説明

液体用紙容器のアクリル酸エステル定量分析法

【課題】 本発明における課題は、液体用紙容器の内容物接触面に裏移りしたオフセットインキ、オフセットニス由来のアクリル酸エステルが、アルコール飲料等の内容物を充填した際に、どの程度内容物中に溶出するかを、紙容器を製函、実包することなしに、再現性良く定量分析する手法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明は、液体用紙容器の内容物接触面をアルコールを含有する溶液に浸漬して抽出したアクリル酸エステルを、ガスクロマトグラフで分離し、質量分析することで、アクリル酸エステルを精度良く定量する分析方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体用紙容器の内容物接触面に裏移りしたオフセットインキ、オフセットニス由来のアクリル酸エステルが、アルコール飲料等の内容物を充填した際に、どの程度内容物中に溶出するかを、紙容器を製函、実包することなしに再現性良く定量分析する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料等を充填する液体用紙容器の表印刷には、通常、安価で加工し易く、小ロット対応も可能であるオフセットインキ、オフセットニスが使用される。これらオフセットインキ、オフセットニスの樹脂成分はアクリル系であり、UVにより架橋硬化するが、モノマー残渣として、アクリル酸(以下AA)、アクリル酸メチル(以下MA)、アクリル酸エチル(以下EA)、アクリル酸イソプロピル(以下i−PA)、アクリル酸イソブチル(以下i−BA)、アクリル酸ノルマルブチル(以下n−BA)、アクリル酸ターシャリーブチル(以下t−BA)、アクリル酸2−エチルヘキシル(以下2−EHA)等が微量残っている。液体用紙容器の表印刷に使用したオフセットインキ、オフセットニスは、内容物接触面(シーラント面)に裏移りし、微量ではあるが内容物中へと溶出する。アクリル酸エステルのうち、EAは特に閾値が低く、アルコール飲料中に数ppb溶出するだけでも臭気、味覚クレームの原因となり易いため、注意が必要である。しかし、紙容器内容物接触面からアルコール飲料中に溶出するアクリル酸エステルを定量する場合には、製函した液体用紙容器にアルコール飲料等を実包し、内容物中のアクリル酸エステルを定量する方法すら検討、確立されていないうえに、この手法では、製函し、実包しなければ、内容物中のアクリル酸エステルを分析できないという欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記の課題を考慮してなされたもので、液体用紙容器の内容物接触面に裏移りしたオフセットインキ、オフセットニス由来のアクリル酸エステルが、アルコール飲料等の内容物を充填した際に、どの程度内容物中に溶出するかを、紙容器を製函、実包することなしに、再現性良く定量分析する手法を提供する事を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の請求項1に係る発明は、液体用紙容器の内容物接触面をアルコールを含有する溶液に浸漬して抽出し、ガスクロマトグラフで分離し、質量分析計によりアクリル酸エステルを定量する分析法である。
【0005】
次に、本発明の請求項2に係る発明は、前記液体用紙容器の内容物接触面をアルコールを含有する溶液に浸漬し、固相マイクロ抽出法(SPME法)にて抽出し、ガスクロマトグラフで分離し、質量分析計によりアクリル酸エステルを定量する分析法である。
【0006】
次に、本発明の請求項3に係る発明は、請求項1乃至2において、前記液体用紙容器の内容物接触面を含むフィルム部と紙部とを剥離し、短冊状に切った該内容物接触面を含むフィルム部をアルコールを含有する溶液に浸漬して抽出する方法である。
【0007】
次に、本発明の請求項4に係る発明は、請求項1乃至3において、前記液体用紙容器の内容物接触面をエタノールを含有する溶液に浸漬して抽出し、ガスクロマトグラフで分離し、質量分析計によりアクリル酸エチルを定量する分析法である。
【0008】
次に、本発明の請求項5に係る発明は、請求項3乃至4において、前記短冊状に切った内容物接触面を含むフィルム部を、エタノールを含有する溶液に浸漬し、50℃で1日以上放置した抽出液中のアクリル酸エチルをガスクロマトグラフで分離し、質量分析計により定量する分析法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、紙容器を製函、実包なしで簡易に、該紙容器から内容物に移行するアクリル酸エステル量を知る事ができるため、該紙容器出荷時のアクリル酸エステル量の管理方法として用い、該紙容器へのアクリル酸エステルの多量混入を防ぐ事や、該紙容器の原材料や加工条件を該紙容器へのアクリル酸エステルの混入が無くなる方向に制御する事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の液体用紙容器のアクリル酸エステル定量方法について、実施の形態に沿って以下に詳細に説明する。
