説明

液体炭化水素質供給原料の全酸価(TAN)の低下方法

【課題】水素化により原油のような供給原料の全酸価を選択的に低下させる。
【解決手段】液体炭化水素質供給原料を水素含有ガスの存在下、200〜400℃の範囲の温度及び高圧で、元素の周期表第3又は4欄の金属の酸化物又はランタニドの酸化物を含むが、第5〜10欄の金属又はその化合物を本質的に含まない触媒と接触させて、全酸価(TAN)の低い液体炭化水素質生成物を得ることを特徴とする液体炭化水素質供給原料の全酸価(TAN)の低下方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、液体炭化水素質供給原料、特に原油の全酸価 (TAN)の低下方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多量の酸を含有する原油、その他の液体炭化水素質流は精製困難である。特に原油製油所の蒸留ユニットでは多量の酸が腐食の問題を引き起こす。液体炭化水素質供給原料から水素化処理、即ち、硫黄及び窒素のような他のヘテロ原子を除去する水素化処理法により酸が除去されることが知られている。しかし、水素化処理は、製油所において蒸留ユニットの下流で行われる方法である。
【0003】
原油中の酸分で生じる腐食の問題を回避するため、一般には異なる原油流をブレンドして許容量の酸を含む原油を得ている。
【0004】
原油又は他の炭化水素質液体の酸含有量は、一般にこのような液体の全酸価(TAN)として表現されている。 TANは、ASTM D664に記載の方法に従って酸を中和するのに必要な、液体1g当たりのKOHmgを表す。
【0005】
当該技術分野では、硫黄含有化合物、窒素含有化合物及び不飽和炭化水素を最小限転化させて、製油所で使用される原油のような液体炭化水素質流のTANを低下できる方法が必要である。このような方法により、許容可能な製油所供給原料は、最小の水素消費により得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の概要
水素化脱硫、水素化脱窒素及び水素化分解のような通常、水素化転化反応に使用される水素化成分を本質的に含まない触媒、即ち、周期表第5〜10欄のいずれか1種の金属の化合物は、液体炭化水素質流、特に原油中の酸を選択的に水素化するのに使用できることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、液体炭化水素質供給原料を水素含有ガスの存在下、200〜400℃の範囲の温度及び高圧で、元素の周期表第3又は4欄の金属の酸化物又はランタニドの酸化物を含むが、第5〜10欄の金属又はその化合物を本質的に含まない触媒と接触させて、全酸価(TAN)の低い液体炭化水素質生成物を得ることを特徴とする液体炭化水素質供給原料の全酸価の低下方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の利点は、水素化により供給原料の全酸価を低下させながら、水素化脱硫、水素化脱窒素及び不飽和炭化水素の飽和等の他の水素化反応を最小化することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
発明の詳細な説明
本発明方法では液体炭化水素質供給原料は水素含有ガスの存在下、200〜400℃の範囲の温度及び高圧で、元素の周期表第3又は4欄の金属の酸化物又はランタニドの酸化物を含むが、第5〜10欄の金属又はその化合物を本質的に含まない触媒と接触させる。
【0010】
供給原料は、カルボン酸、即ち、有機酸を含むいかなる液体炭化水素質流であってもよい。本方法は、特にナフテン酸を含有する供給原料に特に好適である。供給原料は、好ましくは原油、ナフサ又はガス油のような蒸留物流、原油の常圧蒸留残留フラクション、又はTAN製品規格に適合しない炭化水素質蒸留生成物、例えば暖房用油を含む供給原料に特に好適である。本発明方法は原油の全酸価低下に特に好適である。
【0011】
水素含有ガスは、水素又は合成ガスが好ましい。水素含有ガスとして合成ガスを使用することは、水素含有ガスが入手できない状況下、例えば沖合いの石油プラットホームのような遠隔地では特に有利である。
【0012】
供給原料触媒と接触させる温度及び圧力は、カルボン酸の水素化が起こるような温度、即ち、200℃以上である。この温度はカルボン酸の熱分解が起こる温度よりも低い、即ち、400℃未満である。この温度は、好ましくは250〜390℃、更に好ましくは300〜380℃の範囲である。
