説明

液体噴射装置

【課題】対象物より反射して戻る超音波振動を原因とする超音波振動子の特性変化という現象に対して、根本的な解決策を提供する。
【解決手段】内部に有する液室108に振動輻射面106aが接するように超音波振動子106を内蔵するケーシング102の液室108に給液パイプ(供給口配管110、給液用配管203)を介してクーラント201を供給し、液室108に連通するようにケーシング102に形成されたノズル107からクーラント201を噴射させ、この際、超音波発振回路によって超音波振動子106を駆動してノズル107から噴射されるクーラント201に超音波振動を重畳させる。そして、超音波振動子106を駆動するための超音波発振回路の出力に基づいて超音波振動中の超音波振動子106の特性(例えばインピーダンス)を測定するに際して、ノズル107から吐出されるクーラント201の流れに別経路からの液体を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動を重畳させたクーラントなどの液体を、対象物に向けて噴出させてこの液体に重畳する超音波振動エネルギーにより精密研削、精密切削及び放電加工などの精密機械加工における加工性能を向上させ、あるいは精密洗浄における洗浄性能を向上させるようにした液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の超音波振動重畳クーラントによる液体噴射装置として、例えば、特許文献1にその一例が示されている。図6は、そのような液体噴射装置の構成を示す縦断側面図である。液体噴射装置は、液体噴射装置を構成するノズル装置1と回転研削砥石2とからなり、工作物3を研削加工する。ノズル装置1のケーシング4には、ディスク状の超音波振動子5が水密的に内蔵されており、液体供給口6より矢印の方向に流入したクーラントなどの加工液は、回転する研削砥石2による工作物3の研削点8に向かってノズル7から噴出する。そこで、図示しない超音波発振器より超音波振動子5にメガヘルツ帯域の超音波電力を印加すると、ケーシング4内の加工液に超音波振動が輻射されてノズル7より超音波振動エネルギーが重畳した加工液が噴出する。これにより、クーラント液使用量の低減、加工面性状の向上、工具磨耗の抑制、研削抵抗の低減、加工能率の向上などの効果が現われる。
【0003】
このようなノズル装置1において、その噴出液流の方向は、機械加工装置の構成上、水平または下向きになることが多い。そのため、加工作業中に、液中に混入しているエアーがケーシング4内で分離して、浮力によって超音波振動子5に向かって上って行き、超音波振動子5の振動輻射面に接して内部に滞留する。また、与える振動エネルギーが大きくなると、ノズル7より噴出する液体からミストの発生とともに液流の流れに乱れが生じて、ノズル7よりエアーを少しずつ内部に巻き込んで、時間の経過に伴い超音波振動子5の振動輻射面へのエアーの滞留を助長することになる。このような要因によりエアーが内部に滞留すると、超音波振動子5における超音波振動の輻射が妨げられるだけでなく、超音波振動子5は液体と非接触となって無負荷となる。その結果、超音波振動子5が異常に強く振動してしまったり、異常発熱して劣化、破損に至ったりしてしまう。
【0004】
そこで、従来、超音波振動子の振動輻射面に接してエアーが滞留しているかどうかを検出するための技術が普及している。例えば、特許文献1には、超音波振動子を励振させる発振回路(超音波発振回路)の発振信号に基づいて超音波振動子と液体との接触状態を検出するようにした発明が記載されている。このような手法だけでなく、超音波振動子を超音波振動させる超音波発振回路での駆動電圧と駆動電流とのインピーダンスを算出してその値に基づき超音波振動子と液体との接触状態を検出するようにした技術も従来から知られている。
【0005】
なお、特許文献3には、液室の上部における超音波振動子の振動輻射面に接する位置の近傍に設けた導通孔とノズルの近くに設けた導通孔とをバイパスパイプで接続した発明が開示されている。このような発明によれば、超音波振動子に接するエアーがバイパスパイプを介してノズルに引き込まれ、超音波振動子の振動輻射面に接するエアー溜りが除去される。しかしながら、このような構造を採用したとしても、バイパスパイプの詰り等によって、超音波振動子の振動輻射面に接するエアー溜りを完全に除去できるわけではない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−351599公報
【特許文献2】特開平10−180187号公報