【0011】
図1は液体用紙容器構成の一例であり、内容物接触層(シーラントフィルム層)11、接着剤層12、PETフィルム層13、接着剤層14、Al箔層15、接着性ポリエチレン層16、紙層17、接着剤層18、ポリエチレン層19、オフセットインキ層20、オフセットニス層21が順次積層されている。
【0012】
前記シーラントフィルム層11に用いる樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどの単独重合体や、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルペンテンなどのオレフィンから選ばれる2つ以上のモノマーの共重合体、例えばエチレン−プロピレン共重合体等が挙げられ、これらの2つ以上の混合物を用いることも可能であり、また、ある種の官能基を導入したグラフトポリマー、例えば無水マレイン酸グラフトポリプロピレンのような樹脂、エチレン−α、β不飽和カルボン酸共重合体を主骨格とするエチレン系共重合体を用いることも可能である。中でも好ましく用いられるのは、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等の添加剤を含まないLDPE、あるいはLLDPEである。また、該シーラント層は、2層以上の共押し出し構成とすることも好ましく行われる。
【0013】
通常、液体用紙容器、特にアルコール飲料用紙容器では、紙層とシーラントフィルム層が接着剤層を介して貼り合わされている二層構成であることは稀であり、紙層からシーラント層の間に、Al箔層、または、金属あるいは金属化合物あるいは無機酸化物からなる薄膜層を設けたフィルムがガスバリア層として設けられた多層構成となっている。
【0014】
オフセットインキ、オフセットニスは、どちらもアクリル系樹脂をベースとしており、通常、UV光によって架橋硬化するが、アクリル酸、アクリル酸エステルの残留モノマーが微量残る。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル(以下MA)、アクリル酸エチル(以下EA)、アクリル酸イソプロプル(以下i−PA)、アクリル酸ターシャリーブチル(以下t−BA)、アクリル酸イソブチル(以下i−BA)、アクリル酸ノルマルブチル(以下n−BA)、アクリル酸2−エチルヘキシル(以下2−EHA)等が挙げられる。
【0015】
前記アクリル酸エステルのうち、EAは特に閾値が低く、アルコール飲料中に数ppb溶出するだけでも違和感を感じ、10〜20ppb以上ではアクリル酸エチルであると認識可能で、臭気、味覚クレームの原因となり易いため、注意が必要である。
【0016】
以下に、液体用紙容器のサンプリングからGC−MS測定までの手順を詳細に述べる。
【0017】
第一に、液体用紙容器スリーブの紙層と隣り合うフィルム層間を剥離する。前述したように、通常、液体用紙容器は、紙層からシーラント層の間に、Al箔層、または、金属あるいは金属化合物あるいは無機酸化物からなる薄膜層を設けたフィルムがガスバリア層として設けられている。シーラント層のみを剥離するのは非常に困難であるため、シーラント層を含むフィルム層側になるべく紙が残らないように注意して剥離する。また、剥離する際は、汚染がないように注意する必要がある。
【0018】
次に、前記剥離したフィルムを長さ15cm未満、幅1cm程度の短冊に、清浄なハサミ、カッター等で断裁する。該短冊に切ったフィルム全体がアルコール含有溶液にすべて浸漬されていることが好ましいが、あまりフィルムに対する該アルコール含有溶液量が多いと、該溶液中のアクリル酸エステル濃度が低く、GC−MS分析において検出限界以下となる可能性があるので、推奨はスリーブ表面積1cm当たり、0.2mlのアルコール含有溶液量である。
【0019】
前記アルコール含有溶液とは、アルコール濃度10〜50%程度の水溶液を示し、実際のアルコール飲料等を抽出液として使用する場合には、アルコール濃度を事前に確認しておき、GC−MS分析において、前記液体用紙容器の内容物のピークと分析目的のアクリル酸エステルのピークが重ならないことを確認しておくのが好ましい。
【0020】
次に、前記アルコール含有溶液を準備し、密栓付き三角フラスコ等のガラス製容器に、断裁したプラスチックフィルムと所定量の該アルコール含有溶液を入れる。アルコールは揮発し易いため、口栓部は気密性が保たれていることが好ましい。