【0013】
本方法は、高圧、即ち、大気圧より高い圧力で行われる。この圧力は、好ましくは2〜200バールゲージ圧、更に好ましくは10〜150バールゲージ圧、なお更に好ましくは25〜120バールゲージ圧の範囲である。
【0014】
触媒は元素の周期表(最近のIUPACの通知による)第3又は4欄の金属の酸化物又はランタニドの酸化物を含有する。金属酸化物は、これら金属の2種以上の混合酸化物であってもよい。触媒は、前記周期表の第5〜10欄の金属又はそれらの化合物を本質的に含まない。ここで、この特定化合物を本質的に含まないとは、第3又は4欄の酸化物又はランタニドの酸化物の鉱石精錬において、意図しない汚染物、又は残り物として存在する可能性がある最小限の量、通常はppmの範囲又はそれ以下の量を除き、これら化合物を含有しない触媒を云う。
【0015】
触媒は、好ましくは第4欄金属の酸化物又はランタニドの酸化物を含有する。好ましい第4族金属の酸化物は酸化チタン及び酸化ジルコニウムであり、好ましいランタニドの酸化物はセリアである。更に好ましい触媒は、酸化チタン及び/又は酸化ジルコニウム、なお更に好ましくは酸化ジルコニウムよりなる。
【0016】
触媒は、当該技術分野で公知のいかなる製造法によっても製造できる。好ましくは触媒は、比表面積が少なくとも10m/g、更に好ましくは少なくとも30m/gとなるように製造される。
本発明方法に使用される供給原料の全酸価は、供給原料1当たり0.2mgKOH以上、好ましくは0.5mgKOH以上、なお更に好ましくは1.0mgKOH以上である。
ここで全酸価とはASTM D664で測定して供給原料1g当たりのKOH量(mg)のことである。
【0017】
液体炭化水素質生成物のTANは、供給原料1g当たり、好ましくは0.2mgKOH以下、更に好ましくは0.1mgKOH以下、なお更に好ましくは0.5mgKOH以下である。
全酸価の低い液体炭化水素質生成物のTANは、供給原料のTANに対し、好ましくは50%以下、更に好ましくは30%以下となるような程度に低下される。
【実施例】
【0018】
水素化方法
微細流反応器中で原油を水素含有ガス又は窒素の存在下、固体不活性物質(0.1mmの炭化珪素粒子)又は以下に述べる触媒(炭化珪素粒子で希釈した触媒粒子)の一つと少なくとも100時間接触させた。各種の原油を使用した。実験1〜8及び13〜16では、西アフリカ原油(原油1)を使用し、実験9〜12では中東の原油(原油2)を使用した。両原油の仕様を第1表に示す。各実験の正確な条件を第2表に示す。
【0019】
各実験の液体流出物の全酸価(TAN)をASTM D664で測定した。蒸気相流出物中の硫化水素濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。液体流出物のTAN及び蒸気相流出物中の硫化水素濃度も第2表に示した。
【0020】
実験3、4、6、7、9、10、12及び14〜16は、本発明による実験である。実験1、2、5、8、11及び13は比較実験である。
【0021】
【表1】

【0022】
触媒
水素化実験で以下の触媒を使用した。
チタニア触媒1
チタニア触媒(更にチタニア1と云う)を次のようにして製造した。チタニア粉末(P25、デグサから;燃焼減量:540℃で4.4重量%)3192g量を混合摩砕混練機(シンプソン)中で蓚酸2水和物100gと混合した。4分間混合摩砕後、脱イオン水981g及びポリエチレングリコール100gを加え、更に12分間混合摩砕を続けた。次いで、メチルセルロース100gを加え、更に20分間混合摩砕を続けた。こうして形成された混合物を押出しにより直径1.7mmの三葉状ダイプレートを通して造形した。この三葉体を120℃で2時間乾燥後、500℃で2時間焼成した。
【0023】
得られたチタニア三葉体の表面積は窒素吸着法(BET法)で測定して52m/g、細孔容積は水銀侵入法で測定して0.31 ml/gであった。
【0024】
チタニア触媒2
チタニア触媒(更にチタニア2と云う)として市販のX096(CRI Catalyst Campanyから)チタニア粒子を使用した。このチタニア粒子の表面積は窒素吸着法(BET法)で測定して120m/g、細孔容積は水銀侵入法で測定して0.32ml/gであった。
【0025】
ジルコニア触媒
