説明

液体塗布用繊維複合体

【課題】使用者が使用するとき、液体(例えば、化粧水等)に抗酸化性を付与する簡便な手段を提供する。
【解決手段】液体塗布用繊維複合体は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法及びMP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体塗布用繊維複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルカリイオン水や電解還元水、水素水等、還元的な性質を示す水が、人々の健康維持の観点から注目を集めている(例えば、特開2003−301288、特開2002−348208、特開2001−314877参照)。また、スーパーオキシドラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素、一酸化窒素、過酸化脂質等の広義の活性酸素種である酸素系ラジカル種といった酸化ストレス物質が、様々な疾患や老化の原因になることが、近年、医学会でも証明されてきている。そして、抗酸化性の化粧料を肌に作用させることにより、このような酸化ストレス物質を除去することは、種々の疾患や老化を防ぐ上で非常に有用であると云われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−301288
【特許文献2】特開2002−348208
【特許文献3】特開2001−314877
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らが調べた限りでは、抗酸化性といった特質を化粧料等の液体に付与するための簡便な方法、手段は知られていない。
【0005】
従って、本開示の目的は、使用者が使用するとき、液体(例えば、化粧水等)に抗酸化性を付与する簡便な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る液体塗布用繊維複合体は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る。
【0007】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る液体塗布用繊維複合体は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.5cm3/グラム以上、好ましくは1.0cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る。
【0008】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る。
【発明の効果】
【0009】
本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体にあっては、多孔質炭素材料の窒素BET法による比表面積、細孔の容積、細孔の分布が規定されているが故に、液体に含まれる酸化ストレス物質を確実に除去するといった、また、液体の酸化還元電位を確実に低下させるといった抗酸化性を、液体(例えば、化粧水等)に容易に付与することができる。しかも、液体(例えば、化粧水等)を繊維質部材に滲み込ませて使用すればよいので、非常に簡便な手段、方法によって、抗酸化性といった特質を液体に付与することができる。尚、一般に、酸化ストレス物質は、電子を受け取り易い(即ち、標準酸化還元電位が正方向に高い)ため、酸化ストレス物質が除去されると、より電子の受け取り易さが低下する(電子の与え易さが増加する)。即ち、酸化還元電位が負の方向に大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1の多孔質炭素材料及び比較例1の活性炭の添加量とpHの関係を調べたグラフである。
【図2】図2は、実施例1の多孔質炭素材料及び比較例1の活性炭の添加量と酸化還元電位の関係を調べたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体)、その他
【0012】
[本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体、全般に関する説明]
本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体において、多孔質炭素材料には機能性材料が付着している形態とすることができる。尚、このような形態を、便宜上、『多孔質炭素材料複合体』と呼ぶ場合がある。
【0013】
上記の好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体にあっては、液体を繊維質部材に含ませて、液体を塗布する形態(使用形態)とすることができる。そして、このような使用形態にあっては、液体を多孔質炭素材料と接触させることで液体に含まれる酸化ストレス物質を除去することができ、あるいは又、液体を多孔質炭素材料と接触させることで液体の酸化還元電位を低下させることができる。即ち、抗酸化性といった特質を液体に付与することができる。
【0014】
ここで、液体として水を挙げることができるが、これに限定するものではなく、例えば、化粧水、乳液、汗や油脂、口紅等の汚れ成分を除去するクレンジング剤を挙げることもできる。
【0015】
また、酸化ストレス物質として、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、一酸化窒素、過酸化脂質等を挙げることができる。液体に含まれる酸化ストレス物質が除去されるとは、酸化ストレス物質(活性酸素種であるヒドロキシルラジカル、一重項酸素、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、一酸化窒素、過酸化脂質等)が存在している状態から、多孔質炭素材料によって酸化ストレス物質が還元され、酸化ストレス物質が水分子若しくは酸素分子に変化した状態となることを意味する。
【0016】
あるいは又、液体の酸化還元電位を低下させるが、ここで、塩素や、トリハロメタン、酸化ストレス物質(活性酸素種であるヒドロキシルラジカル、一重項酸素、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、一酸化窒素、過酸化脂質等)が含まれることによる酸化状態から、これらの物質が除去され、ミネラル成分(多孔質炭素材料の表面及び内部に含まれる焼成・賦活過程で生成した残留灰分と考えられる)が溶出する状態となったとき、液体の酸化還元電位が低下したとする。即ち、塩素やトリハロメタン、酸化ストレス物質は酸化還元電位が正に高いため(即ち、酸性度が大)のため、多孔質炭素材料による吸着又は還元反応による除去と、多孔質炭素材料からの強アルカリ弱酸塩の溶出(炭酸カリウム等)とが、酸化還元電位の低下に寄与すると考えられる。液体の酸化還元電位は、Ag/AgCl電極を参照極とした3極式の電位計を用いることで測定することができる。尚、低下した後の液体の酸化還元電位は、150ミリボルト以下であることが望ましい。
