説明

液体検出タグおよびそれを備えた液体検出装置

【課題】複数回の失禁を検出することができる液体検出タグおよびそれを備えた液体検出装置を提供する。
【解決手段】タグ12は、RFIDタグ13と排水シート28とが積層された構成となっており、尿が排出される空間がRFIDタグ13の下方に確保されている。排水シート28は、シリコン樹脂を所定形状に成形したものであり、薄い板状の基材30の上面から突起部31が上方に突出した形状を有している。突起部31の上端がRFIDタグ13の下面に接触することで、突起部31の高さに対応した空間が、RFIDタグ13の基板15の下面と排水シート28の基材30の上面との間に確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグとアンテナとの交信状況から、尿や血液等の液体を検出する液体検出タグおよびそれを備えた液体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
寝たきりの被介護者の介護にはおむつが用いられており、この被介護者が言葉をうまく発音できない等の原因により尿意を介護者に伝えられない状況では、予め決められた時刻または一定時間毎におむつを交換している。しかしながら、被介護者が失禁した後に長時間経過すると、尿による臭いが充満したり、おむつかぶれが発生する恐れが大きい。
【0003】
また、介護者にとっても、おむつを開けなければその内部の状況は把握できないので、失禁をしていない被介護者のおむつを開けてまた付け直すことが頻繁に発生してしまい、不要な労力が発生してしまうと共に、被介護者の睡眠が妨害される問題もある。そのため、介護者がおむつを開けなくとも、失禁を感知することができる失禁センサが開発されている。
【0004】
この失禁センサとして、電極、湿気センサ、カメラ、熱電素子を用いた方法が提案されている。しかしながら、これらの方法は、大型で装着時に被介護者が違和感を感じるものであったり、介護者が被介護者の所まで行き失禁の有無を確認する必要があったり、おむつから配線が出ているような見栄えが悪いものであった。
【0005】
更に、失禁センサとして、使い捨てるタイプの送信機をおむつの内部に装着し、おむつの外部に受信機を備え、無線により失禁を検出する装置もある。しかしながら、このタイプの装置では、送信機の装着感があったり、電池の交換に手間がかかる等の問題があった。更には、送信機を構成する配線が、おむつの使用時に伴う屈曲動作で断線してしまう等の問題もあった。
【0006】
また、下記特許文献1を参照すると、パッシブ型のRFIDタグを使用したおむつ濡れ報知表示装置が開示されている。当該特許文献の図1等を参照すると、おむつの内部に備えられた濡れ検出センサにより尿を検出し、検出された尿等のデータをRF−IDタグから表示装置に送信している。そして、表示装置では、入力されたデータに基づいて、失禁の回数または失禁してからの時間を表示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載された発明では、紙おむつの内部に備えられたRF−IDタグが一旦尿に濡れてしまうと、長期間に渡りRF−IDタグに尿が塗れた状態となるので、それ以降のRF−IDタグと表示装置との通信ができなくなってしまう問題があった。このような場合に於いては、1回の尿漏れの検出は可能となるが、1つのRF−IDタグ16により複数回の失禁を検出することができなくなる。
【0009】
本発明は上記した問題を鑑みて成されたものであり、本発明の主たる目的は、複数回の失禁を検出することができる液体検出タグおよびそれを備えた液体検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体検出タグは、パッシブ型のRFIDタグと、前記RFIDタグに重畳されて配置されると共に、前記RFIDタグに接触した前記液体が排出される空間を確保する排水シートと、を備え、前記排水シートは、前記RFIDタグに面する第1主面と前記第1主面に対向する第2主面とを有する板状の基材と、前記基材の前記第1主面から厚み方向に突出して先端部が前記RFIDタグの主面に接触する複数の突起部と、前記基材を貫通する複数の貫通孔とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の液体検出装置は、液体検出タグと、前記液体検出タグに駆動エネルギーを与えると共に前記液体検出タグと信号を授受するリーダアンテナと、を備え、前記液体検出タグは、パッシブ型のRFIDタグと、前記RFIDタグの主面に重畳されて配置されると共に、前記RFIDタグに接触した前記液体が排出される空間を確保する排水シートと、を備え、前記排水シートは、前記RFIDタグに面する第1主面と前記第1主面に対向する第2主面とを有する板状の基材と、前記基材の前記第1主面から厚み方向に突出して先端部が前記RFIDタグの主面に接触する複数の突起部と、前記基材を貫通する複数の貫通孔とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、RFIDタグの周囲に尿が排出される空間を確保するための排水シートを設けたので、RFIDタグに接触した尿はこの空間を経由して素早く排出される。従って、タグとリーダとの交信を回復させ、RFIDタグにより複数回の失禁を検出することが可能となり、被介護者の失禁時間をより正確に記録することができる。更に、この失禁時間から導き出されるバイタルサインを基に介護を行うことが可能となり、個々の介護者にあった介護または治療を行うことができる。このことから、本発明により、被介護者のQOL(Quality of Life)が向上されると共に、介護者や看護士の労力を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置を示す図であり、(A)は液体検出装置の構成を示す図であり、(B)はタグの構成を示す斜視図であり、(C)はタグの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置を示す概略図である。
【図3】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置を示す図であり、(A)は液体検出装置およびその使用状況を示す平面図であり、(B)は断面図であり、(C)はアンテナの構成を示す平面図である。
【図4】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置により尿を検出する方法を示すフローチャートである。
【図5】(A)および(B)は、尿に作用する表面張力を説明するための図である。
