説明

液体濾過用フィルタ及び液体濾過方法

【課題】高い濾過性能と長い破過寿命と低い圧力損失とを併せ持つ液体濾過用フィルタと、このフィルタを用いた液体濾過方法とを提供する。
【解決手段】液体濾過用フィルタ1は、筒状有孔芯材2の外周囲に織編物3を巻回したものである。この織編物3は、相当直径1〜1000nmの複数本の単繊維を集束した繊維束を織編成したものであり、単繊維に、アニオン交換基、カチオン交換基及びキレート基の少なくとも1種の官能基を付与したものである。単繊維を集束して繊維束とし、この繊維束を織編成して織編物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体濾過用のフィルタと、このフィルタを用いた液体濾過方法に関するものであり、さらに詳しくは、半導体製造工程における薬品の高純度化や超純水中の不純物除去に好適に用いられる液体濾過用フィルタ及び液体濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
I. 水や薬液などの液体の濾過に用いられるフィルタとして、筒状の有孔芯材の外周に不織布を巻回したものが広く用いられている(例えば下記特許文献1,2)。
【0003】
また、濾過面積を大きくすると共に、濾過層の厚みを大きくしたものとして、プリーツ型フィルタが知られている(例えば特許文献2)。しかしながら、このプリーツ型フィルタは、プリーツの折り込み部分に流れが偏り易く、十分な除去率が得られないことがある。即ち、このプリーツの折り込み部分では、水などの被処理流体は不織布の厚み方向に透過することになり、吸着層が薄い。また、この折り込み部分に流れが集中することにより、この折り込み部分では早期に破過してしまう。
【0004】
II. 一般に、繊維によって形成されたフィルタは、使用する繊維の太さにより、孔径及び単位体積当たりの表面積が決定する。細い繊維を使用すると、フィルタの孔径は小さくなり、液体を透過させたり、接触させる際の除粒子、除濁、除コロイド性能が高くなる。また、単位体積当たりの表面積(比表面積)も大きくなるため、イオン交換基といった官能基を付与する際の付与可能な量を多くすることができ、液体中の不純物濃度が低濃度であっても接触効率が高いため、濾過性能が高くなる。そこで、フィルタ用の繊維として、相当直径がナノオーダー(1〜1000nm)である繊維(ナノファイバー)が用いられるようになってきた。しかしながら、ナノファイバー製のフィルタは、透過抵抗や拡散抵抗が大きい。
【0005】
なお、ナノファイバーの製造方法として電界紡糸法(静電紡糸法)が公知である(下記特許文献3,4等)。この電界紡糸法では、ノズルとターゲットとの間に電界を形成しておき、該ノズルから液状原料を細繊維状に吐出させて紡糸が行われる。細繊維は、ターゲット上に集積されて繊維体となる。
【0006】
また、ナノファイバーの他の製造方法としては海島溶融紡糸法が公知である(特開2004−169261)。海島溶融紡糸法とは、海成分内部に、海成分とは化学構造を異にするポリマー又は無機物質で島成分としての多角形断面繊維を複数形成して紡糸した後、あるいは無撚糸、撚糸、合糸、編織布、不織布、植毛品、起毛品等の繊維製品を製造した後、最終的に海成分のみを溶剤処理、アルカリ処理、高温処理、熱水処理や高圧流体処理、ブラシング、擦過等、島成分は耐性を有する化学的、物理的処理により除去することによって、多角形断面繊維を露出させるものである。
【0007】
III. また、一般に、フィルタの吸着層が薄いと、吸着平衡の関係から破過寿命(除去しきれずにリークを始めるまでの時間)が短くなる。そこで吸着層を厚くするために、上述のようにプリーツ型フィルタが用いられてきたが、プリーツの折り込み部分に流れが偏り易く、十分な破過寿命が得られないという問題があった。即ち、ひだの伸びる方向(吸着層が厚い)に濾過せず、不織布面に直角な方向(吸着層が薄い)方向に濾過してしまう。
【0008】
IV. 以上のことを踏まえ、高い濾過性能を達成するためにナノファイバーを用い、また長い破過寿命を達成するためにプリーツ型に替えてロール型を用いて構造上の問題を解消すると共に濾過層を厚くすることが考えられる。
【0009】
しかし、ロール型ではフィルタのショートパスは発生しないものの、圧力損失が大きくなってしまい、特にナノファイバーを用いる場合は圧力損失が過大となり実用的ではない。
【0010】
ロール型を使用するためにフィルタ前段にブースターポンプを設置して加圧することが考えられるが、ブースターポンプから排出される不純物がフィルタの負荷となってしまうという新たな問題が生じるため好ましくない。
【0011】
また、圧力損失を下げるべくフィルタ内のナノファイバーの繊維密度を下げることが考えられるが、繊維密度を下げると機械的強度が保てないため、製造困難となり、実用的ではない。
【0012】
このように従来技術では、高い濾過性能と長い破過寿命と低い濾過抵抗を有した高性能の液体濾過用フィルタは存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−91105
【特許文献2】特開平11−99307
【特許文献3】特開2007−92237
