説明

液体容器およびそれを用いた自動分注装置

【課題】 高感度分析用試薬の温調が可能で、試薬のクロスコンタミネーションがなく、外気中の雑菌やその他の汚染物質の影響を受けることなく、迅速かつ高精度に分注可能な液体容器およびそれを用いた自動分注装置を提供すること。
【解決手段】 1つ以上の開口部を設けた液密性および気密性を有する可撓性容器と、前記開口部の1つと液密に接続可能で可撓性容器に収容された液体を取り出し可能なポートと、所定量の液体の温調が可能な液体貯留部と、ポートから取り出された液体の吸引/吐出を行なうポンプと、液体を吐出するためのノズルと、を備えた液体容器、および前記容器を備えた自動分注装置により前記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の生体試料中の微量成分を測定する自動分析装置に搭載される液体容器およびそれを用いた自動分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の臨床検査、特に免疫化学検査は、血液中微量成分の迅速、高感度かつ特異的な測定により疾病の早期診断や治療に貢献している。しかし、これらの検査に用いられる高感度測定用試薬は、コンタミネーション(汚染)物質に対して非常に敏感なものが多く、例えば、配管などの汚れ、空気中の雑菌、水や接液部に含まれる微量金属などにより試薬が分解し、その結果、正確な測定値が得られなくなることがよくある。自動分析装置においては、このような高感度測定用試薬を装置上で分注する場合、通常試薬を分注する場合と同様、ピペッティング方式またはディスペンシング方式で分注するのが一般的である。
【0003】
ピペッティング方式の分注では、例えば、試薬テーブルにセットされた複数の試薬容器から、共通ノズルにより所定量の試薬を吸引後、所定の場所にセットされた反応容器に吐出して分注する。しかしながら、共通ノズルを用いたピペッティング方式でそれぞれ異なる試薬を分注する場合、ある試薬の吸引/吐出後、別の試薬の吸引までにノズルを洗浄する必要がある。前記ノズル洗浄は、試薬間のクロスコンタミネーションを回避するために時間を十分にかけて行なう必要があるので、測定に要する時間が長くなる。また、共通ノズルを洗浄するための洗浄液も大量に消費するため、廃液処理の問題が生じる。さらに、ノズル洗浄が不十分であると、試薬のキャリーオーバーにより正確な測定値が得られないという重大な問題につながる。共通ノズルの代わりにディスポーザブルチップを用いたピペッティング方式を採用した場合、共通ノズルの洗浄操作は不要となるが、ディスポーザブルチップのノズルヘッドへの装着および吸引/吐出後の脱着操作に時間がかかる問題が新たに発生する。また、チップは原則1回の吸引/吐出ごとに廃棄するため、ランニングコストが高くなる問題も発生する。
【0004】
ディスペンシング方式では、例えば、試薬容器から専用ノズルに至るまで、ポンプや弁などを介した配管接続によりポンプの吸引/吐出動作を行ない、試薬を分注する。ディスペンシング方式では、例えば、各試薬ボトルに専用の試薬分注ノズルをセットして試薬を分注する。そのため、ノズルの移動に要する時間が省かれるため分注時間が短く、また試薬のクロスコンタミネーションもなくなるという利点がある。しかしながら、試薬容器から専用ノズルにいたるまで、ポンプや電磁弁などの分注用ユニットを介した配管接続により装置が構成されるため、デッドボリュームが大きいという問題がある。また、配管の定期洗浄や部品の定期交換といったメンテナンスを定期的に必要とする。特に、配管中の汚染物質による影響を敏感に受ける高感度測定用試薬を分注する場合は、前記メンテナンスを頻繁に行なう必要がある。
【0005】
上記分注方式の改良法として、試薬容器と分注シリンジが一体となった分注容器を用いた自動分析装置が特許文献1に開示されている。なお、特許文献1は複数個の試薬分注容器を配置したターンテーブルを回転駆動しつつ試薬分注を行なうことにより、分注時間が短く、ランダムアクセスに適し、クロスコンタミネーションの発生のおそれがない自動化学分析装置を開示している。
【0006】
