液体混合装置
【課題】 短時間で効率的な液体の混合をなし得、小型集積化が可能な液体混合装置を提供すること。
【解決手段】 液体を搬送するための流路と、該流路内に設けられた導電性部材と該導電性部材に電界を与える電極とを備え前記電界により前記流路内に前記液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、前記流路の端部に接続され前記流路に沿った方向の前記液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、前記渦流と前記方向性流れとを切り替える切り替え手段と、を有する液体混合装置。
【解決手段】 液体を搬送するための流路と、該流路内に設けられた導電性部材と該導電性部材に電界を与える電極とを備え前記電界により前記流路内に前記液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、前記流路の端部に接続され前記流路に沿った方向の前記液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、前記渦流と前記方向性流れとを切り替える切り替え手段と、を有する液体混合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ上で化学分析や化学合成を行う小型化学分析・合成システム等に適用可能な液体混合装置に関し、具体的には、誘起電荷電気浸透を用いた液体混合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気浸透を用いるマイクロポンプは、構造が比較的簡単である、微小流路(マイクロ流路)内への実装が容易、等の理由でμTAS(Micro‐Total Analysis System)等の分野で使用されている。
【0003】
こうした中、近年、誘起電荷電気浸透(ICEO:Induced‐Charge Electro Osmosis)を用いたマイクロポンプが、液体の流速を大きくできる、電極と液体の間に生ずる化学反応をAC駆動が可能なことにより抑制できる等の理由から着目されている。
【0004】
特許文献1及び非特許文献1は、誘起電荷電気浸透を用いたミキサ(混合装置)であって、円柱金属ポストのまわりのICEO流れによる渦を利用したマイクロミキサを開示する。
【0005】
非特許文献2では、円柱金属ポストに垂直電界と斜め電界を交互に印加し、2つの渦流を交互に切り替えるミキサを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7081189号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Z.Bazant and T.M.Squires,Phys.Rev.Lett.92,066101(2004)
【非特許文献2】H.Zhao and H.Bau,Phys.Rev.E 75 066217(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
微小流路の中では、レイノルズ数が低いために乱流による混合が期待できず、混合は分子拡散によるものが主となる。
【0009】
このため特許文献1や非特許文献1に開示されたICEO流れによる渦をマイクロ流路中で発生させるものでは、十分な混合を得るのに必要な時間、及び、必用な流路長が比較的長くなるという問題が生ずる。
【0010】
一方、非特許文献2に記載のミキサでは、流路壁面に対して斜め方向に傾いた斜め電界を必要とするために、実際に装置を構成しようとすると、電極配置にそれなりの工夫を必用とし小型集積化が困難となるおそれがある。
【0011】
本発明は、短時間で効率的な液体の混合をなし得、小型集積化が可能な液体混合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により提供される液体混合装置は、液体を搬送するための流路と、該流路内に設けられた導電性部材と該導電性部材に電界を与える電極とを備え前記電界により前記流路内に前記液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、前記流路に沿った方向の前記液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、前記渦流と前記方向性流れとを切り替える切り替え手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液体混合装置は、流路内に液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、流路の端部に接続され流路に沿った方向の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、これら手段の切り替え手段を有し、渦流と方向性流れとを切り替えることが可能となる。これにより、短時間で効率的な液体の混合が可能となる。さらに、斜め電界を必用とせず、小型集積化が容易な液体混合装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明の液体混合装置の一例を示す模式図、(b)は切り替え手段による駆動切り替えのタイミング例を示すタイミングチャート
【図2】本発明の液体混合装置における液体の流速分布を示す図
【図3】ある時間における本発明の液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図4】ある時間における本発明の液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図5】ある時間における本発明の液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図6】ある時間における本発明の液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図7】混合係数とストローハル数との関係を示すグラフ
