液体搬送装置
【課題】 二次元方向に液体を搬送する基板について,搬送に必要な電極を同一基板上に備え,電位を制御する機構の数を抑える。
【解決手段】 表面が撥水性の表面をもつ誘電体に覆われ,基板平面上に配置された矩形電極131と,矩形電極131をx方向に連結した第一軸電極列1311〜1322と,矩形電極131をy方向に連結した第二軸電極列1331〜1342を持つ液体搬送基板13を用いる。これにより,液滴の搬送に必要な電極を同一基板上に備え,電位を制御する機構の数を抑えることができる。
【解決手段】 表面が撥水性の表面をもつ誘電体に覆われ,基板平面上に配置された矩形電極131と,矩形電極131をx方向に連結した第一軸電極列1311〜1322と,矩形電極131をy方向に連結した第二軸電極列1331〜1342を持つ液体搬送基板13を用いる。これにより,液滴の搬送に必要な電極を同一基板上に備え,電位を制御する機構の数を抑えることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力を利用して微小液滴を操作する液体搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する高い関心や、高度医療社会の要望などから、微量な化学物質や生体物質を、簡便に分析する技術及び装置が求められるようになっている。これらの要求に対し、従来の分析技術に比べ、コスト、簡便性、測定時間の短縮などの利点があることから、マイクロ化学分析システム(μTAS(Micro Total Analysis System)やLab-On-Chipとも称される)の研究が盛んになっている。
【0003】
マイクロ化学分析システムは、サンプルの混合、反応、分離などの一連の化学操作をミクロ化し、ガラスやプラスチック基板上に集積化したものである。これまで、マイクロ化学分析システムの研究は、サンプルである液体を、連続流体として扱う研究が主流であったが、最近、ポンプやバルブを必要としないことや、消費電力が少ないなどの理由から、液体を小滴として扱う研究が注目を集めている(特許文献1−2、非特許文献1−4)。
【0004】
液体を小滴として扱う方法の一つが、通称エレクトロウェッティングと呼ばれている方法である。エレクトロウェッティングは、電圧の印加により、固体表面への液体の濡れを制御する技術であり、これらの液滴の搬送の原理は、非特許文献1,2、特許文献1にて、電気毛管現象あるいは電気湿潤現象で説明されている。
【0005】
M.G.Pollack氏らは、非特許文献1にて、複数の制御用電極を平面上に有した下部基板と、接地電極を平面上に有した上部基板を、隙間を成すよう平行に配置したデバイスを構成し、その隙間にシリコーンオイルを満たし,電解質の液滴を入れたデバイスを考案した。複数の制御用電極に連結したスイッチを切り替え、制御用電極の電位を制御することで、シリコーンオイルで満たされた基板間に存在する電解液の液滴を、40Vから80Vの印加電圧で搬送したことを報告している。このとき、下部基板上の複数の制御用電極は誘電体層(パリレン、厚さ700nm)で 覆われ、さらにその表面は撥水性の物質(テフロン(登録商標)、厚さ200nm)で覆われている。また、上部基板上の接地電極は、(テフロン(登録商標)、厚さ200nm)で覆われている。また、M.G.Pollack氏らは、特許文献1にて、接地電極と制御電極を同一基板上に備え、搬送機構を片面に備えたデバイスを記載している。
【0006】
非特許文献1と同じ構造で、充填物にシリコーンオイルを用いず、空気中で液滴の搬送を行った例として、H.Moon氏らのデバイスがある。H.Moonらは、非特許文献2にて、誘電体に高誘電体材料であるBST(Barium Strontium Titanate)を利用することで、15Vの印加電圧で液滴の搬送ができたことを報告している。
【0007】
M.G.Pollack氏やH.Moon氏らのデバイスは,一次元方向に動かすデバイスであったが, S.-K.Fan氏らは,非特許文献3にて,N本の短冊状の電極を持った下部基板とM本の短冊状の電極を持った上部基板を,お互いの電極が直角になるように組み合わせ,上下の電極によって構成されるN×M個の格子点の位置に液滴を動かすEWOD(Electro Wetting On Dielectric)送液デバイスを開発したことを報告している。
【0008】
液滴を小滴として扱うもう一つの方法は、液滴下方に存在する電極の電位を切り替えることで、液滴表面のマクスウェル応力分布を変化し、液滴を搬送する方法である。
【0009】
鷲津氏は、非特許文献4にて、複数の電極を平面上に備えたデバイスを用い、電極の電位を順次切り替えることで、デバイス上に存在する液滴を、400Vrmsの印加電圧で一次元方向に搬送することに成功している。このとき、基板上の複数の電極は誘電体層(SC450(登録商標)、厚さ10μm)で 覆われ、さらにその表面は撥水性の物質(テフロン(登録商標))で覆われている。また、鷲津氏は、特許文献2にて、複数の電極を平面上に備えたデバイス上に撥水性表面の管路を設けた構造についても記載している。
【0010】
【特許文献1】US2004/0058450
【特許文献2】特開平10-267801号公報
【非特許文献1】Applied Physics Letters, Vol.77, No.11, pp.1725-1726
【非特許文献2】Journal of Applied Physics,Vol.92,No.7,pp.4080-4087
【非特許文献3】Proc.MEMS2003,pp. 694 697
【非特許文献4】IEEE Industry Applications Society, Annual meeting, New Orleans, Louisiana, October 5-9,1997, “Electrical actuation of liquid droplet for microreactor applications”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記方法を使用したデバイスを化学分析装置などに適用するにあたり、使用者の目的および用途に応じたさまざまな化学反応をデバイス内で実現し,測定することが重要となる。すなわち,任意の量の液体を二次元方向に自在に搬送する汎用性,目的の位置まで精度よく搬送する正確性,センサやリアクタの混載を可能にする多目的化が重要になる。電気的制御により、液体を小滴として扱う方法に関しては、以下のような課題が考えられる。
【0012】
特許文献1,2,非特許文献1,2,4記載のデバイスは,液体を搬送する位置毎に各々独立した電極を配置する構造のため,搬送する位置の数の増加とともに電極の数は増加し,電極毎の電位を制御する配線やスイッチの数も増加する。配線やスイッチの数の増加はシステム装置への負担を増すことから,より少ない配線やスイッチの数で目的の液滴を搬送することが望ましい。
【0013】
非特許文献3記載のデバイスは,上下の電極が構成するN×M個の格子点の位置に,N+M本の電極およびそれぞれ対応するスイッチで液滴を自在に搬送することができるが,上下の両方の基板に,駆動に必要な電極を備える必要があるため,センサやリアクタを基板上に混載することは難しい。
【0014】
一方,非特許文献4では,駆動に必要な複数の電極を一平面上に備えているため,センサやリアクタをもう一方の基板に設置することが可能であるが,一定の液量を搬送する定量性や,搬送した液体を決められた位置に精度よく搬送し,停止する正確性については考慮していない。以上のようにセンサやリアクタとの混載が容易で,正確に位置あわせができるデバイスは実現できていない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
我々は,上記問題を解決するために一の平面上に液滴搬送用の電極を形成することを考えた。図1は,複数の矩形電極231を辺方向に連結した液体搬送基板23の一部分のモデル図で,複数の矩形電極231の基板平面上での位置関係を示す。図2(1),(2)は複数の矩形電極231を辺方向に連結した液体搬送基板23において,矩形電極231をx軸方向に連結した第一軸電極列2315〜2320と,矩形電極231をy方向に連結した第二軸電極列2335〜2340から,一組の第一軸電極列および第二軸電極列に電位差を与えたときの複数の矩形電極231の電位を示した図である。
【0016】
図1において,液体搬送基板23は,基板の表面上に敷き詰めた複数の矩形電極231を備え,複数の矩形電極231は,矩形電極131のいずれかの一つの辺方向,すなわち図中におけるx方向もしくはy方向に連結されている。矩形電極231をx方向に連結する導線すべてを第一軸連結導線232,y方向に連結する導線すべてを第二軸連結導線233とする。第一軸連結導線232によりx方向に連結されている矩形電極231を,行ごとに一つの電極列とみなし,第一軸電極列2311〜2314と呼ぶことにする。また,第二軸連結導線233により,y方向に連結されている矩形電極231を,列ごとに一つの電極列とみなし,図中左から,第二軸電極列2331〜2334とする。第一軸連結導線232は第二軸電極列を構成する矩形電極231の下層に,第二軸連結導線233は第一軸電極列を構成する矩形電極231の下層に位置するよう構成している。第一軸連結導線232と第二軸電極列を構成する矩形電極231,第二軸連結導線233と第一軸電極列を構成する矩形電極は絶縁層により電気的に絶縁されている。
【0017】
図2において, 液体搬送基板23の第一軸電極2317と第二軸電極2337に電位差を与えたとき,二つの電極が交差する範囲241は,矩形電極が縦に3個並んだ長方形となり,縦方向に大きい勾配の電界が発生する。また第二軸電極列2337の隣の第二軸電極列である第二軸電極列2338と第一軸電極2317に電位差を与えたとき,二つの電極が交差する領域242は,矩形電極が横に3個並んだ長方形となり,横方向に大きい勾配の電界が発生する。すなわち,矩形電極231を辺方向に連結した液体搬送基板23は,電位差を与えた第一軸電極と第二軸電極の組み合わせにより,電界の勾配に応じた液滴の形状の変化が大きくなる。
【0018】
本発明の目的は,配線やスイッチの数を少なくしても,センサやリアクタとの混載が容易で,液滴を安定して搬送し,正確な位置あわせがデバイスを供給することである。
【0019】
本発明の液体搬送基板の一実施例は,基板と,前記基板上に設置され,かつ第1の軸方向の複数の列に配置された複数の第1電極と,前記複数の第1電極のうち隣接する2つの前記第1電極を各々接続し,前記第1の軸方向に沿って配置される複数の第1導線と,前記基板上に設置され,かつ前記第1の軸方向と交わる第2の軸方向の複数の列に配置された複数の第2電極と,前記複数の第2電極のうち隣接する2つの前記第2電極を各々接続し,前記第2の軸方向に沿って配置され,かつ一の前記第1導線と各々交差する複数の第2導線と,前記第1導線と前記第2導線とを絶縁する絶縁層とを有し,一の前記第1導線と一の前記第2導線とは,前記第1電極が実質的に配置される面からみて前記第1電極及び前記第2電極の各々の位置しない領域で交差し,前記絶縁層は,少なくとも前記交差する領域に位置することを特徴とする。
【0020】
また,第2電極は,第1の軸方向の,連続した二つの列に隣接して配置された4つの第1電極の重心から構成される格子内に配置されてもよい。
【0021】
また,第1電極および第2電極および第1導線および第2導線は,撥水性表面を備えた誘電体で覆われてもよい。
【0022】
複数の第1電極および第2電極の形状は,多角形であり,好ましくは偶数角形さらに好ましくは四角形としてよい。第1電極および第2電極の形状が四角形の場合,第1の軸方向に第1頂点と第1頂点と対向する第2頂点とを配置し,第2の軸方向に第3頂点と第3頂点に対向する第4頂点とを配置する。もっともわかりやすい例は市松模様配置である。
【0023】
また,液滴搬送効率を考えると,液滴と電極の静電容量が素子の静電容量より十分大きいことが必要になる。第1電極および第2電極は,面積が1μm2以上,1mm2以下となるように設計する。
【0024】
