説明

液体接触部品

【課題】液体に接触する表面への液体の付着を抑えて該表面での液体の切れを向上する。
【解決手段】試料液と試薬液とを混合させた被検液の反応を測定する自動分析装置において液体に接触して用いられる液体接触部品41,61,711,721,81であって、液体に接触する表面に、液体に対して非親和性を有するフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)の粒子91が金属材料(ニッケル)92中に含まれる複合めっき薄膜9を設けた。この複合めっき薄膜9は、めっき時にフッ素樹脂の粒子91が金属材料92に吸着されることによってフッ素樹脂が高濃度化することから液体分子との付着力が極めて小さくなる。この結果、部品表面への液体の付着が従前よりも更に抑えられて該表面での液体の切れが向上し、キャリーオーバーや、他の液体を薄めることによる分析結果への影響を防ぐことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置において液体に接触して用いられる液体接触部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置では、血液や尿等の試料液と、検査項目に応じた試薬液とを反応容器に分注し、これら試料液および試薬液を混合して反応させた被検液の光学的特性を測定することにより試料液の成分濃度等を分析する。この種の自動分析装置おいては、液体に接触する液体接触部品を洗浄しながら使用して連続分析を行うものがある。例えば、液体接触部品には分注ノズルがあり、この分注ノズルによって試料液を分注した後、該分注ノズルに付着した試料液を洗浄液で洗い落としてから、引き続き同じ分注ノズルによって次の試料液の分注を行う。ところが、分注ノズルを洗浄しきれない場合、分注ノズルの表面に付着した試料液が次に分注する試料液に持ち込まれることで次の試料液の分析結果に影響を与えるキャリーオーバーが発生する。さらに、分注ノズルを洗浄しきれず、分注ノズルの表面に付着した試料液が次に分注する同じ種類の試料液に持ち込まれた場合には、前の試料液で次の試料液を薄めることで次の試料液の分析結果に影響を与える虞がある。一方、分注ノズルを洗浄しきれた場合であっても、分注ノズルの表面に付着した洗浄液が次に分注する試料液を薄めることで次の試料液の分析結果に影響を与える虞がある。
【0003】
なお、分注ノズルの他、液体接触部品としては、試料液と試薬液とを反応容器内で攪拌する攪拌部材や、反応容器を共用するために該反応容器を洗浄する洗浄ノズルもある。このような液体接触部品においても、その表面に液体が付着することで、キャリーオーバーの発生や、他の液体を薄めることによって分析結果に影響を与える問題がある。
【0004】
上記問題を解消するため、従来では、分注ノズルおよび攪拌部位の表面に撥水処理を施したものがある。撥水処理としては、好ましくは撥水効果とともに油性の液体に対して撥油効果が得られるポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと言う)のコーティングが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−309338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、被検者の負担軽減のために試料液の採取量を少なくし、この少量の試料液から多くの検査項目の測定を行う要求から、試料液および試薬液の分注量が微量化され、これら試料液および試薬液が混合された被検液の量も微量化されている。このような場合では、従来のPTFEのコーティングによって液体接触部品への液体の付着を抑えても、微量化された試料液、試薬液および被検液に対してはキャリーオーバーの発生や、他の液体を薄めることによって分析結果に影響を与える虞がある。