説明

液体状食品殺菌装置

【課題】液体状食品の品質を阻害することなく、的確に雑菌を除菌することができる液体状食品殺菌装置を提供する。
【解決手段】液体状食品を収容する容器(61)と、前記容器(61)に収容される液体状食品の液中にてストリーマ放電を生起する電極対(64,65)と、前記電極対(64,65)に直流電圧を印加する電源部(70)と、を備える。前記ストリーマ放電によって、収容される液体状食品の液中にて過酸化水素を生成することで液体状食品を殺菌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内部の雑菌を除菌できる液体状食品殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
健康面から液体状食品の安全性の確保について要求が高まっており、特に液体状食品中での雑菌の増殖が重要な問題である。液体状食品中の雑菌の増殖は、雑菌が病原性を有するものであれば人体に有害であるし、病原性がなくとも、液体状食品に異味異臭を付加したり、混濁したりする場合がある。
【0003】
液体状食品の殺菌には、煮沸により加熱して殺菌する方法や、殺菌剤を投入して殺菌する方法等、種々の殺菌方法が知られている。中でも、電気を利用した水の殺菌装置として、特許文献1に記載されている高電圧パルスを用いる殺菌装置がある。この殺菌装置は、絶縁材からなる壁体に液体流路の一部をなす開口部が形成され、この開口部に交流電圧が印加される電極線が当該開口部を横切るように張設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2848591号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の技術では、電気伝導率の高い液体状食品については、交流電圧を印加することが困難であるため液体状食品の殺菌が不十分である。また、電気伝導率の低い液体状食品については、殺菌は可能であるものの殺菌処理温度が上昇するため、液体状食品の品質を阻害する可能性がある。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、液体状食品の品質を阻害することなく、的確に雑菌を除菌することができる液体状食品殺菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、液体状食品を収容する容器(61)と、前記容器(61)に収容される液体状食品の液中においてストリーマ放電を生起するための電極対(64,65)と、前記電極対(64,65)に直流電圧を印加してストリーマ放電を生起させる電源部(70)と、を備え、前記ストリーマ放電によって、前記液体状食品の液中に過酸化水素を生成するようにしたことを特徴とする。ここで、液体状食品とは、液体状態の食品であり、特に限定されるものではないが、例えば飲料水、清涼飲料水、ジュース、牛乳等の飲料のみならず、醤油、つゆ、タレ、ソース等の調味料が含まれそれらを希釈したスープ類等も包含する概念である。
【0008】
第1の発明では、ストリーマ放電によって液体状食品の液中に発生した過酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって容器(61)内を対流して液中で拡散され、液中に含まれる被処理成分を酸化分解して液体状食品を浄化する。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記容器(61)内の過酸化水素濃度を検知する過酸化水素濃度センサ(300)と、前記過酸化水素濃度センサ(300)によって検知される前記容器(61)内の過酸化水素濃度が0.5ppm以下になるように前記電源部(70)の電極対(64,65)に対する印加電圧を制御する放電制御部(420)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、放電制御部(420)により、過酸化水素濃度センサ(300)にて検知される容器(61)内の過酸化水素濃度を0.5ppm以下に制御するため、過剰な過酸化水素の発生による害を避けて安全に液体状食品を浄化する。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、前記容器(61)内の過酸化水素濃度を検知する過酸化水素濃度センサ(300)と、前記過酸化水素濃度センサ(300)によって検知される前記容器(61)内の過酸化水素濃度と、前記容器(61)内に収容される液体状食品を殺菌するために必要な基準殺菌濃度との差を算出し、その殺菌濃度差に対応させた時間だけストリーマ放電を行うように前記電源部(70)の電極対(64,65)に対する印加電圧を制御する放電制御部(420)と、を備えることを特徴とする。
【0012】
第3の発明では、放電制御部(420)により、容器(61)内に収容される液体状食品を殺菌するために必要な殺菌濃度を算出し、その殺菌濃度に対応させた時間だけストリーマ放電を行うため、不要な殺菌処理を避けて最短時間で殺菌処理を行うことができる。
【0013】