次のようにしてジルコニア触媒を製造した。ジルコニア粉末(RC100、Daiichiから;燃焼減量:540℃で5.3重量%)264g量を混練機(Werner&Pfeider Sigma混練機タイプLUK0.75)中でポリビニルアルコールの5重量%脱イオン水溶液90gと混合した。7分間混練後、カチオン性ポリアクリルアミド(Superflock,Cytecから)を加え、20分間混練後、脱イオン水8gを加えた。この混合物を更に22分間混練した。こうして形成された混合物を押出しにより直径1.7mmの三葉体に造形した。押出物を120℃で2時間乾燥後、550℃で2時間焼成した。
【0026】
得られたジルコニア三葉体の表面積は窒素吸着法(BET法)で測定して54m/g、細孔容積は水銀侵入法で測定して0.35ml/gであった。
【0027】
アルミナ担持NiMo
アルミナ上に Ni及び Moを担持して従来の水素化脱硫触媒(Criterion Catalyst Companyから)の市販品CRITERION RM?5030を使用した。
【0028】
【表2】

【0029】
a)WHV:重量の時間当たり速度、即ち、油kg/触媒kg/時間。実験1、2では触媒は存在せず、比較可能なWHVは規定できなかった(油重量の時間当たり速度は、実験1、2では1.1kg/kg SiC/時間であった)。
b)ガス速度:油1kg当たり標準リットルガス
e)TAN:油1kg当たりKOHmg
d)測定せず:液体流出物は硫化水素臭がなかった。
e)測定せず:液体流出物は硫化水素臭があった。
f)合成ガス組成:水素33.2容量%、CO20.7容量%、残部窒素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体炭化水素質供給原料を水素含有ガスの存在下、200〜400℃の範囲の温度及び高圧で、元素の周期表第3又は4欄の金属の酸化物又はランタニドの酸化物を含むが、第5〜10欄の金属又はその化合物を本質的に含まない触媒と接触させて、全酸価(TAN)の低い液体炭化水素質生成物を得ることを特徴とする液体炭化水素質供給原料の全酸価の低下方法。
【請求項2】
前記酸化物が第4欄金属の酸化物又はランタニドの酸化物、好ましくは酸化チタン又は酸化ジルコニウム、更に好ましくは酸化ジルコニウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒が酸化チタン及び/又は酸化ジルコニウムを必須成分とする請求項3に記載の方法。
【請求項4】
前記圧力が2〜200バールゲージ圧、好ましくは10〜150 バールゲージ圧、更に好ましくは25〜120 バールゲージ圧の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記温度が250〜390℃、好ましくは300〜380℃の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水素含有ガスが合成ガス又は水素である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記供給原料のTANが、供給原料1g当たり、0.2mgKOH以上、好ましくは0.5mgKOH以上、更に好ましくは1.0mgKOH以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記液体炭化水素質生成物のTANが、供給原料1g当たり、0.2mgKOH以下、好ましくは0.1mgKOH以下、更に好ましくは0.05mgKOH以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記低い全酸価を有する液体炭化水素質生成物のTANが、原油生成物の TANに対し50%以下、好ましくは30%以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記液体炭化水素質供給原料が原油である請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2013−57075(P2013−57075A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253528(P2012−253528)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2009−503427(P2009−503427)の分割
【原出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】