説明

液体噴射装置

【課題】共通液室にコンプライアンスを付与すると共に、液体噴射ヘッド内の液体の増粘を防止できる液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル形成面39に開口したノズル38に連通する圧力室31、該圧力室31に液体を供給する共通液室23が形成された連通板19、並びに該連通板19における共通液室23のノズル形成面39側の開口面を密封する可撓性フィルム21、を有する液体噴射ヘッド2と、窪み状の封止空部13を有し、該封止空部13内にノズル形成面39を臨ませて封止可能な封止部材11と、を備え、該封止部材11は、ノズル形成面39の封止状態で可撓性フィルム21の少なくとも一部を封止空部13内に臨ませて封止可能に構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルに連通した圧力室に圧力変動を与えて、圧力室内の液体をノズルから噴射させる液体噴射ヘッドを備えたインクジェット式プリンター等の液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
この種の液体噴射ヘッドには、例えば、ノズルが開口した圧力室の容積を変動させる圧電素子と、圧力室に液体を供給する共通液室(リザーバー、あるいはマニホールドとも言う)とを備えたものがある。このような液体噴射ヘッドでは、共通液室の上面が可撓性を有する弾性膜(可撓性フィルム)で封止され、共通液室内の液体の圧力変動を吸収するように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このため、共通液室とは反対側には、弾性膜の弾性変形を妨げないように空間が形成されると共に、この空間が大気に開放されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−306022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような構成では、弾性膜を介して共通液室内の水分が蒸発し、液体が増粘するという問題があった。この問題を解決すべく、弾性膜の共通液室とは反対側の空間と大気とを繋ぐ管(通気路)を、気体の拡散を防ぐために細長く蛇行させたものが知られているが、十分とは言えなかった。特に、長期間に亘って液体が噴射されない場合に、水分の蒸発による液体の増粘が顕著になっていた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、共通液室にコンプライアンスを付与すると共に、液体噴射ヘッド内の液体の増粘を防止できる液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズル形成面に開口したノズルに連通する圧力室、該圧力室に液体を供給する共通液室が形成された基板、並びに該基板における共通液室のノズル形成面側の開口面を密封する可撓性フィルム、を有する液体噴射ヘッドと、
窪み状の封止空部を有し、該封止空部内に前記ノズル形成面を臨ませて封止可能な封止部材と、を備え、
該封止部材は、前記ノズル形成面の封止状態で前記可撓性フィルムの少なくとも一部を封止空部内に臨ませて封止可能に構成されたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、共通液室のノズル形成面側の開口面を可撓性フィルムで密封したため、共通液室の下側でコンプライアンスを付与することができる。また、ノズル形成面を封止する封止部材で可撓性フィルムも封止できるため、この封止した部分からの水分の蒸発を防止でき、液体噴射ヘッド内の液体の増粘を抑制できる。
【0009】
また、上記構成において、前記封止部材は、前記可撓性フィルムの前記共通液室とは反対側の面のうち当該共通液室に対応する部分の全面を封止可能であることが望ましい。
【0010】
この構成によれば、共通液室からの水分の蒸発を防止でき、液体噴射ヘッド内の液体の増粘をより確実に抑制できる。
【0011】
さらに、上記各構成において、前記液体噴射ヘッドは、前記可撓性フィルムの前記共通液室とは反対側の面を覆った状態で保護すると共に、前記可撓性フィルムの前記共通液室に対応する部分のうち少なくとも一部に当該可撓性フィルムの可撓変形を阻害しない空間を設けた保護基板を備え、
前記封止部材は、前記保護基板の可撓性フィルムとは反対側の面側から、当該保護基板を含めて可撓性フィルムを前記封止空部内に臨ませた状態で封止可能であることが望ましい。
【0012】