したがって、試料液、試薬液および被検液等の液体の微量化の要求に応じて従来のPTFEのコーティングよりも更に液体の付着を抑えて液体接触部品の表面での液体の切れを向上する要望がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、液体に接触する表面への液体の付着を抑えて該表面での液体の切れを向上することのできる液体接触部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る液体接触部品は、試料液と試薬液とを混合させた被検液の反応を測定する自動分析装置において液体に接触して用いられる液体接触部品であって、液体に接触する表面に、前記液体に対して非親和性を有するフッ素樹脂の粒子が金属材料中に含まれる複合めっき薄膜を設けたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る液体接触部品は、上記発明において、前記金属材料はニッケルであり、前記フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る液体接触部品は、試料液または試薬液を分注する分注ノズルの表面に、前記複合めっき薄膜を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る液体接触部品は、液体に接触する表面に、液体に対して非親和性を有するフッ素樹脂の粒子が金属材料中に含まれる複合めっき薄膜を設けた。この複合めっき薄膜は、めっき時にフッ素樹脂の粒子が金属材料に吸着されることによってフッ素樹脂が高濃度化することから液体分子との付着力が極めて小さい。この結果、部品表面への液体の付着が従前よりも更に抑えられて該表面での液体の切れが向上し、キャリーオーバーや、他の液体を薄めることによる分析結果への影響を防ぐことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る液体接触部品の好適な実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態である液体接触部品が用いられる自動分析装置の概略構成図である。
【0013】
自動分析装置1は、血液や尿等の試料液と、検査項目に応じた試薬液とを混合して反応させた被検液の光学的特性を測定することにより試料液の成分濃度等を分析するものである。自動分析装置1は、ラック供給部2と、反応部3と、試料分注機構4と、試薬保管部5と、試薬分注機構6と、攪拌機構7と、洗浄機構8とを備えている。
【0014】
ラック供給部2は、配列された複数のラック21を図1中の矢印方向に沿って順次移送するものである。各ラック21には、試料液を収容した試料容器22が複数保持されている。
【0015】
反応部3は、キュベットホイール31を有している。キュベットホイール31は、環状に形成され、複数の反応容器(キュベット)32が周方向に沿って配列されたものである。キュベットホイール31は、キュベットホイール駆動手段(図示せず)によって図1中に矢印で示す方向に回転されて反応容器32を周方向に搬送する。
【0016】
また、反応部3には、測定光学系33が設けられている。測定光学系33は、光源331と光フィルタ332と測光センサ333とを有している。光源331は、所定波長の分析光(340〜800nm)を出射する。光フィルタ332は、所定波長にピークを有する光束を選択的に透過させる。光源311から出射され、光フィルタ332を透過した光束は、キュベットホイール31に設けられた孔311を通って反応容器32内の被検液を透過する。測光センサ333は、被検液を透過した光源331からの光束を測定する。
【0017】
試料分注機構4は、ラック供給部2と反応部3との間に設けられたもので、分注ノズル41を有している。分注ノズル41は、中空に形成された棒状体であり、先端を下方に向けた形態でアーム42に配設されている。アーム42は、アーム駆動手段(図示せず)によって水平方向に移動可能に設けられ、かつ、アーム駆動手段によって上下方向に移動可能に設けられている。分注ノズル41は、アーム42の水平移動により、所定位置にある試料容器22および反応容器32の上方位置に移動され、かつ、アーム42の上下移動により、先端を試料容器22および反応容器32に対して挿抜移動される。また、図には明示しないが分注ノズル41は、脱気水を通す配管を介してシリンジポンプに接続され、このシリンジポンプの駆動によって試料液を吸引あるいは吐出する。また、試料分注機構4には、試料容器22と反応容器32との間を移動する分注ノズル41の移動軌跡の途中位置に、分注ノズル41を洗浄するための洗浄槽43が設けられている。
