説明

液体混合方法及び装置

【課題】混合用流路を形成する流路形成体を用いた液体の混合方法及び装置であって、当該混合用流路の形状の著しい複雑化や、混合促進のための大掛かりな設備を要することなく、当該混合を促進することができるものを提供する。
【解決手段】微小流路でなる混合流路内で互いに可溶性を有する第1液体及び第2液体を混合させる。具体的には、前記混合流路内に前記第1液体及び前記第2液体を合流させる工程と、前記流路内を流れる合流後の液体に対して当該流路と交差する方向から前記両混合対象液体に対して不溶性を有する不溶流体を供給して当該合流後の液体を間隔をおいて分断することにより当該合流後の液体からなる混合対象セル60と当該不溶流体からなる不溶流体セル63とが交互に並ぶスラグ流を前記不溶流体の供給位置よりも下流側の流路内に形成し、これにより、前記下流側の流路内において各混合対象セル内の前記第1混合対象液体と前記第2混合対象液体とを混合させる工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに可溶性を有する液体同士を、微細流路内で混合するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、互いに可溶性を有する液体(反応剤)同士を接触させ、混合することにより、所望の反応生成物を製造するための方法として、いわゆるマイクロチャネルリアクタと呼ばれる流路形成体を用いるものが知られている(特許文献1)。このマイクロチャネルリアクタは、表面に溝が形成された基体を備え、当該溝により微細流路が構成される。この微小流路内に混合対象液体を流すことにより、単位体積あたりにおける混合対象液体同士の接触面積が飛躍的に増大し、このことが当該混合対象液体同士の混合の効率を高める。
【0003】
このマイクロチャネルリアクタでは、前記接触面積の増大に加え、さらなる混合の促進が望まれる。このような混合の促進は、当該混合の完了までに必要な前記微小流路の流路長の短縮を可能にし、これによりマイクロチャネルリアクタ全体の小型化を可能にする。また、混合操作に要する時間の短縮は、当該混合操作中での不要な副反応の発生の抑制にもつながる。
【0004】
当該混合を促進するための手段として、特許文献2には、流路内に混合促進用の複数の凸部を形成することが開示されている。また特許文献3には、混合流路の途中に電極対を設け、これに交流電圧を印加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−168173号公報
【特許文献2】特開2006−102681号公報
【特許文献3】特開2006−320878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2記載のように流路内に細かい複数の凹部を形成することは流路形状の複雑化につながり、当該流路の作成及びメンテナンス(特に洗浄)の工数を増大させる。
【0007】
また、特許文献3記載のような電極の配備も、マイクロチャネルリアクタの構造の複雑化及び著しいコストの増加を招く。
【0008】
本発明の目的は、混合用流路を形成する流路形成体を用いた液体の混合方法及び装置であって、当該混合用流路の形状の著しい複雑化や、混合促進のための大掛かりな設備を要することなく、当該混合を促進することができる液体混合方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、本発明者らは、混合対象液体同士を混合させるための流路内で強制的にスラグ流を形成することに想到し、かつ、これにより顕著な混合促進効果が得られることを確認した。ここにいう「スラグ流」とは、前記混合対象液体からなるセルと、それ以外の流体からなるセルとが微小流路内でその流路長方向に交互に並ぶような流れをいう。このようなスラグ流の形成により前記混合対象液体を含むセル内で当該混合対象液体同士の混合が飛躍的に促進されることを、確認することができた。この効果は、前記混合対象液体同士の混合が微小な各セル内で行われること、及び、各セル内で前記混合対象液体同士の混合の促進に有効な微小循環流が形成されていることによるものと推察される。
【0010】