【0017】
以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体において、多孔質炭素材料の原料は、ケイ素(Si)を含有する植物由来の材料であることが好ましく、この場合、具体的には、限定するものではないが、多孔質炭素材料は、ケイ素(Si)の含有率が5質量%以上である植物由来の材料を原料とし、多孔質炭素材料のケイ素(Si)の含有率は、5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下であることが望ましい。
【0018】
場合によっては、以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体(以下、これらを総称して、単に、『本開示の液体塗布用繊維複合体等』と呼ぶ場合がある)を構成する多孔質炭素材料(以下、これらを総称して、単に、『本開示の多孔質炭素材料等』と呼ぶ場合がある)あるいは多孔質炭素材料複合体の表面に、親水処理又は疎水処理を施してもよい。
【0019】
本開示の液体塗布用繊維複合体等においては、本開示の多孔質炭素材料等からの、例えば、炭化及び賦活過程で生成した炭酸塩の少量の溶出に起因して、また、本開示の多孔質炭素材料等における賦活度合いを大きくすることによる灰分の増加によって、液体をアルカリ性とすることもできるし、pHの値を増加させることもできる。また、本開示の多孔質炭素材料等の表面にカルボキシ基(硝酸処理により達成可能)やスルホン基(濃硫酸により達成可能)を生成させることで、酸性とすることもできるし、pHの値を減少させることもできる。あるいは又、液体に水素等の還元剤を含ませることもできる。また、本開示の多孔質炭素材料等の微細構造を通過させることにより、液体の構造(クラスター)を変化させることができる。
【0020】
本開示の液体塗布用繊維複合体等にあっては、繊維質部材に多孔質炭素材料が含まれるが、本開示の液体塗布用繊維複合体等の具体的な構成として、本開示の多孔質炭素材料等を繊維質部材を構成する繊維に予め練り込み、紡糸し、必要に応じて、機械捲縮やコイル捲縮といった捲縮処理を施し、織布あるいは不織布とする構成を挙げることができるし、これらの織布あるいは不織布に基づく物品とする構成を挙げることができるし、本開示の多孔質炭素材料等をバインダー等を用いて繊維質部材に付着させる構成を挙げることができるし、本開示の多孔質炭素材料等を、例えば、バインダー(結着剤)等を用いて所望の形状に賦形して、層状の繊維質部材で挟み込んだ構成を挙げることができるし、これらの構成を適宜組み合わせた状態とすることもできる。本開示の液体塗布用繊維複合体の具体的な商品形態として、例えば、化粧用コットン、化粧用パッティング材、化粧用パフ、化粧用カット綿、消毒用パフを挙げることができる。
【0021】
繊維質部材を構成する材料として、綿、麻、竹、羊毛、パルプ等の天然繊維;セルローズ系の再生繊維;ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、ポリエチレン、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル、レーヨン、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の合成繊維の少なくとも1種類から成る織布や不織布、これらの材料を混紡して成る織布や不織布といった周知の布材あるいは布状の材料、ガーゼ状の材料等を挙げることができるし、バインダーとしてカルボキシニトロセルロースを挙げることができる。尚、合成繊維の形態として、芯鞘型、偏心芯鞘型、多層貼合型、サイドバイサイド型等を挙げることができるし、断面形状として、円形だけでなく異型断面形状とすることができる。
【0022】
本開示の多孔質炭素材料等は、例えば、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸又はアルカリで処理することによって得ることができる。このような本開示における多孔質炭素材料等の製造方法(以下、単に、『多孔質炭素材料の製造方法』と呼ぶ場合がある)において、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化することにより得られた材料であって、酸又はアルカリでの処理を行う前の材料を、『多孔質炭素材料前駆体』あるいは『炭素質物質』と呼ぶ。
【0023】
多孔質炭素材料の製造方法において、酸又はアルカリでの処理の後、賦活処理を施す工程を含めることができるし、賦活処理を施した後、酸又はアルカリでの処理を行ってもよい。また、このような好ましい形態を含む多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料を炭素化する前に、炭素化のための温度よりも低い温度(例えば、400゜C〜700゜C)にて、酸素を遮断した状態で植物由来の材料に加熱処理(予備炭素化処理)を施してもよい。これによって、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を抽出することが出来る結果、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。尚、酸素を遮断した状態は、例えば、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気とすることで、あるいは又、真空雰囲気とすることで、あるいは又、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とすることで達成することができる。また、多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料中に含まれるミネラル成分や水分を減少させるために、また、炭素化の過程での異臭の発生を防止するために、植物由来の材料をアルコール(例えば、メチルアルコールやエチルアルコール、イソプロピルアルコール)に浸漬してもよい。尚、多孔質炭素材料の製造方法にあっては、その後、予備炭素化処理を実行してもよい。不活性ガス中で加熱処理を施すことが好ましい材料として、例えば、木酢液(タールや軽質油分)を多く発生する植物を挙げることができる。また、アルコールによる前処理を施すことが好ましい材料として、例えば、ヨウ素や各種ミネラルを多く含む海藻類を挙げることができる。
