説明

液体濾過用カートリッジフィルタ

【課題】濾過性能とイオン交換能を高いレベルでバランスさせた、イオン除去と微粒子除去の能力を兼ね備えた液体濾過用カートリッジフィルタを提供する。
【解決手段】異なる機能を有する複数の不織布を積層一体化して、プリーツ状またはロール状に巻き回してなるカートリッジフィルタであって、
該不織布の少なくとも一種は、グラフト重合によりイオン交換基を有するグラフト重合不織布であり、他の一種は、該グラフト重合不織布より繊維径及び平均孔径が小さい非グラフト重合不織布であり、繊維径勾配型の複数濾材からなることを特徴とする液体濾過用カートリッジフィルタなどを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体濾過用カートリッジフィルタに関し、さらに詳しくは、イオン除去と微粒子除去の能力を兼ね備えた液体濾過用カートリッジフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業用途に使用する液中に含まれる微量金属陽イオン、或いは塩素などの陰イオンの除去には、ビーズ状のイオン交換樹脂やキレート樹脂をカラムに充填し、通液中に金属や各種イオン類を吸着する方法が採られている。このような場合、吸着は樹脂表面から内部への拡散によるため、通液速度はビーズ間の対流・接触時間と被吸着イオンの樹脂内拡散速度に依存する。
このため、通液速度を増加させるには、専ら、樹脂のカラムへの充填量を増大させることになるが、装置上の制約が大きく、処理能力の向上に限界があった。
また、液中に含まれる微粒子を効率よく除去する機能も有しない。例えば、半導体製造工程で用いられる洗浄用純水には、各種の遊離金属イオンの他に、装置部材として用いられているポリテトラフルオロエチレンなどから発生するポリマー微粒子、配管や継ぎ手などから発生する金属微粒子、金属イオンのコロイド状凝集物が含まれるが、ビーズ状充填物では十分に除去する濾過機能を有しない。
【0003】
また、微粒子の高度濾過素材として、微多孔質の膜や中空糸膜が使用されているが、金属イオンの除去機能がないため、これまでにイオン交換基またはキレート基を導入する試みもなされている。しかしながら、これらの素材の膜厚が小さいため、膜内流路の空隙が小さいので、高容量のグラフト重合による官能基の付加には量的限界がある。
従って、イオン交換容量が小さいため、わずかな通液処理量で金属イオンの除去能力を失う。また、膜自体がグラフト重合にともなう素材劣化により、カートリッジの加工において、クラックが生成するなどの問題を生じている。
【0004】
このような状況において、近年、不織布基材をグラフト重合し、フィルタ濾材として用いることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。また、これらのフィルタ基材を用いたカートリッジフィルタも、提案されている。
不織布をフィルタ基材とする利点は、イオン交換樹脂に比べて単位重量あたりの表面積が大きく、通液処理速度の増加が可能になることや、膜に比べて、グラフト重合が容易で高グラフト量を得ることができることにある。また、適度の粒子捕捉能力も、持ち合わせている。
そこで、グラフト重合した不織布をカートリッジフィルタに加工する例や、膜と組み合わせた例が提案されている(例えば、特許文献4〜6参照。)。
【0005】
しかしながら、上記提案された例では、実用上、以下に述べる課題や問題点があると
指摘されている。
すなわち、同一の不織布基材において、イオン交換基/キレート基の付加量と微粒子捕捉能力が同時に制御できない。言い換えると、微粒子の濾過精度を高めようとすれば、繊維径を小さく、かつ繊維密度を高くする必要があるが、その反面、グラフト重合においてモノマーの不織布内部への浸透性が低下し、グラフト反応が不均一になり、品質の安定しないことや、モノマーが繊維上にグラフトすることによって、ポリマーに生長し、繊維間を塞ぐか、または押し拡げ、フィルタとしてのポアサイズがグラフト重合によって変化するために、微粒子除去の精度が保障されない。
【0006】
一般に、グラフト重合法によって、イオン交換基・キレート基の容量を高めるためには、不織布基材の目付け重量または厚みを一定とした場合、繊維径を小さくすれば、繊維本数が増え、従って、全繊維表面積の増加につながり、グラフト効率を高めることに寄与する。
しかしながら、繊維径を過小にすると、前記グラフト重合処理における放射線照射に伴う高分子の崩壊劣化の影響を受けて、著しい強度低下を来たすため、繊維径については、適当な範囲を選択する必要がある。
さらには、グラフト重合において、繊維上のグラフトモノマーの成長には、不織布内空間に、ある程度の空隙が必要である。即ち、グラフト重合に適する不織布基材としては、単位重量あたりの不織布においては、繊維の充填密度(=繊維充填率)または繊維間の空隙度(=空隙率)の両者が適切にバランスしていることが高いグラフト率を付与させるために必要である。ここで繊維充填率は下式で表現される。また、空隙率は、繊維充填率と以下の関係がある。
繊維充填率(%)=[目付け重量(g/m)/厚み(mm)/有機繊維材料の比重/1000]×100
空隙率(%)=100−繊維充填率
【0007】
また、イオン交換濾材としての観点からは、不織布の厚みが重要である。これは、液体の不織布内の通過流路長に関連し、充填率または空隙率とともに、濾過液体との接触度に関連する。これらの要素を適正に選択することが、イオン捕捉の際の通液速度向上に不可欠である。
以上のことから、当該用途におけるグラフト用不織布基材としては、基材の繊維径、繊維充填率または空隙率、および厚みが適切な範囲に選択されることが求められている。
