説明

液体燃料用脱硫剤及び液体燃料の脱硫方法

【課題】80℃以下の温度での液体燃料の脱硫に使用できる、安価で高性能な脱硫剤を提供すること。また、燃料電池用液体燃料の脱硫などの非常に低硫黄レベルへの脱硫の際に行われる、いわゆる「粗取り」用脱硫剤として使用できる脱硫剤を提供する。
【解決手段】液体燃料を80℃以下で脱硫する際に用いる脱硫剤であって、無機酸化物を主成分とし、かつ100℃でのアンモニア吸着量が、脱硫剤1g当り170μmol/g以上である液体燃料用脱硫剤、及び該脱硫剤を用いた液体燃料の脱硫方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料用脱硫剤、及び該脱硫剤を用いた液体燃料の脱硫方法、及び水素の製造方法と燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術として脚光を浴びている燃料電池は、水素と酸素、あるいはCOやメタン等の可燃性物質と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものであって、エネルギーの利用効率が高いという特徴を有していることから、民生用、産業用あるいは自動車用などとして、実用化研究が積極的になされている。この燃料電池において、水素源としては、メタノール、メタンを主体とする液化天然ガス、この天然ガスを主成分とする都市ガス、天然ガスを原料とする合成液体燃料、LPガス、さらには石油系のナフサや灯油などの炭化水素油の使用が提案されている。
燃料電池を民生用や自動車用などに利用する場合、上記炭化水素のうちメタン、液化天然ガス、都市ガス、液化石油ガス以外は常温常圧で液状であって、保管及び取扱いが容易である上、特に石油系のものはガソリンスタンドや販売店など、供給システムが整備されていることから、水素源として有利である。しかしながら、このような炭化水素油は、メタノールや天然ガス系のものに比べて、硫黄分の含有量が多いという問題がある。炭化水素油を用いて水素を製造する場合、一般に、該炭化水素油を、改質触媒の存在下に改質処理する方法が用いられる。このような改質処理においては、上記改質触媒は、炭化水素油中の硫黄分により被毒されるため、触媒寿命の点から、該炭化水素油に脱硫処理を施し、硫黄分含有量を長時間にわたり所定値以下に低減させることが必要である。
【0003】
石油系炭化水素の脱硫方法としては、これまで多くの研究がなされており、例えば特許文献1には、Ni、Zn、Cu等の活性金属成分を担持した脱硫剤を用いる硫黄除去方法が記載され、特許文献2には、Agを特定量多孔質担体に持した炭化水素化合物の脱硫剤が記載され、また、特許文献3には、金属成分と無機酸化物又は活性炭からなる複合化合物を含む燃料油処理剤を用いて燃料油を処理する方法が記載され、更に特許文献4には、アルミナを核としてニッケル、亜鉛を共沈法により形成した前駆体から得られる脱硫剤が記載されている。しかしながら、これらの特許文献記載の脱硫剤は、いずれも遷移金属や貴金属等の活性金属を必須とするものであり、非常に高価であるうえ、脱硫前の灯油等の燃料に含まれる硫黄分が多いとその寿命等に問題があった。
また、有機硫黄化合物の脱硫については、特許文献5に、液体炭化水素と酸化遷移金属担持アルミナ系吸着剤等の吸着剤とを接触させて、液体炭化水素に含まれる特定の有機硫黄化合物を除去する脱硫方法が記載されているが、このような方法でも、未だその吸着性能において十分ではなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−117921号公報
【特許文献2】特開2006−176721号公報
【特許文献3】特開2002−249787号公報
【特許文献4】特開2004−230317号公報
【特許文献5】特開2005−2317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、80℃以下の温度での液体燃料の脱硫に使用できる、安価で高性能な脱硫剤を提供することにある。また、燃料電池用液体燃料の脱硫などの非常に低硫黄レベルへの脱硫の際に行われる2段脱硫法の1段目において、いわゆる「粗取り」用脱硫剤として使用しうる脱硫剤を提供することにある。さらに、脱硫処理された液体燃料を改質して水素を製造する方法、及びその水素を利用した燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、