【0024】
多孔質炭素材料の製造方法にあっては、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化するが、ここで、炭素化とは、一般に、有機物質(本開示の多孔質炭素材料等にあっては、植物由来の材料)を熱処理して炭素質物質に変換することを意味する(例えば、JIS M0104−1984参照)。尚、炭素化のための雰囲気として、酸素を遮断した雰囲気を挙げることができ、具体的には、真空雰囲気、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とする雰囲気を挙げることができる。炭素化温度に至るまでの昇温速度として、限定するものではないが、係る雰囲気下、1゜C/分以上、好ましくは3゜C/分以上、より好ましくは5゜C/分以上を挙げることができる。また、炭素化時間の上限として、10時間、好ましくは7時間、より好ましくは5時間を挙げることができるが、これに限定するものではない。炭素化時間の下限は、植物由来の材料が確実に炭素化される時間とすればよい。また、植物由来の材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。植物由来の材料を予め洗浄してもよい。あるいは又、得られた多孔質炭素材料前駆体や多孔質炭素材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。あるいは又、賦活処理後の多孔質炭素材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。更には、最終的に得られた多孔質炭素材料に殺菌処理を施してもよい。炭素化のために使用する炉の形式、構成、構造に制限はなく、連続炉とすることもできるし、回分炉(バッチ炉)とすることもできる。
【0025】
多孔質炭素材料複合体の製造にあっては、酸又はアルカリで処理することによって、多孔質炭素材料を得た後、この多孔質炭素材料に機能性材料を付着させればよい。また、酸又はアルカリでの処理の後、多孔質炭素材料に機能性材料を付着させる前に、賦活処理を施す工程を含めることができる。ここで、機能性材料として、例えば、白金(Pt)、あるいは、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)を挙げることができ、機能性材料の多孔質炭素材料への付着の形態として、微粒子の状態での付着、薄膜の状態での付着を例示することができ、具体的には、多孔質炭素材料の表面(細孔内を含む)に、微粒子として付着している状態、薄膜状に付着している状態、海・島状(多孔質炭素材料の表面を「海」とみなした場合、機能性材料が「島」に相当する)に付着している状態を挙げることができる。尚、付着とは、異種の材料間の接着現象を指す。多孔質炭素材料に機能性材料を付着させる方法として、機能性材料を含む溶液に多孔質炭素材料を浸漬して多孔質炭素材料の表面に機能性材料を析出させる方法、多孔質炭素材料の表面に無電解メッキ法(化学メッキ法)又は化学還元反応にて機能性材料を析出させる方法、機能性材料の前駆体を含む溶液に多孔質炭素材料を浸漬して、熱処理を行うことによって多孔質炭素材料の表面に機能性材料を析出させる方法、機能性材料の前駆体を含む溶液に多孔質炭素材料を浸漬して、超音波照射処理を行うことによって多孔質炭素材料の表面に機能性材料を析出させる方法、機能性材料の前駆体を含む溶液に多孔質炭素材料を浸漬して、ゾル・ゲル反応を行うことによって多孔質炭素材料の表面に機能性材料を析出させる方法を挙げることができる。
【0026】
多孔質炭素材料の製造方法において、上述したとおり、賦活処理を施せば、孔径が2nmよりも小さいマイクロ細孔(後述する)を増加させることができる。賦活処理の方法として、ガス賦活法、薬品賦活法を挙げることができる。ここで、ガス賦活法とは、賦活剤として酸素や水蒸気、炭酸ガス、空気等を用い、係るガス雰囲気下、700゜C乃至1400゜Cにて、好ましくは700゜C乃至1000゜Cにて、より好ましくは800゜C乃至1000゜Cにて、数十分から数時間、多孔質炭素材料を加熱することにより、多孔質炭素材料中の揮発成分や炭素分子により微細構造を発達させる方法である。尚、より具体的には、加熱温度は、植物由来の材料の種類、ガスの種類や濃度等に基づき、適宜、選択すればよい。薬品賦活法とは、ガス賦活法で用いられる酸素や水蒸気の替わりに、塩化亜鉛、塩化鉄、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、硫酸等を用いて賦活させ、塩酸で洗浄、アルカリ性水溶液でpHを調整し、乾燥させる方法である。
【0027】
本開示の多孔質炭素材料等の表面に対して、化学処理又は分子修飾を行ってもよい。化学処理として、例えば、硝酸処理により表面にカルボキシ基を生成させる処理を挙げることができる。また、水蒸気、酸素、アルカリ等による賦活処理と同様の処理を行うことにより、多孔質炭素材料の表面に水酸基、カルボキシ基、ケトン基、エステル基等、種々の官能基を生成させることもできる。更には、多孔質炭素材料と反応可能な水酸基、カルボキシ基、アミノ基等を有する化学種又は蛋白質とを化学反応させることでも、分子修飾が可能である。
【0028】
多孔質炭素材料の製造方法にあっては、酸又はアルカリでの処理によって、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去する。ここで、ケイ素成分として、二酸化ケイ素や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素酸化物を挙げることができる。このように、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去することで、高い比表面積を有する多孔質炭素材料を得ることができる。場合によっては、ドライエッチング法に基づき、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去してもよい。即ち、本開示の多孔質炭素材料等の好ましい形態にあっては、原料として、ケイ素(Si)を含有する植物由来の材料を用いるが、多孔質炭素材料前駆体あるいは炭素質物質に変換する際、植物由来の材料を高温(例えば、400゜C乃至1400゜C)にて炭素化することによって、植物由来の材料中に含まれるケイ素が、炭化ケイ素(SiC)とはならずに、二酸化ケイ素(SiOx)や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素成分(ケイ素酸化物)となる。