説明

液体注入治具

【課題】作業効率の向上が図れるうえ、確実な注入を行うことができる。
【解決手段】 薬液及びエアが供給されるとともに、ガン本体11と、ガン本体11の先端に設けられるとともに先端部に噴射ノズル13が装着された先端筒部12と、先端筒部12に設けられる角度規制部材20とを備え、角度規制部材20の傾斜板22の面方向が噴射ノズル13の噴射軸X方向に対して所定の傾斜角度で設けられた構成とすることで、吹付け材の表面から圧力をかけて酸性液を噴射させるようにした薬液注入ガン1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば基材の表面に付着している吹付け材等を薬液注入により薬液反応させて除去する際に用いられる液体注入治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウールなどのアスベスト含有材の除去方法として、ケレン棒等の工具による粗落し後、例えばブラシ等を用いてセメント成分を主体とした残留付着物を削ぎ落として磨き上げる作業が行われている。
また、吹付け材に対して、酸性液を用いることにより作業効率を高めた除去方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。このような吹付け材の除去工事の際の薬液散布は、エアレススプレイヤーを用いて行っているのが一般的であり、吹付け面の表面に散布した薬液は浸透湿潤することで吹付け材と下地面(コンクリートや鉄骨)との界面まで到達する。そして、この薬液が界面に到達することによって吹付け材の付着力が脆弱化されて下地面に対して剥離させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−199832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように吹付け材の表面から薬液を散布する場合、アスベスト吹き付け層全体を脆弱化させる必要があることから、除去作業に要する薬液量が多くなり、コストがかかっていた。そのため、小さな孔を吹き付け面に穿孔して薬液を注入するか、針状を呈した注入用具で吹き付け層に突き刺して注入することとなる。このときの注入角が吹付け面に対して垂直となる角度にすると、先行して開けた孔より注入した薬液が逆流し、十分な浸透が行えないうえ、注入する薬剤に無駄が多く生じ、また斜め方向から注入する場合には、その角度が一定にならず、安定した注入が行えないという問題があり、その点で改良の余地があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、作業効率の向上が図れるうえ、確実な注入を行うことができる液体注入治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る液体注入治具では、吹付け材の表面から圧力をかけて薬液を噴射させるための液体注入治具であって、薬液及びエアが供給されるとともに、先端部に噴射ノズルが装着された治具本体と、治具本体に設けられる角度規制板と、を備え、角度規制板は、その面方向が噴射ノズルの噴射軸方向に対して所定の傾斜角度で設けられていることを特徴としている。
【0007】
本発明では、角度規制板の面を吹付け材の表面に対して当接させた状態で加圧された液体を噴射ノズルより噴射させることで、その液体を吹付け材の内部に注入して浸透させることができる。このとき、噴射ノズルから噴射される液体の吹付け材の表面に対する入射角度を表面に対して所定の傾斜角度とすることができ、吹付け材の内部への注入方向も表面に対して斜めの方向となる。そのため、注入時に開いた注入孔より液体が逆流するのを抑制することができ、より確実で効率の良い浸透が行える。
しかも、角度規制板を吹付け材の表面に当接させるだけで、その表面に対する治具本体(噴射ノズル)の姿勢(傾斜角度)を一定にすることができる。そのため、噴射ノズルの噴射角度に再現性をもたせることが可能となり、人による噴射角度のばらつきを抑えることができ、常に同じ姿勢を保ち、吹付け材に対して安定した注入を行うことができる。
【0008】
とくに、吹付け材が基材の表面に吹き付けられているアスベスト含有材である場合には、液体に酸性液などの薬液を使用し、液体注入治具により高圧で噴射した薬液を基材と吹付け材との境界面に注入することで、境界面に沿って薬液が浸透することになり、スベスト含有材の基材側の付着部分におけるセメント分と有機物とが酸により化学反応で分解して溶解し、これによりアスベスト含有材を基材に対して剥離させて自然に落下させることができる。
【0009】
また、吹付け材の表面から高圧で液体を噴射する方法となるので、従来のように予め穿孔してから注入する方法に比べて、その穿孔工程が不要となるので、作業効率の向上を図ることができる。