【0018】
また、試料分注機構4は、液面検知機能を備えている。液面検知機能は、分注ノズル41が試料液の液面に接触したことを検知するものである。液面検知機能には、分注ノズル41の表面に導電性を持たせ、この分注ノズル41と試料容器22との間の静電容量の変化によって液体の液面を検知する静電容量式のものが用いられる。自動分析装置1において、液面検知機能は、分注ノズル41の先端が試料液に浸漬されて吸引が確実に行われているかを検知し、かつ、液体へのノズルの浸漬量を制御することで正確な分注を行うために必要な機能である。
【0019】
試薬保管部5は、円盤状のテーブルを構成する第一試薬保管庫51と第二試薬保管庫52とを有している。第一試薬保管庫51は検査項目に応じた第一試薬液を収容した試薬容器511が周方向に複数配置されたものである。また、第二試薬保管庫52は検査項目に応じた第二試薬液を収容した試薬容器521が周方向に複数配置されたものである。これら試薬保管庫51,52は、それぞれテーブル駆動手段(図示せず)によって回転されて試薬容器511,521を周方向に搬送する。
【0020】
試薬分注機構6は、第一試薬保管庫51と反応部3との間、および第二試薬保管庫52と反応部3との間にそれぞれ設けられたもので、分注ノズル61を有している。分注ノズル61は、中空に形成された棒状体であり、先端を下方に向けた形態でアーム62に配設されている。アーム62は、アーム駆動手段(図示せず)によって水平方向に移動可能に設けられ、かつ、アーム駆動手段によって上下方向に移動可能に設けられている。分注ノズル61は、アーム62の水平移動により、所定位置にある試薬容器511,521および反応容器32の上方位置に移動され、かつ、アーム42の上下移動により、先端を試薬容器511,521および反応容器32に対して挿抜移動される。また、図には明示しないが分注ノズル61は、脱気水を通す配管を介してシリンジポンプに接続され、このシリンジポンプの駆動によって試薬液を吸引あるいは吐出する。また、試薬容器511,521と反応容器32との間を移動する分注ノズル61の移動軌跡の途中位置に、分注ノズル61を洗浄するための洗浄槽63が設けられている。また、試薬分注機構6は、試料分注機構4と同様に液面検知機能を備えている。
【0021】
攪拌機構7は、反応部3におけるキュベットホイール31の上方位置に設けられたもので、第一攪拌装置71と第二攪拌装置72とを有している。第一攪拌装置71には、攪拌棒711が設けられている。攪拌棒711は、棒状に形成され、その先端を下方に向けた形態で保持部材712に配設されている。保持部材712は、保持部材駆動手段(図示せず)によって垂直方向に延在した回転軸7121を中心に回転可能に設けられている。攪拌棒711は、保持部材712の回転の周方向に沿って複数箇所(本実施の形態では3箇所)に対をなして配置されており、その1対が保持部材712の回転に伴ってそれぞれ反応容器32の上方位置に移動される。なお、反応容器32の上方位置に移動した攪拌棒711以外の2対の攪拌棒711の下方には、該攪拌棒711を洗浄するための洗浄槽713が設けられている。さらに、保持部材712は、前記保持部材駆動手段によって上下方向に移動可能に設けられ、攪拌棒711の先端を反応容器32および洗浄槽713に対して挿抜移動させる。さらにまた、保持部材712は、攪拌棒駆動手段(図示せず)によって各攪拌棒711を回転させる。
【0022】
第二攪拌装置72には、攪拌棒721が設けられている。攪拌棒721は、棒状に形成され、その先端を下方に向けた形態で保持部材722に配設されている。保持部材722は、保持部材駆動手段(図示せず)によって垂直方向に延在した回転軸7221を中心に回転可能に設けられている。攪拌棒721は、保持部材722の回転の周方向に沿って複数箇所(本実施の形態では3箇所)に配置されており、その1つが保持部材722の回転に伴って反応容器32の上方位置に移動される。なお、反応容器32の上方位置に移動した攪拌棒721以外の2つの攪拌棒721の下方には、該攪拌棒721を洗浄するための洗浄槽723が設けられている。さらに、保持部材722は、前記保持部材駆動手段によって上下方向に移動可能に設けられ、攪拌棒721の先端を反応容器32および洗浄槽723に対して挿抜移動させる。さらにまた、保持部材722は、攪拌棒駆動手段(図示せず)によって各攪拌棒721を回転させる。
