説明

液体撹拌装置および物質検出システム

【課題】構造が簡単で小型な液体撹拌装置および当該液体撹拌装置を適用した物質検出システムを提供する。
【解決手段】弾性表面波が伝播する基板と、基板の表面と平行な面内で凹形状の線を描く壁面を有し、基板の表面上に設けられる第1隆起部と、基板の表面と平行な面内で凹形状の線を描く壁面を有し、当該壁面の凹んだ側が第1隆起部が有する壁面の凹んだ側に対向するよう、基板の表面上に設けられる第2隆起部と、基板に設けられ、第1隆起部が有する壁面の凹んだ側から弾性表面波を励振する励振源と、を備え、第1隆起部が有する壁面および第2隆起部が有する壁面は、励振源が励振する弾性表面波によって基板の表面上を移動する液体を導き、基板の表面上に液体を環状に流動させることを特徴とする液体撹拌装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を環状に流動させる液体撹拌装置、および液体が含む物質の反応によって生成された物質を検出する物質検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体物質に関する実験を行う分野では、ポンプを用いて生体物質を含む液体を管に流動させ搬送する液体搬送システムが広く用いられる。例えば、液体が循環するよう管を設けた場合には、複数の生体物質を含む液体を循環させ撹拌することで、複数の生体物質の相互の反応を促進させることができる。
【0003】
【特許文献1】特表2004−534633号公報
【特許文献2】特表2003−535349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような液体搬送システムでは、液体を流動させるポンプの体積が大きいためシステムが大型化するという問題がある。また、液体を導く管に液体の流れを調整するためのバルブを設ける必要があるため、構造が複雑となるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような課題に対してなされたものであり、構造が簡単で小型な液体撹拌装置および当該液体撹拌装置を適用した物質検出システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液体撹拌装置は、弾性表面波が伝播する基板と、前記基板の表面と平行な面内で凹形状の線を描く壁面を有し、前記基板の表面上に設けられる第1隆起部と、前記基板の表面と平行な面内で凹形状の線を描く壁面を有し、当該壁面の凹んだ側が前記第1隆起部が有する前記壁面の凹んだ側に対向するよう、前記基板の表面上に設けられる第2隆起部と、前記基板に設けられ、前記第1隆起部が有する前記壁面の凹んだ側から弾性表面波を励振する励振源と、を備え、前記第1隆起部が有する前記壁面および前記第2隆起部が有する前記壁面は、前記励振源が励振する弾性表面波によって前記基板の表面上を移動する液体を導き、前記基板の表面上に前記液体を環状に流動させることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る液体撹拌装置においては、前記基板に設けられ、前記第1隆起部が有する前記壁面と前記第2隆起部が有する前記壁面との間に挟まれる前記基板上の撹拌領域に、前記第1隆起部が有する前記壁面および前記第2隆起部が有する前記壁面によって塞がれていない方向から弾性表面波を励振する補助励振源を備え、前記撹拌領域の外側に前記液体が流出することを前記補助励振源が励振する弾性表面波によって阻止する構成とすることが好適である。
【0008】
また、本発明に係る液体撹拌装置は、弾性表面波が伝播する基板と、前記基板の表面上に設けられる突起部と、前記基板に設けられ弾性表面波を励振する励振源と、を備え、前記励振源によって励振された弾性表面波によって、前記基板の表面上に前記突起部を中心として液体を環状に流動させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る物質検出システムは、前記液体撹拌装置と、前記基板に設けられ、前記液体が環状に流動する前記基板の表面上の位置に弾性表面波を励振する測定励振源と、前記基板に設けられ、前記測定励振源によって励振され前記液体が環状に流動する前記基板の表面上の位置を通過した弾性表面波に基づいて信号を発生する検出部と、を備え、前記検出部が発生する信号に基づいて、前記液体が含む物質の反応によって生成された生成物質の量を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、構造が簡単で小型な液体撹拌装置および物質検出システムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に本発明の第1の実施形態に係る搬送撹拌装置100を示す。