(1)液体燃料を80℃以下で脱硫する際に用いる脱硫剤であって、無機酸化物を主成分とし、かつアンモニア吸着量が、脱硫剤1g当り170μmol/g以上である液体燃料用脱硫剤、
(2)液体燃料を、上記(1)記載の脱硫剤を用いて80℃以下で脱硫処理する、液体燃料の脱硫方法、
(3)上記(2)記載の方法で、液体燃料を脱硫した後、この脱硫処理燃料を部分酸化改質、オートサーマル改質又は水蒸気改質する水素の製造方法、及び
(4)上記(3)記載の製造方法によって得られる水素を原料とする燃料電池システム、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、80℃以下の温度での液体燃料の脱硫に使用できる、安価で高性能な脱硫剤を提供することができる。また、燃料電池用液体燃料の脱硫などの非常に低硫黄レベルへの脱硫の際に行われる2段脱硫法の1段目において、粗取り用脱硫剤として使用できる脱硫剤を提供することができる。さらに、上記脱硫剤を用いた液体燃料の脱硫方法を提供することができる。また、脱硫処理された液体燃料を改質して水素を製造し、その水素を利用して燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[液体燃料の脱硫剤]
本発明の脱硫剤は、無機酸化物を主成分とし、かつアンモニア吸着量が、脱硫剤1g当り170μmol/g以上のものである。
無機酸化物としては、アンモニア吸着量が上記範囲にあるものであればいずれも使用しうるが、好ましくは、通常脱硫剤の担体として使用しうる多孔質の無機酸化物が脱硫性能を高める点で使用でき、具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、チタニア、ジルコニア、マグネシア、シリカ−マグネシア、酸化亜鉛、白土、粘土、珪藻土、ALPO(Alminophosphate)、SAPO(Silicoaluminophosphate)、MCM(Mobil‘s composition of Matter)、活性炭等を使用できる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0009】
本発明においては、無機酸化物としては、所望のアンモニア吸着量が得やすい点やルイス酸点が多い点から、アルミナ及び/又はジルコニアが好ましく用いられる。本発明の脱硫剤は、上記観点から、また、安価で簡便に製造でき、脱硫性能に優れる点から、実質的にアルミナ及び/又はジルコニアのみからなるものが好ましく、実質的にアルミナのみからなるものがより好ましい。なお、ここで、「実質的に」とは、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲において、少量の他の成分を含んでもよい趣旨であり、アルミナ及び/又はジルコニアのみ、あるいはアルミナのみからなるものも包含する。
【0010】
本発明においては、上記アルミナとしては、α、κ、θ、δ、γ、η、χ、ρなどのいずれの構造のアルミナも使用できるが、表面積が大きいこと、入手しやすい点から、γアルミナが好ましく用いられる。
本発明の脱硫剤は、上記無機酸化物を主成分とするものであるが、ここで、「主成分」とは、上記無機酸化物を少なくとも50質量%含むことを意味し、好ましくは、70質量%以上、より好ましくは90質量%以上含むことを意味し、実質100質量%含むことも包含する。
【0011】
本発明の脱硫剤は、上記無機酸化物とともに、活性金属成分を含有することができるが、該活性金属を担持させないものであることが好ましい。活性金属種を担持させていない無機酸化物からなる、アンモニア吸着量が170μmol/g以上の脱硫剤を用いると、十分な脱硫性能が得られ、例えば通常の燃焼用途に用いても環境負荷が小さい燃料を得ることができる。なお、活性金属を含む場合は、該活性金属としては、特に制限はなく、無機酸化物を担体として通常これに担持しうる活性金属がいずれも使用できるが、具体的には、Ni,Co,Zn,Fe,Ag,Cu,Sn,Pd,Bi,Pt,Ru,Rh,Au,Mn、Mo、W等が挙げられる。金属成分担持量は通常0.5〜80質量%であり、5〜70質量%が好ましい。