【特許文献3】特開平08−117712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液体噴射装置は、図6に基づいて前述したように、工作物等の対象物に向けてノズルからクーラント等の液体を噴出して使用される。このため、ノズルから噴射した液体に重畳される超音波振動が対象物より反射して戻ってくることにより、超音波振動子のインピーダンス等の特性が変化する。この場合、ノズルから対象物までの距離、対象物の面形状、対象物の面と液体の流れの方向との角度、対象物の材質等は、超音波振動の反射率の大きさに影響を与える。例えば、対象物がノズルに近いほど、また、対象物の面が平面でかつ液体の流れに垂直である程、そして、対象物が金属、ガラス、セラミックス等のような硬い材料であるほど、超音波振動の反射率が増大して超音波振動子のインピーダンス等の特性に与える影響が大きくなる。このような対象物より反射して戻る超音波振動を原因とする超音波振動子の特性変化は、超音波振動子の振動輻射面に接してエアーが滞留しているかどうかを検出するに際してその検出結果に大きな影響を及ぼし、その検出精度を低下させてしまうという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、対象物より反射して戻る超音波振動を原因とする超音波振動子の特性変化という現象に対して、根本的な解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体噴射装置であって、超音波振動子を内蔵し、この超音波振動子の振動輻射面に接する液室を有してこの液室に連通する液体供給口とノズルとを有するケーシングと、前記超音波振動子を駆動して超音波振動させる超音波発振回路と、前記超音波振動子を駆動するための前記超音波発振回路の出力に基づいて超音波振動中の前記超音波振動子の特性を測定する測定回路と、前記液体供給口に連結する給液パイプを有して当該給液パイプを介して前記液体供給口から前記液室に液体を供給する液体供給部と、前記ノズルから吐出される液体の流れに別経路からの液体を注入する液体注入部と、を備える。
【0010】
ここで、本発明において、「前記ノズルから吐出される液体の流れに別経路からの液体を注入する」位置は、前記ノズルの内外を問わない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超音波振動子を駆動するための超音波発振回路の出力に基づいて超音波振動中の超音波振動子の特性を測定するに際して、ノズルから吐出される液体の流れに別経路からの液体を注入することで、ノズルからの噴出液流中に分布していた定在波を乱して超音波振動子に対する反射を防止することができ、したがって、対象物より反射して戻る超音波振動を原因とする超音波振動子の特性変化という現象に対して、根本的な解決策を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第1の実施の形態を図1ないし図3に基づいて説明する。
【0013】
図1は、液体噴射装置101を縦断側面図として示す液体噴射システムの側面図である。最初に、液体噴射装置101について説明する。液体噴射装置101は、ケーシング102に各種構成物が付加されて構成されている。ケーシング102は、ノズル部103と、振動子保持部104と、蓋部105とからなる3ピース構成をしている。振動子保持部104は、円筒状をしており、その一端104aには中空円錐状のノズル部103が接合固定され、その他端104bには蓋部105が接合固定されている。
【0014】
振動子保持部104は、その内部空間に段部104cを有し、一端104a側の内部直径が他端104b側の内部直径よりも小径に形成されている。そして、振動子保持部104の大径に形成されている内部空間には、段部104cの部分に超音波振動子106が固定的に取り付けられている。
【0015】
ノズル部103は、振動子保持部104の内部空間に連通する円錐形状の内部空間を有し、先端部が開口してノズル107となっている。ノズル部103と振動子保持部104とによって規定されるノズル107から超音波振動子106に至る空間は、液体としてのクーラント201が供給される液室108を構成している。前述した超音波振動子106は、その振動輻射面106aが液室108に接面するように配置されている。また、振動子保持部104には、液室108にクーラント201を供給するための液体供給口109が形成されている。液体供給口109には、クーラント201を液体供給口109に導くための給液パイプとしての供給口配管110が連結されている。
【0016】