本願の図面では、構成部の境界線を破線で示し構成部の位置関係を説明するための線を一点鎖線で示す。搬送撹拌装置100は、基板10、案内壁12aおよび12b、搬送壁14a,14b,16aおよび16b、中間壁18、ならびに電極対20−1〜20−4を備えて構成される。
【0012】
基板10は、水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等、圧電現象によって弾性表面波を発生させることが可能であり、少なくとも二軸方向に弾性表面波を伝播させることが可能な圧電材料によって形成される。このような圧電材料としては、Yカットニオブ酸リチウムが好適である。
【0013】
案内壁12aおよび12b、搬送壁14a,14b,16aおよび16b、ならびに中間壁18は、線状の隆起部として基板10上に形成される。これらの壁はエポキシ樹脂等、粘性の液体の状態で成形加工することができる樹脂で形成することが好適である。また、これらの壁の延伸方向に垂直な断面の形状は任意であるが、ここでは長方形であるものとする。
【0014】
案内壁12aは、直線部12aSおよび円弧部12aCを含んで構成される。直線部12aSは直線状に形成される。円弧部12aCは、90°の円弧角を有する円弧の形状に形成される。直線部12aSと円弧部12aCとはそれぞれの端において接合され、J字型の案内壁12aを構成する。案内壁12bは、直線部12bSおよび円弧部12bCを含んで構成される。円弧部12bCは円弧部12aCと同一の形状を有する。直線部12bSと円弧部12bCはそれぞれの端において接合され、J字型の案内壁12bを構成する。案内壁12aおよび12bは、直線部12aSと直線部12bSとが平行となり、円弧部12aCの凹んだ壁面が円弧部12bCの凹んだ壁面に対向するよう配置される。
【0015】
搬送壁14a,14b,16aおよび16bは直線状に形成される。搬送壁14aおよび14bは平行に配置され、搬送壁14aの端および搬送壁14bの端は、直線部12aSの円弧部12aCに接合されない側の端、および円弧部12bCの直線部12bSに接合されない側の端にそれぞれ接合される。搬送壁16aおよび16bは平行に配置され、搬送壁16aの端および搬送壁16bの端は、円弧部12aCの直線部12aSに接合されない側の端、および直線部12bSの円弧部12bCに接合されない側の端にそれぞれ接合される。
【0016】
中間壁18は直線状に形成される。中間壁18は、直線部12aSおよび12bSに平行に配置される。中間壁18の長さは、円弧部12aCが描く円弧の中心と円弧部12bCが描く円弧の中心とを結ぶ線分とほぼ同一の長さとする。
【0017】
液体を撹拌するための撹拌領域Strは、案内壁12aおよび12bに囲まれる領域として定義される。ただし、案内壁12aおよび12bのいずれにも塞がれていない開口では、直線LAおよび直線LCを撹拌領域Strの境界とする。ここで、直線LAは、直線部12aSの中間壁18を臨む壁面に接する直線であり、直線LCは、搬送壁16aの案内壁12aに接合される側の端と搬送壁16bの案内壁12bに接合される側の端とを結ぶ直線である。
【0018】
電極対20−1〜20−4のそれぞれは、1本の線状の基幹導体rに複数の線状導体eをすだれ状に接続したすだれ状電極E1およびE2を備える。すだれ状電極E1およびE2は、すだれ状電極E1に属する線状導体eと、すだれ状電極E2に属する線状導体eとが交互に配列されるよう配置される。互いに隣接する2つの線状導体eの間の距離は、励振する弾性表面波の波長のおよそ半分の距離とすることが好適である。
【0019】