尚、炭素化する前の植物由来の材料に含まれているケイ素成分(ケイ素酸化物)は、高温(例えば、400゜C乃至1400゜C)にて炭素化しても、実質的な変化は生じない。それ故、次の工程において酸又はアルカリ(塩基)で処理することにより、二酸化ケイ素や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素成分(ケイ素酸化物)が除去される結果、窒素BET法による大きな比表面積の値を得ることができる。しかも、本開示の多孔質炭素材料等の好ましい形態にあっては、天然物由来の環境融和材料であり、その微細構造は、植物由来の材料である原料中に予め含まれるケイ素成分(ケイ素酸化物)を酸又はアルカリで処理し、除去することによって得られる。従って、細孔の配列は植物の有する生体規則性を維持している。
【0029】
上述したとおり、多孔質炭素材料は、植物由来の材料を原料とすることができる。ここで、植物由来の材料として、米(稲)、大麦、小麦、ライ麦、稗(ヒエ)、粟(アワ)等の籾殻や藁、珈琲豆、茶葉(例えば、緑茶や紅茶等の葉)、サトウキビ類(より具体的には、サトウキビ類の絞り滓)、トウモロコシ類(より具体的には、トウモロコシ類の芯)、果実の皮(例えば、オレンジの皮、グレープフルーツの皮、ミカンの皮といった柑橘類の皮やバナナの皮等)、あるいは又、葦、茎ワカメを挙げることができるが、これらに限定するものではなく、その他、例えば、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類、海草を挙げることができる。尚、これらの材料を、原料として、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また、植物由来の材料の形状や形態も特に限定はなく、例えば、籾殻や藁そのものでもよいし、あるいは乾燥処理品でもよい。更には、ビールや洋酒等の飲食品加工において、発酵処理、焙煎処理、抽出処理等の種々の処理を施されたものを使用することもできる。特に、産業廃棄物の資源化を図るという観点から、脱穀等の加工後の藁や籾殻を使用することが好ましい。これらの加工後の藁や籾殻は、例えば、農業協同組合や酒類製造会社、食品会社、食品加工会社から、大量、且つ、容易に入手することができる。
【0030】
本開示の多孔質炭素材料等には、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)や、リン(P)、硫黄(S)等の非金属元素や、遷移元素等の金属元素が含まれていてもよい。マグネシウム(Mg)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、カリウム(K)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、カルシウム(Ca)の含有率として0.05質量%以上3質量%以下、リン(P)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、硫黄(S)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下を挙げることができる。尚、これらの元素の含有率は、比表面積の値の増加といった観点からは、少ない方が好ましい。多孔質炭素材料には、上記した元素以外の元素を含んでいてもよく、上記した各種元素の含有率の範囲も、変更し得ることは云うまでもない。
【0031】
本開示において、各種元素の分析は、例えば、エネルギー分散型X線分析装置(例えば、日本電子株式会社製のJED−2200F)を用い、エネルギー分散法(EDS)により行うことができる。ここで、測定条件を、例えば、走査電圧15kV、照射電流10μAとすればよい。
【0032】
本開示の多孔質炭素材料等は、細孔(ポア)を多く有している。細孔として、孔径が2nm乃至50nmの『メソ細孔』、及び、孔径が2nmよりも小さい『マイクロ細孔』、及び、孔径が50nmを超える『マクロ細孔』が含まれる。具体的には、メソ細孔として、例えば、20nm以下の孔径の細孔を多く含み、特に、10nm以下の孔径の細孔を多く含んでいる。また、マイクロ細孔として、例えば、孔径が1.9nm程度の細孔と、1.5nm程度の細孔と、0.8nm〜1nm程度の細孔とを多く含んでいる。本開示の多孔質炭素材料等において、BJH法による細孔の容積は0.2cm3/グラム以上であることが好ましく、0.4cm3/グラム以上であることが一層好ましく、0.6cm3/グラム以上であることがより一層好ましい。
【0033】
本開示の多孔質炭素材料等において、窒素BET法による比表面積の値(以下、単に、『比表面積の値』と呼ぶ場合がある)は、より一層優れた機能性を得るために、好ましくは50m2/グラム以上、より好ましくは100m2/グラム以上、更に一層好ましくは400m2/グラム以上であることが望ましい。
【0034】
窒素BET法とは、吸着剤(ここでは、多孔質炭素材料)に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータを式(1)で表されるBET式に基づき解析する方法であり、この方法に基づき比表面積や細孔容積等を算出することができる。具体的には、窒素BET法により比表面積の値を算出する場合、先ず、多孔質炭素材料に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、吸着等温線を求める。そして、得られた吸着等温線から、式(1)あるいは式(1)を変形した式(1’)に基づき[p/{Va(p0−p)}]を算出し、平衡相対圧(p/p0)に対してプロットする。そして、このプロットを直線と見なし、最小二乗法に基づき、傾きs(=[(C−1)/(C・Vm)])及び切片i(=[1/(C・Vm)])を算出する。そして、求められた傾きs及び切片iから式(2−1)、式(2−2)に基づき、Vm及びCを算出する。更には、Vmから、式(3)に基づき比表面積asBETを算出する(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第66頁参照)。尚、この窒素BET法は、JIS R 1626−1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準じた測定方法である。
【0035】
a=(Vm・C・p)/[(p0−p){1+(C−1)(p/p0)}] (1)