【図8】混合時間とストローハル数との関係を示すグラフ
【図9】混合時間とストローハル数との関係を示すグラフ
【図10】本発明の液体混合装置の一例を示す模式図
【図11】比較例における液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図12】液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図13】本発明の液体混合装置の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の液体混合装置について、図を参照して説明する。
【0016】
本発明に係る液体混合装置は、液体を搬送するための流路と、該流路内に設けられた導電性部材と該導電性部材に電界を与える電極とを備え前記電界により前記流路内に前記液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、前記流路に沿った方向の前記液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、前記渦流と前記方向性流れとを切り替える切り替え手段と、を有することを特徴とする。
【0017】
図1は本発明の液体混合装置の一例を示す模式図である。
【0018】
図1において、5は液体を搬送するための流路(長さL、幅w、深さd2(>w))、3は流路内に設けられた導電性部材、4は電極1及び2に接続されており、導電性部材3に電界を与える電源である。ここで電極1、2と電源4と、導電性部材3とは、流路内に液体の渦流を生じさせる渦流発生手段を構成する。
【0019】
8a及び8bは流路5内に該流路(流路の延びる方向)に沿った方向の液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段としてポンプであり、このポンプを作動させることで流路の入口と出口における液体に圧力差ΔPを生じさせる。9は渦流発生手段と方向性流れ発生手段とを切り替える切り替え手段である。
【0020】
図1の装置においては、電極1及び2間に電圧を印加することで電界が生じ、この電界により導電性部材3の表面に電荷が誘起される。誘起された電荷に液体中の帯電成分(陽イオン、負イオン等)が吸い寄せられて、所謂、電気二重層が形成される。誘起される電荷と対をなして形成される電気二重層部分に起こる電気浸透流に起因して渦流が発生する。
【0021】
本発明の液体混合装置では、流路内に主に発生する液体の流れとして渦流と方向性流れとを切り替えることにより短時間で効率的な液体の混合が可能となる。
【0022】
導電性部材を構成する材料は、電界により電荷を誘起する材料が用いられ、金属(例えば、金、白金)の他、炭素や炭素系の材料等が挙げられる。しかしこの部材についても搬送する液体に対して安定な材料で構成するのが好適である。
【0023】
また、流路内に設けられる導電性部材の数は、効率的に渦流を発生させるためには複数とするのが好ましく、流路の長さと導電性部材の大きさ、搬送する液体の粘性等を考慮して選択することができる。
【0024】
導電性部材の配置は、流路の中心を境として、液体の搬送される方向に関して、ジグザグ状に配置することが渦流の効率的観点から好ましい。図1では流路の中心を境に2個づつ、計4個を配したが、個数は適宜選択することができる。
【0025】
導電性部材に電界を与える電極は、図1では対向する一対の電極1及び2が設けられているが、導電性部材に電荷が効果的に誘起できる配置であれば、3個あるいは4個以上を配置することも可能である。電極を構成する材料としては、金属等からなる一般的な電極材料の他、金、白金、炭素、炭素系導電体等が挙げられる。また、図1では、渦流発生用の電源としてAC(交流)電源が用いて電界を用いて駆動する例を示しているが、DC(直流)電源を用いることも可能である。
【0026】
本発明において、流路に沿った方向の流れを発生させる方向性流れ発生手段には、各種ポンプを採用することができるがμTAS(マイクロトータルアナリシスシステム)等の分野で一般的に使用されるダイアフラムポンプ、圧電アクチュエータポンプ、電気泳動ポンプ、電気浸透ポンプ等のマイクロポンプを用いるのが好ましい。
【0027】
方向性流れ発生手段(ポンプ)と渦流発生手段との切り替え手段は、例えば、2つのチャンネルを持つ任意波形発生器を用いて構成することができる。
【0028】
この発生器は、例えば、最大値を5V(ON状態)、最小値を0V(OFF状態)とする矩形波(ゲートパルス)をチャンネル1とチャンネル2で逆位相に発生させるものであり、方向性流れ発生手段はチャンネル1のゲートパルスに応じてON状態またはOFF状態に制御されるインターフェースを持ち、渦流発生手段は方向性流れ発生手段はチャンネル2のゲートパルスに応じてON状態またはOFF状態に制御されるインターフェースを持つことになる。
【0029】
もちろん、チャンネル2のON状態期間のピーク駆動電圧(+V0,−V0)と周波数を適宜調整して、直接、AC電圧を電極に接続してもかまわない。また、小型システムを構成する観点から切り替え替え手段に含まれる電気回路部をICチップに集積することも可能である。
【0030】
本発明において、流体を搬送する流路は、μTAS等の分野で一般的に使用される材料で構成することができる。具体的には、搬送する液体に対して安定な材料で構成でき、そのような材料としては、SiO2、Si、フッ素樹脂、高分子樹脂等が挙げられる。
【0031】
