説明

液体混合方法及び分注装置

【課題】吸引・吐出による撹拌を効果的に短時間で行うことができる液体混合方法及び当該方法を利用した分注装置を提供する。
【解決手段】液体の混合において、第一液を含有する容器に第二液を供給した後、液体を全量吸引せず、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させ、吸引及び吐出の繰り返しにより撹拌を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体混合方法及び当該方法を利用した分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分析装置や遺伝子検査装置は、血液や血液から分離された核酸を含む溶離液等の試料液を所定の試薬と混合し、試料液中に含まれている特定の化学成分の含有量又はその活性値、あるいは有形成分の有無や含有量を分析するものである。近年、反応効率の促進やコスト削減の観点から、試料液や試薬の量を少量(1〜200μL程度)とすることが求められている。更に、検査時間の短縮の観点から、溶液の混合を効率よく短時間で行うことが重要となっている。
【0003】
溶液の混合は、一般的には、モーターによって回転する撹拌羽根を混合液に浸漬して行う。当該混合では、1つの試料液の撹拌毎に撹拌羽根の洗浄が必要になり、そのための給排水設備を設置しなければならず、機構が複雑でコストの上昇を招くものである。また、撹拌対象の溶液が相対的に微量である場合には、撹拌羽根に付着して洗浄され、廃棄される溶液の割合が大きく、無駄が多い。さらに、溶液が微量であれば、微小な撹拌羽根が必要となり、撹拌そのものも難しくなることから、微量溶液は撹拌羽根を用いた撹拌に対応しづらい。その他、撹拌羽根を使用した撹拌以外にも、混合液の撹拌方法として、混合液が収められている容器又は混合液を振動に供する方法、不活性で清浄な気体流を混合液に吹き付ける方法等も知られているが、いずれも機構が複雑でコストの上昇を招くものである。
【0004】
特許文献1及び2は、試料液を希釈液と混合する方法を開示する。具体的には、特許文献1及び2は、高粘性液体と希釈液との混合方法として、容器に先ず希釈液を注入しておき、試料液(高粘性液体)を吸引保持しているピペットチップの先端を上記容器内の希釈液に挿入して該ピペットチップ内に希釈液を吸引した後、ピペットチップ内の混合液を容器に吐出し、再度吸引と吐出とを繰り返して混合を行う方法を開示する。しかしながら、当該方法は、希釈のための混合を目的としており、粘性の高い少量の液体に粘性の低い多量の液体を添加することによって、初めに吐出された液体の拡散を促すものであり、液量が同量程度である二液の混合や、二液ともに粘性の高い液体の撹拌を行うことは困難であった。
【0005】
特許文献3は、分注ノズル下端口からの液垂れを防止できる液体分注方法を開示する。特許文献3に記載の液体分注方法は、液体を吸引する際に、移動時の液垂れを防ぐために空気を吸入し続けることを特徴とし、分注ノズルを液体容器内の液体中から引き上げる際に、シリンジを低速で駆動することで、分注ノズル内へ空気を吸入し続ける。
【0006】
特許文献4は、液体の吸引前に吸引させた空気を吐出して撹拌することを特徴とする試薬の撹拌方法を開示する。具体的に、特許文献4に記載の撹拌方法では、ノズルに空気を吸引させた後、試薬及び試料を吸引し、ノズル内の試料及び試薬と空気とを吐出することで、吐出された空気によりこれら試料と試薬とを撹拌する。当該方法では、撹拌を複数回行う場合には、ノズルを液面より上部に引き上げて空気を吸引することを要する。
【0007】
特許文献5は、試料吐出後にノズル先端に付着する試料球が飛散することを防止すべく、試料吐出後に、少量の空気を吸引することを特徴とする分注方法を開示する。
【0008】
特許文献6は、ノズルを含む流路内への液体の吸引に先立ち、空気を吸引し、吐出を吸引した液体の所定量と等しい量だけ容器内に吐出することを特徴とする液体混合方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-99936号公報
【特許文献2】国際公開第93/07495号パンフレット
【特許文献3】特開平9-288113号公報
【特許文献4】特開昭64-27626号公報
【特許文献5】特開平5-273218号公報
【特許文献6】特開昭64-88370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、従来において溶液の混合や撹拌について様々な方法が知られているものの、撹拌を効果的に短時間で行うことができる方法は知られていなかった。