電極対20−1〜20−4の形状としては、図1に示したものの他、様々なものを適用することができる。例えば、基幹導体rと線状導体eとの間のなす角を90°とは異なる角度とした電極、一方の端から他方の端に至るまでの間で幅が変化する線状導体eを備える電極、互いに隣接する線状導体eの間隔が均一とならないよう線状導体eを配置した電極等を適用することが可能である。すなわち、電極は、励振する弾性表面波の周波数範囲、伝播させる方向等に基づいて任意の形状とすることができる。
【0020】
電極対20−1は、搬送壁14aの撹拌領域Str側の端とは反対側の端および搬送壁14bの案内壁12bに接合される側とは反対側の端の近傍に設けられる。弾性表面波を所定の位置に伝播させるため、電極対20−1は、直線L1aと直線L1bとの間に挟まれる位置に設けることが好適である。ここで、直線L1aは、搬送壁14aの搬送壁14bを臨む壁面に接する直線であり、直線L1bは、搬送壁14bの搬送壁14aを臨む壁面に接する直線である。電極対20−1は、励振される弾性表面波が伝播する方向が、搬送壁14aの延伸方向および搬送壁14bの延伸方向とほぼ一致するよう配置される。ここでは、線状導体eの延伸方向が、搬送壁14aの延伸方向および搬送壁14bの延伸方向とほぼ垂直となるよう電極対20−1を配置するものとする。
【0021】
電極対20−2は、搬送壁14bの撹拌領域Str側とは反対側の壁面の近傍に設けられる。弾性表面波を所定の位置に伝播させるため、電極対20−2は、中間壁18の延伸方向の中心線として定義される直線LMと直線LAとの間に設けることが好適である。電極対20−2は、励振される弾性表面波が伝播する方向が、直線LAおよびLMとほぼ平行になるよう配置される。ここでは、線状導体eの延伸方向が、直線LAおよびLMとほぼ垂直となるよう電極対20−2を配置するものとする。
【0022】
電極対20−3は、円弧部12bCの撹拌領域Str側とは反対側の壁面の近傍に設けられる。弾性表面波を所定の位置に伝播させるため、電極対20−3は、直線LMと直線L2bとの間に設けることが好適である。ここで、直線L2bは、搬送壁16bの搬送壁16aを臨む壁面に接する直線である。電極対20−3は、励振される弾性表面波が伝播する方向が、直線L2bおよびLMとほぼ平行になるよう配置される。ここでは、線状導体eの延伸方向が、直線L2bおよびLMとほぼ垂直となるよう電極対20−3を配置するものとする。
【0023】
電極対20−4は、搬送壁16aの撹拌領域Str側の端とは反対側の端および搬送壁16bの案内壁12aに接合される側とは反対側の端の近傍に設けられる。弾性表面波を所定の位置に伝播させるため、電極対20−4は、直線L2aと直線L2bとの間に挟まれる位置に設けられることが好適である。ここで、直線L2aは、直線部12bSの撹拌領域Str側の壁面に接する直線である。電極対20−4は、励振される弾性表面波が伝播する方向が、直線L2aおよびL2bとほぼ平行になるよう配置される。ここでは、線状導体eの延伸方向が、直線L2aおよびL2bとほぼ垂直となるよう電極対20−4を配置するものとする。
【0024】
電極対20−1〜20−4が備えるすだれ状電極E1およびE2との間に、それぞれ所定の周波数の交流電圧を印加すると、圧電効果によって弾性表面波SAW1〜SAW4がそれぞれ励振される。電極対20−1から撹拌領域Strに向かって励振される弾性表面波SAW1は、搬送壁14aと搬送壁14bとの間に挟まれる領域および撹拌領域Strを伝播し、円弧部12bCが設けられている位置を通過して伝播する。
【0025】
電極対20−2から搬送壁14bに向かって励振される弾性表面波SAW2は、搬送壁14bが設けられている位置を通過して撹拌領域Str内を伝播し、円弧部12aCが設けられている位置を通過して伝播する。
【0026】
電極対20−3から円弧部12bCに向かって励振される弾性表面波SAW3は、円弧部12bCが設けられている位置を通過して撹拌領域Str内を伝播し、搬送壁16aと搬送壁16bとの間に挟まれる領域を通過して伝播する。
【0027】
電極対20−4から撹拌領域Strに向かって励振される弾性表面波SAW4は、搬送壁16aと搬送壁16bとの間に挟まれる領域および撹拌領域Strを伝播し、円弧部12bCが設けられている位置を通過して伝播する。
【0028】
なお、電極対を配置する方向と励振される弾性表面波が伝播する方向との間の関係は、電極の形状、基板の物性等によって異なる。したがって、電極対20−1〜20−4が配置される方向は、それぞれ弾性表面波SAW1〜SAW4が上述した所定の方向に伝播するよう決定される。本実施形態は、そのように決定された電極対20−1〜20−4の配置方向の1つの例を示している。