【特許文献1】特許第3787596号公報
【特許文献2】特開平11−279945号公報
【特許文献3】特開2005−344047号公報
【特許文献4】特開2003−251118号公報
【特許文献5】特開2003−251120号公報
【特許文献6】特開2004−330056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、濾過性能とイオン交換能を高いレベルでバランスさせた、イオン除去と微粒子除去の能力を兼ね備えた液体濾過用カートリッジフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、官能基付与グラフト重合不織布と非グラフト重合不織布との種々の組み合わせを検討し、特に、イオン交換基を導入したグラフト重合不織布を複数種用い、また、非グラフト重合不織布においても、単層単種のみならず、平均繊維径(以下単に「繊維径」と言う)、平均孔径の異なるもの数種を熱プレス加工により、積層一体化し、さらにこれをグラフト不織布と組み合わせて濾材として、プリーツ形状またはロール巻き形状のカートリッジフィルタを試作すると、イオン除去と微粒子除去の能力を高度に兼ね備えた液体濾過用カートリッジフィルタを提供できることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、異なる機能を有する複数の不織布を積層一体化して、プリーツ状またはロール状に巻き回してなるカートリッジフィルタであって、該複数の不織布の少なくとも一種は、グラフト重合によりイオン交換基を有するグラフト重合不織布であり、他の一種は、該グラフト重合不織布より繊維径及び平均孔径が小さい非グラフト重合不織布である、繊維径勾配型の複数濾材からなることを特徴とする液体濾過用カートリッジフィルタが提供される。
【0011】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記グラフト重合不織布は、イオン交換基がスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、アミノ基、グルカミン酸基、又はイミノジ酢酸基から選択される少なくとも一種の官能基であり、かつグラフト重合される不織布原反は、ポリアミド、ポリオレフィン又はポリビニルアルコールを繊維原料とし、(i)繊維径が5〜30μm、(ii)平均孔径が20〜60μm、(iii)目付け重量が10〜100g/m、(iv)繊維充填率が5〜30%、及び(v)厚みが0.1〜1.0mmであることを特徴とする液体濾過用カートリッジフィルタが提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記非グラフト重合不織布は、ポリオレフィン又はポリアミドを繊維原料としたメルトブロー法不織布であって、(i)繊維径が0.2〜5μm、(ii)平均孔径が0.2〜20μm、(iii)目付け重量が2〜60g/m、(iv)繊維充填率が10〜40%、及び(v)厚みが0.02〜0.6mmであることを特徴とする液体濾過用カートリッジフィルタが提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記非グラフト重合不織布は、熱プレス加工により圧密一体化されて、厚みが当初の厚みに対して40〜70%であることを特徴とする液体濾過用カートリッジフィルタが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液体濾過用カートリッジフィルタは、高効率のイオン捕捉に適したグラフト重合不織布と、微粒子捕捉効率の高い非グラフト重合不織布とを複合化することによって、濾過性能とイオン交換能を高いレベルでバランスさせているので、イオン除去と微粒子除去の能力を高度に兼ね備え、信頼性が高いという効果を奏する。また、非グラフト重合不織布のみを熱カレンダー加工などにより圧密化し、これをグラフト重合不織布と複合することにより、濾過精度を一段と向上させることができる。さらに、一つのカートリッジフィルタにおいて、種類の異なるイオン類や金属の捕捉、例えば、陽イオンと陰イオン、又は陽イオンと特定の重金属イオン等、様々な微粒子を同時に捕捉することができ、液体濾過装置全体を小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の液体濾過用カートリッジフィルタは、異なる機能を有する複数の不織布を積層一体化して、プリーツ状またはロール状に巻き回してなるカートリッジフィルタであって、該不織布の少なくとも一種は、グラフト重合によりイオン交換基を有するグラフト重合不織布であり、他の一種は、該グラフト重合不織布より繊維径及び平均孔径が小さい非グラフト重合不織布であり、繊維径勾配型の複数濾材からなることを特徴とするものである。
以下、本発明の液体濾過用カートリッジフィルタについて、項目毎に詳細に説明する。
【0014】
1.グラフト重合不織布
本発明の液体濾過用カートリッジフィルタに用いられるグラフト重合不織布は、不織布基材(原反)に、グラフト重合法により、イオン交換基及び/又はキレート基を導入したものである。グラフト重合法としては、放射線グラフト重合法を好適に用いることができる。
放射線グラフト重合法とは、有機高分子基材に放射線を照射してラジカルを生成させ、それにグラフトモノマーを反応させることによって、所望のグラフト重合体側鎖を基材の高分子主鎖上に導入することのできる方法であり、グラフト鎖の数や長さを自由にコントロールすることができ、また、各種形状の既存の高分子材料に重合体側鎖を導入することができるので、本発明の目的のために用いるのに最適である。放射線グラフト重合法を用いた場合には、イオン交換基及び/又はキレート基は、これらの基を有する重合体側鎖の形態で高分子基材に導入される。