【0011】
また、ピペットチップ内に溶液を吸引した後、ピペットチップ内の混合液を容器に吐出し、再度吸引と吐出を繰り返して混合を行う場合、吸引・吐出される液は単調に流動することが多い。当該現象は、粘性の異なる二液の混合の際に頻繁に生じる。例えば、粘性の高いグリセロールを色素によって着色し、チューブ底部に分注する。その後、水を添加して吸引・吐出を繰返すと、着色したグリセロールは、例えば底部に沈殿したまま動かなかったり、また一度吐出によって巻き上げられるものの、上部や側部に停留したままとなったり、さらには塊の状態でピペットチップ内部を上下するのみで塊がほぐれないままであったり等の挙動を示す。いずれの場合も吸引・吐出によって得られる単調な液の流動では、これらの状態を解除することは困難であり、このことがピペットチップを用いた吸引・吐出撹拌の効率の低下に繋がっている。
【0012】
吸引・吐出撹拌を効果的に行うべく、液の流動が単調にならないように、吸引・吐出時の液の流速を段階的に変化させたり、吸引・吐出時のピペットチップ先端位置を上下させたりする方法が知られている。しかしながら、この場合、装置のプログラムや動作パラメータが複雑になるという問題がある。
【0013】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、吸引・吐出による撹拌を効果的に短時間で行うことができる液体混合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するため鋭意検討した結果、一方の液体(又は可溶性固体)を含有する容器に他方の液体を供給した後、液体を全量吸引せず、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させて吐出液により気泡を揺動させ、吸引及び吐出を繰り返すことで撹拌を効果的に行うことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、第一液を含有する容器に第二液を供給した後、液体を全量吸引せず、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させ、吸引及び吐出の繰り返しにより撹拌を行う、液体混合方法である。可溶性固体と液体との混合の場合には、第一液に代えて可溶性固体を適用する。
【0016】
また、本発明は、シリンジとフィッティング部とピペットチップとから構成されるノズル部と、ノズル部を制御する制御手段とを備え、該制御手段が上記撹拌を制御することを特徴する分注装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、液体の混合において、撹拌を効果的に短時間で行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る分注装置の上面図である。
【図2】本発明に係る分注装置の側面図である。
【図3】本発明に係る液体混合方法の過程を示す概略図である。
【図4】本発明に係る液体混合方法による混合液の均一性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る液体混合方法(以下、「本方法」という)は、二種類の異なる液体を撹拌し、混合液を得る工程において、第一液を含有する容器に第二液を供給した後、液体を全量吸引せず、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させ、吸引及び吐出の繰り返しにより撹拌を行う方法である。本方法では、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させ、吐出液により気泡を揺動させることにより、液体の流動を撹乱させ、乱流が発生する。具体的には、吸引・吐出時のピペットチップの高さを制御し、吸引終了前のピペットチップ先端部が液中に浸漬していない状態となるようにすることで、吸引時にピペットチップ先端部に空気を導入する。当該吸引後においては、ピペットチップ内の上部に液体が存在し、底部に空気が存在することとなる。次の吐出を、ピペットチップ先端部を液中に浸漬させた状態で行うことにより、液中に気泡が導入され、吸引及び吐出による撹拌の効率を上げることができる。ここで、吸引時のピペットチップ内の上部の液体に対する底部の空気の容量の割合としては、例えば上部の液体に対して5%〜30%、好ましくは5%〜20%が挙げられる。また、吸引時に容器内に残す液体量としては、例えば第一液と第二液との総容量に対して5%〜50%、好ましくは10%〜20%が挙げられる。