また,本発明に関わる液体搬送の方法では,複数の第1電極の電位を変更する第1電極制御装置と,複数の第2電極の電位を変更する第2電極制御装置を備えてもよく,第1電極手段および第2電極制御手段により,少なくとも一組の第1電極および第2電極に電位差を与える。このとき,電位差を与えた少なくとも一組の第1電極および第2電極の電位を一定時間後に,切り替えてもよい。
【0025】
また,第1電極と第2電極を備える基板に対し,もう一つの平面基板を対向に実質的に平行配置してもよく,第1電極と第2電極を備える基板と平面基板の間隔は100nm以上,1mm以下となるよう設計してもよい。
【0026】
また,温度調節器,センサ,リアクタを備えた基板を実質的に平行配置してもよく,温度調節器,センサからの出力の解析と,目的の液滴の搬送のための信号を出力するシステム装置と,システム装置の信号より,複数の第1電極の電位を変更する第1電極制御装置と,複数の第2電極の電位を制御する第2電極制御装置を備えてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると,誘電体に覆われている電極を基板表面上で二次元に配置し,第1の軸もしくは第2の軸方向に連結した各電極群に対し,少なくとも一組の第1の軸方向の電極と第2の軸方向の電極に電位差を与えることで,液滴を搬送,停止させることができる。本発明のデバイスは,液体を搬送する位置毎に電位を制御するスイッチを備える必要が無いため,操作に必要なスイッチ数を少なくし,操作を制御するシステム装置への負担を軽減することができる。デバイス表面に流路溝を形成しなくても,デバイス上の液滴を使用者の目的に応じた経路で搬送することができる。また,与える電位を切り替えることで,搬送した液滴の位置のずれを修正することができる。また,上記デバイスの上部に液滴の搬送に必要な電極を備えた基板を用いる必要が無いため,温度調節器,センサやリアクタを備えた基板を備えることが容易になる。さらに,このとき,液滴の搬送経路を変更することで,温度調節器,センサやリアクタに接する順番や時間を変えることができるため,多用な目的に対応が可能な化学分析装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0029】
図3は,本実施例の液体搬送装置の構成例を示す図である。本実施例の液体搬送装置1は,液滴15を保持する液体搬送素子10と,液体搬送素子10に印加する電圧を制御するための第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17と,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17に制御のための信号を出力するシステム装置19で構成されている。
【0030】
液体搬送素子10は,上部基板12および,駆動のための複数の矩形電極131を備えた液体搬送基板13を,スペーサ18により,隙間を形成するよう配置することで構成され,二つの基板の隙間内に搬送する液滴15を保持している。上部基板12と液体搬送基板13とは実質的に平行配置とすることが望ましい。図中にて,液体搬送素子10は,スペーサ18,上部基板13の一部を断面図で表現した鳥瞰図で表現する。
【0031】
スペーサ18には,厚さ10μm〜1000μmの電子機器用の両面テープ,例えば,ポリエステルフィルムの基材およびアクリル系の粘着剤を使用した両面テープを使用した。さらに厚さを薄くするためには、フォトレジストなどの感光性材料で形成したスペーサーを使用するか、Deep RIE(Deep Reactive Ion Etching)などを使用した半導体の製造工程により、上部基板12もしくは液体搬送基板13に段差を設けることが挙げられる。
【0032】
上部基板12には,液滴15側に上部基板撥水層121を備えたガラスを使用した。上部基板12に用いる他の材料としては,平面度の高い物質が好ましく、液滴15の動作観察などのため、透明性が必要であれば石英、PMMA(ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート、アクリル樹脂))が挙げられる。上部基板撥水層121はフッ素樹脂で構成し,フッ素樹脂以外の撥水材料としてはシリコーン樹脂が挙げられる。ここでの撥水性とは水の接触角が90°以上になることをいう。本実施例では,液体の搬送を説明するため,上部基板12にはリアクタやセンサを構成していない。リアクタやセンサなどが配置された上部基板を用いても同様の搬送が可能である。液体搬送基板13については以下で説明する。
【0033】
システム装置19より出力された信号に従い,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17は,第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622および第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722を切り替え,矩形電極群131の電気的状態を接地,電源により与えられる電位,フローティングの一つに制御し,液滴15を搬送する。
【0034】
図4は液体搬送素子10を構成する液体搬送基板13の構造を示すための,液体搬送基板13の全体の平面図と液体搬送基板13の一部の拡大図である。複数の矩形電極131の基板平面上での位置関係を示す。液体搬送基板13は,基板の表面上に敷き詰めた複数の矩形電極131を備え,複数の矩形電極131は,矩形電極131のいずれかの一つの対角線方向,すなわち図中におけるx方向もしくはy方向に連結されている。電極は矩形としているが、多角形、特に偶数角形であってもよい。四角形の場合には、第一軸方向に
第1頂点と前記第1頂点と対向する第2頂点とを配置し、第二軸方向に第3頂点と第3頂点に対向する第4頂点とを配置する。矩形電極131をx方向に連結する導線すべてを第一軸連結導線132,y方向に連結する導線すべてを第二軸連結導線133とする。第一軸連結導線132によりx方向に連結されている矩形電極131を,行ごとに一つの電極列とみなし,図中下から,第一軸電極列1311〜1322と呼ぶことにする。また,第二軸連結導線133により,y方向に連結されている矩形電極131を,列ごとに一つの電極列とみなし,図中左から,第二軸電極列1331〜1342とする。第一軸連結導線132および第二軸連結導線133は,矩形電極131の間の領域にて,絶縁膜をはさんだ階層構造をとる。このような構成により、基板の上面からみたときの電極同士の重なり領域を排除し、かつ第一軸連結導線及び第二軸連結導線の重なり領域を極小化させ、x方向の電極列とy方向の電極列との間でコンデンサ効果が生じて、電力が消費されることを回避することができる。本実施例においては,第一軸連結導線132は第二軸連結導線133の下層に位置するよう構成している。第一軸連結導線及び第二軸連結導線とは、複数の矩形電極が実質的に配置される面からみて、x方向に連結されている電極列群とy方向に連結されている電極列群の各々の位置しない領域で交差する。絶縁膜は、少なくとも交差の領域の第一軸連結導線と第二軸連結導線との間には位置するように配置される。
【0035】
図5は,図4における下部基板13のA−A´断面およびB−B´断面での断面図であり,特に,第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差領域での構造を示すものである。第一軸連結導線132は,下層導線1359とプラグ1357で構成されている。液体搬送基板13は,下層より,基礎基板1351,底面絶縁層1352,電極列間絶縁層1353,下層導線1359,プラグ1357,第二軸連結導線133,矩形電極131,誘電体層1354,液体搬送基板上の撥水層1355で構成されている。第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差する領域において,第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の間に電極列間絶縁層1353が存在するため,二つの電極列は電気的に絶縁されている。
【0036】
基礎基板1351の材料としてシリコンを、底面絶縁層1352,電極間絶縁層1353には酸化シリコンを、矩形電極131,第一軸連結導線132、第二軸連結導線133にはタングステンを、誘電体層1354には厚さ75nmの窒化シリコンを、液体搬送基板上の撥水層1355には、フッ素系樹脂を使用した。基礎基板1351に用いる他の材料としては、液滴15の動作観察などのため、透明性を重視するのであればガラスや石英が挙げられる。底面絶縁層1352,電極間絶縁層1353に用いる他の材料としては、絶縁性の高い物質として、窒化シリコンなどが挙げられる。基礎基板1351にガラスや石英など絶縁体を用いる場合は,底面絶縁層1352はなくてもよい。矩形電極131,第一軸連結導線132、第二軸連結導線133に用いる他の材料としては、アルミニウム、金、白金などの金属材料や、透明性を重視するのであれば、ITO(Indium Tin Oxide)が挙げられる。誘電体層1354に用いる他の材料としては、高誘電体材料が好ましく、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化タンタル、BST(Barium Strontium Titanate)、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ランタンなどの金属酸化物や金属窒化物、ハフニウム・アルミネート(HfAlO)等これらの材料を組み合わせた絶縁体などが挙げられる。液体搬送基板上の撥水層1355の他の材料としては、シリコーン樹脂が挙げられる。ここでの撥水性とは水の接触角が90°以上になることをいう。
【0037】
図6は,液滴15の搬送時の液体搬送装置1の動作説明図である。図6を用いて、液滴15を、目的位置141に搬送する工程を説明する。第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622,第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の動作は、システム装置19より出力される信号に従い、第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17で制御する。
【0038】
液滴15の搬送が始めるまで,第一軸電極列1311〜1322および第二軸電極列1331〜1342はフローティングの状態になっているか,もしくは,液滴15を停止させる目的より,第一軸電極列1313,1314は設定電位V1に,第二軸電極列1333,1334は設定電位V2に,残りの電極列はフローティングの状態になっている(ただしV1>V2)。このとき,液滴15の一部が誘電層1354を介し,第一軸電極列1315かつ第二軸電極列1334,1335接している。
【0039】
次に,目的位置141を通る第一軸電極列1315,1316の電位を設定電位V1に,目的位置141を通る第二軸電極列1333,1334の電位を設定電位V2になるよう,第一軸液体搬送用スイッチ1615,1616および第二軸液体搬送用スイッチ1713,1714を切り変える。例えば,誘電体層に厚さ100nmの窒化シリコンを用いたとき,V1=15,V2=−15とした。目的位置141において,第一軸電極列1315,1316および第二軸電極列1333,1334は交差する。その電極列間では液滴15を介して電位差が生じ,表面のみかけの濡れ性がエレクトロウェッティングにより増すため,液滴15は目的位置141に移動する。図中,電位V1の状態になっている第一軸電極列1315,1316は縦線のハッチング処理を,電位V2の状態になっている第二軸電極列1333,1334は横線のハッチング処理をして,その他の電極列と区別する。このとき,第一軸電極列1315,1316が電位V2,第二軸電極列1333,1334が電位V1でも,液滴15は目的位置141に移動する。すなわち,電位をV1(もしくはV2)に設定した第一軸電極列および電位をV2(もしくはV1)に設定した第二軸電極列が隣接する領域に,近傍の液滴15は移動する。
【0040】