【0029】
次に、搬送撹拌装置100が液体を撹拌領域Strに搬入し、搬入された液体を撹拌し、搬出する処理について説明する。液体を撹拌領域Strに搬入し撹拌する場合には、電極対20−1,20−2,および20−4に交流電圧を印加し、電極対20−3には交流電圧を印加しない状態とする。これによって、基板10には弾性表面波SAW1、SAW2、およびSAW4が励振される。
【0030】
液体は、滴下装置(図示せず)によって搬送壁14aと搬送壁14bとの間に挟まれる領域に滴下される。滴下された液体は、弾性表面波SAW1の放射圧によって、弾性表面波SAW1が伝播する方向に進む力を受け移動する。そして、搬送壁14aおよび14bによって導かれつつ撹拌領域Str内の直線LAと直線LMとの間に挟まれる領域に搬送される。
【0031】
搬送された液体は、弾性表面波SAW2の放射圧によって、弾性表面波SAW2が伝播する方向に進む力を受け移動する。そして、直線部12aSおよび中間壁18に導かれつつ、円弧部12aCの撹拌領域Str側の壁面に到達する。円弧部12aCの壁面に接した液体は、弾性表面波SAW2から受ける力、および円弧部12aCの壁面から受ける力によって、当該壁面に沿って図1の時計回りの方向に進む力を受け移動する。そして、当該壁面に沿って案内壁12bと直線LMとの間に挟まれる領域へと搬送される。
【0032】
搬送された液体は、弾性表面波SAW4の放射圧によって、弾性表面波SAW4が伝播する方向に進む力を受け移動する。液体は、直線部12bSおよび中間壁18に導かれつつ、円弧部12bCの撹拌領域Str側の壁面に到達する。円弧部12bCの壁面に接した液体は、弾性表面波SAW4から受ける力、および円弧部12bCの壁面から受ける力によって、当該壁面に沿って図1の時計回りに進む力を受け移動する。そして、当該壁面に沿って撹拌領域Str内の直線LAと直線LMとの間に挟まれる領域に搬送される。
【0033】
搬送された液体は、再び、弾性表面波SAW2の放射圧によって案内壁12aおよび中間壁18に導かれつつ案内壁12bと直線LMとの間に挟まれる領域へと搬送され、弾性表面波SAW4の放射圧によって案内壁12bおよび中間壁18に導かれつつ直線LAと直線LMとの間に挟まれる領域に搬送される。
【0034】
撹拌領域Str内に存在する液体に対しては、直線LAから撹拌領域Strに向かう方向に弾性表面波SAW1の放射圧が与えられるため、搬送壁14aと搬送壁14bとの間に挟まれた領域から電極対20−1に向かう方向への液体の流出を回避することができる。さらに、直線LCから撹拌領域Strに向かう方向に弾性表面波SAW4の放射圧が与えられるため、搬送壁16aと搬送壁16bとの間に挟まれた領域から電極対20−4に向かう方向への液体の流出を回避することができる。
【0035】
このようにして、撹拌領域Strに搬入された液体は環状に流動する。流動する液体は基板10の表面に近い位置と遠い位置とで流動する速さが異なること、および流動する液体には弾性表面波によって機械的振動が加えられることによって液体は撹拌される。
【0036】
搬送撹拌装置100では、液体の撹拌領域Strへの搬入が完了し、搬送壁14aと搬送壁14bとの間に挟まれた領域に液体が存在しない状態となった後においても、電極対20−1、20−2および20−4には交流電圧を印加し続ける。これによって、撹拌領域Strの外側への液体の流出を回避し、液体の撹拌を引き続き行うことができる。
【0037】
撹拌した液体を撹拌領域Strから搬出する場合には、電極対20−1、20−2および20−3に交流電圧を印加し、電極対20−4には交流電圧を印加しない状態とする。これによって、基板10には弾性表面波SAW1、SAW2およびSAW3が励振される。
【0038】
撹拌領域Str内の直線LAと直線LMとの間に挟まれる領域に存在する液体は、弾性表面波SAW2の放射圧によって、弾性表面波SAW2が伝播する方向に進む力を受け移動する。そして、直線部12aSおよび中間壁18に導かれつつ、円弧部12aCの撹拌領域Str側の壁面に到達する。円弧部12aCの壁面に接した液体は、弾性表面波SAW2から受ける力、および円弧部12aCの壁面から受ける力によって、当該壁面に沿って図1の時計回りの方向に進む力を受け移動する。そして、当該壁面に沿って案内壁12bと直線LMとの間に挟まれる領域へと搬送される。