第4の発明は、第1乃至第3の何れかの発明において、前記容器(61)は銅又は鉄を含有する材質にて構成されていることを特徴とする。
【0014】
第4の発明では、前記容器(61)の内壁から銅イオンや鉄イオンが容器(61)の内部へ供給される。過酸化水素を含む水中において、銅イオンや鉄イオンが共存する条件下では、いわゆるフェントン反応(Fenton反応)により、銅イオンや鉄イオンが触媒的に作用して、水酸化ラジカルが生成される。よって、容器(61)の液中では、水酸化ラジカルの生成量が増大し、有害物質の分解効率が向上する。
【0015】
第5の発明は、第1乃至第4の何れかの発明において、前記電極対(64,65)のうち放電電極(64)は前記容器(61)の底部に配置されていることを特徴とする。
【0016】
第5の発明では、活性種や過酸化水素をストリーマ放電に伴う熱によって容器(61)内を効率よく対流させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ストリーマ放電によって液体状食品の液中にて過酸化水素を生成して除菌を行うため、液体状食品の電気伝導率に係わらず的確に除菌することができ、しかも発生するガスは酸素ガスであり、殺菌剤等の添加物を含有させることはないので安全に除菌することができる。更に、高電界を用いる場合のように激しい温度上昇もないため、液体状食品の温度上昇に伴う劣化を避けることができる。
【0018】
また、本発明では、直流電源(70)を用いてストリーマ放電を行っているので、例えばパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(70)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0019】
第2の発明によれば、過酸化水素の過剰発生に伴う害悪の発生を抑制して安全に被処理成分の酸化分解を行うことができる。
【0020】
第3の発明によれば、液体状食品の殺菌に必要な殺菌濃度を算出し、その殺菌濃度に対応させた時間だけストリーマ放電を行うから最短時間で殺菌処理が可能となる。
【0021】
第4の発明によれば、過酸化水素の存在下に鉄イオン又は銅イオンを供給することで、フェントン反応を利用して多量の水酸化ラジカルを発生できる。従って、この水酸化ラジカルを用いて液中の有害物質等を効果的に除去できる。
【0022】
第5の発明によれば、活性種や過酸化水素を容器(61)内に効率よく対流させることにより的確に水中の有害物質等を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施形態1に係る液体状食品殺菌装置の構成図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る放電ユニットの全体構成図であり、浄化動作を開始する前の状態を示すものである。
【図3】図3は、実施形態1に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る放電ユニットの全体構成図であり、浄化動作を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図5】図5は、実施形態2に係る放電ユニットの全体構成図である。
【図6】図6は、実施形態2に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図7】図7は、実施形態3に係る放電ユニットの全体構成図であり、浄化動作を開始する前の状態を示すものである。
【図8】図8は、実施形態3に係る放電ユニットの全体構成図であり、浄化動作を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図9】図9は、実施形態3の変形例に係る絶縁ケーシングの蓋部の平面図である。
【図10】図10は、実施形態4に係る液体状食品殺菌装置の構成図である。
【図11】図11は、実施形態4に係る容器内の過酸化水素濃度制御のフローチャートである。
【図12】図12は、実施形態4に係る容器内の放電時間制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0025】
《実施形態1》
図1は本発明の実施形態1における液体状食品殺菌装置(900)の構成図である。液体状食品殺菌装置(900)は、密閉型の容器状に形成されて液体状食品を収容する容器(61)と、容器(61)に収容される液体状食品の液中にてストリーマ放電を生起する電極対(64,65)と、電極対(64,65)に直流電圧を印加する電源部(70)と、を備える。
【0026】
容器(61)の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、角柱形、円錐形、球形、楕円球形、円筒形等の種々の形態が可能であるが、後述するように発生した過酸化水素をストリーマ放電に伴う熱によって容器(61)内を対流させて拡散を促進させるために、例えば球形や楕円球形のように容器(61)内にて円滑な対流が起こりやすい形状が好ましい。
【0027】
