説明

液体性状判定装置及び方法

【課題】 気泡を検出する際に遮光の必要がなく、且つ外来ノイズの影響を受けないようにする。
【解決手段】 分注装置の気泡混入判定部21を、検体11が流通される液通路35を有するヒータハウジング31と、ヒータ32と、温度センサ33とから構成する。ヒータハウジング31を、吸引プローブ(図示せず)に接続されたエアチューブ16の途中に設ける。ヒータ32及び温度センサ33を、ハウジング31の液通路35と外側面との間に設ける。温度センサ33からの温度信号に基づき、液通路35内を流通される検体11が一定温度に保たれるようにヒータ32の温度を制御する。ヒータ32の消費電力を検出して、検体11中に気泡29となる空気が混入しているか否かを判定する。これにより、遮光の必要がなく、且つ外来ノイズの影響を受けて気泡29を誤検出するおそれがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流通される液体の性状の変化の有無を判定する液体性状判定装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液や尿などの検体中に含まれる特定の生化学物質の物質濃度を分析する分析機として生化学分析機が医療機関等でよく用いられている。この生化学分析機は、検体の小滴が点着された検査チップを測定して検体の分析を行う。血液や尿など検体を検査チップに点着させる際には、病気の感染を防ぐために人手を介さずに点着させる必要があり、さらに、正確な分析を行うためには検体を所定量点着させる必要があるので、生化学分析機には分注装置が組み込まれている。
【0003】
分注装置は、シリンジポンプ、吸引プローブ、エアチューブ、プローブ移動機構等から構成されている。この分注装置は、吸引プローブを用いて検体容器から検体を吸引採取して、この吸引採取された検体を複数の検査チップにそれぞれ所定量点着させる。このとき、検体とともに空気を吸引すると、検体中に気泡が混入してしまう。気泡が混入すると検査チップに点着される検体の量が少なくなり、正確な分析を行えなくなる。そこで、検体を吸引する際に気泡が混入しているか否かなどの検体の性状の変化の有無を判定し、気泡が混入している場合には検体を全て排出した後、再度検体の吸引を行っている。
【0004】
具体的な判定方法としては、特許文献1及び2に記載されているように、超音波を用いてエアチューブ内の検体中の気泡の有無を判定する方法が知られている。また、特許文献3に記載されているように、エアチューブに2つのコイルを巻き回し、一方のコイルに所定周波数の励磁信号を入力して他方のコイルに誘起される信号を検出することで、検体中の気泡の有無を判定する方法も知られている。また、特許文献4及び5に記載されているように、エアチューブを透光性材料で形成し、このエアチューブに検査光を照射してチューブを透過した検査光の屈折率の変化や受光強度の変化を測定することで、検体中の気泡の有無を判定する方法も知られている。
【特許文献1】特開2002−333434号公報(第3〜4頁、第2図)
【特許文献2】特開2002−131288号公報(第4〜5頁、第1図)
【特許文献3】特開平7−198682号公報(第3頁、第1図)
【特許文献4】特開平5−50009号公報(第3頁、第1図)
【特許文献5】特開2001−336966号公報(第4頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1及び2に記載されているような超音波を用いる方法や、前記特許文献3に記載されているような磁気を用いる方法は、高周波電磁界の影響を受けやすいという問題がある。その結果、生化学分析機自体から発生するノイズや、他の分析機や電子機器等から発生する外来ノイズにより誤検出が発生するおそれがある。この場合には、分注装置を電磁気シールドする方法もあるが、装置が大型化し、製造コストも高くなるという問題が生じる。
【0006】
また、前記特許文献4及び5に記載されているような検査光を用いる方法は、検査光を検出する検出器が外部からの光を受光して誤検出が発生したり、検出感度が低下したりするおそれがある。これらを防止するためには遮光を行う必要があるが、同様に装置が大型化し、製造コストも高くなるという問題が生じる。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためのものであり、遮光の必要がなく、外来ノイズ等の影響を受けにくい液体性状判定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体性状判定装置は、液体が流通される液通路を有し、通電により前記液通路内を流通される前記液体の温度を一定温度に保持する恒温部と、前記恒温部の消費電力を検出し、この前記消費電力に基づき、前記液通路内を流通される前記液体の性状を判定する液体性状判定部とを備えることを特徴とする。
【0009】