【0012】
本発明の脱硫剤は、上述の無機酸化物を主成分とし、かつ100℃におけるアンモニア吸着量が、脱硫剤1g当り170μmol/g以上のものである。
アンモニア吸着量とは、100℃で0.5%NH3/Heを1時間流通させた際のアンモニア吸着量を質量分析法にて測定して得た値を意味し、具体的には後述の方法で測定できる。本発明の脱硫剤は、このアンモニア吸着量が脱硫剤1g当り170μmol/g以上のものであるが、脱硫性能の点から、この吸着量が200μmol/g以上であることが好ましく、より好ましくは250μmol/g以上、より好ましくは300μmol/g以上、更に好ましくは350μmol/g以上である。その上限値は特に制限はないが、通常、無機酸化物は1000μmol/g程度以下である。
【0013】
本発明の脱硫剤としては、アンモニア吸着量が上記範囲にあるものが用いられるが、焼成等熱処理して上記範囲を満たすものが好ましく包含される。
本発明の脱硫剤の製造方法は、上記アンモニア吸着量を満たすものであれば特に制限はないが、脱硫性能の点から、好ましくは脱硫剤前駆体を300〜850℃で熱処理して行う。該脱硫剤前駆体は、好ましくは、アルミナ及び/又はジルコニア等の無機酸化物を主成分とするものである。
アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物としては、通常は、200〜1000℃の温度で製造されたものを用いるが、本発明においては、脱硫性能の観点から、これらを脱硫剤として使用する際に更に300〜850℃で熱処理することが好ましい。熱処理温度が上記範囲より低いとアンモニアの吸着量が少なくなり、脱硫効果が低下することがある。また上記範囲より高いと、無機酸化物担体の多孔構造の一部が壊れ、表面積が小さくなり、脱硫効果が劣ることがある。上記観点からは、上記熱処理温度は、より好ましくは400〜800℃であり、更に好ましくは500〜700℃である。なお、上記無機酸化物の製造の際の温度が300〜850℃の間であり、かつその後脱硫処理迄の間に水又は水蒸気と実質接触しない場合は、前処理としての上記熱処理を行わなくてもよい場合がある。
上記熱処理の時間は、処理温度により適宜選択しうるが、通常は1〜20時間、好ましくは、2〜5時間である。
【0014】
本発明においては、上記のように、高温で熱処理することにより、無機酸化物のルイス酸が増加する。これによりアンモニア吸着量が増大し、その結果として、この脱硫剤を用いた液体燃料の脱硫性能が向上する。
上記熱処理は、空気、窒素、水素、ヘリウム及びそれらの2種以上の混合気体のいずれの雰囲気下で行うこともができるが、入手し易さの点から、空気雰囲気下及び/又は水素雰囲気下で行うことが好ましい。例えば、空気雰囲気下で処理し、その後水素雰囲気下で処理してもよい。この場合、少なくともいずれかの処理を300〜850℃で行えば、本発明の脱硫剤が得られる。また、この処理は真空中で行うこともできる。
本発明において、上記熱処理は脱硫剤の焼成において、またその後の脱硫前処理においても行うことができ、その双方において行うこともできる。
【0015】
また、本発明の脱硫剤は、上記熱処理の後、水又は水蒸気に実質接触させることなく液体燃料に接触させて脱硫処理を行うことが好ましい。前記熱処理後、例えば、空気中に含まれる水分に接触しただけでも、脱硫剤表面のルイス酸点が減少し、その結果、触媒のアンモニア吸着量が減少し、脱硫性能が低下することがある。従って、本発明の脱硫剤は、前記アンモニア吸着量の範囲の値を維持できるように、前記熱処理の後、水あるいは水蒸気に実質接触させないことが好ましい。具体的には、脱硫剤を、脱硫装置に入れる脱硫剤充填器に入れた状態で熱処理すると、熱処理後に水分に接触することを防ぐことができ好ましい。また、熱処理容器から取り出した後直ぐに脱硫器に充填したり、ドライルームで充填することも有効である。