【図6】発明の液体検出装置の一例である尿検出タグを示す断面図である。
【図7】発明の液体検出装置の一例である尿検出タグを示す図であり、(A)乃至(D)はタグに備えられる突起部の断面図である。
【図8】発明の液体検出装置の一例である尿検出タグに備えられる突起部を示す斜視図である。
【図9】発明の液体検出装置の一例である尿検出タグに備えられる貫通孔を示す断面図である。
【図10】(A)および(B)は、発明の液体検出装置の一例である尿検出タグを用いた実験結果を示すグラフである。
【図11】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定する方法を示す図であり、(A)−(C)は断面図である。
【図12】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定するために行われた結果を示すものであり、(A)と(B)はグラフである。
【図13】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定するために行われた結果を示す表である。
【図14】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定するために行われた結果を示すものであり、(A)−(C)は表である。
【図15】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定するために行われた結果を示すものであり、(A)と(B)はグラフである。
【図16】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定するために行われた結果を示すものであり、(A)と(B)はグラフである。
【図17】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定するために行われた結果を示すグラフである。
【図18】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定するために行われた結果を示すものであり、(A)と(B)はグラフである。
【図19】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定するために行われた結果を示すものであり、(A)と(B)はグラフである。
【図20】本発明の液体検出装置の一例である尿検出装置で尿量を測定するために行われた結果を示すものであり、(A)と(B)はグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の液体検出タグおよび液体検出装置の詳細を以下に説明する。以下の説明では、検出する液体の一例として、使用者が排泄した尿を例示するが、検出される液体としては尿以外も採用可能である。具体的には、使用者(被介護者)の血液や汗を本形態のタグおよび検出装置により検出することができる。本形態により使用者の血液を検出することで、例えば輸血や手術等の医療行為にて外部に流出した血液を検出することができる。また、本形態により使用者から発生した汗を検出することで、褥痩を予防することができる。ここで検出とは、例えばおむつの内部に一定量以上の尿が存在するか否かを判断することや、おむつの内部に排出された尿の量を推定することを含む。
【0015】
<第1の実施の形態>
本形態では、図1から図4を参照して、本形態の尿検出タグおよび尿検出装置の構成ならびにそれを用いた尿の検出方法を説明する。
【0016】
図1を参照して、尿検出装置11の詳細を、尿検出用のタグ12を中心に説明する。図1(A)は尿検出装置11を示す図であり、図1(B)はタグ12の構成を詳しく示す斜視図であり、図1(C)はタグ12を示す断面図である。
【0017】
図1(A)を参照して、被介護者34が装着するおむつ10にはタグ12が内蔵されており、おむつ10の外部にタグ12と通信を行うアンテナ16(リーダアンテナ)およびリーダ14が配置されている。アンテナ16は、タグ12に対して電磁波(磁界)を発生させることによりタグ12を駆動させ、更に、タグ12から発生されたデータを受信する機能を備えている。
【0018】
更に、リーダ14は、通信制御部18と演算部20から構成されている。演算部20は
情報を記録するメモリと、このメモリの読み書き、演算、認証、暗号化等を行うロジック回路とから構成されている。そして、通信制御部18は、アンテナ16を経由したタグ12との通信を制御する部位である。
【0019】
次に、図1(A)および図1(B)を参照して、尿検出装置11により尿を検出するメカニズムに関して述べる。
【0020】
先ず、リーダ14のアンテナ16からは、強さが1.5A/m〜7.5A/m程度の電磁波(磁界)が発生している。この磁界による電磁誘導の作用により、タグ12のコイル状のアンテナ22に、例えば13.56MHzの交流電圧が起電される。そして、起電された交流電圧を、ICチップ24に内蔵された整流回路により直流電圧に変換している。ここで、ICチップ24を駆動させるためには、一般的には3V、低電圧のもので1.8Vの電圧が必要とされる。
【0021】
電磁誘導により電源を確保したタグ12は、アンテナ22で受けた電波が反射して再び放出される量を制御する負荷変調をすることでリーダ14と交信する。負荷変調としては、振幅を替える振幅変調(ASK)、周波数を変える周波数変調(FSK)および位相を変える位相変調(PSK)があり、何れも本実施形態に採用可能である。
【0022】
本実施の形態では、リーダ14のアンテナ16から電磁波を一定間隔にて発生させ、リーダ14とタグ12とが交信している時は、タグ12に尿が付着していない(即ち被介護者が失禁していない)と判断している。
【0023】
一方、被介護者が失禁してタグ12に尿が付着すると、タグ12とリーダ14との交信が不能となる。この様に交信ができなくなる原因は、電解質を含む尿がタグ12に付着すると、この電解質を電流が通過し、タグ12のアンテナのインダクタンス、キャパシタンス等の容量が変化し、共振周波数が変動することでQ値が低下して共振せず、結果的にアンテナ22の起電力がICの駆動電圧に到らないことであると考えられる。
【0024】
ここで、この交信ができなくなる現象は、タグ12のアンテナ22に直に尿が接触した場合に発生する。更には、アンテナ22が樹脂層により被覆された場合でも、この樹脂層に尿が付着すると交信ができなくなる。
【0025】
実験によれば、食塩水をRFIDタグ13の上面に滴下すると、1滴の場合はタグが起電する電圧が2.5V程度まで低下し、2滴以上滴下するとこの電圧が2.1V以下となり交信がとぎれてしまう。従って、本実施の形態によれば、極めて少量の尿漏れもタグ12により検出可能となる。