前記液状判定部は、前記液体中に気泡となる気体が混入されているか否かを判定することが好ましい。また、前記液体性状判定部は、前記消費電力が所定のしきい値を下回ったときに、前記液通路内を流通される前記液体中に前記気体が混入したと判定することが好ましい。さらに、前記しきい値は、前記液体の流速が速くなるのに応じて高くなり、且つ前記流速が遅くなるのに応じて低くなるように可変されることが好ましい。
【0010】
前記消費電力より、前記液体中に混入された前記気体の混入量を定量する気体定量部を備えることが好ましい。また、前記気体定量部は、前記消費電力と前記液体中に混入された前記気体の混入量との関係に基づき、前記気体の混入量を定量することが好ましい。さらに、前記消費電力と前記液体中に混入された前記気体の混入量との関係は、前記液体の流速を変数として表されており、前記気体の混入量は、前記消費電力の大きさが同じであれば、前記流速が速くなるのに応じて高くなり、且つ前記流速が遅くなるのに応じて低くなることが好ましい。
【0011】
また、本発明の液体性状判定方法は、流通される液体の温度を調整する温度調整部材への通電を制御して前記液体を一定の温度に保ちつつ、前記液体を一定の温度を保つのに前記温度調整部材が要する消費電力を検出し、その検出消費電力に基づき前記液体の性状を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液体性状判定装置は、液通路内を流通される前記液体の温度を一定温度に保持する恒温部と、前記恒温部の消費電力を検出し、その検出結果に基づき、前記液通路内を流通される前記液体の性状を判定する液体性状判定部とを備えるようにしたので、従来の超音波や磁気を用いる方法とは異なり、外来ノイズ等の影響を受けて誤検出が発生するおそれはない。また、検査光を用いる方法とも異なり、遮光を行う必要も無くなるので、装置が大型化して製造コストが高くなることが防止される。
【0013】
また、本発明の液体性状判定方法は、流通される液体の温度を調整する温度調整部材への通電を制御して前記液体を一定の温度に保ちつつ、前記温度調整部材が要する消費電力を検出し、その検出消費電力に基づき前記液体の性状を判定するようにしたので、同様に外来ノイズ等の影響を受けるおそれが無くなり、且つ遮光を行う必要も無くなる。しかも、恒温部を必要とする装置では、この恒温部が気泡混入等の液体の性状の変化を検出するセンサの作用をなし、別個にセンサを設ける必要がなく、装置の構成が簡単になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、分注装置10の概略図を示したものである。この分注装置10は、医療機関や研究所などで用いられる生化学分析機(図示せず)に組み込まれたものである。生化学分析機(図示せず)は、上述したように、血液や尿などの検体11の小滴が点着された検査チップ12a,12bを測定することで、検体11中に含まれる特定の生化学物質の物質濃度を分析する。
【0015】
分注装置10は、検体11が収納された検体収納容器14から検体11を吸引採取して、この採取された検体を検査チップ12a,12bにそれぞれ所定量点着させる。分注装置10は、吸引プローブ15と、エアチューブ16と、シリンジポンプ17と、ポンプ駆動部18と、プローブ移動部19と、圧力センサ20と、気泡混入判定部21とから構成される。なお、吸引プローブ15に、検体11毎に交換が可能な吸引チップ(図示せず)を挿着してもよい。
【0016】
吸引プローブ15は吸引口(図示せず)を下向きにして設置されており、上部にエアチューブ16の一端が接続されている。エアチューブ16の他端は、検体11の吸引排出機構としてのシリンジポンプ17に接続されている。シリンジポンプ17はポンプ駆動部18により駆動される。ポンプ駆動部18は、モータ23と、このモータ23の回転を往復移動に変換する送りネジ機構24とから構成されている。そして、モータ23を正転または逆転することにより、シリンジポンプ17内のプランジャ25を往復移動させ、吸引プローブ15から検体11の吸引及び排出を行う。なお、モータ23の回転をプランジャ25の往復移動に変換する機構としては、送りネジ機構24に限られず、ボールネジ機構やラックアンドピニオン、その他の変換機構を用いてよい。
【0017】
プローブ移動部19は、図示しない水平移動ユニットと昇降ユニットとを備えている。水平移動ユニットは、吸引プローブ15を検体収納容器14の上方の吸引待機位置、及び各検査チップ12a,12bの上方の第1及び第2点着待機位置に水平移動させる。なお、図中において検査チップは2個しかセットされていないが、必要に応じて1個のみ、または3個以上セットされていてもよい。昇降ユニットは、吸引プローブ15を吸引待機位置と、吸引口が検体収納容器14中の検体11に接液する吸引位置との間で昇降させるとともに、各点着待機位置と、吸引口が検査チップ12a,12bに近接する第1及び第2点着位置との間で昇降させる。
【0018】