また、前記保護基板は、前記可撓性フィルムの周囲を囲繞する壁部と、前記可撓性フィルムの前記共通液室とは反対側の面から離間した底部と、を備えた構成を採用することが望ましい。
【0013】
さらに、前記保護基板は、前記可撓性フィルムに積層され、共通液室に対応する部分のうち少なくとも一部に開口を設けた構成を採用することが望ましい。
【0014】
これらの構成によれば、例えば、可撓性フィルムに記録媒体(着弾対象)が当たること等により、可撓性フィルムが損傷することを防止できる。また、保護基板により可撓性フィルムからの水分の蒸発を防止でき、共通液室内の液体の増粘をさらに確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】第1の実施形態におけるキャッピング部材により封止された状態の記録ヘッドの断面図である。
【図3】第2の実施形態におけるキャッピング部材により封止された状態の記録ヘッドの断面図である。
【図4】第3の実施形態におけるキャッピング部材により封止された状態の記録ヘッドの断面図である。
【図5】第4の実施形態におけるキャッピング部材により封止された状態の記録ヘッドの断面図である。
【図6】第5の実施形態におけるキャッピング部材により封止された状態の記録ヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明は、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式プリンター1(本発明の液体噴射装置の一種)を例に挙げて行う。
【0017】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド2(以下、記録ヘッド)が取り付けられると共に、液体貯留部材の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4を備えている。このキャリッジ4の後部には、キャリッジ4を記録紙5(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構6を備えている。また、記録動作時における記録ヘッド2の下方には、間隔を空けてプラテン7を備えている。このプラテン7上には、プリンター1の後方に備えた搬送機構8によって、記録紙5が主走査方向に直交する副走査方向に搬送される。
【0018】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構6の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動する。キャリッジ4の主走査方向の位置は、位置情報検出手段の一種であるリニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)をプリンター1の制御部に送信する。キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジ4の走査の基点となるホームポジションが設定されている。プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙5上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録を行う。
【0019】
また、ホームポジションには、後述するノズル形成面39(ノズルプレート20:図2参照)を封止するキャッピング部材11(本発明における封止部材)と、ノズル形成面39を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。キャッピング部材11は、図2に示すように、長方形状の封止底部11aとこの封止底部11aの周縁から起立する封止側壁部11bとを有する上面が開放したトレイ状の部材であり、ゴム等の弾性部材により形成される。本実施形態のキャッピング部材11は、ノズル形成面39、および、後述する可撓性フィルム21の下面(リザーバー23(後述)とは反対側の面)であってリザーバー23に対応する部分の全面を、封止底部11aと封止側壁部11bとに囲まれた封止空部13内に臨ませた状態で、封止側壁部11bの先端縁を記録ヘッド2側に密着することによって封止可能に構成されている。言い換えると、キャッピング部材11は、窪み状の封止空部13を有し、この封止空部13内にノズル形成面39、および、リザーバー23に接する可撓性フィルム21の全面を臨ませて封止可能に構成されている。なお、キャッピング部材11は、記録動作を行わない場合にノズル形成面39、および、可撓性フィルム21の下面を封止する。