通常、熱安定性の低い成分を含んだ試薬は、試薬容器中で10℃前後に保冷されている。したがって、反応温度が室温より高い37℃といった条件で反応を行なう際に、反応容器に試薬容器中の試薬をいきなり分注すると、反応温度に達するまでに時間がかかる。そのため、反応容器への分注前に反応温度または反応温度近くまで試薬を加温する必要がある。ディスペンシング方式で試薬を分注する場合は、吐出配管の手前に一定容量の液体貯留部を設け、貯留部中の試薬を加温するなどのデバイスを搭載するのは容易である。一方、ピペッティング方式で試薬を分注する場合、共通ノズルを用いた場合は共通ノズルによる吸引により試薬を加温部に導いた後、一定時間待機して吐出する必要があり、加温に時間がかかる。また、試薬吐出後、共通ノズルおよび加温部をその都度洗浄しなければならないため、共通ノズル単独の場合に比べてさらに洗浄時間が長くなり実用的とはいえない。ディスポーザブルチップを用いた場合も、試薬吸引後、試薬の充填されたチップ部分を加温する必要があるため、吐出前に長時間待機させる必要があることに変わりはなく、この方法も実用的であるとはいえない。なお、分注方式の改良法として開示されている特許文献1の分注容器は、容器構造的にみても、試薬を部分的に加温できるようにはなっていない。また特許文献1で開示の分注容器は、その形状から推測すると所定量の試薬が吐出されたあと、その吐出量に相当する外気が容器内に混入される方式(直圧式)になっているため、外気からのコンタミネーションにより空気酸化されやすい試薬や空気中の雑菌により容易に分解する試薬には適用困難である。
【0007】
空気中の雑菌などによるコンタミネーションを回避する分注容器として、特許文献2で開示のいわゆるエアレス容器があげられる。エアレス容器とは、容器内の液体を静圧下で吐出すると液体の吐出量に相当する外気が容器内に導入される直圧式容器とは異なり、容器中の液体が吐出されたことによる内圧の変化を液体収容体積の減少によりキャンセルが可能な容器である。そのためエアレス容器は、液体中に外気に接触すると分解などの悪影響を受けやすい成分を含んでいる場合に用いられる。特許文献2のエアレス容器で使用するポンプの基本構造は、ノズルヘッド下部にステムと呼ばれる押し棒と、それに結合されたピストンが、シリンダーハウジングに内蔵されているスプリングにより昇降可能なように配置されている。前記ピストンの周辺部にはシーリング部材が設けてあり、さらにシリンダーハウジングの内部の下端にはボール状のチェックバルブが配置されており、その下端に開口部が形成されている。前記構造により、吐出口を設けた分注ヘッドを片手で下方に移動させる操作により、所定量の分注ができる。特許文献2のエアレス容器では、分注操作は片手で可能であり、ノズルヘッドを指先で押して、もう片方の手に液剤を吐出することが可能である。さらにエアレス容器内の液体を分注直前に加温する技術として、エアレス容器の分注ノズル部にヒータを設けてノズル通路内の液状物を迅速に加温する機構を搭載した分注器が特許文献3に開示されている。しかしながら、特許文献2および3で開示の容器のおもな用途は化粧品および洗剤の分注ならびに保存であるため、分注に高い精度は要求されない。また、多くの場合、前記ポンプを構成するボール状チェックバルブを押さえているバネの耐久性が低く、吐出回数を重ねるにしたがってボール状チェックバルブとシリンダー、またはシリンダーとピストンシーリング部材との密着性が低下しやすくなることから、構造上の点からも、特許文献2および3で開示の容器は、高い分注精度が要求される分析用試薬の容器に適用できるものではない。また、バルブの押さえに使用しているバネは、通常、液体試薬に接液している。そのため、金属製のバネを使用した場合は、前記金属によって分解される成分を含んだ液体試薬には適用できない。さらに、特許文献3に開示の保温機構は、ノズルヘッド中に、ヒータを配管に並設または包囲した状態で収容しているため、この部分をディスポーザブルにするのは困難であり、配管が汚染された場合は、分解して洗浄、あるいは配管の交換をしなければならない、などの煩わしいメンテナンスが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−086509号公報
【特許文献2】特開2005−350144号公報