【0023】
洗浄機構8は、反応部3におけるキュベットホイール31の上方位置に設けられたもので、洗浄ノズル81を有している。洗浄ノズル81は、中空に形成された棒状体であって、図4に示すように吸引ノズル811と洗浄液吐出ノズル812とオーバーフロー吸引ノズル813とが1つにまとめて形成されている。吸引ノズル811は、反応容器32内の液体を吸引するもので、最も長く延在して形成されている。洗浄液吐出ノズル812は、反応容器32内に洗浄液を吐出するもので、次に長く延在して形成されている。オーバーフロー吸引ノズル813は、洗浄液吐出ノズル812から吐出された洗浄液を反応容器32の外部に溢れないように吸引するもので、最も短く形成されている。洗浄機構8は、洗浄ノズル81を複数有し、それぞれ反応容器32に対して挿抜するよう洗浄ノズル駆動手段(図示せず)によって上下方向に移動可能に設けられている。
【0024】
このように構成される自動分析装置1による分析処理は、先ず、キュベットホイール31を回転して搬送される反応容器32に対し、試薬分注機構6の分注ノズル61によって第一試薬保管庫51の試薬容器511から第一試薬液を分注する。次に、第一試薬液が分注された反応容器32に対し、試料分注機構4の分注ノズル41によってラック21の試料容器22から試料液を分注する。次に、第一攪拌装置71の攪拌棒711によって反応容器32に分注された液体を攪拌することで、第一試薬液と試料液とを反応させる。次に、第一試薬液と試料液とが攪拌された反応容器32に対し、試薬分注機構6の分注ノズル61によって第二試薬保管庫52の試薬容器521から第二試薬液を分注する。次に、第二攪拌装置72の攪拌棒721によって反応容器32に分注された液体を攪拌することで、第一試薬液、試料液および第二試薬液が混合された被検液の更なる反応が促進される。次に、測定光学系33において、光源331から出射されて反応容器32内の被検液を透過した光束の光量を測光センサ333によって測定する。最後に、洗浄機構8の洗浄ノズル81によって、測定が行われた被検液を反応容器32内から吸引ノズル811で吸引し、その後に洗浄液吐出ノズル812から洗浄液を吐出し、オーバーフロー吸引ノズル813でオーバーフローを抑えつつ、吸引ノズル811で洗浄液を吸引する動作を数回繰り返して行うことで反応容器32を洗浄し、該反応容器32を次の測定に使用する。
【0025】
上記分析処理において、試薬分注機構6では、第一試薬液の分注後に、種類の異なる第一試薬液を分注する場合等、必要に応じて洗浄槽63の洗浄液で分注ノズル61を洗浄する。また、試料分注機構4では、試料液の分注後に、種類の異なる試料液を分注する場合等、必要に応じて洗浄槽43の洗浄液で分注ノズル41を洗浄する。また、第一攪拌装置71および第二攪拌装置72では、攪拌持に、被検液の攪拌に携わっていない攪拌棒711,721を洗浄槽713,723の洗浄液で洗浄する。また、洗浄機構8では、被検液の吸引後、洗浄ノズル81によって洗浄液の吐出・吸引を繰り返すことにより、該洗浄液で洗浄ノズル81自体を洗浄する。
【0026】
ところで、分注ノズル41,61、攪拌棒711,721、および洗浄ノズル81等の液体に接触する液体接触部品は、その表面が洗浄しきれない場合、キャリーオーバーや、前に接触した液体によって次の液体を薄めることで分析結果に影響を与える虞がある。また、液体接触部品の表面が洗浄しきれた場合であっても、該表面に洗浄液が付着して次に分注する液体を薄めることで分析結果に影響を与える虞がある。そこで、本実施の形態における自動分析装置1においては、図2〜図5に示すように、分注ノズル41,61、攪拌棒711,721、および洗浄ノズル81の表面に、液体(試料液、試薬液,被検液および洗浄液)に対して非親和性を有する複合めっき薄膜9が設けられている。
【0027】