【0020】
本方法で使用する第一液及び第二液としては、いずれの液体であってよく、例えば生化学分析や遺伝子検査等の分析に使用するバッファー、希釈液、酵素(例えば、ポリメラーゼ)や試薬を溶解した溶液、検体(例えば、血液、血漿)等が挙げられる。第一液と第二液との総容量としては、例えば10μL〜500μL、好ましくは20μL〜200μLが挙げられる。なお、第一液の粘性が、第二液より大きく、且つ第一液の容量が第二液より少量となるように、第一液と第二液とを選択することが好ましい。
【0021】
本方法では、先ず、第二液を、第一液を含有する容器に供する。具体的には、容器への第一液の供給後、ピペットチップを交換し、第二液を新たなピペットチップで当該容器に供給する。第二液の供給後、ピペットチップを交換することなく、当該ピペットチップにより液体の吸引及び吐出を行うことで、液体を撹拌し、混合する。吸引及び吐出の繰り返し回数は、一様な混合液を調製することができる回数であればよく、撹拌対象の液体に応じて適宜決定することができる。ただし、従来の吸引及び吐出による撹拌に比べて、本方法では、気泡の液体への導入により、少ない回数の繰り返しで十分に一様な混合液を得ることができる。
【0022】
本方法における液中への気泡の導入を実現させるには、幾つかの方法がある。一つには、ピペットチップ保持部のZ軸(高さ方向)を上下させ、液体吸引終了時の高さ(Za)、空気吸引時の高さ(Zc)及び吐出時の高さ(Zb)を変化させる方法である。具体的には、Zaにて液体の一部を吸引し、残った液面上部となるZcまでZ軸を上昇させて空気を吸引し、ピペットチップ先端部が、残った液面下となるような高さZbにて吐出動作を行う。当該方法によれば確実に空気を吸引することができるが、Z軸の上下動作に時間がかかること、仮に上下動作と吸引・吐出動作を同時に行うとしても装置の動作パラメータや動作プログラムが複雑になる。
【0023】
一方、吸引・吐出撹拌に使用しない液体を多く残すことにより、Za=Zcとすることはできる。例えば、撹拌したい液体が200μLであったとき、Za(=Zc)を50μLの液高さ相当分として200μLを吸引すれば、50μL分を空気として吸引することができるため、Zaより低いZbにて吐出すれば気泡を導入することができる。しかしながら、当該動作によってもZ軸動作は必須となる。ただし、吸引・吐出の流速が十分早い場合、容器中に残った液体は、その粘性や表面張力に応じた量が容器の壁面に取り残されてすり鉢状となる。このために、吸引終了時にはピペットチップ先端部が液体に触れず空気を吸うことになっても、同じ位置で数瞬後には液体中に浸漬している状態を作り出すことが可能である。
【0024】
そこで、本方法では、吸引及び吐出の際のピペットチップ先端部の位置を容器内に残す液体の液面の高さと同じ又はそれ以下となるように高さを合わせて一定とし、液体を全量吸引せず、容器内に一部の液体を残し、ピペットチップで残した液体量を含めた撹拌したい液体量を吸引することで、残した液体量に相当する空気を吸引し、吐出時に液中に気泡を導入することが好ましい。当該気泡の導入では、吸引・吐出の流速が十分早いことが好ましく、例えばピペットチップによる液体の吸引速度を150〜400μL/秒とする。
【0025】
本方法は、液体への可溶性固体の溶解及び撹拌にも使用することができる。この場合には、上述の第一液に代えて可溶性固体を容器内に供給することで、液体への可溶性固体の一様な溶解及び撹拌を効果的に短時間で行うことができる。可溶性固体としては、例えば凍結乾燥した乾燥試薬等の乾燥粉末が挙げられる。一方、液体としては、例えば当該可溶性固体を希釈するための希釈液が挙げられる。
【0026】
一方、本発明に係る分注装置(以下、「本装置」という)は、上述の本方法を行うための分注装置である。本装置は、シリンジとフィッティング部とピペットチップとから構成されるノズル部と、ノズル部を制御する制御手段とを備え、該制御手段は、第一液を含有する容器に第二液を供給した後、液体を全量吸引せず、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させ、吸引及び吐出の繰り返しにより撹拌を行うように制御する。なお、本装置を、液体への可溶性固体の溶解及び撹拌に使用する場合には、第一液に代えて可溶性固体を容器に供することとなる。ここで、ノズル部を制御する制御手段は、例えばシリンジの動作、シリンジによる吸引及び吐出、ピペットチップとフィッティング部との嵌合等を含めて、ノズル部全体を制御するものである。また、本装置において本方法を行うべく、当該制御手段により、ピペットチップによる液体の吸引速度を150〜400μL/秒に制御することができる。さらに、当該制御手段により、吸引及び吐出の繰り返しにおいて、ピペットチップの先端部を、吸引しない液体の液面の高さと同一又はそれ以下に一定に保持することができる。本装置は、ノズル部とノズル部を制御する制御手段の他に、例えばノズル部を保持するノズル保持手段、ノズル部を移動させるノズル部移動手段等を備える。