【特許文献3】特開2005−218985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、試薬のクロスコンタミネーションがなく、外気中の雑菌やその他の汚染物質の影響を受けることなく、高感度分析用試薬を温調可能で、かつ迅速、高精度に分注可能な液体容器およびそれを用いた自動分注装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明は、以下の発明を包含する:
第一の発明は、
1つ以上の開口部を設けた、液密性および気密性を有する可撓性容器と、
前記開口部の1つと液密に接続可能で、可撓性容器に収容された液体を取り出し可能なポートと、
所定量の液体の温調が可能な液体貯留部と、
ポートから取り出された液体の吸引/吐出を行なうポンプと、
液体を吐出するためのノズルと、
を備えた液体容器である。
【0011】
第二の発明は、ポートとポンプの吸引側との間に前記液体貯留部を備えており、ポンプの吐出側に前記ノズルを備えている、第一の発明に記載の液体容器である。
【0012】
第三の発明は、ポートに設けた、前記可撓性容器の開口部の1つと前記液体貯留部とを連通する流路の軸が、前記開口部の1つとポンプの吸引側とを結ぶ軸に対して傾斜している、第二の発明に記載の液体容器である。
【0013】
第四の発明は、ポンプの吐出側とノズルとの間に前記液体貯留部を備えている、第一の発明に記載の液体容器である。
【0014】
第五の発明は、
ポンプが、吸引部と吐出部を設けた円筒部と、前記円筒部の側面から前記円筒部に対して垂直方向に分岐した分岐部とから構成され、
前記円筒部に設けた吸引部および吐出部にはそれぞれ1つ以上の逆止弁が設けられ、
前記分岐部にはスプリングで弾持された摺動可能なピストンが設けられた、ポンプである、第一から第四の発明のいずれかに記載の液体容器である。
【0015】
第六の発明は、
1つ以上の開口部を設けた液密性および気密性を有する可撓性容器と、前記開口部の1つと液密に接続可能で可撓性容器に収容された液体を取り出し可能なポートと、所定量の液体の温調が可能な液体貯留部と、ポートから取り出された液体の吸引/吐出を行なうポンプと、液体を吐出するためのノズルと、を備えた液体容器と、
液体貯留部中の液体を温度制御する手段と、
ポンプを駆動して液体を分注する手段と、
液体容器を所定の分注位置まで移動する手段と、
を備えた、自動分注装置である。
【0016】
以下本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の液体容器における可撓性容器は、1つ以上の開口部を設け、液密性および気密性を有し、吐出内圧に応じて収縮可能な容器であればよい。なお、前記開口部のうちの1つは後述するポートを接続するための開口部である。可撓性容器に液体を充填する場合、前記ポートを接続するための開口部から充填してもよいが、充填するための開口部を別途設け、そこから液体を充填後密栓してもよい。また、液体充填後に液体の脱気を必要とする場合は、窒素やヘリウムなどをバブリングするための、さらに別の開口部を設けてもよい。また、ここでいう液密性とは、液体透過性が全くない、またはほとんどないという意味であり、気密性とは、気体透過性が全くない、またはほとんどないという意味である。前記可撓性容器の材料としては、一般に用いられる液体透過性および気体透過性がない材料の中から適宜選択すればよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂や、これらの異なる樹脂層を積層したシートを例示することができる。前記可撓性容器の容量は、一回の分注量や必要な分注数、または設置する装置のスペースなどを考慮の上、適宜選択すればよいが、通常は10から1000mLの範囲から選択する。なお、前記可撓性容器に収容する液体が遮光性を要する液体である場合、前述した液体透過性および気体透過性がない材料の中から選ばれる1つまたは2つ以上の層からなるシートに、さらにアルミニウム層を含むシートを設けたシートからなる可撓性容器とすると、より好ましい。前記シートの一態様として、可撓性容器の外側から、PET、アルミニウム、ポリエチレンの順に各材料の薄層を積層したシートがあげられる。前記一態様からなる可撓性容器は、液密性および気密性を有するのはもちろん、遮光性、強靭性、耐熱性、耐ピンホール性、シール性なども、通常の樹脂製容器と比較して向上している。