しかも、本発明の液体注入治具では、針状のノズルを吹付け材に突き刺して噴射する場合に比較して、施工の手間がかからず、且つ噴射角度の精度が高くなるうえ、吹付け材に突き刺す際に生じるノズル先端の目詰まりを防止することができる利点がある。
【0010】
また、本発明に係る液体注入治具では、角度規制板の傾斜角度は、治具本体に装着した状態で任意に変更可能であることが好ましい。
本発明では、吹付け材の材質、厚さ寸法、施工領域の位置等の施工条件に対応させて角度規制板を任意の傾斜角度に変更し、吹付け材の表面に対する噴射ノズルの向きを調整して噴射することができる。しかも、治具本体に装着したままで角度変更が可能となるため、治具本体に対する着脱作業が不要であり、適用する表面の形状変化に対しても素早く角度規制板の角度を変えて対応することができる。
【0011】
また、本発明に係る液体注入治具では、角度規制板は、噴射ノズルに対して噴射軸方向に相対移動可能に設けられていることがより好ましい。
本発明では、角度規制板と噴射ノズルとの噴射軸方向の距離を変更することができるので、例えば噴射ノズルの先端を角度規制板よりも突出させる位置に設定することにより、吹付け材の表面に凹凸面や不整形面等に対応させることができる。
【0012】
また、本発明に係る液体注入治具では、角度規制板は、治具本体に対して着脱可能に設けられていることが好ましい。
この場合、治具本体に対して形状の異なる角度規制板に交換することが可能となるので、施工対象となる吹付け材の表面形状や、施工が隅角部となる場合に、それらの部分に合わせた形状の角度規制板を取り付けて施工することができる。
また、施工時に角度規制板が破損や汚損しても、新しい角度規制板に交換することで対応することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液体注入治具によれば、角度規制板を吹付け材の表面に当接させて噴射ノズルから液体を噴射することで、注入角度が斜めとなり、注入した液体の逆流を抑制できるので、注入する液体の無駄がなくなり、低コストで確実な注入を行うことができる。また、噴射角度が常に一定角度となることから、作業効率の向上が図れる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態による薬液注入ガンを用いた吹付け材の除去方法の概要を示す模式図である。
【図2】図1に示す吹付け材を表面側から見た図である。
【図3】薬液注入ガンの構成を示す側面図である。
【図4】角度規制部材の構成を示す縦断面図である。
【図5】図4に示す傾斜板を表面側から見た図である。
【図6】吹付け材に対する薬液注入ガンの使用状態を示す縦断面図である。
【図7】第2の実施の形態による薬液注入ガンの角度調整部材の構成を示す側面図である。
【図8】図7に示す角度調整部材の上面図である。
【図9】図8に示す傾斜板を表面側から見た図である。
【図10】図7に示す傾斜板を15度傾斜させた状態を示す側面図である。
【図11】(a)、図は、図7に示す傾斜板を15度傾斜させた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態による液体注入治具について、図面に基づいて説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本第1の実施の形態による薬液注入ガン1(液体注入治具)は、加圧噴射式で手持ち可能なガン方式の治具であり、例えば建物などの鉄筋コンクリート造のスラブやこのスラブを下方より支持するH型鋼材等の基材2の表面2aに被覆されたアスベスト含有材からなる吹付け材3を除去する施工に使用されるものである。
ここで、基材2に被覆される吹付け材3は、吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウール等が挙げられ、本実施の形態では吹付け厚が25〜60mm程度とされる。また、吹付け材3は、図2に示すように、薬液注入ガン1による施工開始前において、基材2の表面2a(吹付け材3との境界面T)に到達する縦横に延びるメッシュ状の切れ目3Aが設けられている。
【0017】
具体的に本実施の形態による薬液注入ガン1では、切れ目3Aを有する吹付け材3の表面3aから高圧の酸性液(液体)を注入しつつ、さらに前記境界面T全体にわたって浸透させ、吹付け材3の境界面T部分を酸性液に反応させて溶解させることで、吹付け材3を基材2から剥離させつつ自然に落下させて取り除く施工に適用される。
【0018】