【0027】
以下に、本装置の実施形態を、図1及び2を参照しながら説明する。
図1及び図2は、本装置の一実施形態に相当する分注装置100を示す。図1は分注装置100の上面図、図2はその側面図である。本実施形態では、分注装置100は、遺伝子増幅検査を行うためのものであり、酵素試薬と増幅用バッファー及び被験対象である遺伝子を含有する検体液とを分注し、撹拌するものである。
【0028】
図2中、ほぼ中央に図示される検体液の吸引を行うノズル部101は、図1に示すXYZロボット110によって保持されており、ノズル部101は3次元的に自在に移動可能となっている。また、ノズル部101は、シリンジ103とフィッティング部104とピペットチップ105とから構成されている。
【0029】
ピペットチップ105の上部開口には、ノズル部101のフィッティング部104が加圧挿入され、ピペットチップ105とフィッティング部104とが嵌合することによって、ピペットチップ105がノズル部101に確実に固定されると同時に、シリンジ103による吸引及び吐出を可能にする。
【0030】
分注装置100においては、ピペットチップ105としてディスポーザブルなものを用いる。ピペットチップ105は、例えばポリプロピレンやポリスチレン、ポリメチルペンテンポリマー(TPX)等の硬質プラスチック等から構成され、一方、フィッティング部104はステンレス等の金属、あるいはポリプロピレンやアクリル樹脂等の硬質プラスチックから構成される。
【0031】
本実施形態のように、遺伝子増幅検査を行う場合には、ピペットチップとしてディスポーザブルチップを用いることが望ましいが、血液検査や免疫検査等では、ディスポーザブルのピペットチップに換えて、分注プローブ等を使用することもできる。この場合、検体毎にノズル先端を洗浄し、繰返し使用することもできる。
【0032】
ピペットチップ105は、下方先端部も開口しており、液体はこの開口部から吸引されピペットチップ内部に留保される。また、ピペットチップ内部に留保された液体が溶液中に吐出されることになる。
【0033】
一方、図1に示すXYZロボット110は、X駆動部111と、Y駆動部112と、Z駆動部113とから構成されている。
【0034】
Z駆動部113はジャミングセンサ等の機能を成すリミットスイッチ114を有し、当該リミットスイッチは、ノズル部101に加えられる上方への一定以上の外的作用力を検出する。リミットスイッチ114からの信号は信号ケーブルを介して装置本体に送られており、ノズル部101のフィッティング部104に対するピペットチップ105の嵌合を制御する。
【0035】
Z駆動部113には液体の吸引及び吐出を行うシリンジ103が固定配置されている。シリンジ103は信号ケーブルを介して装置制御用PC(本装置における「制御手段」に相当)に接続しており、専用のソフトウェアによって動作を制御できる。
【0036】
図1に示す分注台120に載置されたチューブラック121には、血液検体より核酸成分を分離する前処理工程が終了した後の溶離液を入れ、複数のチューブ122が保持されている。当該チューブとして、例えば市販されている遺伝子工学用の0.2mLマイクロチューブが使用される。また、溶離液は核酸の分解防止のため低温で保持することが望ましく、チューブラック121は材質にアルミを用いてチューブに沿う形状となるように作製し、チューブラック121下に設置したペルチェによって好適な温度(例えば4〜8℃)に保持する。
【0037】
また、同じく分注台120に載置された試薬ラック123には、酵素やバッファー等の増幅用試薬が予め充填された複数の試薬チューブ124が保持されている。当該試薬チューブとして、例えば市販されている遺伝子工学用の1.5mLマイクロチューブが使用される。溶離液と同様に酵素を含む増幅用試薬は低温で保持することが望ましく、試薬ラック123は、材質にアルミを用いてチューブに沿う形状となるように作製し、試薬ラック123下に設置したペルチェによって好適な温度(例えば8〜12℃)に保持する。