【0018】
本発明の液体容器におけるポートは、可撓性容器の開口部の1つと液密に接続可能で、可撓性容器に収容された液体を後述する液体貯留部または後述するポンプに導入するための流路を設けていればよく、例えば、可撓性容器の開口部の1つと液密に接続できるようにポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂を用いて中空円筒状に成形して製造することができる。可撓性容器の開口部とポートとを液密に接続する際は、ポートを可撓性容器の開口部にそのまま嵌合することで接続してもよいが、可撓性容器を構成する樹脂とポートを構成する樹脂との熱融着により接続するのが高い液密性が得られる点で好ましい。熱融着により可撓性容器の開口部とポートとを接続する場合は、ポートを構成する樹脂を可撓性容器を構成する樹脂(可撓性容器が多層シート状の場合は最も内側の樹脂)と同じ樹脂とすると、より好ましい。ポートに設けられた流路の液体が流れる方向(以下、流路の軸とする)は、可撓性容器の開口部の1つと後述する液体貯留部または後述するポンプとを連通可能であれば、可撓性容器の開口部の1つと後述するポンプの吸引側とを結ぶ軸と同じであってもよいし、傾斜していてもよい。
【0019】
本発明の液体容器におけるポートの可撓性容器への接続は、可撓性容器の底面に配置した開口部とポートとを接続してもよいし、可撓性容器の側面に配置した開口部とポートとを接続してもよい。ポートを可撓性容器の側面に配置した開口部と接続する場合、例えば、鉤状に成形したポートを可撓性容器の側面に配置した開口部と接続することで後述する液体貯留部または後述するポンプとが接続できるようにすればよい。
【0020】
本発明の液体容器における液体貯留部は、ポートまたは後述のポンプより導入された液体を温調するために所定量の液体を一時貯留する槽であり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂で成形することにより製造することができる。液体貯留部の容量は分注量の一倍から数十倍の容量であればよい。また、液体貯留部は、後述する液体貯留部中の液体を温度制御する手段により、液体貯留部中の液体の温度調節が容易に行なえる構造であると好ましい。なお、液体貯留部中の液体を温度制御する手段がアルミブロックに温調素材を貼りつけた構造からなる手段の場合は、熱伝導率を向上させるという点から液体貯留部はアルミブロックに密着でき、かつ強度が保てる範囲で極力肉薄な構造とすると、より好ましい。
【0021】
本発明の液体容器における液体貯留部は、ポートと後述するポンプの吸引部との間に備えてもよいし、後述するポンプの吐出部とノズルとの間に備えてもよい。なお、液体貯留部をポートと後述するポンプの吸引部との間に備えた場合、ポートに設けた可撓性容器の開口部の1つと液体貯留部とを連通する流路の軸が、前記開口部の1つとポンプの吸引側とを結ぶ軸に対して傾斜していると、前記流路と液体貯留部との接続部と、液体貯留部と後述するポンプの吸引部との接続部とがずれた位置となるため、液体貯留部中の液体の撹拌効果が大きくなり、温度勾配が生じにくくなる点で好ましい。ちなみに液体貯留部は、ポートまたは後述するポンプとの一体成形物としてもよいし、独立に成形後ポートまたは後述するポンプと着脱可能に接続してもよい。
【0022】
ポートおよび液体貯留部との一体成形物を製造する方法の一例として、底部に液体貯留部を設け、可撓性容器の開口部の1つと液体貯留部とを連通する中空部を設けたブロックに、前記中空部の径方向に液密に密着可能で、かつ可撓性容器の開口部の1つと液体貯留部との連通が可能な流路を設けたブロックを挿入して製造する方法があげられる。なお、前記製造方法において、挿入するブロックの形状は、中空円筒形、あるいは中空糸巻き形が例示できる。また、ブロックの材質は、ポートの材質と同様ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂が好ましい。
【0023】