本発明は、このような観点からなされたものであり、微細流路でなる混合流路内で互いに可溶性を有する第1液体及び第2液体を混合させるのに有用な方法であって、前記混合流路内に前記第1液体及び前記第2液体を合流させる工程と、前記流路内を流れる合流後の液体に対して当該流路と交差する方向から前記両混合対象液体に対して不溶性を有する不溶流体を供給して当該合流後の液体を間隔をおいて分断することにより当該合流後の液体からなる混合対象セルと当該不溶流体からなる不溶流体セルとが交互に並ぶスラグ流を前記不溶流体の供給位置よりも下流側の流路内に形成し、これにより、前記下流側の流路内において各混合対象セル内の前記第1混合対象液体と前記第2混合対象液体とを混合させる工程と、を含むものを提供する。
【0011】
この方法では、混合流路内で合流した第1及び第2液体からなる混合対象セルと不溶流体からなる不溶流体セルとが交互に並ぶスラグ流を形成することにより、前記第1液体と前記第2液体との混合が促進されるから、従来のような流路形状の複雑化や電圧印加部の付設を要することなく混合効率を高めることができる。
【0012】
ここで、「互いに可溶性を有する第1液体及び第2液体」とは、両混合対象液体同士の混合後にその混合液を静置してもその液体同士が層状に分離しないような性質をもつ流体を意味し、両混合対象液体がいずれも親水性の高いものである場合や、両混合対象液体がいずれも親油性の高いものである場合が例示される。一方、「両混合対象液体に対して不溶性を有する不溶流体」としては、例えば両混合対象液体が親水性の高いものである場合には例えば油や水溶性の低い気体(窒素ガスや不活性ガス、炭化水素系ガスなど)が例示され、両混合液体が親油性の高いものである場合には例えば水や親水性の高い液体ね油に対する溶解度の低い気体(窒素ガスや不活性ガスなど)が例示される。
【0013】
本発明に係る方法は、さらに、前記第1及び第2液体の混合完了後にこれらの混合対象液体から前記不溶流体を分離する工程を含むことにより、本来所望される混合流体を取得することが可能である。この場合、前記不溶流体としてガスが用いられることにより、当該不溶流体と前記混合対象液体との分離が著しく容易化される。
【0014】
本発明の混合対象となる液体、すなわち前記第1及び第2混合対象液体としては、例えば水溶性を有するものが好適である。この場合、前記不溶流体としては非水溶性の流体が用いられればよく、特に窒素ガスや不活性ガスが好適である。
【0015】
本発明において、スラグ流における混合対象セルと不溶流体セルとの体積比は、前記不溶流体の導入流量の調節によって自由に設定することが可能である。混合対象セルの体積が小さいほど循環流による混合促進効果は高まるが、その反面、不溶流体セルの体積の占有率が大きくなると混合対象液体の処理効率が下がり、また圧力損失の増加や不溶流体の消費量の不必要な増加につながる。このような観点から、前記体積比は1/2以上2以下であることが好ましい。
【0016】
前記微細流路には、例えば、基体に形成された溝により構成されたものを用いることが可能である。
【0017】
また本発明は、前記のような混合を行うのに好適な液体混合装置を提供する。この装置は、互いに可溶性を有する第1液体及び第2液体を混合させるための混合用流路を形成する流路形成体と、この流路形成体に前記第1液体を供給する第1液体供給部と、前記流路形成体に前記第2液体を供給する第2液体供給部と、前記流路形成体に前記第1液体及び前記第2液体の双方に対して不溶性を有する不溶流体を供給する不溶流体供給部とを備える。前記流路形成体が形成する混合用流路は、前記第1液体供給部から供給される第1液体が導入される第1液体導入部と、前記第2液体供給部から供給される第2液体が導入されるとともに、この導入された第2液体と前記第1液体導入部に導入された第1液体とを合流させるように前記第1液体導入部の終端と連通する終端をもつ第2液体導入部と、両液体導入部の終端につながり、当該終端で合流した後の液体を流しながら混合するための混合部と、前記不溶流体供給部から供給される不溶流体を前記混合部の途中位置においてその混合部内を流れる前記合流後の液体に対してその混合部と交差する方向から導入することにより当該合流後の液体からなる混合対象セルと当該不溶流体からなる不溶流体セルとが交互に並ぶスラグ流を前記不溶流体の導入位置よりも下流側の混合部内に形成するように当該混合部に連通する終端をもつ不溶流体導入部とを有する。
【0018】