超音波振動子106には、後述する超音波発振回路301(図2参照)から延出するリード線111が接続されている。蓋部105には、そのリード線111を挿通させるための挿通孔112が形成されている。
【0017】
次いで、液体噴射システム中、液体噴射装置101以外の部分について説明する。液体噴射装置101は、クーラント201を収容するタンク202に給液パイプとしての給液用配管203を介して連結されている。給液用配管203には、給液ポンプ204が介在配置されている。給液ポンプ204は、電動ポンプであり、電力供給されることによってタンク202からクーラント201を吸引動作し、吸引したクーラント201を液体噴射装置101に供給する。
【0018】
また、給液用配管203には、給液ポンプ204の下流側に位置させて、流量センサ205と給液バルブ206とが配設されている。流量センサ205は、給液ポンプ204によって吸い上げられて給液用配管203を流通するクーラント201の流量を検出するセンサである。給液バルブ206は、通電によって内蔵する弁(図示せず)を開閉する電磁バルブである。これらの流量センサ205及び給液バルブ206は、後述するマイクロコンピュータ302に接続されている。
【0019】
更に、給液用配管203の端部は、液体噴射装置101に形成された液体供給口109に連結されている供給口配管110の端部に三方向コネクタ113を介して連結されている。これにより、タンク202から給液ポンプ204によって吸引されて給液バルブ206の弁(図示せず)が開くことによって給液用配管203の内部を導かれるクーラント201は、供給口配管110を介して液体供給口109から液室108に供給される。ここに、液体供給口109に連結する給液パイプとしての供給口配管110及び給液用配管203を介して液体供給口109から液室108に液体を供給する液体供給部Aが構成されている。
【0020】
三方向コネクタ113のもう一つの口には注入パイプ114の一端が接続されている。注入パイプ114のもう一方の端部は、ノズル107の出口側近傍位置に開口している。このような構造上、タンク202から給液ポンプ204によって吸引されて給液バルブ206の弁(図示せず)が開くことによって給液用配管203の内部を導かれるクーラント201は、三方向コネクタ113から注入パイプ114を介してノズル107から吐出されるクーラント201の流れに注入されることになる。ここに、ノズル107から吐出されるクーラント201の流れに別経路からの液体を注入する液体注入部Bが構成される。
【0021】
図2は、各部の電気的接続を示すブロック図である。本実施の形態の液体噴射システムは、マイクロコンピュータ302を有している。マイクロコンピュータ302は、各種演算処理を実行して各部を集中的に制御するCPU303に、ROM304、RAM305及び不揮発性メモリ306がバス接続されて構成されている。ROM304は、BIOS領域とプログラム領域とを有し、固定データを固定的に記憶している。プログラム領域には、各種のシーケンスをCPU303に実行させるプログラムコードがファームウェア構成で記録されている。RAM305は、可変データを書き換え自在に記憶しており、ワークエリアとして用いられる。不揮発性メモリ306は、データを書き換え自在に記憶し、その記憶データを給電なしに保持できるメモリである。不揮発性メモリ306としては、EEPROMやバッテリバックアップRAM等が用いられる。
【0022】
CPU303には、更に、インプットアウトプット(I/O)307とインターフェース(I/F)308とが接続されている。I/O307には、表示デバイス309及び入力デバイス310が接続されている。I/F308には、前述した超音波発振回路301の他、電動ポンプ駆動回路311、センシング回路312、電磁弁駆動回路313及び測定回路314が接続されている。
【0023】
入力デバイス310は、オペレーションスイッチ(OPERATION SW)を備えている。メインスイッチ(Main SW)は、本液体噴射システムそれ自体への給電を制御すると共に、マイクロコンピュータ302やその他の全ての各部に対する給電をも制御する。つまり、メインスイッチ(Main SW)がONになると、本実施の形態の液体噴射システムが起動する。オペレーションスイッチ(OPERATION SW)は、超音波振動子106に対する駆動電力の供給を制御するためのスイッチである。起動後の超音波発振回路301は、オペレーションスイッチ(OPERATION SW)からの指示に応じて超音波振動子106を超音波駆動し、その結果、超音波振動子106には超音波振動が生ずる。
【0024】