12行の第一軸電極列1311〜1322および12列の第二軸電極列1331〜1342から,二列ずつ第一軸電極列および第二軸電極列を選択する選択数は121通りである。すなわち,12個の第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622および12個の第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722を組み合わせることで,液滴15を液体搬送基板13上の121箇所に搬送することができる。
【0041】
また,同時に電位差を与える第一軸電極列および第二軸電極列の本数を変え,電位差を与えた第一軸電極列および第二軸電極列の交差する領域の有効面積を変更することができる。液滴と領域の面積の関係について,領域の有効面積は,搬送する液滴と液体搬送基板13との接触面積より少し小さくする。液滴15の量は,液滴と液体搬送基板13との接触面積と,上部基板12(図3)と液体搬送基板13の間隔の積と等しいため,電位差を与える第一軸電極列および第二軸電極列の本数を変えることで,量の大小にかかわらず液滴15を搬送することができる。
【0042】
また,液体搬送素子10は,液体の必要な電極すべてを液体搬送基板13に備えているため,上部基板12やスペーサ18を使用しない開放型の液体搬送素子としての使用もできる。
【0043】
上記の方法に加えて,電圧の印加方法を工夫することで,液滴の搬送力を高めることができる。
【0044】
図7は,液滴15の搬送力を上げるための電圧の印加方法をタイムチャートで示した図である。液滴15を目的位置141に搬送するにあたり,搬送前の液滴15の位置を通る第一軸電極列1313,1314,目的位置141を通る第一軸電極列1315,1316,目的位置141と搬送前の液滴15の位置を通る第二軸電極列1333,1334は,第一軸電圧制御装置16もしくは第二軸電圧制御装置17により,電位V1の状態181,フローティングの状態182,電位V2の状態183のいずれかになる。(a)は,搬送前の液滴15の位置を通る第一軸電極列1313,1314の電位の状態を,(b)は,第二軸電極列1333,1334の電位の状態を,(c)は第一軸電極列1315,1316の電位の状態を時系列で表したものである。
【0045】
液滴15の搬送前において,液滴15を静止させる目的により,第一軸電極列1313,1314,第二軸電極列1333,1334に対し,一方の電極列がV1のとき,もう一方の電極列はV2となるよう周期的に繰り返す。電位がV1からV2(もしくはV2からV1)に替わる間は,両方の電極列ともフローティングの状態を経る。液滴15の位置が安定したところで繰り返しをとめてもよい。また,液滴と電極形状のずれが生じるが,両方の電極列をフローティングの状態にしてもよい。
【0046】
次に液滴15を目的位置141に搬送するにあたり,第一軸電極列1313,1314をフローティングの状態になるように切り替え,同時に,第一軸電極列1315,1316と第二軸電極列1333,1334に対し,一方の電極列の電位がV1のとき,もう一方の電極列の電位がV2となるよう周期的に繰り返すように切り替える。切り替えた時点から液滴15の目的位置141への搬送が始まる。電位がV1からV2(もしくはV2からV1)に替わる間は,両方の電極列ともフローティングの状態を経る。電極列の電位の繰返し周期は1ミリ秒から1秒の間とした。
【0047】
選択した第一軸電極列と第二軸電極列がフローティングの状態になり,表面のみかけの濡れ性が元に戻ると,液滴の形状を元に戻す復元力が生じる。また,反対の電位の状態になるときに,液滴15下面に誘起された電荷と両方の電極列で反発力が生じる。これら二つの生じた力が液滴の搬送力になり,より液滴15の搬送力を上げることができる。第一軸電圧制御装置及び第二軸電圧制御装置は,各々反対の位相の電圧を印加し,所定の間隔で電圧の正負を切り替えてもよい。
【0048】
またこの電圧の印加方法では,液滴15の搬送の際に,液滴15が目的位置より少しずれた場合においても,液滴の位置を修正することができる。
【0049】
図8〜図10は,液滴15を二つの液滴に分割するときの液体搬送装置1の動作説明図である。第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622,第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の状態および,各動作における液滴15の挙動を示す。
【0050】
図8〜図10を用いて,液滴15を,二つの液滴151および152に分割する工程を説明する。第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622および第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の動作は,システム装置19より出力される信号に従い,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17で制御する。
【0051】
図8は,液滴15の分割前の状態を示す。この状態において,第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622および第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722は,対応する第一軸電極列1311〜1322および第二軸電極列1331〜1342が,すべてがフローティングの状態になるようにする。またこの状態において,フローティングの状態でもよいが,液滴の存在する領域に電位差を与えるように選択した第一軸電極列および第二軸電極列に電位V1およびV2をかけてもよい。
【0052】
次に図9は,液滴15の分割の途中過程における液滴15の形状と,第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622,第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の状態を示す。このとき第一軸電極列1315,1316は電位V1(もしくはV2)の状態,第二軸電極列1334,1335,1338,1339が電位V2(もしくはV1)となるよう第一軸液体搬送用スイッチ1616,1617および第二軸液体搬送用スイッチ1714,1715,1718,1719を切り替える。すなわち,第1軸方向において少なくとも1つの電極列を含む1の列群について電位印加の状態とした上,第2軸方向において少なくとも1つの電極列を各々含む,少なくとも2つの列群について電圧印加の状態とする。ここで,列群が複数の電極列を含むときには互いに隣接する電極列からなることとする。電位V1の第一軸電極列1315,1316と電位V2の第二軸電極列1334,1335,1338,1339が隣り合う領域の表面から,液滴15は相反する方向に駆動力を受け,引き離される。
【0053】
次に図10は,液滴15を二つの液滴151と152に分割したときの第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622,第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の状態を示す。このとき第一軸電極列1335,1336は電位V1(もしくはV2)の状態,第二軸電極列1313,1314,1319,1320は電位V2(もしくはV1)となるよう第一軸液体搬送用スイッチ1616,1617および第二軸液体搬送用スイッチ1713,1714,1719,1720は切り替わる。すなわち,第1軸方向において電位印加の状態とした,少なくとも1つの電極列を含む1の列群の位置を保ちながら,第2軸方向において電圧印加の状態とする,少なくとも1つの電極列を各々含む,少なくとも2つの列群の位置を各々が離れる方向へ変更する。電位V1の第一軸電極列1315,1316と電位V2の第二軸電極列1333,1314,1339,1340が隣り合う領域の表面から,液滴15は相反する方向に駆動力を受ける。さらに引き離すことで,液滴15を液滴151と液滴152に分割した状態で保持できる。
【0054】
一方,上記と逆の手順で,二つの液滴151と152に対し,向かい合う方向に駆動力を与えることで,二つの液滴を一つの液滴に合体することができる。
【0055】
図11は、液体搬送基板13の作製方法を示す工程断面図である。断面は,図4におけるA−A´断面である。
(1)基礎基板(シリコン)1351に熱酸化処理を施し、表面に底面絶縁層1352である厚さ300nmのシリコン酸化膜層を形成した。
(2)第一軸連結導線132の一部である下層導線1359を形成するための導電体層1356として、窒化チタン/タングステン層を厚さ20nm/150nmになるよう化学気相堆積法により堆積する。
(3)ホトリソグラフィによりパターン形成し、導電体層1356をエッチングし、下層導線1359を形成する。
(4)電極間絶縁層1353として、ここではシリコン酸化膜層を堆積する。
(5)プラグ1322のための貫通孔の形成のためホトリソグラフィとエッチングを行う。続けて,窒化チタン/タングステン層を化学気相堆積法により堆積し、エッチバックを行いプラグ1322を形成する。
(6)矩形電極131及び第二軸連結導線133のための導電体層1358として、窒化チタン/タングステン層を厚さ20nm/150nmになるよう化学気相堆積法により堆積する。
(7)ホトリソグラフィによりパターン形成し、導電体層1358をエッチングし、矩形電極131および第二軸連結導線133を形成する。
(8)誘電体層1354として、窒化シリコンを厚さ75nmになるよう化学気相堆積法により堆積する。外部電源と矩形電極131の配線箇所を接続するために,ホトリソグラフィによるパターン形成の後,配線箇所を覆う誘電体層1354をエッチングにより取り除く。
(9)撥水層1355として使用するフッ素系樹脂をスピンコートする。
本方法では,プラグ形成1322をエッチバックを行って,金属膜の埋め込みを行っているが,この工程を削除して,プラグ1322の形成を矩形電極131,第二軸連結導線133を同時に形成してもよい。
【0056】
図12は,液体搬送基板13の矩形電極131を正六角形電極331に置き換えた液体搬送基板33のモデル図であり,図13は,液体搬送基板13の矩形電極131を正八角形電極431に置き換えた液体搬送基板43のモデル図である。矩形電極131を対角線方向に連結した液体搬送基板13において,第二軸電極列を構成する一つの矩形電極は,連続した二列の第一軸電極列上の隣接した4つの矩形電極の重心を頂点とした格子の内部に位置する配置になる。
【0057】
それぞれ,図中x軸方向に連結されている電極は,区別のためハッチング処理している。それぞれ,電極の重心の位置と,図3記載の液体搬送基板13の矩形電極131の重心の位置が一致するように配置する。
図14は,液体搬送基板13の一部のモデル図で,矩形電極131の一辺の長さDを,第一軸連結導線132および第二軸連結導線133の幅dから見積もるためのものである(ただしD>dとする)。
【0058】
矩形電極131を図中のx方向に連結する導線すべてを第一軸連結導線132,図中のy方向に連結する導線すべてを第二軸連結導線133とする。第一軸連結導線132によりx方向に連結されている矩形電極131を,行ごとに一つの電極列とみなし,第一軸電極列1323〜1324と呼ぶことにする。また,第二軸連結導線133により,y方向に連結されている矩形電極131を,列ごとに一つの電極列とみなし,第二軸電極列1343〜1344と呼ぶことにする。図中,第一軸電極列1323〜1324を構成する矩形電極131および第一軸連結導線132は,ハッチング処理をし,第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差する領域1361は,下層に位置する連結導線を点線で描写している。
【0059】