流路の大きさは、所謂、マイクロリアクターとして使用され得る大きさとするのが好ましい。具体的な流路幅として好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、望ましくは200μm以下である。流路幅が狭くなるにつれ、液体の拡散距離が短くなり、混合時間の短縮、反応時間の短縮につながる。また、流路の深さについては、混合させる液体同士の接触面積を広くさせるという観点から流路幅よりも深い(大きい)ことが好ましい。具体的には、深さ/流路幅は0.1以上、より好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上最適には2以上が好ましい。さらに深さ/流路幅が大きくなることは流路の断面積が大きくなり多くの流体が流せるという効果も奏する。
【0032】
本発明において、流路内を搬送可能な液体は、基本的には、帯電成分を含有する極性分子を含むものであり、水や、各種電解質を含む溶液等が挙げられる。
【0033】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0034】
図1は、実施例1の混合装置を示す断面図である。同図において、1及び2は一対の電極、3は導電性部材、4は電源、5は幅w(=100μm)、長さL(=225μm)、深さd2(>w)の流路であり、流路5には水や電解質水溶液など分極可能な溶液が充たされている。ここで、一対の電極1、2はDCまたはAC電界を流路に印加する手段である。電極1、2と電源4と、導電性部材3とは、流路内に液体の渦流を生じさせる渦流発生手段を構成する。
【0035】
また、8a、8bは流路5の端部に接続され流路に沿った方向の流れを発生させる方向性流れ発生手段としてのポンプである。
【0036】
9は、方向性流れ発生手段8a、8bによって発生する方向性流れと、渦流発生手段によって発生する渦流と、を交互に切り替える切り替え手段である。
【0037】
本発明では、2種の流れを切り替えることにより混合に必要な流路長及び時間を短縮し、斜め電界のいらない小型集積化が容易な高性能な液体混合装置(マイクロミキサ)を提供できる。
【0038】
ここで、渦流発生手段は流路5内に配した導電性部材3と、導電性部材3に電界を与える電極1、2と、を備え、電界により導電構造体3に誘起される電荷と対をなして形成される電気二重層部分に起こる電気浸透流(ICEO)を用いる。ICEO流れによる渦流を利用するため、渦流の流れ速度を大きくできるとともに、AC駆動可能なためにDCの場合に問題となる化合物の分解等を回避できる効果がある。
【0039】
本実施例では、導電性部材3は、半径c(直径2c)の円柱で構成されている。図1において、φは、円柱上の位置を表すパラメータであり、Eは電極に垂直な垂直電界を示す。また、4つの円柱の位置は(xi,yi)(i=1,2,3,4)で示され、2δ(=d0)は、円柱配置のx方向の間隔を示す。
【0040】
つまり、流路下部の円柱のx位置は、x1=x3=0.5w+δ、流路上部の円柱のx位置は、x2=x4=0.5w−δ、y1/w=0.45,y2/w=0.9、y3/w=1.35、y4/w=1.8である。
【0041】
また、図1(b)は、方向性流れ発生手段による駆動と、渦流発生手段による駆動と、の切り替えのタイムチャートであり、T1は、方向性流れ発生手段による圧力差(流路の入口と出口の圧力差)印加期間である。また、T2は渦流発生手段によるAC電圧印加期間である。T=T1+T2は、切り替え周期を示す。
【0042】
図2は、本実施例の装置の流速分布の計算図であり、図2(a)は方向性流れ発生手段8a、8bによって発生する方向性流れの流速分布図、図2(b)は、渦流発生手段によって発生する渦流の流速分布図である。
【0043】
ここでの計算値は誘起電荷浸透効果を考慮したストークス流体方程式を用いた計算による。
c/w=0.1、δ/w=0.3、方向性流れ発生手段による流路の入口と出口の圧力差ΔP=2.4Pa(圧力勾配ΔP/L)、w=100μm、L/w=2.25、渦流発生手段の印加電圧V0=2.38Vとして計算している。
【0044】
図3、図4、図5及び図6は、周期境界を使って計算した液体混合装置中の液体の位置を示す図である。図1におけるLq1とLq2を流路5の入口部に流入する2種の液体を図3(t=0)において、31、32として示し、この2種の液体の経時的な位置変化を図4(t=100ms)、図5(t=200ms)、図6(t=500ms)で示している。図6より500ms程度の時間で2種の液体が良好に混合することが理解される。ここで、方向性流れ発生期間及び渦流発生期間は、T/2=20msとした。
【0045】
また、図7は、定量的に混合を評価する手法であるボックス計測法によって定義された十分に時間が経過した後の液体の混ざり具合を表わす混合係数(ε3,max)のストローハル数St1=fd1/U1、St0=fd0/U0依存性を示すグラフ(計算図)である。
【0046】
ここで、ストローハル数は時間変化による慣性力と場所移動による慣性力の無次元数であり、fは切り替え周波数、d1は渦流の前記流路に沿った方向の幅、d0は渦流の流路に沿った方向と垂直な方向の幅、U1は流路に沿った方向の液体の平均流速、U0は渦流の前記垂直な方向の速度を、それぞれ示している。
【0047】
混合係数は
【0048】
【数1】
で定義される。
【0049】
ただし、ni<naveの場合ωi=ni/nave、その他の場合ωi=1である。また、nave=N3/K、N3=(N1N2)0.5,ni=(n1n2)0.5であり、n1,n2は仮想粒子1,2のボックス内の数、N1=N2=20X40=800は仮想流体粒子1、2の総数、K=10X20=200は評価ボックスの数を示す。
【0050】
ここで、ωi=ni/naveは平均粒子数以下のボックスで低い値となり、平均粒子数以上の過剰粒子数のボックスで1となり、よく混合されているとみなされる(ε3が1に近づくほど良好な混合を示し、0に近づくと混合がなされていない)。それゆえ、2種の液体31、32の仮想粒子が流路全体に均一に広がるにつれて、混合係数は1に近づき、全体としてよく混合した状態を示す。