【0038】
分注台120上に設置された分注ラック125には、溶離液や混合した試薬を分注する分注チューブ126が保持されている。当該分注チューブとして、例えば市販されている遺伝子工学用の0.2mLマイクロチューブが使用される。分注後の保持が長時間にわたる場合には、チューブラック121や試薬ラック123と同様に保冷機構が必要となるが、本実施形態においては、分注後ただちに増幅反応を行うことをと前提としているため、ペルチェ等の温度調節機構を不要することができる。
【0039】
本実施形態の分注装置100は、ピペットチップ105がディスポーザブル(すなわち、使い捨て型)であるため、ピペットチップ立て127には複数の新品のチップが用意され、順次新しいピペットチップに交換される。
【0040】
さらに分注台120上には、ピペットチップ廃棄ラック128が設けられている。ピペット廃棄ラック128上部の板には、ピペットチップ105をフィッティング部104から取り外すための空洞129がある。当該空洞はピペットチップ105の直径より大きい円と小さい円とが複合した形状を有する。ピペットチップ105を保持するノズル部101は、空洞129の大きい円を通ってピペット廃棄ラック128内へ侵入し、フィッティング部104まで下降する。上昇時は小さい円を通るが、フィッティング部104に嵌合したピペットチップ105は小さい円を通過できないことから、ピペットチップ105はフィッティング部104から取り外されることになる。取り外されたピペットチップ105は、ピペット廃棄ラック128内部に落下し、装置停止時に用手廃棄される。
【0041】
本実施形態の分注装置100によれば、ノズル部101のピペットチップ105によって溶離液又は試薬等の溶液を吸引して、それらを他の容器に移すことが自在に行える。また、他の容器に移した液体を吸引し、吐出することによって撹拌することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
本実施例は、本方法の過程を示す図3を参照しながら、本方法によって2種の液体が均一に混合することを示す。なお、使用する分注装置は、図1及び2に示す分注装置100である。
【0043】
先ず、ピペットチップをチップラックに設置する。また、試料液1(本方法における「第一液」に相当)を充填した試薬チューブ1と、試料液2(本方法における「第二液」に相当)を充填した試薬チューブ2を試薬ラックに設置する。さらに、混合を行うための空の試薬チューブ3(310)を試薬ラックに設置する。本実施例では、試料液2として純水を、試料液1として30%グリセロール水溶液を使用する。撹拌の状態を目視にて確認できるように、30%グリセロール水溶液には少量のオレンジGを添加する。
【0044】
次いで、空の試薬チューブ3に対して少量の試料液1を供給する。試料液1を、フィッティング部312の先端に装着された試料液ピペットチップ311にて所定量(ここでは、20μL)を吸引し、試薬チューブ3に吐出する。当該態様は撹拌状態301に相当し、この時の吐出高さをZaとする。
【0045】
その後、使用済みピペットチップをピペットチップ廃棄ラックにて廃棄した後、新たなピペットチップ311をフィッティング部312に取り付け、試料液2を吸引する。この際、吸引する試料液2の量を180μLとし、試料液2を試薬チューブ3に吐出する。当該態様が撹拌状態302に相当する。吐出位置は撹拌状態301と同じくZaで示されているが、より下方の高さZb(後述)でも結果に影響が無いことを確かめている。
【0046】
撹拌状態302にて試料液2を吐出した後、ピペットチップを交換することなく、連続的に撹拌動作を開始する。場合によっては、試料液2の分注後、休止時間を与えた方が好ましい場合がある。その場合は、ピペットチップ311を液中または液上部にて静置させる。撹拌時の高さまでピペットチップ311を下降させ(撹拌状態303)、この時の高さZbを3 mmとする。これは20μLの液体がチューブに分注された時の液高さであり、チューブの形状によって異なるため、予め規定しておく必要がある。
【0047】
位置決め後、吸引(撹拌状態304)と吐出(撹拌状態305)の撹拌動作を複数回行う。ここでは、吸引・吐出動作を5回に留め、液流及び撹拌度合いを比較確認した。撹拌動作時のシリンジの液量設定は、試料液2の分注時と同じ180μLとする。ピペットチップ311の高さが20μL相当であるため、180μLのシリンジ吸引動作では必ず、吸引の最後に空気を吸うことになる。これが次の吐出動作の初段階において液中に押し出されると気泡となり、液中を上昇することになるが、その後に吐出される液によって上昇しつつも液中をランダムに動く。この気泡の動きによってより撹拌が促進されることが観察される。