前記流路形成体としては、前記混合用流路を構成する溝が形成された基体と、その溝を覆うように当該基体に装着される蓋体とを有するものが、好適である。特に、前記基体が第1側面及びその裏側の第2側面を有する基板からなり、この基板の両側面に溝が形成されることにより、コンパクトな構造で前記液体混合方法に好適な混合用流路を形成することが可能である。具体的には、前記基板が、その第1側面に形成されて前記第1液体導入部を構成する第1液体溝と、この第1液体溝の終端につながるように前記第1側面に形成されて前記混合部を構成する混合溝と、前記第2側面に形成されて前記第2液体導入部を構成する溝であってその溝の終端が前記第1液体溝の終端の裏側に位置する形状をもつ第2液体溝と、前記第2側面に形成されて前記不溶流体導入部を構成する溝であってその溝の終端が前記混合部の途中部位の裏側に位置する形状をもつ不溶流体溝と、前記第1液体溝の終端と前記第2液体溝の終端とを連通するように前記基板をその厚み方向に貫通して前記第1液体と前記第2液体との合流を可能にする合流用孔と、前記混合溝の途中部位と前記不溶液体溝の終端とを連通するように前記基板をその厚み方向に貫通して前記混合溝内を流れる液体に対しての前記不溶流体の導入を可能にする不溶流体導入孔と、が設けられたものが好適である。この基板は、その第1側面と第2側面の双方の利用により、第1液体及び第2液体の合流と、その合流後の液体に対する不溶流体の導入と、その導入により形成されたスラグ流での前記両液体の混合の促進とをコンパクトな構造で効率よく行うことを可能にし、かつ、その混合の促進が前記混合溝の必要長さの短縮を可能にする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、流路形状の複雑化やその他の混合促進用の特別な設備を要することなく、混合対象液体同士の混合を促進することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る液体混合装置の全体構成を示す図である。
【図2】前記液体混合装置における各流体の流れの概略を示すフローシートである。
【図3】前記液体混合装置を構成する基板の第1側面を示す平面図である。
【図4】前記基板の第2側面を示す底面図である。
【図5】(a)は前記基板における第1液体溝と第2液体溝との連通部位を示す断面正面図、(b)は同基板における混合溝の途中部位と不溶流体溝との連通部位を示す断面正面図である。
【図6】(a)は図5(a)の6A−6A線断面図、(b)は図5(b)の6B−6B線断面図である。
【図7】(a)(b)は前記混合溝内に形成されるスラグ流を示す断面図である。
【図8】本発明の第1実施例における水酸化ナトリウム水溶液及び酢酸水溶液の流量とこれらの中和反応に必要な距離との関係を示すグラフである。
【図9】(a)(b)は、本発明の第1実施例における窒素ガス流量と水酸化ナトリウム水溶液及び酢酸水溶液の中和反応に必要な距離との関係を示すグラフ、(b)は当該窒素ガス流量と当該中和反応に必要な時間との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の第2実施例におけるドデカン流量と前記中和反応に必要な距離との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第3及び第4実施例における窒素ガス流量と前記中和反応に必要な距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1及び図2は、この実施の形態にかかる液体混合装置を示す。この装置は、互いに可溶性を有する第1液体及び第2液体を混合させるためのものであり、当該混合のための混合用流路50を形成する流路形成体FBと、この流路形成体に前記第1液体を供給する第1液体供給部10と、前記流路形成体FBに前記第2液体を供給する第2液体供給部20と、前記流路形成体に不溶流体、すなわち前記第1液体及び前記第2液体の双方に対して不溶性を有する流体、を供給する不溶流体供給部30と、回収容器40とを備える。
【0023】
前記第1液体供給部10は、前記第1液体を収容する第1液体容器12と、この第1液体容器12の内部と前記流路形成体FBとを接続する第1液体配管14と、この第1液体配管14を通じて前記第1液体容器12内の第1液体を前記流路形成体FBに圧送する第1液体ポンプ16とを有する。同様に、前記第2液体供給部20は、前記第2液体を収容する第2液体容器22と、この第2液体容器22の内部と前記流路形成体FBとを接続する第2液体配管24と、この第2液体配管24を通じて前記第2液体容器22内の第2液体を前記流路形成体FBに圧送する第2液体ポンプ26とを有する。
【0024】
また、この装置は、前記第1液体供給部10及び前記第2液体供給部20に共用される恒温槽42を具備する。この恒温槽42は、前記流路形成体FBに供給される第1及び第2液体の温度を一定に保つためのものであるが、用途により適宜省略可能である。この実施の形態では、前記各配管14,24の途中部分が螺旋状に形成され、この部分が前記恒温槽42内に収容された温水中に浸漬されている。
