって、他のノズル43N〜50Nが相対的に流路抵抗の小さい第2の下流側流路のノズルであるものとする。そして、第1の下流側流路のノズルと第2の下流側流路のノズルとを代表して、それぞれノズル42Nとノズル43Nとについて説明する。
【0048】
図4(a)に示すように、相対的に流路抵抗が大きい第1の下流側流路の一例である分岐流路42は流路開閉手段28が収縮しているため、その流路が開放されている。一方、相対的に流路抵抗が小さい第2の下流側流路の一例である分岐流路43は流路開閉手段28が伸長しているため、その流路が閉鎖されている。この状態で、ノズル42Nを含む分岐流路42において容積増減手段29が収縮して液体室42Aの内部容積が増加すると、ノズル開口部42k側から引き込まれる一部のインクf2を除く大半のインクF2が、リザーバー26側から液体室42Aに供給される。一方、ノズル43Nを含む分岐流路43において容積増減手段29が収縮して液体室43Aの内部容積が増加すると、この増加分に相当するインクF3(ここではインクB)が、全てリザーバー26側から液体室43Aに供給される。
【0049】
続いて、図4(b)に示すように、ノズル43Nを含む分岐流路43において容積増減手段29が伸長して液体室43Aの内部容積が減少すると、この減少によって液体室43A内のインクは加圧される。すると加圧された液体室43A内のインクは、分岐流路43における液体室43Aよりも下流側が閉鎖されているため、液体室43Aの内部容積の減少分に相当する液量のインクF4が全て上流側となるリザーバー26側へ流出する。一方、ノズル42Nを含む分岐流路42において容積増減手段29が伸長して液体室42Aの内部容積が減少することによって液体室42A内のインクが加圧されると、一部のインクf5はリザーバー26側に流出しようとする。このとき、ノズル43Nを含む分岐流路43の液体室43Aからリザーバー26に流出したインクF4に伴って、ノズル42Nを含む分岐流路42の液体室42Aに対してリザーバー26側から流入するインクF5(ここではインクB)が発生することになる。
【0050】
すなわち、液体室43Aよりも下流側が閉鎖されたノズル43Nを含む分岐流路43からリザーバー26側に流出したインクF4は、物理的に液体室42Aよりも下流側が開放された分岐流路42のノズル42Nから流出するように流れる。この結果、液体室42Aからリザーバー26側へ流れる(逆流する)インクf5を押し返すようにして液体室42Aに流入するインクF5が発生する。従って、この発生するインクF5の流入によってリザーバー26内を液体室42Aに向かって流れるインクが増加する。
【0051】
一方、容積増減手段29の伸長によって加圧された液体室42A内のインクは、流入するインクF5によってリザーバー26側に流れることなく、その内部容積の減少分のインク全てがノズル開口部42k側に流れることになる。従って、液体室42A内のインクはリザーバー26側へ逆流しないことから流速を増したインクF1となってノズル開口部42kから噴射してノズル42Nから排出される。
【0052】
そして、液体室42Aと液体室43Aとにおいて、容積増減手段29が収縮と伸長とを交互に所定回数繰り返すことによって、液体室42Aよりも下流側が開放された分岐流路42のノズル42Nから所定回数、流速を増すようにしてインクが噴射されて排出される。すなわち、リザーバー26における流路抵抗が相対的に大きい第1の下流側流路となる分岐流路(この場合、分岐流路41,42)におけるノズル41N,42Nから、所定量のインクが排出される。
【0053】
この所定量のインクの排出において、例えば、リザーバー26において相対的に大きい流路抵抗を呈する流路部分26aにおいて残留する淀んだインク(図中網掛け部分)が、液体室42Aに流入するインクB(インクF5)に伴って液体室42Aに流入する。そして、ノズル42Nから排出されることによって、ノズル42Nを含む分岐流路42内においてインクAからインクBへの切り替えが完了する。換言すれば、ノズル42Nを含む分岐流路42内において淀んだインクが残留しない状態となるまでにノズル開口部42kから噴射すべきインクの液量(噴射量)が所定量として設定されている。
【0054】
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)リザーバー26から分岐した複数の分岐流路41〜50における液体室41A〜50Aの内部容積の増減を通じ、各分岐流路41〜50のうち、液体供給口25からノズル開口部41k〜50kに至るまでの流路抵抗が分岐流路41,42(第1の下流側流路)よりも小さい分岐流路43〜50(第2の下流側流路)へ供給されたインクを、分岐流路41,42(第1の下流側流路)に流入させることができる。従って、分岐流路41,42の液体室41A,42Aに供給されるインクが増加するため、分岐流路41,42内をインクがノズル開口部(41k等)に向けてより速く流れるようになる。この結果、流路抵抗の大きい分岐流路41,42において生じる淀んだインクを液体噴射ヘッド19から早く排出できる確率が高くなる。また、流速が速くなることによって、例えば流路内で流れが遅くなる場所に存在する淀んだインクが流れ易くなるため、こうした淀んだインクを排出するまでに当該分岐流路41,42のノズル41N,42Nから噴射することが必要となるインクの噴射量を抑制することができる。
