説明

液体混合物の調製方法及びシステム

【解決手段】2種以上の異なる成分の原液の液体流を相互に混合することによって、既定の特性を有する液体流を調製する方法は、各原液流中の原液に関する属性値と関連する1以上の特性を個別に検知することによって、1種以上の原液に関して選択された属性値を求めるステップと、求めた属性値に基づいて、所望の混合液体流をもたらす混合比率で原液流を混合するステップとを含む。この方法を実行するためのシステムは、センサ手段と制御装置を備え、制御装置は、センサ手段で検知した特性を評価して、既定の特性を有する混合液体流を得るために必要な原液の相対比率を与えるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体混合物の調製に関し、特に、既定の特性を有する液体混合物の調製に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの場合、組成及び/又はpH、イオン強度、粘度、濃度その他の特性が正確に判っている液体を得ることは、重要である。その時々の液体の組成が厳密に判り、その液体の組成を制御できるだけでなく、液体の組成が厳密に制御された状態で経時的に変化することが必要な場合も、珍しくはない。
【0003】
かかる液体は、通常、2種以上の液体を相互に混合又は配合することによって、典型的には配合システムを用いて得られ、通常は、均一濃度配合モード及び濃度勾配(段階的勾配及び線形勾配)配合モードの両方が可能な、現場の配合システムを用いて得られる。
【0004】
液体の組成が極めて重要となる用途のひとつが、液体クロマトグラフィー分野での用途であり、特定のpHと(任意で)特定のイオン強度を有する緩衝液を用いる場合、溶離液のpH及びイオン強度は、イオン交換樹脂等におけるクロマトグラフィーのタンパク質分離の選択性を制御する2つの最も重要なパラメータとなる。かかる用途としては、他に濾過がある。
【0005】
米国特許出願公開第2008/0279038号には、連続動作モードを用いた、供給液と第1及び第2の調整液の3種類の液体を配合するための配合システムが開示されている。例えば、供給液は水であり、調整液はそれぞれ塩濃縮液及びアルコールであり得る。これらの液体は、再循環ループにおいて混合される。再循環される溶液の導電率は、システムのバルブ及びポンプを制御するシステム制御装置と通信する導電率センサが検知する。近赤外(NIR)センサは、アルコール濃度を検出する。導電率及びアルコール濃度が目的のレベルに達すると、ループの出力が処理に供される。塩濃縮液及びアルコールの添加量は、引き続き導電率センサ及びNIRセンサからのフィードバック制御に基づいて行われる。
【0006】
液を配合する別の手法としては、成分の正確な相対的な比率又は割合を求めるものがあり、この手法では、典型的には適切なアルゴリズムを用いて、液体を配合して既定の特性を有する所望の混合液体流を得た後、計量システムにより所与の比率で異なる液体を送給することによって液体混合物流を生成する。
【0007】
米国特許第6221250号には、クロマトグラフ分離装置に1種以上の緩衝種の溶離液、酸又は塩基、任意で塩、並びに溶媒を送給可能なオンライン計量装置を備えた液体クロマトグラフィー用の装置が開示されており、この計量装置は、デバイ−ヒュッケル近似を用いて、選択されたpHを所与の塩濃度で有する溶離液を得る上で必要な成分の相対比率を算出する。このことは、液体混合物におけるpHとイオン強度の相互関係を考慮して、異なる成分を同時に変化させる逐次法によって達成される。
【0008】
しかし、ここで用いるデバイ−ヒュッケル近似は、かかる近似法を用いる他の方法と同様、高濃度の緩衝液及び/又は塩においては、精度が低くなる。
【0009】
上述の欠陥を克服する成分の相対比率の算出法の進展が、「Preparation of liquid mixtures」と題する国際出願PCT/SE2009/050399に開示されている。ミキサー制御装置は、デバイ−ヒュッケル式を用いて成分の相対比率を制御するように構成されており、デバイ−ヒュッケル式中のイオン径αは、液体混合物のイオン強度に寄与する全ての化学種の加重平均イオン径として求められ、各化学種のイオン強度が重み付けパラメータとして用いられる。この改善された方法、好ましくはコンピュータを実装した方法では、まず正確な組成が算出され、次いで液体混合物、典型的には緩衝液が、単一のステップにおいて調製される。一実施形態では、緩衝液は、連続処理においてインラインで定まる。