[p/{Va(p0−p)}]
=[(C−1)/(C・Vm)](p/p0)+[1/(C・Vm)] (1’)
m=1/(s+i) (2−1)
C =(s/i)+1 (2−2)
sBET=(Vm・L・σ)/22414 (3)
【0036】
但し、
a:吸着量
m:単分子層の吸着量
p :窒素の平衡時の圧力
0:窒素の飽和蒸気圧
L :アボガドロ数
σ :窒素の吸着断面積
である。
【0037】
窒素BET法により細孔容積Vpを算出する場合、例えば、求められた吸着等温線の吸着データを直線補間し、細孔容積算出相対圧で設定した相対圧での吸着量Vを求める。この吸着量Vから式(4)に基づき細孔容積Vpを算出することができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第65頁参照)。尚、窒素BET法に基づく細孔容積を、以下、単に『細孔容積』と呼ぶ場合がある。
【0038】
p=(V/22414)×(Mg/ρg) (4)
【0039】
但し、
V :相対圧での吸着量
g:窒素の分子量
ρg:窒素の密度
である。
【0040】
メソ細孔の孔径は、例えば、BJH法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。BJH法は、細孔分布解析法として広く用いられている方法である。BJH法に基づき細孔分布解析をする場合、先ず、多孔質炭素材料に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、脱着等温線を求める。そして、求められた脱着等温線に基づき、細孔が吸着分子(例えば窒素)によって満たされた状態から吸着分子が段階的に着脱する際の吸着層の厚さ、及び、その際に生じた孔の内径(コア半径の2倍)を求め、式(5)に基づき細孔半径rpを算出し、式(6)に基づき細孔容積を算出する。そして、細孔半径及び細孔容積から細孔径(2rp)に対する細孔容積変化率(dVp/drp)をプロットすることにより細孔分布曲線が得られる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第85頁〜第88頁参照)。
【0041】
p=t+rk (5)
pn=Rn・dVn−Rn・dtn・c・ΣApj (6)
但し、
n=rpn2/(rkn−1+dtn2 (7)
【0042】
ここで、
p:細孔半径
k:細孔半径rpの細孔の内壁にその圧力において厚さtの吸着層が吸着した場合のコア半径(内径/2)
pn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔容積
dVn:そのときの変化量
dtn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの吸着層の厚さtnの変化量
kn:その時のコア半径
c:固定値
pn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔半径
である。また、ΣApjは、j=1からj=n−1までの細孔の壁面の面積の積算値を表す。
【0043】
マイクロ細孔の孔径は、例えば、MP法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。MP法により細孔分布解析を行う場合、先ず、多孔質炭素材料に窒素を吸着させることにより、吸着等温線を求める。そして、この吸着等温線を吸着層の厚さtに対する細孔容積に変換する(tプロットする)。そして、このプロットの曲率(吸着層の厚さtの変化量に対する細孔容積の変化量)に基づき細孔分布曲線を得ることができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第72頁〜第73頁、第82頁参照)。
【0044】
JIS Z8831−2:2010 「粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性−第2部:ガス吸着によるメソ細孔及びマクロ細孔の測定方法」、及び、JIS Z8831−3:2010 「粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性−第3部:ガス吸着によるミクロ細孔の測定方法」に規定された非局在化密度汎関数法(NLDFT法,Non Localized Density Functional Theory 法)にあっては、解析ソフトウェアとして、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP−MAX」に付属するソフトウェアを用いる。前提条件としてモデルをシリンダ形状としてカーボンブラック(CB)を仮定し、細孔分布パラメータの分布関数を「no−assumption」とし、得られた分布データにはスムージングを10回施す。
【0045】
多孔質炭素材料前駆体を酸又はアルカリで処理するが、具体的な処理方法として、例えば、酸あるいはアルカリの水溶液に多孔質炭素材料前駆体を浸漬する方法や、多孔質炭素材料前駆体と酸又はアルカリとを気相で反応させる方法を挙げることができる。より具体的には、酸によって処理する場合、酸として、例えば、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム等の酸性を示すフッ素化合物を挙げることができる。フッ素化合物を用いる場合、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分におけるケイ素元素に対してフッ素元素が4倍量となればよく、フッ素化合物水溶液の濃度は10質量%以上であることが好ましい。フッ化水素酸によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、二酸化ケイ素は、化学式(A)又は化学式(B)に示すようにフッ化水素酸と反応し、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)あるいは四フッ化ケイ素(SiF4)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
【0046】
SiO2+6HF → H2SiF6+2H2O (A)
SiO2+4HF → SiF4+2H2O (B)
【0047】
