説明

液体混合飼料およびその製造方法

【課題】 安価でカルシウム含有量が高いものの水難溶性である炭酸カルシウムを配合しても溶液中に安定して溶解することができ、かつ家畜の嗜好性も優れる液体混合飼料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 液体混合飼料は、醸造酢に、炭酸カルシウムと、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムとが溶解されていることを特徴とする。また、液体混合飼料の製造方法は、醸造酢に、炭酸カルシウムと、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムとを投入し、加熱して溶解させる工程と、この溶液を室温まで冷却した後、果実抽出液をさらに投入して溶解させる工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体混合飼料およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、乳牛または肉牛の分娩と、それに伴う泌乳活動に起因する低カルシウム血漿症を主徴とした分娩時障害の予防を、牛本来の生理作用を高めつつ効率良く且つ迅速に行える形態にてカルシウムを配合した液体混合飼料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に酪農業界においては、遺伝的改良が進み泌乳量は年々増加の一途を辿っている。しかし、分娩とそれに伴う泌乳活動に起因する低カルシウム血漿症を主徴とした分娩時障害の改善は十分とはいえない。よって主に酪農業界において、分娩時障害に対する画期的予防法を確立することが重要であり、現在までも、種々の予防法が施されてきた。
【0003】
乳牛は、分娩に伴う初乳生産のため、分娩前日より特に血中カルシウム濃度が減少し始め、分娩後3時間位まで急激に減少するといわれている。初乳生産に伴い、体内血液中カルシウム量の8〜10倍量のカルシウムが必要とされるため、骨蓄積カルシウム等から緊急動員されることになるが、個体差、乾乳期の飼養管理によって、その動員が間に合わず、低カルシウム血漿症を主徴とした起立不能などの分娩時障害を引き起こす。その為、より迅速に即対応可能なカルシウム源を補給することが重要であった。
【0004】
牛のカルシウム代謝には2つの異なるホルモン、「カルシトニン」と「上皮小体ホルモン(パラトルモン)」が関与し恒常性が維持されている。カルシトニンは血中カルシウム濃度上昇時に骨からのカルシウム放出を抑制し血中濃度を維持する働きがある。一方、パラトルモンはカルシトニンと可逆的に働き、血中カルシウム濃度が低下したときに作用し、骨からのカルシウム放出を刺激する事により血中濃度を維持しようと働く。またパルトルモンは、ビタミンDの活性代謝産物1.25二水酸基ビタミンD3の代謝にも作用するといわれている。この1.25二水酸基ビタミンD3には小腸粘膜における特殊なカルシウム結合タンパク質の形成を促進するともいわれている。この特殊なカルシウム結合タンパク質はカルシウムが腸粘膜を通過するときに輸送を活発にさせ、その結果、飼料中のカルシウム吸収率が著しく良好になる。
【0005】
前記事項に関連し、酪農業界においては、乾乳期、特にクロースアップ期の飼養管理技術として飼料中のDCAD(dietary cation-anion difference)バランスを整えることが重要視されている。DCADとは、飼料中の陽イオン(cation)と陰イオン(anion)の電位差であって、一般的に陽イオンではK(カリウム)、Na(ナトリウム)、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)等、陰イオンではCl(塩素)、S(硫黄)を用い、次式にて表されるものである。
【0006】
【数1】

*Na,K,Cl,S(%)は、飼料乾物中の各元素の重量%である。
【0007】
クロースアップ期にDCADをマイナス調整した飼料を給与することで、血中pHが酸性サイドに傾くといわれる。こうしてわずかに代謝性アシドーシス状態にしておくことが、前記のホルモン、パラトルモンが適切に機能することに役立ち、牛本来の生理機能において、分娩後の低カルシウム血漿症の発生率を減少させることができる。しかし、実際の酪農現場において、適切にDCAD調節された飼料を給餌することは非常に難しい。
【0008】