本発明の液体容器における液体貯留部を、ポートと後述するポンプの吸引部との間に備えた場合、液体貯留部にて温調(加温)された液体が対流によって容器本体の方へ拡散し、可撓性容器に収容された液体の温度が著しく変化する(上昇する)可能性がある。これを回避することを目的に、ポートと液体貯留部との間にさらに逆止弁を設けてもよい。また、液体貯留部を後述するポンプの吐出部とノズルとの間に備えた場合、液体貯留部にて温調(加温)された液体が液膨張によりノズル先端から漏れる可能性がある。これを回避することを目的に、液体貯留部とノズルとの間にさらに逆止弁を設けてもよい。しかし、液体貯留部とノズルとの間に逆止弁を設ける場合、液体貯留部の容積を上げるとノズル先端部の液切れの悪さにより分注精度が低下する可能性があるため、液体貯留部の容積は分注量の1倍から数倍程度にとどめるのが好ましい。
【0024】
本発明の液体容器におけるポンプは、ポートを経由して取り出された可撓性容器に収容された液体を吸引し、ノズルへ吐出可能なものであればよい。前記ポンプの好ましい態様として、
吸引部と吐出部を設けた円筒部と、前記円筒部の側面から前記円筒部に対して垂直方向に分岐した分岐部とから構成され、
前記円筒部に設けた吸引部および吐出部にはそれぞれ1つ以上の逆止弁が設けられ、
前記分岐部にはスプリングで弾持された摺動可能なピストンが設けられた、
ポンプがあげられる。
前記好ましいポンプは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂で成形されたT字管のうち、上下(または左右)方向に連通する口のそれぞれに1つ以上の逆止弁を設けることで吸引部と吐出部を作製し、スプリングで弾持された摺動可能なピストンを逆止弁を設けない口(分岐部)に挿入することで製造することができる。ポンプに設ける逆止弁は、バネ式、ボール式、ダイアフラム式、ダックビル式などが例示されるが、シール性がよく、かつ分注する液体との接液試験により分注する液体による分解などの問題がない材料のものであれば、特に限定はない。ポンプに設けるピストンは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂で成形することで製造することができる。分岐部とピストンとを液密かつ摺動可能に接続するには、例えば、熱可塑性エラストマーやゴムなどで成形されたピストンヘッドをピストン先端部にねじ込む、または嵌合させるなどの方法で取り付けて接続すればよい。またピストンを分岐部内に弾持させるためのスプリングの材料は、ステンレスなどの金属または樹脂が例示できるが、強度および耐久性の面から金属が好ましい。またスプリングは、液体と接触しない位置に設ける方が、液体によるスプリングの劣化を考慮に入れなくてもよい点で、より好ましい。
【0025】
液体貯留部、ポンプおよびノズルなどの各部品の接続は、前述したポートを可撓性容器の底面に配置した開口部の1つに取り付ける場合と同様、ポートの液体排出口側に各部品を直列に接続してもよいし、ポートの液体排出口側に少なくとも2つの部品が一体成形されたものを直列に接続してもよい。
【0026】
本発明の液体容器を用いた場合における、可撓性容器に収容された液体の吐出量は、通常10から1000μLの範囲での容量固定分注となる。なお、吐出量を変えて分注したい場合は、ポートまたは液体貯留部と着脱可能に接続されたポンプを、吐出量の異なるポンプに交換するなどすればよい。
【0027】
本発明の液体容器の好ましい態様は、液体を収容した可撓性容器が硬質材で形成された容器カバーで覆われた液体容器である。前記好ましい態様で用いる容器カバーは、軟質材で形成された可撓性容器を覆った際に、手で負荷をかけても可撓性容器が変形しない程度に強度を持たせたものであればよく、材料としては、PET、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂で成形されたものが例示できる。さらに、容器カバーの強度をあげる方法として、単純に容器カバーを肉厚にしたり、リブ状に成形する方法が例示できる。また、容器カバーの色は、中に入れた可撓性容器の収縮状態が目視で確認する必要がある場合は、無着色の樹脂とするのが好ましいが、可撓性容器を目視で確認する必要がなければ、顔料や染料などで着色してもよい。
【0028】
本発明の液体容器に収容する液体が遮光性を要する液体である場合は、前記ポート、液体貯留部、ポンプおよびノズルの樹脂成形部に用いる樹脂(ポリエチレンやポリプロピレンなど)は、例えばカーボンブラックやチタンブラックといった光吸収性の高い顔料などを含有した樹脂を用いると好ましい。