【0039】
案内壁12bと直線LMとの間に挟まれる領域に存在する液体は、弾性表面波SAW3の放射圧によって、弾性表面波SAW3が伝播する方向に進む力を受け移動する。そして、直線部12aSおよび中間壁18に導かれつつ、搬送壁16aと搬送壁16bとの間に挟まれる領域に搬送される。
【0040】
また、搬送壁14aと搬送壁14bとの間に挟まれた領域から電極対20−1に向かう方向への液体の流出は、弾性表面波SAW1によって阻止される。
【0041】
このようにして、撹拌領域Str内の液体を撹拌領域Strの外側へ搬出することができる。
【0042】
図2に本発明の第2の実施形態に係る搬送撹拌装置102を示す。搬送撹拌装置102は、基板10、案内壁12aおよび12b、搬送壁16aおよび16b、中間壁18、電極対20−2〜20−4、直線部22、ならびに円弧部24を備えて構成される。図1の搬送撹拌装置100と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0043】
基板10には、一軸方向にのみ弾性表面波を伝播させることが可能な圧電材料を適用してもよい。
【0044】
直線部22は搬送壁16aの幅と同一の長さを有する。直線部22の一方の端は円弧部12bCの直線部12bSに接合されない側の端に接合される。円弧部24は、円弧部12aCおよび12bCと同一の形状を有する。円弧部24は、その凹んだ側の壁面が中間壁18が設けられている側を臨むよう、直線部12aSの円弧部12aCに接合されない側の端と直線部22の円弧部12bCに接合されない側の端との間に接合される。
【0045】
液体を撹拌するための撹拌領域Strは、案内壁12aおよび12b、直線部22および円弧部24に囲まれる領域として定義される。ただし、これらの壁のいずれにも塞がれていない開口では直線LCを撹拌領域Strの境界とする。
【0046】
搬送撹拌装置102が液体を撹拌領域Strに搬入し、搬入された液体を撹拌し、搬出する処理について説明する。液体を撹拌領域Strに搬入し撹拌する場合には、電極対20−2および20−4に交流電圧を印加し、電極対20−3には交流電圧を印加しない状態とする。これによって、基板10には弾性表面波SAW2およびSAW4が励振される。
【0047】
搬送壁16aと搬送壁16bとの間に挟まれた領域には、滴下装置によって液体が滴下される。滴下された液体は、弾性表面波SAW4の放射圧によって、弾性表面波SAW4が伝播する方向に進む力を受け移動する。液体は、直線部12bSおよび中間壁18に導かれつつ、円弧部12bCの撹拌領域Str側の壁面に到達する。円弧部12bCの壁面に接した液体は、弾性表面波SAW4から受ける力、および円弧部12bCの壁面から受ける力によって、当該壁面に沿って図2の時計回りに進む力を受け移動する。そして、当該壁面および直線部22の撹拌領域Str側の壁面に沿って、円弧部24と直線LMとの間に挟まれる領域へと搬送される。
【0048】
搬送された液体は、弾性表面波SAW2の放射圧によって、弾性表面波SAW2が伝播する方向に進む力を受け移動する。液体は、直線部12aSおよび中間壁18に導かれつつ、円弧部12aCの撹拌領域Str側の壁面に到達する。円弧部12aCの壁面に接した液体は、弾性表面波SAW2から受ける力、および円弧部12aCの壁面から受ける力によって、当該壁面に沿って図2の時計回りの方向に進む力を受け移動する。そして、当該壁面に沿って案内壁12bと直線LMとの間に挟まれる領域へと搬送される。
【0049】
搬送された液体は、再び、弾性表面波SAW4の放射圧によって案内壁12bおよび中間壁18に導かれつつ案内壁12aと直線LMとの間に挟まれる領域へと搬送され、弾性表面波SAW2の放射圧によって案内壁12aおよび中間壁18に導かれつつ案内壁12bと直線LMとの間に挟まれる領域へと搬送される。
【0050】
撹拌領域Str内の液体に対しては、直線LCから撹拌領域Strに向かう方向に弾性表面波SAW4の放射圧が与えられるため、搬送壁16aと搬送壁16bとの間に挟まれた領域から電極対20−4に向かう方向への液体の流出が回避される。このようにして、撹拌領域Strに搬入された液体は環状に流動し撹拌される。