また、容器(61)の天井面(61a)には、容器(61)内に液体状食品を入れるための口部が設けられており、該口部の密閉及び開放を行うことのできる蓋(69)にて密栓される。容器(61)は銅を含有する材質で構成されており、容器(61)の内壁から銅イオンを生成することで銅イオンを供給する。
【0028】
液体状食品殺菌装置(900)は、液体状食品の液中でのストリーマ放電によって液中に過酸化水素等の浄化成分を生成し、この浄化成分によって液体状食品の浄化を行うものである。図2に示されるように、液体状食品殺菌装置(900)は、容器(61)の底部に放電ユニット(72)を設置されている。
【0029】
放電ユニット(72)は、放電電極(64)及び対向電極(65)と、この電極対(64,65)に電圧を印加する電源部(70)と、放電電極(64)を内部に収容する絶縁ケーシング(71)とを備えている。
【0030】
電極対(64,65)は、水中でストリーマ放電を生起するためのものである。電極対(64,65)の一方の電極である放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に配置されている。放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の底面を介して容器(61)の底部に配置されている。放電電極(64)を容器(61)の底部に配置することにより、後述するように発生した過酸化水素をストリーマ放電に伴う熱によって容器(61)内を対流させて拡散を促進させるためである。放電電極(64)は、上下に扁平な板状に形成されている。放電電極(64)は、電源部(70)の正極側に接続されている。放電電極(64)は、例えばステンレス、銅等の導電性の金属材料で構成されている。電極対(64,65)の他方の電極である対向電極(65)は、絶縁ケーシング(71)の外部に配置されている。対向電極(65)は、放電電極(64)の上方に設けられている。対向電極(65)は、上下に扁平な板状であって、且つ上下に複数の貫通孔(66)を有するメッシュ形状ないしパンチングメタル形状に構成されている。対向電極(65)は、放電電極(64)と略平行に配設されている。対向電極(65)は、電源部(70)の負極側に接続されている。対向電極(65)は、例えばステンレス、真鍮等の導電性の金属材料で構成されている。
【0031】
電源部(70)は、電極対(64,65)に所定の直流電圧を印加する直流電源で構成されている。即ち、電源部(70)は、電極対(64,65)に対して瞬時的に高電圧を繰り返し印加するようなパルス電源ではなく、電極対(64,65)に対して常に数キロボルトの直流電圧を印加する。電源部(70)のうち、対向電極(65)が接続される負極側は、アースと接続されている。また、電源部(70)には、電極対(64,65)の放電電力を一定に制御する定電力制御部が設けられている(図示省略)。
【0032】
絶縁ケーシング(71)は、例えばセラミックス等の絶縁材料で構成されている。絶縁ケーシング(71)は、一面(上面)が開放された容器状のケース本体(72)と、該ケース本体(72)の上方の開放部を閉塞する板状の蓋部(73)とを有している。
【0033】
ケース本体(72)は、角型筒状の側壁部(72a)と、該側壁部(72a)の底面を閉塞する底部(72b)とを有している。放電電極(64)は、底部(72b)の上側に敷設されている。絶縁ケーシング(71)では、蓋部(73)と底部(72b)との間の上下方向の距離が、放電電極(64)の厚さよりも長くなっている。つまり、放電電極(64)と蓋部(73)との間には、所定の間隔が確保されている。これにより、絶縁ケーシング(71)の内部では、放電電極(64)とケース本体(72)と蓋部(73)との間に空間(S)が形成される。
【0034】
図2及び図3に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)には、該蓋部(73)を厚さ方向に貫通する1つの開口(74)が形成されている。この開口(74)により、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電界の形成が許容されている。蓋部(73)の開口(74)の内径は、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0035】
以上のように、絶縁ケーシング(71)は、電極対(64,65)のうちの一方の電極(放電電極(64))のみを内部に収容し、且つ電極対(64,65)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部を成す開口(74)を有する絶縁部材を構成している。
【0036】
加えて、絶縁ケーシング(71)の開口(74)内では、電流経路の電流密度が集中することで、水がジュール熱によって気化して気泡(B)が形成される。つまり、絶縁ケーシング(71)の開口(74)は、該開口(74)に気相部を成す気泡(B)を形成する気相形成部として機能する。
【0037】
以上のように構成された本実施形態に係る液体状食品殺菌装置(900)について、以下その使用態様を説明する。
【0038】