吸引プローブ15を吸引位置に移動させる際に、検体収納容器14内に収納されている検体11の液面の高さは容器ごとに異なっている。そのため、降下中の吸引プローブ15の吸引口が検体11の液面に接液したことを検知できるように、エアチューブ16の中間位置に分岐管27を介して圧力センサ20が接続されている。圧力センサ20は、エアチューブ16内の圧力を圧力信号に変換し、この圧力信号を出力する。これにより、吸引プローブ15の吸引口が検体11に接触すると、圧力センサ20による検出圧力が高くなるので、接液したことが検知される。
【0019】
吸引プローブ15の吸引口が検体11に接液したことが検知されると、モータ23が回転駆動されてシリンジポンプ17のプランジャ25が一定量移動され、検体11が吸引プローブ15を介してエアチューブ16内に吸引採取される。この検体11の吸引採取後に、プローブ移動部19により吸引プローブ15は第1点着待機位置を経て第1点着位置に移動される。そして、再びモータ23が回転駆動されてプランジャ25が一定量移動され、検査チップ12aに所定量の検体11が滴下されて点着される。
【0020】
検体11の点着後、吸引プローブ15が第2点着待機位置を経て第2点着位置に移動され、以下同様にして、検査チップ12bに検体11が点着される。検体11が点着された検査チップ12a,12bは、生化学分析機(図示せず)内の所定の測定位置にセットされて、分析機内のチップ検出センサ(図示せず)により測光される。生化学分析機は、チップ検出センサより出力された測光信号に基づき、予め記憶している測光信号と検体中の生化学物質の物質濃度とを参照して所定の生化学分析処理を行う。
【0021】
生化学分析処理では、周知のように、検体11の小滴を点着供給するだけで検体中に含まれている特定の化学成分又は有形成分を定量分析することが可能なドライタイプの乾式分析素子や電解質スライド(乾式イオン選択電極フイルム)などの検査チップを使用することが一般的となっており、乾式分析素子を用いる比色測定法や、電解質スライドを用いる電位差測定法によって検体11中の化学成分等の定量分析を行う。
【0022】
比色測定法を用いる生化学分析処理では、検体を検査チップ(乾式分析素子)12a,12bに点着させた後、これをインキュベータ(恒温器)内で所定時間恒温保持して呈色反応(色素生成反応)させ、予め選定された波長を含む測定用照射光をこの乾式分析素子に照射してその光学濃度を測定し、この光学濃度から生化学物質の物質濃度を求める。一方、電位差測定法を用いる生化学分析装置は、検査チップ(電解質スライド)12a,12bに点着された検体11に、同種の乾式イオン選択電極の2個1組からなる電極対を接触させて、特定イオンの活量をポテンシオメトリで定量分析することによって物質濃度を求める。
【0023】
このような各種測定法を用いて求められる検体11中の生化学物質の物質濃度は、検査チップ12a,12bに検体11を適量点着させることで正確な値が求められる。従って、検体11を吸引採取したときに気泡29(図2参照)が混入すると、検査チップ12a,12bに点着させる検体11の量が少なくなり、正確な分析が行えないおそれがある。そこで、本実施形態では、エアチューブ16の途中に気泡混入判定部21を設けて、検体11中に気泡29となる空気が混入しているか否かを検出する。
【0024】
図2は、本発明の液体性状判定装置に相当する気泡混入判定部21の断面図を示したものである。この気泡混入判定部21は、大別して円筒状のヒータハウジング31、ヒータ32、温度センサ33から構成される。
【0025】
ヒータハウジング31は、エアチューブ16の途中に設けられている。このヒータハウジング31は、例えばアルミ材などから形成され、その内側面が検体11を流通させる液通路35となっている。液通路35は、断面形状が略真円状に形成されており、その両端はそれぞれエアチューブ16に接続されている。本実施形態ではエアチューブ16として、その外径φ1が4mm、内径φ2が3mmのものが用いられ、ヒータハウジング31として、その長さLが30mm、幅Wが8mm、液通路35の径φ3が3mmに形成されたものが用いられている。なお、ヒータハウジング31としては、筒体状であれば円筒状のもの以外に断面形状が多角形状のものを用いてもよい。
【0026】
ヒータ32は、本発明の温調手段(温度調整部材)に相当するものであり、ヒータハウジング31の内側面(液通路35)と外側面との間に形成されたヒータ室31a内に設けられている。ヒータ32は通電により発熱し、この通電を制御することでヒータハウジング31の温度を調整することができる。なお、ヒータ32としては、コイルヒータ、棒状ヒータ、シートヒータ等の各種ヒータを用いてよい。
【0027】
温度センサ33は、本発明の温度検出手段に相当するものであり、ヒータハウジング31の内側面と外側面との間に形成されたセンサ室31b内に設けられ、ヒータハウジング31の温度を検出する。この温度センサ33としては、例えばサーミスタなどの各種温度検出素子が用いられる。なお、両室31a,31bを形成する位置は、特に限定はされないが、本実施形態では両室31a,31bを液通路35に沿うように並べて形成している。
