説明

液体燃料電池用燃料透過量調整膜

【課題】メタノールクロスオーバーを抑制し、MEAを保湿し、且つ高出力の燃料電池を得ることを目的とする。
【解決手段】液体燃料の少なくとも一部を気体燃料として供給する気液分離膜と、該気体燃料の透過量を調整する燃料透過量調整膜と、負極側集電層と、該気体燃料を酸化する負極と、固体電解質膜と、酸素を還元する正極と、正極側集電層とを、この順で含んでなる燃料電池であって、該燃料透過量調整膜がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および無機粒子を含んでなることを特徴とする燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料を気化して、気化した燃料ガスを用いて発電を行う燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年小型携帯電子機器の発展によりエネルギー容量の高い電池が求められている。主にはリチウムイオン二次電池などが開発されているが、燃料カートリッジを交換することにより、継続して発電可能な燃料電池が高エネルギー密度の次世代電源として有力である。その燃料としては水素や水素化ホウ素ナトリウムなどの水素含有物質またはメタノールやエタノールなどのアルコールやその他有機物資の燃料がある。中でもメタノールは体積エネルギー密度が高く、液体であり持ち運びも容易であるから小型携帯機器用途には適している。
【0003】
直接メタノール形燃料電池(DMFC)はアノードでメタノールの酸化反応(1式)、カソードには空気を供給して酸素の還元反応(2式)により発電する。
CHOH+HO→CO+6H+6e (1)
3/2O+6H+6e→3HO (2)
【0004】
通常プロトンを通す電解質膜にはNafion(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸が用いられる。アノードにはメタノールを酸化させる白金とルテニウムからなる触媒が主に使われる。この触媒を固定するためと、酸化反応で生じたプロトンを運ぶために必要な電解質をバインダーとして使用し触媒層を形成する。カソードも同様に酸素還元触媒である白金に代表される触媒と電解質から構成される。この電解質には通常電解質膜と同様のNafionなどのパーフルオロスルホン酸樹脂が用いられる。
【0005】
従来のメタノール水溶液を用いるDMFCは、MEAが十分に含水しておりカソード側に生成水や透過水が凝縮して空気の拡散を阻害するフラッディングさらにはメタノールがカソード側に透過して電池性能が低下するメタノールクロスオーバーの問題があった。そして、メタノールクロスオーバーを抑えるには供給するメタノールの濃度を例えば1M程度に下げる必要があった。低濃度に希釈した燃料では体積エネルギー密度が減少し、小型化には不向きであった。また、メタノールのクロスオーバーや水の透過を抑制するために、電解質膜にパーフルオロスルホン酸ではなく、芳香族などの炭化水素系アイオノマーを適用することが試みられている。しかしながら、炭化水素系アイオノマーのプロトン伝導度がパーフルオロスルホン酸系アイオノマーのそれに比べて低い傾向にある。したがって、メタノールクロスオーバーを抑制しつつ、プロトンをアノードからカソードへ良好に伝導させることは非常に困難な状況である。
【0006】
一方、メタノールを蒸気で供給する気相式DMFCも提案されている。例えばWO2005/112172(特許文献1)によると、燃料として高濃度メタノール(液体)を燃料室に供給し、気化したメタノールが燃料室とアノードとの間に配置した気液分離膜を通過し、気液分離膜とアノードの間に配置した気化燃料収容室(いわゆる蒸気溜まり)に一旦収容され、そこから徐々にガス拡散層中を拡散して、アノードへ供給されている。これにより、一度に多量の気化燃料がアノードに供給されるのを回避することができ、メタノールクロスオーバーを抑制可能と述べている。さらに特許文献1は、気液分離膜とアノードの間に保湿層を設け、カソードからアノードへ逆拡散してくる水をその保湿層に留め、気化燃料収容室へ拡散して燃料を希釈することを防止すると述べている。
【0007】
特許文献1においては気化燃料収容室にて燃料濃度を調整して過剰なメタノールが供給されるのを防いだが、その分の空間が必要であり、狭い空間でどれだけ効果があるのかは不明であるし、局所的な燃料濃度の不均一が生じている可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開番号WO 2005/112172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来の燃料電池における上記課題に鑑みてなされたものであり、メタノールクロスオーバーを抑制し、MEAを保湿し、且つ高出力の燃料電池を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、以下が提供される。
(1) 液体燃料の少なくとも一部を気体燃料として供給する気液分離膜と、該気体燃料の透過量を調整する燃料透過量調整膜と、負極側集電層と、該気体燃料を酸化する負極と、固体電解質膜と、酸素を還元する正極と、正極側集電層とを、この順で含んでなる燃料電池であって、該燃料透過量調整膜がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および無機粒子を含んでなることを特徴とする燃料電池。
(2) 該無機粒子がシリカ多孔体微粒子であることを特徴とする、(1)に記載の燃料電池。
(3) 該無機粒子がさらに活性炭を含んでなることを特徴とする、(2)に記載の燃料電池。
(4) 該PTFEと該シリカ多孔体微粒子の重量組成比は1:3〜1:1の範囲にあることを特徴とする、(2)または(3)に記載の燃料電池。