殺菌対象となる液体状食品を容器(61)内に収容させる。後述するように発生した過酸化水素をストリーマ放電に伴う熱によって容器(61)内を対流させて拡散を促進させやすくするために、液体状食品は容器(61)の底から所定の高さを有するように収容させることが好ましい。
【0039】
本実施形態の液体状食品殺菌装置(900)の殺菌開始時には、図2に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、電極対(64,65)の間に電界が形成される。この際、放電電極(64)の周囲は、絶縁ケーシング(71)で覆われている。このため、電極対(64,65)の間での漏れ電流が抑制されとともに、開口(74)内の電流経路の電流密度が集中した状態となる。
【0040】
開口(74)内の電流密度が上昇すると、開口(74)内のジュール熱が大きくなる。その結果、絶縁ケーシング(71)では、開口(74)の近傍において、水の気化が促進されて気泡(B)が形成される。この気泡(B)は、図4に示すように、開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、対向電極(65)に導通する負極側の水と、正極側の放電電極(64)との間に気泡(B)が介在する。従って、この状態では、気泡(B)が、放電電極(64)と対向電極(65)との間での水を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の漏れ電流が抑制され、電極対(64,65)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する。
【0041】
以上のようにして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、容器(61)内の液中では、水酸化ラジカル等の活性種や過酸化水素等が生成される。水酸化ラジカル等の活性種や過酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって容器(61)内を対流する。これにより、液中での活性種や過酸化水素の拡散が促される。また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、このストリーマ放電に伴ってこの気泡(B)でイオン風を生成し易くなる。よって、容器(61)内では、このイオン風を利用して、活性種や過酸化水素の拡散効果を更に向上できる。また、高電界を用いる場合のように激しい温度上昇もないため、液体状食品の温度上昇に伴う劣化を避けることができる。
【0042】
また、上述したように、容器(61)内には、容器(61)の内壁から析出した銅イオンが供給される。過酸化水素と銅イオンの存在下では、フェントン反応により、銅イオンが触媒的に作用して水酸化ラジカルの生成が促進される。これにより、水酸化ラジカルによる液体の浄化効率が向上する。加えて、銅イオンは菌の繁殖を抑制する効果があるため、液中での殺菌作用も高くなる。
【0043】
以上のようにして、液中に拡散した水酸化ラジカル等の活性種は、液体状食品の電気伝導率を問わずに液中に含まれる被処理成分(例えばアンモニア等)を酸化分解して液体の浄化に利用される。また、液中に拡散した過酸化水素は、液体の殺菌に利用される。これにより、本実施形態の液体状食品殺菌装置(900)では、液体状食品の清浄度が保たれる。
【0044】
《実施形態2》
上述の実施形態1では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に1つの開口(74)が形成されている。しかしながら、例えば図5及び図6に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。この変形例では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)が、略正方形板状に形成され、この蓋部(73)に複数の開口(74)が等間隔を置きながら碁盤目状に配列されている。一方、放電電極(64)及び対向電極(65)は、全ての開口(74)に跨るような正方形板状に形成されている。
【0045】
この変形例においても、各開口(74)が、電界密度集中部、及び気相形成部として機能する。これにより、電源部(70)から電極対(64,65)に直流電圧が印加されると、各開口(74)の電流密度が上昇し、各開口(74)で気泡(B)が形成される。その結果、各気泡(B)でそれぞれストリーマ放電が生起され、水酸化ラジカル等の活性種や、過酸化水素が生成される。
【0046】
《実施形態3》
実施形態3に係る液体状食品殺菌装置(900)は、上述した実施形態1と放電ユニット(72)の構成が異なるものである。以下には、上記実施形態1と異なる点を主として説明する。
【0047】
図7に示すように、実施形態3の放電ユニット(72)は、容器(61)の外側から内部に向かって挿入されて固定される、いわゆるフランジユニット式に構成されている。また、実施形態3の放電ユニット(72)は、放電電極(64)と対向電極(65)と絶縁ケーシング(71)とが一体的に組立てられている。