【0015】
上記グラフト重合法としては、具体的には、例えば、液相グラフト重合法が挙げられ、不織布を、γ線や電子線などの放射線照射によって活性化した後、水、界面活性剤および反応性モノマーを含むエマルジョンに浸漬して、前記の不織布基材にグラフト重合を完了させ、次に、前記基材に形成されたグラフト鎖に、スルホン酸基、アミノ基、グルカミン酸基やイミノ二酢酸基(イミノジ酢酸基)などの機能性官能基、すなわちイオン交換基及び/又はキレート基を導入することが望ましい。本発明においては、特に液相グラフト重合法に限定されず、モノマーの蒸気に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材をモノマー溶液に浸漬した後、モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法なども、用いることができる。
尚、本明細書中における「エマルジョン」とは、一般に、水に対して不溶性である反応性モノマー液の小滴が水溶媒中に分散した系をいう。反応性モノマー液の小滴の大きさに限定はなく、数nm〜数十nm程度のマイクロエマルジョンや1nm程度のナノエマルジョンも含むものとする。したがって、水に対して不溶性である反応性モノマー液と水溶媒が存在する限り、界面活性剤の添加により、水/油間の界面張力を低下させて、見かけ上一様に混ざり合った状態の系も含むものとする。
【0016】
また、グラフト重合される不織布原反は、ポリアミド、ポリオレフィン又はポリビニルアルコール(PVA)を繊維原料とし、(i)繊維径が5〜30μm、(ii)平均孔径が20〜60μm、(iii)目付け重量が10〜100g/m、(iv)繊維充填率が5〜30%、(v)厚みが0.1〜1.0mmであることが望ましい。
本発明では、高効率のイオン捕捉のために、イオン交換・キレート容量には、グラフト官能基の絶対量が必要であり、繊維数の絶対量としての目付け重量、繊維表面積比例要素としての繊維径、通液のパスの長さとしての厚みが重要である。目付け重量と厚みについては、プリーツ加工とカートリッジ加工性、一定寸法の容器への収納性から、上記範囲が好適である。
また、不織布は、グラフト重合性を考慮すると、ノーバインダで繊維が固定されていることが重要であり、さらに、繊維配列がランダムで均質性の高い不織布が好ましい。
そのような不織布を得る製法としては、繊維径が凡そ20〜30μmの短繊維を用いたカード法乾式不織布、湿式(抄紙)法不織布、繊維径が凡そ5〜20μmの連続繊維からなるメルトブロー法不織布、スパンボンド法不織布などが挙げられる。
【0017】
グラフト重合用不織布基材としては、ポリプロピレン、ポリアミド、高密度ポリエチレンまたはポリビニルアルコール(PVA)が挙げられる。
その理由としては、これらの素材が液体濾過の使用下において、化学・物理的安定性であるのみならず、前記の好ましい不織布の製法に容易に適用される。例えば、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリアミドについては、メルトブロー法またはスパンボンド法不織布製法が適用される。また、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、PVAは、短繊維ステープルとして市販されているものを、乾式または湿式不織布製法にて、容易に不織布化できる。
【0018】
ポリアミド(PA)としては、特に限定されなく、ナイロンの一般名をもつ、酸アミド(−CONH−)を繰り返し単位に持つ合成高分子であり、例えば、ポリアミド3(ナイロン3)、ポリアミド4(ナイロン4)、ポリアミド6(ナイロン6)、ポリアミド6−6(ナイロン6−6)、ポリアミド12(ナイロン12)などが挙げられる。
【0019】
また、ポリオレフィンとしては、プロピレン、エチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1などのα―オレフィンの単独重合体、あるいはこれらα−オレフィンの2種類以上のランダムあるいはブロック共重合体が挙げられる。中でもポリプロピレン(PP)としては、ポリプロピレン単独重合体、又はエチレン・プロピレン系共重合体などであり、そのエチレン含量については特に特定されないが、メタロセン触媒により製造されたものは、放射線の損傷による物性低下が少なく好ましい。
また、ポリエチレン(PE)としては、特に限定されなく、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のいずれでもよい。
【0020】
さらに、ポリビニルアルコール(PVA)は、その基本骨格と分子構造、形態、各種変性により、水溶性または親水性の程度を変えることができることが知られるが、本発明では、水溶性のポリビニルアルコール(PVA)繊維は用いない。
本発明に用いられるポリビニルアルコール(PVA)は、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位をけん化することにより得られる。
ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等が挙げられる。
また、ポリビニルアルコール(PVA)は、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変成PVAであってもよい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類などが挙げられる。これらの単量体の含有量は、共重合PVAを構成する全単位のモル数を100%とした場合の通常その20モル%以下である。また、共重合されていることのメリットを発揮するためには、0.01モル%以上が上記共重合単位であることが好ましい。なお、低融点の共重合タイプのPVAはPVA繊維と混合して湿式または乾式不織布におけるバインダー繊維としても利用できる。