【0051】
搬送撹拌装置102では、液体の撹拌領域Strへの搬入が完了し、搬送壁16aと搬送壁16bとの間に挟まれた領域に液体が存在しない状態となった後においても、電極対20−2および20−4に交流電圧を印加し続ける。これによって、撹拌領域Strの外側への液体の流出を回避し、液体の撹拌を引き続き行うことができる。
【0052】
なお、撹拌すべき液体の量が十分多い場合には、電極対20−4のみに交流電圧を印加し、電極対20−2および20−3には交流電圧を印加しない状態としても液体の撹拌を行うことができる。この場合、弾性表面波SAW4によって案内壁12aと直線LMとの間および円弧部24と直線LMとの間に挟まれる領域に搬送された液体は、円弧部24、案内壁12aおよび中間壁18に沿って搬送される力を後続の液体から受ける。これによって、撹拌領域Strに搬入された液体は環状に流動し撹拌される。
【0053】
撹拌した液体を撹拌領域Strから搬出する場合には、電極対20−2および20−3に交流電圧を印加し、電極対20−4には交流電圧を印加しない状態とする。これによって、基板10には弾性表面波SAW2およびSAW3が励振される。
【0054】
直線部22、円弧部24、直線部12aSおよび直線LMに囲まれる領域に存在する液体は、弾性表面波SAW2の放射圧によって、弾性表面波SAW2が伝播する方向に進む力を受け移動する。そして、直線部12aSおよび中間壁18に導かれつつ、円弧部12aCの撹拌領域Str側の壁面に到達する。円弧部12aCの壁面に接した液体は、弾性表面波SAW2から受ける力、および円弧部12aCの壁面から受ける力によって、当該壁面に沿って図2の時計回りの方向に進む力を受け移動する。そして、当該壁面に沿って案内壁12bと直線LMとの間に挟まれる領域へと搬送される。
【0055】
案内壁12bと直線LMとの間に挟まれる領域に存在する液体は、弾性表面波SAW3の放射圧によって、弾性表面波SAW3が伝播する方向に進む力を受け移動する。そして、直線部12aSおよび中間壁18に導かれつつ、搬送壁16aと搬送壁16bとの間に挟まれる領域に搬送される。
【0056】
搬送撹拌装置102は、液体の搬入および搬出において搬送壁16aおよび16bを兼用するため、搬送撹拌装置100に比して構成が簡単となる。また、基板10には、一軸方向にのみ弾性表面波が伝播させることが可能な圧電材料であればよいため、基板10の材料の選択の幅が広がるという利点がある。
【0057】
次に、搬送撹拌装置100の変形例について説明する。図3に搬送撹拌装置100Aを示す。搬送撹拌装置100Aは、基板10、案内壁12aおよび12b、搬送壁14a,14b,16aおよび16b、突起部26、ならびに電極対20−1〜20−4を備えて構成される。搬送撹拌装置100Aは、搬送撹拌装置100が備える中間壁18を突起部26に置き換えたものである。図1の搬送撹拌装置100と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0058】
突起部26は、円柱、円錐等の形状に形成され、長手方向が基板10の表面と垂直となるよう配置される。ここでは突起部26を円柱形状に形成するものとする。突起部26は、エポキシ樹脂等、粘性の液体の状態で成形加工することができる樹脂で形成することが好適である。突起部26は、直線LAと直線L2bとの間の中央の位置に引かれた、直線LAおよびL2bと平行な直線LM1と、直線L1aと直線LCとの間の中央の位置に引かれた、直線L1aおよびLCと平行な直線LM2とが交わる位置に設けられる。
【0059】
このような構成によれば、撹拌領域Str内の液体には突起部26に引きつけられる力が働く。これによって、SAW2およびSAW4が励振されることで、液体は突起部26を中心に滴を形成し突起部26を中心に環状に流動する。したがって、液体が案内壁12aおよび12bに接していなくとも液体を環状に流動させることができるため、撹拌領域Strに搬送された液体が少量であっても、その液体を撹拌することができる。
【0060】
なお、ここでは、搬送撹拌装置100の中間壁18を突起部26に置き換えた変形例について説明したが、搬送撹拌装置102についても同様の変形が可能である。
【0061】