【0029】
本発明の液体容器は、ディスポーザブルにしても、再使用してもよいが、再使用により接液部に蓄積された汚れや液体に含まれる成分の分解物によりその後の分析に影響を与える液体の場合は、ディスポーザブルにした方が好ましい。
【0030】
本発明の自動分注装置は、本発明の液体容器と、本発明の液体容器に備えた液体貯留部中の液体を温度制御する手段と、本発明の液体容器に備えたポンプを駆動して液体を分注する手段と、本発明の液体容器を所定の分注位置まで移動する手段と、を備えていることを特徴としている。前記液体貯留部中の液体を温度制御する手段としては、例えば、液体貯留部の外壁の一部に密着するようにアルミブロックを設け、これに温調素材を密着させたものがあげられる。温調素材は特に限定されないが、加温または冷却を行なう場合は電子温調素子(例えばペルチェ素子)、加温のみ行なう場合はカートリッジヒータやシリコンラバーヒータなどを例示することができる。前記ポンプを駆動して液体を分注する手段としては、前記ポンプに設けたピストンを押動する手段が例示でき、具体的には、モータの回転駆動を往復運動方向に変換後、往復運動を押し棒に伝え、前記押し棒によりピストンを連続的に吸引/吐出動作させる手段があげられる。
【0031】
本発明の液体容器は、前述した自動分注装置の構成要素の一つとして用いても、また液体容器単独で用いてもよい。本発明の液体容器を単独で用いる場合は、手動による吐出動作を容易に行なえるように、可撓性容器本体を硬質材で形成された容器カバーで覆い、さらにピストンエンドを指先に密着する形状にするなどの工夫をすると好ましい。
【発明の効果】
【0032】
1つ以上の開口部を設けた、液密性および気密性を有する可撓性容器と、前記開口部の1つと液密に接続可能で可撓性容器に収容された液体を取り出し可能なポートと、所定量の液体の温調が可能な液体貯留部と、ポートから取り出された液体の吸引/吐出を行なうポンプと、液体を吐出するためのノズルと、を備えた本発明の液体容器、および
本発明の液体容器と、前記液体貯留部中の液体を温度制御する手段と、前記ポンプを駆動して液体を分注する手段と、前記液体容器を所定の分注位置まで移動する手段と、
を備えた、本発明の自動分注装置により、下記に示す効果を得ることができる。
【0033】
(1)液体貯留部を設けて液体を温調することにより、温調による液体の劣化を最小限に留めることができ、また反応容器に液体を分注してから所定の反応温度に到達するまでの時間を短縮することができるため、反応の効率化が図れる。
【0034】
(2)液体容器毎に専用の分注系をもち、分注系を含む液体容器全体をディスポーザブルにできるため、分注配管の洗浄やメンテナンスに労力をかけることなく、液体間キャリーオーバーや分注配管内の汚染物による影響を回避することができる。
【0035】
(3)本発明の液体容器はいわゆるエアレス容器であるため、オペレータは接液部に触れることがない。そのため、空気中の雑菌や人体に付着した汚染物質の混入など外部からの異物混入を回避することができる。
【0036】
(4)本発明の液体容器におけるポンプを、吸引側および吐出側の開口部にそれぞれ1つ以上の逆止弁を配置したピストン式ポンプとすると、液体の分注精度を高めることができる。
【0037】
(5)自動分析装置の小型化が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の液体容器の第一の態様を示した図。
【図2】本発明の液体容器の第二の態様を示した図。
【図3】本発明の液体容器の第二の態様におけるポートの一態様を示した図。
【図4】本発明の液体容器の第三の態様を示した図。
【図5】本発明の自動分注装置の一態様を示した図。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0040】
実施例1
本発明の液体容器の第一の態様を図1に示す。図1の液体容器100は、
開口部111を一つ設けた、液密性および気密性を有する可撓性容器110と、
可撓性容器の開口部111と液密に接続可能で、可撓性容器110に収容された液体を取り出し可能なポート120aと、