【0028】
このように、ヒータ32及び温度センサ33をヒータハウジング31に内蔵させることで、このヒータハウジング31がその液通路35内を流通される検体11の温度を一定温度に保つ恒温体となる。そこで、本実施形態では、ヒータ32によりヒータハウジング31の温度を制御して、その液通路35内を流通される検体11が液通路35内に流通される前よりも高い一定温度で保持されるようにする。この際に、検体11や空気によりヒータハウジング31から奪われる熱量(放熱量)は、検体11や空気の熱容量に比例する。一般的に水の熱容量は同体積の空気の熱容量の1000倍以上なので、ヒータハウジング31よりも高い熱容量を有している検体11が液通路35を流通されるとヒータハウジング31が冷却される。その結果、ヒータハウジング31の温度、つまり、液通路35内を流通される検体11の温度を一定に保持するために、ヒータ32は常に一定の電力を消費する。
【0029】
この際に、検体11中に気泡29となる空気が混入していると、その混入量に比例してヒータハウジング31の放熱量が減少し、それに伴いヒータ32の消費電力が減少する。そのため、本実施形態では、ヒータ32の消費電力を検出することで、検体11中に混入している空気を定量して、検体11中に気泡29が混入しているか否かを判定する。
【0030】
ヒータ32の温度制御、消費電力の検出、空気混入量の定量、気泡29の混入の判定はコントローラ38により行われる。コントローラ38には上述のプローブ移動部19、圧力センサ20、モータ23、温度センサ33や、環境温度センサ39などが接続されている。そして、このコントローラ38は、ヒータ制御回路41、消費電力検出回路42、空気定量回路43、判定回路44の他に、図示は省略するがプローブ移動制御部、モータ駆動制御部などから構成されており、分注装置10の各部の駆動を制御する。
【0031】
環境温度センサ39は、分注装置10の周囲の環境温度を測定する。検体収納容器14中の検体11の温度は環境温度とほぼ等しくなるので、環境温度を検出することで検体11の温度を検出することができる。この環境温度センサ39としても、温度センサ33と同様にサーミスタなどの各種温度検出素子を用いることができる。
【0032】
ヒータ制御回路41は、本発明の温調制御手段に相当するものであり、温度センサ33から入力された温度信号に基づき、ヒータハウジング31の温度が予め設定された温度を保つようにヒータ32の温度を制御する。このヒータ32の温度を制御する方法としては、ヒータ32に印加する電圧の大きさを変える方法や、ヒータ32に矩形波パルス電圧を印加して、このパルス電圧のデューティ比を変えるPWM(Pulse Width Modulation)制御を行う方法があり、いずれの方法を用いてもよい。そして、本実施形態ではヒータハウジング31の温度(液通路35内の検体11の温度)を、液通路35に流通される前の検体11の温度(環境温度)よりも少なくとも10℃以上高くなり、且つ検体11中に気泡29が発生しない10〜60℃の範囲内に保持している。
【0033】
消費電力検出回路42は、後述する判定回路44とともに本発明の液体性状判定部を構成するものであり、ヒータ32の消費電力を検出する。具体的には、ヒータ制御回路41によりヒータ32に印加された電圧の大きさ、またはヒータ32に印加された矩形波パルス電圧のデューティ比を検出することで、ヒータ32の消費電力の検出を行う。そして、検出されたヒータ32の消費電力の値は、空気定量回路43及び判定回路44に随時出力される。
【0034】
空気定量回路43は、本発明の気体定量部に相当するものであり、入力された消費電力値に基づいて、液通路35を流通される検体11中に混入された空気の混入量を求める。この空気定量回路43は、ヒータ32の消費電力と検体11中に混入された空気の混入量との関係を示す演算式を有しており、この演算式に消費電力値を代入することで空気の混入量を算出する。なお、演算式を用いる代わりに、両者の関係をグラフ化またはデータテーブル化したものを用いて、空気の混入量を求めるようにしてもよい。
【0035】
この際に、液通路35中を流通される検体11の流速が異なっていたら、空気の混入量が同じであってもヒータ32の消費電力は異なる値となる。つまり、検体11の流速が速くなるほど単位時間当たりの検体11の流通量が多くなるので、ヒータハウジング31の放熱量が増加して消費電力が高くなる。また、逆に流速が遅くなるほど放熱量が減少して消費電力が低くなる。そのため、上述の演算式を検体11の流速を変数とした式にすることで、検体11の流速が変わっても正確な空気の混入量を求めることができる。この流速を変数とした演算式は、予め実験等を行うことで求められる。また、検体11の流速は、液通路35の径φ3、エアチューブ16の内径φ2やシリンジポンプ17の内径が一定であればモータ23の回転速度に比例する。
【0036】