【特許文献4】特開2006−144138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高い濾過性能と長い破過寿命と低い圧力損失とを併せ持つ液体濾過用フィルタと、このフィルタを用いた液体濾過方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の液体濾過用フィルタは、筒状の有孔芯材の外周に織編物を巻回した液体濾過用フィルタであって、該織編物は、相当直径1〜1000nmの複数本の単繊維を集束した繊維束を織編成したものであり、該単繊維にアニオン交換基、カチオン交換基、及びキレート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基が付与されていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項2の液体濾過用フィルタは、請求項1において、前記織編物が織物であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項3の液体濾過用フィルタは、請求項1又は2において、前記織編物は、少なくとも1種の異なる官能基が付与されている2種以上の単繊維を集束した繊維束を織編成したものであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項4の液体濾過用フィルタは、請求項1ないし3のいずれか1項において、単繊維は、官能基を有するモノマーを共重合させたポリマーよりなることを特徴とするものである。
【0019】
請求項5の液体濾過用フィルタは、請求項1ないし4のいずれか1項において、織編物の官能基容量が0.1〜3mmol/gである。
【0020】
請求項6の液体濾過用フィルタは、請求項1ないし5のいずれか1項において、織編物の示差走査熱量の溶融ピーク温度が170〜250℃であることを特徴とするものである。
【0021】
請求項7の液体濾過用フィルタは、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液体濾過用フィルタによって液体を濾過することを特徴とするものである。
【0022】
請求項8の液体濾過用フィルタは、請求項7において、液体は金属イオン濃度:0.5〜5ng/L、TOC:5ppb以上〜50ppb未満、微粒子数:0.1μm以上の微粒子が5個/mL以下の水質の純水であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液体濾過用フィルタは、相当直径1〜1000nmの極細の単繊維を集束して繊維束とし、これを織編成した織編物を有孔芯材に巻回したものであり、この単繊維にアニオン交換基、カチオン交換基又はキレート基を付与したものである。この液体濾過用フィルタは、極細の繊維を用いており、0.1μm程度、すなわち100nm程度の微粒子を繊維間に捕捉でき、濾過性能に優れる。また、この繊維束を不織布状でなく織編物状に形成しこれをプリーツ型ではなくロール型フィルタとしているので、高い濾過性能と長い破過寿命を維持しつつ空隙率を高くして圧力損失を下げることができ、透過抵抗や拡散抵抗の増加を抑えることができる。
【0024】
単繊維に、アニオン交換基、カチオン交換基又はキレート基を付与することにより、イオン交換作用又はイオン捕捉作用が奏され、透過水のイオン濃度を低下させることができ、純水や超純水の製造に用いるのに好適なものとなる。本発明のフィルタは、特に半導体製造工程における薬品の高純度化や超純水中の不純物除去に用いるのに好適である。
【0025】
溶融紡糸法では、高熱によりポリマーを溶解し、紡糸、冷却を行うため、繊維の結晶性が高くなる傾向がある。特に、海島溶融紡糸法では、海成分内部に、海成分とは化学構造を異にするポリマーで島成分としての多角形断面繊維を複数形成して紡糸した後、海成分を除去するため、島成分は海成分を除去する工程に対して耐性を有する。即ち、結晶性が高く、物理的、化学的強度が高い織編物が得られる傾向がある。
【0026】
発明者らが鋭意検討した結果、織編物の結晶性が高すぎると繊維の内部に水が浸透し難くなり、繊維が有する官能基が有効に活用されないという課題があることが分かった。そして繊維が有する官能基を有効に活用するためには、示差走査熱量(DSC)の溶融ピーク温度(融点)が250℃以下、さらには、220℃以下であることが好ましいことを見出した。
【0027】
その一方で、示差走査熱量(DSC)の溶融ピーク温度(融点)が低すぎると、ポリエステルの融点の関係で繊維の強度が低くなり、素材の耐久性が低くなる懸念がある。さらにTOCの溶出量が若干増加するのでその点でも問題がある。そのため示差走査熱量の溶融ピーク温度には好ましい下限値が存在し、170℃以上であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態に係る液体濾過用フィルタの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0030】
第1図は実施の形態に係る液体濾過用フィルタ1の概略的な内部透視斜視図である。
【0031】
第1図の通り、この液体濾過用フィルタ1は、筒状有孔芯材2の外周囲に織布3を巻回したものである。この織布3は、相当直径1〜1000nmの複数本の単繊維を集束した繊維束を紡織したものである。
【0032】
以下、まず、この織布3を構成する単繊維及び繊維束について詳細に説明する。
【0033】
本発明で用いる単繊維は、相当直径が1〜1000nm好ましくは50〜800nmの範囲内にある繊維である。「相当直径」とは、1本の繊維(ファイバ)の断面積と断面の外周長さとから、(相当直径)=4×(断面積)/(断面の外周長さ)によって算出される値である。