吸引部132aと吐出部132bを設けた円筒部131と、円筒部131の側面から円筒部に対して垂直方向に分岐した分岐部133とから構成され、吸引部132aおよび吐出部132bにはそれぞれ1つの逆止弁135a・135bが、分岐部133にはスプリング138で弾持された摺動可能なピストン137が、それぞれ設けられた、ポンプ130と、
ポート内の流路121とポンプの吸引部132aとを連通し、かつ所定量の液体の加温が可能な液体貯留部140と、
ポンプの吐出部132bと液密に接続可能な、可撓性容器110に収容された液体を吐出するためのノズル150と、
可撓性容器110を覆う容器カバー160と、
を備えている。
【0041】
可撓性容器110は、外側からPET(厚さ16μm)、アルミニウム(厚さ9μm)、ポリプロピレン(厚さ40μm)からなる、袋状の容器である。ポート120aは液体貯留部140と一体となるようにポリプロピレンにて一体射出成形により製造した。ポンプ130は、円筒部131と円筒部131の側面から円筒部に対して垂直方向に分岐した分岐部133からなるT字管をポリプロピレンにて射出成形後、吸引部132aがシリコンゴムにて成形したダックビル型逆止弁135aを介して液体貯留部140と連通するように、吐出部132bがシリコンゴムにて成形したダックビル型逆止弁135bを介してポリプロピレンにて射出成形したノズル150と連通できるように、分岐部133がステンレス製スプリング138により弾持されたピストンヘッド136(熱可塑性エラストマーにより成形した)を先端部に嵌合したピストン137で吸引/吐出操作できるように、それぞれ設置している。
【0042】
実施例2
本発明の液体容器の第二の態様を図2に示す。図2の液体容器100は、図1の液体容器のうち、ポートおよび液体貯留部を図3に示す構造に変更したものである。
【0043】
図3に示すポート120bおよび液体貯留部140は、
ポンプの吸引部132aと連通可能な液体貯留部140を底部に設け、可撓性容器の開口部と液体貯留部140とを連通する中空部を設けたポリプロピレン製ブロック122に、
ポリプロピレンにて射出成形した、可撓性容器の開口部と液体貯留部140とを連通する流路121を設けた中空円筒形ブロック123a(図3(A))または中空糸巻き形ブロック123b(図3(B))を前記中空部に液密に挿入することで、製造することができる。
なお、前記ブロック123a・123bにおける可撓性容器の開口部と液体貯留部140とを連通する流路121は、その軸が、可撓性容器の開口部とポンプの吸引部132aとを結ぶ軸に対して傾斜するよう、設けられている。
【0044】
実施例3
本発明の液体容器の第三の態様を図4に示す。図4の液体容器100は、
図1の液体容器で備えられたものと同じ可撓性容器110と、
図1の液体容器で備えられたものと同じポンプ130と、
可撓性容器の開口部111と液密に接続可能で、開口部111とポンプの吸引部132aとを連通可能な流路121を設けた、ポート120cと、
ポンプの吐出部132bと液密に接続可能で、所定量の液体の加温が可能な液体貯留部140と、
液体貯留部140と液密に接続可能な、可撓性容器110に収容された液体を吐出するためのノズル150と、
図1の液体容器で備えられたものと同じ容器カバー160と、
を備えている。
【0045】
なお、ポート120cはポリプロピレンにて一体射出成形により製造した。
【0046】
実施例4
本発明の自動分注装置の一態様を図5に示す。図5の自動分注装置は、
図2に示す液体容器100と、
液体貯留部140中の液体を温度制御する手段200と、
ピストン137を駆動させて液体を分注するための手段300と、
図2に示す液体容器100を所定の分注位置まで移動させるための手段400と、
を備えている。
【0047】
液体貯留部140中の液体を温度制御する手段200は、液体貯留部140中の液体を加温可能な温調用アルミブロック210にカートリッジヒータ220を挿入することで製造した。ピストン137を駆動させて液体を分注するための手段300は、ピストン137を水平方向に往復運動させる押し棒310および押し棒310に動作を伝達させるパルスモータ320から構成されている。液体容器100を所定の分注位置まで移動させるための手段400は、移動用ホルダ410と、その下方に設けた、液体容器100の搭載位置から吐出位置までの間で、押し棒310の動作と同じ軸方向で往復運動が可能なパルスモータ420から構成されている。