(5) 該液体燃料がメタノール、エタノール、ジメチルエーテルおよびギ酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の燃料電池。
(6) 該液体燃料の濃度が70wt%以上であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の燃料電池。
(7) 該燃料透過量調整膜のガス透気度(ガーレー数)は2300秒以上の範囲にあることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の燃料電池。
(8) 該燃料調整膜の厚さが100μm以上、1mm以下であることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の燃料電池。
(9) 該気液分離膜は撥油処理を施した延伸多孔質PTFEを用いることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の燃料電池。
(10) 該気液分離膜と該燃料透過量調整膜を積層して用いることを特徴とする、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の燃料電池。
(11) 該燃料透過量調整膜が、負極側集電層の側に延伸多孔質PTFE層を備えることを特徴とする、(1)〜(10)のいずれか1項に記載の燃料電池。
(12) 該無機粒子の粒径分布が、0.01μm以上、かつ500μm以下であることを特徴とする、(1)〜(11)のいずれか1項に記載の燃料電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料ガス透過量調整膜によれば、メタノールを気体でアノードに供給することが出来、かつ反応に必要だが過剰ではないメタノール量を供給することによってメタノールクロスオーバーを抑制することができる。また、燃料ガス透過量調整膜を構成する親水性の無機微粒子がカソードから逆拡散してきた生成水を保持するためメタノールを加湿してアノードに供給できるためMEAを保湿することができる。したがって、本発明により高い出力の燃料電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施態様による液体燃料供給型燃料電池の略横断面図を示す。
【図2】メタノールガス透加量評価装置の概略を示す。
【図3】本発明の実施例および比較例の発電試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施態様による液体燃料供給型燃料電池の略横断面図を示す。この図1を参照しながら、本発明による燃料電池について説明する。本発明による液体燃料供給型燃料電池は、液体燃料の少なくとも一部を気体燃料として供給する気液分離膜と、該気体燃料の透過量を調整する燃料透過量調整膜と、負極側集電層と、該気体燃料を酸化する負極と、固体電解質膜と、酸素を還元する正極と、正極側集電層とを、この順で含んでなり、且つ該燃料透過量調整膜がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および無機粒子を含んでなることを特徴とする。
【0014】
図1に示したように、本発明による液体燃料供給型燃料電池は、気液分離膜の負極とは反対側から、液体燃料、例えばメタノール水溶液(MeOHaq)、が供給される。供給された液体燃料の少なくとも一部は蒸発して気体燃料となる。気液分離膜は、液体は透過せずに気体のみを透過させるため、気液分離膜と液体燃料との界面において蒸発した燃料気体は気液分離膜を透過して、燃料透過量調整膜に到達する。
【0015】
気液分離膜は、良好な通気性、撥水性および撥油性に加え、燃料電池運転条件下での耐熱性、耐蝕性が要求される。例えば、気液分離膜として、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることができる。この延伸多孔質PTFEとしては、空隙率が10%以上、好ましくは10〜90%であるものを用いることが好ましい。この空隙率が10%未満であると、液体燃料との界面において蒸発した燃料気体の透過量が少なくなること、負極で生成するCOガスの放出が阻害されること等により、燃料電池の発電性能が不十分となる。反対に、空隙率が90%を超えると、液体燃料の透過が可能となりクロスオーバー現象の恐れがでてくる。延伸多孔質PTFEの平均孔径(直径)は、一般に0.01〜50μm、好ましくは0.05〜15μm、より好ましくは0.1〜3μmの範囲内である。この平均孔径が0.01μm未満であると、蒸発した燃料気体の透過量が減少する。反対に、平均孔径が50μmを超えると、液体燃料の透過によるクロスオーバー現象が起こり易くなる。また、延伸多孔質PTFEを含む気液分離膜の厚さは、一般に10〜500μm、好ましくは50〜300μmの範囲内である。気液分離膜の厚さが10μm未満であると、液体燃料の透過が可能となりクロスオーバー現象の恐れがでてくる。反対に500μmを超えると、液体燃料との界面において蒸発した燃料気体の透過量が少なくなること、負極で生成するCOガスの放出が阻害されること等により、燃料電池の発電性能が不十分となる。本発明による気液分離膜として用いるのに特に好ましい延伸多孔質PTFEは、ジャパンゴアテックス株式会社から市販されている。
【0016】