【0026】
更に、塩分等を含まない水道水をRFIDタグに滴下した場合は、タグが起電する電圧はそれほど低下せず、交信はとぎれないことが実験により判明した。従って、おむつ10の内部の蒸れによってできる水分がタグ12に付着しても、タグ12の交信が途絶えることは無い。しかしながら、おむつ10の汗による蒸れが一定以上に成ると、上記した通信が阻害されるので、本形態のタグ12を、汗を検出するための装置として用いることも可能である。
【0027】
図1(B)および図1(C)を参照して、タグ12の構成を詳述する。タグ12は、RFIDタグ13と排水シート28とが重畳された構成となっており、尿が排出される空間がRFIDタグ13の下方に確保されている。
【0028】
本実施の形態では、RFIDタグ13として、Texas Instruments社製RI−I02−112BのRFIDタグを用いた。このタグは、厚みが0.05mm程度の薄いPET(Polyethylene terephthalate)から成る基板の上面に、薄い導電箔を渦巻き状に形成したアンテナ22とICチップ24等が配置されている。従って、このタグは、非常にフレキシブルであり最小曲げ半径は18mm程度である。このタグ一枚当たりの単価は現在100円となっており、安易に使い捨てできない価格であるが、従来の物品管理の手法であるバーコードの代わりとしての利用されると大量生産されるので、コストが安くなり、使い捨てが容易になると考えられる。また、RI−I02−112BはISO15693の規格に準拠しているため、通信に必要な磁界の強さは1.5〜7.5A/mとなる。
【0029】
RFIDタグ13の上面および下面は、シリコン樹脂等の絶縁性樹脂により被覆されても良い。この様にすることで、ICチップ24への尿の付着が防止される。
【0030】
更に、RFIDタグ13の中央部付近を四角形形状にくり抜いて開口部26が設けられている。この開口部26は、尿を通過させて排水を良好にするためのものである。
【0031】
排水シート28は、シリコン樹脂を所定形状に一体的に成形したものであり、薄い板状の基材30の上面から突起部31が上方に突出した形状を有している。ここで、図1(C)を参照して、突起部31の上端がRFIDタグ13の下面に接触することで、突起部31の高さに対応した空間が、RFIDタグ13の基板15の下面と排水シート28の基材30の上面との間に確保される。
【0032】
突起部31は、基材30の上面に等間隔に離間して複数が配置されており、突起部31同士が互いに離間する距離は例えば4.66mm以上である。また突起部31の高さは例えば1.66mm以上であり、幅は例えば1.0mm以上である。図では、突起部31は円錐形状であるが、他の形状も採用可能であり、四角錐等の角錐形状、円柱形状または角柱形状等でも良い。
【0033】
貫通孔32は、基材30を部分的に貫通して設けられており、基材30に等間隔に複数個が配置されている。貫通孔32の直径は例えば1.0mm以上である。貫通孔32を経由して、RFIDタグ13に付着した尿は外部(おむつ)に排出されて吸収される。
【0034】
また、上記した排水シート28として人工芝を用いることも可能である。その理由は、人工芝は、排水性、柔軟性およびコスト性に優れているからである。さらにまた、排水シート28の裏面には、タグ12をおむつ10に貼着させるための、接着剤から成る接着層が設けられても良い。
【0035】
上記した構成のタグ12によると、RFIDタグ13に尿が付着した後に、RFIDタグ13と排水シート28との空間を経由して尿がタグ12の外部に放出される。従って、タグ12に尿が付着してタグ12とリーダ14との交信が途絶えても、タグ12に付着した尿は素早く外部に放出されるので、タグ12とリーダ14との交信は数十秒程度で回復される。そしてその後に、タグ12に尿が再び付着してリーダ14との交信が途絶えるとことで、再度の失禁を検出できる。このことから、1つのタグ12により被介護者の複数回の失禁を検出することが可能となる。更には、後述するように、上記交信が途絶えてから再開されるまでの時間を基に、排泄された尿の量を推定することもできる。
【0036】
更に、上記構成のタグ12は、使用状況下にて被介護者が体動することによりストレスが加わっても、柔軟に変形するので、このストレスよりアンテナ22が断線する問題が緩和されている。その理由は、図1(C)を参照して、RFIDタグ13の基材15および排水シート28の基材30の両方が、可撓性に優れる樹脂を主体とする材料から成るからである。
【0037】
図2を参照して、次に、上記した尿検出装置11を備えた尿検出システムの構成を説明する。この図を参照すると、上記と同様に、タグ12は被介護者34が使用するおむつに備えられている。リーダ14のアンテナ16は、被介護者34に掛けられる敷布にループ状に形成されている。そして、被介護者34が失禁することによりタグ12とリーダ14との交信が一定時間以上途絶えると、サーバであるコンピュータ36(制御装置)に失禁情報が記録される。この失禁情報としては、例えば、「いつ失禁したのか」、「失禁した時間帯の回数はいくらか」、「失禁の総回数はいくらか」、「尿量はどの程度か」等が挙げられる。そして、この失禁情報を経時的に取得して蓄積することにより、介護者または医師が被介護者の生活リズムを把握しやすくなり、被介護者毎の状態に合った介護および治療が可能となる。
【0038】
コンピュータ36に失禁情報が記録された後、介護者38が所有しているPDA(Personal Digital Assistants)端末に失禁情報が通知され、介護者38が被介護者34のおむつを交換する。このことにより、介護者38がおむつを開けなくとも失禁の有無を確認することができるので、効率的に介護が行われる。また、タグ12は安価であるので使い捨てできるので、タグ12を備えたおむつは通常のものと同様に使用可能である。
【0039】
図3を参照して、アンテナ16が敷布40に組み込まれた尿検出装置11の構成を説明する。図3(A)は尿検出装置11が被介護者(使用者)に対して用いられている状態を示す図であり、図3(B)は図3(A)の状態の断面図であり、図3(C)はアンテナ16の構成を詳細に示す平面図である。
【0040】
図3(A)を参照して、尿検出装置11では、一定間隔にてタグ12とリーダ14(アンテナ16)とが通信を行っており、この通信の状況が変化することでおむつ10を使用する被介護者34の失禁を検出している。即ち、タグ12とリーダ14(アンテナ16)との交信が正常に行えたら、おむつ10を使用している被介護者は失禁していないと判断する。一方、タグ12とリーダ14との交信が一定時間以上途絶えたら、尿がタグに12に接触した(即ち、被介護者が失禁した)と判断する。また、後述するように、交信の再開にかかる時間から、被介護者が排出した尿の量を推定することも可能となる。