【0051】
図7から、St1=fd1/U1<1、St0=fd0/U0<1で良好な混合が得られることが理解される。
【0052】
また、図8は混合時間tmとストローハル数の関係、図9は混合距離Lmとストローハル数の関係を示す。
【0053】
図8、図9より、St1=fd1/U1<1、St0=fd0/U0<1なる条件で、tmは〜1s程度、Lmは〜1mm程度であり、短い時間と距離で十分な混合が起きることが分かる。ただし、T0=1msである。また、実線、破線、点線は、切り替え時間をT/(2T0)=20,40,80としたときの単純モデルによる解析解である。また、混合距離は、図3のように周期条件を使わない実際の流路で必要となる距離であり、Lm=U1tmである。
【0054】
通常、流路幅100μm程度の流路内では混合時間は60s程度以上、混合流路長は1cm程度必要と言われるため、本発明により、大幅に混合時間及び混合流路長を短くできることがわかる。また、計算ではレイノルズ数がゼロ、及び、ピクレー数が無限大の極限を考えた。ここでピクレー数は拡散係数に関係する無次元数であって、ピクレー数が無限大のときに拡散係数は0となる。
【0055】
本発明では、複数種の流れを切り替えるカオス混合を用いているために、レイノルズ数が極めて低く、ピクレー数が大きい場合にも効果があることが分かる。
【0056】
また、本発明の液体混合装置は、レイノルズ数が低く、乱流による混合が期待できないマイクロ流体システムにおいて、極めて有用である。本発明の液体混合装置は、マイクロ流体システムが適用可能な種々の分野に適用可能であり、具体的には、DNAやタンパク質の解析、細胞のソーティング、ハイスループットスクリーニング、化学反応、微小量(1−100nl)の移動手段等に利用可能である。
【0057】
DNAやタンパク質、あるいは細胞では、分子量が大きいために、拡散係数が小さくなり、システムのピクレー数が極めて大きくなるため、ピクレー数が無限大でも効果を発揮する本発明の混合装置は、極めて有用となる。さらに、化学分析等に利用されるマイクロ流体デバイスには、通常、使い捨てができるように高価でなく、単純な構造のものが望まれるため、この点でも、本発明は好適な混合装置となり得る。
【0058】
(比較例1)
図11、図12は、渦流と方向性流れを切り替えずに同時に発生させた場合の液体混合装置中の液体の位置を示す図である。
【0059】
これらの図において、混合させる2種の液体を801と802として示しており、経時的な位置変化を図11(a)(t=0ms)、図11(b)(t=100ms)図12(a)(t=200ms)、図12(b)(t=500ms)で示している。
【0060】
これらの図より、切り替えなしの本例の装置では、実施例1に示した装置と異なり、時間経過と共に良好な混合は得られないことが理解される。
【0061】
すなわち、分子拡散が極めて小さい場合には、渦流と方向性流れを切り替えないと良好な混合は生じない。
【実施例2】
【0062】
図9は、本発明の実施例2の液体混合装置の特徴を示す図である。本実施例の装置は、実施例1に示した方向性流れ発生手段8a、8b(ポンプ)に代えて、方向性流れ発生手段61a及び61bを有することが特徴である。
【0063】
方向性流れ発生手段61a及び61bは、それぞれ楕円型の導電性部材13a、13bを挟んだ位置に、該導電性部材に電界を付与することで発生する液体の流れの内、逆方向の流れを抑制する抑制部材65a及び65bを配置して構成されている。
【0064】
62は実施例1に示したのと同様の渦流発生手段である。
【0065】
本実施例の装置は、渦流発生手段62に接続された電源、方向性流れ発生手段61a及び61bにそれぞれ接続された電源が切り替え手段9に接続され、液体の流れを制御できるようになっている。
【0066】
この装置では、図9の左側より右側に向かう流体の流れを順方向として、方向性流れ発生装置61aによる順方向流れ、渦流発生手段62による渦流、方向性流れ発生装置61bによる逆方向流れ、渦流発生手段62による渦流の順に液体の流れを順次生じさせることが(交互に切り替え)可能となる。
【0067】
こうした切り替えを行う本実施例の装置では、実質的な流路長を3L=6.75μm程度に大幅に縮小できる。
【符号の説明】
【0068】
1 電極
3 13a 13b 導電性部材
8a 8b 61a 61b 方向性流れ発生手段
62 渦流発生手段
9 切り替え手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ上で化学分析や化学合成を行う小型化学分析・合成システム等に適用可能な液体混合装置に関し、具体的には、誘起電荷電気浸透を用いた液体混合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気浸透を用いるマイクロポンプは、構造が比較的簡単である、微小流路(マイクロ流路)内への実装が容易、等の理由でμTAS(Micro‐Total Analysis System)等の分野で使用されている。
【0003】
こうした中、近年、誘起電荷電気浸透(ICEO:Induced‐Charge Electro Osmosis)を用いたマイクロポンプが、液体の流速を大きくできる、電極と液体の間に生ずる化学反応をAC駆動が可能なことにより抑制できる等の理由から着目されている。
【0004】
特許文献1及び非特許文献1は、誘起電荷電気浸透を用いたミキサ(混合装置)であって、円柱金属ポストのまわりのICEO流れによる渦を利用したマイクロミキサを開示する。
【0005】