脱硫剤の形状は、粉末状、破砕状、ペレット状、錠剤状、針状、球状、ハニカム状又は粉末を他のハニカムにコーティングした状態が好ましい。
【0016】
本発明の脱硫剤は、通常の燃焼用途に用いる灯油、軽油等の液体燃料の脱硫に使用することもできるが、燃料電池用液体燃料の脱硫などの非常に低硫黄レベルへの脱硫が必要な際にも使用することができる。この場合、本発明の脱硫剤は、燃料電池の水素発生用燃料として用いる炭化水素系液体燃料の殆ど大部分の硫黄分を除去する、所謂「粗取り」用の脱硫剤として使用し、例えば2段脱硫法の1段目の脱硫剤として使用することが好ましい。このように硫黄分を粗取りした炭化水素系液体燃料を、2段目の燃料電池用脱硫剤に通油すると、脱硫剤の寿命を長くすることができる。上記2段目の脱硫剤としては、特に制限はなく、従来公知の脱硫剤がいずれも使用できる。
【0017】
[液体燃料の脱硫方法]
本発明の液体燃料の脱硫方法は、液体燃料を、上記脱硫剤を用いて80℃以下で脱硫処理するものである。
本発明において、前記脱硫剤を用いて脱硫する硫黄含有液体燃料としては、特に限定されるものではないが、例えばアルコール、エーテル、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油、石炭液化油、GTL油、廃プラスチック油及びバイオフューエル(バイオマス燃料)等から選ばれる1種、もしくはこれらの組合せが挙げられる。これらのうち、本発明の脱硫剤を適用するのに好適な液体燃料としては、入手し易さの点から、灯油、軽油又はガソリンが好ましく、硫黄分含有量が80質量ppm以下の上記液体燃料がより好ましく、上記硫黄分含有量のJIS1号灯油が更に好ましい。
【0018】
本発明の脱硫方法において、除去される硫黄分として液体燃料に含有される硫黄化合物としては、例えばメルカプタン類、鎖状スルフィド類、環状スルフィド類、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類等の有機硫黄化合物が挙げられる。
本発明に係る脱硫剤を用いて、硫黄含有液体燃料を脱硫する方法としては、脱硫剤に有機硫黄化合物含有液体燃料を流通させる方法、脱硫剤を内部に固定したタンクなどの容器に有機硫黄化合物含有液体燃料を静置又は撹拌する方法が挙げられる。
本発明における脱硫方法において、脱硫温度は80℃以下であることが好ましい。この脱硫温度が80℃以下であればエネルギーコストが低く、経済的に有利である。脱硫温度の下限については特に制限はなく、脱硫すべき液体燃料の流動性及び脱硫剤の脱硫活性などを考慮して、適宜選定される。脱硫すべき液体燃料が灯油である場合、流動性の点から、その下限値は−40℃程度である。好ましい脱硫温度は−30〜60℃であり、0〜40℃がより好ましい。
【0019】
温度以外の脱硫条件については特に制限はなく、脱硫すべき液体燃料の性状に応じて適宜選択することができる。具体的には、燃料としてJIS1号灯油等の炭化水素を液相で本発明に係る脱硫剤を充填した脱硫塔中を上向き又は下向きの流れで通過させて脱硫する場合には、脱硫温度は室温程度、圧力は常圧乃至1MPa・G程度、液時空間速度(LHSV)は30hr-1以下、更には20hr-1以下、更には5hr-1以下の条件で脱硫処理することが好ましい。この際、必要により、少量の水素を共存させてもよい。
【0020】
本発明の脱硫剤を用いた脱硫処理により、本発明においては、液体燃料の硫黄含有量を、例えば10質量ppm以下、好ましくは2質量ppm以下、より好ましくは1質量ppm以下迄低減することができ、また、本発明の脱硫剤を例えば前記2段脱硫の第1段目の脱硫剤として用いることにより、液体燃料の硫黄含有量を、最終的に例えば0.5質量ppm以下、好ましくは0.05質量ppm以下迄低減することができる。
この場合、硫黄分による後段の改質触媒への被毒を極力抑制し、長期間安定に機能することができる。クリーンアップ脱硫剤(2段目脱硫剤)としては、硫黄分を0.5ppm以下まで低減できれば、特に制限はなく、公知の吸着脱硫剤又は水素化脱硫剤などをいずれも用いてもよい。