図2に示すように、試料分柱機構4の分注ノズル41には、先端から上方に至り、試料容器22の高さa以上の範囲Aで複合めっき薄膜9が設けられている。具体的には、一般に用いられている試料容器22は最大高さが102mmであるため、分注ノズル41の先端から上方に至り少なくとも102mmの範囲Aで複合めっき薄膜9を設ける。このような範囲Aであれば、分注ノズル41の先端を試料容器22の底まで下降した場合でも、試料液に接触する部分の表面に複合めっき薄膜9が存在することになる。なお、図には明示しないが試薬分注機構6の分注ノズル61の場合も同様に、先端から上方に至り、試薬液を収容する試薬容器511,521の高さ以上の範囲で複合めっき薄膜9が設けられている。
【0028】
液体接触部品としての分注ノズル41,61に設けられた複合めっき薄膜9は、図3に示すように、液体に対して非親和性を有するフッ素樹脂の粒子91が金属材料92中に含まれるものである。金属材料はニッケルであることが好ましく、フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと言う)であることが好ましい。この複合めっき薄膜9は、界面活性剤を添加して攪拌させることでニッケルめっき液中に分子化されたPTFEの粒子91を分散させ、この粒子91を電解めっき処理もしくは無電解めっき処理によってニッケルと共に液体接触部品の表面に析出させて得られる。めっき処理において、PTFEの粒子91は、ニッケルめっき膜に吸着し、その上からさらにニッケルめっき膜が施されることで、図5に示すように金属材料92であるニッケルめっきの中に固定される。このように析出された複合めっき薄膜9は、めっき時に粒子91がニッケルに吸着されることによってPTFEが高濃度化することから、液体分子との付着力が極めて小さくなる。このため、液体Wは、複合めっき薄膜9への付着力よりもその液体分子の凝集力が大きくなり、図3に示すように複合めっき薄膜9の表面では球状になる。ここで、従前のPTFEのコーティングの表面は水に対する接触角が110°程度であるが、複合めっき薄膜9の表面では水に対する接触角が170°程度まで至る。この結果、分注ノズル41,61の表面に施した複合めっき薄膜9によれば、液体に対する非親和性が極めて高く、液体の付着をPTFEのコーティングよりも更に抑えて、液体の切れを向上することが可能になる。
【0029】
また、ニッケルとPTFEとの複合めっき薄膜9は、金属めっきであることから導電性を有している。このため、複合めっき薄膜9を施した分注ノズル41,61では、その表面に導電性を有し、この導電性によって静電容量の変化で液体の液面を検知する液面検知機能を備えることが可能である。一般的な分注ノズルでは、表面に導電性を得るために、耐食性や耐久性に優れたステンレスによって形成されているが、ステンレスの表面には液体が付着し易いため、液面検知機能を備えるための導電性と、液体の付着を抑えるための非親和性とを共に有することが難しかった。これに対し、本実施の形態における分注ノズル41,61は、その表面に複合めっき薄膜9を施してあることから、導電性および非親和性を共に有することが可能になる。しかも複合めっき薄膜9は、めっきによって得られるものであることから、分注ノズル41,61の管の外壁表面および内壁表面に容易に設けることができ、管の外壁表面および内壁表面において導電性および非親和性を共に有することが可能になる。
【0030】
また、ニッケルとPTFEとの複合めっき薄膜9は、めっきであることから膜厚が薄く、かつ、均一であり複雑な形状の表面に施せる。このため、複合めっき薄膜9を施した分注ノズル41,61では、寸法精度を維持することが可能になる。分注ノズル41,61は、微量な試料液や試薬液を正確に分注するために高い寸法精度が要求されている。したがって、膜厚が薄く、かつ、均一で複雑な形状の表面に施せる複合めっき薄膜9であれば、微量な試料液や試薬液を正確に分注するために加工された分注ノズル41,61の寸法精度や微細な形状を維持することが可能である。
【0031】
また、ニッケルとPTFEとの複合めっき薄膜9は、金属めっきであることから高硬度である。このため、複合めっき薄膜9を施した分注ノズル41,61では、液体に対する非親和性および導電性を施した処理に機械的強度を得ることが可能になる。
【0032】