また、アルカリ(塩基)によって処理する場合、アルカリとして、例えば、水酸化ナトリウムを挙げることができる。アルカリの水溶液を用いる場合、水溶液のpHは11以上であればよい。水酸化ナトリウム水溶液によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、水酸化ナトリウム水溶液を熱することにより、二酸化ケイ素は、化学式(C)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。また、水酸化ナトリウムを気相で反応させて処理する場合、水酸化ナトリウムの固体を熱することにより、化学式(C)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
【0048】
SiO2+2NaOH → Na2SiO3+H2O (C)
【0049】
あるいは又、本開示における多孔質炭素材料等として、例えば、特開2010−106007に開示された空孔が3次元的規則性を有する多孔質炭素材料(所謂、逆オパール構造を有する多孔質炭素材料)、具体的には、1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料、好ましくは、巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されており、あるいは又、巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料を用いることもできる。
【実施例1】
【0050】
実施例1は、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体に関する。
【0051】
実施例1の液体塗布用繊維複合体は、本開示の第1の態様に係る液体塗布用繊維複合体に則って表現すると、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上、より好ましくは0.6cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る。また、本開示の第2の態様に係る液体塗布用繊維複合体に則って表現すると、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法(NLDFT法)によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計(便宜上、『容積A』と呼ぶ)が0.5cm3/グラム以上、好ましくは1.0cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る。更には、本開示の第3の態様に係る液体塗布用繊維複合体に則って表現すると、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計(容積Aに相当する)の0.2以上、好ましくは0.4以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る。
【0052】
実施例1にあっては、液体塗布用繊維複合体は、化粧用コットンといった形態を有する。繊維質部材は、綿(コットン)から成る不織布から構成されており、平面形状は矩形である。具体的には、周知の方法に基づき、繊維質部材を構成する繊維(綿)に予め練り込み、紡糸し、不織布とすることで、実施例1の液体塗布用繊維複合体を得ることができる。
【0053】
そして、実施例1にあっては、液体を繊維質部材に含ませて、液体を塗布する。より具体的には、周知の化粧水といった液体を繊維質部材に含ませて、この繊維質部材を使用者の顔面や腕、手足等の肌に当てることで、これらに液体(化粧水)を塗布・付着させる。ここで、液体(化粧水)を多孔質炭素材料と接触させることで液体(化粧水)に含まれる酸化ストレス物質を除去し、あるいは又、液体(化粧水)を多孔質炭素材料と接触させることで液体(化粧水)の酸化還元電位を低下させる。即ち、抗酸化性といった特質を液体(化粧水)に付与する。
【0054】
実施例1にあっては、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を米(稲)の籾殻とした。そして、実施例1における多孔質炭素材料は、原料としての籾殻を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得られる。以下、実施例1における多孔質炭素材料の製造方法を説明する。
【0055】
実施例1における多孔質炭素材料の製造においては、植物由来の材料(ケイ素の含有率:約20質量%)を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸又はアルカリで処理することによって、多孔質炭素材料を得た。即ち、先ず、籾殻に対して、不活性ガス中で加熱処理(予備炭素化処理)を施す。具体的には、籾殻を、窒素気流中において500゜C、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得た。尚、このような処理を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で800゜Cまで昇温させた。そして、800゜Cで1時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却した。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続けた。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄した。次いで、120°Cにて乾燥させた後、900゜Cで水蒸気気流中(5リットル/分)にて3時間加熱させることで賦活処理を行うことで、実施例1の多孔質炭素材料(ケイ素の含有率:約0.5質量%)を得ることができた。
【0056】
比較例1として、和光純薬株式会社製の活性炭を使用した。
【0057】
比表面積及び細孔容積を求めるための測定機器として、BELSORP−mini(日本ベル株式会社製)を用い、窒素吸脱着試験を行った。測定条件として、測定平衡相対圧(p/p0)を0.01〜0.99とした。そして、BELSORP解析ソフトウェアに基づき、比表面積及び細孔容積を算出した。また、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔径分布は、上述した測定機器を用いた窒素吸脱着試験を行い、BELSORP解析ソフトウェアによりBJH法及びMP法に基づき算出した。多孔質炭素材料の細孔を水銀圧入法にて測定した。具体的には、水銀ポロシメーター(PASCAL440:Thermo Electron社製)を用いて、水銀圧入法測定を行った。細孔測定領域を10μm〜2nmとした。更には、非局在化密度汎関数法(NLDFT法)に基づく測定にあっては、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP−MAX」を使用した。尚、測定に際しては、試料の前処理として、200゜Cで3時間の乾燥を行った。