図3は、上述の演算式をグラフ化した一例であり、検体11の流速がV1の時とV1よりも速いV2の時とにおいて、消費電力と検体11中の空気の割合との関係を示したものである。上述したように、流速V2の時の方が単位時間当たりの検体11の流通量が増加するため、消費電力が大きくなる。従って、演算式で定量される空気の割合は、消費電力が同じであれば、流速V2のときの方が大きくなる。
【0037】
液通路35内を流通される検体11中に気泡29(空気)が混入していないときは、流速により値に差はあるが消費電力はほぼ一定となる。検体11中に気泡29となる空気が混入すると、その混入量が増大するのに比例して消費電力が減少する。そして、空気の割合が100%、つまり、液通路35内に空気のみが流通されている状態になると、消費電力は再び下限値でほぼ一定となる。このような演算式を用いることで、空気定量回路43は流速を変えた時でも正確な空気の混入量を求めることができる。
【0038】
判定回路44は、図2及び図3に示すように、入力された消費電力値に基づき、液通路35内を流通される検体11中に気泡29となる空気が混入されている否か、及び液通路35内に空気のみが流通されているか否かを判定する。この判定回路44は、消費電力値が所定のしきい値を下回ったとき、つまり、検体11中の空気の割合が検査チップ12a,12bに点着される検体11の量に影響を及ぼす値となったときに、検体11中に気泡29が混入したと判定する。
【0039】
この際に、ヒータ32の消費電力は検体11の流速に応じて変わるので、しきい値も検体11の流速に応じて可変される。例えば、流速V1のときのしきい値をT1としたときに、流速V2のときのしきい値T2はT1よりも高い値になる。このような検体11の流速に応じたしきい値T1,T2は、上述の演算式と同様に予め実験等で求められる。
【0040】
また、判定回路44は、入力された消費電力値が下限値に達したら、液通路35内に空気のみが流通されていると判定する。これにより、液通路35内の検体11の有無、つまり、吸引採取された検体11が全て液通路35を通過したか否かを検出することができる。従って、判定回路44は、消費電力値が下限値に達するまでの間に気泡29の混入有りと判定しなければ、吸引採取された検体11中には気泡29が混入されていないと判定する。なお、本実施形態では、吸引採取された検体11が全て液通路35を通過できるように、気泡混入判定部21の設置位置、エアチューブの長さが調整されている。
【0041】
判定回路44には、図示は省略するが検体11の流速と、この流速に応じた消費電力のしきい値及び下限値とを関連付けたデータテーブル等が記憶されている。これにより、判定回路44は、検体11の流速に関わらず、入力された消費電力値に基づいて吸引採取された検体11中に気泡29が混入されているか否かを判定することができる。
【0042】
コントローラ38は、判定回路44により検体11に気泡29が混入されていないと判定されたら、プローブ移動部19を駆動して吸引プローブ15を第1点着位置に移動させて、検査チップ12aに検体11を点着させる。また、コントローラ38は、検体11に気泡29が混入されていると判定されたら、吸引された検体11を排出させた後、再度検体11の吸引採取を行う。
【0043】
次に、本実施形態の作用について説明を行う。分注装置10に検体収納容器14及び検査チップ12a,12bがセットされ、オペレータにより運転開始操作がなされたら、コントローラ38は、プローブ移動部19を駆動して吸引待機位置にある吸引プローブ15を下降させる。そして、コントローラ38は、圧力センサ20からの圧力信号に基づき、吸引プローブ15をその吸引口に検体11が接液する吸引位置まで移動させる。次いで、コントローラ38は、モータ23を駆動してシリンジポンプ17内のプランジャ25を移動させ、吸引プローブ15から検体11の吸引採取を行う。
【0044】
コントローラ38のヒータ制御回路41は、検体11の吸引採取が開始される前にヒータ32への通電を開始してヒータハウジング31の温度を検体11の温度(環境温度)よりも高い所定温度に調整する。これと同時に、消費電力検出回路42は、ヒータ23に印加される電圧の大きさ、または印加される矩形波パルス電圧のデューティ比に基づき、ヒータ32の消費電力を検出して、検出された消費電力値を空気定量回路43及び判定回路44に出力する。
【0045】
吸引プローブ15より吸引された検体11がヒータハウジング31の液通路35を通過し、このヒータハウジング31の放熱量が増加したら、ヒータ制御回路41は、温度センサ33からの検出信号に基づきヒータハウジング31の温度、つまり、液通路35内を流通される検体11の温度が所定温度に常に保持されるように、ヒータ32への通電を制御する。
【0046】
空気定量回路43は、消費電力検出回路42より入力された消費電力値を上述の演算式に代入して検体11中の空気の混入量(混入割合)を算出する。この際に、本実施形態では、演算式を検体11の流速を変数とした式にすることで、検体11の流速が変わっても正確な空気の混入量を求めることができる(図3参照)。