また、ニッケルとPTFEとの複合めっき薄膜9は、めっきであることから部品の表面への密着性に優れる。このため、複合めっき薄膜9を施した分注ノズル41,61では、液体に対する非親和性および導電性を施した処理に耐久性を得ることが可能になる。
【0033】
また、ニッケルとPTFEとの複合めっき薄膜9は、無電解めっき処理によって金属以外に樹脂材等の様々な基材の表面に施せる。このため、複合めっき薄膜9を施した分注ノズル41,61では、材質を選択することができる。分注ノズル41,61には、上述したようにステンレスが一般に用いられているが、ステンレスは重量が嵩むため、分注ノズル41,61を支持する構造や、該分注ノズル41,61を移動させる駆動手段への負荷がかかる。そこで、分注ノズル41,61に例えば軽量な樹脂材を用いることで上記負荷を低減することが可能になる。
【0034】
図4に示すように、攪拌棒711,721には、先端から上方に至り、反応容器32の高さb以上の範囲Bで複合めっき薄膜9が設けられている。具体的には、一般に用いられている反応容器32は最大高さが25mmであるため、攪拌棒711,721の先端から上方に至り少なくとも25mmの範囲Bで複合めっき薄膜9を設ける。このような範囲Bであれば、攪拌棒711,721の先端を反応容器32の底まで下降した場合でも、被検液に接触する部分の表面に複合めっき薄膜9が存在することになる。
【0035】
この攪拌棒711,721では、複合めっき薄膜9の液体に対する非親和性によって、その表面への液体の付着を従前のPTFEのコーティングよりも更に抑え、液体の切れを向上することが可能になる。また、めっきであることから膜厚が薄く、かつ、均一であり複雑な形状の表面に施せる複合めっき薄膜9を施した攪拌棒711,721では、寸法精度を維持することが可能になる。また、金属めっきであることから高硬度である複合めっき薄膜9を施した攪拌棒711,721では、液体に対する非親和性を施した処理に機械的強度を得ることが可能になる。また、めっきであることから部品の表面への密着性に優れる複合めっき薄膜9を施した攪拌棒711,721では、液体に対する非親和性を施した処理に耐久性を得ることが可能になる。さらに、無電解めっき処理によって金属以外に樹脂材等の様々な基材の表面に施せる複合めっき薄膜9を施した攪拌棒711,721では、その材質を選択することができる。
【0036】
図5に示すように、洗浄ノズル81は、吸引ノズル811、洗浄液吐出ノズル812およびオーバーフロー吸引ノズル813の先端から上方に至り、反応容器32の高さb以上の範囲B’で複合めっき薄膜9が設けられている。具体的には、上述したように一般に用いられている反応容器32は最大高さが25mmであるため、洗浄ノズル81の先端から上方に至り少なくとも25mmの範囲B’で複合めっき薄膜9を設ける。このような範囲B’であれば、洗浄ノズル81の先端を反応容器32の底まで下降した場合でも、被検液に接触する部分の表面に複合めっき薄膜9が存在することになる。
【0037】
この洗浄ノズル81では、複合めっき薄膜9の液体に対する非親和性によって、その表面への液体の付着を従前のPTFEのコーティングよりも更に抑え、液体の切れを向上することが可能になる。しかも、複合めっき薄膜9は、めっきによって得られるものであることから、洗浄ノズル81の管の外壁表面および内壁表面に容易に設けることができ、管の外壁表面および内壁表面において非親和性を有することが可能になる。また、めっきであることから膜厚が薄く、かつ、均一であり複雑な形状の表面に施せる複合めっき薄膜9を施した洗浄ノズル81では、寸法精度を維持することが可能になる。また、金属めっきであることから高硬度である複合めっき薄膜9を施した洗浄ノズル81では、液体に対する非親和性を施した処理に機械的強度を得ることが可能になる。また、めっきであることから部品の表面への密着性に優れる複合めっき薄膜9を施した洗浄ノズル81では、液体に対する非親和性を施した処理に耐久性を得ることが可能になる。さらに、無電解めっき処理によって金属以外に樹脂材等の様々な基材の表面に施せる複合めっき薄膜9を施した洗浄ノズル81では、その材質を選択することができる。
【0038】