図1に示す薬液注入ガン1は、酸性液供給機構4によって加圧された酸性液が供給されて、ガン先端の噴射ノズル13から噴射されるようになっている。この酸性液供給機構4は、酸性液を溜める薬品槽41と、この薬品槽41と薬液注入ガン1とを連結する液送管42と、液送管42の中間に設けられた圧送ポンプ43と、エアホースによって所定圧力に設定されたエアを薬液注入ガン1に供給するためのエアポンプ44とを備えている。
そして、この酸性液供給機構4は、図示しない制御部によって噴射圧力や噴射量、噴射時間などが適宜制御されている。
【0019】
薬品槽41中の酸性液は、圧送ポンプ43によって加圧されて薬液注入ガン1に送り込まれ、エアと混合された設定噴射圧力で噴射ノズル13より噴射される。このときの噴射圧力は、噴射により吹付け材3の表面3aから内部に圧力浸透させ得る圧力であり、例えば1〜180MPaの範囲で設定される。
【0020】
図3に示すように、薬液注入ガン1は、エアが供給される筒状のガン本体11と、ガン本体11の軸方向先端側に同軸線上に設けられる先端筒部12と、先端筒部12の先端に設けられた噴射ノズル13と、ガン本体11の後端側に設けられる注入操作部14と、先端筒部12に対して着脱可能に設けられるとともに酸性液の噴射角度を所定角度に設定するための角度規制部材20とを備えて概略構成されている。
また、薬液注入ガン1には、先端筒部12の後端に薬液供給バルブ15が設けられ、この薬液供給バルブ15とガン本体11との間には噴射開閉バルブ16が介装されている。
【0021】
ここで、ガン本体11、先端筒部12、および噴射ノズル13は、それぞれ中心軸線が共通軸上に位置された状態で配置されている。本実施の形態ではこの共通軸を噴射軸Xといい、上記薬液注入ガン1において、噴射軸Xに沿った噴射ノズル13側を先端側、前方側といい、ガン本体11側を後方側という。また、噴射軸Xに対して直交する面方向を0度とし、面の上方が前方に突出する方向(図3で時計回りの回転方向)に回転する方向を傾斜方向Fといい、前記面方向が0度から傾斜方向Fに回転した角度を傾斜角度θという。さらに、図3において、紙面手前から奥側へ向かう方向を左右方向という。
【0022】
ガン本体11は、内部に噴射軸X方向に延びる第1流路11aを有し、その後端部11bにエアポンプ44(図1参照)によって送られたエアが供給されるようになっている。
【0023】
先端筒部12は、内部に噴射軸X方向に延びると共に噴射ノズル13に連通する第2流路12aが設けられており、この第2流路12aには薬液供給バルブ15が設けられている。この薬液供給バルブ15は、図1に示す酸性液供給機構4から第2流路12aへ供給される酸性液の供給量が上述した制御部により制御されている。
また、先端筒部12の外周には、雄ねじ12bが形成され、この雄ねじ12bに後述する角度規制部材20の第1係合筒部21の雄ねじ21aが螺合するようになっている。
【0024】
噴射ノズル13の径寸法は、吹付け材3の硬さ等の物性に応じて例えば直径で0.1〜2.0mmの範囲で選択が可能である。なお、一般的な湿式吹き付けアスベスト材では、直径で略0.5mmのノズル径とするのが好ましい。
【0025】
注入操作部14は、ガン本体11に外嵌されるグリップ式の把持部14aと、把持部14aに設けられるスイッチ14bとからなる。このスイッチ14bを操作することで、薬液供給バルブ15と噴射開閉バルブ16が適宜開閉されて酸性液の噴出をオンオフさせることができる。
【0026】
噴射開閉バルブ16は、前記制御部により開閉時間を制御することで酸性液の注入量を一定に保つことが可能であり、注入操作部14のスイッチ14bをオンにして噴射を開始しても予め設定されている時間或いは流量に達したときに噴射が停止されるようになっている。なお、噴射開閉バルブ16には、エア式や電磁式などが採用されが、本実施の形態のように吹付け材3を使用する吹き付けアスベスト除去エリア等で良好でない環境下にあっては、機械的なエア式が好ましい。
【0027】
図4に示すように、角度規制部材20は、先端筒部12の外周に係合する筒状の第1係合筒部21と、この係合状態で第1係合筒部21の前端に所定の傾斜角度θをもって固定された傾斜板22(角度規制板)とからなる。
第1係合筒部21は、その内周面に先端筒部12の雄ねじ12bに螺合可能な雌ねじ21aが設けられており、後側部分に筒壁を貫通するねじ穴21bが形成されている。第1係合筒部21における傾斜板22の先端部21cは、取り付ける傾斜板22の傾斜角度θに一致するように傾斜している。このねじ穴21bは、第1係合筒部21の外周側より固定ねじ23(図3参照)が螺合可能とされている。そのねじ先端23aが先端筒部12の外周面に係止することで、第1係合筒部21が先端筒部12に固定されることになる。
【0028】