【0047】
判定回路44は、入力された消費電力値に基づいて、この消費電力値が流速に応じたしきい値を下回るか否かで、液通路35を流通される検体11に気泡29となる空気が混入しているか否かを判定する。そして、判定回路44は、消費電力値が下限値に達するまでの間に、気泡29の混入有りと判定しなかったら、吸引採取された検体11中には気泡29が混入されていないと判定する。
【0048】
コントローラ38は、判定回路44により気泡29の混入無しと判定されたら、プローブ移動部19を駆動して吸引プローブ15を第1点着位置に移動させる。次いで、コントローラ38は、モータ23を駆動してプランジャ25を移動させて、検査チップ12aに所定量の検体11を滴下して点着させる。同様にして検査チップ12bにも検体11を滴下させる。また、コントローラ38は、判定回路44により気泡29の混入有りと判定されたら、プランジャ25を移動させて検体11を排出させた後、必要に応じて警報を行い再度検体11の吸引採取を行う。以下、気泡29の混入無しと判定されるまで、上述の処理を繰り返す。または、吸引のリトライ数の上限を設定しておき、この上限数を超えたときは、警報または表示を行って再度の吸引を行わないようにしてもよい。
【0049】
以上のように本実施形態では、流通路35内を流通される検体11が一定温度に保たれるようにヒータ32を制御しつつ、このヒータ32の消費電力を検出することで検体11中の気泡29の有無を判定するようにしたので、従来の超音波や磁気を用いて気泡検出方法とは異なり、外来ノイズ等の影響を受けて誤検出が発生するおそれはない。また、検査光を用いた気泡検出方法とも異なり、遮光を行う必要も無くなるので、装置が大型化して製造コストが高くなることが防止される。
【0050】
検体11が点着された検査チップ12a,12bは、生化学分析機(図示せず)内の所定の測定位置にセットされる。生化学分析機は、検査チップ12a,12bを測光して出力された測光信号に基づき、予め記憶している測光信号と検体11中の生化学物質の物質濃度とを参照して所定の生化学分析処理を行う。
【0051】
なお、上記実施形態では、液通路35は断面形状が真円状に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。真円状の断面形状を有する液通路35が検体11に接する接触面積をSとしたときに、液通路をその接触面積がSよりも大きくなるような断面形状に形成してもよい。
【0052】
具体的には、図4に示した円筒体50のように、その液通路51の断面形状が星形多角形状に形成されていてもよい。また、図5に示した円筒体55のように、その液流路56が複数の断面多角形状(円形状でもよい)の流通孔57からなるハニカム構造を有するようにしてもよい。これにより、検体11が液通路51,56を流通されるときに円筒体50,55との接触面積が増えるため、検体11に気泡29が含まれているか否かでのヒータ32の消費電力の変動、つまり、検出感度を大きくすることができる。
【0053】
また、上記実施形態では、ヒータ32が設けられるヒータ室31aと、温度センサ33が設けられるセンサ室31bが液通路35に沿うように並べて形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ヒータ室31aとセンサ室31bとが液通路35に沿う方向に対して垂直な方向に並べて形成されていてもよく、両室31a,31bの位置は特に限定はされない。また、ヒータ32としてシートヒータ等のフレキシブルヒータを用いて、このヒータを液通路35を囲うように設けてもよい。さらに、フレキシブルヒータでヒータハウジング31の外側面を囲うようにしてもよい。また、ヒータ32や温度センサ33の数も1個に限定されるものではなく、複数個設けるようにしてもよい。
【0054】
なお、上記実施形態の気泡混入判定部21では、ヒータハウジング31がエアチューブ16を分割するように設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ヒータハウジング31がエアチューブ16の外側面を囲うように設けられていてもよい。この場合には、円筒体16が液通路となるエアチューブ16を介して検体11と接するため、気泡29の混入の有無での消費電力の変動は小さくなるが、既存のエアチューブ16を切断することなく簡単に取り付けられるという利点がある。
【0055】
また、上記実施形態では、ヒータハウジング31内にヒータ32を設けて、このヒータハウジング31を検体11の温度よりも高い温度に保つようにしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ヒータハウジング31内、或いはヒータハウジング31を囲うようにペルチェ素子等を設けて、ヒータハウジング31を検体11の温度よりも低い温度に保つようにしてもよい。この場合にも、液通路35内を流通される検体11中に気泡29となる空気が混入しているか否かで、ペルチェ素子の消費電力が変動するので、気泡29の混入の有無を判定することができる