電動ポンプ駆動回路311は、CPU303からの指示に応じて給液ポンプ204を駆動する回路である。
【0025】
センシング回路312は、流量センサ205(図3中、Sで示す)からのセンシング値を取り込み、CPU303に通知する回路である。
【0026】
電磁弁駆動回路313は、CPU303からの指示に応じて給液バルブ206(図2中、Vで示す)を駆動する回路である。
【0027】
測定回路314は、超音波発振回路301の出力に基づいて超音波振動中の超音波振動子106の特性、より詳細にはインピーダンスを測定する。このような測定回路314は、超音波振動中の超音波振動子106のインピーダンスを測定する既知の各種回路構成によって実現することができる。測定回路314は、測定したインピーダンスをマイクロコンピュータ302に送信する。マイクロコンピュータ302のCPU303は、測定回路314から受信したインピーダンスの値に基づいて、超音波振動中の超音波振動子106の状態を判定する。つまり、CPU303は、超音波振動子106の振動輻射面106aがクーラント201に接触した状態となっているのか、それとも振動輻射面106aの一部又は全部にクーラント201が接触していないのかを判定する。振動輻射面106aの一部にしかクーラント201が接触しない状態は、例えば、振動輻射面106aとクーラント201との間にエアーが介在しているような場合に生じ得る。
【0028】
測定回路314は、主に、超音波振動子106の振動輻射面106aに接してエアーが滞留しているかどうかを検出するために用いられる。実施に際して、測定回路314は、その目的を達成可能であれば、インピーダンスを測定する回路構成のみならず、アドミッタンスを測定する回路構成であってもよい。あるいは、特許文献1に記載されているような、超音波振動子106を励振させる超音波発振回路301の発振信号に基づいて超音波振動子106とクーラント201との接触状態を検出するような回路としてもよい。
【0029】
このような構成において、給液ポンプ204を動作させてタンク202から吸引したクーラント201は、給液バルブ206が開かれることによって液体噴射装置101に供給される。つまり、クーラント201は、ケーシング102の液体供給口109から液室108に導入される。液体噴射装置101の液室108に導入されたクーラント201は、液室108内を充満してノズル107より噴出し、工作物等の対象物W(図1参照)に向けて飛翔する。この際、CPU303は、液室108内にクーラント201が充満したところで、超音波振動子106に超音波電力を印加するように超音波発振回路301に駆動信号を付与する。すると、超音波発振回路301による超音波電力は超音波振動子106により機械的な振動に変換され、超音波振動子106は超音波振動を開始する。こうして発生した超音波振動子106の超音波振動は、超音波振動子106の振動輻射面106aに接する液室108内のクーラント201に輻射され、ノズル107の方向に伝達されて噴出するクーラント201に重畳される。
【0030】
図3は、各イベントのタイミングを示すタイミングチャートである。以下、図3に示すタイミングチャートを参照しながら、本実施の形態の液体噴射システムの作用効果をより詳細に説明する。まず、メインスイッチ(Main SW)がONにされると、本実施の形態の液体噴射システムが起動する。システムの起動時、CPU303は、作業に先立ち、電動ポンプ駆動回路311に駆動信号を付与して給液ポンプ204を駆動し、タンク202からクーラント201を吸引した状態にしておく(図3(A)参照)。この際、CPU303は、電磁弁駆動回路313に対して駆動信号を付与せず、したがって、給液バルブ206も閉じられた状態を維持している(図3(B)参照)。これにより、液体噴射装置101の液室108には、未だにクーラント201が供給されない。
【0031】
その後、CPU303は、超音波振動子106に超音波振動を生じさせるに先立ち、電磁弁駆動回路313を駆動制御して給液バルブ206を開かせる(図3(B)参照)。クーラント201は、給液用配管203を流れ、その流量が流量センサ205によって検出され、その検出結果がCPU303に通知されている。これにより、液体噴射装置101の液室108にクーラント201が供給される。このとき、ノズル107が図1に示すように下向きに設置されていると、最初に液室108を満たしていたエアーは、浮力で超音波振動子106の振動輻射面106aを上昇することで、超音波振動子106は完全に接液しないので、予めノズル107を上向きにしてそのエアーを抜く。その過程で、液体噴射装置101の液室108に導入されたクーラント201は、液室108内を充満していく(図3(D)参照)と共に、ノズル部103より噴出し、工作物等の対象物W(図1参照)に向けて飛翔する(図3(E)参照)。