第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差する領域1361にて,二つの連結導線は,電極間誘電層1353(図5)を挟み,電気容量(以下,配線間電気容量)を構成する。電極間絶縁層1353(図5)は誘電率がε,厚さをhとすると,第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差する領域,一つあたりの電気容量は,εd2/hとなる。
【0060】
また,液滴15が誘電体層1354を介して,矩形電極131に接しているとき,液滴を介した矩形電極131間の電気容量(以下,電極間電気容量)を構成する。
【0061】
電極間電気容量が大きく,配線間電気容量は小さいほど,低い電位差で液滴を搬送できる。配線間電気容量と矩形電極間電気容量の比を1:100より大きいとし,ε≒ε´,h≒H,d>100nmとすると,D>1μmとなる。また,電極列の数をNとすると,矩形電極群の総面積Sはおよそ2N2D2となるため,N<1000,S<100×100cm2とすると,D<1mmとなる。また,矩形電極131の面積D2の範囲は,1μm2<D2<1mm2となる。図12の六角形電極331のような,矩形電極以外の形状の電極においても,電極の面積を上記範囲内に収まるように設計するのがよい。
【0062】
図15は,液体搬送基板13とセンサ・リアクタ基板52を組み合わせた化学反応分析素子50を使用した化学反応分析装置5の構成図である。図15にて,化学反応分析素子50は,展開図で表現されているが,使用時には,液体搬送基板13と化学分析素子50は,スペーサ18により隙間を形成するように配置される。液体搬送基板13と化学分析素子50は実質的には平行配置することが望ましい。化学反応分析装置5は,液体搬送基板13に印加する電圧を制御するための第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17と,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17に制御のための信号を出力し,センサ・リアクタ基板より出力された信号を解析するシステム装置59で構成されている。
【0063】
化学反応解析素子50は,液体搬送基板13とセンサ・リアクタ基板52を,スペーサ18により,隙間を形成するよう平衡配置することで構成され,隙間内に搬送する液滴251〜254を保持している。
【0064】
センサ・リアクタ基板52は,液滴551〜554の温度を調整する温度調整部521,522,温度調整部521,522の中央部に配置され,液滴の温度を測定するための温度計523,524,液滴中の特定の分子やイオンを検出するセンサ525,液滴中の特定の分子やイオンの化学反応を促進するための触媒を備えたリアクタ526を備えている。
【0065】
システム装置59より出力された信号に従い,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17は,第一軸液体搬送用スイッチ1610〜1621および第二軸液体搬送用スイッチ1710〜1721を切り替え,矩形電極群131の電気的状態を接地,電源により与えられる電位,フローティングの一つに制御し,液滴551〜554を搬送する。システム装置59は,液滴の搬送の制御のほかに,温度調整部521,522の制御や温度計523,524,センサ525の出力された信号の処理も行う。
【0066】
図16は,化学反応分析素子20による化学分析の一例を示すための,液滴251〜254の搬送の経路図である。
【0067】
液滴251〜252を経路228に沿って搬送する。経路228は,液滴251〜252を一つの液滴に合体させた後,温度調節器221に搬送し,加熱もしくは冷却する。このときの液滴の温度は温度センサ223によりモニタリングする(温度調整工程)。次に,リアクタ226に搬送し,リアクタの化学物質もしくは生体物質と液滴中の物質を反応する(化学反応工程)。次に,温度調節器223に搬送し,加熱や冷却をする。このときの液滴の温度は温度センサ224によりモニタリングする(温度調整工程)。最後に,センサ223に搬送し,液滴中に含まれる化学物質もしくは生体物質の量をモニタリングする(分析工程)。
【0068】
液滴251〜254の搬送経路は二次元面内で自由に選ぶことができる。搬送経路を目的に応じ変更することで,液滴の混合,分割の基本操作から,温度調節器221,222と温度センサ223,224による温度調整工程,リアクタ226,227による化学反応工程,センサ225による分析工程を,使用者の目的に応じ,組み合わせることができる。また,液体の搬送経路を変更し,センサによる検出,温度調節器による温度検出,及びリアクタによる反応の順を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】矩形電極を辺方向に連結した液体搬送基板のモデル図。
【図2】矩形電極を辺方向に連結した液体搬送基板の動作状況の説明図。
【図3】液体搬送装置の構成例を示す図。
【図4】液体搬送基板の平面図。
【図5】液体搬送基板の断面図。
【図6】液体搬送装置による液体を搬送するときの動作説明図。
【図7】液体搬送装置による電圧の印加方法を示すタイムチャート図。
【図8】液体搬送装置による液体を分割するときの動作説明図。
【図9】液体搬送装置による液体を分割するときの動作説明図。
【図10】液体搬送装置による液体を分割するときの動作説明図。
【図11】液体搬送素子の作製手順の説明図。
【図12】正六角形電極を連結した液体搬送基板の平面図。
【図13】正八角形電極を連結した液体搬送基板の平面図。
【図14】液体搬送基板のモデル図。
【図15】化学分析装置の構成例を示す図。
【図16】化学分析装置の使用例を示す図。
【符号の説明】
【0070】
1…液体搬送装置、5…化学反応分析装置,10…液体搬送素子、12…上部基板、13…液体搬送基板、15…液滴、16…第一軸電圧制御装置、17…第二軸電圧制御装置、18…スペーサー、19…システム装置、23…液体搬送基板,33…液体搬送基板,43…液体搬送基板,50…化学反応分析素子,52…センサ・リアクタ基板、59…システム装置、121…上部基板撥水層、131…矩形電極、132…第一軸連結導線、133…第二軸連結導線、141…目的位置、151,152…液滴,181…電位Vの状態,182…フローティングの状態,183…電位0の状態,231…矩形電極,241…範囲,331…正六角形電極,431…正八角形電極,521〜522…温度調節器,523〜524温度センサ,525…センサ,526〜527…リアクタ,551〜554…液滴1351…基礎基板,1352…底面絶縁層,1353…電極間絶縁層,1354…誘電体層,1355…撥水層,1356…導電体層,1357…プラグ,1358…導電体層,1359…下層導線,1361…領域,1311〜1324…第一軸電極列,1331〜1344…第二軸電極列,1611〜1622…第一軸液体搬送用スイッチ,1711〜1722…第二軸液体搬送用スイッチ,2311〜2320…第一軸電極列,2331〜2320…第二軸電極列。
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力を利用して微小液滴を操作する液体搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する高い関心や、高度医療社会の要望などから、微量な化学物質や生体物質を、簡便に分析する技術及び装置が求められるようになっている。これらの要求に対し、従来の分析技術に比べ、コスト、簡便性、測定時間の短縮などの利点があることから、マイクロ化学分析システム(μTAS(Micro Total Analysis System)やLab-On-Chipとも称される)の研究が盛んになっている。
【0003】
マイクロ化学分析システムは、サンプルの混合、反応、分離などの一連の化学操作をミクロ化し、ガラスやプラスチック基板上に集積化したものである。これまで、マイクロ化学分析システムの研究は、サンプルである液体を、連続流体として扱う研究が主流であったが、最近、ポンプやバルブを必要としないことや、消費電力が少ないなどの理由から、液体を小滴として扱う研究が注目を集めている(特許文献1−2、非特許文献1−4)。
【0004】
液体を小滴として扱う方法の一つが、通称エレクトロウェッティングと呼ばれている方法である。エレクトロウェッティングは、電圧の印加により、固体表面への液体の濡れを制御する技術であり、これらの液滴の搬送の原理は、非特許文献1,2、特許文献1にて、電気毛管現象あるいは電気湿潤現象で説明されている。
【0005】
M.G.Pollack氏らは、非特許文献1にて、複数の制御用電極を平面上に有した下部基板と、接地電極を平面上に有した上部基板を、隙間を成すよう平行に配置したデバイスを構成し、その隙間にシリコーンオイルを満たし,電解質の液滴を入れたデバイスを考案した。複数の制御用電極に連結したスイッチを切り替え、制御用電極の電位を制御することで、シリコーンオイルで満たされた基板間に存在する電解液の液滴を、40Vから80Vの印加電圧で搬送したことを報告している。このとき、下部基板上の複数の制御用電極は誘電体層(パリレン、厚さ700nm)で 覆われ、さらにその表面は撥水性の物質(テフロン(登録商標)、厚さ200nm)で覆われている。また、上部基板上の接地電極は、(テフロン(登録商標)、厚さ200nm)で覆われている。また、M.G.Pollack氏らは、特許文献1にて、接地電極と制御電極を同一基板上に備え、搬送機構を片面に備えたデバイスを記載している。
【0006】
非特許文献1と同じ構造で、充填物にシリコーンオイルを用いず、空気中で液滴の搬送を行った例として、H.Moon氏らのデバイスがある。H.Moonらは、非特許文献2にて、誘電体に高誘電体材料であるBST(Barium Strontium Titanate)を利用することで、15Vの印加電圧で液滴の搬送ができたことを報告している。
【0007】
M.G.Pollack氏やH.Moon氏らのデバイスは,一次元方向に動かすデバイスであったが, S.-K.Fan氏らは,非特許文献3にて,N本の短冊状の電極を持った下部基板とM本の短冊状の電極を持った上部基板を,お互いの電極が直角になるように組み合わせ,上下の電極によって構成されるN×M個の格子点の位置に液滴を動かすEWOD(Electro Wetting On Dielectric)送液デバイスを開発したことを報告している。
【0008】
液滴を小滴として扱うもう一つの方法は、液滴下方に存在する電極の電位を切り替えることで、液滴表面のマクスウェル応力分布を変化し、液滴を搬送する方法である。
【0009】
鷲津氏は、非特許文献4にて、複数の電極を平面上に備えたデバイスを用い、電極の電位を順次切り替えることで、デバイス上に存在する液滴を、400Vrmsの印加電圧で一次元方向に搬送することに成功している。このとき、基板上の複数の電極は誘電体層(SC450(登録商標)、厚さ10μm)で 覆われ、さらにその表面は撥水性の物質(テフロン(登録商標))で覆われている。また、鷲津氏は、特許文献2にて、複数の電極を平面上に備えたデバイス上に撥水性表面の管路を設けた構造についても記載している。
【0010】
【特許文献1】US2004/0058450
【特許文献2】特開平10-267801号公報
【非特許文献1】Applied Physics Letters, Vol.77, No.11, pp.1725-1726
【非特許文献2】Journal of Applied Physics,Vol.92,No.7,pp.4080-4087
【非特許文献3】Proc.MEMS2003,pp. 694 697
【非特許文献4】IEEE Industry Applications Society, Annual meeting, New Orleans, Louisiana, October 5-9,1997, “Electrical actuation of liquid droplet for microreactor applications”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記方法を使用したデバイスを化学分析装置などに適用するにあたり、使用者の目的および用途に応じたさまざまな化学反応をデバイス内で実現し,測定することが重要となる。すなわち,任意の量の液体を二次元方向に自在に搬送する汎用性,目的の位置まで精度よく搬送する正確性,センサやリアクタの混載を可能にする多目的化が重要になる。電気的制御により、液体を小滴として扱う方法に関しては、以下のような課題が考えられる。