【0041】
タグ12は、紙おむつに代表されるおむつ10に備えられている。タグ12は、おむつ10の内側の面に貼着されても良いし、おむつ10自体に内蔵されても良い。本実施の形態では、タグ12はパッシブ型のものであり、リーダ14から与えられた駆動エネルギーによりICが必要な処理を行い、この処理により生成されたデータを搬送波に乗せてリーダ14に送信する機能を有する。この種のタグは、RFID(Radio Frequency Identification)タグ、無線IC、ICタグ、RFタグ等と称されている。ここでは、1つのみのタグ12が示されているが、リーダ14のアンチコリジョン機能を活用することで、おむつ10の内部に複数のタグ12を配置しても良い。
【0042】
アンテナ16は、タグ12が駆動するための電磁波を発生させると共に、タグ12から送信された電波を受信する機能を有する。リーダ14は、有線にてアンテナ16と電気的に接続されており、リーダ14のアンテナ16からは制御情報を含む電磁波がタグ12に対して発信されている。
【0043】
パッシブ型のタグ12が電力を得る方法は、電磁誘導方式と電波方式がある。電磁誘導方式では磁界により電力を発生させるため、電波を使用しておらず、水分が近くにあっても比較的通信が可能である。一方、電波方式は、電波エネルギーを電力に変換する方法であり、電磁誘導方式と比べて通信距離が長い(UHF帯の場合で5〜6m)が、水による影響が大きいため、水分に囲まれると電波は吸収され通信不能になる。従って、本実施の形態では水分である尿を扱うため、タグ12が電力を得る方法としては、電磁誘導方式の方が好適である。本実施形態では、RFIDタグ13として、13.56MHz帯のものを用いる。
【0044】
図3(A)を参照して、本形態では、アンテナ16は横臥した状態の被介護者34に掛けられる敷布40に組み込まれている。敷布40としては、アンテナ16を設置するための専用の布でも良いし、通常使用される毛布や布団にアンテナ16が組み込まれても良い。更に、アンテナ16が組み込まれる方法としては、敷布40の繊維と共に織り込まれても良いし、敷布40に内蔵されても良いし、敷布40の上面または下面にアンテナ16が貼着されても良い。
【0045】
図3(B)を参照して、本形態の尿検出装置11は、スプリングベッド42の上面に横臥する被介護者34に対して使用される。被介護者34には敷布40が掛けられ、アンテナ16はこの敷布40に組み込まれている。
【0046】
ここで、スプリングベッド42の内部には、金属から成る多数のスプリング44が内蔵されている。従って、タグ12に駆動エネルギーを与えるためにアンテナ16から磁界を発生させると、金属であるスプリング44から発生した反磁界により、アンテナ16から発生した磁界が打ち消される現象が発生する。アンテナ16とスプリング44との距離が一定以上に短くなると、この打ち消しの現象により、両者の間に配置されたタグ12とアンテナ16とが通信不能となってしまう。
【0047】
本形態では、反磁界により通信不能となる現象を避けるため、アンテナ16をスプリングベッド42の上面から一定以上離間させている。例えば、スプリングベッド42の上面とアンテナ16とが離間する距離L3を20cm以上とすることにより、上記した打ち消しの現象を緩和させることが可能であることが判明している。
【0048】
ここでは、被介護者34の体の厚みによりアンテナ16をスプリング44から所定以上離間させている。具体的には、アンテナ16が被介護者34の上面に配置されるように、敷布40を被介護者34に掛けることにより、アンテナ16がスプリングベッド42の上面から離間される。即ち、アンテナ16がスプリングベッド42の上面に接触せず、結果的に反磁界による打ち消しが抑制される。
【0049】
更にまた、本形態では、アンテナ16を貫く方向の通信範囲(アンテナ16から発生された磁界が紙面上にて縦方向に及ぶ範囲)が、被介護者34の導体の厚み(L3)よりも長く設定されている。この様にすることで、アンテナ16をスプリングベッド42から離間して配置しても、被介護者34が装着したおむつ10に内蔵されたタグ12とアンテナ16とが通信可能となる。
【0050】
図3(C)を参照して、アンテナ16の更に具体的な構成を説明する。アンテナ16は、枠状に配置された細長の導電箔(例えば銅箔)から構成されている。ここで、被介護者34に対して横方向のアンテナ16の長さをL1、被介護者34に対して縦方向のアンテナ16の長さをL2とした場合、L1の長さは例えば25cm以上35cm以下(一例として30cm)であり、L2の長さは例えば50cm以上60cm以下(一例として55cm)であった。
【0051】
アンテナ16の横方向の幅L1を25cm以上35cm以下とすることにより、幅L1が、一般的な被介護者34の胴体の幅よりも短くなる。このことから、図3(B)を参照して、アンテナ16が内蔵された敷布40を被介護者34に掛けると、被介護者34の胴体の上方にアンテナ16が配置されることとなる。従って、被介護者34の胴体により、アンテナ16をスプリングベッド42から所定以上離間させることが可能となり、上記したスプリング44から発生する反磁界による不具合が回避される。
【0052】
ここで、リーダ14とアンテナ16とは、接続線46および接続線48を経由して電気的に接続される。また、接続線46がアンテナ16と接続される箇所と、接続線48がアンテナ16と接続される箇所とは、左右対称となるように配置されている。
【0053】
本形態によれば、横臥する使用者に掛けられる敷布に、RFIDタグと通信するアンテナを組み込んだので、RFIDタグとアンテナとの距離が適正なものとなり、両者の通信を良好に行うことが可能となる。
【0054】
更に、使用者が排出した尿によりおむつを交換する場合でも、おむつと共に廃棄されるのは比較的安価なRFIDタグのみである。一方、アンテナはおむつと共に破棄されることはなく、敷布として長期間連続して使用できるので検出装置を導入することによるコスト増加が抑制される。
【0055】
更にまた、使用者がスプリングベッドに横臥した状態の場合、アンテナとスプリングベッドとが接近しすぎると、スプリングベッドに内蔵されたスプリングから発生する反磁界により、アンテナとRFIDタグとが通信不能となる。本発明では、敷布にアンテナを配置させることで、使用者の胴体によりアンテナとスプリングベッドとが離間するので、スプリングベッドから発生する反磁界により通信が阻害されることが無い。