【0021】
また、不織布原反(不織布基材)にグラフト重合させる反応性モノマ−としては、ビニル基を有するモノマーが挙げられ、特に限定はなく、例えば、アクリロニトリル(CH=CHCN)、アクロレイン、グリシジルメタクリレート(GMA)、クロロメチルスチレン、ビニルベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
また、反応性モノマーにおけるビニル基を有するモノマーとして、リン酸基を有するビニルモノマーも挙げられ、例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート:CH=C(CH)COO(CHOPO(OH)、ジ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート:[CH=C(CH)COO(CHO]PO(OH)、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート:CH=CHCOO(CHOPO(OH)、ジ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート:[CH=CHCOO(CHO]PO(OH)、又はこれらの混合モノマーなどである。
【0022】
このビニル基を有するモノマー、例えば、GMAを基材にグラフトし、次に、このグラフト側鎖にイオン交換機能のある官能基を導入し、例えば、亜硫酸ナトリウムなどのスルホン化剤を反応させてスルホン化し、カチオン交換基に転化させたり、ジエタノールアミンなどを用いてアミノ化し、アニオン交換基を導入したりすることができる。また、イミノジ酢酸などのキレート化剤を作用させてイミノジ酢酸基(イミノ二酢酸基、IDA基:−N(CHCOOH))をグラフト鎖に導入し、鉛など重金属の吸着機能を付与することができる。
【0023】
グラフト重合用の反応性モノマーをエマルジョン化する界面活性剤としては、陰イオン系、陽イオン系、両性イオン系、非イオン系界面活性剤のいずれも、使用することができる。また、これらの数種を併用してもよい。
具体的には、陰イオン系界面活性剤としては、特に限定はないが、アルキルベンゼン系、アルコール系、オレフィン系、リン酸系、アミド系の界面活性剤などであり、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムが挙げられる。
また、陽イオン系界面活性剤は、特に限定はないが、オクタデシルアミン酢酸塩、トリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。非イオン系界面活性剤は、特に限定はないが、エトキシル化脂肪アルコール、脂肪酸エステルなどであり、例えば、Tween 80が挙げられる。両性イオン系界面活性剤は、特に限定はないが、例えば、アンヒトール(商標)(花王株式会社)が挙げられる。
【0024】
使用する界面活性剤の濃度は、特に限定はなく、反応性モノマーの種類、濃度に依存して、適宜決定することができる。界面活性剤の濃度は、溶媒の全重量を基準として、0.1〜10%が好ましい。
【0025】
界面活性剤を使用することにより、水に対して不溶性の反応性モノマーの分散を促進することができる。エマルジョンの外観は、分散相の液滴の大きさに依存して種々変化するが、一般的には、乳濁状態であり、マイクロエマルジョンからナノエマルジョンへと液滴の大きさが小さくなるにつれ、透明を呈するようになる。
【0026】
エマルジョン化のための水は、特に限定はないが、イオン交換水、純水、超純水が使われる。溶媒として有機溶媒ではなく、水を使用することにより、廃液処理および作業環境の問題を排除することができ、環境保護面に資することとなる。
【0027】
ここで、上述のエマルジョン化モノマーのグラフト重合条件については、モノマーの反応性にもよるが、10℃〜60℃、好ましくは20℃〜60℃である。反応時間は、1分〜2時間、好ましくは5分〜60分の範囲であり、エマルジョン中のモノマー濃度は、1%〜30%、好ましくは2%〜20%のなかで、適宜選択される。
【0028】
また、前記イオン交換基としては、強酸性カチオン交換基としてのスルホン酸基、弱酸性カチオン交換基としてのリン酸基やカルボン酸(又はカルボキシル)基、アニオン交換基としてのアミノ基、キレート基としてのグルカミン酸基、又はキレート基としてのイミノジ酢酸基(イミノ二酢酸基)から選択される少なくとも一種の官能基が挙げられる。
【0029】
上記スルホン基又はスルホン酸基は、半導体、液晶の製造工程で使用される超純水に含まれるナトリウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛などの陽イオンを捕捉するために、導入される。また、リン酸基やカルボン酸基は、各種金属イオン、スカンジウムなどの貴金属を捕捉するために、導入される。さらに、アミノ基は、工業用純水に含まれる塩素などの陰イオンの除去、グルカミン酸基は、排水中に含まれるホウ素、砒素などの陰イオンの除去に導入される。また、イミノジ酢酸基は、水道水に含まれる鉄、銅、マンガン除去や、工業排水中に含まれるカドミニウム、鉛などの重金属の除去に導入される。