低カルシウム血漿症の予防法としては、分娩前後のビタミンD3の静脈注射、および皮下注射、カルシウム塩の給与等が行われている。ビタミンD3の注射は獣医師の処方により施すもので、農家レベルの対応としては、分娩直後、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムを水に溶解させて給与するのが主である。また、昨今では、カルシウム等のミネラル塩を混合した液体飼料が存在し作業性の面から、既存の液体飼料の給与も増加傾向にある。
【0009】
しかしながら、既存の液体飼料でも、炭酸カルシウムやリン酸カルシウム類などは溶解性が悪く、これらを主原料にした既存の液体飼料は、沈殿部分が多く、給与の際、撹拌し分散させなければならず、それでもロスになる部分が多いという問題がある。そこで、炭酸カルシウムに果実抽出液を配合した液体混合飼料(特許文献1)や、グルコン酸やリンゴ酸などの有機酸と食塩とを配合した液体混合飼料(特許文献2)が開発されている。果実抽出液や有機酸と食塩を配合することで、難溶性の炭酸カルシウムの溶解性を高めることができる。
【0010】
なお、リン酸カルシウムの給与、または、それを主原料にした液体飼料の給与に関しては、カルシウムの急速な補給の目的に反する報告もある。カルシウムとリンの腸壁からの吸収速度はリンが優れており、その結果、リン酸カルシウムの給与により先に血中のリン濃度が上昇する。血中リン濃度が上昇すると、腸壁にてカルシウム吸収を助長するビタミンDの活性代謝産物1.25二水酸基ビタミンD3を合成している腎臓での生理的合成が抑制される。その為、腸壁からのカルシウム吸収も抑制され、結果として血中高リン、低カルシウムの傾向がみられる場合があるというものである。
【0011】
また、種々の研究報告の中で、低カルシウム血漿症の予防として水に対する溶解性の高いカルシウム塩、特に塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム等の給与が有効であるという報告がある。これらカルシウム塩の内塩化カルシウムは、非常に溶解性が優れており、カルシウム含有量も高いことから、非常に優れたカルシウム塩ではあるが、有効であるという報告の反面、塩化物のルーメン粘膜への刺激が強く悪影響を及ぼすという報告もあり、現場では塩化カルシウム等を給与することを控える傾向もあった。また、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム等の有機酸カルシウム塩は刺激性がさほど高くなく、塩化カルシウムに比較すると給与し易いものの、カルシウム含有量はさほど高くなく、製品単価も高い事から一般的には使用しづらい。
【特許文献1】特開2002−262782号公報
【特許文献2】特開2005−176604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
牛の腸壁からのミネラルの受動吸収は、イオン化した状態で行われ、またイオン化した状態であれば、ルーメン壁からも受動吸収されるという報告もある。分娩直後は初乳生産などの影響で、急激に血中カルシウム濃度は減少する。その為、いかに迅速にカルシウムを補給できるかが、すなわち、いかにカルシウム源をイオン化した状態で給与できるかが重要である。
【0013】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑み、安価でカルシウム含有量が高いものの水難溶性である炭酸カルシウムを配合しても溶液中に安定して溶解することができ、かつ家畜の嗜好性も優れる液体混合飼料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明に係る液体混合飼料は、醸造酢に、炭酸カルシウムと、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムとが溶解されていることを特徴とする。上記醸造酢の酸度は3〜15%であって、この醸造酢の濃度は20〜95%(w/v)、上記炭酸カルシウムの濃度は1〜11.875%(w/v)、上記酸化マグネシウムの濃度は0.5〜10%(w/v)または上記炭酸水素ナトリウムの濃度は0.2〜2.0%(w/v)であることが好ましい。また、0.1〜30%(w/v)の乳酸カルシウムと、0.1〜2.0%(w/v)の乳糖またはブドウ糖と、0.01〜5.0%(w/v)の酢酸を除く有機酸または1〜20%(w/v)の果実抽出液と、5.0〜20.0%(w/v)の食塩と、1.0〜20.0%(w/v)の一価アルコールとがさらに溶解されていることが好ましい。
【0015】