【0012】
特許文献1,2,非特許文献1,2,4記載のデバイスは,液体を搬送する位置毎に各々独立した電極を配置する構造のため,搬送する位置の数の増加とともに電極の数は増加し,電極毎の電位を制御する配線やスイッチの数も増加する。配線やスイッチの数の増加はシステム装置への負担を増すことから,より少ない配線やスイッチの数で目的の液滴を搬送することが望ましい。
【0013】
非特許文献3記載のデバイスは,上下の電極が構成するN×M個の格子点の位置に,N+M本の電極およびそれぞれ対応するスイッチで液滴を自在に搬送することができるが,上下の両方の基板に,駆動に必要な電極を備える必要があるため,センサやリアクタを基板上に混載することは難しい。
【0014】
一方,非特許文献4では,駆動に必要な複数の電極を一平面上に備えているため,センサやリアクタをもう一方の基板に設置することが可能であるが,一定の液量を搬送する定量性や,搬送した液体を決められた位置に精度よく搬送し,停止する正確性については考慮していない。以上のようにセンサやリアクタとの混載が容易で,正確に位置あわせができるデバイスは実現できていない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
我々は,上記問題を解決するために一の平面上に液滴搬送用の電極を形成することを考えた。図1は,複数の矩形電極231を辺方向に連結した液体搬送基板23の一部分のモデル図で,複数の矩形電極231の基板平面上での位置関係を示す。図2(1),(2)は複数の矩形電極231を辺方向に連結した液体搬送基板23において,矩形電極231をx軸方向に連結した第一軸電極列2315〜2320と,矩形電極231をy方向に連結した第二軸電極列2335〜2340から,一組の第一軸電極列および第二軸電極列に電位差を与えたときの複数の矩形電極231の電位を示した図である。
【0016】
図1において,液体搬送基板23は,基板の表面上に敷き詰めた複数の矩形電極231を備え,複数の矩形電極231は,矩形電極131のいずれかの一つの辺方向,すなわち図中におけるx方向もしくはy方向に連結されている。矩形電極231をx方向に連結する導線すべてを第一軸連結導線232,y方向に連結する導線すべてを第二軸連結導線233とする。第一軸連結導線232によりx方向に連結されている矩形電極231を,行ごとに一つの電極列とみなし,第一軸電極列2311〜2314と呼ぶことにする。また,第二軸連結導線233により,y方向に連結されている矩形電極231を,列ごとに一つの電極列とみなし,図中左から,第二軸電極列2331〜2334とする。第一軸連結導線232は第二軸電極列を構成する矩形電極231の下層に,第二軸連結導線233は第一軸電極列を構成する矩形電極231の下層に位置するよう構成している。第一軸連結導線232と第二軸電極列を構成する矩形電極231,第二軸連結導線233と第一軸電極列を構成する矩形電極は絶縁層により電気的に絶縁されている。
【0017】
図2において, 液体搬送基板23の第一軸電極2317と第二軸電極2337に電位差を与えたとき,二つの電極が交差する範囲241は,矩形電極が縦に3個並んだ長方形となり,縦方向に大きい勾配の電界が発生する。また第二軸電極列2337の隣の第二軸電極列である第二軸電極列2338と第一軸電極2317に電位差を与えたとき,二つの電極が交差する領域242は,矩形電極が横に3個並んだ長方形となり,横方向に大きい勾配の電界が発生する。すなわち,矩形電極231を辺方向に連結した液体搬送基板23は,電位差を与えた第一軸電極と第二軸電極の組み合わせにより,電界の勾配に応じた液滴の形状の変化が大きくなる。
【0018】
本発明の目的は,配線やスイッチの数を少なくしても,センサやリアクタとの混載が容易で,液滴を安定して搬送し,正確な位置あわせがデバイスを供給することである。
【0019】
本発明の液体搬送基板の一実施例は,基板と,前記基板上に設置され,かつ第1の軸方向の複数の列に配置された複数の第1電極と,前記複数の第1電極のうち隣接する2つの前記第1電極を各々接続し,前記第1の軸方向に沿って配置される複数の第1導線と,前記基板上に設置され,かつ前記第1の軸方向と交わる第2の軸方向の複数の列に配置された複数の第2電極と,前記複数の第2電極のうち隣接する2つの前記第2電極を各々接続し,前記第2の軸方向に沿って配置され,かつ一の前記第1導線と各々交差する複数の第2導線と,前記第1導線と前記第2導線とを絶縁する絶縁層とを有し,一の前記第1導線と一の前記第2導線とは,前記第1電極が実質的に配置される面からみて前記第1電極及び前記第2電極の各々の位置しない領域で交差し,前記絶縁層は,少なくとも前記交差する領域に位置することを特徴とする。
【0020】
また,第2電極は,第1の軸方向の,連続した二つの列に隣接して配置された4つの第1電極の重心から構成される格子内に配置されてもよい。
【0021】
また,第1電極および第2電極および第1導線および第2導線は,撥水性表面を備えた誘電体で覆われてもよい。
【0022】
複数の第1電極および第2電極の形状は,多角形であり,好ましくは偶数角形さらに好ましくは四角形としてよい。第1電極および第2電極の形状が四角形の場合,第1の軸方向に第1頂点と第1頂点と対向する第2頂点とを配置し,第2の軸方向に第3頂点と第3頂点に対向する第4頂点とを配置する。もっともわかりやすい例は市松模様配置である。
【0023】
また,液滴搬送効率を考えると,液滴と電極の静電容量が素子の静電容量より十分大きいことが必要になる。第1電極および第2電極は,面積が1μm2以上,1mm2以下となるように設計する。
【0024】
また,本発明に関わる液体搬送の方法では,複数の第1電極の電位を変更する第1電極制御装置と,複数の第2電極の電位を変更する第2電極制御装置を備えてもよく,第1電極手段および第2電極制御手段により,少なくとも一組の第1電極および第2電極に電位差を与える。このとき,電位差を与えた少なくとも一組の第1電極および第2電極の電位を一定時間後に,切り替えてもよい。
【0025】
また,第1電極と第2電極を備える基板に対し,もう一つの平面基板を対向に実質的に平行配置してもよく,第1電極と第2電極を備える基板と平面基板の間隔は100nm以上,1mm以下となるよう設計してもよい。
【0026】
また,温度調節器,センサ,リアクタを備えた基板を実質的に平行配置してもよく,温度調節器,センサからの出力の解析と,目的の液滴の搬送のための信号を出力するシステム装置と,システム装置の信号より,複数の第1電極の電位を変更する第1電極制御装置と,複数の第2電極の電位を制御する第2電極制御装置を備えてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると,誘電体に覆われている電極を基板表面上で二次元に配置し,第1の軸もしくは第2の軸方向に連結した各電極群に対し,少なくとも一組の第1の軸方向の電極と第2の軸方向の電極に電位差を与えることで,液滴を搬送,停止させることができる。本発明のデバイスは,液体を搬送する位置毎に電位を制御するスイッチを備える必要が無いため,操作に必要なスイッチ数を少なくし,操作を制御するシステム装置への負担を軽減することができる。デバイス表面に流路溝を形成しなくても,デバイス上の液滴を使用者の目的に応じた経路で搬送することができる。また,与える電位を切り替えることで,搬送した液滴の位置のずれを修正することができる。また,上記デバイスの上部に液滴の搬送に必要な電極を備えた基板を用いる必要が無いため,温度調節器,センサやリアクタを備えた基板を備えることが容易になる。さらに,このとき,液滴の搬送経路を変更することで,温度調節器,センサやリアクタに接する順番や時間を変えることができるため,多用な目的に対応が可能な化学分析装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0029】
図3は,本実施例の液体搬送装置の構成例を示す図である。本実施例の液体搬送装置1は,液滴15を保持する液体搬送素子10と,液体搬送素子10に印加する電圧を制御するための第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17と,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17に制御のための信号を出力するシステム装置19で構成されている。
【0030】
液体搬送素子10は,上部基板12および,駆動のための複数の矩形電極131を備えた液体搬送基板13を,スペーサ18により,隙間を形成するよう配置することで構成され,二つの基板の隙間内に搬送する液滴15を保持している。上部基板12と液体搬送基板13とは実質的に平行配置とすることが望ましい。図中にて,液体搬送素子10は,スペーサ18,上部基板13の一部を断面図で表現した鳥瞰図で表現する。
【0031】
スペーサ18には,厚さ10μm〜1000μmの電子機器用の両面テープ,例えば,ポリエステルフィルムの基材およびアクリル系の粘着剤を使用した両面テープを使用した。さらに厚さを薄くするためには、フォトレジストなどの感光性材料で形成したスペーサーを使用するか、Deep RIE(Deep Reactive Ion Etching)などを使用した半導体の製造工程により、上部基板12もしくは液体搬送基板13に段差を設けることが挙げられる。
【0032】
上部基板12には,液滴15側に上部基板撥水層121を備えたガラスを使用した。上部基板12に用いる他の材料としては,平面度の高い物質が好ましく、液滴15の動作観察などのため、透明性が必要であれば石英、PMMA(ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート、アクリル樹脂))が挙げられる。上部基板撥水層121はフッ素樹脂で構成し,フッ素樹脂以外の撥水材料としてはシリコーン樹脂が挙げられる。ここでの撥水性とは水の接触角が90°以上になることをいう。本実施例では,液体の搬送を説明するため,上部基板12にはリアクタやセンサを構成していない。リアクタやセンサなどが配置された上部基板を用いても同様の搬送が可能である。液体搬送基板13については以下で説明する。
【0033】
システム装置19より出力された信号に従い,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17は,第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622および第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722を切り替え,矩形電極群131の電気的状態を接地,電源により与えられる電位,フローティングの一つに制御し,液滴15を搬送する。
【0034】
図4は液体搬送素子10を構成する液体搬送基板13の構造を示すための,液体搬送基板13の全体の平面図と液体搬送基板13の一部の拡大図である。複数の矩形電極131の基板平面上での位置関係を示す。液体搬送基板13は,基板の表面上に敷き詰めた複数の矩形電極131を備え,複数の矩形電極131は,矩形電極131のいずれかの一つの対角線方向,すなわち図中におけるx方向もしくはy方向に連結されている。電極は矩形としているが、多角形、特に偶数角形であってもよい。四角形の場合には、第一軸方向に