イオン交換基及びキレート基としては、上記以外に、所望する機能、例えば重金属(鉛、カドミニウム、砒素など)の吸着機能により、4級アンモニウム基などの強塩基性アニオン交換基、アミドキシム基、エチレンジアミン三酢酸基、イミノジエタノール基などが挙げられる。
【0030】
本発明では、カートリッジ化の際に複層化できるという利点を活かし、グラフト重合不織布として、2種以上の異なる官能基付与のグラフト重合不織布を複数組み込むことができる。例えば、工業的に利用価値が高い組み合わせとして、(i)スルホン基付与不織布とアミノ基付与不織布の組み合わせ、(ii)スルホン基付与の不織布とグルカミン酸基付与の不織布基材の組み合わせ、(iii)スルホン基付与の不織布基材とキレート基(イミノジ酢酸基)付与の不織布基材の組み合わせ、などが挙げられる。
【0031】
2.非グラフト重合不織布
本発明の液体濾過用カートリッジフィルタに用いられる非グラフト重合不織布は、上記のグラフト重合不織布と組み合わせるものであり、グラフト重合不織布より、繊維径及び平均孔径が小さいものである。
この非グラフト重合不織布基材は、グラフト重合処理をしないため、専ら微粒子の除去に特化した不織布構成をとることができ、ポリオレフィン又はポリアミドを繊維原料としたメルトブロー法不織布であって、(i)繊維径が0.2〜5μm、(ii)平均孔径が0.2〜20μm、(iii)目付け重量が2〜60g/m、(iv)繊維充填率が10〜40%、及び(v)厚みが0.02〜0.6mmであることが望ましい。
尚、上記厚みは、不織布原反及び後述の熱プレスして調整した加工不織布の厚みを含む範囲である。
【0032】
また、非グラフト重合不織布は、液体濾過の性能(微粒子除去機能)に寄与するものであるから、非グラフト重合不織布の繊維構造をグラフト重合不織布より密にし、上記の範囲が好ましい。
特に濾過精度は、繊維径と平均孔径が小なるほど向上するので、そのような性状を付与できる不織布としては、極細連続繊維からなるメルトブロー法不織布が好ましい。その素材には、ポリエチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。その中では、ポリマー本来の紡出性が高く、細繊維が得やすいというほか、熱カレンダ処理も容易に可能であるという観点から、ポリプロピレンが微粒子除去用の不織布濾材として、好適である。
非グラフト重合不織布は、メルトブロー不織布製造工程において、繊維径、目付け重量、厚み、充填率、通気度、ポアサイズ(孔径)などの諸性状が定められ、管理された原反として供給される。それによって、様々なレベルの微粒子濾過精度が付与される。
【0033】
また、本発明における非グラフト重合不織布については、以下の用例を包含するものである。
(i)原反単層をそのまま使用する。
(ii)複数の原反を重ね合わせて使用する。
(iii)上記単数または複数の原反を熱プレス加工により圧密・一体化して使用する。
これらの方法によって、微粒子濾過の精度を用途目的に応じて調節できることも、本発明の特徴である。特に、熱プレス加工による厚み調整により、繊維間の空隙率を減少させ、その結果、平均孔径を更に小さくして、濾過精度を向上させることができる。
なお、熱プレス加工の場合には、原反の厚みは、当初の厚みに対して、40〜70%の厚みになることが好ましい。圧縮が当初の厚みの40%以下に圧縮されると、不織布がフィルム化するため、過度の濾過通液抵抗を招き、一方、70%以上に厚みが保持されると期待するプレス効果が得にくい。
さらに、本発明では、繊維径、平均孔径などが異なる複数の非グラフト不織布を各種揃え、積層して、繊維径、孔径の勾配をもつ積層濾材を構成することができる。これは、いわゆるデプス型(深層型)濾材に分類され、微粒子の濾過精度ととともに捕捉容量(=濾材寿命)をバランスよく向上させることができる。
また、非グラフト重合不織布の繊維径及び平均孔径を、グラフト重合不織布のそれよりも小さくすることによって、濾過原液に含まれる微粒子がグラフト重合不織布に付与されたイオン交換基と接触することを予防し、イオン交換能を健全に保ち、寿命を保持するための保護層の役目を担うこともできる。
【0034】
3.液体濾過用カートリッジフィルタ
本発明の液体濾過用カートリッジフィルタは、上記異種・複数の不織布の濾材をロール上に巻き回す加工(ワインドタイプ)またはプリーツ加工(プリーツタイプ)して、ハウジングに収納するカートリッジフィルタである。また、円盤上に打ち抜き、カラム内に積層することにも、応用することができる。
前記したように、本発明では、カートリッジフィルタにおける濾材が、単層単独ではなく、異なる性状・性能をもった異種素材の不織布よりなる複層品、すなわち、グラフト重合によってイオン交換基及び/又はキレート基を有する不織布と、繊維径、平均孔径の異なる非グラフト重合不織布との組み合わせである。このような構成により、高度の化学吸着性と微粒子濾過寿命・精度を両立させた精密液体濾過用カートリッジフィルタとすることができる。例えば、同一のカートリッジフィルタを用いて、半導体製造プロセスなどで使用される洗浄用水やフォトレジストなどの薬液から、微粒子のみならず遊離の金属イオン、更にはコロイド微粒子の除去をも可能となる。
【0035】
4.用途
本発明の液体濾過用カートリッジフィルタは、例えば、半導体素子製造プロセスの薬液供給ラインにおいて、薬液タンクを循環する経路の途中に設置することなどにより、従来の濾過工程に何ら変更を加える必要がなく、半導体製造プロセスなどで現在使用されている実装置への適用が非常に容易である。