液体燃料が気液分離膜を透過することを確実に防止し、液体燃料の気化を一層促進するために、延伸多孔質PTFEの液体燃料に対する濡れ性を低下させる撥油処理を延伸多孔質PTFEに施しておくことが好ましい。延伸多孔質PTFEに撥油処理を施す方法としては、例えば、特開平7−126428号公報に記載されているように、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するフッ素樹脂とポリフルオロアルキル基を含有する含フッ素重合体とを含む組成物で延伸多孔質PTFEを処理する方法、特表平8−511040号公報に記載されているように、平均粒径0.01〜0.5μmのフッ素化有機側鎖を有する有機ポリマー粒子を含む水性ラテックスで延伸多孔質PTFEを処理する方法、等が挙げられる。このような撥油処理を施すことにより、延伸多孔質PTFEが元来有する通気性および撥水性を保持しつつ、延伸多孔質PTFEの液体燃料(メタノール)に対する濡れ性を低下させることができる。延伸多孔質PTFEの撥油処理の詳細については、上記特開平7−126428号公報および特表平8−511040号公報を参照されたい。
【0017】
気液分離膜を通って気体燃料のみが燃料透過量調整膜に到達し、ここで燃料透過量調整膜はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および無機粒子を含んでなる。PTFEは耐熱性、耐腐食性および加工性に優れたフッ素樹脂である。押出成形、ビード圧延などの種々の公知の方法により、PTFEを膜に形成することができる。圧延と延伸を適宜組み合わせることにより、そのPTFE膜は極めて微細な孔を有し、その微細な孔を介して気体燃料の透過が可能なものにすることができる。少なくとも一部の微細孔が、燃料透過量調整膜内に張り巡らされ、互いに連通していることにより、気化燃料は微細孔を通って均一に拡散されて負極へ供給される。PTFEを加工して膜を形成する際に無機粒子を混入して、PTFEおよび無機粒子を含む燃料透過量調整膜を得ることができる。無機粒子は、前記の微細な孔を少なくとも部分的に塞ぐことができる。また、無機粒子の混入比率を高めていくと、無機粒子間の空隙が生じる。その空隙にPTFEが十分に充填されないと、空隙は燃料透過量調整膜中に気道として残存し得る。さらに、無機粒子自体に燃料が浸透することができる場合、無機粒子を介して燃料の透過が可能である。このように、PTFEと無機粒子とを組み合わせることにより、様々な効果が生じる。したがって、これらの効果を複合的に働かせ、所望の燃料透過量が得られるように調整することが可能である。
【0018】
燃料透過量調整膜に含まれるPTFEとして、気液分離膜と同様に、延伸PTFEを用いることができる。圧延と延伸を適宜組み合わせることにより、燃料透過量調整膜に含まれるPTFE膜の空隙率、平均孔径、厚さを適宜調整して、所望の燃料透過量を得ることが可能である。
【0019】
燃料透過量調整膜に含まれる無機粒子は、燃料透過量調整膜を透過する燃料に対して耐性の高いものが好ましい。また、無機粒子は、親水性であることが望ましい。また、無機粒子は多孔体であってもよい。というのは、親水性の無機粒子は水分を保持することができ、また多孔体の無機粒子はその多孔部に水分を保持することができるからである。この水分を保持することができることにより、燃料透過量調整膜の近辺、特に負極の乾燥を防ぎ、水を必須とする負極発電反応を円滑に進行させることができる。保持される水分は、負極反応用に気化燃料とともに気液分離膜を通って供給される水分であってもよく、正極での正極発電反応で生じた水分が電解質膜を通って燃料透過量調整膜に到達するものでもよい。正極発電反応で生じた水分が、燃料透過量調整膜で保持されることにより、正極およびその付近でフラッディングが生じることを防止でき、負極発電反応に必要な酸素の拡散が円滑に進行する。
【0020】
無機粒子の代表例として、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、活性炭、ガラス等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、シリカ、および活性炭は、親水性であり、比較的容易に細孔容積の大きなものが得られるため、好ましい。これらの無機粒子は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。無機粒子の多孔性について、例えば、細孔半径が3〜10nmの細孔の累積細孔容積(以下、「V3-10」という)が少なくとも0.2ml/gになるものが挙げられる。V3-10が0.2ml/gを下回る場合には、吸湿性が十分でないことがある。ただし、この範囲以外でも、PTFEの微細孔の径や空隙率やシリカ多孔体微粒子の粒径分布等を調整することによって、本発明の効果は生じさせ得るものであることに留意すべきである。なお、「細孔半径」および「細孔容積」は、公知の窒素吸着法(試料に吸着する窒素量とその時の圧力の関係を測定して吸着等温線を求め、Kelvin式を用いて細孔半径と細孔容積を算出する方法で、島津製作所社製、ガス吸着測定装置「ASAP2010」を用いて測定する)によって、または公知の水蒸気吸着法(特許第3122205号公報に記載の方法と同様の方法で、試料に吸着する水の量とその時の水蒸気圧の関係を測定して吸着等温線を求め、Kelvin式を用いて細孔半径と細孔容積を算出する)によって求めた。
【0021】
運転条件によっては、気液分離膜が濡れてしまって液体燃料が燃料透過量調整膜に供給される場合がありえる。例えば、発電量に応じて必要とされる気化燃料の量は変動するため、供給される気化燃料が過渡的に過不足を生じることもありえる。気化燃料が過剰に存在する場合、過剰分は凝集して液体燃料となり、気液分離膜または燃料透過量調整膜を濡らす場合がありえる。しかし本発明によれば、液体燃料は、燃料透過量調整膜に含まれるPTFEの微細孔に存在したり、無機粒子の多孔性部に存在したり、または無機粒子自体に浸透したりすることができる。これらの現象は、過剰な燃料の供給を抑制する効果を有する。さらに、PTFEおよび無機粒子に存在する液体燃料は、燃料が不足する場合に、再び気化して燃料の不足分を補う効果も有する。すなわち、燃料透過量調整膜は燃料供給の緩衝材となり得る。本発明の燃料透過量調整膜により、発電量の変動に応じて過不足ない燃料の供給が可能であり、効率的な燃料電池運転がもたらされる。過剰な燃料供給が抑制されるため、燃料が負極側集電層、負極、電解質膜を透過して正極に至るクロスオーバー現象を著しく緩和できる。