【0048】
実施例5
実施例1で作製した液体容器(図1)における可撓性容器110に100mM 2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、1mM ホスホニウムブロミド、0.1mM フルオレセインからなる水溶液(pH10)を100mL収容し、手動でピストンを連続動作することで液体を吐出し、ノズル先端まで満たした。電子天秤にビーカーをのせ、手動で前記水溶液を吐出して吐出重量を測定する操作を10回連続して行なった。分注量の同時再現性評価の比較対照として、市販のガラス製エアレス容器(ST−GLASS 20mL(SC18)/茶管、(株)トップ)に前記水溶液を充填したものを用いた。結果を表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
市販のエアレス容器の吐出量変動係数(CV)が1.59%に対し、本発明の液体容器のCVは0.24%と、同時再現性が顕著に良好なことがわかった。
【符号の説明】
【0051】
100:液体容器
110:可撓性容器
111:可撓性容器の開口部
120a、120b、120c:ポート
121:ポートの流路
122、123a、123b:ブロック
130:ポンプ
131:円筒部
132a:吸引部
132b:吐出部
133:分岐部
135:逆止弁
136:ピストンヘッド
137:ピストン
138:スプリング
140:液体貯留部
150:ノズル
160:容器カバー
200:液体貯留部中の液体を温度制御する手段
210:アルミブロック
220:カートリッジヒータ
300:液体を分注するための手段
310:押し棒
320、420:パルスモータ
400:液体容器を所定の分注位置まで移動させるための手段
410:移動用ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の開口部を設けた、液密性および気密性を有する可撓性容器と、
前記開口部の1つと液密に接続可能で、可撓性容器に収容された液体を取り出し可能なポートと、
所定量の液体の温調が可能な液体貯留部と、
ポートから取り出された液体の吸引/吐出を行なうポンプと、
液体を吐出するためのノズルと、
を備えた液体容器。
【請求項2】
ポートとポンプの吸引側との間に前記液体貯留部を備えており、ポンプの吐出側に前記ノズルを備えている、請求項1に記載の液体容器。
【請求項3】
ポートに設けた、前記可撓性容器の開口部の1つと前記液体貯留部とを連通する流路の軸が、前記開口部の1つとポンプの吸引側とを結ぶ軸に対して傾斜している、請求項2に記載の液体容器。
【請求項4】
ポンプの吐出側とノズルとの間に前記液体貯留部を備えている、請求項1に記載の液体容器。
【請求項5】
ポンプが、吸引部と吐出部を設けた円筒部と、前記円筒部の側面から前記円筒部に対して垂直方向に分岐した分岐部とから構成され、
前記円筒部に設けた吸引部および吐出部にはそれぞれ1つ以上の逆止弁が設けられ、
前記分岐部にはスプリングで弾持された摺動可能なピストンが設けられた、ポンプである、請求項1から4のいずれかに記載の液体容器。
【請求項6】
1つ以上の開口部を設けた液密性および気密性を有する可撓性容器と、前記開口部の1つと液密に接続可能で可撓性容器に収容された液体を取り出し可能なポートと、所定量の液体の温調が可能な液体貯留部と、ポートから取り出された液体の吸引/吐出を行なうポンプと、液体を吐出するためのノズルと、を備えた液体容器と、
液体貯留部中の液体を温度制御する手段と、
ポンプを駆動して液体を分注する手段と、
液体容器を所定の分注位置まで移動する手段と、
を備えた、自動分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−137693(P2011−137693A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297199(P2009−297199)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】