非特許文献2では、円柱金属ポストに垂直電界と斜め電界を交互に印加し、2つの渦流を交互に切り替えるミキサを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7081189号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Z.Bazant and T.M.Squires,Phys.Rev.Lett.92,066101(2004)
【非特許文献2】H.Zhao and H.Bau,Phys.Rev.E 75 066217(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
微小流路の中では、レイノルズ数が低いために乱流による混合が期待できず、混合は分子拡散によるものが主となる。
【0009】
このため特許文献1や非特許文献1に開示されたICEO流れによる渦をマイクロ流路中で発生させるものでは、十分な混合を得るのに必要な時間、及び、必用な流路長が比較的長くなるという問題が生ずる。
【0010】
一方、非特許文献2に記載のミキサでは、流路壁面に対して斜め方向に傾いた斜め電界を必要とするために、実際に装置を構成しようとすると、電極配置にそれなりの工夫を必用とし小型集積化が困難となるおそれがある。
【0011】
本発明は、短時間で効率的な液体の混合をなし得、小型集積化が可能な液体混合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により提供される液体混合装置は、液体を搬送するための流路と、該流路内に設けられた導電性部材と該導電性部材に電界を与える電極とを備え前記電界により前記流路内に前記液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、前記流路に沿った方向の前記液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、前記渦流と前記方向性流れとを切り替える切り替え手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液体混合装置は、流路内に液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、流路の端部に接続され流路に沿った方向の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、これら手段の切り替え手段を有し、渦流と方向性流れとを切り替えることが可能となる。これにより、短時間で効率的な液体の混合が可能となる。さらに、斜め電界を必用とせず、小型集積化が容易な液体混合装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明の液体混合装置の一例を示す模式図、(b)は切り替え手段による駆動切り替えのタイミング例を示すタイミングチャート
【図2】本発明の液体混合装置における液体の流速分布を示す図
【図3】ある時間における本発明の液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図4】ある時間における本発明の液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図5】ある時間における本発明の液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図6】ある時間における本発明の液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図7】混合係数とストローハル数との関係を示すグラフ
【図8】混合時間とストローハル数との関係を示すグラフ
【図9】混合時間とストローハル数との関係を示すグラフ
【図10】本発明の液体混合装置の一例を示す模式図
【図11】比較例における液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図12】液体混合装置中の液体の位置を示す図
【図13】本発明の液体混合装置の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の液体混合装置について、図を参照して説明する。
【0016】
本発明に係る液体混合装置は、液体を搬送するための流路と、該流路内に設けられた導電性部材と該導電性部材に電界を与える電極とを備え前記電界により前記流路内に前記液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、前記流路に沿った方向の前記液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、前記渦流と前記方向性流れとを切り替える切り替え手段と、を有することを特徴とする。
【0017】
図1は本発明の液体混合装置の一例を示す模式図である。
【0018】
図1において、5は液体を搬送するための流路(長さL、幅w、深さd2(>w))、3は流路内に設けられた導電性部材、4は電極1及び2に接続されており、導電性部材3に電界を与える電源である。ここで電極1、2と電源4と、導電性部材3とは、流路内に液体の渦流を生じさせる渦流発生手段を構成する。
【0019】
8a及び8bは流路5内に該流路(流路の延びる方向)に沿った方向の液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段としてポンプであり、このポンプを作動させることで流路の入口と出口における液体に圧力差ΔPを生じさせる。9は渦流発生手段と方向性流れ発生手段とを切り替える切り替え手段である。
【0020】
図1の装置においては、電極1及び2間に電圧を印加することで電界が生じ、この電界により導電性部材3の表面に電荷が誘起される。誘起された電荷に液体中の帯電成分(陽イオン、負イオン等)が吸い寄せられて、所謂、電気二重層が形成される。誘起される電荷と対をなして形成される電気二重層部分に起こる電気浸透流に起因して渦流が発生する。