【0032】
このような液室108に対するクーラント201の給液動作に際して、CPU303は、測定回路314から出力される超音波振動子106のインピーダンスの値をモニターしており、液室108にクーラント201が充満したことを知る。そこで、CPU303は、このタイミングを見計らって、表示デバイス309に超音波振動子106のパワー駆動可能のレディ信号を発し、それを受けて外部より超音波発振回路301のオペレーションスイッチ(OPERATION SW)をONにする(図3(C)参照)。これによって、超音波発振回路301は超音波発振動作し、超音波振動子106を超音波駆動する。すると、超音波振動子106の超音波振動は、超音波振動子106の振動輻射面106aに接する液室108内のクーラント201に輻射され、ノズル107の方向に伝達されて噴出するクーラント201に重畳される(図3(F)参照)。
【0033】
この際、液体噴射装置101の液室108には、クーラント201が充満した状態となっているので、超音波発振回路301のオペレーションスイッチ(OPERATION SW)をONにすることによって、ノズル107から噴射されるクーラント201には、応答性よく瞬時に超音波振動子106の超音波振動が重畳される。また、超音波発振回路301のオペレーションスイッチ(OPERATION SW)をOFFにすると共に給液バルブ206を閉じることで、ノズル107から噴射される超音波振動が重畳するクーラント201が応答性よく瞬時に停止される。これにより、精密加工の作業に合わせて効率的なクーラント噴射作業を行なうことができる。
【0034】
ここで、液体噴射装置101においては、超音波振動子106のノズル107からの噴出液流の方向は、機械加工装置の構成上、水平または下向きになることが多い。そのため、加工作業中に、クーラント201に混入しているエアーがケーシング102内で分離して、浮力によって超音波振動子106に向かって上って行き、超音波振動子106の振動輻射面106aに接して内部に滞留する。また、与える振動エネルギーが大きくなると、ノズル107より噴出するクーラント201からミストの発生とともに液流の流れに乱れが生じて、ノズル107よりエアーを少しずつ内部に巻き込んで、時間の経過に伴い超音波振動子106の振動輻射面106aへのエアーの滞留を助長することになる。このような要因によりエアーが内部に滞留すると、超音波振動子106における超音波振動の輻射が妨げられるだけでなく、超音波振動子106はクーラント201と非接触となって無負荷となる。その結果、超音波振動子106が異常に強く振動してしまったり、異常発熱して劣化、破損に至ったりしてしまう。
【0035】
そこで、本実施の形態では、入力デバイス310のオペレーションスイッチ(OPERATION SW)がONにされて超音波振動子106が超音波振動動作を継続している間、CPU303は、予め決められている周期で超音波振動子106の負荷インピーダンスを測定回路314によって測定させ、その値を監視している。その結果、CPU303は、測定回路314から受信した超音波振動子106の負荷インピーダンスの値に基づいて、超音波振動中の超音波振動子106の状態を判定することができる。つまり、CPU303は、超音波振動子106の振動輻射面106aがクーラント201に接触した状態となっているかどうかを判定する。その結果、前述したような超音波振動子106の振動輻射面106aへのエアーの滞留という現象が生じている場合、CPU303はこれを判定することができる。
【0036】
もっとも、液体噴射装置101では、ノズル107から噴射したクーラント201に重畳される超音波振動が対象物Wを反射して戻ってくることにより、超音波振動子106のインピーダンス等の特性が変化する。この場合、ノズル107から対象物Wまでの距離、対象物Wの面形状、対象物Wの面とクーラント201の流れの方向との角度、対象物Wの材質等は、超音波振動の反射率の大きさに影響を与える。例えば、対象物Wがノズル107に近いほど、また、対象物Wの面が平面でかつ液体の流れに垂直である程、そして、対象物Wが金属、ガラス、セラミックス等のような硬い材料であるほど、超音波振動の反射率が増大して超音波振動子106のインピーダンス等の特性に与える影響が大きくなる。このような対象物Wより反射して戻る超音波振動を原因とする超音波振動子106の特性変化は、超音波振動子106の振動輻射面106aに接してエアーが滞留しているかどうかを検出するに際してその検出結果に大きな影響を及ぼし、その検出精度を低下させてしまう。