【0020】
また、キャッピング部材11には、その内側を減圧するポンプ(図示せず)が接続されている。これにより、ノズル形成面39をキャッピング部材11により封止した後でポンプを動作させることで、ノズル38から記録ヘッド2内の気泡や増粘したインクを吸引することができる。さらに、キャッピング部材11の内部には、封止空部13内を高湿状態に保つための部材、例えば、インクを含んだスポンジ等(図示せず)が配設されている。これにより、キャッピング部材11がノズル形成面39、および、可撓性フィルム21の下面を封止した状態において、封止空部13内を高湿状態に保ち、ノズル38、および、可撓性フィルム21からの水分の蒸発を防いでいる。
【0021】
図2は、キャッピング部材11により封止された状態における記録ヘッド2の断面図である。本実施形態の記録ヘッド2は、ヘッドケース15、振動板16、圧電素子17、流路基板18、連通板19、ノズルプレート20、可撓性フィルム21を備えている。なお、流路基板18および連通板19が、本発明における基板に相当する。
【0022】
ヘッドケース15は、内部にリザーバー23(共通液室に相当)の一部となる導入空部24、および、この導入空部24にインクカートリッジ3からのインクを供給するケース流路25が形成された中空箱体状の部材である。導入空部24は、後述するノズル列方向に沿って長尺な空部であり、下側(ノズルプレート20側)が開口されて後述する連通空部32と連通されている。ケース流路25は、下端側が導入空部24の上部(天井部分)と連通され、上端側がインクカートリッジ3に接続されるインク導入針(図示せず)と連通されている。また、ヘッドケース15の圧電素子17に対応する部分には、高さ方向に貫通した挿通空間26が形成されている。この挿通空間26内には、後述するフレキシブルケーブル30が挿通されている。
【0023】
振動板16は、弾性膜28および絶縁体膜29が積層された弾性基板であり、ヘッドケース15の下面に接合されている。この振動板16の導入空部24に対応する部分は、上下に貫通しており、導入空部24と連通空部32とを連通させている。この絶縁体膜29上であって、圧力室31に対向する部分には、下電極膜、圧電体層及び上電極膜が順次積層された圧電素子17(圧力発生手段の一種)が形成されている。この圧電素子17の個別電極(上電極膜)からは、図示しない電極配線部が絶縁膜上にそれぞれ延出されており、これらの電極配線部の電極端子に相当する部分に、フレキシブルケーブル30の一端部の端子が接続される。このフレキシブルケーブル30は、例えば、ポリイミド等のベースフィルムの表面に銅箔等で導体パターンを形成し、この導体パターンをレジストで被覆した構成とされる。また、フレキシブルケーブル30の表面には、圧電素子17を駆動する駆動IC(図示せず)が実装されている。そして、圧電素子17は、駆動ICを通じて上電極膜および下電極膜間に駆動信号(駆動電圧)が印加されることにより、撓み変形する。
【0024】
流路基板18は、振動板16(弾性膜28)の下面に接合された、シリコン単結晶基板やSUS等から作製される基板である。この流路基板18には、複数の圧力室31が、ノズルプレート20の各ノズル38に対応して複数形成されている。圧力室31は、ノズル列方向に直交する方向に長尺な空部であり、長手方向の一側端部が後述する連通板19のノズル連通路34を介してノズル38と連通されている。また、圧力室31の長手方向の他側端部は、後述する連通板19の供給側連通路35を介してリザーバー23と連通されている。また、流路基板18のうち前記した導入空部24に対応する部分には、連通空部32が板厚方向に貫通した状態で形成されている。この連通空部32は、上部が導入空部24と連通されると共に、下部が後述する連通板19のリザーバー部36と連通されている。
【0025】
連通板19は、流路基板18の下面に接合された、シリコン単結晶基板やSUS等から作製される基板である。この連通板19には、ノズル連通路34、供給側連通路35、および、リザーバー部36が、板厚方向を貫通する状態で形成されている。ノズル連通路34は、各圧力室31に対応して複数形成され、上部が圧力室31に連通されると共に、下部がノズル38と連通されている。供給側連通路35は、ノズル連通路34と隔壁部37を挟んでリザーバー部36側に、各圧力室31に対応して複数形成されている。この供給側連通路35は、各圧力室31とリザーバー23(リザーバー部36)とを連通する流路である。リザーバー部36は、リザーバー23の一部を構成する空部であり、上部が連通空部32と連通されている。すなわち、導入空部24、連通空部32、および、リザーバー部36からなる一連の流路により、各圧力室31に共通のインクを供給するノズル列方向に沿って長尺なリザーバー23が構成される。