【0021】
[水素の製造方法]
次に本発明は、上記のようにして脱硫処理した燃料を、水蒸気改質、部分酸化改質又はオートサーマル改質を行って、より具体的には水蒸気改質触媒、部分酸化改質触媒又はオートサーマル改質触媒と接触させることにより、燃料電池用水素を製造するものである。
【0022】
ここで用いられる改質触媒としては特に制限はなく、従来から炭化水素の改質触媒として知られている公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このような改質触媒としては、例えば適当な担体にニッケル、あるいはルテニウム、ロジウム、白金などの貴金属を担持したものを挙げることができる。上記担持金属は一種でもよく、二種以上を組み合わせてもよい。これらの触媒の中で、ニッケルを担持させたもの(以下、ニッケル系触媒という)とルテニウム(以下、ルテニウム系触媒という)あるいはロジウムを担持させたものが好ましい。
上記改質触媒を担持させる担体には、酸化マンガン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等が含まれていることが好ましく、特にこれらのうち少なくとも1種を含む担体が特に好ましい。これらは、水蒸気改質処理、部分酸化改質処理又はオートサーマル改質処理中の炭素析出を抑制する効果が大きい。
【0023】
ニッケル系触媒の場合、ニッケルの担持量は担体基準で3〜60質量%の範囲が好ましい。この担持量が上記範囲内であると、水蒸気改質触媒、部分酸化改質触媒又はオートサーマル改質触媒の活性が十分に発揮されるとともに、経済的にも有利なものとなる。触媒活性及び経済性などを考慮すると、ニッケルのより好ましい担持量は5〜50質量%であり、特に10〜30質量%の範囲が好ましい。
また、ルテニウム系触媒の場合、ルテニウムの担持量は担体基準で0.05〜10質量%の範囲が好ましい。ルテニウムの担持量が上記範囲内であると、水蒸気改質触媒、部分酸化改質触媒又はオートサーマル改質触媒の活性が十分に発揮されるとともに経済的にも有利なものとなる。触媒活性及び経済性などを考慮すると、ルテニウムのより好ましい担持量は0.05〜5質量%であり、特に0.1〜2質量%の範囲が好ましい。
【0024】
水蒸気改質処理における反応条件としては、水蒸気と燃料油に由来する炭素との比であるスチーム/カーボン(モル比)は、通常1.5〜10の範囲で選定される。スチーム/カーボン(モル比)が1.5以上であると水素の生成量が十分であり、10以下であると過剰の水蒸気を必要としないため、熱ロスが小さく、水素製造が効率的に行える。上記観点から、スチーム/カーボン(モル比)は1.5〜5の範囲であることが好ましく、さらには2〜4の範囲であることが好ましい。
また、水蒸気改質触媒層の入口温度を630℃以下に保って水蒸気改質を行うのが好ましい。入口温度が630℃以下であると、燃料油の熱分解が起こらないため、炭素ラジカルを経由した触媒あるいは反応管壁への炭素析出が生じにくい。以上の観点から、さらに水蒸気改質触媒層の入口温度は600℃以下であることが好ましい。なお、触媒層出口温度は特に制限はないが、650〜800℃の範囲が好ましい。650℃以上であると水素の生成量が十分であり、800℃以下であると、反応装置を耐熱材料で構成する必要がなく、経済的に好ましい。
【0025】
部分酸化改質処理における反応条件としては、通常、圧力は常圧〜5MPa・G、温度は400〜1100℃、酸素(O2)/カーボン(モル比)は0.2〜0.8、液時空間速度(LHSV)は0.1〜100hr-1の条件が採用される。
また、オートサーマル改質処理における反応条件としては、通常、圧力は常圧〜5MPa・G、温度は400〜1100℃、スチーム/カーボン(モル比)は0.1〜10、酸素(O2)/カーボン(モル比)は0.1〜1、液時空間速度(LHSV)は0.1〜2hr-1、ガス時空間速度(GHSV)は1000〜100000hr-1の条件が採用される。