また、本発明の液体濾過用カートリッジフィルタは、半導体デバイスや液晶を製造する工程で必要な洗浄水における金属イオンなどの陽イオンや塩素などの陰イオンの除去、医薬用および医薬器具洗浄に必要な水からの不純物の除去、或いは、精製水の製造や食品分野における原料水からの塩類除去や有害な有機物、金属の除去など精密液体濾過に関する分野、家庭用飲料水の精製などに適用される。また、工業排水における有価金属の回収、または有害金属の除去に関する分野に使用されるフィルタ分野にも、適用される。
中でも、超LSI製造プロセスにおけるシリコンウエハの洗浄水は、LSI集積度が年々増加するに伴い最も不純物の少ない水が要求されるため、この分野に好適に用いられる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
実施例で評価した物性の測定方法の概要を以下に示す。
(1)不織布の(平均)繊維径:
対象の不織布基材を電子線走査型顕微鏡にて観察し、その拡大写真上の繊維の径を、ランダムに10本以上計測し、その算術平均より求める。その際の適用倍率は、その基布の繊維径にもよるが、1,000〜5,000倍より、適宜選定する。
(2)不織布の厚み:
厚み測定器((株)ミツトヨ製、商品名ABSOLUTE ID−C1012C)を用いて、2.94cN/cm荷重で5箇所測定し、その平均値を求めた。
(3)不織布の目付け重量:
試料長さ方向より、100×100mmの試験片を採取し、水分平衡状態の重さを測定し、1m当たりに換算して求めた。
(4)不織布の平均孔径:
バブルポイント法(ASTM F316−86、JIS K3832)に基づき、PMI社製自動細孔径分布測定器によって測定した。
(5)不織布の繊維充填率:
次の数式から算出した。
繊維充填率(%)=[目付け重量(g/m)/厚み(mm)/有機繊維材料の比重/1000]×100
【0038】
(6)不織布のグラフト率:
グラフト前後の不織布重量より、下式に基づき算出した。
グラフト率(%)=100×(B―A)/A
(式中、Aはグラフト前の不織布基材重量、Bはグラフト後の不織布基材重量を表す。)
(7)不織布の官能基密度:
以下の式にて算出される。
官能基密度(m−mol/g)=導入された官能基のモル数[m−mol]/機能性不織布の重量[g]
ここで機能性不織布とは、官能基導入後の不織布をいう。
(8)粒子濾過率:
グラフト/非グラフト重合不織布を重ね併せて円盤状に切り抜いて測定濾材とし、吸引フラスコとフィルターホルダーに固定し、平均1μm径の標準微粒子を懸濁させた水の濾過を行い、この濾過液を微粒子カウンター(パーティクルカウンター)にて計測し、濾過前後の微粒子数を測定し、粒子濾過率を算出した。
【0039】
[実施例1]
繊維径が9.6μmの高密度ポリエチレン(HDPE)原料のメルトブロー法不織布(目付け重量80g/m)を用い、窒素雰囲気下で、ドライアイスで冷却しつつ、20kGyのガンマ線(コバルト60)を照射した。
次に、照射後のメルトブロー不織布を、Tween20(関東化学株式会社)0.5%を含む水溶液にグリシジルメタクリレート(GMA)5%を加えて調整したエマルジョン溶液に、大気下にて浸漬し、40℃に保持しながらグラフト重合を行い、GMAグラフト率が150%のグラフト重合不織布を得た。
このGMAグラフト重合不織布を、10%亜硫酸ナトリウム水溶液で80℃、4時間浸漬処理し、基材の単位重量(g)当たりの官能基密度2.65m−mol/gのスルホン酸基を導入したグラフト重合不織布を得た。
【0040】
一方、繊維径0.6μmのメルトブロー法ポリプロピレン(PP)不織布原反(目付け重量15g/m)1枚を用い、上記のグラフト重合不織布と積層し、円盤状に切り抜いて測定濾材とした。この試料に対して平均1μm径の標準微粒子を懸濁させた水の濾過を行い、濾過液を微粒子カウンター(パーティクルカウンター)にて計測し、濾過前後の微粒子数を測定した結果、80%の粒子濾過率を得た。
【0041】
上記濾材を幅25cmに裁断し、高密度ポリエチレン製コアの周囲を取り巻くように設置し、山高さ12mm、山数80にプリーツ加工し、継ぎ目を超音波加工にてつなぎ、端面を、エンドキャップを用いて、熱板加工にてシールし、内径76mmの円筒形カートリッジ容器に収納した(以下の実施例において共通操作)。
この時の濾材の展開面積は、0.5mであった。また、上記コア材に、非グラフト重合不織布及びグラフト重合不織布を交互に継ぎ巻きにしたロールフィルタを、カートリッジ容器に収納した。この時の総巻長さは、1.8mであり、本実施例1では、グラフト重合不織布を1.2m,非グラフト重合不織布を0.6mの長さに配分した。このロールフィルタの場合も幅25cmとしてので、その展開面積は、0.3mに設定された。
このようにして製作したカートリッジフィルタの性能を表1に示す。
なお、カートリッジフィルタの1本当たりの官能基量(m−mol/フィルタ)は、上述に示すプリーツ又はロール加工による展開面積と、基材の官能基密度(m−mol/g)を基材の目付け重量(g/m)当たりに換算した値(m−mol/m)との積によって求めた。(尚、表1などでは、Total m−mol/プリーツ又はロールなどと表記した。)
【0042】
[実施例2]
平均繊維径18μmの高密度ポリエチレン原料の短繊維を、カード法サーマルボンド不織布化し、窒素雰囲気下でドライアイス冷却しつつ、100kGyのガンマ線(コバルト60)を照射した。
グラフト重合処理は、実施例1と同様に行った結果、GMAのグラフト率160%のグラフト重合不織布を得た。
これを実施例1と同様の方法で、スルホン化し、基材の単位重量当たりの官能基密度2.71m−mol/gを導入したグラフト重合不織布を得た。
【0043】
一方、非グラフト基材として、平均繊維径0.6μmのメルトブロー法ポリプロピレン不織布原反(目付け重量15g/m)1枚を用い、グラフト重合不織布と積層し、円盤状に切り抜いて吸引フラスコとフィルターホルダに固定し、これを測定濾材として、1μm径の標準微粒子を懸濁させた水の濾過を行い、濾過液をパーティクルカウンターにて計測し、濾過前後の微粒子数を測定した結果、72%の粒子濾過率を得た。