【0010】
しかし、成分比の計算に基づく上述の方法での不利な点は、原液を用いる際に、必ずその正確な濃度及び/又は他の特性を知っておかなければならない点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0279038号明細書
【特許文献2】米国特許第6221250号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、コンピュータの実装等により好都合に自動化可能な、既定の特性を有する混合液体流を調製するための改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によると、原液どうしを混合する前に、各原液流を個別に原液の特性測定にかけ、この特性を、液体の混合比率の決定に直接的又は間接的に用いることにより、上述の目的、並びにその他の目的及び利点を達成する。この測定値を用いて、(i)原液に関して得られた測定値、又はその測定値から導き出された値を評価して、使用されるべき所与の処方に従った混合比率が可能な、所与の許容限界内にあるか(即ち十分に厳密であるか)どうかをチェック又は検証し、且つ/又は(ii)所望の混合液体流を創出するための、原液流の適切な混合比率を算出する。
本発明の最も広範な態様は、したがって、2種以上の異なる成分の原液を相互に混合することにより、既定の特性を有する液体流を調製する方法を提供するものであり、本方法は、各原液流の原液の属性値に関連する1以上の特性を個別に検知することにより、1種以上の原液の選択された属性値を求めるステップと、求めた属性値に基づいて、所望の混合液体流をもたらす混合比率で原液流を混合するステップとを含む。
【0014】
本発明の本態様の一実施形態では、本方法は、検知した各原液で求めた属性値が、所与の混合比率の原液流を用いて所望の混合液体流を得られる所与の許容範囲内にあることを検証するステップと、次いで、原液流をその所与の混合比率で混合するステップとを含む。
【0015】
本発明の本態様の別の実施形態では、本方法は、検知した各原液で求めた属性値を用いて、所望の混合液体流を与える原液流の混合比率を算出するステップと、その算出した比で原液流を混合するステップとを含む。
【0016】
混合液体流の既定の特性は、典型的に、濃度、pH、及びイオン強度から選択され、求められる属性値は好ましくは濃度である。
【0017】
多くの用途において、検知される特性は、導電率、pH、紫外線(UV)吸収率、及び近赤外(NIR)吸光度から選択される。
【0018】
好ましい実施形態では、属性値は濃度であり、属性値と関連する特性が導電率であり、導電率と濃度の所与の関係を用いて、導電率から濃度を求める。
【0019】
また別の態様では、本発明は、液体混合物の調製システムを提供し、本システムは、(i)混合液用の1以上の出口及び成分原液のそれぞれの容器に各々接続されている複数の入口、(ii)各原液流をそれぞれの入口に送給する手段、(iii)入口から供給される原液の相対比率を制御して、出口で既定の特性を有する混合液体流を供給するように構成されている制御装置、並びに(iv)各原液流の1以上の特性を検知可能なセンサ手段を備える。制御装置は、センサで検知した特性を評価して、既定の特性を有する混合液体流を得るために必要な原液の相対混合比率を与えるように構成される。
【0020】
更に別の態様では、本発明は、上記の第2の態様に係る液体混合物の調製システムを備える分離システムを提供する。
【0021】
好ましい実施形態では、かかる分離システムは、液体クロマトグラフィーシステム及び濾過システムの少なくとも1つを備える。
【0022】
本発明の更なる好適な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0023】
以下の詳細な説明及び添付図面を参照することにより、本発明と、本発明の更なる特徴及び利点をより完全に理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の方法に使用可能な液配合システムの概略図である。
【図2】図2は、本発明に係る方法の一実施形態の種々のステップを示す概略ブロック図である。
【図3】図3は、本発明に係る方法の別の実施形態の種々のステップを示す概略ブロック図である。