【0025】
本発明の対象となる第1液体及び第2液体は、互いに可溶性を有するものであればよく、水溶性、非水溶性を問わない。例えば、両液体が水または水溶液であってもよいし、両液体が油系のものであってもよい。また、その混合比も自由に設定が可能である。
【0026】
前記不溶流体供給部30は、不溶流体を収容する不溶流体容器32と、この不溶流体容器32の内部と前記流路形成体FBとを接続する不溶流体配管34と、この不溶流体配管34を通じて前記不溶流体容器32から前記流路形成体FBに供給される不溶流体の流量を調節する流量調整器36とを備える。この実施の形態では前記不溶流体としてガスが用いられ、前記不溶流体容器32は当該ガスが圧縮状態で封入されたガスボンベにより構成される。そして、このガスボンベ内の圧力によって前記不溶流体であるガスが前記流路形成体FBに圧送される。
【0027】
本発明において用いられる不溶流体は、前記第1液体および前記第2液体の双方に対して不溶性を有するものであればよく、ガス、液体を問わない。例えば、第1及び第2液体が水または水溶液である場合には、非水溶性のガスまたは液体が使用可能であり、第1及び第2液体が油系である場合には、例えば水を用いることも可能である。不溶流体として液体が用いられる場合、前記不溶流体供給部30には前記第1および第2液体ポンプ16,26と同様の不溶流体供給用液体ポンプが配備されればよい。また、前記流量調整器36は用途により省略が可能である。
【0028】
前記流路形成体FBが形成する混合用流路50は、図2に示すように、前記第1液体及び前記第2液体がそれぞれ導入される第1液体導入部51及び第2液体導入部52と、混合部54と、前記不溶流体が導入される不溶流体導入部53とを有する。
【0029】
前記第1液体導入部51は、前記第1液体供給部10の第1液体配管14に接続される入口端と、その反対側の終端とを有する。同様に、前記第2液体導入部52は、前記第2液体供給部20の第2液体配管24に接続される入口端と、その反対側の終端とを有する。第1及び第2液体導入部51,52の終端は、各液体導入部51,52に導入された第1液体と第2液体とを所定の合流位置Pjで合流させるように当該合流位置Pjで相互に連通される。
【0030】
前記混合部54は、前記合流位置Pjで合流した両流体を流しながら混合させるためのもので、当該混合に必要な流路長さを有する。この混合部54は、前記合流位置Pjで前記両液体導入部51,52の終端とつながる始端と、その反対側の出口端とを有し、この出口端は所定の排出位置Pdで混合液体を前記回収容器40に排出するように当該回収容器40に接続される。
【0031】
前記不溶流体導入部53は、前記不溶流体供給部30の不溶流体配管34に接続される入口端と、その反対側の終端とを有し、この終端は、前記不溶流体を前記混合部54の途中位置Pmにおいてその混合部54内を流れる前記合流後の液体に対してその混合部54と交差する方向(この実施の形態では基板100の板厚方向)から導入するように当該混合部54につながる。
【0032】
次に、前記流路形成体FBの構造の詳細について、図3〜図6を併せて参照しながら説明する。
【0033】
前記流路形成体FBは、前記混合用流路50を構成する溝が形成された基体と、その溝を覆うように当該基体に装着される蓋体と、を有する。この実施の形態に係る流路形成体FBでは、前記基体は図3〜図6に示す基板100により構成され、前記蓋体は図5及び図6に示す第1蓋板110及び第2蓋板120により構成される。前記基板100は、この実施の形態では、矩形状の第1側面101及びその裏側の第2側面102を有する平板状をなし、前記第1蓋板110及び前記第2蓋板120はそれぞれ前記基板100の前記第1側面101上及び第2側面102上に重ねられるようにして当該基板100とともに積層される。
【0034】
この装置では、前記基板100の両側面101,102に前記溝が形成されることにより、コンパクトな構造で効率的な混合処理が可能な混合装置が構築される。具体的に、前記基板100には、第1液体入口ポート131と、第2液体入口ポート132と、不溶流体入口ポート133と、出口ポート134と、複数本の第1液体溝141と、複数本の第2液体溝142と、複数本の不溶流体溝143と、複数本の混合溝144と、合流用孔150と、不溶流体導入孔153と、を有する。これらは基板100のエッチング処理により形成されている。前記各ポート131〜134はいずれも基板100をその厚み方向に貫通する貫通穴により構成され、蓋板110および蓋板120も同様の複数の貫通穴を前記各ポート131〜134にそれぞれ対応した位置に有する。ただし、最下段の蓋板120は、流体を封止するために貫通穴をもたない。最上段の蓋板110には前記貫通穴が形成されており、各貫通穴に前記第1液体配管14、前記第2液体配管24、前記不溶流体配管34および前記回収容器40がそれぞれ接続される。