【0058】
実施例1の多孔質炭素材料、後述する実施例2の多孔質炭素材料複合体、及び、比較例1の活性炭について、比表面積及び細孔容積を測定したところ、表1に示す結果が得られた。尚、表1中、「比表面積」は窒素BET法による比表面積の値を指し、単位はm2/グラムである。また、「MP法」、「BJH法」、「水銀圧入法」は、MP法による細孔(マイクロ細孔)の容積測定結果、BJH法による細孔(メソ細孔〜マクロ細孔)の容積測定結果、水銀圧入法による細孔の容積測定結果を示し、単位はcm3/グラムである。更には、NLDFT法に基づく測定を行った結果を表2に示す。尚、全細孔の容積総計の値は、上記の容積Aの値に相当する。
【0059】
[表1]
比表面積 BJH法 MP法 水銀圧入法
実施例1 1700 1.08 0.60 4.12
実施例2 1286 0.65 0.50
比較例1 982 0.08 0.38 1.10
【0060】
[表2]
容積割合 全細孔の容積総計(容積A)
実施例1 0.479 1.33cm3/グラム
実施例2 0.432 1.38cm3/グラム
比較例1 0.125 0.40cm3/グラム
【0061】
実施例1の多孔質炭素材料、実施例2の多孔質炭素材料複合体、及び、比較例1の活性炭の水中でのヒドロキシルラジカル(OH・)の除去量を、電子スピン共鳴装置(ESR)で測定した。具体的には、50ミリリットルのヒドロキシルラジカル発生水溶液中に15ミリグラムの試料を添加し、1分間撹拌した後、溶液をESRにて測定した。その結果、比較例1を「1」とした場合のヒドロキシルラジカルの相対除去量は、実施例1にあっては3.2であった。また、後述する実施例2にあっては7.4であった。
【0062】
また、実施例1の多孔質炭素材料、実施例2の多孔質炭素材料複合体、及び、比較例1の活性炭を用いたときの水のpH、酸化還元電位の測定結果を、以下の表3に示す。更には、参考のため、水道水等の酸化還元電位の測定結果も、以下の表3に示す。
【0063】
[表3]
添加前のpH 添加後のpH
実施例1 7.1 9.3
比較例1 7.1 6.4
添加前の酸化還元電位 添加後の酸化還元電位
実施例1 333mV 142mV
比較例1 333mV 297mV
酸化還元電位
水道水 547mV
蒸留水 333mV
市販天然水A 321mV
市販天然水B 258mV
【0064】
また、実施例1の多孔質炭素材料及び比較例1の活性炭の添加量とpHの関係を調べた結果を、図1のグラフに示す。更には、実施例1の多孔質炭素材料及び比較例1の活性炭の添加量と酸化還元電位の関係を図2のグラフに示す。尚、20ミリリットルの蒸留水に対して、試料を、300ミリグラム、150ミリグラム、70ミリグラム、30ミリグラム、10ミリグラム、添加し、1分間撹拌し、濾過後の水の酸化還元電位及びpHを測定した。
【0065】
実施例1にあっては、比較例1と比較して、多孔質炭素材料を添加した後の水のpHの値が上昇し、添加後の酸化還元電位の値が大幅に低下している。しかも、上述したとおり、ヒドロキシルラジカルの相対除去量が3.2であり、高い効率にてヒドロキシルラジカルを除去することができることが判った。
【実施例2】
【0066】
実施例2は、実施例1の変形であり、多孔質炭素材料複合体に関する。実施例2にあっては、機能性材料として、多孔質炭素材料に付着した金属系材料(具体的には、白金微粒子,白金ナノ粒子)を用いた。多孔質炭素材料は、実施例1において説明したと概ね同様の方法に基づき製造した。
【0067】
より具体的には、実施例2にあっては蒸留水182ミリリットルに対して5ミリモルのH2PtCl6水溶液を8ミリリットル、L−アスコルビン酸(表面保護剤)を3.5ミリグラム添加して、暫く撹拌した。その後、実施例1において説明した多孔質炭素材料を0.43グラム添加して、20分間、超音波照射した後、40ミリモルのNaBH4水溶液を10ミリリットル加え、3時間撹拌した。その後、吸引濾過し、120゜Cで乾燥させることによって、黒色の粉末試料である実施例2の多孔質炭素材料複合体を得た。そして、実施例1と同様の方法で、液体塗布用繊維複合体である化粧用コットンを作製した。
【0068】
実施例2にあっても、液体を繊維質部材に含ませて、液体を塗布する。より具体的には、周知の化粧水といった液体を繊維質部材に含ませて、この繊維質部材を使用者の顔面や腕、手足等の肌に当てることで、これらに液体(化粧水)を塗布・付着させる。ここで、液体(化粧水)を多孔質炭素材料と接触させることで液体(化粧水)に含まれる酸化ストレス物質を除去し、あるいは又、液体(化粧水)を多孔質炭素材料と接触させることで液体(化粧水)の酸化還元電位を低下させる。即ち、抗酸化性といった特質を液体(化粧水)に付与する。
【0069】
実施例2にあっては、上述したとおり、ヒドロキシルラジカルの相対除去量が7.4であり、実施例1よりも更に高い効率にてヒドロキシルラジカルを除去することができることが判った。
【0070】
以上、好ましい実施例に基づき本開示を説明したが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。実施例にあっては、多孔質炭素材料の原料として、籾殻を用いる場合について説明したが、他の植物を原料として用いてもよい。ここで、他の植物として、例えば、藁、葦あるいは茎ワカメ、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類及び海草等を挙げることができ、これらを、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。具体的には、例えば、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲の藁(例えば、鹿児島産;イセヒカリ)とし、多孔質炭素材料を、原料としての藁を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。あるいは又、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲科の葦とし、多孔質炭素材料を、原料としての稲科の葦を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。また、フッ化水素酸水溶液の代わりに、水酸化ナトリウム水溶液といったアルカリ(塩基)にて処理して得られた多孔質炭素材料においても、同様の結果が得られた。尚、多孔質炭素材料あるいは多孔質炭素材料複合体の製造方法は、実施例1、実施例2と同様とすることができる。