【0048】
最後に、吸引した液を吐出する(撹拌状態306)。吐出位置は撹拌状態301と同じくZaで示されているが、Zbでも問題ない。粘性の高い液体の場合等において、液に接触した状態で吐出した方が好ましく、その場合はZbで吐出動作を行うことになる。
【0049】
この一連の撹拌動作においては、吸引・吐出時の流速を200μL、液量を180μLに統一し、Z軸高さをZaとZbの2種のみとした。流速や液量については、分注量と吸引、吐出及び撹拌の液量とが異なっていても、気泡の導入による撹拌効率を向上させることができる。また、シリンジの動作パラメータを統一化することによって、ソフトウェアの制御や装置とのシグナル交換回数を減らし、操作を単純化させることができる。
【0050】
実際に、図1及び2に示す分注装置100によって、撹拌液量180μLとし、上記30%グリセロール色素液(試料液1)20μLと純水(試料液2)180μLとの混合を、以下の2条件で行った:
条件1: Zb=1mm(吸引・吐出時に気泡が生成しない条件:陰性対照)
条件2: Zb=3mm(吸引・吐出時に気泡が生成する条件)
条件1の撹拌では、粘性の高いグリセロール液がチューブ底部に留まったまま動かなかったり、純水に馴染まないままピペットチップ内を上下したりする現象が観察され、5回の吸引・吐出動作後でも色素の濃淡差が目視にて確認された。
【0051】
一方、条件2の撹拌では、底部のグリセロール液は気泡に巻き込まれるように、あるいは押し出されるようにして流動し、吸引・吐出毎に異なる液流れが生じていることが観察された。5回の吸引・吐出動作にて色素は一様に分布しているように見えた。
【0052】
さらに、条件1又は条件2下の撹拌後の混合液の上面から順次30μLずつを、液を乱さないように静かに採取して、キュベットに分注し、波長488nmでの吸光度を測定した。吸光度測定の結果を図4に示す。
【0053】
図4には、条件1又は条件2下の撹拌後の混合液の吸光度測定結果に加えて、分注した液を用手にて撹拌し、同様に吸光度を測定した結果を示す。図4に示すように、条件2と用手撹拌による混合液の吸光度が採取した順序に関係なく一様であり、十分撹拌されているのに対し、条件1ではより上面に近い方において色素濃度が低く、底部では濃度が高くなっていることから、混合が十分でないことが判る。
【0054】
なお、吸引・吐出の流速が150〜400μL/秒の場合は、吸引時の圧力で残された溶液が図3に示す撹拌状態304のようにすり鉢状になり、マイクロチューブの高い位置に取り残されていることが観察された。このことは、20μLの液高さで吸引・吐出を行っても、吸引・吐出の流速によっては20μL以上の液が残っていることを示しており、より気泡の発生を容易にしている。上記流速の場合では、吸引・吐出液量を160μL〜200μL(ピペットチップ容積の最大量)とした時に気泡の発生が確認された。
【0055】
〔実施例2〕
本実施例は、本方法により混合した液体試薬を使用した遺伝子増幅を示す。なお、本実施例では、全血より得られたゲノムDNAからALDH-2遺伝子を増幅させた。
【0056】
QIAamp genome DNA MiniKit(キアゲン社)を指定のプロトコルに従い使用して、ヒトより採取した血液のゲノムDNAを抽出した。ここで得られた溶離液を0.2mLのマイクロチューブに分注し、検体ラックに設置した。
【0057】
一方、200μLの調製済みPCRバッファーを分注した1.5mLマイクロチューブと、Taqポリメラーゼとを試薬ラックに設置した。PCRバッファーの組成を以下の表1に示す。また、空の1.5mLマイクロチューブも試薬ラックに設置した。
【0058】
【表1】

使用したプライマーは、以下の通りである:
第1核酸プライマー: 5'-CATACACTAAAGTGAAA-3'(配列番号1)
第2核酸プライマー: 5'-CATACACTGAAGTGAAA-3'(配列番号2)
【0059】
先ず、Taqポリメラーゼ10μL(本方法における「第一液」に相当)を空の1.5mLマイクロチューブに分注し、その後、ピペットチップを換えてPCRバッファー160μL(本方法における「第二液」に相当)を添加した。添加後はピペットチップを換えず、Zb=3mm(20μLの液高さ)で、容量160μLのまま吸引・吐出を繰返す。酵素の撹拌には緩やかな動作が求められるため、ここでは流速を下限の150μL/秒とした。