【0035】
前記各第1液体溝141は、前記第1側面101に形成されて前記第1液体導入部51を構成する。この実施の形態に係る第1液体溝141は、互いに平行な状態で、前記第1液体入口ポート131から前記基板100の長辺に沿って前記合流位置Pjに至るまで直線状に延びる。各第1液体溝141は、前記基板100の厚みの1/2よりも小さい深さを有する。
【0036】
前記第2液体溝142は、前記第1液体溝141と同数であり、互いに平行となるように前記第2側面102に形成されて前記第2液体導入部52を構成する。各第2液体溝142は、前記第2液体入口ポート132から前記第1液体溝141に対してこれと直交する方向から近づく部分と、この部分から下流側へ90°方向転換しかつ対応する第1液体溝141の裏側で当該第1液体溝141に沿って前記合流位置Pjに至るまで延びる部分と、を有するL字状をなしている。前記各第2液体溝142は、前記各第1液体溝141の深さと同等の深さ、すなわち、前記基板100の厚みの1/2よりも小さい深さを有する。
【0037】
前記合流用孔150は、前記合流位置Pjで前記基板100をその厚み方向に貫通し、これにより、前記第1液体溝141の終端と前記第2液体溝142の終端とを連通する。すなわち、前記第1液体溝141を流れる第1液体と前記第2液体溝142を流れる第2液体との合流を可能にする。
【0038】
前記混合溝144は前記第1液体溝141と同数であり、互いに平行となるように前記第1側面101に形成されて前記混合部54を構成する。各混合溝144は、前記合流位置Pjで前記各第1液体溝141の終端につながり、当該合流位置Pjから蛇行しながら前記出口ポート134に至る形状を有する。各混合溝144は、前記両液体溝141,142の深さよりも大きい深さ(この実施の形態では基板100の厚みの1/2よりも大きい深さ)を有し、前記各合流用孔150を通じて両液体溝141,142と連通する。従って、当該合流用孔150で互いに合流した第1液体及び第2液体は前記混合溝144内に流入することが可能である。
【0039】
前記不溶流体溝143は、前記混合溝144と同数であり、互いに平行となるように前記第2側面102に形成されて前記不溶流体導入部53を構成する。各不溶流体溝143は、前記不溶液体入口ポート133から前記混合溝144に対してこれと直交する方向から近づく部分と、この部分から下流側へ90°方向転換しかつ対応する混合溝144の裏側で当該混合溝144に沿ってその途中位置Pmに至るまで延びる部分とを有するL字状をなしている。前記各不溶流体溝143は、前記基板100の厚みの1/2よりも小さい深さを有する。
【0040】
前記不溶流体導入孔153は、前記途中位置Pmで前記基板100をその厚み方向に貫通し、これにより、前記混合溝144の途中部位と前記不溶流体溝143の終端とを連通する。すなわち、前記混合溝144を流れる液体(第1液体と第2液体とが合流した後の液体)に対して前記不溶液体溝143を流れる不溶流体を導入することを可能にする。
【0041】
前記第1蓋板110は、前記第1側面101を覆うようにして前記基板100に重ね合わされ、接合されることにより、当該第1側面101に形成された第1液体溝141及び混合溝144を密閉し、前記第1液体導入部51および前記混合部54をそれぞれ構築する。同様に、前記第2蓋板120は、前記第2側面102を覆うようにして前記基板100に重ね合わされ、接合されることにより、当該第2側面102に形成された第2液体溝142及び不溶流体溝143を密閉し、これにより前記第2液体導入部52及び前記不溶流体導入部53をそれぞれ構築する。
【0042】
なお、前記基板100は複数段にわたって蓋板と交互に積層されてもよい。この積層体は、より多くの液体を混合処理することが可能である。また、各基板100同士の間に介在する蓋板は、一方の基板100の第1側面101と他方の基板100の第2側面102の双方を覆うから、流路形成体のさらなるコンパクト化に寄与し得る。
【0043】
次に、この装置を用いて前記第1液体と前記第2液体とを混合させる方法について説明する。
【0044】