傾斜板22は、図5に示すように矩形状の平板部材であり、面方向をその中央に第1係合筒部21の先端部21cの内径寸法と略同径の開口部22cが設けられている。そして、この傾斜版22は、図4に示すように、開口部22cと先端部21cの開口とを合わせた状態で所定の傾斜角度θ(ここでは30度)をもって先端部21cに固定されている。
【0029】
このような角度規制部材20では、第1係合筒部21の雌ねじ21aを先端筒部12の雄ねじ12bに螺合させることで、先端筒部12に角度規制部材20を連結することができる。なお、このときの螺合による噴射軸X方向の停止位置を変えることで、図4及び図6の二点鎖線に示すように噴射ノズル13と傾斜板22との軸方向Xの相対位置を変更することができる。つまり、ねじ込み深さでノズル先端13aを傾斜板22の開口部22cよりも突出させることも可能となるので、吹付け材3の表面3aに凹凸面や不整形面などがあっても対応することができる。
【0030】
次に、上述した薬液注入ガン1を用いて基材2に付着している吹付け材3を除去する方法と、薬液注入ガン1の作用について、図面に基づいて説明する。
図6に示すように、吹付け材3を基材2の表面2aから除去する際には、先ず、傾斜板22の表面22aを切れ目3Aを設けた吹付け材3の表面3aに当接させる。噴射ノズル13の向き(噴射軸X方向)は、傾斜板22の傾斜角度θ分(図4参照)だけ表面3aに対して傾いた状態となる。
【0031】
そして、図1に示すように、注入操作部14のスイッチ14bを操作して酸性液供給機構4の圧送ポンプ43によって送られた酸性液がエアポンプ44で供給されたエアとともに噴射ノズル13より噴射させることで、その酸性液を吹付け材3の内部に注入して浸透させることができる。このとき、噴射ノズル13から噴射される酸性液の吹付け材3の表面3aに対する入射角度を表面3aに対して所定の傾斜角度θとすることができ、吹付け材3の内部への注入方向も表面3aに対して斜めの方向となる。そのため、注入時に開いた注入孔より酸性液が逆流するのを抑制することができ、より確実で効率の良い浸透が行えることになる。
【0032】
また、薬液注入ガン1より噴射される被圧した酸性液は、図示しない制御部により注入時間、注入量等が適宜制御され、連続的或いは断続的に噴射される。
【0033】
ここで、吹付け材3に注入される酸性液として、塩酸等の鉱物酸、酢酸、クエン酸等の有機酸水溶液が挙げられる。この酸性液は、アスベスト含有材からなる吹付け材3に反応させて溶解させる作用を有しており、前記境界面T付近に注入することで基材2に対して剥離を生じさせて分離させるためのものであり、吹付け材3の材質、その吹付け厚さ寸法、基材2の材質などの条件に応じて例えばPH値を1〜4程度に調整して使用される。
【0034】
そして、噴射ノズル13より吹付け材3内に注入されて浸透する酸性液は基盤2の表面2a(境界面T)まで到達し、さらにその境界面Tに沿って周囲に広がることになる。このように酸性液を境界面Tに浸透させることで、吹付け材3の基材2側の付着部分におけるセメント分と有機物とが酸により化学反応で分解して溶解する。これにより切れ目3Aによって区画されたブロック状の吹付け材3を基材2に対して剥離させて自然に落下させることができる。
【0035】
このように構成される角度規制部材20では、傾斜板22を吹付け材3の表面3aに当接させるだけで、その表面3aに対する治具本体(ガン本体11、先端筒部12、噴射ノズル13など)の姿勢(傾斜角度θ)を一定にすることができる。そのため、噴射ノズル13の噴射角度に再現性をもたせることが可能となり、人による噴射角度のばらつきを抑えることができ、常に同じ姿勢を保ち、吹付け材3に対して安定した注入を行うことができる。
【0036】
なお、本実施の形態のように吹付け材3がアスベスト含有材のように飛散防止を要する施工にあっては、薬液注入ガン1によって吹付け材3に対して噴射を行う前に、予め吹付け材3の表面3aを湿潤剤で湿らせておくことで、加圧による噴射時の飛散を防止するようにしてもよい。
【0037】
また、薬液注入ガン1による噴射位置は、吹付け材3の表面3aであれば何れの位置でもかまわないが、施工した切れ目3Aが吹付け材3の表面3aから基材2の表面2a(境界面T)まで連通しているので、この切れ目3A内に向けて噴射ノズル13から酸性液を噴射することでより確実に境界面T全体に浸透させることができる。
【0038】
また、吹付け材3の表面3aから高圧で酸性液を噴射する方法となるので、従来のように予め穿孔してから注入する方法に比べて、その穿孔工程が不要となるので、作業効率の向上を図ることができる。
しかも、薬液注入ガン1では、針状のノズルを吹付け材に突き刺して噴射する場合に比較して、施工の手間がかからず、且つ噴射角度の精度が高くなるうえ、吹付け材3に突き刺す際に生じるノズル先端13aの目詰まりを防止することができる利点がある。
【0039】