【0037】
そこで、本実施の形態では、注入パイプ114等を主体とする液体注入部Bを設けることで、対象物Wより反射して戻る超音波振動を原因とする超音波振動子106の特性変化を抑制するようにしている。つまり、液体注入部Bでは、給液用配管203を介して供給されるクーラント201が三方向コネクタ113で分岐され、注入パイプ114を介してノズル107の出口近傍に導かれる。これにより、注入パイプ114を介してノズル107の出口近傍に導かれたクーラント201は、ノズル107から噴射するクーラント201の流れに注入されることになる。その結果、ノズル107からの噴出液流の振動位相が乱れることで対象物Wからの反射波の位相も乱れ、反射波が同期した位相で超音波振動子106まで戻っていかない。したがって、対象物Wより反射して戻る超音波振動を原因とする超音波振動子106の特性変化を抑制することができる。
【0038】
したがって、本実施の形態の液体噴射装置101によれば、マイクロコンピュータ302が有するCPU303は、測定回路314から受信した超音波振動子106の負荷インピーダンスの値に基づいて、超音波振動中の超音波振動子106の接液の状態を正しく判定することができる。
【0039】
本発明の第2の実施の形態を図4に基づいて説明する。第1の実施の形態と同一部分は同一符号で示し、説明も省略する。
【0040】
図4は、超音波振動子106のノズル107の部分を拡大して示す縦断側面図である。本実施の形態が第1の実施の形態と相違する点は、一端が三方向コネクタ113に接続された注入パイプ114の他端がノズル107自体に接続されている点である。つまり、液体噴射装置101のノズル107には、内外を連通させる連通パイプ121が設けられており、注入パイプ114の他端はその連通パイプ121に接続されている。したがって、液体注入部Bでは、給液用配管203を介して供給されるクーラント201が三方向コネクタ113で分岐され、注入パイプ114を介してノズル107の内部に導かれる。これにより、注入パイプ114を介してノズル107の内部に導かれたクーラント201は、ノズル107から噴射するクーラント201の流れに注入されることになる。その結果、ノズル107からの噴出液流の振動位相が乱れることで対象物Wからの反射波の位相も乱れ、反射波が同期した位相で超音波振動子106まで戻っていかない。したがって、対象物Wより反射して戻る超音波振動を原因とする超音波振動子106の特性変化を抑制することができる。
【0041】
本発明の第3の実施の形態を図5に基づいて説明する。第1の実施の形態と同一部分は同一符号で示し、説明も省略する。
【0042】
図5は、超音波振動子106の縦断側面図である。本実施の形態が第1の実施の形態と相違する点は、液体注入部Bの構造である。つまり、ケーシング102には、液室108内において、ノズル部103のノズル107の領域と振動子保持部104の超音波振動子106の近傍領域とを連通させるバイパスチューブ131が取り付けられている。バイパスチューブ131は、ノズル107の部分に取り付けられて内外を連通させる導通孔としての第1の連通パイプ132に一端が差し込まれ、振動子保持部104に取り付けられて内外を連通させる導通孔としての第2の連通パイプ133に他端が差し込まれている。ここに、ノズル107から吐出されるクーラント201の流れに別経路からの液体を注入する液体注入部Bが構成される。そして、バイパスチューブ131は、ノズル部103のノズル107の領域と振動子保持部104の超音波振動子106の近傍領域とを連通させるバイパス経路Cをも構成する。
【0043】
なお、第1の実施の形態で液体注入部Bを構成している三方向コネクタ113及び注入パイプ114は、第3の実施の形態では設けられていない。
【0044】
このような構成において、液体噴射装置101の液室108に導入されたクーラント201は、液室108内を充満してノズル部103より噴出する。ここでもしバイパスチューブ131によるバイパス経路Cが存在しないと仮定すると、エアーの浮力によって液室108内の上部にはエアー溜り(図示せず)が発生し、このエアー溜りはクーラント201中のエアーの分離などによって時間とともに増大して行く。これに対して、バイパスチューブ131を設けてバイパス経路Cを形成すると、エアー溜りのエアーはバイパスチューブ131を通してノズル107に向かって吸引されてノズル107より噴出するクーラント201と共に放出される。これは、液室108に連通する排気口110内の圧力は、液室108内と同じ圧力で大気圧より高いのに対して、ノズル107の付近においては、ノズル107を高速で流れる液流のためにノズル107内の圧力が低下するからである。こうしてエアー溜りが消滅すると、液室108内にはクーラント201が充満する。すると、バイパスチューブ131にはエアーに代わってクーラント201が流れ始める。この際、バイパスチューブ131及びノズル107の流体抵抗は、エアーの場合より液体の場合の方が著しく大きいため、クーラント201は極僅かにバイパスチューブ131内を移動するのみで、バイパス経路Cによるクーラント201の流出損失は殆ど発生しない。