【0060】
吸引・吐出撹拌終了後、ピペットチップを交換せずにそのまま全量を吸い上げ、分注チューブに20μLずつ分注した(本方法における「第一液」に相当)。その後、其々ピペットチップを交換しながら検体(血液ゲノムDNA溶液)30μL(本方法における「第二液」に相当)を分注チューブに分注し、添加した。添加時にはピペットチップを換えずに高さZb=1mm、流速150μL/秒、液量30μLで3回、吸引・吐出による撹拌を行った。
【0061】
次いで、作製したPCR反応液を、サーマルサイクラーにて94℃×1分、94℃・55℃・72℃各1分のサーマルサイクルに供した後、電気泳動にてPCR産物を確認したところ、8チューブ全てにおいて、同程度のPCR増幅がなされたことが確認された。
【0062】
〔実施例3〕
本実施例は、本方法により混合した乾燥試薬を使用した遺伝子増幅を示す。なお、本実施例では、Nuclisens HIV-1 QT Amplification Reagents(bioMerieux社)の試薬を用い、HIVパネル血漿からHIV-RNA増幅反応を行った。
【0063】
HIVパネル血漿について、QIAamp Viral RNA Mini Kit(キアゲン社)を用い、添付文書に従いHIV-RNAの抽出を行った。得られた溶離液を試料液として、検体ラックに設置した。
【0064】
一方、Nuclisens HIV-1 QT Amplification Reagents添付試薬(PRB sphere、PRB Diluent、ENZ sphere及びENZ Diluent)を試薬ラックに設置した。PRB sphereは増幅用プローブや検出用ビーコンプローブ等が含まれた球状の乾燥試薬であり、PRB Diluentによって溶解されるものである。また、ENZ sphereは増幅用酵素が含まれた球状の乾燥試薬であり、ENZ Diluentによって溶解されるものである。その他、ピペットチップや増幅チューブを実施例1と同様に準備した。
【0065】
先ず、PRB Diluent 90μLをPRB sphere(本方法における「可溶性固体」に相当)に添加し、Za=2mm、流速400μL/秒で吸引・吐出を10回行った。混合後、ピペットチップを換えずに10μLずつ8個の増幅チューブに分注した。
【0066】
次に、ピペットチップを交換してENZ Diluent 45μLをENZ sphere(本方法における「可溶性固体」に相当)に添加し、Za=1mm、流速50μL/秒で吸引・吐出を10回行った。混合後、ピペットチップを換えずに5μLずつ上記8個の増幅チューブに分注した。
【0067】
検体(HIV-RNA溶液)(本方法における「第二液」に相当)を、それぞれピペットチップを交換して上記8個の増幅チューブに添加した。添加量は15μLであり、Za=1mm、流速200μL/秒で吸引・吐出を3回行った。
【0068】
全ての試薬を含む増幅チューブを密栓し、65℃×5分、41℃×30分の温調を行いながら、蛍光を検出し、HIV-RNA増幅を確認した。増幅終了後、蛍光強度のプロファイルを確認したところ、8個のチューブにおいて同程度の増幅がなされたことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、ピペットチップを用いて吸引及び吐出による撹拌を行う分注装置において採用される、二液又は可溶性固体と液体との混合を効果的に短時間で行うことができる液体混合方法が提供される。本発明によれば、効果的に短時間で液体混合を行うことができるので、生化学分析装置や遺伝子検査装置を使用した分析の低コスト化を図ることができる。
【符号の説明】
【0070】
100:分注装置
101:ノズル部
103:シリンジ
104:フィッティング部
105:ピペットチップ
110:XYZロボット
111:X駆動部
112:Y駆動部
113:Z駆動部
114:リミットスイッチ
120:分注台
121:チューブラック
122:チューブ
123:試薬ラック
124:試薬チューブ
125:分注ラック
126:分注チューブ
127:ピペットチップ立て
128:ピペットチップ廃棄ラック
129:空洞
301〜306:撹拌状態
310:試薬チューブ3
311:ピペットチップ