第1頂点と前記第1頂点と対向する第2頂点とを配置し、第二軸方向に第3頂点と第3頂点に対向する第4頂点とを配置する。矩形電極131をx方向に連結する導線すべてを第一軸連結導線132,y方向に連結する導線すべてを第二軸連結導線133とする。第一軸連結導線132によりx方向に連結されている矩形電極131を,行ごとに一つの電極列とみなし,図中下から,第一軸電極列1311〜1322と呼ぶことにする。また,第二軸連結導線133により,y方向に連結されている矩形電極131を,列ごとに一つの電極列とみなし,図中左から,第二軸電極列1331〜1342とする。第一軸連結導線132および第二軸連結導線133は,矩形電極131の間の領域にて,絶縁膜をはさんだ階層構造をとる。このような構成により、基板の上面からみたときの電極同士の重なり領域を排除し、かつ第一軸連結導線及び第二軸連結導線の重なり領域を極小化させ、x方向の電極列とy方向の電極列との間でコンデンサ効果が生じて、電力が消費されることを回避することができる。本実施例においては,第一軸連結導線132は第二軸連結導線133の下層に位置するよう構成している。第一軸連結導線及び第二軸連結導線とは、複数の矩形電極が実質的に配置される面からみて、x方向に連結されている電極列群とy方向に連結されている電極列群の各々の位置しない領域で交差する。絶縁膜は、少なくとも交差の領域の第一軸連結導線と第二軸連結導線との間には位置するように配置される。
【0035】
図5は,図4における下部基板13のA−A´断面およびB−B´断面での断面図であり,特に,第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差領域での構造を示すものである。第一軸連結導線132は,下層導線1359とプラグ1357で構成されている。液体搬送基板13は,下層より,基礎基板1351,底面絶縁層1352,電極列間絶縁層1353,下層導線1359,プラグ1357,第二軸連結導線133,矩形電極131,誘電体層1354,液体搬送基板上の撥水層1355で構成されている。第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差する領域において,第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の間に電極列間絶縁層1353が存在するため,二つの電極列は電気的に絶縁されている。
【0036】
基礎基板1351の材料としてシリコンを、底面絶縁層1352,電極間絶縁層1353には酸化シリコンを、矩形電極131,第一軸連結導線132、第二軸連結導線133にはタングステンを、誘電体層1354には厚さ75nmの窒化シリコンを、液体搬送基板上の撥水層1355には、フッ素系樹脂を使用した。基礎基板1351に用いる他の材料としては、液滴15の動作観察などのため、透明性を重視するのであればガラスや石英が挙げられる。底面絶縁層1352,電極間絶縁層1353に用いる他の材料としては、絶縁性の高い物質として、窒化シリコンなどが挙げられる。基礎基板1351にガラスや石英など絶縁体を用いる場合は,底面絶縁層1352はなくてもよい。矩形電極131,第一軸連結導線132、第二軸連結導線133に用いる他の材料としては、アルミニウム、金、白金などの金属材料や、透明性を重視するのであれば、ITO(Indium Tin Oxide)が挙げられる。誘電体層1354に用いる他の材料としては、高誘電体材料が好ましく、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化タンタル、BST(Barium Strontium Titanate)、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ランタンなどの金属酸化物や金属窒化物、ハフニウム・アルミネート(HfAlO)等これらの材料を組み合わせた絶縁体などが挙げられる。液体搬送基板上の撥水層1355の他の材料としては、シリコーン樹脂が挙げられる。ここでの撥水性とは水の接触角が90°以上になることをいう。
【0037】
図6は,液滴15の搬送時の液体搬送装置1の動作説明図である。図6を用いて、液滴15を、目的位置141に搬送する工程を説明する。第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622,第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の動作は、システム装置19より出力される信号に従い、第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17で制御する。
【0038】
液滴15の搬送が始めるまで,第一軸電極列1311〜1322および第二軸電極列1331〜1342はフローティングの状態になっているか,もしくは,液滴15を停止させる目的より,第一軸電極列1313,1314は設定電位V1に,第二軸電極列1333,1334は設定電位V2に,残りの電極列はフローティングの状態になっている(ただしV1>V2)。このとき,液滴15の一部が誘電層1354を介し,第一軸電極列1315かつ第二軸電極列1334,1335接している。
【0039】
次に,目的位置141を通る第一軸電極列1315,1316の電位を設定電位V1に,目的位置141を通る第二軸電極列1333,1334の電位を設定電位V2になるよう,第一軸液体搬送用スイッチ1615,1616および第二軸液体搬送用スイッチ1713,1714を切り変える。例えば,誘電体層に厚さ100nmの窒化シリコンを用いたとき,V1=15,V2=−15とした。目的位置141において,第一軸電極列1315,1316および第二軸電極列1333,1334は交差する。その電極列間では液滴15を介して電位差が生じ,表面のみかけの濡れ性がエレクトロウェッティングにより増すため,液滴15は目的位置141に移動する。図中,電位V1の状態になっている第一軸電極列1315,1316は縦線のハッチング処理を,電位V2の状態になっている第二軸電極列1333,1334は横線のハッチング処理をして,その他の電極列と区別する。このとき,第一軸電極列1315,1316が電位V2,第二軸電極列1333,1334が電位V1でも,液滴15は目的位置141に移動する。すなわち,電位をV1(もしくはV2)に設定した第一軸電極列および電位をV2(もしくはV1)に設定した第二軸電極列が隣接する領域に,近傍の液滴15は移動する。
【0040】
12行の第一軸電極列1311〜1322および12列の第二軸電極列1331〜1342から,二列ずつ第一軸電極列および第二軸電極列を選択する選択数は121通りである。すなわち,12個の第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622および12個の第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722を組み合わせることで,液滴15を液体搬送基板13上の121箇所に搬送することができる。
【0041】
また,同時に電位差を与える第一軸電極列および第二軸電極列の本数を変え,電位差を与えた第一軸電極列および第二軸電極列の交差する領域の有効面積を変更することができる。液滴と領域の面積の関係について,領域の有効面積は,搬送する液滴と液体搬送基板13との接触面積より少し小さくする。液滴15の量は,液滴と液体搬送基板13との接触面積と,上部基板12(図3)と液体搬送基板13の間隔の積と等しいため,電位差を与える第一軸電極列および第二軸電極列の本数を変えることで,量の大小にかかわらず液滴15を搬送することができる。
【0042】
また,液体搬送素子10は,液体の必要な電極すべてを液体搬送基板13に備えているため,上部基板12やスペーサ18を使用しない開放型の液体搬送素子としての使用もできる。
【0043】
上記の方法に加えて,電圧の印加方法を工夫することで,液滴の搬送力を高めることができる。
【0044】
図7は,液滴15の搬送力を上げるための電圧の印加方法をタイムチャートで示した図である。液滴15を目的位置141に搬送するにあたり,搬送前の液滴15の位置を通る第一軸電極列1313,1314,目的位置141を通る第一軸電極列1315,1316,目的位置141と搬送前の液滴15の位置を通る第二軸電極列1333,1334は,第一軸電圧制御装置16もしくは第二軸電圧制御装置17により,電位V1の状態181,フローティングの状態182,電位V2の状態183のいずれかになる。(a)は,搬送前の液滴15の位置を通る第一軸電極列1313,1314の電位の状態を,(b)は,第二軸電極列1333,1334の電位の状態を,(c)は第一軸電極列1315,1316の電位の状態を時系列で表したものである。
【0045】
液滴15の搬送前において,液滴15を静止させる目的により,第一軸電極列1313,1314,第二軸電極列1333,1334に対し,一方の電極列がV1のとき,もう一方の電極列はV2となるよう周期的に繰り返す。電位がV1からV2(もしくはV2からV1)に替わる間は,両方の電極列ともフローティングの状態を経る。液滴15の位置が安定したところで繰り返しをとめてもよい。また,液滴と電極形状のずれが生じるが,両方の電極列をフローティングの状態にしてもよい。
【0046】
次に液滴15を目的位置141に搬送するにあたり,第一軸電極列1313,1314をフローティングの状態になるように切り替え,同時に,第一軸電極列1315,1316と第二軸電極列1333,1334に対し,一方の電極列の電位がV1のとき,もう一方の電極列の電位がV2となるよう周期的に繰り返すように切り替える。切り替えた時点から液滴15の目的位置141への搬送が始まる。電位がV1からV2(もしくはV2からV1)に替わる間は,両方の電極列ともフローティングの状態を経る。電極列の電位の繰返し周期は1ミリ秒から1秒の間とした。
【0047】
選択した第一軸電極列と第二軸電極列がフローティングの状態になり,表面のみかけの濡れ性が元に戻ると,液滴の形状を元に戻す復元力が生じる。また,反対の電位の状態になるときに,液滴15下面に誘起された電荷と両方の電極列で反発力が生じる。これら二つの生じた力が液滴の搬送力になり,より液滴15の搬送力を上げることができる。第一軸電圧制御装置及び第二軸電圧制御装置は,各々反対の位相の電圧を印加し,所定の間隔で電圧の正負を切り替えてもよい。
【0048】
またこの電圧の印加方法では,液滴15の搬送の際に,液滴15が目的位置より少しずれた場合においても,液滴の位置を修正することができる。
【0049】
図8〜図10は,液滴15を二つの液滴に分割するときの液体搬送装置1の動作説明図である。第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622,第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の状態および,各動作における液滴15の挙動を示す。
【0050】
図8〜図10を用いて,液滴15を,二つの液滴151および152に分割する工程を説明する。第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622および第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の動作は,システム装置19より出力される信号に従い,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17で制御する。
【0051】
図8は,液滴15の分割前の状態を示す。この状態において,第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622および第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722は,対応する第一軸電極列1311〜1322および第二軸電極列1331〜1342が,すべてがフローティングの状態になるようにする。またこの状態において,フローティングの状態でもよいが,液滴の存在する領域に電位差を与えるように選択した第一軸電極列および第二軸電極列に電位V1およびV2をかけてもよい。
【0052】