【0048】
実施形態3の絶縁ケーシング(71)は、大略の外形が円筒状に形成されている。絶縁ケーシング(71)は、ケース本体(72)と蓋部(73)とを有している。
【0049】
実施形態3のケース本体(72)は、例えばガラス質又は樹脂製の絶縁材料で構成されている。ケース本体(72)は、円筒状の基部(76)と、該基部(76)から容器(61)側に向かって突出する筒状壁部(77)と、該筒状壁部(77)の外縁部から更に容器(61)側に向かって突出する環状凸部(78)とを有している。また、ケース本体(72)には、環状凸部(78)の先端側に先端筒部(79)が一体に形成されている。基部(76)の軸心部には、円柱状の挿入口(76a)が軸方向に延びて貫通形成されている。筒状壁部(77)の内側には、挿入口(76a)と同軸となり、且つ挿入口(76a)よりも大径となる円柱状の空間(S)が形成されている。
【0050】
実施形態3の蓋部(73)は、略円板状に形成されて環状凸部(78)の内側に嵌合している。蓋部(73)は、例えばセラミックス材料で構成されている。蓋部(73)の軸心には、実施形態1と同様、蓋部(73)を上下に貫通する円形状の1つの開口(74)が形成されている。
【0051】
放電電極(64)は、軸直角断面が円形状となる縦長の棒状の電極で構成されている。放電電極(64)は、基部(76)の挿入口(76a)に嵌合している。これにより、放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に収容されている。実施形態3では、放電電極(64)のうち容器(61)とは反対側の端部が、容器(61)の外部に露出される状態となる。このため、容器(61)の外部に配置される電源部(70)と、放電電極(64)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0052】
放電電極(64)のうち容器(61)側の端部(64a)は、絶縁ケーシング(71)の内部の空間(S)に臨んでいる。なお、図7に示す例では、放電電極(64)の端部(64a)が、挿入口(76a)の開口面よりも上側(容器(61)側)に突出しているが、この端部(64a)の先端面を挿入口(76a)の開口面と略面一としてもよいし、端部(64a)を挿入口(76a)の開口面よりも下側に陥没させてもよい。また、放電電極(64)は、実施形態1と同様、開口(74)を有する蓋部(73)との間に所定の間隔が確保されている。
【0053】
対向電極(65)は、円筒状の電極本体(65a)と、該電極本体(65a)から径方向外方へ突出する鍔部(65b)とを有している。電極本体(65a)は、絶縁ケーシング(71)のケース本体(72)に外嵌している。鍔部(65b)は、容器(61)の壁部に固定されて放電ユニット(72)を保持する固定部を構成している。放電ユニット(72)が容器(61)に固定された状態では、対向電極(65)の電極本体(65a)の一部が浸水された状態となる。
【0054】
対向電極(65)は、電極本体(65a)よりも小径の内側筒部(65c)と、該内側筒部(65c)と電極本体(65a)との間に亘って形成される連接部(65d)とを有している。内側筒部(65c)及び連接部(65d)は、容器(61)内の液中に浸漬している。内側筒部(65c)は、その内部に円柱空間(67)を形成している。内側筒部(65c)の軸方向の一端は、蓋部(73)と当接して該蓋部(73)を保持する保持部を構成している。また、電極本体(65a)と内側筒部(65c)と連接部(65d)の間には、ケース本体(72)の先端筒部(79)が内嵌している。内側筒部(65c)の軸方向の他端側には、円柱空間(67)を覆うようにメッシュ状の漏電防止材(68)が設けられている。この漏電防止材(68)は、対向電極(65)と接触することで、実質的にアースされている。これにより、漏電防止材(68)は、容器(61)の内部の空間(液中)のうち、円柱空間(67)の内側から外側への漏電を防止している。
【0055】
対向電極(65)は、電極本体(65a)の一部が容器(61)の外部に露出される状態となる。このため、電源部(70)と対向電極(65)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0056】
実施形態3の液体状食品殺菌装置(900)においても、容器(61)内の液体状食品の浄化がなされる。
【0057】
液体状食品の殺菌の開始時には、図7に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、開口(74)の内部の電流密度が上昇していく。
【0058】
図7に示す状態から、電極対(64,65)へ更に直流電圧が継続して印加されると、開口(74)内の水が気化されて気泡(B)が形成される(図8を参照)。この状態では、気泡(B)が開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、円柱空間(67)内の負極側の液体と、放電電極(64)との間に気泡(B)の抵抗が付与される。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電位差が保たれ、気泡(B)でストリーマ放電が発生する。その結果、液中では、水酸化ラジカルや過酸化水素を生成され、これらの成分が液体状食品の浄化に利用される。