前記第1液体供給部10及び前記第2液体供給部20から前記流路形成体100に供給される第1液体及び第2液体はそれぞれ当該流路形成体100の第1液体導入部51(第1液体溝141)及び第2液体導入部52(第2液体溝142)に導入され、合流位置Pjで合流用孔150を通じて合流する(図5(a))。そして、下流側の混合部54(混合溝144)を流れるうちに両液体が混合される。
【0045】
この方法の特徴として、前記第1液体及び前記第2液体に加え、前記不溶流体供給部30から前記流路形成体100に不溶流体が供給され、この不溶流体は当該流路形成体100の不溶流体導入部53(不溶流体溝143および不溶流体導入孔153)を通じて前記混合部54にその途中位置Pmで導入される。そして、この不溶流体が前記混合部54を流れる液体(第1液体と第2液体が合流した後の液体;以下「合流後液体」と称する。)を間隔をおいて分断することにより当該途中位置Pmの下流側にスラグ流を形成するように、前記第1液体、前記第2液体、及び不溶流体の供給流量が設定される。
【0046】
ここでいう「スラグ流」とは、図7(a)(b)に示すように、前記合流後液体からなる混合対象セル60と前記不溶流体からなる不溶流体セル63とが交互に並ぶ流れをいう。このスラグ流の形成は、後の実施例の項でも示すように、混合部54内を流れる第1液体と第2液体との混合を飛躍的に促進する。この効果は、合流後液体が体積のきわめて小さい混合対象セル60に分断されてその中で混合されること、及び、各混合対象セル60内で混合に有効な循環流が形成されていることによるものと推察される。
【0047】
前記スラグ流における混合対象セル60と不溶流体セル63との体積比は、前記不溶流体の導入流量の調節によって自由に設定することが可能である。具体的には、後の実施例の項でも示すように、不溶流体の導入流量を増やすほど各混合対象セル60の体積(サイズ)を小さくすることができる。図7(a)(b)を比較して明らかなように、前記混合対象セル60の体積を抑えるほど当該セル60での循環流が混合促進に寄与する度合いが高まり、実際に混合促進効果は高まるが、その反面、不溶流体セルの体積の占有率が大きくなると混合対象液体の処理効率が下がり、また圧力損失の増加や不溶流体の消費量の不必要な増加につながるため、このような観点から前記体積比が設定されるのがよい。一般には1/5以上4以下の範囲内で設定されるのが好ましい。
【0048】
なお、本発明に係る混合用流路は、前記のように基体に形成された溝により構成されるものに限られない。例えば、微小な内径を有する管によっても前記混合用流路が形成されることが可能である。
【実施例】
【0049】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。以下に示す実施例及び比較例では、第1液体として水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、第2液体として酢酸水溶液が用いられ、両者を中和反応させるべく前記図1〜図6に示す装置を用いて両液体の混合が行われ、中和反応の完了に必要な距離(混合部54における道のり)及び時間が測定された。
【0050】
[各例に共通する条件]
(1)第1液体及び第2液体について
・第1液体と第2液体を流量比が1:1の割合で流路形成体FBに同時供給する。
・恒温槽42は使用せず、両液体は常温(20°C程度)のまま供給される。
・中和反応の完了は、第1液体(NaOH水溶液)に混入させたチモールブルーの変色(青色→黄色)により確認される。
・粘度調整のため、第1液体または第1及び第2液体に適量のエチレングリコールが付与される(実施例3及び4)
(2)不溶流体について
不溶流体には窒素ガス(実施例1,3,4)またはドデカン(実施例2)を使用。窒素ガスは、これが圧入されたガスボンベ(不溶流体容器32)の内圧(初期圧0.3MPaG程度)によって流路形成体FBに供給される。ドデカンは専用ポンプにより前記流路形成体FBに供給される。いずれの場合も流量調整器36によって供給流量が調整される。
(3)流路形成体FBについて
・基板100の材質及び板厚:SUS316L製、厚み0.8mm
・各溝141〜144の本数:15本
・液体溝141,142及び不溶流体溝143の深さ(半円断面の半径):0.2mm
・混合溝144の全長及び深さ(半円断面の半径):3m×0.45mm
・合流用孔150及び不溶流体導入孔153の孔径:0.5mm
【0051】
[比較例]