【0055】
(2)分岐流路43(第2の下流側流路)において液体室43Aの内部容積が減少されることで加圧されたインクが、分岐流路42(第1の下流側流路)側に流れるタイミングと、分岐流路42において液体室42Aの内部容積が減少されることでインクが加圧されるタイミングとが一致する。従って、分岐流路43の液体室43Aにおいて加圧されたインクがリザーバー26(上流側流路)内を経由して分岐流路42の液体室42Aに流入するのと同時に分岐流路42の液体室42Aにおいてインクが加圧されるので、インク液体が分岐流路42の液体室42Aから上流側流路内に流れることを抑制することができる。この結果、淀んだ液体が分岐流路42(第1の下流側流路)のノズル開口部42kから排出され易くなり、ひいては、淀んだインクを排出完了するまでに分岐流路42(第1の下流側流路)のノズル開口部42kから噴射することが必要となるインクの噴射量を抑制することができる。
【0056】
(3)全ての分岐流路41〜50におけるノズル開口部41k〜50kからインクを噴射したのち、流路抵抗が相対的に大きい分岐流路41,42(第1の下流側流路)についてインクの流速を速くしてインクを噴射する。これによって、リザーバー26を通じて液体供給口25から供給された異なる種類のインクへの切り替えが分岐流路41,42において完了するまでの時間を短縮することができる。また、切り替えの際に、分岐流路41,42のノズル開口部41k,42kから噴射される切り替え後のインクの噴射量を抑制できる確率が高くなる。
【0057】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、複数のノズル41N〜50Nが液体噴射ヘッド19において一方向に並んで配列されたノズル列を構成している場合、制御部27は、ノズル列の少なくとも一方の端部側に位置するノズル、すなわち端ノズルを第1の下流側流路のノズルとして制御するようにしてもよい。この変形例について、図5(a)(b)を参照して説明する。
【0058】
図5(a)に示すように、液体供給口25がリザーバー26の端部(後端)に設けられている場合は、液体供給口25からインクの上流側流路となるリザーバー26を経由してノズル開口部に到るまでの流路において、流路抵抗が最も小さくなるノズルはノズル50Nであり、流路抵抗が最も大きくなるノズルはノズル41Nである。このような場合は、液体供給口25が設けられた側と反対側のリザーバー26の端部(前端)に形成されたノズル41Nを含め、このノズル41Nから配列順に所定数のノズル(すなわち端ノズル)を第1の下流側流路のノズルとするとともに、残りのノズルを第2の下流側流路のノズルとする。なお、第1の下流側流路ルのノズルと第2の下流側流路のノズルとの数量比は1対5ないしその前後の比率が好ましいという結果を得た。すなわち、本変形例においては、10個のノズル41N〜ノズル50Nのうち、2個のノズル41N,42Nを第1の下流側流路のノズルとし、8個のノズル43N〜ノズル50Nを第2の下流側流路のノズルとして、制御部27によってインクの切り替え処理を行うことが好ましい。
【0059】
あるいは、図5(b)に示すように、液体供給口25がリザーバー26のほぼ中央に設けられている場合は、液体供給口25からインクの上流側流路となるリザーバー26を経由してノズル開口部に到るまでの流路において、流路抵抗が最も大きくなるノズルはノズル41Nおよびノズル50Nになる。このような場合は、リザーバー26の両端部に形成されたノズル41Nとノズル50Nを含め、ノズル41Nから、あるいはノズル50Nから、配列順にそれぞれ所定数のノズル(端ノズル)を第1の下流側流路のノズルとするとともに、残りのノズルを第2の下流側流路のノズルとする。なお、第1の下流側流路のノズルと第2の下流側流路のノズルとの数量比は1対5の比率が好ましいことから、本変形例においては、ノズル41Nとノズル50Nとを第1の下流側流路のノズルとし、他のノズル42N〜49Nを第2の下流側流路のノズルとして、制御部27はインクの切り替え処理を行うことが好ましい。
【0060】
なお、上記変形例の説明から明らかなように、液体供給口25が図2(a)に示すように設けられている上記実施形態の場合は、ノズル41Nおよびノズル42Nの端ノズルが第1の下流側流路のノズルとなり、ノズル43N〜50Nが第2の下流側流路のノズルとなる。