【0059】
なお、上記実施形態3では、円板状の蓋部(73)の軸心に1つの開口(74)を形成しているが、この蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。図9に示す例では、蓋部(73)の軸心を中心とする仮想ピッチ円上に、5つの開口(74)が等間隔置きに配列されている。このように蓋部(73)に複数の開口(74)を形成することで、各開口(74)の近傍でそれぞれストリーマ放電を生起させることができる。
【0060】
《実施形態4》
次に、上述の実施形態1〜3と異なり、本実施形態4では容器(61)内の過酸化水素濃度が制御される。
【0061】
図10に示すように、実施形態4に係る液体状食品殺菌装置(900)では、容器(61)内の過酸化水素濃度を検知する過酸化水素濃度センサ(300)と、放電制御部(420)とを備える。放電制御部(420)は、容器(61)内の過酸化水素濃度が0.5ppm以下になるように電源部(70)の電極対(64,65)に対する印加電圧を制御する。
【0062】
過酸化水素濃度センサ(300)は、容器(61)内の過酸化水素濃度を検知できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば過酸化水素濃度を吸光によって検知する吸光センサや、バイオセンサ等を用いることができる。
【0063】
放電制御部(420)はスイッチング部(410)に接続されており、スイッチング部(410)は電極対(64,65)間の電界形成回路の開閉を行うことで電極対(64,65)間の電界形成の停止又は開始を行い、これにより容器(61)内の過酸化水素濃度が0.5ppm以下に制御できるように構成されている。容器(61)内の過酸化水素濃度が0.5ppmよりも多くなると人体に害が発生する可能性があり得るからであり、過酸化水素濃度は0.5ppm以下であっても十分な殺菌効果が得られ、人体に無害であることが判明している。なお、容器(61)内の過酸化水素濃度が例えば0.01ppmよりも少ないと容器(61)内に収容された液体状食品の殺菌が不十分となる可能性があり得るため、容器(61)内の過酸化水素濃度は0.01ppm以上とすることが好ましい。
【0064】
以上のように構成された本実施形態4に係る液体状食品殺菌装置(900)について、以下その使用態様を説明する。
【0065】
図11は、本実施形態4に係る容器(61)内の過酸化水素濃度の制御フローチャートである。
【0066】
まず、電源部(70)から電極対(64,65)へ直流電圧が印加されて電極対(64,65)間に電界が形成され、気泡が放電電極(64)と対向電極(65)との間で抵抗として機能し、気泡内で絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する(S101)。
【0067】
次に、放電制御部(420)は、過酸化水素濃度センサ(300)にて検知した容器(61)内の過酸化水素濃度が最大濃度である0.5ppmに到達しているか否かを判断する(S102)。
【0068】
そして、放電制御部(420)は、容器(61)内の過酸化水素濃度が最大濃度に到達していない場合は、S101にもどり継続してストリーマ放電を行う。一方、容器(61)内の過酸化水素濃度が最大濃度に到達している場合は、ストリーマ放電を停止する(S103)。これにより、安全且つ的確に容器(61)内の液体状食品の殺菌が可能となる。
【0069】
次に、放電制御部(420)の変形例を説明する。放電制御部(420)は、過酸化水素濃度センサ(300)によって検知される容器(61)内の過酸化水素濃度と、容器(61)内に収容される液体状食品を殺菌するために必要な基準殺菌濃度との差を算出し、その殺菌濃度差に対応させた時間だけストリーマ放電を行うように電源部(70)の電極対(64,65)に対する印加電圧を制御する。
【0070】
即ち、液体状食品を最終的に殺菌するために必要な予め定められている基準殺菌濃度と、過酸化水素濃度センサ(300)にて検知した現在の容器(61)内の過酸化水素濃度との殺菌濃度差を求め、殺菌に不足している殺菌濃度を算出する。そして放電制御部(420)は、殺菌に不足している殺菌濃度に対応して基準殺菌濃度に到達するまでストリーマ放電を行うように制御する。ここで、液体状食品を最終的に殺菌するために必要な基準殺菌濃度は一律に定めることも可能であるし、また、個々の液体状食品毎に定めることも可能である。
【0071】
以上のように構成された液体状食品殺菌装置(900)について、以下その使用態様を説明する。
【0072】
図12は、放電制御部(420)の変形例に係る放電制御のフローチャートである。
【0073】
まず、電源部(70)から電極対(64,65)へ直流電圧が印加されて電極対(64,65)間に電界が形成され、気泡が放電電極(64)と対向電極(65)との間で抵抗として機能し、気泡内で絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する(S201)。