【0056】
なお、上記実施形態では、プランジャ25の移動に連動して検体11の吸引を行わせる圧力媒体としてエアチューブ16及びシリンジポンプ17内の空気が用いられているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、空気のようには体積が変動しない水などの液体を圧力媒体に用いることで、検体11の吸引量をより正確に制御することができる。以下、図6を用いて圧力媒体に水85を使用する分注装置86について説明を行う。図6中において、上述の分注装置10で説明したものと同じ機能を有するものについては同一符号を付してその説明は省略する。なお、図中の符号87はシール部材である。
【0057】
分注装置86は、図1に示す分注装置10と基本的に同じ構成である。ただし、この分注装置86には、液面検出部88と、エアチューブ16及びシリンジポンプ17内に水85を充填させる水供給ユニット89とが設けられている。液面検出部88は、吸引プローブ15と検体収納容器14内の液面との間の静電容量を検出し、両者間の静電容量の変化に基づき、吸引プローブ15が検体11に接液したことを検知する。
【0058】
水供給ユニット89は、液配管94と、水貯留槽95と、ポンプ96と、電磁弁97と、気泡混入判定部98とから構成されている。液配管94は、一端が水貯留槽95に接続されて槽内で開口しており、他端が継手部材99を介してシリンジポンプ17に接続されてポンプ17内で開口している。そして、この液配管94の途中にポンプ96と、電磁弁97と、気泡混入判定部98とが設けられている。
【0059】
ポンプ96は、水貯留槽95に貯留されている水85をシリンジポンプ17内に送液する。電磁弁97は、水85を充填させるときのみ開かれ、検体11(図1参照)の吸引時には閉じられる。気泡混入判定部98は、液配管94を介してエアチューブ16及びシリンジポンプ17内に充填される水85に気泡29(図2参照)が混入しているか否かを判定する。この気泡混入判定部98は、上述の気泡混入判定部21(図2参照)と同じものであり、ヒータハウジング100、ヒータ101、温度センサ102などから構成される。
【0060】
分注装置86では、検体11の吸引を行う前に電磁弁97を開くと同時に、ポンプ96を駆動させてエアチューブ16及びシリンジポンプ17内に水85を供給する。この水85の供給は、吸引プローブ15の先端から水が吐出されるまで行われる。これにより、エアチューブ16及びシリンジポンプ17内が水85で充填されたことが確認できる。この際に、気泡混入判定部98では、温度センサ102から出力される温度信号に基づき、ヒータハウジング100が水85よりも高い所定の温度を保つようにヒータ101が駆動される。従って、上述したようにヒータ101の消費電力を検出することで、液配管94内を流通される水85中の気泡29の混入の有無を判定できる。なお、気泡混入判定部21も併用して水85中の気泡29の混入の有無を判定するようにしてもよい。そして、気泡29の混入有りと判定されたら、同様にプランジャ25を移動させて水85を排出した後、再度水85の吸引採取を行う。
【0061】
気泡混入判定部98により、気泡29の混入無しと判定されたら電磁弁97を閉じる。次いで、プランジャ25を移動させて、吸引プローブ15内の水85を検体11の吸引に影響を及ばさない位置、つまり、吸引された検体11と混ざらない位置まで吸引する。これにより、水85を圧力媒体として検体11の吸引を行う準備が完了する。この準備が完了したら、検体収納容器14及び反応容器103が所定位置にセットされる。そして、上述の分注装置10と同様に、検体11の吸引、気泡混入判定部21による検体11中の気泡29の有無の判定、反応容器103内への検体11の滴下が行われる。この反応容器103には、検体11の滴下前、或いは滴下後に試薬(図示せず)などが滴下されて、種々の試験または検査が行われる。なお、反応容器103の代わりに上述の検査チップ12a,12bがセットされていてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、気泡混入判定部21として生化学分析機の分注装置10に組み込まれているものを例に挙げて説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、本発明を免疫検査装置、微量液体の均一化装置、人工透析機、医療用薬液注入装置、インクジェット式プリンタ、塗布装置などの各種装置において、それぞれ流通される各種液体中に気泡が混入しているか否かを判定する場合にも用いることができる。
【0063】