図8は、不溶流体を供給しない場合の第1液体(NaOH水溶液)及び第2液体(酢酸水溶液)の供給流量(1流路あたりの供給流量。他の図においても同じ。)と中和反応必要距離(両液体の中和が完了するまでに当該流体が混合部54を流れる必要がある距離)とを示したものである。この図に示されるように、両液体の供給流量が増えると中和反応必要距離も単純に増大する。
【0052】
[実施例1]
第1液体に1N水酸化ナトリウム水溶液、第2液体に1N酢酸水溶液、不溶流体に窒素ガスを用いて本発明に係る混合方法を実施した。具体的には、前記両水溶液の流量をともに0.5ml/minに調節した場合、1ml/minに調節した場合のそれぞれについて窒素ガス供給流量を適宜変更して繰り返し実施し、当該窒素ガス供給流量と中和反応必要距離及び中和反応必要時間との関係を調べた。その結果を図9(a)(b)に示す。
【0053】
これらの図から明らかなように、第1及び第2液体である各水溶液の流量にかかわらず、窒素ガス流量を増やすにつれて中和反応必要距離及び中和反応必要時間がともに著しく減少し、窒素ガス流量を2ml/min以上にするとほぼ瞬時(1秒以内)に中和反応が完了することが確認された。
【0054】
[実施例2]
第1液体に1N水酸化ナトリウム水溶液、第2液体に1N酢酸水溶液、不溶流体に石油系液体であるドデカンを用いて本発明に係る混合方法を実施した。具体的には、前記両水溶液の流量をともに0.5ml/minに調節した場合、1ml/minに調節した場合のそれぞれについてドデカン供給流量を適宜変更して繰り返し実施し、当該ドデカン供給流量と中和反応必要距離との関係を調べた。その結果を図10に示す。
【0055】
この図10のグラフは、前記実施例1に係る図9(a)のグラフとよく近似している。このことは、本発明に係る混合方法による混合促進効果が、不溶流体として液体を用いた場合にも同様に得られることを教示している。ただし、(図10には示されていないが)ドデカン流量が10ml/min以上の領域では混合促進効果が低下する。その理由については後述するが、スラグ流の安定した形成のためには不溶流体としてガスを用いることが、より好ましい。また、当該ガスは混合終了の液体から回収容器40内において容易に分離されることが可能である。
【0056】
[実施例3及び4]
実施例1と全く同様に、第1液体に1N水酸化ナトリウム水溶液、第2液体に1N酢酸水溶液、不溶流体に窒素ガスを用いて本発明に係る混合方法を実施した。ただし、水酸化ナトリウム水溶液に粘度23.5cP(@20℃)のエチレングリコールを添加し(実施例3)または両水溶液にエチレングリコールを添加する(実施例4)ことにより、その添加した水溶液の粘度を1.0cP(@20℃)から約12.0cPまで上昇させて実験を行った。その結果を図11に示す。
【0057】
この図11のグラフも、前記実施例1に係る図9(a)のグラフとよく近似している。このことは、第1及び第2液体の粘度が(スラグ流の形成に影響のない範囲で)多少増減しても本発明に係る混合方法による混合促進効果が安定して得られることを示している。また、有機溶媒であるエチレングリコールの混入にかかわらず前記混合促進効果が得られることは、本発明が水溶液同士の混合のみならず、油系液体同士の混合にもその効果を奏し得ることを示唆するものである。
【0058】
なお、本発明に係る混合の目的は前記の中和反応に限定されない。例えば、本発明は、アルデヒド化合物からアルコールを作る反応(還元的アルドール反応)のための混合にも適用可能である。具体的には、第一反応物(R=C=CCOR)と第二反応物(M−H金属水素化物)との完全混合および反応による中間体金属エノラートの生成後、その生成物と第三反応物R−CO−Rとの反応によりアルコールを生成するにあたり、前記第一及び第二反応物の混合に本発明が適用され得る。この場合、第一及び第二反応物をそれぞれ第1及び第2液体とし、その合流後に窒素ガスを不溶流体として導入することにより、前記と同様にスラグ流を形成して前記両液体の混合を促進することができる。
【符号の説明】
【0059】
FB 流路形成体
Pd 排出位置
Pj 合流位置
Pm 途中位置
10 第1液体供給部
20 第2液体供給部
30 不溶流体供給部
40 回収容器
50 混合用流路
51 第1液体導入部
52 第2液体導入部
53 不溶流体導入部
54 混合部
60 混合対象セル
63 不溶流体セル
100 基板
101 第1側面
102 第2側面
110 第1蓋板
120 第2蓋板
141 第1液体溝
142 第2液体溝
143 不溶流体溝
144 混合溝
150 合流用孔