次に図9は,液滴15の分割の途中過程における液滴15の形状と,第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622,第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の状態を示す。このとき第一軸電極列1315,1316は電位V1(もしくはV2)の状態,第二軸電極列1334,1335,1338,1339が電位V2(もしくはV1)となるよう第一軸液体搬送用スイッチ1616,1617および第二軸液体搬送用スイッチ1714,1715,1718,1719を切り替える。すなわち,第1軸方向において少なくとも1つの電極列を含む1の列群について電位印加の状態とした上,第2軸方向において少なくとも1つの電極列を各々含む,少なくとも2つの列群について電圧印加の状態とする。ここで,列群が複数の電極列を含むときには互いに隣接する電極列からなることとする。電位V1の第一軸電極列1315,1316と電位V2の第二軸電極列1334,1335,1338,1339が隣り合う領域の表面から,液滴15は相反する方向に駆動力を受け,引き離される。
【0053】
次に図10は,液滴15を二つの液滴151と152に分割したときの第一軸液体搬送用スイッチ1611〜1622,第二軸液体搬送用スイッチ1711〜1722の状態を示す。このとき第一軸電極列1335,1336は電位V1(もしくはV2)の状態,第二軸電極列1313,1314,1319,1320は電位V2(もしくはV1)となるよう第一軸液体搬送用スイッチ1616,1617および第二軸液体搬送用スイッチ1713,1714,1719,1720は切り替わる。すなわち,第1軸方向において電位印加の状態とした,少なくとも1つの電極列を含む1の列群の位置を保ちながら,第2軸方向において電圧印加の状態とする,少なくとも1つの電極列を各々含む,少なくとも2つの列群の位置を各々が離れる方向へ変更する。電位V1の第一軸電極列1315,1316と電位V2の第二軸電極列1333,1314,1339,1340が隣り合う領域の表面から,液滴15は相反する方向に駆動力を受ける。さらに引き離すことで,液滴15を液滴151と液滴152に分割した状態で保持できる。
【0054】
一方,上記と逆の手順で,二つの液滴151と152に対し,向かい合う方向に駆動力を与えることで,二つの液滴を一つの液滴に合体することができる。
【0055】
図11は、液体搬送基板13の作製方法を示す工程断面図である。断面は,図4におけるA−A´断面である。
(1)基礎基板(シリコン)1351に熱酸化処理を施し、表面に底面絶縁層1352である厚さ300nmのシリコン酸化膜層を形成した。
(2)第一軸連結導線132の一部である下層導線1359を形成するための導電体層1356として、窒化チタン/タングステン層を厚さ20nm/150nmになるよう化学気相堆積法により堆積する。
(3)ホトリソグラフィによりパターン形成し、導電体層1356をエッチングし、下層導線1359を形成する。
(4)電極間絶縁層1353として、ここではシリコン酸化膜層を堆積する。
(5)プラグ1322のための貫通孔の形成のためホトリソグラフィとエッチングを行う。続けて,窒化チタン/タングステン層を化学気相堆積法により堆積し、エッチバックを行いプラグ1322を形成する。
(6)矩形電極131及び第二軸連結導線133のための導電体層1358として、窒化チタン/タングステン層を厚さ20nm/150nmになるよう化学気相堆積法により堆積する。
(7)ホトリソグラフィによりパターン形成し、導電体層1358をエッチングし、矩形電極131および第二軸連結導線133を形成する。
(8)誘電体層1354として、窒化シリコンを厚さ75nmになるよう化学気相堆積法により堆積する。外部電源と矩形電極131の配線箇所を接続するために,ホトリソグラフィによるパターン形成の後,配線箇所を覆う誘電体層1354をエッチングにより取り除く。
(9)撥水層1355として使用するフッ素系樹脂をスピンコートする。
本方法では,プラグ形成1322をエッチバックを行って,金属膜の埋め込みを行っているが,この工程を削除して,プラグ1322の形成を矩形電極131,第二軸連結導線133を同時に形成してもよい。
【0056】
図12は,液体搬送基板13の矩形電極131を正六角形電極331に置き換えた液体搬送基板33のモデル図であり,図13は,液体搬送基板13の矩形電極131を正八角形電極431に置き換えた液体搬送基板43のモデル図である。矩形電極131を対角線方向に連結した液体搬送基板13において,第二軸電極列を構成する一つの矩形電極は,連続した二列の第一軸電極列上の隣接した4つの矩形電極の重心を頂点とした格子の内部に位置する配置になる。
【0057】
それぞれ,図中x軸方向に連結されている電極は,区別のためハッチング処理している。それぞれ,電極の重心の位置と,図3記載の液体搬送基板13の矩形電極131の重心の位置が一致するように配置する。
図14は,液体搬送基板13の一部のモデル図で,矩形電極131の一辺の長さDを,第一軸連結導線132および第二軸連結導線133の幅dから見積もるためのものである(ただしD>dとする)。
【0058】
矩形電極131を図中のx方向に連結する導線すべてを第一軸連結導線132,図中のy方向に連結する導線すべてを第二軸連結導線133とする。第一軸連結導線132によりx方向に連結されている矩形電極131を,行ごとに一つの電極列とみなし,第一軸電極列1323〜1324と呼ぶことにする。また,第二軸連結導線133により,y方向に連結されている矩形電極131を,列ごとに一つの電極列とみなし,第二軸電極列1343〜1344と呼ぶことにする。図中,第一軸電極列1323〜1324を構成する矩形電極131および第一軸連結導線132は,ハッチング処理をし,第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差する領域1361は,下層に位置する連結導線を点線で描写している。
【0059】
第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差する領域1361にて,二つの連結導線は,電極間誘電層1353(図5)を挟み,電気容量(以下,配線間電気容量)を構成する。電極間絶縁層1353(図5)は誘電率がε,厚さをhとすると,第一軸連結導線132と第二軸連結導線133の交差する領域,一つあたりの電気容量は,εd2/hとなる。
【0060】
また,液滴15が誘電体層1354を介して,矩形電極131に接しているとき,液滴を介した矩形電極131間の電気容量(以下,電極間電気容量)を構成する。
【0061】
電極間電気容量が大きく,配線間電気容量は小さいほど,低い電位差で液滴を搬送できる。配線間電気容量と矩形電極間電気容量の比を1:100より大きいとし,ε≒ε´,h≒H,d>100nmとすると,D>1μmとなる。また,電極列の数をNとすると,矩形電極群の総面積Sはおよそ2N2D2となるため,N<1000,S<100×100cm2とすると,D<1mmとなる。また,矩形電極131の面積D2の範囲は,1μm2<D2<1mm2となる。図12の六角形電極331のような,矩形電極以外の形状の電極においても,電極の面積を上記範囲内に収まるように設計するのがよい。
【0062】
図15は,液体搬送基板13とセンサ・リアクタ基板52を組み合わせた化学反応分析素子50を使用した化学反応分析装置5の構成図である。図15にて,化学反応分析素子50は,展開図で表現されているが,使用時には,液体搬送基板13と化学分析素子50は,スペーサ18により隙間を形成するように配置される。液体搬送基板13と化学分析素子50は実質的には平行配置することが望ましい。化学反応分析装置5は,液体搬送基板13に印加する電圧を制御するための第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17と,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17に制御のための信号を出力し,センサ・リアクタ基板より出力された信号を解析するシステム装置59で構成されている。
【0063】
化学反応解析素子50は,液体搬送基板13とセンサ・リアクタ基板52を,スペーサ18により,隙間を形成するよう平衡配置することで構成され,隙間内に搬送する液滴251〜254を保持している。
【0064】
センサ・リアクタ基板52は,液滴551〜554の温度を調整する温度調整部521,522,温度調整部521,522の中央部に配置され,液滴の温度を測定するための温度計523,524,液滴中の特定の分子やイオンを検出するセンサ525,液滴中の特定の分子やイオンの化学反応を促進するための触媒を備えたリアクタ526を備えている。
【0065】
システム装置59より出力された信号に従い,第一軸電圧制御装置16および第二軸電圧制御装置17は,第一軸液体搬送用スイッチ1610〜1621および第二軸液体搬送用スイッチ1710〜1721を切り替え,矩形電極群131の電気的状態を接地,電源により与えられる電位,フローティングの一つに制御し,液滴551〜554を搬送する。システム装置59は,液滴の搬送の制御のほかに,温度調整部521,522の制御や温度計523,524,センサ525の出力された信号の処理も行う。
【0066】
図16は,化学反応分析素子20による化学分析の一例を示すための,液滴251〜254の搬送の経路図である。
【0067】
液滴251〜252を経路228に沿って搬送する。経路228は,液滴251〜252を一つの液滴に合体させた後,温度調節器221に搬送し,加熱もしくは冷却する。このときの液滴の温度は温度センサ223によりモニタリングする(温度調整工程)。次に,リアクタ226に搬送し,リアクタの化学物質もしくは生体物質と液滴中の物質を反応する(化学反応工程)。次に,温度調節器223に搬送し,加熱や冷却をする。このときの液滴の温度は温度センサ224によりモニタリングする(温度調整工程)。最後に,センサ223に搬送し,液滴中に含まれる化学物質もしくは生体物質の量をモニタリングする(分析工程)。
【0068】
液滴251〜254の搬送経路は二次元面内で自由に選ぶことができる。搬送経路を目的に応じ変更することで,液滴の混合,分割の基本操作から,温度調節器221,222と温度センサ223,224による温度調整工程,リアクタ226,227による化学反応工程,センサ225による分析工程を,使用者の目的に応じ,組み合わせることができる。また,液体の搬送経路を変更し,センサによる検出,温度調節器による温度検出,及びリアクタによる反応の順を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】矩形電極を辺方向に連結した液体搬送基板のモデル図。
【図2】矩形電極を辺方向に連結した液体搬送基板の動作状況の説明図。
【図3】液体搬送装置の構成例を示す図。
【図4】液体搬送基板の平面図。
【図5】液体搬送基板の断面図。
【図6】液体搬送装置による液体を搬送するときの動作説明図。
【図7】液体搬送装置による電圧の印加方法を示すタイムチャート図。
【図8】液体搬送装置による液体を分割するときの動作説明図。
【図9】液体搬送装置による液体を分割するときの動作説明図。
【図10】液体搬送装置による液体を分割するときの動作説明図。
【図11】液体搬送素子の作製手順の説明図。
【図12】正六角形電極を連結した液体搬送基板の平面図。
【図13】正八角形電極を連結した液体搬送基板の平面図。
【図14】液体搬送基板のモデル図。
【図15】化学分析装置の構成例を示す図。
【図16】化学分析装置の使用例を示す図。
【符号の説明】
【0070】
1…液体搬送装置、5…化学反応分析装置,10…液体搬送素子、12…上部基板、13…液体搬送基板、15…液滴、16…第一軸電圧制御装置、17…第二軸電圧制御装置、18…スペーサー、19…システム装置、23…液体搬送基板,33…液体搬送基板,43…液体搬送基板,50…化学反応分析素子,52…センサ・リアクタ基板、59…システム装置、121…上部基板撥水層、131…矩形電極、132…第一軸連結導線、133…第二軸連結導線、141…目的位置、151,152…液滴,181…電位Vの状態,182…フローティングの状態,183…電位0の状態,231…矩形電極,241…範囲,331…正六角形電極,431…正八角形電極,521〜522…温度調節器,523〜524温度センサ,525…センサ,526〜527…リアクタ,551〜554…液滴1351…基礎基板,1352…底面絶縁層,1353…電極間絶縁層,1354…誘電体層,1355…撥水層,1356…導電体層,1357…プラグ,1358…導電体層,1359…下層導線,1361…領域,1311〜1324…第一軸電極列,1331〜1344…第二軸電極列,1611〜1622…第一軸液体搬送用スイッチ,1711〜1722…第二軸液体搬送用スイッチ,2311〜2320…第一軸電極列,2331〜2320…第二軸電極列。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設置され、かつ第1の軸方向の複数の列に配置された複数の第1電極と、