次に、搬送撹拌装置100の第2の変形例について説明する。搬送撹拌装置100では、液体を搬出するときに液体が電極対20−4の上を通過する。そのため、液体を搬出した直後においては、残存した液体によってすだれ状電極E1とすだれ状電極E2との間が電気的に接続され、弾性表面波SAW4を励振することが不可能となるおそれがある。図4に示す搬送撹拌装置100Bは、搬送撹拌装置100を変形し、そのような問題を解消したものである。
【0062】
搬送撹拌装置100Bは、基板10、案内壁12aおよび12b、搬送壁14aおよび14b,中間壁18、電極対20−1〜20−4、ならびに円弧壁28を備えて構成される。搬送撹拌装置100Bは、搬送撹拌装置100の搬送壁16aおよび16bを取り除き、搬送壁16aの代わりに円弧壁28を設けたものである。図1の搬送撹拌装置100と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0063】
円弧壁28は、円弧部12aCおよび12bCと同一の形状に形成することが好適である。円弧壁28は、その凸形状の壁面が電極対20−4の側を臨むよう配置される。円弧壁28の一方の端は、円弧部12aCの直線部12aSに接合されない側の端に接合される。
【0064】
電極対20−4によって励振された弾性表面波SAW4は、円弧壁28が設けられている位置を通過して撹拌領域Str内を伝播し、円弧部12bCが設けられている位置を通過して伝播する。
【0065】
搬送撹拌装置100Bは、搬送撹拌装置100が実行する処理と同様の処理によって、液体を撹拌領域Strに搬入し、搬入された液体を撹拌し搬出する。撹拌領域Strから搬出された液体は、円弧壁28の凹んだ側の壁面に到達する。円弧壁28の壁面に接した液体は、弾性表面波SAW3から受ける力、および円弧壁28の壁面から受ける力によって、当該壁面に沿って図4の時計回りの方向に進む力を受け移動する。そして、当該壁面に沿って搬送され、円弧壁28と案内壁12bとの間から直線L2bを横切って搬出される。
【0066】
このような構成によれば、電極対20−4の上を液体が通過することを回避することができる。これによって、液体を搬出した直後においても確実に弾性表面波SAW4を励振することができるため、液体の搬入および撹拌を引き続き行うことができる。なお、円弧壁28は、搬送撹拌装置100Aについても同様に適用することができる。
【0067】
次に、搬送撹拌装置の応用例について説明する。図5は、物質検出システム104を示す。物質検出システム104は、搬送撹拌装置100、電極対20−5および20−6を備えて構成される。図1の搬送撹拌装置100と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。搬送撹拌装置100の代わりに搬送撹拌装置100Aまたは102を適用してもよい。
【0068】
物質検出システム104は、相互の反応によって所定の物質を生成する複数の生体物質を含む液体(以下、反応生体溶液とする。)を撹拌し、撹拌によって生成が促進され基板10の表面に吸着した物質の量の測定、反応生体溶液の性質の解析等を行うシステムである。
【0069】
電極対20−5および20−6は、電極対20−1〜20−4と同一の構成および機能を有する。電極対20−5は、直線LCと直線L1aとの間に挟まれる領域のうち、撹拌領域Strと共に案内壁12aを挟む領域に配置される。電極対20−6は、直線LCと直線L1aとの間に挟まれる領域のうち、撹拌領域Strと共に案内壁12bを挟む領域に配置される。電極対20−5および20−6は、電極対20−5が備える線状導体eの方向と、電極対20−6が備える線状導体eの方向とが一致するよう配置される。
【0070】
電極対20−5に交流電圧を印加すると、電極対20−5から撹拌領域Strを貫いて電極対20−6が設けられている位置まで伝播する弾性表面波SAW5が励振される。弾性表面波SAW5は電極対20−6のすだれ状電極E1およびE2との間に圧電現象によって交流電圧を発生する。
【0071】