本発明は、別の態様として、液体混合飼料の製造方法であって、醸造酢に、炭酸カルシウムと、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムとを投入し、加熱して溶解させる工程と、この溶液を室温まで冷却した後、果実抽出液をさらに投入して溶解させる工程とを含むことを特徴とする。上記果実抽出液を投入して溶解させた後、この溶液を80〜100℃にて殺菌する工程と、この殺菌を行った後、一価アルコールを投入して溶解させる工程とをさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る液体混合飼料は、醸造酢を配合することで、通常水にほとんど溶解しない炭酸カルシウムを安定して溶解することができる。また、醸造酢を配合すると、飼料に酢酸刺激臭が発生し、家畜嗜好性の面で問題があるが、炭酸水素ナトリウムまたは酸化マグネシウムを配合することで、この酢酸刺激臭を解消することができる。さらに、炭酸カルシウムを主要なカルシウム供給源とすることで、カルシウムイオン含有量の高い製品をコスト的にも有利に提供することができる。そして、従来の分娩時障害予防法の問題点が解決され、且つ醸造酢にある動物に対する生理作用を有する新しい組み合わせによる液体飼料として、乳牛、肉牛の分娩時障害の予防法として迅速に役立つ、嗜好性や溶解性に特に優れた飼料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態によって何ら限定されるものではない。先ず、液体混合飼料について説明する。本実施の形態における液体混合飼料は、醸造酢に、炭酸カルシウムと、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムとが溶解されていることを特徴する。
【0018】
醸造酢は、(1)穀類(酒粕等の加工品を含む)または果実(果実の搾汁、果実酒等の加工品を含む)を原料としたもろみ又はこれらにアルコール若しくは砂糖類を加えたものを酢酸発酵させた液体、(2)アルコール又はこれに穀類を糖化させたもの若しくは果実を加えたものを酢酸発酵させた液体、または(3)これらを混合した液体をいう。
【0019】
醸造酢としては、穀物酢、果実酢、アルコール酢を使用することができる。穀物酢としては、例えば、米酢、玄米酢、大麦酢、酒粕酢などを使用することができる。果実酢としては、例えば、リンゴ酢、ブドウ酢などを使用することができる。また、これら各種の醸造酢を混合して使用することができる。
【0020】
醸造酢としては、酸度(酢酸換算濃度)が5%前後のものが一般的であるが、3〜15%のものが入手できる。このうち、高濃度に酢酸を含有するもの(例えば、酸度10〜15%)を使用することが好ましい。なお、本明細書において酸度とは、液体に含まれている総有機酸の濃度であって、有機酸が全て酢酸であるとして計算した酢酸換算濃度(%)をいい、一般に、水酸化ナトリウムによる中和滴定によって測定される。醸造酢中の有機酸は多くが酢酸であるが、その他、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などが含まれている。
【0021】
液体混合飼料中には、醸造酢を20〜95%(w/v)配合することが好ましい。その際、醸造酢の酸度は3〜15%であることから、得られる液体混合飼料の酸度は0.6〜14.25%となる。より好ましい醸造酢の配合割合は50〜90%(w/v)である。
【0022】
醸造酢に含まれる酢酸、その他の有機酸は、その酸味により、唾液分泌量の増加が期待できる。唾液の分泌量増加により、唾液中に含まれる重炭酸イオンのルーメンへの流入量も増加する。重炭酸イオンには緩衝剤としての働きがあり、ルーメンpHの恒常性の維持に関与する。重炭酸イオンの流入量増加により、ルーメン恒常性維持効果も高まり、ルーメン恒常性が安定することが、ルーメン微生物菌叢の安定化、ひいてはルーメン粘膜の安定化に繋がるものである。
【0023】
また、醸造酢に含まれる酢酸、その他の有機酸は、体内でのエネルギー産生に関与し、クエン酸回路の原燃料の1つとなる。分娩という多大の負荷により各諸臓器もその機能が低下してしまう中で、最大の臓器である肝臓の機能の低下は乳牛に大きな影響を与える。反芻動物は、飼料中の炭水化物を全て醗酵してVFA(揮発性脂肪酸)を作り、エネルギー源や乳成分の原料として利用し、グルコースは糖新生回路で合成し賄っている。肝臓を主として行われる糖新生経路は、ルーメン醗酵産物のプロピオン酸、アミノ酸、体脂肪由来のアミノ酸などを原料として行われ、一部異なる調整経路はあるものの、その経路は解糖系・クエン酸回路の逆反応である。酢酸、その他の有機酸が当該経路に供給されることで、グルコース獲得の糖新生経路が活性化することが期待でき、分娩前後の疾病予防に有意な効果も期待できる。