なお、上記水蒸気改質、部分酸化改質又はオートサーマル改質により得られた水素含有ガス中のCOは、後段でシフト反応によりH2とCO2に変換することで更に水素の濃度を増加させる。このように、本発明の方法によれば、燃料電池用水素を効率よく製造することができる。
液体燃料を使用する燃料電池システムは、通常、燃料供給装置、脱硫装置、改質装置、燃料電池から構成され、上記本発明の方法によって製造された水素は燃料電池に供給される。
【0026】
[燃料電池システム]
本発明はまた、前記製造方法で得られた水素を用いる燃料電池システムを提供する。以下に本発明の燃料電池システムについて添付図1に従い説明する。
図1は本発明の燃料電池システムの一例を示す概略フロー図である。図1によれば、燃料タンク21内の燃料は、燃料ポンプ22を経て脱硫器23に流入する。脱硫器内には本発明に係る脱硫剤が充填されている。前述したように、この脱硫は2段で行い、1段目に本発明の脱硫剤を充填することも可能である。脱硫器23で脱硫された燃料は水タンクから水ポンプ24を経た水と混合した後、気化器1に導入されて気化され、次いで改質器31に送り込まれる。
改質器31の内部には前述の改質触媒が充填されており、改質器31に送り込まれた燃料混合物(水蒸気及び脱硫処理液体燃料を含む混合気体)から、前述した水蒸気改質反応によって水素が製造される。
【0027】
このようにして製造された水素はCO変成器32、CO選択酸化器33を通じてそのCO濃度が燃料電池の特性に影響を及ぼさない程度まで低減される。これらの反応器に用いる触媒の例としては、CO変成器32では、鉄―クロム系触媒、銅―亜鉛系触媒あるいは貴金属系触媒を、CO選択酸化器33では、ルテニウム系触媒、白金系触媒あるいはそれらの混合物等を挙げることができる。
燃料電池34は負極34Aと正極34Bとの間に高分子電解質34Cを備えた固体高分子形燃料電池である。負極側には上記の方法で得られた水素リッチガスが、正極側には空気ブロワー35から送られる空気が、それぞれ必要に応じて適当な加湿処理を行った後(加湿装置は図示せず)導入される。
このとき負極側では水素ガスがプロトンとなり電子を放出する反応が進行し、正極側では酸素ガスが電子とプロトンを得て水となる反応が進行し、両極34A、34B間に直流電流が発生する。負極には、白金黒、活性炭担持のPt触媒あるいはPt−Ru合金触媒などが、正極には白金黒、活性炭担持のPt触媒などが用いられる。
【0028】
負極34A側に改質器31のバーナ31Aを接続して余った水素を燃料とすることができる。また、正極34B側に接続された気水分離器36において、正極34B側に供給された空気中の酸素と水素との結合により生じた水と排気ガスとを分離し、水は水蒸気の生成に利用することができる。
なお、燃料電池34では、発電に伴って熱が発生するため、排熱回収装置37を付設してこの熱を回収して有効利用することができる。排熱回収装置37は、反応時に生じた熱を奪う熱交換機37Aと、この熱交換器37Aで奪った熱を水と熱交換するための熱交換器37Bと、冷却器37Cと、これら熱交換器37A、37B及び冷却器37Cへ冷媒を循環させるポンプ37Dとを備え、熱交換器37Bにおいて得られた温水は、他の設備などで有効利用することができる。
【実施例】
【0029】
本実施例においては、各性状は以下のように測定、評価した。
【0030】
[液体燃料中の硫黄分の測定]
JIS K 2541−2に規定する微量電量滴定式酸化法に準拠し、三菱化学社製のTS−03装置を用いて定量した。検量線は、ジブチルスルフィド(純度99%以上)のトルエン溶液を測定して作製した。試料は検量線用溶液と同様に測定し、検量線から求めた硫黄量(μg)と試料注入量(mg)から試料中の硫黄分(wtppm)を算出した。
【0031】
実施例1
(1)脱硫剤1の製造、及び脱硫性能の評価
市販のアルミナ(触媒化成製)を乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕し、それを脱流器に2.5cc充填し、脱硫器内に、水素を流しながら300℃で3時間熱処理して(表1に記載のとおり)、脱硫剤1を得た。その後、脱硫剤を脱硫器から取り出すことなく、下記性状の灯油を室温(30℃)下、液空間速度(LHSV)20/hで通油した。得られた灯油中の硫黄濃度を前述の方法で測定した結果を表1に示す。