【図4】図4は、2種類の液体流を2つの異なる流量で混合する際の、総流量、pH、及び導電率の変動をそれぞれ示す一組のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上記のように、本発明は、既定の特性を有する液体流を供給するための改善された方法及びシステムに関する。要するに、所望の液体流は、2種以上の成分の原液から成る液体流を、既知の(或いは算出等により求められた)相対比率又は割合で組み合わせて、所望の組成及び特性の液体を得ることにより調製される。混合比率の決定を行う前に、混合される各原液の正確な組成及び/又は他の特性を、それぞれの原液流中で自動測定し、測定された値を、所与の処方に従って原液を混合するための条件を満たしているか又は調節が必要であるかをチェックするために、或いは、所望の液体流を得るために必要な原液の混合比率を算出するために用いる。
【0026】
本方法及びシステムは、均一濃度の液体混合物及び濃度勾配がある液体混合物等の様々な用途の混合液体流を調製する場合に広く適用できるが、下記の詳細な説明は、あくまでも例として一切の限定的な意味を含むことなく、液体混合物のpH及び/又はイオン強度が特に重要となる液体クロマトグラフィー及び濾過の分野に主に関する。本発明に関して更に説明する前に、まずpH及びイオン強度の特性について概要を示す。
【0027】
pH及びpHの調節
pH値は、溶液の酸性度を示すものであり、水素イオン(又は陽子)の活性の負の対数として定義される。大半の生物学的プロセスは、pH変化の影響を受ける。その理由は、pHが分子レベルでの相互作用及び分子配座に影響を及ぼすためである。同様の理由で、pHの変化を利用して、例えばモノクローナル抗体等の生物薬剤の製造における、クロマトグラフィープロセスの制御を行うことができる。一例として、pHは、モノクローナル抗体とプロテインAクロマトグラフィー媒体との相互作用の重要なパラメータである。
【0028】
pH調節の鍵は緩衝液である。緩衝液とは、水素イオンを受容又は供与可能な分子の一種である。多数のこうした分子を溶液に添加することにより、水素イオン又はヒドロキシルイオンの量の関数としてのpHの変化率を効果的に低減させ、pHを調節できる。この「緩衝能」は、緩衝液の濃度と比例する。2つの異なるプロトン化状態にある緩衝液分子を慎重に組み合せることにより、pHを調節することも可能である。巨視的な化学試薬は電気的に中性でなければならず、緩衝液として作用する試薬を、適量の対イオンの存在によって、異なるプロトン化状態に移行させることができる。これは、例えば、「弱酸」を対応する弱塩基と組み合せることによって得ることができる。環境的又は人的安全性の理由から、弱酸を強塩基(NaOH等)と、或いは弱塩基を強酸(HCl等)と組み合せることが好ましい。
【0029】
緩衝物質にとっての主要なパラメータは、緩衝液分子の50%が2つの異なるプロトン化状態のいずれかにあるpH値、即ちpKa値である。リン酸塩やクエン酸塩等の一部の緩衝物質は、種々のpKa値を有する(多塩基性緩衝液)。物質のpKa値は、導電率が上昇すると、例えば塩を緩衝液溶液に添加することにより、劇的に変化することがある。異なる塩濃度での異なる緩衝系に関するこうした変化の規模を知っておくと、厳密なpH調節を行う上で有用である。
【0030】
イオン強度(又は導電率)
緩衝物質は弱電解質であるため、導電率を濃度の関数として関連付けることができる単純なモデルはない。緩衝液の導電率に対する寄与は、異なるプロトン化過程に対応する別の成分から生じる。異なる状態での正確な比率は平衡状態に依存するため、pH等によって変化する。導電率に対する重要な寄与は、例えばNa+イオン及びCl-イオン等の、特に高塩濃度の強電解質から生じる。導電率の制御は、導電率(又はイオン強度)もまた分子間の相互作用に影響をもたらし得るため、特にイオン交換クロマトグラフィーや疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いる場合等の、生物薬剤製造のためのクロマトグラフィープロセスの制御に用いることができる理由から、重要である。NaCl又はNa2SO4等の塩類の添加は、溶液の導電率を上昇させる、コスト効率の良い方法である。導電率はまた、たとえ両者の関係が自明でない場合でも、溶液濃度の良い尺度ともなる。経験的に得られるこのような関係についての知見を用いて、例えば、濃度又は原液が正確かどうか測定できる。
【0031】
ここで本発明に話を戻し、図1では、既定の特性を有する緩衝液その他の液体の調製、例えばクロマトグラフィーでの使用に供し得る、本発明の方法に従った配合システム又は構成を、概略図で表している。
【0032】