また、この不織布積層品を、実施例1に示す要領にて、プリーツ及びロール巻き加工してカートリッジフィルタを製作した。その性能を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
平均繊維径が6.3μmの高密度ポリエチレン原料のメルトブロー法不織布(目付け重量49g/m)を用い、窒素雰囲気下、ドライアイスで冷却しつつ、20kGyのガンマ線(コバルト60)を照射した。
次に、照射後のメルトブロー不織布を、Tween20(関東化学株式会社)0.5%を含む水溶液にグリシジルメタクリレート(GMA)5%を加えて調整したエマルジョン溶液に、大気下にて浸漬し、40℃に保持しながらグラフトを行い、GMAグラフト率が180%のグラフト重合不織布を得た。
得られたGMAグラフト重合不織布用い、アミノ化処理を行った。即ち、トリメチルアミン塩酸塩の10%水溶液を調整し、この水溶液に1NのNaOHを投入してPH9.4とした後、上記GMA不織布を投入し60℃、1時間処理し、イオン交換容量2.81meq/gのトリメチルアミン基付与型メルトブロー不織布、すなわち、アミノ基を導入したグラフト重合不織布を得た。
【0045】
一方、非グラフト基材として、平均繊維径4.3μmのメルトブロー法ポリプロピレン不織布原反(目付け重量30g/m)1枚を、上記グラフト重合不織布と積層し、測定濾材とした。
上記濾材を、円盤状に切り抜いて吸引フラスコとフィルターホルダに固定し、1μm径の標準微粒子を懸濁させた水の濾過を行い、濾過液をパーティクルカウンターにて計測し、濾過前後の微粒子数を測定した結果、61%の粒子濾過率を得た。この濾材を用いて、実施例1に示す要領にて製作したカートリッジフィルタの性能を表1に示す。
【0046】
[実施例4]
実施例1と実施例3により得られた2種のイオン交換性不織布と、一方、非グラフト重合不織布として、実施例1で用いたメルトブロー法ポリプロピレン不織布原反(目付重量15g/m、繊維径0.6μm)を積層して濾材とし、実施例1と同様の濾過試験を行った結果、85%の濾過率を得た。
これらの濾材を用いて、実施例1に示す要領にて製作したカートリッジフィルタの性能を表1に示す。
【0047】
[実施例5]
平均繊維径が5μmのメルトブロー法ポリアミド6(PA6)不織布に、窒素雰囲気下、ドライアイスで冷却しつつ、20kGyのガンマ線(コバルト60)を照射した。
次に、実施例1と同様の方法にてGMAをグラフトし、183%のグラフト率を得た。
この不織布をイミノジ酢酸ナトリウム8.5%水溶液に浸漬し、80℃、20時間処理を行い、基材の単位重量当たりの官能基密度2.55m−mol/gのイミノジ酢酸基付与型機能性不織布を得た。
【0048】
一方、非グラフト重合不織布として、平均繊維径0.6μmのメルトブロー法ポリプロピレン不織布原反(目付け重量15g/m)1枚を用い、上記グラフト重合不織布と積層し、測定濾材とした。
上記濾材を、実施例1と同様の濾過試験を行った結果、81%の濾過率を得た。
この濾材を用いて、実施例1に示す要領にて製作したカートリッジフィルタの性能を表2に示す。
【0049】
[実施例6]
平均繊維径20μmのPVA短繊維を使用し、湿式法にて目付け重量60g/mに調製された不織布を、窒素雰囲気下、ドライアイスで冷却しつつ、30kGyのガンマ線(コバルト60)を照射した。
次に、照射後のメルトブロー不織布を、Tween20(関東化学株式会社)0.5%を含む水溶液にグリシジルメタクリレート(GMA)5%を加えて調整したエマルジョン溶液に、大気下にて浸漬し、40℃に保持しながらグラフトを行い、GMAグラフト率が115%のグラフト重合不織布を得た。
このグラフト重合不織布を10%亜硫酸ナトリウム水溶液で80℃、4時間処理し、基材の単位重量当たりの官能基密度2.59m−mol/gのスルホン酸基を導入したグラフト重合不織布を得た。
【0050】
一方、非グラフト重合不織布として、平均繊維径0.6μmのメルトブロー法ポリプロピレン不織布原反(目付け重量15g/m)1枚を用い、上記グラフト重合不織布と積層し、濾材とした。
上記濾材を、これまでと同様の濾過試験を行った結果、75%の濾過率を得た。
この濾材を用いて、実施例1に示す要領にて製作したカートリッジフィルタの性能を表2に示す。
【0051】
[実施例7]
グラフト重合不織布として、実施例2で得られた、スルホン酸基を導入したカード法サーマルボンド法高密度ポリエチレン不織布を用いた。
一方、非グラフト重合不織布として、平均繊維径0.6μmのメルトブロー法ポリプロピレン不織布原反(目付け重量15g/m、厚み0.12mm)を熱カレンダロールでプレス加工(加工温度130℃)を施し、厚みを0.05mmまでに圧密した。その結果、平均孔径が6μmから3.5μmに減少した。
上記グラフト重合不織布に、この非グラフト重合不織布を積層し、濾材にして、実施例1と同様の方法にて、濾過率を測定したところ、88%であった。この濾材を用いて、実施例1に示す要領にて製作したカートリッジフィルタの性能を表2に示す。
【0052】
[実施例8]
グラフト重合不織布として、実施例3で得られたアミノ基導入のメルトブロー法高密度ポリエチレン不織布(目付重量49g/m)を用いた。
一方、非グラフト重合不織布として、繊維径5.6μmのメルトブロー法高密度ポリエチレン不織布原反(目付け重量81g/m、厚み0.53mm、平均孔径16μm)を、熱ロールでプレス加工(加工温度130℃)を施し、厚みを0.32mmまでに圧密した。その結果、平均孔径が9μmに減少した。