【0026】
ノズルプレート20は、連通板19の下面に接合され、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル38を列状に開設した板材である。例えば、360dpiに対応するピッチで360個のノズル38を列設することでノズル列(ノズル群の一種)が構成されている。本実施形態のノズルプレート20は、シリコン単結晶基板から作製され、ドライエッチングを施すことにより円筒形状のノズル38が形成されている。また、ノズルプレート20は、ノズル連通路34とノズル38との液密が確実に確保される範囲内で(即ち、ノズル連通路34とノズル38とを液密状態で連通させ得る接合代が確保できる限り)可及的に小さく設定されている。このようにノズルプレート20を可及的に小型化することで、コストの低減に寄与することが可能となる。本実施形態では、リザーバー23とは反対側の端部を記録ヘッド2の外形に揃え、リザーバー23側の端部を連通板19の隔壁部37の途中まで延在させている。なお、ノズルプレート20の下面が本発明におけるノズル形成面39に相当する。
【0027】
可撓性フィルム21は、可撓変形(弾性変形)可能な樹脂等からなるフィルムであり、連通板19の下面に接着剤により接着されている。本実施形態の可撓性フィルム21は、ノズルプレート20側の端部を隔壁部37の途中であって、ノズルプレート20と干渉しない部分まで延在させている。一方、ノズルプレート20とは反対側の端部は、記録ヘッド2の外形に揃えられている。これにより、連通板19における供給側連通路35、および、リザーバー部36の下側(ノズル形成面39側)の開口面が、可撓性フィルム21により密封される。すなわち、供給側連通路35、および、リザーバー部36の底面が可撓性フィルム21により構成される。これにより、供給側連通路35、および、リザーバー23の底面が変形可能となり、コンプライアンス部として機能する。
【0028】
そして、インクカートリッジ3からのインクは、ケース流路25、リザーバー23、供給側連通路35、を介して圧力室31に供給される。この状態で圧電素子17を駆動させると、圧力室31内のインクに圧力変動が生じる。この圧力変動を利用することでノズル38からインクを噴射している。ここで、圧力室31内に発生した圧力変動はリザーバー23側にも伝達されるが、可撓性フィルム21が可撓変形することにより、リザーバー23内のインクの圧力変動を吸収することができる。
【0029】
また、記録動作を行わない場合、ノズル形成面39、および、可撓性フィルム21の下面は、キャッピング部材11の封止空部13内に封止される。本実施形態では、記録ヘッド2の下面のうち、ノズル連通路34、供給側連通路35、および、リザーバー23に対応する部分の全面を封止可能に構成している。これにより、ノズル38、および、可撓性フィルム21のインクの流路(本実施形態では、供給側連通路35およびリザーバー23)に接する部分が大気と隔離され、ノズル38から水分が蒸発すること、および、インクの流路から可撓性フィルム21を透過して水分が蒸発することを抑制している。その結果、流路内のインクの増粘が抑制される。また、ノズルプレート20側の可撓性フィルム21と連通板19との接着部分(可撓性フィルム21の隔壁部37と重なる部分)も封止しているため、この接着部分の接着剤を介して水分が蒸発することを抑制している。さらに、例えば、封止空部13内にインクを含んだスポンジ等を配設して、封止空部13内を積極的に高湿状態に保つこともできる。このようにすれば、水分の蒸発を一層抑制することができる。
【0030】
なお、キャッピング部材11は、ゴム等の弾性部材により形成されるため、ノズルプレート20、および、可撓性フィルム21の厚さが異なり多少の高低差がある場合でも、これらの厚さ(高低差)に合わせて封止側壁部11bの上端面(当接面)が弾性変形することで、記録ヘッド2の下面を封止することができる。また、キャッピング部材11の封止側壁部11bの上端面に、ノズルプレート20、および、可撓性フィルム21の厚さに合わせて予め段差を設けても良い。
【0031】