【0021】
本発明の液体混合装置では、流路内に主に発生する液体の流れとして渦流と方向性流れとを切り替えることにより短時間で効率的な液体の混合が可能となる。
【0022】
導電性部材を構成する材料は、電界により電荷を誘起する材料が用いられ、金属(例えば、金、白金)の他、炭素や炭素系の材料等が挙げられる。しかしこの部材についても搬送する液体に対して安定な材料で構成するのが好適である。
【0023】
また、流路内に設けられる導電性部材の数は、効率的に渦流を発生させるためには複数とするのが好ましく、流路の長さと導電性部材の大きさ、搬送する液体の粘性等を考慮して選択することができる。
【0024】
導電性部材の配置は、流路の中心を境として、液体の搬送される方向に関して、ジグザグ状に配置することが渦流の効率的観点から好ましい。図1では流路の中心を境に2個づつ、計4個を配したが、個数は適宜選択することができる。
【0025】
導電性部材に電界を与える電極は、図1では対向する一対の電極1及び2が設けられているが、導電性部材に電荷が効果的に誘起できる配置であれば、3個あるいは4個以上を配置することも可能である。電極を構成する材料としては、金属等からなる一般的な電極材料の他、金、白金、炭素、炭素系導電体等が挙げられる。また、図1では、渦流発生用の電源としてAC(交流)電源が用いて電界を用いて駆動する例を示しているが、DC(直流)電源を用いることも可能である。
【0026】
本発明において、流路に沿った方向の流れを発生させる方向性流れ発生手段には、各種ポンプを採用することができるがμTAS(マイクロトータルアナリシスシステム)等の分野で一般的に使用されるダイアフラムポンプ、圧電アクチュエータポンプ、電気泳動ポンプ、電気浸透ポンプ等のマイクロポンプを用いるのが好ましい。
【0027】
方向性流れ発生手段(ポンプ)と渦流発生手段との切り替え手段は、例えば、2つのチャンネルを持つ任意波形発生器を用いて構成することができる。
【0028】
この発生器は、例えば、最大値を5V(ON状態)、最小値を0V(OFF状態)とする矩形波(ゲートパルス)をチャンネル1とチャンネル2で逆位相に発生させるものであり、方向性流れ発生手段はチャンネル1のゲートパルスに応じてON状態またはOFF状態に制御されるインターフェースを持ち、渦流発生手段は方向性流れ発生手段はチャンネル2のゲートパルスに応じてON状態またはOFF状態に制御されるインターフェースを持つことになる。
【0029】
もちろん、チャンネル2のON状態期間のピーク駆動電圧(+V0,−V0)と周波数を適宜調整して、直接、AC電圧を電極に接続してもかまわない。また、小型システムを構成する観点から切り替え替え手段に含まれる電気回路部をICチップに集積することも可能である。
【0030】
本発明において、流体を搬送する流路は、μTAS等の分野で一般的に使用される材料で構成することができる。具体的には、搬送する液体に対して安定な材料で構成でき、そのような材料としては、SiO2、Si、フッ素樹脂、高分子樹脂等が挙げられる。
【0031】
流路の大きさは、所謂、マイクロリアクターとして使用され得る大きさとするのが好ましい。具体的な流路幅として好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、望ましくは200μm以下である。流路幅が狭くなるにつれ、液体の拡散距離が短くなり、混合時間の短縮、反応時間の短縮につながる。また、流路の深さについては、混合させる液体同士の接触面積を広くさせるという観点から流路幅よりも深い(大きい)ことが好ましい。具体的には、深さ/流路幅は0.1以上、より好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上最適には2以上が好ましい。さらに深さ/流路幅が大きくなることは流路の断面積が大きくなり多くの流体が流せるという効果も奏する。
【0032】
本発明において、流路内を搬送可能な液体は、基本的には、帯電成分を含有する極性分子を含むものであり、水や、各種電解質を含む溶液等が挙げられる。
【0033】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0034】
図1は、実施例1の混合装置を示す断面図である。同図において、1及び2は一対の電極、3は導電性部材、4は電源、5は幅w(=100μm)、長さL(=225μm)、深さd2(>w)の流路であり、流路5には水や電解質水溶液など分極可能な溶液が充たされている。ここで、一対の電極1、2はDCまたはAC電界を流路に印加する手段である。電極1、2と電源4と、導電性部材3とは、流路内に液体の渦流を生じさせる渦流発生手段を構成する。
【0035】
また、8a、8bは流路5の端部に接続され流路に沿った方向の流れを発生させる方向性流れ発生手段としてのポンプである。
【0036】
9は、方向性流れ発生手段8a、8bによって発生する方向性流れと、渦流発生手段によって発生する渦流と、を交互に切り替える切り替え手段である。
【0037】
本発明では、2種の流れを切り替えることにより混合に必要な流路長及び時間を短縮し、斜め電界のいらない小型集積化が容易な高性能な液体混合装置(マイクロミキサ)を提供できる。
【0038】
ここで、渦流発生手段は流路5内に配した導電性部材3と、導電性部材3に電界を与える電極1、2と、を備え、電界により導電構造体3に誘起される電荷と対をなして形成される電気二重層部分に起こる電気浸透流(ICEO)を用いる。ICEO流れによる渦流を利用するため、渦流の流れ速度を大きくできるとともに、AC駆動可能なためにDCの場合に問題となる化合物の分解等を回避できる効果がある。
【0039】