312:フィッティング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二種類の異なる液体を撹拌し、混合液を得る工程を含む液体混合方法であって、第一液を含有する容器に第二液を供給した後、液体を全量吸引せず、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させ、吸引及び吐出の繰り返しにより撹拌を行うことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
第一液の粘性が、第二液より大きく、且つ第一液の容量が第二液より少量であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ピペットチップによる液体の吸引速度が150〜400μL/秒であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
吸引及び吐出の繰り返しにおいて、ピペットチップの先端部を、吸引しない液体の液面の高さと同一又はそれ以下に一定に保持することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
第二液の供給後、ピペットチップを交換することなく吸引及び吐出を行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
可溶性固体と液体とを撹拌し、混合液を得る工程を含む液体混合方法であって、可溶性固体を含有する容器に液体を供給した後、液体を全量吸引せず、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させ、吸引及び吐出の繰り返しにより撹拌を行うことを特徴とする、前記方法。
【請求項7】
可溶性固体が乾燥粉末であることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ピペットチップによる液体の吸引速度が150〜400μL/秒であることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項9】
液体の供給後、ピペットチップを交換することなく吸引及び吐出を行うことを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項10】
吸引及び吐出の繰り返しにおいて、ピペットチップの先端部を、吸引しない液体の液面の高さと同一又はそれ以下に一定に保持することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項11】
シリンジとフィッティング部とピペットチップとから構成されるノズル部と、
ノズル部を制御する制御手段と、
を備え、前記制御手段は、第一液を含有する容器に第二液を供給した後、液体を全量吸引せず、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させ、吸引及び吐出の繰り返しにより撹拌を行うように制御することを特徴とする、分注装置。
【請求項12】
前記制御手段は、ピペットチップによる液体の吸引速度を150〜400μL/秒に制御することを特徴とする、請求項11記載の分注装置。
【請求項13】
前記制御手段は、吸引及び吐出の繰り返しにおいて、ピペットチップの先端部を、吸引しない液体の液面の高さと同一又はそれ以下に一定に保持することを特徴とする、請求項11記載の分注装置。
【請求項14】
シリンジとフィッティング部とピペットチップとから構成されるノズル部と、
ノズル部を制御する制御手段と、
を備え、前記制御手段は、可溶性固体を含有する容器に液体を供給した後、液体を全量吸引せず、吸引時にピペットチップの先端部に空気を導入し、吐出時に気泡を発生させ、吸引及び吐出の繰り返しにより撹拌を行うように制御することを特徴とする、分注装置。
【請求項15】
前記制御手段は、ピペットチップによる液体の吸引速度を150〜400μL/秒に制御することを特徴とする、請求項14記載の分注装置。
【請求項16】
前記制御手段は、吸引及び吐出の繰り返しにおいて、ピペットチップの先端部を、吸引しない液体の液面の高さと同一又はそれ以下に一定に保持することを特徴とする、請求項14記載の分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−107089(P2011−107089A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265239(P2009−265239)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】