【0034】
この単繊維は、形態的には、いわゆる繊維状の形態であればよく、単繊維がバラバラに分散したもの、単繊維が部分的に結合しているもの、複数の単繊維が凝集した集合体などのいずれの形態のものであってもよい。
【0035】
単繊維の長さには特に制限はないが、繊維束を形成するためには、長さは10mm以上特に100mm以上であることが好ましい。この単繊維は、溶融紡糸や電界紡糸によって製造することができる。なお、溶融紡糸で作製した場合、連続的に紡糸することもできるため、1000mm以上に長くすることができる。
【0036】
単繊維の断面形状は、円形、角形、スター形などのいずれであってもよい。
【0037】
単繊維の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等のポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、アクリル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、PTFE、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン化ポリオレフィンなどを用いることができるが、特にポリアクリルニトリル、ポリエステルが好ましい。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、その誘導体などが挙げられる。なお、繊維は無機繊維であってもよい。
【0038】
単繊維には、アニオン交換基、カチオン交換基及びキレート基の少なくとも1種の官能基を付与する。このような官能基を付与することにより、フィルタの金属不純物捕捉(吸着)能を向上させることができる。
【0039】
カチオン交換基としては、スルホン酸基などの強酸性カチオン交換基、リン酸基、カルボキシル基などの弱酸性カチオン交換基が挙げられる。アニオン交換基としては、4級アンモニウム基などの強塩基性アニオン交換基、1級、2級又は3級アミノ基などの弱塩基性アニオン交換基を挙げることができる。また、キレート基としては、イミノジ酢酸及びそのナトリウム塩から誘導される官能基、各種アミノ酸基、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、リジン及びプロリンなどから誘導される官能基、イミノジエタノールから誘導される官能基、ジチオカルバミン酸基、チオ尿素基などを挙げることができる。
【0040】
単繊維にこのような官能基を付与するには、上記の単繊維材料を合成するためのモノマーと、上記官能基を有するモノマー(重合性単量体)とを共重合させるのが好ましいが、グラフト重合法たとえばプラズマグラフト重合法や放射線グラフト重合法を用いてもよい。
【0041】
イオン交換基を有する重合性単量体としては、例えば、スルホン酸基を有する重合性単量体として、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びこれらのナトリウム塩、アンモニウム塩等;カルボキシル基を有する重合性単量体として、アクリル酸、メタクリル酸等;アミン系イオン交換基を有する重合性単量体として、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBTAC)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)等;を挙げることができる。また、それ自体はイオン交換基及び/又はキレート基を有していないが、イオン交換基及び/又はキレート基に変換可能な官能基を有する重合性単量体としては、メタクリル酸グリシジル、スチレン、アクリロニトリル、アクロレイン、クロロメチルスチレンなどを挙げることができる。
【0042】
イオン交換基により付与される官能基容量は0.1mmol/g以上例えば0.1〜3mmol/gが好ましく特に0.6mmol/g以上とりわけ0.6〜2mmol/gが好ましい。官能基を有するモノマーの割合は1.0mol%以上が好ましく、特に4mol%以上10mol%以下が好ましい。10mol%を超える添加量になると、ポリマーの強度が極端に弱くなり繊維化が出来なくなるおそれがある。
【0043】
この単繊維を集束して強度1.0〜8.0cN/dtex程度の繊維束とし、この繊維束を織編成して織編物とする。
【0044】
かかる織編物(布帛)は、前記官能基をもつポリエステルフィラメントと、必要に応じてその他の繊維を用いて織編物を織編成した後、必要に応じて、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去し海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1000nmの共重合ポリエステルマルチフィラメント糸とすることにより得られる。その際、前記官能基をもつポリエステルフィラメント糸の布帛の全重量に対する重量割合は20重量%以上(より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは100重量%)であることが好ましい。
【0045】
また、布帛の織編組織は特に限定されないが、布帛を上面又は下面から見て布帛上の単繊維の分布が均一であることが好ましい。織物の織組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。