【0024】
炭酸カルシウムは、通常、水に対しては難溶性であるが、醸造酢に対しては安定して溶解する。これにより、安価でカルシウム含有量が高い炭酸カルシウムをイオン化した状態で給与することができる。液体混合飼料における炭酸カルシウムの濃度は、1〜11.875%(w/v)が好ましく、6.25〜11.25%(w/v)がより好ましい。これにより、上記配合割合の醸造酢に含まれる酢酸と当量で反応する。
【0025】
酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムは、醸造酢の酢酸刺激臭を減少させる。これは醸造酢に炭酸カルシウムを溶解させた溶液中に残存する遊離酢酸濃度が、溶液のpHの上昇に伴い低下することに起因する。この結果、扱いがより容易になり、液体混合飼料の家畜嗜好性を高めることができる。なお、酸化マグネシウムと炭酸水素ナトリウムは、家畜の栄養成分でもある。
【0026】
液体混合飼料における酸化マグネシウムの濃度は、0.5〜10%(w/v)が好ましく、1〜5%(w/v)がより好ましい。また、液体混合飼料における炭酸水素ナトリウムの濃度は、0.2〜2%(w/v)が好ましく、0.5〜1%(w/v)がより好ましい。これにより、酢酸刺激臭を効果的に中和することができる。
【0027】
また、本発明の液体混合飼料は、上述した必須成分の他、以下の任意成分を含むことができる。
【0028】
上記の炭酸カルシウムの他に、カルシウム供給源として、乳酸カルシウムを添加することができる。液体混合飼料における乳酸カルシウムの濃度は0.1〜30%(w/v)が好ましく、0.1〜5%(w/v)がより好ましい。
【0029】
上記の酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムの他に、液体混合飼料に甘味を加えて家畜嗜好性をより一層向上するために、乳糖などの二糖類またはブドウ糖などの単糖類といった糖類を添加することができる。液体混合飼料における乳糖またはブドウ糖の濃度は0.1〜2.0%(w/v)が好ましく、0.5〜1.5%(w/v)がより好ましい。
【0030】
上記の醸造酢の他に、更に代謝を促進するため、酢酸以外の有機酸またはこれら有機酸を含有する果実抽出液を添加することができる。酢酸を除く有機酸としては、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸が好ましい。リンゴ酸、クエン酸は果実抽出液に多く含まれる。また、グルコン酸はハチミツに多く含まれる。
【0031】
果実抽出液とは、果実(果皮も含む)を塩で抽出処理して得られる抽出液の他、多汁質の果実を搾汁することにより得られるジュースも含まれる。塩で抽出した場合は、脱塩処理して塩分濃度を低下させてもよい。果実としては、ミカン、レモンなどの柑橘系果実や、梅、ブドウなどが好ましい。
【0032】
柑橘系果実が好ましいのは、これに多く含まれるポリフェノール類を補給することもできるからである。また、これら有機酸は、酢酸と同様に、唾液の分泌を促進したり、クエン酸回路にクエン酸、リンゴ酸などを供給する。さらに、グルコン酸は、プレバイオテックス素材として、整腸効果による体調改善を期待することができる。
【0033】
液体混合飼料におけるグルコン酸の濃度は、0.1〜5%(w/v)が好ましく、1〜3%(w/v)がより好ましい。液体混合飼料におけるリンゴ酸の濃度は0.01〜1%(w/v)が好ましく、0.05〜0.1%(w/v)がより好ましい。液体混合飼料における果実抽出液の濃度は、1〜20%(w/v)が好ましく、1.5〜3%(w/v)がより好ましい。
【0034】
液体混合飼料には、品質安定性の向上のために、一価アルコール、食塩(塩化ナトリウム)、またはこれらの両方を添加することができる。一価アルコールは、品質安定性の向上に加え、嗜好性の向上も期待できる。一価アルコールとしては、エチルアルコールが好ましい。なお、一価アルコールを添加する際は、アルコール濃度が50〜100%、より好ましくは70〜100%のアルコール含有溶液を用いることができ、例えば、飼料用アルコールを用いることができる。また、ビールや焼酎等のアルコール飲料を用いることも、乳牛の食欲増進等の観点から好ましい。
【0035】