【0021】
次に、前記プラスチックフィルムと前記アルコール含有溶液を入れたガラス製容器を、50℃のオーブンに入れて保存する。保存日数は1日から10日程度が好ましい。通常、初期は保存日数とともに抽出液中のアクリル酸エステル量が増加し、1週間程度で平衡に達し、以降は増加が止まる傾向が見られる。
【0022】
次に、前記アルコール含有溶液のヘッドスペースガスを固相マイクロ抽出法(以下SPME法)で吸着する。SPMEファイバーはCarboxen/ポリジメチルシロキサン(以下PDMS)系、膜厚75μmが好ましく用いられる。
【0023】
前記ヘッドスペースガスを捕集するために20mlバイアル瓶を使用する場合、抽出液量は5〜10ml程度、SPME抽出条件は温度が室温(20℃)〜40℃程度、時間は15分〜1時間程度が好ましい。
【0024】
前記SPME法による前処理が行えない場合、エムポアディスク(住友スリーエム株式会社商品名)等を使用する固相抽出法、液−液抽出法、あるいはPDMSをコーティングしたガラスキューブ(アジレント・テクノロジー株式会社製商品名ツイスター)で吸着した後、パージアンドトラップGC−MSと呼ばれる手法で分析するのが好ましい。固相抽出の場合、抽出液中のアルコール濃度が10%以下になるように、蒸留水等で希釈した後、ジクロロメタン等の溶媒で回収することが好ましく行われる。
【0025】
次に、ガスクロマトグラフで分離し、質量分析計により前記アクリル酸エステルを定量する分析(以下GC−MS)について説明する。
【0026】
GC−MSのカラムは、アクリル酸エステルの分離性能の良さから、ポリエチレングリコール系(アジレント・テクノロジー株式会社製商品名INNOWAX)で長さ30m、直径0.25mm、液層厚み0.25μmの物が好ましく用いられる。ガスクロマトグラフの条件例を挙げると、初期温度35℃〜40℃、1分以上保持、昇温速度5℃〜10℃/min、最高温度230℃、ヘリウムガス流量1.0ml/minである。また、標準的な質量分析計の測定条件としては、イオン化法(EI)でイオン化電圧は70eV、イオン源温度は230℃、四重極温度は150℃、アクリル酸エステル濃度が高い場合にはマスレンジ50〜550程度の範囲で測定し、SIM(選択イオン検出)測定の場合にはm/z(質量電荷比)=55、70、73、82、85、99、112、113等各アクリル酸エステルのフラグメントイオンを指定する。抽出に用いたアルコールの種類に応じ、溶媒待ち時間を設けることも好ましく行われる。
【0027】
前記カラムを使用する場合、ガスクロマトグラフ注入口の温度は230℃とし、SPMEファイバーからのアクリル酸エステルの脱着を行う。もっと高温まで昇温可能なカラムを使用する場合には、ガスクロマトグラフ注入口の温度を上げることが好ましく行われる。
【0028】
アクリル酸エステル検量線作製について、以下にその方法を述べる。
【0029】
まず、アクリル酸エステル標準液を作製する。すなわち、アクリル酸エステル量が規定した範囲内に収まるような濃度の標準液を、前記アルコール含有サンプル抽出液と同じアルコール濃度で作製する。SPME法の場合は、バイアル瓶に前記アルコール含有サンプル抽出液と同量の該標準液を入れ、前記アルコール含有サンプル抽出液と同じSPME吸着条件でヘッドスペースガスを吸着した後、GC−MS測定を行う。
【0030】
GC−MS分析結果が得られたら、アクリル酸エステルのピーク面積計算を行う。SIM(選択イオン検出)法の場合、m/z(質量電荷比)=55のイオンを指定し、他成分の盛況を除いたピーク面積を用いて定量値を算出することが好ましい。
【0031】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限られるものではない。
【実施例1】
【0032】
内容物接触面と反対側から、オフセットニス/LDPE(19μm)/接着剤/紙(400g/m)/接着性ポリエチレン(24μm)/Al(7μm)/接着剤/PET(12μm)/接着剤/LDPE(60μm)である層構成の1.8リットル液体用紙容器スリーブ5枚を入手し、該紙層と該Al箔層間を剥離した。該オフセットニスはごく一般的なアクリル系樹脂からなるUV硬化型オフセットニスであり、断面SEM観察結果から求めた該オフセットニスの塗工厚みは1.0μmだった。剥離した内容物接触面を含むフィルムの表面積は1000cmであり、これを長さ15cm、幅1cmの短冊に清浄なハサミで断裁した。
【0033】
次に、断裁した該内容物接触面を含むフィルム(各スリーブ毎)と25%エタノール溶液200mlを共栓付き三角フラスコに入れ、密栓し、50℃設定のオーブン内に2日入れた。