この配合システムは、複数の入口を備え、入口1〜4は、原液又は原料を対応の容器又はタンク(図示せず)から供給してシステム内で混合することを意図したものである。(簡略化のため、対応する原液にも同一の参照符号1〜4を用いる。)原料入口1〜4は、バルブ5〜8を経て、導管13〜16を通って、それぞれポンプ9〜12に接続されている。任意の原料入口が17で示されており、バルブ19及び導管20を経てポンプ18に接続されている。
【0033】
ポンプ9及び10の出口は、導管21及び22を経てT分岐24で導管23へと繋がっている。ポンプ11の出口は、T分岐27で導管23と合流し、導管26へと繋がる導管25に接続されている。
【0034】
ポンプ12の出口は、T分岐29で導管26と合流する導管28に接続されている。任意のポンプ18の出口は、導管30を経て、T分岐31で導管28へと繋がっている。
【0035】
インライン流量センサ32〜36は、各ポンプ9〜12の下流において、それぞれの流出導管21、22、25、28及び30に設置されている。
【0036】
導管26には、異なる所望の液体の特性を検知するための、第1及び第2のインラインセンサのセットが配置され、第1のセンサセットはT分岐29の上流に、第2のセンサセットはT分岐29の下流に設けられている。図示の場合は、第1及び第2のセンサセットがそれぞれ、3機のセンサ37〜39及びセンサ40〜42を備えている。例えば、センサ37及び40が導電率センサで、センサ38及び41がUV(又は近赤外)センサで、センサ39及び42がpHセンサであってもよい。
【0037】
ポンプは、流量及び流速に応じて、例えば、臑動ポンプ、ピストンポンプ、及びダイヤフラムポンプから選択される。典型的には、ダイヤフラムポンプが用いられる。
【0038】
配合原料を別々の入口1〜4(及び17)から供給すると、入口1及び2からの原料流が、まずT分岐24を経て混合され、次に導管23内の混合液体流は、入口3から到来する導管25内の原料流とT分岐27で混合される。最終的に、導管26内で得られた混合液体流は、入口4から到来した導管28内の原料流とT分岐29で混合され、出口43において、所望の液体混合物(例えば緩衝液)が得られる。任意で、図1の44で示すように、2カ所以上の出口を設けてもよい。
【0039】
図示の配合システムの構成は、例示にすぎず、様々な他のシステム構成も勿論可能であることは、当業者に容易に理解できよう。この構成は、例えば、導管の構成及び液体流を生じさせる手段に影響を与える。図示の場合は、液体を推進させるためにポンプを用いるが、吸入式(例えばポンプ駆出)や加圧式の液体タンク等、その他の手段を液の送給に用いてもよい。
【0040】
図1及び上記に示すシステムを用いて、2、3、4、又は任意でそれ以上の異なる原料を配合して、既定の特性を有する液体混合物を形成できる。配合されるその他の原料との相対比率は、典型的には、処方に従った比率で原料を配合する場合、所望の液体混合物を生成するための既知の所与の処方(即ち既定の混合比率)から得られる。異なる原料流が、フローセンサ32、33、34、35(及び36)によって検知され、センサ信号が適切な制御手段(図示せず)に送られ、この制御手段で、それぞれのポンプ9〜12を調節して、原料流を所望の混合比率にする。この制御は、「フローフィードバック制御」とも称される。
【0041】
例えば、所望のイオン強度及びpHを有する緩衝液を調製する場合、入口1に供給される原料が水(典型的には注射用蒸留水(WFI))で、入口2に供給される原料が塩溶液(典型的には塩化ナトリウム又は硫酸アンモニウム)で、入口3に供給される原料が酸性緩衝物質で、入口4に供給される原料が塩基性緩衝物質であり得る。
【0042】
異なる原料を混合するこの手順は例示に過ぎず、とりわけ液体どうしの混和性、物質の溶解性等に応じて変更可能である。
【0043】
任意で、種々の異なる原料タンクを、各入口1〜4(及び17)に配置してもよい。例えば、上記の例に照らして、入口2に対して、異なる塩類(又は塩混合物)の溶液及び/又は異なる塩濃度の塩溶液が入った複数のタンクを配置してもよい。同様に、入口3に対して、異なる酸性緩衝物質及び/又は1種類の緩衝物質を異なる濃度で含む複数のタンクを配置してもよく、入口4に対する塩基性緩衝物質の供給の場合も同様である。
【0044】
上記のように、緩衝液は(i)弱酸及び弱塩基から、或いは(ii)弱酸と強塩基、又は弱塩基と強酸から調製可能である。好ましくは、緩衝液の成分特性は、適合範囲内の2つの異なる濃度で同じ値を示してはならない。
【0045】