また、一価アルコールは、液体混合飼料の品質安定性、つまりはカビの発生防止や、温度変化による液体粘性の変化の抑制、さらには特に低温下での製品の凍結、凝固の抑制の効果がある。液体混合飼料における一価アルコールの濃度は、1〜20%(w/v)が好ましく、2〜15%(w/v)がより好ましい。本発明の飼料は、あくまで分娩時のミネラルのより効率的且つ迅速な補給が目的であるため、一価アルコールの濃度は20%(w/v)以下が好ましい。また、液体混合飼料における食塩の濃度は、5〜20%(w/v)が好ましく、8〜15%(w/v)がより好ましい。
【0036】
液体混合飼料には、僅かに残る酢酸臭をマスキングするために、フレーバーを添加することができる。フレーバーとしては、飼料用の着香料を用いるのが好ましく、その中でもバニリンを含有する着香料を用いるのがより好ましい。フレーバーの添加は、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムにて遊離酢酸濃度を低下させた後に行うのが効果的である。液体混合飼料におけるフレーバーの濃度は、0.01〜0.1%(w/v)が好ましく、0.03〜0.06%(w/v)がより好ましい。
【0037】
次に、本発明に係る液体混合飼料の製造方法の一実施形態について説明する。図1は、本発明に係る液体混合飼料の製造方法の一実施形態を示すフロー図である。
【0038】
図1に示すように、第1の混合溶解工程(1)において、先ず、A成分として、常温の醸造酢を混合容器10内に投入する。また、B成分として、炭酸カルシウムと、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムとを混合容器10内に投入する。次に、混合容器10内に備えられた攪拌機3によって、容器内の混合溶液を撹拌しながら、加熱工程(2)において、混合容器10内に備えられた、蒸気が通る管が螺旋状に配置されたヒーター2によって、混合容器10内の混合溶液を加熱する。これによって、投入した上記の各成分、特に水難溶性の炭酸カルシウムの溶解を促進することができる。この時の加熱温度は60〜80℃が好ましい。混合容器10内の溶液が透明様状態になるまで溶解させる。
【0039】
なお、必要に応じてグルコン酸やリンゴ酸などの有機酸を配合する場合は、第1の混合溶解工程(1)でA成分として投入することが好ましい。この工程で有機酸を投入することにより、炭酸カルシウムの溶解を促進することができる。グルコン酸は、濃度50%の溶液で投入することが好ましい。また、必要に応じて乳酸カルシウムなどの炭酸塩以外のカルシウム塩を配合する場合は、B成分として投入する。
【0040】
次に、必要に応じてブドウ糖や乳糖などの糖質を配合する場合は、C成分として、加熱工程(2)後の第2の混合溶解工程(3)で混合容器10内に投入する。また、必要に応じて食塩を配合する場合は、同様にC成分として投入する。C成分を投入して攪拌により透明様状態になるまで溶解させた後、自然放冷によって室温まで溶液を冷却する。
【0041】
ここで、冷却した溶液に沈殿物が発生している場合、フィルタープレス20で沈殿物を濾過して除去する。除去した沈殿物(主に炭酸カルシウム)は、脱水ケーキとして得られるので、再利用することができる。
【0042】
さらに、必要に応じて梅実抽出液(梅酢)などの果実抽出液や、一価アルコール、フレーバーを配合する場合は、第3の混合溶解工程(4)において、D成分として、放冷後の混合容器10に投入する。そして、最後に水を加えて、所定の容量の混合溶液にする。
【0043】
なお、混合溶液を殺菌する場合、D成分のうち、果実抽出液は殺菌前に投入し、一価アルコールは殺菌後に投入することが好ましい。殺菌は、混合容器10内に備えられたヒーター2(第3の混合溶解工程の図では省略)により混合溶液を加熱してもよい。加熱は約80〜100℃で20〜40分間行うことが好ましい。一方、殺菌工程を行わない場合は、全てのD成分を同時に投入することができる。なお、グルコン酸やリンゴ酸などの有機酸は、D成分として、果実抽出液とともに、この工程で添加しても良い。
【0044】
以上により得られた混合溶液は、濾過工程(5)において、混合容器10からポンプを有する配管を介して、カートリッジフィルター30に通す。これにより、溶液中の不溶解成分等を除去することができる。濾過した溶液は、充填工程(6)において、液状のまま製品容器40内に充填する。
【0045】