このように、リザーバー23のノズル形成面39側の開口面を可撓性フィルム21で密封したため、リザーバー23の下側でコンプライアンスを付与することができる。また、ノズル形成面39を封止するキャッピング部材11で可撓性フィルム21も封止できるため、この封止した部分からの水分の蒸発を防止でき、記録ヘッド2内のインクの増粘を抑制できる。本実施形態では、可撓性フィルム21のリザーバー23とは反対側の面のうち当該リザーバー23に対応する部分の全面を封止可能にしたため、リザーバー23からの水分の蒸発を防止でき、記録ヘッド2内の液体の増粘をより確実に抑制できる。
【0032】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0033】
例えば、上記した実施形態のキャッピング部材11は、可撓性フィルム21の供給側連通路35、および、リザーバー23に対応する部分の全面を封止したが、可撓性フィルム21の少なくとも一部を封止できればよい。これにより、少なくとも、この封止した一部からの水分の蒸発を防止することができ、記録ヘッド内のインクの増粘を抑制できる。
【0034】
また、記録ヘッドは、ノズル形成面に開口したノズルに連通する圧力室、および該圧力室に液体を供給するリザーバー(リザーバーの一部であるリザーバー部)が形成された基板と、該基板におけるリザーバーのノズル形成面側の開口面を密封する可撓性フィルムと、を有していれば、どのような構造であっても良い。例えば、図3に示す第2の実施形態の記録ヘッド2では、連通板を有していない。
【0035】
具体的には、第2の実施形態の記録ヘッド2は、ヘッドケース15、振動板16、圧電素子17、流路基板18′、ノズルプレート20、可撓性フィルム21を備えている。なお、ヘッドケース15、振動板16、圧電素子17、ノズルプレート20は、上記した第1の実施形態の記録ヘッド2と同様であるため、説明を省略する。また、本実施形態では、流路基板18′が、本発明における基板に相当する。
【0036】
本実施形態の流路基板18′は、振動板16(弾性膜28)の下面に接合され、リザーバー部36′、供給側連通路35′、圧力室31′、および、ノズル連通路34′が形成されている。詳しくは、リザーバー部36′およびノズル連通路34′は、板厚方向に貫通して形成され、供給側連通路35′および圧力室31′は、流路基板18′の上面(振動板16側の面)から当該流路基板18′の厚さ方向の途中までハーフエッチングされて形成されている。リザーバー部36′は、第1の実施形態と同様にリザーバー23の一部を構成する空部であり、上部が導入空部24と連通されている。すなわち、本実施形態では、導入空部24、および、リザーバー部36′からなる一連の流路が、各圧力室31′に共通のインクを供給するノズル列方向に沿って長尺なリザーバー23を構成している。供給側連通路35′は、各圧力室31′とリザーバー23を連通させる流路幅の狭い狭窄部である。圧力室31′は、ノズル列に直交する方向に沿って長尺な空部であり、供給側連通路35′とは反対側でノズル連通路34′と連通されている。ノズル連通路34′は、底面がノズルプレート20により構成され、このノズルプレート20に開口したノズル38と連通されている。
【0037】
可撓性フィルム21は、流路基板18′の下面に接着剤により液密に接着され、リザーバー23(リザーバー部36′)の下側の開口面を密封している。本実施形態の可撓性フィルム21は、ノズルプレート20側の端部をリザーバー部36′とノズル連通路34′の間であって、ノズルプレート20と干渉しない部分まで延在させている。一方、ノズルプレート20とは反対側の端部は、第1の実施形態と同様に記録ヘッド2の外形に揃えられている。これにより、リザーバー23は、底面が可撓性フィルム21により構成され、コンプライアンスが付与される。
【0038】
このように、リザーバー23のノズル形成面39側の開口面を可撓性フィルム21で密封したため、リザーバー23の下側でコンプライアンスを付与することができる。また、ノズル形成面39を封止するキャッピング部材11で可撓性フィルム21も封止できるため、この封止した部分からの水分の蒸発を防止でき、記録ヘッド2内のインクの増粘を抑制できる。本実施形態では、可撓性フィルム21のリザーバー23とは反対側の面のうち当該リザーバー23に対応する部分の全面を封止可能にしたため、リザーバー23からの水分の蒸発を防止でき、記録ヘッド2内の液体の増粘をより確実に抑制できる。なお、その他プリンター1の構成は、上記した第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