液配合システムを用いて生成され得る緩衝液には、幾つか例を挙げるだけでも、例えば、リン酸塩、アセテート、クエン酸塩、トリス緩衝液及びビス−トリス緩衝液がある。
【0046】
代替的に、入口3、4、及び17の1つ以上に、酸及び/又は塩基ではなく、有機溶剤を供給してもよい。かかる溶媒には、例えば、メタノール、エタノール、及びアセトニトリルがある。
【0047】
クロマトグラフィー緩衝液等の所望のpHを有する塩を含有する液体混合物を、濃度が判っている原料(任意で、pH及び/又はイオン強度が判っている原料)から調製するための配合処方を算出する場合、上述のように、混合液のイオン強度とpHの相互関係を考慮することが必要である。
【0048】
低濃度の緩衝液及び/又は塩では、改変したデバイ−ヒュッケル式を用いた逐次計算法に基づく、米国特許第6,221,250号(その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載の方法及び装置を用いて、成分の様々な比率を測定可能であり、その場合はデバイ−ヒュッケル式におけるイオンサイズパラメータの近似値を用いる。成分の比率は、混合液のpHとイオン強度との相互関係を考慮して、事前に選択したpHの混合液がいつでも得られるように、これに付随して変化する。
【0049】
高濃度の緩衝液及び塩にも使用可能な方法及び装置を改善したものが、「Preparation of liquid mixtures(液体混合物の調製)」と題される国際出願PCT/SE2009/050399に記載されている(その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
ここで、成分の相対比率は、デバイ−ヒュッケル式を用いて求められる。
【0050】
【数1】

式中、Aは定数、或いは温度依存パラメータ約0.51であり(AはA=0.4918+0.0007×T+0.000004×T2として厳密に算出され、式中のTは摂氏単位の温度である)、Zは、イオンの電荷であり、数量α、即ち水和イオンの半径(Å)は、「mean distance of approach of the ions, positive or negative(陽イオン又は陰イオンの平均接近距離)」(デバイ及びヒュッケルの原論文)であり、デバイ−ヒュッケル式におけるイオンサイズパラメータαを、液体混合物のイオン強度に寄与する全ての化学種の加重平均イオン径として求め、各化学種のイオン強度を重み付けパラメータとして用いる。具体的には、デバイ−ヒュッケル式のイオンサイズパラメータαは次式で求められる。
【0051】
【数2】

式中、Iiは、イオン強度であり、αiは化学種iのイオンサイズパラメータであり、Iは全イオン強度である。
【0052】
多くの場合、デバイ−ヒュッケル式におけるイオンサイズパラメータは、α=0.5×(質量)1/3+シェルとして近似され、式中「シェル」は、典型的には、正荷電イオン種では3.8〜4.2の範囲の値(例えば4.0)に固定され、負荷電イオン種では0〜0.2の範囲の値(例えば0)に固定される。
【0053】
混合比率を決定するための逐次法には、(i)液体混合物の既定のイオン強度を各化学種間の既定の分布に従って化学種に割り当て、成分の相対比率を決定し、(ii)(i)で決定された成分の相対比率に基づいて、混合液中の各イオン種のイオン強度を算出し、(iii)(ii)で算出されたイオン強度を考慮して、新たな成分の相対比率の組を決定し、(iv)所与の収束基準が満たされるまでステップ(ii)及び(iii)を繰り返すステップが含まれる。
【0054】
正確な混合比率をもたらし得るあらゆるその他の方法も、勿論使用可能である。
【0055】
図1に示すシステム及び適切な制御システムを用いて、所望の液体混合物を得るための処方(即ち混合比率)を、例えばコンピュータ手段及び専用のソフトウェアを備え得る制御手段にプログラムし、この制御手段で、各ポンプのアウトフロー中にフローセンサからのフィードバックを用いて、異なる原料の流れを調整し、液体流の所要の相対比率を得ることができる(即ちフローフィードバック制御)。
【0056】
また、センサ40〜42を用いて、導管26の液体流の所望の特性が正確で安定しているかを監視し、これに基づいてあらゆる偏差を表示できるように制御システムを構成して、導管26の出口43(及び44)からの流出液を任意で停止させることができる。代替的又は追加的に、センサからのフィードバックを用いて、液体流の組成(即ち混合比率)を微調整することもできる。
【0057】