なお、混合溶解工程における炭酸カルシウムおよびその他のカルシウム塩による溶液中のカルシウムイオン濃度は、家畜に供給するのに適したカルシウム量および製剤供給量の観点や、製品安定性を維持するのに適した濃度の観点から、通常3〜5%(w/v)、好ましくは3.5〜4.5%(w/v)の範囲に調製することが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下の手順により、液体混合飼料を調製した。撹拌手段を有する100リットルのタンクに、90リットルの常温の醸造酢(酸度15%)を入れ、さらに、グルコン酸(濃度50%溶液)0.5kg、リンゴ酸0.05kg、炭酸カルシウム10kg、乳酸カルシウム0.1kg、塩化マグネシウム8kgを投入し攪拌混合した後、80℃に昇温してさらに攪拌混合して溶解させた。また、このタンクに、ブドウ糖1kg、乳糖1kg、食塩10kgを投入し、攪拌混合して溶解させた後、自然放冷によって室温まで冷却した。
【0047】
次に、この放冷後のタンクに、梅実抽出液2kg、飼料用アルコール(エチルアルコール濃度約3%)4kgを投入し、攪拌混合して溶解させた。この溶液に水を2kg加えて100リットルにし、さらにカートリッジフィルターに通して溶液中の不溶解成分を除去した後、保存用タンクに入れて、本発明の液体混合飼料(試料1)を得た。なお、液体混合飼料は、この保存用タンク内で約1日、室温の状態で放置した後、以下の試験に供した。なお、梅実抽出液には、梅乃酢(梅干製造時にできる副産物であり、脱塩処理せずに濃度100%のもの)を用いた。
【0048】
(酢酸刺激臭の評価)
酢酸刺激臭を評価するため、上記により得られた試料1の液体混合飼料から揮発する酢酸濃度を酢酸用気体検知管(株式会社ガステック社製)にて測定するとともに、これと同時に、その臭気を官能評価した。酢酸濃度の測定手順としては、先ず、容量200mLの容器に飼料100mLを入れて密封し、40℃恒温機内に1時間静置後、容器上部100mL中の気体の酢酸濃度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

※「酢酸刺激臭」は以下の5段階評価をした。
1:酢酸臭を感じない。
2:酢酸臭を少し感じるが気にならない。
3:酢酸臭を感じる。
4:酢酸臭を明らかに感じる。
5:酢酸臭を非常に強く感じる。
【0050】
表1に示すように、酸化マグネシウムを8kg(8%(w/v))加えた試料1は、酢酸濃度が0.6ppmと低く、官能評価でも酢酸臭は感じられなかった。
【0051】
さらに、表1に示すように、酸化マグネシウムの配合量を変化させた場合(試料2、3)、酸化マグネシウムに代えて炭酸水素ナトリウムを配合した場合(試料4〜7)、フレーバー(バニリン)をさらに配合した場合(試料8、9)、酸化マグネシウムも炭酸水素ナトリウムもどちらも配合しなかった場合(試料10)についても、同様に液体混合飼料を調製して上記評価試験を行った。
【0052】
その結果、表1に示すように、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムのいずれかを配合した試料2〜7は、酢酸濃度が3ppm以下と低く、官能評価でも酢酸臭を感じる程度であったのに対し、酸化マグネシウムも炭酸水素ナトリウムもどちらも配合しなかった試料10は、酢酸濃度が7ppmと高く、酢酸臭も非常に強く感じた。なお、フレーバーを配合した試料8、9は、その他の成分が同量である試料2、5と酢酸濃度がほぼ同じであったものの、官能評価において酢酸臭は減少していた。
【0053】
(嗜好性の評価)
ブドウ糖、乳糖、酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウムを表2に示す配合にした点を除いて、上記と同様の手順にて液体混合飼料を調製した。そして、これら各種飼料を家畜に給与しそれらの嗜好性を調査した。なお、液体混合飼料は、乳牛に給与される同内容の固形飼料にふりかけ、飼料摂取時および摂取後の乳牛の反応を観察した。その結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

※「嗜好性評価」は以下の3段階評価をした。
○:特に問題なく飼料を摂取した。
△:飼料を訝しがる様子をみせるが全量摂取した。
×:飼料の臭いを盛んに気にし、飼料を一部残した。
【0055】
表2に示すように、ブドウ糖、乳糖、酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウムのいずれも配合しなかった試料11は、5頭中4頭の乳牛が飼料を残し、嗜好性は非常に低かった。また、ブドウ糖または乳糖を配合した試料12、13は、嗜好性が若干改善されたものの、大きな変化はなかった。一方、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムを配合した試料14、18では、どの乳牛も飼料を全量摂取し、嗜好性が大幅に向上した。さらに、これにブドウ糖、乳糖、フレーバーのいずれかを添加した試料15〜17、19〜21では、嗜好性がさらに改善される傾向がみられた。