【0061】
上記変形例によれば、上記実施形態における効果(1)〜(3)に加えて次の効果を奏する。
(4)その下流端にノズル開口部41k〜50kを各々有した複数の下流側流路(分岐流路41〜50)に対して液体供給口25が1つ設けられている場合は、液体噴射ヘッド19において流路抵抗が最も大きい下流側流路は、ノズル列の少なくとも一方の端部に位置するノズル開口部と対応する分岐流路になる確率が高い。従って、ノズル列の端部から所定数の端ノズルと対応する分岐流路を第1の下流側流路として流路開閉手段28及び容積増減手段29を制御することで、淀んだインクが排出され易くなり、ひいては淀んだインクが排出されるまでに噴射することが必要となるインクの噴射量を抑制することができる。
【0062】
・上記実施形態において、液体供給口25が複数設けられている場合は、制御部27は、必ずしも端ノズルを第1の下流側流路のノズルとして制御しなくてもよい。例えば、図6に示すように、液体供給口25がリザーバー26の両端にそれぞれ1つ(合計2つ)設けられている場合、2つの液体供給口25のいずれに対してもリザーバー26の流路が長いノズルが、相対的に流路抵抗の大きなノズルと考えられる。従って、このような場合は、図6に示すように、端ノズルではなく、ノズル列における中央のノズル45N,46Nを第1の下流側流路のノズルとし、ノズル41N〜44N、およびノズル47N〜50Nを第2の下流側流路のノズルとすることが好ましい。
【0063】
なお、本変形例において更に複数(3つ以上)の液体供給口25が設けられた場合、同様に、複数の液体供給口25のいずれに対してもリザーバー26の流路が長いノズルが、相対的に流路抵抗の大きなノズルと考え、これを第1の下流側流路のノズルとすればよい。
【0064】
・上記実施形態において、制御部27は、容積増減手段29を同時に伸縮させなくてもよい。例えば、図4(b)において、分岐流路43の液体室43Aからリザーバー26に流出したインクF4に伴って、分岐流路42の液体室42AにインクF5が流入するまでに時間差が存在する場合がある。このような場合は、この時間差を考慮して、分岐流路43(第2の下流側流路)における容積増減手段29の伸縮動作に対して分岐流路42(第1の下流側流路)における容積増減手段29の伸縮動作を遅らせるように制御することが好ましい。
【0065】
・上記実施形態において、制御部27は、容積増減手段29が収縮するとき、流路開閉手段28を伸長させて、分岐流路42(第1の下流側流路)を閉鎖するようにしてもよい。こうすれば、分岐流路42において、インクがノズル開口部42k側から液体室42Aへ流入つまり逆流することが抑制されるので、液体室42Aよりも上流側から液体室42Aへ流入するインクの量を多くすることができる。従って、分岐流路42内の淀んだインク液体をリザーバー26から供給されるインクによって、早く排出することができる確率が高くなる。
【0066】
・上記実施形態において、制御部27は、インクの切り替え時に限らず、複数のノズル41N〜50Nについて、図3に示したインク切り替え処理を実行するようにしてもよい。例えば、流路抵抗の大きな第1の下流側流路については、通常の印刷動作においてインクの流動性が悪くインクが切り替えられずに淀んでいる場合がある。このような場合、インク切り替え処理を実行することによって、リザーバー26に残留する淀んだインクを早く排出させることができる。
【0067】
・上記実施形態において、制御部27は、第1の下流側流路のノズル以外のノズルを全て第2の下流側流路のノズルとして制御しなくてもよい。例えば、第1の下流側流路のノズルに隣接する所定数のノズル(例えば第1の下流側流路のノズルと同数のノズル)を第2の下流側流路のノズルとして制御するようにしてもよい。要は、上述したように、第1の下流側流路のノズル対応する上流側流路(リザーバー26)において、インクの流速が増すようになればよい。
【0068】
・上記実施形態において、プリンター11は、インクカートリッジ22A,22Bをキャリッジ16に搭載しないオフキャリッジのプリンターとしてもよい。また、切り替えるインクカートリッジも2つ以上の複数個備えることとしてもよい。
【0069】
・上記実施形態において、容積増減手段29は必ずしも電歪性を有する圧電材料で形成されなくてもよい。液体室の内部容積を増加および減少させることができる構成であれば、他の構成であっても容積増減手段29として採用できる。例えば、電圧信号S2によって発熱する発熱素子を用いて容積増減手段29を構成してもよい。すなわち発熱によって発生する気泡によって液体室の内部容積を増加および減少させるようにすることが可能である。