さらに、角度規制部材20が先端筒部12に対して着脱可能に設けられており、先端筒部12に対して形状の異なる傾斜板22に交換することが可能となるので、施工対象となる吹付け材3の表面形状や、施工が隅角部となる場合に、それらの部分に合わせた形状の傾斜板22を取り付けて施工することができる。また、施工時に傾斜板22が破損や汚損しても、新しい傾斜板22に交換することで対応することが可能である。
【0040】
上述のように本第1の実施の形態による液体注入治具では、傾斜板22を吹付け材3の表面3aに当接させて噴射ノズル13から酸性液を噴射することで、注入角度が斜めとなり、注入した酸性液の逆流を抑制できるので、注入する酸性液の無駄がなくなり、低コストで確実な注入を行うことができる。また、噴射角度が常に一定角度となることから、作業効率の向上が図れる利点がある。
【0041】
次に、本発明の液体注入治具による他の実施の形態および変形例について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0042】
(第2の実施の形態)
図7及び図8に示すように、第2の実施の形態による薬液注入ガン1A(液体注入治具)は、第1の実施の形態による角度規制部材20(図4参照)に代えて、先端筒部12に連結させた状態で噴射ノズル13に対して角度調整可能な傾斜板33を備えた角度調整部材30を設けた構成となっている。ここで、先端筒部12、噴射ノズル13の構成は、上述した第1の実施の形態と同様であるので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0043】
具体的に角度調整部材30は、先端筒部12の外周に係合する第2係合筒部31と、第2係合筒部31に対して角度変更可能に連結された一対の角度変更ブラケット32、32と、角度変更ブラケット32に対して複数のボルト34、34、…によって固定された傾斜板33(角度規制板)とを備えて概略構成されている。
【0044】
第2係合筒部31は、先端筒部12に外嵌可能な内径寸法の筒状をなし、後側部分に筒壁を貫通するねじ穴31aを有している。このねじ穴31aには、第2係合筒部31の外周側から固定ねじ35によって螺合可能である。第2係合筒部31を先端筒部12に嵌め込んだ状態で、固定ねじ35を締め付けることで、その固定ねじ35の先端35aが先端筒部12の外周面に係止することで、第2係合筒部31が先端筒部12に固定されることになる。
【0045】
角度変更ブラケット32は、互いに一定の離間をあけて傾斜板33の裏面33bに接続され、第2係合筒部31に対して左右両側に左右方向の軸線回りに回転可能に設けられている。すなわち、角度変更ブラケット32は、それぞれ2つの固定ねじ36A、36Bによって第2係合筒部31に固定されている。固定ねじ36A、36Bの固定位置どうしは、互いに一定の間隔をあけて配置されている。そして、角度変更ブラケット32には、後側の第1固定ねじ36Aを挿通するための固定孔32Aと、前側の第2固定ねじ36Bを挿通するための長孔32Bとが設けられている。さらに、図7に示すように傾斜板33の傾斜角度が0度の状態で、噴射軸Xに対して斜め上方45度の位置に前記一対の固定ねじ36A、36Bどうしと同じ間隔を有する一対のねじ孔32C、32Dが設けられている。
長孔32Bは、固定孔32Aを中心とした円弧に沿って延びている。つまり、角度変更ブラケット32は、固定孔32Aを中心として、長孔32Bの範囲内で周方向Fに回転可能となっている。
【0046】
図9に示すように、傾斜板33は、その中央部分に噴射ノズル13用の開口部33cが設けられており、この開口部33cは傾斜板33が角度変更して常に噴射ノズル13が開口内に位置するように縦長の形状となっている。
【0047】
このように構成される本実施の形態の角度調整部材30では、0度から45度までの範囲で傾斜角度θを変更することが可能である。例えば、図10では、傾斜板33を15度に傾斜させた状態を示している。
【0048】
図11(a)、(b)は、それぞれ傾斜板33の傾斜角度θを45度に傾斜させた状態を示している。
図11(a)では、固定孔32Aと長孔32Bとを用いて角度調整ブラケット32を第2係合筒部31に固定させた状態において、傾斜板33の傾斜角度θを45度で傾斜させたときには、傾斜板33の当接面33aと噴射ノズル13の先端13aとの距離Dが大きくなる。つまり、傾斜板33を吹付け材3の表面3aに当接させたときに、その表面3aと噴射ノズル13の先端13aとの距離も大きくなることになる。
【0049】
そのため、図11(b)に示すように、角度変更ブラケット32における第1固定ねじ36Aと第2固定ねじ36Bの固定位置を、ねじ孔32C、32Dに変更することで、角度変更ブラケット32とともに傾斜板33が第2係合筒部31に対して軸方向Xで後側の位置に移動することになり、噴射ノズル13の先端13aと傾斜板33との距離dを小さくすることができる。