また、上記実施形態では、検体11中の気泡29の有無を判定する場合を例に説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、検体11などの液体の性状の変化の有無を判定する場合にも用いることができる。具体的には、液通路内を流通される各種液体に別種類の液体や異物が混入すると、気泡29が混入した場合と同様にヒータ32の消費電力が変動する。そのため、同様にしてヒータ32の消費電力に基づき上述の各装置やプラントなどに設けられている液通路内を流通される各種液体の性状の変化の有無を判定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】分注装置の斜視図を示したものである。
【図2】分注装置の気泡混入判定部の断面図を示したものである。
【図3】気泡混入判定部のヒータの消費電力と、検体中に混入された空気の混入量との関係を示す演算式をグラフ化したものである。
【図4】液通路の断面形状を星形多角形状にした他の実施形態の円筒体の断面図を示したものである。
【図5】液通路を複数の流通孔から構成した他の実施形態の円筒体の断面図である。
【図6】他の実施形態の分注装置の概略図である。
【符号の説明】
【0065】
10 分注装置
11 検体
12a,12b 検査チップ
15 吸引プローブ
16 エアチューブ
21 気泡混入判定部
31 ヒータハウジング
32 ヒータ
33 温度センサ
35 液通路
38 コントローラ
41 ヒータ制御回路
42 消費電力検出回路
43 空気定量回路
44 判定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流通される液通路を有し、通電により前記液通路内を流通される前記液体の温度を一定温度に保持する恒温部と、
前記恒温部の消費電力を検出し、この前記消費電力に基づき、前記液通路内を流通される前記液体の性状を判定する液体性状判定部とを備えることを特徴とする液体性状判定装置。
【請求項2】
前記液状判定部は、前記液体中に気泡となる気体が混入されているか否かを判定することを特徴とする請求項1記載の液体性状判定装置。
【請求項3】
前記液体性状判定部は、前記消費電力が所定のしきい値を下回ったときに、前記液通路内を流通される前記液体中に前記気体が混入したと判定することを特徴とする請求項2記載の液体性状判定装置。
【請求項4】
前記しきい値は、前記液体の流速が速くなるのに応じて高くなり、且つ前記流速が遅くなるのに応じて低くなるように可変されることを特徴とする請求項3記載の液体性状判定装置。
【請求項5】
前記消費電力より、前記液体中に混入された前記気体の混入量を定量する気体定量部を備えることを特徴とする請求項2ないし4いずれか1項記載の液体性状判定装置。
【請求項6】
前記気体定量部は、前記消費電力と前記液体中に混入された前記気体の混入量との関係に基づき、前記気体の混入量を定量することを特徴とする請求項5記載の液体性状判定装置。
【請求項7】
前記消費電力と前記液体中に混入された前記気体の混入量との関係は、前記液体の流速を変数として表されており、
前記気体の混入量は、前記消費電力の大きさが同じであれば、前記流速が速くなるのに応じて高くなり、且つ前記流速が遅くなるのに応じて低くなることを特徴とする請求項6記載の液体性状判定装置。
【請求項8】
断面形状が真円状の前記液通路が前記検体と接する接触面積をSとしたときに、前記液通路は、前記接触面積がSよりも大きくなるような断面形状に形成されていることを特徴とする請求項1ないし7いずれか1項記載の液体性状判定装置。
【請求項9】
前記恒温部は、
前記通電により前記液通路の温度を調整可能な温調手段と、
前記液通路の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段による検出温度に基づき、前記液通路内を流通される前記液体の温度が一定温度に保持されるように前記温調手段を制御する温調制御手段とを備えることを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載の液体性状判定装置。
【請求項10】
前記温調制御手段は、前記液通路内を流通される前記液体が、前記液通路内に流通される前よりも10℃以上高い温度で保持されるように前記温調手段を制御することを特徴とする請求項1ないし9いずれか1項記載の液体性状判定装置。
【請求項11】
流通される液体の温度を調整する温度調整部材への通電を制御して前記液体を一定の温度に保ちつつ、前記液体を一定の温度を保つのに前記温度調整部材が要する消費電力を検出し、その検出消費電力に基づき前記液体の性状を判定することを特徴とする液体性状判定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−86035(P2007−86035A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278553(P2005−278553)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】