【0022】
燃料透過量調整膜に含まれるPTFEとシリカ多孔体微粒子の質量組成比は1:3〜1:1の範囲であることが好ましい。PTFEがこの範囲より多いと、すなわちシリカ多孔体微粒子がこの範囲より少ないと、無機粒子を含ませることによる効果が十分に現れないことがある。その効果とは、例えば、PTFEの微細孔をシリカ多孔体微粒子が塞いだり、シリカ多孔体微粒子間の空隙に基づく気道が形成されたり、無機粒子自体に燃料が浸透したりすることである。一方、PTFEがこの範囲より少ないと、すなわちシリカ多孔体微粒子がこの範囲より多いと、燃料透過量調整膜が濡れやすくなり、燃料のクロスオーバーが生じる可能性が高まったり、燃料透過量調整膜自体の強度が低下したり(バインダーとしてのPTFEの不足による)する懸念がある。したがって、PTFEとシリカ多孔体微粒子の質量組成比は1:3〜1:1の範囲であることが好ましい。ただし、前述の組成比の範囲以外でも、PTFEの微細孔の径や空隙率やシリカ多孔体微粒子の粒径分布等を調整することによって、本発明の効果は生じさせ得るものであることに留意すべきである。
【0023】
無機粒子の粒径分布をPTFE微細孔の径に応じて適宜調整することにより、PTFE微細孔を適当に塞ぐことができる。したがって、無機粒子の粒径の下限は、PTFE微細孔の径と同程度にしてもよい。その場合、無機粒子の粒径の下限は、0.01、好ましくは0.05、より好ましくは0.1μmである。無機粒子の粒径は、無機粒子間の空隙に基づく気道の大きさに影響する。気道が大きすぎるとクロスオーバー等の懸念が生じるため、無機粒子の粒径の上限は、500、好ましくは300、より好ましくは100μmである。なお、無機粒子の粒径分布の広さは、概して、上記の範囲内であれば、広い方が好ましく、例えば0.01μm〜500μmがより好ましい。これは、特定の理論に拘束されるものではないが、粒径分布が広いと、小さな粒子から大きな粒子が混在し、粒子どうしの間に生じる空隙に基づく気道が多くなり、通気度が高まり、すなわち燃料透過度が高まり、発電性能が高まると考えられるからである。
【0024】
燃料透過量調整膜のガーレー数は、2300秒以上であることが好ましい。2300秒未満であると、液体燃料の透過が可能となりクロスオーバー現象の恐れがでてくるからである。
【0025】
燃料透過量調整膜の厚みは、一般に10μm〜3mm、好ましくは100μm〜1mm、さらに好ましくは200〜600μmの範囲内である。燃料透過量調整膜の厚さが10μm未満であると、液体燃料の透過が可能となりクロスオーバー現象の恐れがでてくる。反対に3mmを超えると、燃料気体の透過量が少なくなること、負極で生成するCOガスの放出が阻害されること等により、燃料電池の発電性能が不十分となる。
【0026】
燃料透過量調整膜と気液分離膜と積層してもよい。すなわち、燃料透過量調整膜と気液分離膜の間に、特許文献1の気化燃料収容室(いわゆる蒸気溜まり)を備える必要がない。したがって、燃料電池の省スペース化が可能であり、また燃料溜まりでの燃料濃度の不均一化の懸念も生じない。積層する方法としては、これらの膜を損傷することなく的確に積層できるものであれば、従来公知のいずれの方法でも採用することができる。例えば、燃料透過量調整膜と気液分離膜とを熱圧着または静電吸着させて、積層膜を形成してもよい。
【0027】
燃料透過量調整膜と負極側集電体の間に延伸多孔質PTFE層を設けることもできる(図示せず)。この延伸多孔質PTFE層は、上述した気液分離膜と同様の機能を発揮し得る。万が一燃料透過量調整膜が濡れてしまった場合でも、この延伸多孔質PTFE層(燃料透過量調整膜と負極側集電体の間のもの)により、負極に気化燃料のみを供給することをさらに確実なものにできる。
【0028】
図1に示すように、燃料電池の起電部は、負極と、正極と、その間に挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の固体電解質膜とから構成され、これは膜電極接合体(MEA:MembraneElectrodeAssembly)と称される。
【0029】
本発明における固体電解質膜としては、プロトン(H)伝導性が高く、電子絶縁性であり、かつ、ガス不透過性であるものであれば、特に限定はされず、公知の固体電解質膜であればよい。代表例として、含フッ素高分子を骨格とし、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン基等の基を有する樹脂が挙げられる。固体電解質膜の厚さは、抵抗に大きな影響を及ぼすため、電子絶縁性およびガス不透過性を損なわない限りにおいてより薄いものが求められ、具体的には、1〜100μm、好ましくは5〜50μmの範囲内に設定される。本発明における固体電解質膜の材料は、全フッ素系高分子化合物に限定はされず、炭化水素系高分子化合物や無機高分子化合物との混合物、または高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の両方を含む部分フッ素系高分子化合物であってもよい。