前記複数の第1電極のうち隣接する2つの前記第1電極を各々接続し、前記第1の軸方向に沿って配置される複数の第1導線と、
前記基板上に設置され、かつ前記第1の軸方向と交わる第2の軸方向の複数の列に配置された複数の第2電極と、
前記複数の第2電極のうち隣接する2つの前記第2電極を各々接続し、前記第2の軸方向に沿って配置され、かつ一の前記第1導線と各々交差する複数の第2導線と、
前記第1導線と前記第2導線とを絶縁する絶縁層とを有し、
一の前記第1導線と一の前記第2導線とは、前記第1電極が実質的に配置される面からみて前記第1電極及び前記第2電極の各々の位置しない領域で交差し、前記絶縁層は、少なくとも前記交差する領域に位置することを特徴とする液体搬送基板。
【請求項2】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記第2電極は,前記第1の軸方向の,連続した二つの列に隣接して配置された4つの第1電極の重心から構成される格子内に配置されていることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項3】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記基板よりみて前記第1電極と,前記第2電極と,前記第1導線と,前記第2導線との上に配置される誘電体層をさらに有し,前記誘電体層材は撥水性の表面を有することを特徴とする液体搬送基板。
【請求項4】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記第1電極と前記第2電極とは,各々多角形であることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項5】
請求項1記載の液体搬送基板において,
前記第1電極と前記第2電極とは,各々偶数角形であることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項6】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記第1電極と前記第2電極とは各々四角形であり、前記第1の軸方向に第1頂点と前記第1頂点と対向する第2頂点とを配置し、前記第2の軸方向に第3頂点と前記第3頂点に対向する第4頂点とを配置するものであることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項7】
請求項1記載の液体搬送基板であって,前記複数の第1電極への電圧印加を制御する第1電圧制御手段と,前記複数の第2電極への電圧印加を制御する第2電圧制御手段とをさらに有し,前記第1電圧制御手段と前記第2電圧制御手段とは,各々電圧を印加する前記列の数を制御することを特徴とする液体搬送基板。
【請求項8】
請求項7記載の液体搬送基板であって,前記第1電圧制御手段は前記第1の軸方向で少なくとも1つの前記列を含む1の列群について電位印加し,前記第2電圧制御手段は前記第2の軸方向で少なくとも1つの前記列を各々含む少なくとも2つの列群について電圧印加することを特徴とする液体搬送基板。
【請求項9】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記第1電極または前記第2電極の面積は,1μm2以上かつ1mm2以下であることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項10】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記液体搬送基板に対し,平面基板を,100nm以上かつ1mm以下の間隔で平行配置したことを特徴とする液体搬送素子。
【請求項11】
基板と、
前記基板上に設置され、かつ第1の軸方向の複数の列に配置された複数の第1電極と、
前記複数の第1電極のうち隣接する2つの前記第1電極を各々接続し、前記第1の軸方向に沿って配置される複数の第1導線と、
前記基板上に設置され、かつ前記第1の軸方向と交わる第2の軸方向の複数の列に配置された複数の第2電極と、
前記複数の第2電極のうち隣接する2つの前記第2電極を各々接続し、前記第2の軸方向に沿って配置され、かつ一の前記第1導線と各々交差する複数の第2導線と、
前記第1導線と前記第2導線とを絶縁する絶縁層と、
前記第1電極に印加する電圧を制御する第1電圧印加制御手段と、
前記第2電極に印加する電圧を制御する第2電圧印加制御手段とを有し、一の前記第1導線と一の前記第2導線とは、前記第1電極が実質的に配置される面からみて前記第1電極及び前記第2電極の各々の位置しない領域で交差し、前記絶縁層は、少なくとも前記交差する領域に位置し、前記第1電圧印加制御手段と前記第2電圧制御手段は、前記第1電極と前記第2電極の間に電位差を与えることを特徴とする液体搬送装置。
【請求項12】
請求項11記載の液体搬送装置であって,前記第1電圧印加制御手段と,前記第2電圧印加制御手段は,反対の位相の電圧を印加し,所定の間隔で電圧の正負を切り替えることを特徴とする液体搬送装置。
【請求項13】
請求項11記載の液体搬送装置であって,センサ,温度調節器,リアクタの少なくともいずれかをさらに有することを特徴とする液体搬送装置。
【請求項14】
請求項13記載の化学分析装置を用いる化学分析方法であって,液体の搬送経路を変更し,センサによる検出,温度調節器による温度検出,及びリアクタによる反応の順を制御することを特徴とする化学分析方法。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設置され、かつ第1の軸方向の複数の列に配置された複数の第1電極と、
前記複数の第1電極のうち隣接する2つの前記第1電極を各々接続し、前記第1の軸方向に沿って配置される複数の第1導線と、
前記基板上に設置され、かつ前記第1の軸方向と交わる第2の軸方向の複数の列に配置された複数の第2電極と、
前記複数の第2電極のうち隣接する2つの前記第2電極を各々接続し、前記第2の軸方向に沿って配置され、かつ一の前記第1導線と各々交差する複数の第2導線と、
前記第1導線と前記第2導線とを絶縁する絶縁層とを有し、
一の前記第1導線と一の前記第2導線とは、前記第1電極が実質的に配置される面からみて前記第1電極及び前記第2電極の各々の位置しない領域で交差し、前記絶縁層は、少なくとも前記交差する領域に位置することを特徴とする液体搬送基板。
【請求項2】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記第2電極は,前記第1の軸方向の,連続した二つの列に隣接して配置された4つの第1電極の重心から構成される格子内に配置されていることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項3】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記基板よりみて前記第1電極と,前記第2電極と,前記第1導線と,前記第2導線との上に配置される誘電体層をさらに有し,前記誘電体層材は撥水性の表面を有することを特徴とする液体搬送基板。
【請求項4】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記第1電極と前記第2電極とは,各々多角形であることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項5】
請求項1記載の液体搬送基板において,
前記第1電極と前記第2電極とは,各々偶数角形であることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項6】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記第1電極と前記第2電極とは各々四角形であり、前記第1の軸方向に第1頂点と前記第1頂点と対向する第2頂点とを配置し、前記第2の軸方向に第3頂点と前記第3頂点に対向する第4頂点とを配置するものであることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項7】
請求項1記載の液体搬送基板であって,前記複数の第1電極への電圧印加を制御する第1電圧制御手段と,前記複数の第2電極への電圧印加を制御する第2電圧制御手段とをさらに有し,前記第1電圧制御手段と前記第2電圧制御手段とは,各々電圧を印加する前記列の数を制御することを特徴とする液体搬送基板。
【請求項8】
請求項7記載の液体搬送基板であって,前記第1電圧制御手段は前記第1の軸方向で少なくとも1つの前記列を含む1の列群について電位印加し,前記第2電圧制御手段は前記第2の軸方向で少なくとも1つの前記列を各々含む少なくとも2つの列群について電圧印加することを特徴とする液体搬送基板。
【請求項9】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記第1電極または前記第2電極の面積は,1μm2以上かつ1mm2以下であることを特徴とする液体搬送基板。
【請求項10】
請求項1記載の液体搬送基板であって,
前記液体搬送基板に対し,平面基板を,100nm以上かつ1mm以下の間隔で平行配置したことを特徴とする液体搬送素子。
【請求項11】
基板と、
前記基板上に設置され、かつ第1の軸方向の複数の列に配置された複数の第1電極と、
前記複数の第1電極のうち隣接する2つの前記第1電極を各々接続し、前記第1の軸方向に沿って配置される複数の第1導線と、
前記基板上に設置され、かつ前記第1の軸方向と交わる第2の軸方向の複数の列に配置された複数の第2電極と、
前記複数の第2電極のうち隣接する2つの前記第2電極を各々接続し、前記第2の軸方向に沿って配置され、かつ一の前記第1導線と各々交差する複数の第2導線と、
前記第1導線と前記第2導線とを絶縁する絶縁層と、
前記第1電極に印加する電圧を制御する第1電圧印加制御手段と、
前記第2電極に印加する電圧を制御する第2電圧印加制御手段とを有し、一の前記第1導線と一の前記第2導線とは、前記第1電極が実質的に配置される面からみて前記第1電極及び前記第2電極の各々の位置しない領域で交差し、前記絶縁層は、少なくとも前記交差する領域に位置し、前記第1電圧印加制御手段と前記第2電圧制御手段は、前記第1電極と前記第2電極の間に電位差を与えることを特徴とする液体搬送装置。
【請求項12】
請求項11記載の液体搬送装置であって,前記第1電圧印加制御手段と,前記第2電圧印加制御手段は,反対の位相の電圧を印加し,所定の間隔で電圧の正負を切り替えることを特徴とする液体搬送装置。
【請求項13】
請求項11記載の液体搬送装置であって,センサ,温度調節器,リアクタの少なくともいずれかをさらに有することを特徴とする液体搬送装置。
【請求項14】
請求項13記載の化学分析装置を用いる化学分析方法であって,液体の搬送経路を変更し,センサによる検出,温度調節器による温度検出,及びリアクタによる反応の順を制御することを特徴とする化学分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−14683(P2008−14683A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183979(P2006−183979)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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