物質検出システム104では、搬送撹拌装置100の処理によって撹拌領域Strに反応生体溶液を搬入し撹拌することができる。基板10の表面に吸着した物質の量を測定する場合や、反応生体溶液の性質の解析を行う場合には、反応生体溶液を撹拌すると共に弾性表面波SAW5を励振する。そして、電極対20−5に印加した交流電圧の振幅に対する電極対20−6に発生する交流電圧の振幅の比率、および電極対20−5に印加した交流電圧の位相と電極対20−6に発生する交流電圧の位相との差を測定する。当該振幅レベルの比率および当該位相差は、基板10の表面に吸着した物質の量の変化、反応生体溶液の性質の変化等に従って変化する。したがって、測定された振幅レベルの比率および位相差に基づいて基板10の表面に吸着した物質の量の測定、反応生体溶液の性質の解析等を行うことができる。
【0072】
このような構成によれば、生成された物質を検出するセンサとして基板10を適用することができるため、生成物質の量の測定、反応生体溶液の性質の解析等を行うシステムの構成を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1の実施形態に係る搬送撹拌装置を示す図である。
【図2】第2の実施形態に係る搬送撹拌装置を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る搬送撹拌装置の変形例を示す図である。
【図4】第1の実施形態に係る搬送撹拌装置の第2の変形例を示す図である。
【図5】物質検出システムを示す図である。
【符号の説明】
【0074】
10 基板、12a,12b 案内壁、12aS,12bS 直線部、12aC,12bC,22 円弧部、14a,14b、16a,16b,24 搬送壁、18 中間壁、20−1〜20−6 電極対、26 突起部、28 円弧壁、100,100A,100B、102 搬送撹拌装置、104 物質検出システム、E1,E2 すだれ状電極、r 基幹導体、e 線状導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波が伝播する基板と、
前記基板の表面と平行な面内で凹形状の線を描く壁面を有し、前記基板の表面上に設けられる第1隆起部と、
前記基板の表面と平行な面内で凹形状の線を描く壁面を有し、当該壁面の凹んだ側が前記第1隆起部が有する前記壁面の凹んだ側に対向するよう、前記基板の表面上に設けられる第2隆起部と、
前記基板に設けられ、前記第1隆起部が有する前記壁面の凹んだ側から弾性表面波を励振する励振源と、
を備え、
前記第1隆起部が有する前記壁面および前記第2隆起部が有する前記壁面は、
前記励振源が励振する弾性表面波によって前記基板の表面上を移動する液体を導き、前記基板の表面上に前記液体を環状に流動させることを特徴とする液体撹拌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体撹拌装置であって、
前記基板に設けられ、前記第1隆起部が有する前記壁面と前記第2隆起部が有する前記壁面との間に挟まれる前記基板上の撹拌領域に、前記第1隆起部が有する前記壁面および前記第2隆起部が有する前記壁面によって塞がれていない方向から弾性表面波を励振する補助励振源を備え、
前記撹拌領域の外側に前記液体が流出することを前記補助励振源が励振する弾性表面波によって阻止することを特徴とする液体撹拌装置。
【請求項3】
弾性表面波が伝播する基板と、
前記基板の表面上に設けられる突起部と、
前記基板に設けられ弾性表面波を励振する励振源と、
を備え、
前記励振源によって励振された弾性表面波によって、前記基板の表面上に前記突起部を中心として液体を環状に流動させることを特徴とする液体撹拌装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の液体撹拌装置と、
前記基板に設けられ、前記液体が環状に流動する前記基板の表面上の位置に弾性表面波を励振する測定励振源と、
前記基板に設けられ、前記測定励振源によって励振され前記液体が環状に流動する前記基板の表面上の位置を通過した弾性表面波に基づいて信号を発生する検出部と、
を備え、
前記検出部が発生する信号に基づいて、前記液体が含む物質の反応によって生成された生成物質の量を測定することを特徴とする物質検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−101981(P2008−101981A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283869(P2006−283869)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】