炭化水素系高分子電解質の具体例として、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテル等、およびこれらの誘導体(脂肪族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレン、芳香環を有するポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等、およびこれらの誘導体(部分芳香族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド等、およびこれらの誘導体(全芳香族炭化水素系高分子電解質)等が挙げられる。部分フッ素系高分子電解質の具体例としては、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレンーグラフトーエチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリスチレンーグラフトーポリテトラフルオロエチレン等、およびこれらの誘導体が挙げられる。全フッ素系固体電解質膜の具体例としては、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーであるナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製)、アシプレックス(登録商標)膜(旭化成社製)およびフレミオン(登録商標)膜(旭硝子社製)が挙げられる。また、無機高分子化合物としては、シロキサン系またはシラン系の、特にアルキルシロキサン系の有機珪素高分子化合物が好適であり、具体例としてポリジメチルシロキサン、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0030】
固体電解質膜を挟持する負極および正極は、それぞれ、触媒層およびガス拡散層からなる。負極および正極の触媒層は、触媒粒子とイオン交換樹脂を含むものであれば特に限定はされず、従来公知のものを使用することができる。触媒粒子は、通常、導電材に担持される。触媒粒子としては、水素の酸化反応あるいは酸素の還元反応に触媒作用を有するものであればよく、白金(Pt)その他の貴金属のほか、鉄、クロム、ニッケル等、およびこれらの合金を用いることができる。導電材としては炭素系粒子、例えばカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が好適であり、特に微粉末状粒子が好適に用いられる。代表的な触媒には、表面積20m/g以上のカーボンブラック粒子に、貴金属粒子、例えばPt粒子またはPtと他の金属との合金粒子を担持したものがある。特に、負極用触媒粒子については、Ptは一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのように副反応でCOを生成する燃料、またはメタン等を改質したガスを使用する場合には、Ptとルテニウム(Ru)との合金粒子を用いることが好ましい。触媒層中のイオン交換樹脂は、触媒を支持し、触媒層を形成するバインダーとなる材料であり、触媒によって生じたイオン等が移動するための通路を形成する役割をもつ。このようなイオン交換樹脂としては、先に固体電解質膜に関連して説明したものと同様のものを用いることができる。負極側ではメタノール等の液体燃料の蒸気、正極側では酸素や空気等の酸化剤ガスが触媒とできるだけ多く接触することができるように、触媒層は多孔性であることが好ましい。また、触媒層中に含まれる触媒量は、一般に0.1〜10mg/cmの範囲内にあればよいが、特に負極については1.0〜7.0mg/cmの範囲内に、また正極については0.3〜4.0mg/cmの範囲内にあることが好適である。触媒層の厚さは、一般に1〜200μmの範囲内にあればよいが、特に負極については50〜150μmの範囲内に、また正極については10〜100μmの範囲内にあることが好適である。
【0031】
ガス拡散層は、上記触媒層と組み合わせて、電極(負極または正極)を構成する。ガス拡散層は、触媒層にメタノールのような燃料または酸素のような酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、集電層と触媒層との間で電子を伝導する機能も兼ね備えている。したがって、ガス拡散層は、通気性および導電性を有し、一般的にシート材料である。代表例として、カーボンペーパー、カーボン織布、カーボン不織布、カーボンフェルト等の通気性導電性基材に撥水処理を施したものが挙げられる。また、炭素系粒子とフッ素系樹脂から得られた多孔性シートを用いることもできる。例えば、カーボンブラックを、ポリテトラフルオロエチレンをバインダーとしてシート化して得られた多孔性シートを用いることができる。ガス拡散層の厚さは、一般に50〜500μm、好ましくは100〜350μmの範囲内にあることが好適である。
【0032】
触媒層とガス拡散層と固体電解質膜とを接合することにより膜電極接合体(MEA)を作製する。接合方法としては、固体電解質膜を損傷させることなく接触抵抗が低い緻密な接合が達成されるものであれば、従来公知のいずれの方法でも採用することができる。接合に際しては、まず触媒層とガス拡散層を組み合わせて負極または正極を形成した後、これらを固体電解質膜に接合することができる。例えば、適当な溶媒を用いて触媒粒子とイオン交換樹脂を含む触媒層形成用コーティング液を調製してガス拡散層用シート材料に塗工することにより負極または正極を形成し、これらを固体電解質膜にホットプレスで接合することができる。また、触媒層を固体電解質膜と組み合わせた後に、その触媒層側にガス拡散層を組み合わせてもよい。触媒層と固体電解質膜とを組み合わせる際には、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、デカール法等、従来公知の方法を採用すればよい。
【0033】
気液分離膜を透過した燃料は、燃料透過量調整膜によって、その量が調整され、負極側集電層を通過し、さらに負極ガス拡散層で拡散され、負極触媒層に供給される。負極触媒層に供給された燃料は、次の式(1)に示すメタノールの内部改質反応を生じる。