【0074】
次に、放電制御部(420)は、液体状食品を最終的に殺菌するための基準殺菌濃度と現在の容器(61)内の過酸化水素濃度との差を求める(S202)。そして、この基準殺菌濃度と現在の過酸化水素濃度との差を求め(S203)、差がない場合はストリーマ放電を停止する(S204)。
【0075】
一方、基準殺菌濃度と現在の過酸化水素濃度との差がある場合は、放電制御部(420)は、殺菌に不足している殺菌濃度に対応した時間だけストリーマ放電を行うように制御する(S205)。容器(61)内に収容される液体状食品を殺菌するために不足している殺菌濃度を算出し、その殺菌濃度に対応させた時間だけストリーマ放電を行うため、不要なストリーマ放電を避けることができ、放電停止までを最短にすることができる。
【0076】
《その他の実施形態》
上述した各実施形態の電源部(70)には、ストリーマ放電の放電電力を一定に制御する定電力制御部を用いている。しかしながら、定電力制御部に代えて、ストリーマ放電時の放電電流を一定に制御する定電流制御部を設けることもできる。この定電流制御を行うと、洗浄水の導電率によらず放電が安定するため、スパークの発生も未然に回避できる。
【0077】
また、上述した各実施形態では、電源部(70)の正極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の負極に対向電極(65)を接続している。しかしながら、電源部(70)の負極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の正極に対向電極(65)を接続することで、電極対(64,65)の間で、いわゆるマイナス放電を行うようにしてもよい。
【0078】
また、上述した各実施形態では、容器(61)の材質は銅を含有する材質で構成されていた。しかしながら、容器(61)の材質は鉄を含有する材質で構成することもできる。鉄イオンも銅イオンと同様、過酸化水素の存在下でフェントン反応を促進させるため、水酸化ラジカルの生成量を増大できる。また、例えば銅片や鉄片を容器(61)内に浸漬することで、これらを鉄イオンや銅イオンのイオン供給部とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明は、液体状食品の雑菌の除去について有用である。
【符号の説明】
【0080】
61 貯水タンク
64 放電電極
65 対向電極
66 貫通孔
70 電源部
71 絶縁ケーシング
72 放電ユニット
73 蓋部
74 開口
300 過酸化水素濃度センサ
410 スイッチング部
420 放電制御部
900 液体状食品殺菌装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体状食品を収容する容器(61)と、
前記容器(61)に収容される液体状食品の液中においてストリーマ放電を生起するための電極対(64,65)と、
前記電極対(64,65)に直流電圧を印加してストリーマ放電を生起させる電源部(70)と、を備え、
前記ストリーマ放電によって、前記液体状食品の液中に過酸化水素を生成するようにしたことを特徴とする液体状食品殺菌装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記容器(61)内の過酸化水素濃度を検知する過酸化水素濃度センサ(300)と、
前記過酸化水素濃度センサ(300)によって検知される前記容器(61)内の過酸化水素濃度が0.5ppm以下になるように前記電源部(70)の電極対(64,65)に対する印加電圧を制御する放電制御部(420)と、を備えることを特徴とする液体状食品殺菌装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記容器(61)内の過酸化水素濃度を検知する過酸化水素濃度センサ(300)と、
前記過酸化水素濃度センサ(300)によって検知される前記容器(61)内の過酸化水素濃度と、前記容器(61)内に収容される液体状食品を殺菌するために必要な基準殺菌濃度との差を算出し、その殺菌濃度差に対応させた時間だけストリーマ放電を行うように前記電源部(70)の電極対(64,65)に対する印加電圧を制御する放電制御部(420)と、を備えることを特徴とする液体状食品殺菌装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つにおいて、
前記容器(61)は銅又は鉄を含有する材質にて構成されていることを特徴とする液体状食品殺菌装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つにおいて、
前記電極対(64,65)のうち放電電極(64)は前記容器(61)の底部に配置されていることを特徴とする液体状食品殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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