クロマトグラフィーシステムに供する緩衝液その他の液体の調製を制御する場合、クロマトグラフィーシステム制御用のソフトウェアがあれば、それを用いてもよい。かかるソフトウェアの例として、Unicorn(商標)制御システム(GE Healthcare Bio−Sciences AB、スウェーデン、ウプサラ)があり、このシステムは、制御システムと一体になった、制御装置とコンピュータグラフィックユーザーインタフェースを備えた入出力インタフェースがベースのものである。
【0058】
原液の調製は、手作業でも、その他の手段でも行える。しかし、調製した原液の実際の成分濃度は、様々な理由から意図又は想定していた濃度とは異なる場合がある。例えば、調製のための処方が、手違いにより正しく行われておらず、原液が保管中に交換されていたり、無攪拌槽の原液が成分濃度の勾配を示していたりする場合がある。
【0059】
混合比率を決定する際に、確実に原液の正確な(又は、十分に厳密な)濃度(又は他の特性)が用いられるように、原液を混合する前に、各原液流に個別に測定を行う。
【0060】
図2及び図3は、原液の特性のかかるチェック又は測定を含む、本発明の方法の2つの代替的な実施形態を流れ図の形で示している。各実施形態による既定の特性を有する液体混合物を調製するための種々のステップを、これより図1に示すシステムにあてはめて説明する。限定目的ではなくあくまでも説明目的において、所望のイオン強度及びpHを有する緩衝液は、(i)酸(ii)塩基(iii)塩、及び(iv)水の既定の原液から調製されなければならないと考えられる。
【0061】
既定の原液に関して、制御システムは、典型的には上記のような1つの処方又は適切なアルゴリズムを用いることで、原液を混合して所望の液体混合物(緩衝液)を得る場合に遵守すべき相対比率をプログラム又は決定する。これらのデータを用いて、図1のシステムのポンプ等に対する制御パラメータを設定する。
【0062】
第1の実施形態では、図2に概説するように、原液流で行う測定を用いて、他の原液の濃度が所与の許容範囲内、即ち、既存の処方で得た原液の混合比率を用いる場合に許容可能と考えられる所与の限界内にあるかどうかを判定する。そのステップは次の通りである。
A. 原液(緩衝液成分)は、所与の式に従って(例えば、手作業で)調製される。図1を参照すると、入口1への原液を水、入口2への原液を塩溶液、入口3への原液を酸性の緩衝種、入口4への原液を塩基性の緩衝種とする。
B. 実際に混合手順を開始する前に、各原液に自動測定を行い、濃度及び/又は他の特性が実際に想定どおりであるかどうかをチェックする。一般的に、緩衝液及び塩溶液の濃度は、導電率を原液濃度の関数としてプロットする準備されたグラフを用いて導電率を測定することで測定される。代替的に、UV又はNIR測定により、濃度を測定することもできる。
【0063】
詳細には、図1を参照すると、コントロールシステムは各ポンプ9〜12を順次作動させて、各原液1〜4の流れを導管26へとポンプ送りし、各原液の1つ又は任意に複数の特性を、センサセット40〜42のセンサで検知する。例えば、導電率を、原液1(水)及び2(塩溶液)に対して、導電率センサ40を用いて測定し、原液3(酸)及び4(塩基)の導電率及び/又はpHを、導電率センサ40及びpHセンサ42を用いて測定してもよい。有機溶剤を含む原液を用いる必要がある場合、有機溶剤の濃度をUVセンサ41を用いて測定してもよい。
C. 原液に関するセンサの個々の計測データは、制御システムに送られ、導電率データを濃度に変換した後に該当するものがあれば、各原液の特性に関する正確な値を求めるためにこれらのデータを評価し、次いで、所与の濃度の原液を得るための混合比率の既存の処方に従って所望の緩衝液を調製する場合に、得られた値が条件を満たしていると考えられる所与の限界内にあるかどうかを判定する。
D. 原液に対して測定した正確な値が、所与の範囲外にある場合、問題の原液を調節するか、新たな原液を調製して、その原液に対して上記のステップA〜Cを繰り返す。
E. 原液に対して測定した正確な値が所与の範囲内にある場合、制御システムで図1のシステムのバルブ及びポンプを作動させて、既定のpH及びイオン強度を有する所望の緩衝液から成る混合液体流が導管26の出口43から得られる相対比率又は比率で混合する。フロー制御は、当該技術分野では慣例的な方法で、フローセンサからのフィードバックによりポンプ及び/又はバルブを制御することによっても可能である。
【0064】