CHOH+HO→CO+6H+6e…式(1)
一方、保湿膜/外部フィルターから取り入れられた空気は、正極集電層、正極ガス拡散層を拡散して、正極触媒層に供給される。正極触媒層に供給された空気は、固体電解質膜を通じて拡散してきたプロトンと、外部回路を流れてきた電子とともに、還元反応である次の式(2)に示す反応を生じる。この反応によって、水が生成され、発電反応が生じる。
(3/2)O+6H+6e→3HO…式(2)
【0034】
上記した式(1)と式(2)の反応とが同時に生じることにより、燃料電池としての発電反応が完結する。発電反応が進行すると、上述した式(2)の反応などによって、正極触媒層中に生成した水(HO)が、正極触媒層中の水の量を増加させる。その結果、浸透圧現象によって、正極触媒層で生成した水が、固体電解質膜を通過して負極触媒層に移動し、前述した式(1)に示すメタノールの酸化反応に用いられる。このようにして、外部から水を供給しなくても、メタノールの酸化反応を継続することができる。なお、負極触媒層に移動した水は、燃料透過量調整膜にとどまり、その付近、特に負極の保湿をもたらすこともできる。
【0035】
負極側集電層は、負極で発生した電子を伝導する機能を果たすため、導電性材料により形成される。また、負極側集電層は、負極に燃料および水を供給する機能を果たすため、メッシュなどの多孔質層で形成される。負極側集電層の材料としては、従来公知のいずれの材料でも採用することができる。負極側集電層の材料の具体例として、チタン(Ti)製多孔質板、SUS製多孔質板、炭素製多孔質板等が挙げられる。負極側集電層の厚さは、一般に10μm〜5mmの範囲内にある。
【0036】
正極側集電層は、負極側集電層と同様の材料を用いることができる。具体的には、正極側集電層は、正極で利用される電子を伝導する機能を果たすため、導電性材料により形成される。また、正極側集電層は、正極に酸素(空気)を供給し、生成した余剰水を外部へ排出する機能を果たすため、メッシュなどの多孔質層で形成される。正極側集電層の材料としては、従来公知のいずれの材料でも採用することができる。正極側集電層の材料の具体例として、チタン(Ti)製多孔質板、SUS製多孔質板、炭素製多孔質板等が挙げられる。正極側集電層の厚さは、一般に10μm〜5mmの範囲内にある。
【0037】
本発明による液体燃料供給型燃料電池は、その負極側に液体燃料が供給される。液体燃料としては、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、ギ酸、1−プロパノール、2−プロパノール、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム等が挙げられる。これらの水溶液における溶質濃度の下限は、一般に2質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。溶質濃度が2質量%未満では、燃料電池のエネルギー密度が低下する。本発明の燃料電池では、燃料のクロスオーバーが抑制されるので、高濃度の燃料を用いることができる。これらの水溶液における溶質濃度の上限は、特に制限がない。すなわち、本発明による液体燃料供給型燃料電池は溶質濃度が100質量%の燃料を用いることができ、高効率の発電が可能である。いうまでもなく、入手性や管理性の観点から、溶質濃度が100質量%未満の燃料、例えば99質量%以下、90質量%以下、さらに80質量%以下の燃料を用いることも随意に可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0039】
膜電極接合体(MEA)の作製
【0040】
(拡散層の作製)
カーボンペーパー(東レ製 TGP−H−060)を用意し、それを20%に希釈(水で5倍に希釈)したPTFE(ダイキン、D1E、PTFE含有量60質量%)に浸漬し、90℃のオーブンで乾燥した後に350℃で2時間焼成することによって、撥水処理された拡散層を作製した。
【0041】
(負極の作製)
カーボン担持白金ルテニウム触媒(田中貴金属工業製、TEC61E54DM:白金・ルテニウム(PtRu)担持量50質量%)5gを、下記式(1)で表されるパーフルオロスルホン酸電解質(EW=700)の17質量%エタノール溶液17.6gに混合することにより混合インクを調製した。その混合インクを、上記負極拡散層の固体電解質膜側にスプレーすることにより触媒層を堆積させ、触媒貴金属量3mg/cmの負極を形成した。
【0042】
【化1】

【0043】
(正極の作製)
カーボン担持白金触媒(田中貴金属工業製、TEC10E70TPM:白金担持量70質量%)5gを上記パーフルオロスルホン酸電解質(EW=700)溶液に、上記触媒のカーボン量の上記電解質に対する質量比が1.0になるように混合することにより混合インクを調製した。その混合インクを、上記拡散層の固体電解質膜側にスプレーすることにより触媒層を堆積させ、触媒貴金属量1.3mg/cmの正極を形成した。
【0044】
(MEA化)
高分子電解質膜として大きさ5×5cm、厚さ30μmのイオン交換膜GORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を用意し、その片面に上記負極(触媒層側)を、その反対面に上記正極(触媒層側)をそれぞれ配置し、ホットプレスで熱圧(160℃、1MPa、5分間)を加えて積層した。
【0045】
液体燃料供給型燃料電池の組立て
(集電層)
集電層として規則的に格子状に直径2mmの穴を設けたチタン(Ti)製多孔板(大きさ5×5cm、厚さ2mm、開口率50%)を用意し、これを負極および正極の拡散層側に接するように配置した。
【0046】
(燃料透過量調整膜)