【0070】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式のプリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具体化してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。あるいは、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
11…液体噴射装置としてのプリンター、19…液体噴射ヘッド、20…供給液体切替部、25…液体供給口、26…上流側流路としてのリザーバー、27…制御部、28…流路開閉手段、29…容積増減手段、41〜50…下流側流路としての分岐流路、41N〜50N…ノズル、41A〜50A…液体室、41k〜50k…ノズル開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体供給口から液体が供給される上流側流路と、
前記上流側流路から分岐形成され、各々の流路途中に容積可変の液体室を有すると共に、前記液体室よりも下流側に前記液体を噴射するノズル開口部を有する複数の下流側流路と、
前記複数の下流側流路ごとに対応して設けられ、対応する下流側流路における前記液体室の内部容積を増減させる容積増減手段と、
前記各下流側流路における前記液体室と前記ノズル開口部との間となる位置に各々設けられ、対応する下流側流路を開閉する流路開閉手段と、
前記流路開閉手段を駆動させ、前記複数の下流側流路のうち、第1の下流側流路を開放し、かつ前記液体供給口から前記ノズル開口部に至るまでの流路を流れる前記液体の流路抵抗が前記第1の下流側流路よりも小さい第2の下流側流路を閉鎖したのち、前記第1の下流側流路及び前記第2の下流側流路に各々設けられた前記容積増減手段を駆動させ、前記第1の下流側流路及び前記第2の下流側流路における前記液体室の内部容積を増減させる制御部と、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置において、
前記制御部は、前記第1の下流側流路と前記第2の下流側流路とにおいて、各々に設けられた前記液体室の内部容積を同時に増減させるように前記容積増減手段を駆動させることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体噴射装置において、
前記制御部は、前記第1の下流側流路における前記液体室の内部容積が増加するときには、前記第1の下流側流路を閉鎖するように前記流路開閉手段を駆動させることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記液体供給口に供給する前記液体の種類を切り替える供給液体切替部を有し、
前記制御部は、前記供給液体切替部によって前記液体供給口に供給される前記液体の種類が切り替えられたとき、前記流路開閉手段および前記容積増減手段を駆動させることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記複数の下流側流路ごとに対応する複数のノズル開口部は、一方向に並んだノズル列を形成し、
前記制御部は、前記ノズル列の少なくとも一方の端部側に位置するノズル開口部と対応する下流側流路を前記第1の下流側流路として、前記流路開閉手段および前記容積増減手段を駆動させることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
液体供給口から液体が供給される上流側流路と、該上流側流路から分岐形成され、各々の流路途中に容積可変の液体室を有すると共に、該液体室よりも下流側に前記液体を噴射するノズル開口部を有する複数の下流側流路と、を備えた液体噴射装置における供給液体切り替え方法であって、
前記液体供給口に供給する前記液体の種類を切り替える切り替えステップと、
前記切り替えステップの後に、前記複数の下流側流路のうち、第1の下流側流路を開放し、かつ前記液体供給口から前記ノズル開口部に至るまでの流路を流れる前記液体の流路抵抗が前記第1の下流側流路よりも小さい第2の下流側流路を閉鎖する流路開閉ステップと、
前記流路開閉ステップの後に、前記各下流側流路における前記液体室の内部容積を増減させる容積増減ステップと、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置における供給液体切り替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−200948(P2012−200948A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66385(P2011−66385)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】