また、上記した各実施形態では、キャッピング部材11により封止されていない状態において、可撓性フィルム21の下面が露出されているが、可撓性フィルム21の下面を保護部材で覆うこともできる。詳しくは、可撓性フィルム21のリザーバー23とは反対側の面を覆った状態で保護すると共に、可撓性フィルム21のリザーバー23に対応する部分のうち少なくとも一部に当該可撓性フィルム21の可撓変形を阻害しない空間を設けた保護基板41を、記録ヘッド2に備えることもできる。
【0040】
例えば、図4に示す第3の実施形態の記録ヘッド2では、可撓性フィルム21の周囲を囲繞する壁部41aと、可撓性フィルム21のリザーバー23とは反対側の面から離間した底部41bと、を備えた保護基板41を備えている。具体的には、保護基板41は凹状に窪んだ保護空間42を有し、この保護空間42内に可撓性フィルム21の全体を臨ませた状態で、保護空間42の開口縁(壁部41aの上面)が連通板19に接合されている。なお、保護基板41の底部41bには、通気孔43が開口されている。これにより、保護空間42が大気に開放され、リザーバー23内の圧力変化に直ちに追従して可撓性フィルム21を可撓変形させることができる。
【0041】
そして、本実施形態のキャッピング部材11は、保護基板41の可撓性フィルム21とは反対側の面側から、保護基板41の全体を含めて可撓性フィルム21を封止空部13内に臨ませた状態で封止可能に構成されている。これにより、キャッピング部材11が、ノズル形成面39を封止すると、封止空部13内に保護基板41の全体が収容され、この保護基板41の保護空間42内に収容された可撓性フィルム21も封止される。なお、キャッピング部材11は、必ずしも保護基板41の全体を封止空部13内に含める必要はなく、保護基板41の保護空間42内が大気と隔離されるように封止できれば、保護基板41の一部だけを封止空部13内に含めることもできる。例えば、保護基板41の通気孔43を封止空部13内に臨ませた状態で、キャッピング部材11のノズルプレート20とは反対側の封止側壁部11bを保護基板41の底部41bに当接してもよい。なお、その他の構成は、上記した第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0042】
本実施形態では、上記のように構成したので、例えば、可撓性フィルム21に記録紙5が当たること等により、可撓性フィルム21が損傷することを防止できる。また、保護基板41により可撓性フィルム21からの水分の蒸発を防止でき、リザーバー23内の液体の増粘をさらに確実に抑制できる。
【0043】
ところで、保護基板は、上記した第3の実施形態に限られない。図5に示すように、第4の実施形態の保護基板41′は、可撓性フィルム21の下側に積層されている。この保護基板41′のリザーバー23に対応する部分には、開口44が設けられている。これにより、この開口44内に臨む部分の可撓性フィルム21が可撓変形可能になるため、この部分がリザーバー23のコンプライアンス部として機能することになる。また、キャッピング部材11は、上記した第3の実施形態と同様に、保護基板41′の可撓性フィルム21とは反対側の面側から、保護基板41′の全体を含めて可撓性フィルム21を封止空部13内に臨ませた状態で封止可能に構成されている。なお、本実施形態のキャッピング部材11では、保護基板41′の開口44を封止できればよく、必ずしも保護基板41′の全体を封止空部13内に含める必要はない。また、その他の構成は、上記した第3の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0044】
本実施形態でも、第3の実施形態と同様に、例えば、可撓性フィルム21に記録紙5が当たること等により、可撓性フィルム21が損傷することを防止できる。また、保護基板41′により可撓性フィルム21からの水分の蒸発を防止でき、リザーバー23内の液体の増粘をさらに確実に抑制できる。
【0045】
また、上記した各実施形態では、1列のノズル列に対応して1つのリザーバー23のみを設けていたが、複数のノズル列に対応して複数のリザーバー23を設けてもよい。例えば、図6に示す第5の実施形態の記録ヘッド2では、2列のノズル列に対応して2つのリザーバー23が形成されている。本実施形態では、2列のノズル列が1つのノズルプレート20′に開設され、このノズルプレート20′を挟んだ両側において、リザーバー23の底面を構成する可撓性フィルム21、および、可撓性フィルム21を保護する保護基板41がそれぞれ設けられている。なお、本実施形態の記録ヘッド2は、ノズル列間の中心線を挟んで左右対称に構成され、そのうちの一側(図6における右側)が、第3の実施形態の記録ヘッド2と同様に構成されているため、説明を省略する。