【0056】
図4のフローチャートに基づいて、上記した尿検出装置11により尿を検出する方法を説明する。
【0057】
先ず、システムを起動させ(ステップS11)、尿を検出する為のループを開始する(ステップS12)。ここでは、Timerを1秒間と設定し、この間隔にてリーダ14によるタグ12の読み取りを行う。更に、PC(パーソナルコンピュータ)にてリーダ14を操作する場合は、リーダ14に付属のUSBポートをRS232Cポートとして認識させるドライバーをPCにインストールしておく。
【0058】
次に、リーダ14の通信範囲にタグ12が存在するか否かを判断する(ステップS13)。換言すると、リーダ14とタグ12とが通信可能か否かを判断する。タグ12が存在したらステップS14に移行し、存在しなければ(通信不可であれば)ステップS18に移行する。
【0059】
ステップS14では、タグ12のICチップ24からデータを読み出してプログラムに記憶する。タグ12のICチップ24には、被介護者の名称などを示す個別データが書き込まれており、このデータが読み出される。
【0060】
ステップS15では、先ステップにより読み出されたデータと、既に読み出されてメモリに記憶されているデータとを比較し、同一であるか否かを判断する。データが同一である場合は、同じタグと交信しているものと判断し(ステップS15のYES)、変数Countを0とする。そして、ステップS17を経由してステップS12に戻る。
【0061】
一方、読み出したデータとメモリの内部のデータが一致しなければ、ステップS18に移行する(ステップS15のNO)。
【0062】
ステップS18では、メモリの内部にデータが有るか否かを確認し、データが有れば(ステップS18のYES)、変数Countを1つ増加させる(ステップS19)。一方、メモリの内部にデータが無ければ(ステップS18のNO)、ステップS22に移行する。
【0063】
ステップS20では、変数Countが10以上か否かを判断し、変数Countが10以上であれば、タグとの交信が10秒間以上途絶えているので、失禁を検知したと判断する(ステップS21)。そして、変数Countが10未満であれば、ステップS22を経由して、ステップS12に戻る。
【0064】
ステップS21では、失禁が検出された時間をコンピュータから読み出し、失禁時刻として記録する。更に、予め指定しておいたIP Adressを振り分けられた端末やパソコンにその情報を知らせる。そして、必要に応じて失禁を介護者に報知する。これらのデータを長期間に渡り取得することで、被介護者が失禁しやすい時間帯が統計的に解るようになり、個々の被介護者のおむつ交換やバイタルサインが取得でき、被介護者のそれぞれに併せた適切な介護が可能となる。
【0065】
更に、本実施の形態で用いられるタグ12は排水シート28を備えた構成と成っているので、検出された尿は素早くタグ12から離間する。従って、タグ12に尿が付着することにより、タグ12とリーダ14との交信が一定時間途絶えても、タグ12に付着した尿はキレよく排水されておむつ10に吸収され、タグ12とリーダ14との交信は回復する。タグ12に付着した尿が良好に排水されなければ、1つのタグ12により1回の失禁は検出可能ではあるが、タグ12とリーダ14との通信が回復されないので、複数回の失禁を検出することはできない。一方、本実施形態では、RFIDタグ13の下面に貼着された排水シート28により尿がキレよくタグ12の外部に排水されるので、タグ12とリーダ14との交信は回復されて複数回の失禁を検出することが可能となる。
【0066】
以上が尿の有無を検出する方法の説明であるが、上記した検出方法は尿量を検出するために使用することも可能である。この場合は、上記したステップS20の後に、通信が復帰するまでの時間を計測し、計測された時間から尿量を算出するステップが必要とされる。尿量を特定する具体的な方法に関しては、後述の第2の実施の形態にて説明する。
【0067】
<第2の実施の形態>
本形態では、図5〜図10を参照して、図1(B)に示すタグ12に備えられる排水シート28の形状に関して説明する。
【0068】
先ず図5を参照して、図1(B)に示す排水シート28の形状を最適化するために考慮すべき表面張力に関して説明する。図5(A)は毛管現象を説明する図であり、図5(B)は表面張力の強さに関係するパラメーターを示すための図である。
【0069】
図5(A)を参照して、毛細管現象などに知られるように、径の小さいストロー状のガラス管を水に差し込むと管内の水面は重力より強い力で吸い上げられる。上昇している高さをhとし、管内の直径を2πとする。管の中の液面は中央が凹んだ曲面になる。この現象はメニスカスと呼ばれ、毛管と液体間に発生する表面張力により液面が持ち上がっている。
【0070】
液体のメニスカス周囲の管の接触したところで考えると、力の垂直上向きの成分は、単位長さ当たりγcosθで、管と接触している長さ2πrの円周全体で考えると、その合力は2πrγcosθである。γcosθが毛管と液体の表面張力となる。γは水の場合20℃で72.75dyn/cmである。
【0071】
図5(B)を参照して接触角θを説明する。接触角θは温度T、液滴の表面張力γ、固体の表面張力γ、液体と固体との界面張力γSLによって変わってくる。点Cに作用する力が釣り合っているとすると、
γSL−γ+γcosθ=0
が成り立つ。この式をヤングの方程式と呼び、γs>γ+γであると接触角θは存在せず、液体は固体表面を自然に広がっていき、完全に濡らす。つまり、図5(A)で釣りあげられている液体の質量は、液体の密度をρとすれば、πρhrになる。これに作用する重力と表面張力で上向きに釣り上げている力が釣り合っていることから、
式1:2πrγcosθ=πρhr
が得られる。このように液体は固体に囲まれることにより、より多くの表面張力を発生する。言い換えれば、そこに留まろうとする力が発生しているということになる。式1を用いて液体にかかる重力と表面張力とを比較し、排水シートの好適な形状を求める。
【0072】
式1で左辺の項は表面張力による力である。図5(B)に示すように、この力は液体が固体表面と触れる接触線の長さと接触角θによって力が変化する。それに対し、右辺の項は液体にかかる重力により発生する力であり、液体の体積が減少するにつれて、この力は減少する。
【0073】