代替的な実施形態では、図3に示すように、原液流に関する測定の結果を用いて、計算式或いは計算法に従って原液流の混合比率を算出する。そのステップは次の通りである。
A. 本ステップは、上記の図2における実施形態、即ち緩衝液成分の原液を準備する場合と同じである。
B. 本ステップは、上記の図2における実施形態、即ち原液の特性を原液流で測定する場合と同じである。
C. 原液に関するセンサの個々の計測データを制御システムに送り、導電率データを濃度に変換した後に該当するものがあれば、システムでこれらのデータを評価して各原液の特性に関する正確な値を求める。
D. 制御システムは、求められた正確な値から、例えば所与の式又は計算法を用いて、所望の特性を有する緩衝液を得るために必要な混合比率を自動的に算出する。
E. 制御システムは、図1のシステムのバルブ及びポンプを作動させて、既定のpH及びイオン強度を有する所望の緩衝液から成る混合液体流が導管26の出口43から得られる、算出された相対比率又は比率で原液流を混合する。
【0065】
任意で、上記の2つの代替的手法を組み合わせることもできる。即ち、第1の代替手法(図2)を1種以上の原液に用い、第2の代替手法(図3)を残りの原液に用いることができる。
【0066】
改変手法では、原液に想定される属性値に基づいて予備的な混合比率を算出し、次いでセンサベースの値を用いて、この予備的な混合比率を調節し、最終的な混合比率とする。
【0067】
上記のように、センサ40〜42(と、任意で37〜39)で、生成された緩衝液体流を監視して、液体流の所望の特性からの偏差を全て表示し、必要に応じて、制御システムを、例えば温度及び塩濃度の変化をフィードバック制御によって補償するように構成してもよい。
【0068】
任意で、原液の特性を監視し、連続的に混合比率を更新するように、センサを設置してもよい。
【0069】
少なくとも幾つかの事例において、上述のタイプの複数の配合システム、即ち2つ以上の配合モジュールを用いて、例えばクロマトグラフィーにおいて、第1の混合液体流を第1の配合モジュールにより準備する間に、第2の配合モジュールで第2の混合液体流を準備するための用意を行い、混合液を用いる際に混合液体流を実質的に中断せずに供給可能とすることが望ましい場合がある。
【0070】
本発明の配合方法及びシステムの実施形態について、以上に説明してきたが、これらの実施形態を好都合に用いて、インラインの緩衝液及びその他の液体を、本願と共に出願された本願出願人に係る同時係属出願「Separation system and mothod」に開示のタイプの分離システムに送達することができる。
【0071】
以下の実施例では、緩衝液の調製について記載する。
【実施例】
【0072】
リン酸緩衝液(pH6.5)30mMの調製
0.4MのNa2HPO4原液及びNaH2PO4原液を供給した。混合比率は、イオン強度によるpKa値の変化を考慮し、基本的に上記で更に説明した方法で、独自のアルゴリズム(GE Healthcare Bio−Sciences AB、スウェーデン、ウプサラ)を用いて平衡方程式を解くことにより算出された。
【0073】
次いで、基本的に図1に記載の(ダイヤフラムポンプを使用した)システムに対応する液配合システムを用いて、制御システム(Unicorn(商標))にプログラムされている混合比率を有する所望の緩衝液の液体流を、2つの異なる流量600L/hと280L/hでそれぞれ調製した。調製された緩衝液の流れ、導電率、及びpHを、連続的に監視した。監視の結果を図4に示しており、図中の曲線αは混合流、曲線bはpH、曲線cは導電率を示す。グラフから明らかなように、所望のpH及び導電率を有する安定した緩衝液体流を生成する効率的な混合を、両流量において短時間で得ることができた。
【0074】
本発明が上記の好適な実施形態に限定されることはない。様々な改変、修正、及び等価物を用いることができる。したがって、上記の実施形態は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により定義されるものと理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の異なる成分の原液流を相互に混合することによって、既定の特性を有する液体流を調製する方法であって、
各原液流中の原液に関する属性値と関連する1以上の特性を個別に検知することによって、1種以上の原液に対する所定の属性値を求めるステップと、
求めた属性値に基づいて、原液流を所望の混合液体流をもたらす混合比率で混合するステップと
を含む方法。