【0046】
編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0047】
なお、異なる官能基が付与されている2種以上の単繊維を集束した繊維束を織編成してもよい。織編物の目付けは10〜300g/m程度が好ましく、また濾過速度100cc/cm・sec時の差圧が0.5kPa以下、特に0.1kPa以下となる目開きを有することが好ましい。
【0048】
この織布3を筒状の有孔芯材2の外周に巻回することにより液体濾過用フィルタ1が構成される。有孔芯材としては、多孔質の合成樹脂製のものが好適であるが、緻密質の合成樹脂の筒体に穿孔したものであってもよい。合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、PTFE、PFAなどのフッ素樹脂が好適であるが、これに限定されない。
【0049】
有孔芯材の直径(外径)は5〜50mm特に20〜40mmが好適である。有孔芯材の長さbは特には限定されないが、通常は80〜500mm程度とされる。
【0050】
有孔芯材に巻き付けた織編物層の厚さaは、濾過性能を確保すると共に濾過圧損を抑制するために、5〜50mm特に10〜40mm程度が好適である。巻き付けた織編物の末端を溶着、接着などにより、織編物巻回体の外周面に対して固定するのが好ましい。巻き付けた端面については円板形のプレートなどにより封じるのが好ましい。
【0051】
このように構成された液体濾過用フィルタ1に対しては、被処理液を織編物巻回体の外周面から透過させ、透過液を有孔芯材2内から取り出す。通常の場合、フィルタ1を円筒形のケーシング内に該ケーシングと同軸状に配置する。そして、フィルタ1の外周面から求心方向に被処理液を透過させ、透過液を、有孔芯材2を通して、該ケーシングの一端面側の取出口からケーシング外へ流出させる。なお、被処理液の導入口の位置は、特に限定されないが、該ケーシングの外周面又は該ケーシングの他端面に設けておくのが好ましい。
【0052】
この被処理液としては、水が好適である。特に、この液体濾過用フィルタは、超純水製造工程において純水の濾過に用いるのに好適である。純水の水質としては、金属イオン濃度:0.5〜5ng/L、TOC:5ppb以上〜50ppb未満、微粒子数:0.1μm以上の微粒子が5個/mL以下が好ましい。
【0053】
この液体濾過用フィルタ1において、吸着は平衡に従って導入口側から取出口側まで吸着カーブを形成する。この吸着カーブが時間に従って取出口側へ平行に移動して破過が起こるようにするためには、
(1) 吸着の効率を高めて吸着カーブをより取出口から遠い(導入口に近い)位置でカーブが終了するようにする、
(2) 巻き付け厚さaを厚くして吸着カーブが取出口に移動するまでの時間を長く取る、
といったことが有効である。
本発明では、比表面積が大きいので(1)の効果が得られる。また、織編物であり、圧力損失が小さいので、巻き付けの厚みaを厚くすることが出来、(2)の効果を得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0055】
[実施例1]
まず、次のように溶融紡糸法により織布を製造した。島成分に5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した変性ポリブチレンテレフタレート、海成分に島成分よりNaOH水溶液に対する溶解速度の速いポリマーを用い、海島型複合繊維紡糸口金を用いて紡糸し、得られた吐出糸をさらに延伸し、島成分の直径が1000nm以下の複合繊維を得た。この延伸糸を経糸及び緯糸に、全量配し、通常の製織方法により平組織の織布を得た。そして、前記海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、NaOH水溶液で、アルカリ減量した。このとき示差走査熱量の溶融ピーク温度(融点)は220℃であった。
【0056】
得られた織物を走査型電子顕微鏡SEMで織布表面及び経糸及び緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されており、織布の経糸及び緯糸全量が均一性に優れた超極細繊維により構成されていることが確認された。得られた織布において、経糸カバーファクターCFpは1289、緯糸カバーファクターCFfは791であった。
【0057】
外周36mm、長さ225mmのポリプロピレン製の有孔芯材の外周にこの織布を厚み20mmになるように巻きつけて液体濾過用フィルタを製作した。このフィルタを1wt%塩酸でスルホ基を水素化処理し、超純水でリンスした。原子吸光用の標準液を用いて調製したNa濃度5ng/L、TOC濃度0.5μg/L、粒子径0.1μm以上の微粒子濃度5個/mLの水をこの液体濾過用フィルタに対し20L/minで通水した。10日間通水後の処理水をICP−MSを用いて分析したところ、Na濃度は0.5ng/Lであり、TOCは0.6μg/L、粒子径0.1μm以上の微粒子は2個/mL、圧力損失は0.02MPaであった。
【0058】
[実施例2]
島成分に5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した変性ポリエチレンテレフタレートを使用したこと以外は実施例1と同様の条件で織布を製造した。このとき示差走査熱量の溶融ピーク温度(融点)は240℃であった。
【0059】