153 不溶流体導入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細流路でなる混合流路内で互いに可溶性を有する第1液体及び第2液体を混合させるための方法であって、
前記混合流路内に前記第1液体及び前記第2液体を合流させる工程と、
前記流路内を流れる合流後の液体に対して前記両混合対象液体に対して不溶性を有する不溶流体を供給して当該合流後の液体を間隔をおいて分断することにより当該合流後の液体からなる混合対象セルと当該不溶流体からなる不溶流体セルとが交互に並ぶスラグ流を前記不溶流体の供給位置よりも下流側の流路内に形成し、これにより、前記下流側の流路内において各混合対象セル内の前記第1混合対象液体と前記第2混合対象液体とを混合させる工程と、を含む、液体混合方法。
【請求項2】
請求項1記載の液体混合方法において、前記不溶流体が気体である、液体混合方法。
【請求項3】
請求項2記載の液体混合方法において、前記第1及び第2液体の混合完了後にこれらの混合対象液体から前記不溶流体を分離する工程をさらに含む、液体混合方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液体混合方法において、前記スラグ流における混合対象セルと不溶流体セルとの体積比が1/5以上4以下となるように前記不溶流体の導入流量が設定される、液体混合方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液体混合方法において、前記微細流路が基体に形成された溝により構成されたものである、液体混合方法。
【請求項6】
互いに可溶性を有する第1液体及び第2液体を混合させるための装置であって、
前記第1液体及び前記第2液体を混合させるための混合用流路を形成する流路形成体と、
この流路形成体に前記第1液体を供給する第1液体供給部と、
前記流路形成体に前記第2液体を供給する第2液体供給部と、
前記流路形成体に前記第1液体及び前記第2液体の双方に対して不溶性を有する不溶流体を供給する不溶流体供給部と、を備え、
前記流路形成体が形成する混合用流路は、前記第1液体供給部から供給される第1液体が導入される第1液体導入部と、前記第2液体供給部から供給される第2液体が導入されるとともに、この導入された第2液体と前記第1液体導入部に導入された第1液体とを合流させるように前記第1液体導入部の終端と連通する終端をもつ第2液体導入部と、両液体導入部の終端につながり、当該終端で合流した後の液体を流しながら混合するための混合部と、前記不溶流体供給部から供給される不溶流体を前記混合部の途中位置においてその混合部内を流れる前記合流後の液体に対してその混合部と交差する方向から導入することにより当該合流後の液体からなる混合対象セルと当該不溶流体からなる不溶流体セルとが交互に並ぶスラグ流を前記不溶流体の導入位置よりも下流側の混合部内に形成するように当該混合部に連通する終端をもつ不溶流体導入部とを有する、液体混合装置。
【請求項7】
請求項6記載の液体混合装置において、前記流路形成体は、前記混合用流路を構成する溝が形成された基体と、その溝を覆うように当該基体に装着される蓋体とを有する、液体混合装置。
【請求項8】
請求項7記載の液体混合装置において、前記基体が第1側面及びその裏側の第2側面を有する基板からなり、この基板には、その第1側面に形成されて前記第1液体導入部を構成する第1液体溝と、この第1液体溝の終端につながるように前記第1側面に形成されて前記混合部を構成する混合溝と、前記第2側面に形成されて前記第2液体導入部を構成する溝であってその溝の終端が前記第1液体溝の終端の裏側に位置する形状をもつ第2液体溝と、前記第2側面に形成されて前記不溶流体導入部を構成する溝であってその溝の終端が前記混合部の途中部位の裏側に位置する形状をもつ不溶流体溝と、前記第1液体溝の終端と前記第2液体溝の終端とを連通するように前記基板をその厚み方向に貫通して前記第1液体と前記第2液体との合流を可能にする合流用孔と、前記混合溝の途中部位と前記不溶液体溝の終端とを連通するように前記基板をその厚み方向に貫通して前記混合溝内を流れる液体に対しての前記不溶流体の導入を可能にする不溶流体導入孔と、が設けられる、液体混合装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−6130(P2013−6130A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138868(P2011−138868)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】