上記グラフト重合不織布に、この非グラフト重合不織布を積層して、濾材にして、実施例1と同様の方法にて、濾過率を測定したところ、66%であった。
この濾材を用いて、実施例1に示す要領にて製作したカートリッジフィルタの性能を表2に示す。
【0053】
[実施例9]
グラフト重合不織布として、実施例3で得られたアミノ基導入のメルトブロー法高密度ポリエチレン不織布(目付重量49g/m)を用いた。
一方、非グラフト重合不織布として、平均繊維径0.6μmのメルトブロー法ポリプロピレン不織布原反(目付け重量15g/m、厚み0.12mm)を2枚重ねて、熱ロールでプレス加工(加工温度)を施し、全厚みを0.10mmまでに、圧密した。その結果、平均孔径が1.6μmとなった。
上記グラフト重合不織布に、この非グラフト重合不織布を積層し、濾材にして、濾過率を測定したところ、95%であった。
この濾材を用いて、実施例1に示す要領にて製作したカートリッジフィルタの性能を表3に示す。
【0054】
[比較例1]
非グラフト重合不織布を用いずに、実施例1のグラフト重合不織布であるスルホン化メルトブロー不織布単層の濾過率を、前記実施例1と同様の方法にて測定した。その濾過率は、10%であった。評価結果を表3に示す。
【0055】
[比較例2]
非グラフト重合不織布を用いずに、実施例2のグラフト重合不織布であるスルホン化短繊維不織布単層の濾過効率を、前記実施例1と同様の方法にて測定した。その濾過効率は、0%であった。評価結果を表3に示す。
【0056】
[比較例3]
非グラフト重合不織布を用いずに、実施例3のグラフト重合不織布であるアミノ化メルトブロー不織布の濾過効率を測定したところ、その濾過効率は23%であった。評価結果を表3に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
表1〜3や、実施例と比較例の対比から明らかなように、非グラフト重合不織布では、原反そのものの繊維径、平均孔径をグラフト重合不織布のそれよりも小さく設定でき、また、熱ロールで、単独または複数重ねて、圧密することによって、さらに平均孔径を小さくすることができるので、微粒子の濾過に好適であって、この非グラフト重合不織布とイオン交換基を付与したグラフト重合不織布とを複合することによって、イオン交換能と高精度の微粒子濾過機能を具備したカートリッジフィルタを実現することができる。
一方、比較例1〜3で示すように、グラフト重合不織布のみでは、1μm径の微粒子の除去は、殆ど不可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の液体濾過用カートリッジフィルタは、高効率のイオン捕捉に適したグラフト重合不織布と、微粒子捕捉効率の高い非グラフト重合不織布とを複合することによって、濾過性能とイオン交換能を高いレベルでバランスさせた、イオン除去と微粒子除去の能力を高度に兼ね備え、信頼性が高いという効果を奏し、精密液体濾過用として、好適に用いられる。特に、半導体産業において使用される純水、薬液或いは溶剤などの精製に特に好ましく利用することのでき、超LSI製造プロセスにおけるシリコンウエハの洗浄水向け濾過の分野などで有用であり、産業上また安全上において寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる機能を有する複数の不織布を積層一体化して、プリーツ状またはロール状に巻き回してなるカートリッジフィルタであって、
該複数の不織布の少なくとも一種は、グラフト重合によりイオン交換基を有するグラフト重合不織布であり、他の一種は、該グラフト重合不織布より繊維径及び平均孔径が小さい非グラフト重合不織布である、繊維径勾配型の複数濾材からなることを特徴とする液体濾過用カートリッジフィルタ。
【請求項2】
前記グラフト重合不織布は、イオン交換基がスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、アミノ基、グルカミン酸基、又はイミノジ酢酸基から選択される少なくとも一種の官能基であり、かつグラフト重合される不織布原反は、ポリアミド、ポリオレフィン又はポリビニルアルコールを繊維原料とし、(i)繊維径が5〜30μm、(ii)平均孔径が20〜60μm、(iii)目付け重量が10〜100g/m、(iv)繊維充填率が5〜30%、及び(v)厚みが0.1〜1.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の液体濾過用カートリッジフィルタ。
【請求項3】
前記非グラフト重合不織布は、ポリオレフィン又はポリアミドを繊維原料としたメルトブロー法不織布であって、(i)繊維径が0.2〜5μm、(ii)平均孔径が0.2〜20μm、(iii)目付け重量が2〜60g/m、(iv)繊維充填率が10〜40%、及び(v)厚みが0.02〜0.6mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体濾過用カートリッジフィルタ。
【請求項4】
前記非グラフト重合不織布は、熱プレス加工により圧密一体化されて、厚みが当初の厚みに対して40〜70%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液体濾過用カートリッジフィルタ。

【公開番号】特開2009−90259(P2009−90259A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266125(P2007−266125)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】