シリカからなる無機微粒子とPTFEとを含んでなる多孔質膜(大きさ5×5cm、ジャパンゴアテックス製)を作製して燃料透過量調整膜とした。各実施例で組成および厚さの異なる膜を作製した。この燃料透過量調整膜を負極側集電層の固体電解質膜と反対の側に接するように配置した。
【0047】
(気液分離膜)
気液分離膜として撥油性の延伸多孔質PTFE(大きさ5×5cm、厚さ160μm、空隙率80%、ジャパンゴアテックス製)を用意し、これを燃料透過量調整膜の固体電解質膜と反対の側に接するように配置した。
【0048】
<発電試験>
前述の手順で作製した燃料電池単セルに、燃料温度測定用の熱電対を具備した燃料容器を取り付け、さらにポテンショスタットを接続した。燃料容器に純メタノールを5ml充填し、OCV(開放電圧)で5分保持した後、0.3Vの一定電圧にて15分発電した。次に、交流インピーダンス(EIS)法により5kHzの抵抗値を求めた。その後、電圧をOCVから0.1Vまで1mV/secで掃引してI−V曲線を得た。評価環境として、数時間室温で静置したものを用いた。燃料温度は、電流を流し始めてから経時的に測定し、その最高温度を燃料温度として記録した。
【0049】
<ガーレー数評価方法>
透過量調整膜のガス透気度を評価するためにJIS P 8117:1998に基づきガーレー数を評価した。
【0050】
<メタノールガス透加量評価方法>
図2に評価装置の概略を示す。 燃料室を構成するアクリル製のセルに気液分離膜の延伸PTFEと燃料透過量調整膜を積層し、発電試験で用いた開口率50%のTi板で挟み、その外側に通気室を構成するアクリル製のセルを配置し、ボルトで締め付けた。燃料室にはメタノールを充填し、通気室にはNガスラインを接続し、20 ml/minでNを供給した。通気室出口からのNガスのラインを質量分析装置に接続し、通気中のメタノール強度を測定した。また、同時に通気室出口からのNガスはガスクロマトグラムにも供給し、メタノール量を定量した。メタノールを検知した際の単位時間当たりのメタノール強度増加分の傾きからメタノール透過度を求めた。
【0051】
比較例1
比較例1では、燃料透過量調整膜を用いず、気液分離膜として撥油性延伸多孔質PTFE(大きさ5×5cm、厚さ160μm、空隙率80%、ジャパンゴアテックス製)のみで燃料電池評価、ガーレー数およびメタノール透過度の評価をした。
【0052】
実施例1
シリカ微粒子(サイリシア780、富士シリアル化学株式会社製、粒子径0.4μm〜70μm、モード径20μm):PTFE=3:1 (重量比)の多孔質膜(0.6mm)を作製して、気液分離膜と積層して配置し、燃料電池評価、およびメタノール透過度の評価をした。ガーレー数は、気液分離膜と積層する前の多孔質膜のみを用いて、評価した。
【0053】
実施例2
シリカ微粒子(サイリシア780):PTFE=1:1 (重量比)の多孔質膜(0.6mm)を作製して、気液分離膜と積層して配置し、およびメタノール透過度の評価と燃料電池評価をした。ガーレー数は、気液分離膜と積層する前の多孔質膜のみを用いて、評価した。
【0054】
実施例3
実施例2で用いた0.6mm厚の多孔質膜を圧延して、シリカ微粒子(サイリシア780):PTFE=1:1 (重量比)の多孔質膜(0.2mm)を作製して、気液分離膜と積層して配置し、およびメタノール透過度の評価と燃料電池評価をした。ガーレー数は、気液分離膜と積層する前の多孔質膜のみを用いて、評価した。
【0055】
実施例4
シリカ微粒子(RA、粒子径0.3μm〜300μm、モード径30μm):PTFE=1:1 (重量比)の多孔質膜(0.2mm)を作製して、気液分離膜と積層して配置し、およびメタノール透過度の評価と燃料電池評価をした。ガーレー数は、気液分離膜と積層する前の多孔質膜のみを用いて、評価した。
ここでは粒度分布が広いシリカ微粒子を用いた。
【0056】
ガーレー数、およびメタノールガス透加量の評価結果を表1に示す。
【表1】

表1において、実施例3のガーレー数の測定不能とは14、000秒以上で測定限界を超えたことを示している。
【0057】
比較例1はシリカを含まず、実施例3はシリカを含む。この結果よりシリカを含むことによって、ガーレー数(通気にかかる時間)が大きくなり、メタノール透過度が小さくなることが分かった。これはPTFEの微細孔をシリカが塞いだことによると考えられる。ただしその効果は、以下の実施例データから分かるように、組成や膜厚によって大きく異なっていた。
実施例1のシリカ含有率を実施例2のそれよりも増加させたところ、シリカの多い実施例1が、ガーレー数(通気にかかる時間)が小さくなり、メタノール透過度が大きくなった。これは、シリカ粒子が増えて、シリカ粒子間に空隙が生じ、その空隙にPTFEが十分に充填されないまま、気道として膜中に残存し、結果としてガーレー数(通気にかかる時間)が小さくなり、メタノール透過度が大きくなったと考えられる。ガーレー数の変化率よりもメタノール透過度の変化率が大きかった。これは、メタノールが膜中の気道を通過することに加えて、メタノールはシリカ粒子に浸透し得るので、増加したシリカ粒子内をメタノールが通過し、その結果トータルのメタノール透過度が増加したと考えられる。
実施例2と実施例3を用いて、膜厚によるメタノール透過度への影響を調べた。実施例2の多孔質膜は0.6mm厚であり、実施例3の多孔質膜は0.2mm厚であった。実施例3の膜の方が薄いので、その分メタノール透過度は大きくなったと考えられる。
実施例3と実施例4を用いて、シリカ粒子の粒度分布によるメタノール透過度への影響を調べた。実施例3のシリカ粒子(SY780)は粒子径0.4μm〜70μm、モード径20μmであり、実施例4のシリカ粒子(RA)は粒子径0.3μm〜300μm、モード径30μmであった。すなわち、実施例4の粒度分布の方が広く、モード径も大きかった。メタノール透過度は、実施例4の方が大きかった。これは、粒度分布が広く、粒径の大きな粒子が含まれる実施例4では、実施例3と比べて、シリカ粒子間に生じる空隙に基づく気道が多く残存したことが考えられる。このことは、実施例4のガーレー値が、実施例3よりも低い、すなわち通気度が高いことからも裏付けられる。