【0050】
このように、角度調整部材30では、噴射ノズル13に対して噴射軸X方向に相対移動可能に設けられており、傾斜板33と噴射ノズル13との噴射軸X方向の距離を変更することができるので、例えば噴射ノズル13の先端13aを傾斜板33よりも突出させる位置に設定することにより、吹付け材3の表面3aに凹凸面や不整形面等に対応させることができる。
【0051】
本第2の実施の形態による角度調整部材30では、先端筒部12に装着した状態で傾斜板33の傾斜角度θを任意に変更可能であるので、吹付け材3の材質、厚さ寸法、施工領域の位置等の施工条件に対応させて傾斜板33を任意の傾斜角度θに変更し、吹付け材3の表面3aに対する噴射ノズル13の向きを調整して噴射することができる。
しかも、先端筒部12に装着したままで傾斜板33の角度変更が可能となるため、先端筒部12に対する着脱作業が不要であり、適用する吹付け材3の表面3aの形状変化に対しても素早く傾斜板33の角度を変えて対応することができる。
【0052】
以上、本発明による液体注入治具の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では吹付け材3としてアスベスト含有材を対象とし、薬液注入ガン1、1Aより噴射する液体も酸性液を対象しているが、これに限定されることはなく、他の材質からなる吹付け材であってもよいし、他の薬材を使用しても良い。
【0053】
また、第1の実施の形態では傾斜板22の傾斜角度θを30度とし、第2の実施の形態では傾斜板33の傾斜角度θを0〜45度の範囲としているが、傾斜角度θは施工条件に応じて適宜設定することが可能である。
さらに、第2の実施の形態による角度調整部材30の機構についても、これに限定されるものではない。要は、薬液注入ガン1Aの治具本体に装着した状態で傾斜板33の傾斜角度を変更することが可能であれば良いのである。
【0054】
そして、本実施の形態では角度規制部材20と角度調整部材30を先端筒部12に係合させているが、治具本体の他の部分であっても良い。
また、治具本体(ガン本体11、先端筒部12、注入操作部14など)の構成、酸性液(薬液)やエアを薬液注入ガン1、1Aに供給する酸性液供給機構4の構成についても本実施の形態に制限されることはない。
【0055】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施の形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1、1A 薬液注入ガン(液体注入治具)
2 基材
2a 表面
3 吹付け材
3a 表面
4 酸性液供給機構
11 ガン本体
12 先端筒部
12b 雄ねじ
13 噴射ノズル
13a 先端
14 注入操作部
15 薬液供給バルブ
16 噴射開閉バルブ
20 角度規制部材
21 第1係合筒部
21a 雌ねじ
22 傾斜板(角度規制板)
30 角度調整部材
31 第2係合部材
32、32A、32B 角度変更ブラケット
33 傾斜板(角度規制板)
F 傾斜方向
T 境界面
X 噴射軸
θ 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹付け材の表面から圧力をかけて薬液を噴射させるための液体注入治具であって、
薬液及びエアが供給されるとともに、先端部に噴射ノズルが装着された治具本体と、
該治具本体に設けられる角度規制板と、
を備え、
前記角度規制板は、その面方向が前記噴射ノズルの噴射軸方向に対して所定の傾斜角度で設けられていることを特徴とする液体注入治具。
【請求項2】
前記角度規制板の前記傾斜角度は、前記治具本体に装着した状態で任意に変更可能であることを特徴とする請求項1に記載の液体注入治具。
【請求項3】
前記角度規制板は、前記噴射ノズルに対して前記噴射軸方向に相対移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体注入治具。
【請求項4】
前記角度規制板は、前記治具本体に対して着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体注入治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−193516(P2012−193516A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56887(P2011−56887)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【Fターム(参考)】