本実施例では、導電性部材3は、半径c(直径2c)の円柱で構成されている。図1において、φは、円柱上の位置を表すパラメータであり、Eは電極に垂直な垂直電界を示す。また、4つの円柱の位置は(xi,yi)(i=1,2,3,4)で示され、2δ(=d0)は、円柱配置のx方向の間隔を示す。
【0040】
つまり、流路下部の円柱のx位置は、x1=x3=0.5w+δ、流路上部の円柱のx位置は、x2=x4=0.5w−δ、y1/w=0.45,y2/w=0.9、y3/w=1.35、y4/w=1.8である。
【0041】
また、図1(b)は、方向性流れ発生手段による駆動と、渦流発生手段による駆動と、の切り替えのタイムチャートであり、T1は、方向性流れ発生手段による圧力差(流路の入口と出口の圧力差)印加期間である。また、T2は渦流発生手段によるAC電圧印加期間である。T=T1+T2は、切り替え周期を示す。
【0042】
図2は、本実施例の装置の流速分布の計算図であり、図2(a)は方向性流れ発生手段8a、8bによって発生する方向性流れの流速分布図、図2(b)は、渦流発生手段によって発生する渦流の流速分布図である。
【0043】
ここでの計算値は誘起電荷浸透効果を考慮したストークス流体方程式を用いた計算による。
c/w=0.1、δ/w=0.3、方向性流れ発生手段による流路の入口と出口の圧力差ΔP=2.4Pa(圧力勾配ΔP/L)、w=100μm、L/w=2.25、渦流発生手段の印加電圧V0=2.38Vとして計算している。
【0044】
図3、図4、図5及び図6は、周期境界を使って計算した液体混合装置中の液体の位置を示す図である。図1におけるLq1とLq2を流路5の入口部に流入する2種の液体を図3(t=0)において、31、32として示し、この2種の液体の経時的な位置変化を図4(t=100ms)、図5(t=200ms)、図6(t=500ms)で示している。図6より500ms程度の時間で2種の液体が良好に混合することが理解される。ここで、方向性流れ発生期間及び渦流発生期間は、T/2=20msとした。
【0045】
また、図7は、定量的に混合を評価する手法であるボックス計測法によって定義された十分に時間が経過した後の液体の混ざり具合を表わす混合係数(ε3,max)のストローハル数St1=fd1/U1、St0=fd0/U0依存性を示すグラフ(計算図)である。
【0046】
ここで、ストローハル数は時間変化による慣性力と場所移動による慣性力の無次元数であり、fは切り替え周波数、d1は渦流の前記流路に沿った方向の幅、d0は渦流の流路に沿った方向と垂直な方向の幅、U1は流路に沿った方向の液体の平均流速、U0は渦流の前記垂直な方向の速度を、それぞれ示している。
【0047】
混合係数は
【0048】
【数1】
で定義される。
【0049】
ただし、ni<naveの場合ωi=ni/nave、その他の場合ωi=1である。また、nave=N3/K、N3=(N1N2)0.5,ni=(n1n2)0.5であり、n1,n2は仮想粒子1,2のボックス内の数、N1=N2=20X40=800は仮想流体粒子1、2の総数、K=10X20=200は評価ボックスの数を示す。
【0050】
ここで、ωi=ni/naveは平均粒子数以下のボックスで低い値となり、平均粒子数以上の過剰粒子数のボックスで1となり、よく混合されているとみなされる(ε3が1に近づくほど良好な混合を示し、0に近づくと混合がなされていない)。それゆえ、2種の液体31、32の仮想粒子が流路全体に均一に広がるにつれて、混合係数は1に近づき、全体としてよく混合した状態を示す。
【0051】
図7から、St1=fd1/U1<1、St0=fd0/U0<1で良好な混合が得られることが理解される。
【0052】
また、図8は混合時間tmとストローハル数の関係、図9は混合距離Lmとストローハル数の関係を示す。
【0053】
図8、図9より、St1=fd1/U1<1、St0=fd0/U0<1なる条件で、tmは〜1s程度、Lmは〜1mm程度であり、短い時間と距離で十分な混合が起きることが分かる。ただし、T0=1msである。また、実線、破線、点線は、切り替え時間をT/(2T0)=20,40,80としたときの単純モデルによる解析解である。また、混合距離は、図3のように周期条件を使わない実際の流路で必要となる距離であり、Lm=U1tmである。
【0054】
通常、流路幅100μm程度の流路内では混合時間は60s程度以上、混合流路長は1cm程度必要と言われるため、本発明により、大幅に混合時間及び混合流路長を短くできることがわかる。また、計算ではレイノルズ数がゼロ、及び、ピクレー数が無限大の極限を考えた。ここでピクレー数は拡散係数に関係する無次元数であって、ピクレー数が無限大のときに拡散係数は0となる。
【0055】
本発明では、複数種の流れを切り替えるカオス混合を用いているために、レイノルズ数が極めて低く、ピクレー数が大きい場合にも効果があることが分かる。
【0056】
また、本発明の液体混合装置は、レイノルズ数が低く、乱流による混合が期待できないマイクロ流体システムにおいて、極めて有用である。本発明の液体混合装置は、マイクロ流体システムが適用可能な種々の分野に適用可能であり、具体的には、DNAやタンパク質の解析、細胞のソーティング、ハイスループットスクリーニング、化学反応、微小量(1−100nl)の移動手段等に利用可能である。
【0057】
DNAやタンパク質、あるいは細胞では、分子量が大きいために、拡散係数が小さくなり、システムのピクレー数が極めて大きくなるため、ピクレー数が無限大でも効果を発揮する本発明の混合装置は、極めて有用となる。さらに、化学分析等に利用されるマイクロ流体デバイスには、通常、使い捨てができるように高価でなく、単純な構造のものが望まれるため、この点でも、本発明は好適な混合装置となり得る。
【0058】
(比較例1)
図11、図12は、渦流と方向性流れを切り替えずに同時に発生させた場合の液体混合装置中の液体の位置を示す図である。
【0059】