なお、シリカ粒子の粒度分布測定は以下の手順で行った。各シリカ粒子の試料を小スパチュラ1杯分用意し、それを純水0.4wt%Triton水溶液20mlに混合し、この混合液を超音波洗浄器に2分間かけて、シリカ粒子分散液を調製した。島津社製SALD−2000(吸光度0.1〜0.2、屈折率1.45−0.05iで設定)を用いて、各シリカ粒子分散液の粒度分布測定を行った。
このように、燃料透過量調整膜が、PTFEおよびシリカ粒子をはじめとする無機粒子を含むことにより、燃料透過量を調整し得ることが分かった。
【0058】
図3に上記実施例1〜4および比較例1の発電試験結果を示す。
比較例1の気液分離膜のみの場合、メタノールクロスオーバーが大きくなり発熱して出力が低下した。これは、表1からも分かるとおり、比較例1の気液分離膜のみの場合、メタノール透過度が格段に大きいため、燃料の供給が過剰となり、メタノールクロスオーバーが大きくなったと考えられる。
実施例1の膜の場合、高い出力を得ることが出来た。これは、メタノール透過量が適度に調整されたためである。
実施例2の膜はメタノール透過度が比較的小さく、OCVが高いことからメタノールクロスオーバーは非常に少なく抑えられているが、メタノール濃度が低すぎて燃料濃度律速となり出力を得ることが出来なかった。
実施例3の膜は実施例2と同じ組成で膜厚を0.2mmにしたものである。実施例3では実施例2よりもメタノール透過度が向上したので、そのぶん出力が向上した。
実施例4の膜はシリカの粒度分布が広くなり、実施例3よりもメタノールの透過量も増加し、それによってDMFCの出力が向上した。メタノール透過量は実施例4の方が実施例1よりも高く、ガーレー数は実施例4の方が実施例1よりも低かった。すなわち、実施例1の方では、メタノール透過量がより適度に調整され、高い電流密度まで掃引できたと考えられる。
【0059】
以上の実施例および比較例では純メタノールで試験した。燃料としてメタノール水溶液を用いる場合は、メタノール濃度によって最適な膜特性が異なる。したがって、使用する燃料濃度によって燃料透過量調整膜の物性を最適化することが望まれる。
以上の結果より、シリカをはじめとする無機微粒子とPTFEを含んでなる多孔質膜を燃料透過量調整膜として用いることによって燃料の透過量を適度に制御し、燃料電池の発電性能を改善することが出来ることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料の少なくとも一部を気体燃料として供給する気液分離膜と、該気体燃料の透過量を調整する燃料透過量調整膜と、負極側集電層と、該気体燃料を酸化する負極と、固体電解質膜と、酸素を還元する正極と、正極側集電層とを、この順で含んでなる燃料電池であって、該燃料透過量調整膜がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および無機粒子を含んでなることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
該無機粒子がシリカ多孔体微粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
該無機粒子がさらに活性炭を含んでなることを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
該PTFEと該シリカ多孔体微粒子の重量組成比は1:3〜1:1の範囲にあることを特徴とする、請求項2または3に記載の燃料電池。
【請求項5】
該液体燃料がメタノール、エタノール、ジメチルエーテルおよびギ酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項6】
該液体燃料の濃度が70wt%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
該燃料透過量調整膜のガス透気度(ガーレー数)は2300秒以上の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項8】
該燃料調整膜の厚さが100μm以上、1mm以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項9】
該気液分離膜は撥油処理を施した延伸多孔質PTFEを用いることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項10】
該気液分離膜と該燃料透過量調整膜を積層して用いることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項11】
該燃料透過量調整膜が、負極側集電層の側に延伸多孔質PTFE層を備えることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項12】
該無機粒子の粒径分布が、0.01μm以上、かつ500μm以下であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−212570(P2012−212570A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77937(P2011−77937)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000107387)日本ゴア株式会社 (121)
【Fターム(参考)】