【0045】
ここで重要なことは、バイパスチューブ131にエアーに代わってクーラント201が流れ始めた後、クーラント201は、極僅かにバイパスチューブ131内を移動するのみではあるが、ノズル107から噴射するクーラント201の流れに注入されることになる。その結果、ノズル107からの噴出液流の振動位相が乱れることで対象物Wからの反射波の位相も乱れ、反射波が同期した位相で超音波振動子106まで戻っていかない。したがって、対象物Wを反射しての戻り超音波振動を原因とする超音波振動子106の特性変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施の一形態として、液体噴射装置を縦断側面図として示す液体噴射システムの側面図である。
【図2】各部の電気的接続を示すブロック図である。
【図3】各イベントのタイミングを示すタイミングチャートである。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す超音波振動子のノズル部分を拡大して示す縦断側面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態を示す超音波振動子の縦断側面図である。
【図6】従来の超音波振動重畳クーラントによる研削加工装置の縦断側面図である。
【符号の説明】
【0047】
102 ケーシング
106a 振動輻射面
106 超音波振動子
107 ノズル
108 液室
110 供給口配管(給液パイプ)
114 注入パイプ
131 バイパスチューブ
132 第1の連通パイプ(導通孔)
133 第2の連通パイプ(導通孔)
203 給液用配管(給液パイプ)
301 超音波発振回路
314 測定回路
A 液体供給部
B 液体注入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子を内蔵し、この超音波振動子の振動輻射面に接する液室を有してこの液室に連通する液体供給口とノズルとを有するケーシングと、
前記超音波振動子を駆動して超音波振動させる超音波発振回路と、
前記超音波振動子を駆動するための前記超音波発振回路の出力に基づいて超音波振動中の前記超音波振動子の特性を測定する測定回路と、
前記液体供給口に連結する給液パイプを有して当該給液パイプを介して前記液体供給口から前記液室に液体を供給する液体供給部と、
前記ノズルから吐出される液体の流れに別経路からの液体を注入する液体注入部と、
を備える、液体噴射装置。
【請求項2】
前記液体注入部は、前記ノズルから吐出された後の液体の流れに別経路からの液体を注入する、請求項1記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体注入部は、前記ノズル内を流れる液体の流れに別経路からの液体を注入する、請求項1記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体注入部は、前記別経路として、前記給液パイプから分岐して前記ノズルから吐出される液体の流れに連絡する注入パイプを備える、請求項1記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記液体注入部は、前記別経路として、前記ケーシングの前記液室の上部における前記超音波振動子の前記振動振幅面に接する位置の近傍に設けられた導通孔と前記ノズルに設けられた導通孔とを連通するバイパスチューブを備える、請求項1記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−22857(P2009−22857A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187412(P2007−187412)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(503198301)
【Fターム(参考)】