【0056】
(品質安定性の評価)
本飼料は液体であるため、低温下にて保存すると、時間の経過と共に液体が凍結または凝固(ゲル化)する可能性が考えられる。飼料が凍結または凝固すると、加温により液状に戻るものの、使用時の手間が増えることから、低温下でも凍結、凝固しないことが望まれる。また、本飼料の比重が高くなったり、溶解物濃度が高まると、沈殿物が発生したり、震動負荷により凝固したりする可能性が高まるが、これらも避けることが望まれる。さらに、カビ発生による品質劣化は避けなければならない。
【0057】
そこで、試料1の他、液体混合飼料の各成分の配合を表3のように変化させた試料22〜30を調製し、沈殿発生試験、液体ゲル化試験、カビ発生試験、凍結試験の4つの試験を行った。その結果を表3に示す。なお、沈殿発生試験は、40℃恒温機内で3箇月、その後−10℃下で3箇月静置させた間の沈殿発生の有無を評価した。液体ゲル化試験は、−10℃下で3箇月静置した後、震動負荷を1週間続け、ゲル化の有無を評価した。なお、振動は毎分120サイクルの負荷とした。カビ発生試験は、25℃恒温機内に3箇月放置しカビ発生の有無を確認した。凍結試験は、−10℃下に3箇月静置し、凍結の有無を確認した。
【0058】
【表3】

【0059】
表3に示すように、試料1では、沈殿、液体ゲル化、カビ、凍結のいずれも発生しなかった。一方、醸造酢を30L、60Lに減らした試料22、23は、グルコン酸を増やしたものの、タンクの深さ半分ぐらいまでの沈殿が発生し、かつ全体がゲル化した。また、醸造酢を55L、60Lに減らした試料24、25は、難溶性の炭酸カルシウムを減らし易溶性の乳酸カルシウムを増やしたところ、タンクの深さ1/5ぐらいまでの沈殿が発生し、一部がゲル化した。また、醸造酢を60L、25Lに減らした試料26、27は、リンゴ酸を増やしたところ、液体ゲル化は発生しなかったものの、タンクの深さ1/5ぐらいまでの沈殿が発生した。さらに、飼料用アルコールを1kg、食塩を2kgに減らした試料28、29は、カビおよび凍結が発生した。食塩をそのままに、飼料用アルコールのみを1kgに減らした試料30は、凍結は発生せず、カビも少し発生しただけであった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の製造方法における各工程を模式的に示したフロー図である。
【符号の説明】
【0061】
2 ヒーター
3 攪拌機
10 混合容器
20 フィルタープレス
30 カートリッジフィルター
40 製品容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
醸造酢に、炭酸カルシウムと、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムとが溶解されてなる液体混合飼料。
【請求項2】
上記醸造酢の酸度が3〜15%であって、この醸造酢の濃度が20〜95%(w/v)、上記炭酸カルシウムの濃度が1〜11.875%(w/v)、上記酸化マグネシウムの濃度が0.5〜10%(w/v)または上記炭酸水素ナトリウムの濃度が0.2〜2.0%(w/v)である請求項1に記載の液体混合飼料。
【請求項3】
0.1〜30%(w/v)の乳酸カルシウムと、0.1〜2.0%(w/v)の乳糖またはブドウ糖と、0.01〜5.0%(w/v)の酢酸を除く有機酸または1〜20%(w/v)の果実抽出液と、5.0〜20.0%(w/v)の食塩と、1.0〜20.0%(w/v)の一価アルコールとがさらに溶解されている請求項2に記載の液体混合飼料。
【請求項4】
醸造酢に、炭酸カルシウムと、酸化マグネシウムまたは炭酸水素ナトリウムとを投入し、加熱して溶解させる工程と、この溶液を室温まで冷却した後、果実抽出液をさらに投入して溶解させる工程とを含む液体混合飼料の製造方法。
【請求項5】
上記果実抽出液を投入して溶解させた後、この溶液を80〜100℃にて殺菌する工程と、この殺菌を行った後、一価アルコールを投入して溶解させる工程とをさらに含む請求項4に記載の液体混合飼料の製造方法。

【図1】
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