JIS−1号灯油
・蒸留性状:初留温度156℃、10%留出温度170℃、30%留出温度185℃、50%留出温度201℃、70%留出温度224℃、90%留出温度253℃、終点275℃
・硫黄分:14質量ppm
(2)アンモニア吸着量の測定
(イ)乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕した上記(1)で用いた市販のアルミナ(触媒化成製)0.1gを、アンモニア吸着量測定用セル内で、表1に示す温度、雰囲気で熱処理を行い、脱硫剤1を得た。その後、100℃まで降温し、温度が安定した後0.5%NH3/Heを100℃で1時間、前記セル内に流通させる。1時間後Heでパージし、ベースラインが安定した後710℃まで20℃/分で昇温して、アンモニア脱離を質量分析法にて計測する。検量に0.5%NH3/Heを使用した。
(ロ)アンモニアを吸着させないこと以外は前記(イ)と同じ操作を行って得られたデータを、バックグラウンドとして、前(イ)で求めた値から差し引いた値を、アンモニア吸着量とした。結果を表1に示す。
【0032】
実施例2〜6(脱硫剤2〜6の製造、アンモニア吸着量及び脱硫性能の評価)
乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕した市販のアルミナ(実施例2〜5では触媒化成製、実施例6では水澤化学製)を用い、表1に示す熱処理条件にした以外は実施例1と同様に脱硫剤2〜6の製造、アンモニア吸着量及び脱硫性能の測定を行った。結果を表1に示す。
【0033】
実施例7(脱硫剤7の製造、アンモニア吸着量及び脱硫性能の評価)
(1)硝酸ジルコニル水和物27.6gをイオン交換水200mlに溶解させ、これに水酸化ナトリウム16.7gを溶解させたイオン交換水200mlを加えて水酸化物を沈殿させた。沈殿物を通水洗浄後、120℃で一晩乾燥した。乾燥終了後、空気下500℃で3時間焼成した。焼成物を乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕し、そのうち2.5ccを脱硫器に充填し、脱硫器内に水素流通下、600℃で3時間熱処理することで脱硫剤7を得た。得られた脱硫剤7について、実施例1と同様の操作を行い、硫黄分濃度を測定した。結果を表1に示す。
(2)実施例1のアンモニア吸着量の操作において、乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕した市販のアルミナを、上記(1)において500℃で3時間焼成した焼成物を乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕したものに代え、表1に示す熱処理条件にした以外は実施例1と同様にアンモニア吸着量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0034】
比較例1及び2(脱硫剤8、9の製造、アンモニア吸着量及び脱硫性能の評価)
乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕した市販のアルミナ(触媒化成製)2.5ccを脱硫器内に充填し、脱硫器内にて水素流通下、120℃(比較例1)又は900℃(比較例2)の条件で3時間熱処理することで脱硫剤8及び9をそれぞれ得た。得られた脱硫剤8及び9の各々について、実施例1と同様の操作を行い、硫黄分濃度を測定した。結果を表1に示す。
アンモニア吸着量については、乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕した上記市販のアルミナ(触媒化成製)を用い、アンモニア吸着量測定用セル内での熱処理条件を表1に示すとおりにした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0035】
比較例3(脱硫剤10の製造、アンモニア吸着量及び脱硫性能の評価)
乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕した市販のシリカ(水澤化学製)2.5ccを脱硫器内に充填し、脱硫器内に水素流通下、600℃の条件で3時間熱処理することで脱硫剤10を得た。得られた触媒10について実施例1と同様の操作を行い、硫黄分濃度を測定した。結果を表1に示す。
アンモニア吸着量については、乳鉢で粒子径100μm以下に粉砕した上記市販のシリカ(水澤化学製)を用い、アンモニア吸着量測定用セル内での熱処理条件を表1に示すとおりにした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の脱硫剤は、液体燃料の脱硫に使用でき、安価で高性能な脱硫剤を提供することから、燃焼用途に用いる灯油、軽油等の液体燃料の脱硫にも、また燃料電池用液体燃料の脱硫などの非常に低硫黄レベルへの脱硫の際にも使用することができる。また、この脱硫剤を用いて得られた液体処理燃料は、燃料電池用水素の製造に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の燃料電池システムの一例を示す概略フロー図である。
【符号の説明】
【0039】
1:気化器
11:水供給管
12:燃料導入管
15:接続管
21:燃料タンク
22:ポンプ
23:脱硫器
24:水ポンプ
31:改質器
31A:改質器のバーナ
32:CO変成器
33:CO選択酸化器
34:燃料電池
34A:燃料電池負極
34B:燃料電池正極
34C:燃料電池高分子電解質
35:空気ブロワー
36:気水分離器
37:排熱回収装置
37A:熱交換器
37B:熱交換器
37C:冷却器
37D:冷媒循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料を80℃以下で脱硫する際に用いる脱硫剤であって、無機酸化物を主成分とし、かつ100℃でのアンモニア吸着量が、脱硫剤1g当り170μmol/g以上である液体燃料用脱硫剤。
【請求項2】
100℃でのアンモニア吸着量が、脱硫剤1g当り300μmol/g以上である、請求項1記載の脱硫剤。
【請求項3】
無機酸化物が、アルミナ及び/又はジルコニアである、請求項1又は2に記載の脱硫剤。
【請求項4】
実質的にアルミナのみからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の脱硫剤。
【請求項5】
無機酸化物が、γアルミナである、請求項1〜4のいずれかに記載の脱硫剤。
【請求項6】
活性金属を担持しない、請求項1〜5のいずれかに記載の脱硫剤。
【請求項7】
無機酸化物を主成分とする脱硫剤前駆体を空気雰囲気下及び/又は水素雰囲気下、300〜850℃で熱処理して得られる、請求項1〜6のいずれかに記載の脱硫剤。
【請求項8】
脱硫剤前駆体がアルミナ及び/又はジルコニアからなる、請求項7記載の脱硫剤。
【請求項9】
液体燃料を、請求項1〜8のいずれかに記載の脱硫剤を用いて80℃以下で脱硫処理する、液体燃料の脱硫方法。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の脱硫剤を、熱処理後に水又は水蒸気に実質接触させることなく液体燃料に接触させる工程を有する、請求項9記載の液体燃料の脱硫方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の方法で、液体燃料を脱硫した後、この脱硫処理した燃料を部分酸化改質、オートサーマル改質又は水蒸気改質する、水素の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の製造方法によって得られる水素を原料とする燃料電池システム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−46626(P2009−46626A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215816(P2007−215816)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】