【請求項2】
検知した各原液で求めた属性値が、所与の混合比率の原液流を用いて所望の混合液体流が得られる所与の許容範囲内にあることを検証するステップと、所与の混合比率で原液流を混合するステップとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
検知した各原液で求めた属性値を用いて、所望の混合液体流が得られる原液流の混合比率を算出するステップと、算出した比率で原液流を混合するステップとを含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
求めた属性値が濃度である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
1以上の検知された特性が、導電率、pH、紫外線、及び近赤外線から選択される、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
属性値が濃度であり、属性値に関連する特性が導電率であり、導電率と濃度との所与の関係を用いて導電率から濃度を求める、請求項5記載の方法。
【請求項7】
混合液体流の既定の特性が、濃度、pH、イオン強度、及び導電率から選択される、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
フローフィードバック制御を用いて各原液流を制御する、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
調製された液体流が、既定のpH及びイオン強度を有する緩衝液である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
酸、塩基、塩の原液と水とを混合する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
(i)酸が弱酸であり、塩基が弱塩基又は強塩基、好ましくは弱塩基であるか、或いは(ii)塩基が弱塩基であり、酸が弱酸又は強酸、好ましくは弱酸である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項2の方法が1以上の原液に用いられ、請求項3の方法が1以上の原液に用いられる、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
液体混合物調製システムであって、
成分原液用のそれぞれの容器に各々接続されている、混合液用の1以上の出口及び複数の入口と、
各原液の流れをそれぞれの入口に送給する手段と、
出口で既定の特性を有する混合液体流が得られるように、入口から供給された原液の相対比率を制御するように構成されている制御装置と、
各原液流の1以上の特性を検知可能なセンサ手段と
を備えており、制御装置が、センサ手段で検知された特性を評価し、既定の特性を有する混合液体流を得るために必要な原液の相対混合比率を与えるように構成されている、システム。
【請求項14】
検知した各原液で求めた属性値が、所与の処方を用いて所望の混合液体流が得られる混合比率が可能な許容範囲内にあることを、制御装置がチェックするように構成されている、請求項13記載のシステム。
【請求項15】
制御装置が、検知した各原液で求めた属性値から、所望の混合液体流を与える原液流の混合比率を算出するように構成されている、請求項13記載のシステム。
【請求項16】
液体の入口及び出口、送液手段、並びにセンサ手段の構成を少なくとも2組備える、請求項13乃至請求項15のいずれか1項記載の液体混合物調製システム。
【請求項17】
請求項13乃至請求項16のいずれか1項記載の液体混合物の調製システムを備える、分離システム。
【請求項18】
液体クロマトグラフィーシステム及び濾過システムの少なくとも1つを備える、請求項15記載の分離システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−506128(P2013−506128A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530845(P2012−530845)
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【国際出願番号】PCT/SE2010/051023
【国際公開番号】WO2011/037530
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】