図6に、タグを構成するRFIDタグ13および排水シート28の断面を示す。ここでは、簡単のために突起部31の形状を柱状としている。丸で囲まれるA乃至Dは、表面張力の影響により尿が残留して、RFIDタグ13の交信回復を困難にする可能性のある場所である。領域Aは突起部31とRFIDタグ13とが接触する箇所である。領域Bは突起部31同士の間の空間である。領域Cは基材30の上面とRFIDタグ13との間の空間である。領域Dは基材30を貫通する貫通孔32の内部空間である。領域EはRFIDタグ13の裏面である。これらの箇所にて、表面張力により尿が残留する恐れがあり、多量の尿が残留すると、タグとリーダとの通信が回復しない恐れがある。従って、排水シート28は、表面張力を低減させて尿が残留しがたい形状である必要がある。
【0074】
図7を参照して、上記した領域Aの最適な形状を検討する。図7(A)および図7(B)は円柱状の突起部31を示す図であり、図7(C)および図7(D)は円錐状の突起部31を示す図である。
【0075】
図7(A)を参照して、突起部31の上面はRFIDタグ13の下面に当接しておらず、両者の間には空隙が存在している。従って、RFIDタグ13の裏面と、突起部31の上面との間の空隙に尿が残留してしまう恐れがある。また、RFIDタグ13の裏面と突起部31の上面との間が短くなると、尿素の体積は減少するが、RFIDタグ13の裏面に尿が塗れる面積は変化しない。
【0076】
また、図7(B)に示すように、突起部31の上面をRFIDタグ13の下面に密着させると、両者の間に尿が進入することが防止される。しかしながら、突起部31の上端周辺部がRFIDタグ13の裏面に接触する接触線に沿って尿が残留する。この場合、残留する尿の量は、接触線の長さに比例する。
【0077】
従って、図7(A)および図7(B)に示した場合では、表面張力の力が重力よりも大きくなるところで、尿がその場所にとどまり続ける。このようになると、残留した尿によりRFIDタグ13の交信が阻害される恐れがある。
【0078】
この問題を解決するためには、尿が固体に触れる面積を小さくすることが有効である。つまり、円柱形状の突起部31の半径を小さくすることで、残留する尿の量を少なくすることができる。しかしながら、突起部31の形が極めて細くなると、紙面上にて上下方向の応力が加わると突起部31が容易に変形してしまい、基材30とRFIDタグ13との間の空間を確保できなくなる恐れがある。また、極めて細い柱状の突起部31を多数設けると、突起部31の変形は防止されるが、細い柱状の突起部31を形成することは技術的に困難である。
【0079】
そこで、本実施の形態では、突起部31の形状としては、先端部が鋭利に形成される円錐形状または角錐形状が好ましい。
【0080】
図7(C)を参照すると、円錐形状の突起部31とRFIDタグ13の裏面とは接触せずに、両者の間には間隙が存在する。しかしながら、突起部31の先端部の面積が小さいので、残留する尿の量が少なくなる。
【0081】
図7(D)を参照して、突起部31の先端部がRFIDタグ13の裏面に接触した場合を考えると、突起部31の接触線が極めて短くなるので、この場合でも残留する尿の量が少なくなる。
【0082】
更に、突起部31の形状を円錐形状または角錐形状とすることで、先端の角度を変えるのみで突起部31の太さを太くして機械的強度を高めることができる。
【0083】
図8を参照して、次に、図6に示した領域Bに関して説明する。図8は突起部31同士の間に位置する尿に作用する表面張力を説明するための図である。この図を参照して、直方体の突起部31同士の間に尿が存在するとし、高さzまで尿が持ち上がっており、突起部31同士が離間する距離がxであり、突起部31の幅がyであるとする。そうすると、表面張力は、RFIDタグ13と尿との接触線2xと、尿と突起部31との接触線2yによるものがあり、合計として(2x+2y)γcosθとなる。一方、尿の体積はxyzであり、尿に作用している重力と表面張力で上向きにつり上げている力は釣り合っているので、
式2:(2x+2y)γcosθ=xyzρgの式が成立する。
【0084】
また、式2を参照すると、高さzの値は右辺の項のみに係っており、左辺の値はzに関係がない。このことは、突起部31の高さzが低くなると、突起部31の間に位置する尿が流れず残留する可能性を示唆している。
【0085】
更に、突起部31間の距離xが短くなると、式2の左辺は2xγcosθ+2yγcosθであるため、第2項である2yγcosθは変化無く垂直上向きの成分であり続けるのに対し、右辺はxの減少と比例して減少する。このため、突起部31間の距離xが極端に短くなると、この箇所に尿が残留する恐れがある。本実施の形態では、突起部31同士が離間する距離xを、一例として4.66mmとしている。
【0086】
図9を参照して、次に、図6に示した領域Dに関して説明する。この図を参照して、貫通孔32の上方に位置する尿に作用する表面張力は重力の向きと逆方向である。そして、この尿に作用する重力は、貫通孔32の上方に位置する尿の体積によって変化し、この体積はπρzrであり、表面張力は2πrγcosθである。
【0087】
従って、2πrγcosθ=πρzrの時に貫通孔32の上方に位置する尿はそこに留まり、貫通孔32から尿が外部に放出されないこととなる。このことにより、貫通孔32から尿が放出されるようにするためには、2πrγcosθ<πρzrとなるように、貫通孔32の半径rと突起部31の高さzを設定する必要がある。例えば、本実施形態では、一例として、貫通孔32の半径rを0.5mm以上とし、突起部31の高さzを1.66mm以上としている。
【0088】
次に、図6に示された領域Eに関しては、RFIDタグ13の下面に撥水加工を施すことにより、この箇所に付着して留まる尿の量を低減させることができる。この撥水加工とは、シリコン樹脂等の撥水性に優れる樹脂膜によりRFIDタグ13の下面を被覆することでよい。
【0089】
図10(A)のグラフを参照して、上記した構成のタグ12を使用して、通信の回復に必要とされる時間を計測した結果を説明する。この実験では、7枚のおむつを2人の健常な23歳〜24歳成人男性で使用して実験を行った。実験では、尿取りパッドをペニスに巻き付け、1枚のパッドに対してタグが交信停止するまで複数回の失禁を行い、交信が回復するまでの時間を計測した。
【0090】
このグラフの横軸は尿により通信が途絶えたタグの通信の回復に要した時間を示し、縦軸は回復率を示している。グラフに示されているように、失禁によりタグとリーダとの交信が途絶えても、100秒後には80%程度の割合で交信が回復している。そして、130秒後には90%程度の割合で通信が回復している。また、シリコン樹脂で排水シートを成型した場合でも、人工芝生を排水シートとして用いた場合でも、タグの交信を良好に回復させることができた。
【0091】