これらの図において、混合させる2種の液体を801と802として示しており、経時的な位置変化を図11(a)(t=0ms)、図11(b)(t=100ms)図12(a)(t=200ms)、図12(b)(t=500ms)で示している。
【0060】
これらの図より、切り替えなしの本例の装置では、実施例1に示した装置と異なり、時間経過と共に良好な混合は得られないことが理解される。
【0061】
すなわち、分子拡散が極めて小さい場合には、渦流と方向性流れを切り替えないと良好な混合は生じない。
【実施例2】
【0062】
図9は、本発明の実施例2の液体混合装置の特徴を示す図である。本実施例の装置は、実施例1に示した方向性流れ発生手段8a、8b(ポンプ)に代えて、方向性流れ発生手段61a及び61bを有することが特徴である。
【0063】
方向性流れ発生手段61a及び61bは、それぞれ楕円型の導電性部材13a、13bを挟んだ位置に、該導電性部材に電界を付与することで発生する液体の流れの内、逆方向の流れを抑制する抑制部材65a及び65bを配置して構成されている。
【0064】
62は実施例1に示したのと同様の渦流発生手段である。
【0065】
本実施例の装置は、渦流発生手段62に接続された電源、方向性流れ発生手段61a及び61bにそれぞれ接続された電源が切り替え手段9に接続され、液体の流れを制御できるようになっている。
【0066】
この装置では、図9の左側より右側に向かう流体の流れを順方向として、方向性流れ発生装置61aによる順方向流れ、渦流発生手段62による渦流、方向性流れ発生装置61bによる逆方向流れ、渦流発生手段62による渦流の順に液体の流れを順次生じさせることが(交互に切り替え)可能となる。
【0067】
こうした切り替えを行う本実施例の装置では、実質的な流路長を3L=6.75μm程度に大幅に縮小できる。
【符号の説明】
【0068】
1 電極
3 13a 13b 導電性部材
8a 8b 61a 61b 方向性流れ発生手段
62 渦流発生手段
9 切り替え手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を搬送するための流路と、該流路内に設けられた導電性部材と該導電性部材に電界を与える電極とを備え前記電界により前記流路内に前記液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、前記流路に沿った方向の前記液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、前記渦流と前記方向性流れとを切り替える切り替え手段と、を有することを特徴とする液体混合装置。
【請求項2】
前記渦流の前記流路に沿った方向の幅をd1、前記渦流の前記流路に沿った方向と垂直な方向の幅をd0、前記流路に沿った方向の前記液体の平均流速をU1、前記渦流の前記垂直な方向の速度をU0、前記切り替え手段の切り替え周波数をfとするとき、U0/(fd0)>1かつU1/(fd1)>1を満たすことを特徴とする請求項1に記載の液体混合装置。
【請求項3】
前記渦流発生手段は、前記電界により前記導電性部材に生ずる電気二重層に起因する電気浸透流を用いるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の液体混合装置。
【請求項4】
前記方向性流れ発生手段に該方向性流れ発生手段に起因して生ずる前記液体の流れる方向を切り替える切り替え手段が接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の混合装置。
【請求項5】
前記切り替え手段を用いて、前記流路内に、前記液体の第一の方向の方向性流れ、前記液体の渦流、前記液体の第二の方向の方向性流れ、前記液体の渦流、を順次生じさせることを特徴とする請求項4に記載の液体混合装置。
【請求項1】
液体を搬送するための流路と、該流路内に設けられた導電性部材と該導電性部材に電界を与える電極とを備え前記電界により前記流路内に前記液体の渦流を生じさせる渦流発生手段と、前記流路に沿った方向の前記液体の流れを発生させる方向性流れ発生手段と、前記渦流と前記方向性流れとを切り替える切り替え手段と、を有することを特徴とする液体混合装置。
【請求項2】
前記渦流の前記流路に沿った方向の幅をd1、前記渦流の前記流路に沿った方向と垂直な方向の幅をd0、前記流路に沿った方向の前記液体の平均流速をU1、前記渦流の前記垂直な方向の速度をU0、前記切り替え手段の切り替え周波数をfとするとき、U0/(fd0)>1かつU1/(fd1)>1を満たすことを特徴とする請求項1に記載の液体混合装置。
【請求項3】
前記渦流発生手段は、前記電界により前記導電性部材に生ずる電気二重層に起因する電気浸透流を用いるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の液体混合装置。
【請求項4】
前記方向性流れ発生手段に該方向性流れ発生手段に起因して生ずる前記液体の流れる方向を切り替える切り替え手段が接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の混合装置。
【請求項5】
前記切り替え手段を用いて、前記流路内に、前記液体の第一の方向の方向性流れ、前記液体の渦流、前記液体の第二の方向の方向性流れ、前記液体の渦流、を順次生じさせることを特徴とする請求項4に記載の液体混合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−158332(P2011−158332A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19442(P2010−19442)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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