このように、分注ノズル41,61、攪拌棒711,721、および洗浄ノズル81等の液体接触部品では、液体に接触する表面に、液体に対して非親和性を有するフッ素樹脂(PTFE)の粒子91が金属材料(ニッケル)92中に含まれた複合めっき薄膜9が設けられている。これにより、従前のPTFEのコーティングと比較して液体に対する非親和性が向上し、その表面への液体の付着を更に抑えて該表面での液体の切れを向上することが可能になる。この結果、キャリーオーバーや、他の液体を薄めることによる分析結果への影響を防ぐことができる。さらに、液体の付着が抑えられて液体の切れが向上することで、洗浄時間を短縮化して分析の高速化を図ることも可能になる。
【0039】
また、近年では、被検者の負担軽減のために試料液の採取量を少なくし、この少量の試料液から多くの検査項目の測定を行う要求から、試料液および試薬液の分注量が微量化され、これら試料液および試薬液が混合された被検液の量も微量化されている。このような場合であっても複合めっき薄膜9を採用することによって、液体に接触する表面への液体の付着が極めて少なくなって該表面での液体の切れが向上することから、液体の微量化に伴うキャリーオーバーの発生や、他の液体を薄めることによる分析結果への影響を防ぐことができる。
【0040】
特に、液体接触部品として複合めっき薄膜9を設けた分注ノズル41,61では、フッ素樹脂(PTFE)の粒子91によって液体に対する非親和性とともに、金属材料(ニッケル)92によって導電性を備えることが可能になる。これにより、分注ノズル41,61では、非親和性によってキャリーオーバーや、他の液体を薄めることによる分析結果への影響を防ぐことができ、かつ、導電性によって静電容量の変化で液体の液面を検知する液面検知機能を兼ね備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の液体接触部品が用いられる自動分析装置の概略構成図である。
【図2】複合めっき薄膜を分注ノズルに設けた形態を示す概略図である。
【図3】複合めっき薄膜の構造を模式的に示した図である。
【図4】複合めっき薄膜を攪拌棒に設けた形態を示す概略図である。
【図5】複合めっき薄膜を洗浄ノズルに設けた形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0042】
1 自動分析装置
22 試料容器
32 反応容器
33 測定光学系
4 試料分柱機構
41 分注ノズル
43 洗浄槽
511 試薬容器
521 試薬容器
6 試薬分注機構
61 分注ノズル
63 洗浄槽
7 攪拌機構
71 第一攪拌装置
711 攪拌棒
713 洗浄槽
72 第二攪拌装置
721 攪拌棒
723 洗浄槽
8 洗浄機構
81 洗浄ノズル
811 吸引ノズル
812 洗浄液吐出ノズル
813 オーバーフロー吸引ノズル
9 複合めっき薄膜
91 フッ素樹脂の粒子
92 金属材料
W 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液と試薬液とを混合させた被検液の反応を測定する自動分析装置において液体に接触して用いられる液体接触部品であって、
液体に接触する表面に、前記液体に対して非親和性を有するフッ素樹脂の粒子が金属材料中に含まれる複合めっき薄膜を設けたことを特徴とする液体接触部品。
【請求項2】
前記金属材料はニッケルであり、前記フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1に記載の液体接触部品。
【請求項3】
試料液または試薬液を分注する分注ノズルの表面に、前記複合めっき薄膜を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の液体接触部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−256525(P2008−256525A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98921(P2007−98921)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】