【0046】
キャッピング部材11は、保護基板41の可撓性フィルム21とは反対側の面側から、保護基板41を含めて可撓性フィルム21を封止空部13内に臨ませた状態で封止可能に構成されている。本実施形態のキャッピング部材11は、ノズル列に直交する方向における一側の封止側壁部11bを一方の保護基板41に、他側の封止側壁部11bを他方の保護基板41に、それぞれの保護基板41の通気孔43を封止空部13内に臨ませた状態で当接するように構成されている。これにより、両側の保護基板41の間に位置するノズル形成面39全体が封止空部13内に収容でき、また、保護基板41の保護空間42内に収容された可撓性フィルム21も封止できる。
【0047】
なお、上記した各実施形態では、圧力発生手段として、所謂撓み振動型の圧電素子17を例示したが、これには限られず、例えば、所謂縦振動型の圧電素子を採用することも可能である。その他、圧力発生手段としては、発熱によりインクを突沸させることで圧力変動を生じさせる発熱素子や、静電気力により圧力室の区画壁を変位させることで圧力変動を生じさせる静電アクチュエーターなどの圧力発生手段を採用する構成においても本発明を適用することが可能である。
【0048】
そして、以上では、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド2を備えたプリンター1を例に挙げて説明したが、本発明は、他の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を備えた液体噴射装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…プリンター,2…記録ヘッド,11…キャッピング部材,13…封止空部,15…ヘッドケース,16…振動板,17…圧電素子,18…流路基板,19…連通板,20…ノズルプレート,21…可撓性フィルム,23…リザーバー,31…圧力室,36…リザーバー部,38…ノズル,39…ノズル形成面,41…保護基板,42…保護空間,43…通気孔,44…開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル形成面に開口したノズルに連通する圧力室、
該圧力室に液体を供給する共通液室が形成された基板、
並びに該基板における共通液室のノズル形成面側の開口面を密封する可撓性フィルム、を有する液体噴射ヘッドと、
窪み状の封止空部を有し、該封止空部内に前記ノズル形成面を臨ませて封止可能な封止部材と、を備え、
該封止部材は、前記ノズル形成面の封止状態で前記可撓性フィルムの少なくとも一部を封止空部内に臨ませて封止可能に構成されたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記封止部材は、前記可撓性フィルムの前記共通液室とは反対側の面のうち当該共通液室に対応する部分の全面を封止可能であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体噴射ヘッドは、前記可撓性フィルムの前記共通液室とは反対側の面を覆った状態で保護すると共に、前記可撓性フィルムの前記共通液室に対応する部分のうち少なくとも一部に当該可撓性フィルムの可撓変形を阻害しない空間を設けた保護基板を備え、
前記封止部材は、前記保護基板の可撓性フィルムとは反対側の面側から、当該保護基板を含めて可撓性フィルムを前記封止空部内に臨ませた状態で封止可能であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記保護基板は、前記可撓性フィルムの周囲を囲繞する壁部と、前記可撓性フィルムの前記共通液室とは反対側の面から離間した底部と、を備えたことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記保護基板は、前記可撓性フィルムに積層され、共通液室に対応する部分のうち少なくとも一部に開口を設けたことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−103392(P2013−103392A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248178(P2011−248178)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】