図10(B)のグラフを参照して、通信の回復に必要とされる時間を説明する。このグラフでは、横軸は交信回復の回数を示し、縦軸は交信回復に必要とされる時間を1回目との比率で示している。ここでは、複数回(6回)の実験を行った。このグラフから明らかなように、回復回数が増えるごとに回復時間が増加する傾向がある。
【0092】
また、実験によると、尿により通信が途絶えたタグが通信を回復させる回数の平均は2.9回程度であり、最高では4回の交信の回復が行われている。従って、本実施形態のタグによれば、複数の失禁を確実に検出することが可能となる。
【0093】
<第3の実施の形態>
本形態では、図11から図20を参照して、上記した構造の尿検出装置を用いて尿量を測定する方法を説明する。
【0094】
本形態では、上記した第1の実施の形態で使用された尿検出装置11(図1参照)を用いて、使用者がおむつに排出した尿量を測定する事項を説明する。具体的には、図1(B)を参照して、おむつに内蔵されるタグ12は、タグに接触した尿を排出させる排水シート28を備えているので、尿によりRFIDタグ13とアンテナとの更新が途絶えても、一定時間経過すると交信が復帰する。また、この復帰に要する時間は使用者がおむつに排出した尿と相関関係があると予測される。このことから、本形態では、リーダ(アンテナ)とRFタグ12の交信が途絶えた状態から復帰するまでの時間を測定することにより、排尿量の検出を行う。
【0095】
先ず、図11(A)を参照して、使用者が排出する尿と排水シートとの関係を数式により説明する。ベルヌーイの定理より、排水時間Tは、RFタグ13の面積A、RFタグ13と排水シート28の高さH、貫通孔の個数n、一つの貫通孔の流量Qとしたとき、式3で求めることができる。ここでTとは、RFIDタグ13の交信が途絶えてから復帰するまでに必要とされる時間である。
式3:T=(A×H)/(n×Q)
ここで、水の量L=A×Hとすると、
式4:L=(n×Q)×T
となる。また、Qは、水の流水係数c、貫通孔の面積a、重量加速度gとすると、
式5:Q=ca(2gH)1/2
と表せる。
【0096】
これらの式より、排水シート28の最適な形状の設計は行われている。排水シート28は、板状体の基材30と、基材30の上面から円錐状に突出する突起部31と、基材30を貫通して設けた貫通孔32とからとから構成されている。また、排水シート28の材料としてはシリコーン樹脂等の樹脂材料が採用される。なお、排水シート28の好適な形状に関しては、後述する第3の実施の形態にて説明する。
【0097】
図11の各図を参照して、RFIDタグ13を用いて尿量を測定する原理を説明する。
【0098】
図11(A)に示すように、RFIDタグ13と排水シート28とから成るタグ12は、おむつ10の内部に貼着されている。そして、タグ12に尿が付着していない初期の段階では、RFIDタグ13は、おむつ10の外部に配置されたアンテナと通信可能な状態とされている。
【0099】
図11(B)を参照して、次に、使用者から尿52が排出されると、RFIDタグ13と排水シート28との間に尿52が介在することとなる。この様になると、尿52に含まれる塩分により、RFIDタグ13とアンテナ(リーダ)との交信が一時的に途絶える。
【0100】
図11(C)を参照して、RFIDタグ13と排水シート28との間に位置する尿52は、排水シート28に設けられた貫通孔32を経由して、おむつ10に移動して吸収される。この様になると、尿52がRFIDタグ13に与える影響が小さくなるので、RFIDタグ13とアンテナとの交信が再開される。
【0101】
本形態では、上記したように、交信が停止してから復帰するまでの時間を計測して、この復帰に必要とされる時間から、使用者が排出した尿量を推定する。
【0102】
上記したタグ12を用いて、食塩水を使用した原理確認実験を行った。実験に使用した食塩水は尿と同様の塩分濃度、約0.6%とする。人の排尿量は50cc〜300ccである。そこで、50cc〜300ccの食塩水を滴下して再交信時間を測定する。実験方法として滴下する食塩水を50ccずつ加えていき、その排水時間を測定していく。同様に100ccずつ、150ccずつ、200ccずつ、250ccずつ、300ccずつ加えた。また、おむつ有りの場合と無い場合での排水機構の再交信時間を測定した。
【0103】
図12(A)に排尿量測定システムを用いた再交信時間の測定結果を示す。横軸に再交信時間(尿により交信が途絶えてから回復するまでの時間)、縦軸に累積される食塩水の量をとる。50mlの場合、一枚のおむつに食塩水を累積させ、各水溶液を一定量ずつ加えていくと、水溶液量が増加するとともに排水時間が長くなっていることが確認できる。単位時間当たりの排水量は一定であるため、食塩水を一定量ずつ加えていくと、おむつの吸収力が低下し、再交信時間が遅くなると考えられる。
【0104】
上記したように流量は、ca(2gH)1/2である。すなわち、液体はHだけの高さを自由に落下した場合と同じ速度で流出することが導出できる。
【0105】
しかし、市販のおむつは液体を瞬間的に吸収するものではなく、完全に吸収が完了するまでに数秒かかる。そのため排水機構をおむつに内蔵した場合、自由落下と同等の速度で排水機構を通過したと仮定しても液体がおむつに吸収されるまでにタイムラグが発生すると考えられる。そこでRFIDタグ13と排水シート28を組み合わせたもの(A)と、RFIDタグ13と排水シート28をおむつに内蔵したもの(B)の2種類のパターンで排水時間の測定を行った。
【0106】
図12(B)に測定結果を示す。(A)の測定結果は黒三角、(B)の測定結果は黒四角でプロットしたものである。(A)の測定値は理論値に近似している。一方で、排水機構をおむつに内蔵した場合は自由落下と同等の速度は得られなかった。即ち、タグ12はそのままの状態の時よりも、おむつに内蔵されたときの方が、交信が復帰するために必要とされる時間が長くなることが明らかとなった。
【0107】
次に、原理確認実験とは別に被験者による実験を行った。寝たきりの高齢者を対象としているため、体勢を仰臥位状態で実験を行う必要がある。実際の老人介護施設では、尿とりパッドをペニスに巻きつけ、その上からおむつを装着しているため、同じ方法で実験を行った。排尿後に、おむつが尿を吸収した量を実測値とし、被験者は22〜24歳の一般的な成人男性4人で実験を行った。実験結果を図13に示す。
【0108】
次に、おむつの吸収率と排水速度の関係に関して説明する。排水シートとRFIDタグをおむつに内蔵した場合の排水速度は、おむつの吸収による影響を考えなければならない。理論値と測定値の傾きは以下の式で求められる。
式6:k=(実測値の排水速度)/(理論値の排水速度)
=8.056/25.86
=0.31