このようにして得られた布帛を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で液体濾過用フィルタを製作し、水素化処理した後、超純水でリンスした。このフィルタを用いたこと以外は実施例1と同様に通水実験を行った。
【0060】
[実施例3]
島成分に5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した変性ポリエチレンナフタレートを使用したこと以外は、実施例1と同様の条件で織布を製造した。このとき示差走査熱量の溶融ピーク温度(融点)は、250℃であった。
【0061】
このようにして得られた布帛を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で液体濾過用フィルタを製作し、水素化処理した後、超純水でリンスした。このフィルタを用いたこと以外は実施例1と同様に通水実験を行った。
【0062】
[比較例1]
島成分にポリエチレンナフタレートを使用したこと以外は実施例1と同様にして織布を製造した。得られた布帛を用いて、実施例1と同様の方法で液体濾過用フィルタを製作し、実施例1と同様に、水素化処理して超純水でリンスした。実施例1と同様に、原子吸光用の標準液を用いて調製したNa濃度10ng/Lの水をこの液体濾過用フィルタに対し20L/minで通水した。10日間通水後の処理水をICP−MSを用いて分析したところ、Na濃度は5ng/L、TOC濃度は0.5μg/L、粒子径0.1μm以上の微粒子の濃度は2個/mL、圧力損失は0.02MPaであり、圧力損失は低いが濾過性能は不十分であった。
【0063】
[比較例2]
ポリエチレンフィルムからなる直径70mm、長さ225mmの、プリーツ型の市販イオン交換フィルタ(日本ポール(株)製イオンクリーン)に上記と同様のNa濃度5ng/Lの水を20L/minで通水した。10日間通水後の処理水をICP−MSを用いて分析した。
【0064】
その結果、Na濃度は2ng/L、TOC濃度は0.5μg/L、粒子径0.1μm以上の微粒子は4個/mL、圧力損失は0.02MPaであり、圧力損失は低いものの濾過性能は不十分であった。
【0065】
実施例1〜3、及び比較例1,2の結果を表に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
[考察]
実施例1〜3の液体濾過用フィルタはいずれも比較例1,2と比較して高い濾過性能と低い圧力損失であった。
なお、実施例1〜3の中では、示差走査熱量の溶融ピーク温度が高いものほど、イオン交換能が若干低い(ただし、その反面わずかながらTOC溶出が抑制されている。)。これは、高い溶融ピーク温度での溶融により高分子の結晶性が高くなっており、高分子内のイオン拡散が起こりづらくなっているためであると推定される。これにより、高いイオン交換能を得るためには、示差走査熱量の溶融ピーク温度が比較的低い溶融条件にすることが好ましいことが認められた。
【符号の説明】
【0068】
1 液体濾過用フィルタ
2 有孔芯材
3 織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の有孔芯材の外周に織編物を巻回した液体濾過用フィルタであって、
該織編物は、相当直径1〜1000nmの複数本の単繊維を集束した繊維束を織編成したものであり、該単繊維にアニオン交換基、カチオン交換基、及びキレート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基が付与されていることを特徴とする液体濾過用フィルタ。
【請求項2】
請求項1において、前記織編物が織物であることを特徴とする液体濾過用フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記織編物は、少なくとも1種の異なる官能基が付与されている2種以上の単繊維を集束した繊維束を織編成したものであることを特徴とする液体濾過用フィルタ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、単繊維は、官能基を有するモノマーを共重合させたポリマーよりなることを特徴とする液体濾過用フィルタ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、織編物の官能基容量が0.1〜3mmol/gである液体濾過用フィルタ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、織編物の示差走査熱量の溶融ピーク温度が170〜250℃であることを特徴とする液体濾過用フィルタ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液体濾過用フィルタによって液体を濾過することを特徴とする液体濾過方法。
【請求項8】
請求項7において、液体は
金属イオン濃度:0.5〜5ng/L
TOC:5ppb以上〜50ppb未満
微粒子数:0.1μm以上の微粒子が5個/mL以下
の水質の純水であることを特徴とする液体濾過方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−40526(P2012−40526A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185246(P2010−185246)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】