【0071】
あるいは又、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を茎ワカメ(岩手県三陸産)とし、多孔質炭素材料を、原料としての茎ワカメを炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。具体的には、先ず、例えば、茎ワカメを500゜C程度の温度で加熱し、炭化する。尚、加熱前に、例えば、原料となる茎ワカメをアルコールで処理してもよい。具体的な処理方法として、エチルアルコール等に浸漬する方法が挙げられ、これによって、原料に含まれる水分を減少させると共に、最終的に得られる多孔質炭素材料に含まれる炭素以外の他の元素や、ミネラル成分を溶出させることができる。また、このアルコールでの処理により、炭素化時のガスの発生を抑制することができる。より具体的には、茎ワカメをエチルアルコールに48時間浸漬する。尚、エチルアルコール中では超音波処理を施すことが好ましい。次いで、この茎ワカメを、窒素気流中において500゜C、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得る。尚、このような処理(予備炭素化処理)を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で1000゜Cまで昇温する。そして、1000゜Cで5時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却する。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続ける。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄する。そして、最後に乾燥させることにより、多孔質炭素材料を得ることができる。
【0072】
また、ナトリウム、マグネシウム、カリウム及びカルシウムから成る群から選択された少なくとも1種類の成分を含む植物(具体的には、例えば、ミカンの皮、オレンジの皮、グレープフルーツの皮といった柑橘類の皮、バナナの皮)を原料とした多孔質炭素材料とすれば、多孔質炭素材料から水にミネラル成分を多く溶出させることができ、水の硬度の制御を行うことができる。尚、この場合、多孔質炭素材料には、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)及びカルシウム(Ca)が、合計で0.4質量%以上を含まれることが好ましい。
【0073】
尚、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
[1]《液体塗布用繊維複合体:第1の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る液体塗布用繊維複合体。
[2]《液体塗布用繊維複合体:第2の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.5cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る液体塗布用繊維複合体。
[3]《液体塗布用繊維複合体:第3の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る液体塗布用繊維複合体。
[4]多孔質炭素材料には機能性材料が付着している[1]乃至[3]のいずれか1項に記載の液体塗布用繊維複合体。
[5]液体を繊維質部材に含ませて、液体を塗布する[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の液体塗布用繊維複合体。
[6]液体を多孔質炭素材料と接触させることで、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する[5]に記載の液体塗布用繊維複合体。
[7]液体を多孔質炭素材料と接触させることで、液体の酸化還元電位を低下させる[5]に記載の液体塗布用繊維複合体。
[8]多孔質炭素材料の原料は、ケイ素を含有する植物由来の材料である[1]乃至[7]のいずれか1項に記載の液体塗布用繊維複合体。
[9]多孔質炭素材料のケイ素の含有率は1質量%以下である[8]に記載の液体塗布用繊維複合体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る液体塗布用繊維複合体。
【請求項2】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.5cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る液体塗布用繊維複合体。
【請求項3】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を含んだ繊維質部材から成る液体塗布用繊維複合体。
【請求項4】
多孔質炭素材料には機能性材料が付着している請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液体塗布用繊維複合体。
【請求項5】
液体を繊維質部材に含ませて、液体を塗布する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液体塗布用繊維複合体。
【請求項6】
液体を多孔質炭素材料と接触させることで、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する請求項5に記載の液体塗布用繊維複合体。
【請求項7】
液体を多孔質炭素材料と接触させることで、液体の酸化還元電位を低下させる請求項5に記載の液体塗布用繊維複合体。
【請求項8】
多孔質炭素材料の原料は、ケイ素を含有する植物由来の材料である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液体塗布用繊維複合体。
【請求項9】
多孔質炭素材料のケイ素の含有率は1質量%以下である請求項8に記載の液体塗布用繊維複合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−156(P2013−156A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130967(P2011−130967)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】