この傾きkをおむつ吸収係数とする。このkからおむつの排水量と排水時間の関係を求めることができる。
【0109】
尿量測定システムの再交信時間の計算値は、Tをおむつ吸収による時間、Tを理論値とすると、
式7:T=kT
である。
【0110】
次に、被験者4名の協力を求め、尿量測定システムを用いて排尿量と再交信までの時間を計測した。計測結果を図14の各図の表にまとめ、図15〜図16にグラフにまとめた。
【0111】
測定結果のグラフより、計算値と実測値に似た傾向がみられることがわかる。誤差の原因は電波の交信状況やおむつにかかる圧力も影響していると考えられる。おむつにかかる圧力と排水速度の関係は後述する。
【0112】
次に、圧力による時間と排水速度の関係に関して説明する。排水シート内蔵のおむつに圧力を加えた場合に、排水速度にどのように影響を及ぼすのか実験を行った。おむつに加える力を0g重、100g重、200g重、300g重、400g重、500g重と変化させ、排水時間を測定した。滴下した液体量は100ml、200ml、300ml、圧力を加える面積は排水機構サイズ80mm×50mmである。
【0113】
測定結果を図17〜図20のグラフにまとめた。ここで、図17はおむつに加える加重が0gの場合であり、図18(A)は加重が100gの場合であり、図18(B)は加重が200gの場合であり、図19(A)は加重が300gの場合であり、図19(B)は加重が400gの場合であり、図20(A)は加重が500gの場合であり、図20(B)は圧力と排水時間の傾きの関係を示すグラフである。
【0114】
これらのグラフより、力を加えていくと排水時間は長くなり、排水時間と排水量の傾きは緩やかになることがわかる。測定結果より、圧力を変数xとすれば次の理論式から傾きを求めることができる。
式8:a=e−0.02X
この式8で求めたaの値を式4の理論式に当てはめると、
式9:L=a×(n×Q)×T
となり排水量を求めることができる。
【0115】
次に、排尿量測定の評価に関して説明する。上記にて排尿量を測定する実験を行ったが、排尿量の理論値は上記した式4である。
【0116】
ここで、おむつによる吸収の影響より排水時間は延びるため、吸収係数kとすると、
式10:L=k×(n×Q)×T
となる。また上記の考察より圧力により排水時間は大きくなり、傾きは緩やかになっていくため、圧力を変数とすると式8を考慮する必要があるので、
式11:L=a×k×(n×Q)×T
となり、これがおむつ吸収剤の吸収とRFタグにかかる圧力を考慮した理論式を新しく導出した。これより、排尿量は上記式11で求めることができ、おむつ内の排尿量をより正確に測定することができる。
【符号の説明】
【0117】
10 おむつ
11 尿検出装置
12 タグ
13 RFIDタグ
14 リーダ
15 基板
16 アンテナ
18 通信制御部
20 演算部
22 アンテナ
24 ICチップ
26 開口部
28 排水シート
30 基材
32 貫通孔
34 被介護者
36 コンピュータ
38 介護者
40 敷布
42 スプリングベッド
44 スプリング
46 接続線
48 接続線
52 尿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッシブ型のRFIDタグと、
前記RFIDタグに重畳されて配置されると共に、前記RFIDタグに接触した前記液体が排出される空間を確保する排水シートと、
前記おむつの外部に配置されたリーダアンテナと、を備え、
前記排水シートは、前記RFIDタグに面する第1主面と前記第1主面に対向する第2主面とを有する板状の基材と、前記基材の前記第1主面から厚み方向に突出して先端部が前記RFIDタグの主面に接触する複数の突起部と、前記基材を貫通する複数の貫通孔とを有し、前記排水シートにおいて前記液体が通過する時の前記リーダアンテナと前記RFIDタグとの通信が途絶えてから再開するまでの時間から、前記液体の量を算出することを特徴とする液体検出タグ。
【請求項2】
前記突起部は、角錐形または円錐形の形状であることを特徴とする請求項1記載の液体検出タグ。
【請求項3】
前記排水シートは、一体成形された樹脂材料から成ることを特徴とする請求項2記載の液体検出タグ。
【請求項4】
前記排水シートの前記第2主面に、貼着可能な接着力を有する接着層を備えたことを特徴とする請求項3記載の液体検出タグ。
【請求項5】
前記RFIDタグに、前記液体が通過する開口部を設けることを特徴とする請求項4記載の液体検出タグ。
【請求項6】
前記RFIDタグの両主面は樹脂膜により被覆されることを特徴とする請求項5記載の液体検出タグ。
【請求項7】
重畳された前記RFIDタグと前記排水シートとは、使用者が装着したおむつの内部に配置され、
前記おむつの外部に配置されたリーダアンテナと前記RFIDタグとの通信状況から、前記使用者が排泄した尿を検出することを特徴とする請求項6記載の液体検出タグ。
【請求項8】
前記RFIDと前記リーダアンテナとの通信状況の変化を基に、前記おむつの内部における尿の存在の有無を判断することを特徴とする請求項7記載の液体検出タグ。
【請求項9】
前記RFIDと前記リーダアンテナとの通信が途絶えてから復帰するまでの時間を基に、前記使用者が排泄した尿の量を算出することを特徴とする請求項8記載の液体検出タグ。
【請求項10】
液体検出タグと、
前記液体検出タグに駆動エネルギーを与えると共に前記液体検出タグと信号を授受するリーダアンテナと、を備え、
前記液体検出タグは、
パッシブ型のRFIDタグと、
前記RFIDタグの主面に重畳されて配置されると共に、前記RFIDタグに接触した前記液体が排出される空間を確保する排水シートと、を備え、
前記排水シートは、前記RFIDタグに面する第1主面と前記第1主面に対向する第2主面とを有する板状の基材と、前記基材の前記第1主面から厚み方向に突出して先端部が前記RFIDタグの主面に接触する複数の突起部と、前記基材を貫通する複数の貫通孔とを有し、前記排水シートにおいて前記液体が通過する時の前記リーダアンテナと前記RFIDタグとの通信が途絶えてから再開するまでの時間から、前記液体の量を算出することを特徴とする液体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−67619(P2011−67619A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192720(P2010−192720)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(308038428)V・TEC株式会社 (5)
【Fターム(参考)】