各三角フラスコから抽出液8mlを、20mlバイアル瓶に入れて蓋をし、ヘッドスペースガスを、SPMEファイバーCarboxen/PDMS膜厚75μmで、35℃、30分間吸着した後、日本電子株式会社製のGC−MS装置で分析した。カラムはアジレント・テクノロジー株式会社製商品名INNOWAXで長さ30m、直径0.25mm、液層厚み0.25μmの物を使用した。GC−MSの温度条件は、初期温度40℃、1分保持、昇温速度7℃/minで90℃まで昇温、以降は昇温速度40℃/minで230℃まで昇温した。GC注入口温度は230℃、ヘリウムガス流量1.0ml/minとした。質量分析測定条件は、イオン化法(EI)でイオン化電圧70eV、イオン源温度230℃、四重極温度150℃で、SIM(選択イオン検出)測定でm/z(質量電荷比)=55、73、85、99を指定した。溶媒待ち時間は3分とした。
【実施例2】
【0034】
実施例1の液体用紙容器スリーブ1枚を入手し、紙層とAl箔層間で剥離した。この剥離した内容物接触面を含むフィルムの表面積は1000cmであり、これを長さ15cm、幅1cmの短冊に清浄なハサミで断裁した。
【0035】
次に、前記断裁した内容物接触面を含むフィルムと25%エタノール溶液200mlを共栓付き三角フラスコに入れ、密栓し、50℃設定のオーブン内に入れて、保存開始1、2、3、6、9、10日に、三角フラスコから抽出液8mlを抜き取り、20mlバイアル瓶に入れて、蓋をし、実施例1同様、ヘッドスペースガスをSPMEファイバーで吸着してGC−MS分析を行った。
【実施例3】
【0036】
内容物接触面と反対側から、オフセットニス/オフセットインキ/LDPE(19μm)/接着剤/紙(400g/m)/接着性ポリエチレン(24μm)/Al(7μm)/接着剤/PET(12μm)/接着剤/LDPE(60μm)である層構成の1.8リットル液体用紙容器スリーブ1枚を入手し、該紙層と該Al箔層間を剥離した。オフセットニスはごく一般的なアクリル系樹脂からなるUV硬化型オフセットニスであり、断面SEM観察結果から求めた該オフセットニスの塗工厚みは1.0μmだった。該オフセットインキは該スリーブ胴部に部分塗工され、ごく一般的なアクリル系樹脂からなるUV硬化型オフセットインキであり、断面SEM観察結果から求めた該オフセットインキの塗工厚みは1.2μmだった。該剥離した内容物接触面を含むフィルムの表面積は1000cmであり、該内容物接触面を含むフィルムを長さ15cm、幅1cmの短冊に清浄なハサミで断裁した。
【0037】
次に、前記断裁した内容物接触面を含むフィルムと25%エタノール溶液200mlを共栓付き三角フラスコに入れ、密栓し、50℃設定のオーブン内に入れて、保存開始1、2、3、6、9、10日に、三角フラスコから抽出液8mlを抜き取り、20mlバイアル瓶に入れて、蓋をし、実施例2同様、ヘッドスペースガスをSPMEファイバーで吸着してGC−MS分析を行った。
【0038】
実施例1〜3の検量線として、25%エタノール溶液を希釈溶媒とするアクリル酸メチル(以下MA)、アクリル酸エチル(以下EA)、アクリル酸イソプロプル(以下i−PA)、アクリル酸ターシャリーブチル(以下t−BA)、アクリル酸イソブチル(以下i−BA)、アクリル酸ノルマルブチル(以下n−BA)、アクリル酸2−エチルヘキシル(以下2−EHA)1、5、10、20ppb標準液を作製し、前記アルコール含有液体用紙容器スリーブサンプル抽出液同様、各標準液8mlを20mlバイアル瓶に入れて蓋をし、ヘッドスペースガスをSPMEファイバーに吸着してGC−MS分析を行った。m/z(質量電荷比)=55のイオンクロマトグラムよりピーク面積を算出し、検量線を作成したところ、どの該アクリル酸エステル検量線も直線性が良く、相関係数が0.99以上だった。
【0039】
実施例1〜3のアクリル酸エステル定量結果を表1、表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
<比較例1>
内容物接触面と反対側から、LDPE(19μm)/紙(400g/m)/接着性ポリエチレン(24μm)/Al(7μm)/接着剤/PET(12μm)/接着剤/LDPE(60μm)であるオフセットインキおよびオフセットニス塗工なしの1.8リットル液体用紙容器スリーブ1枚を入手し、紙層とAl箔層間を剥離した。この剥離した内容物接触面を含むフィルムの表面積は1000cmであり、これを長さ15cm、幅1cmの短冊に清浄なハサミで断裁した。
【0043】
次に、前記断裁した内容物接触面を含むフィルム(各スリーブ毎)と25%エタノール溶液200mlを共栓付き三角フラスコに入れ、密栓し、保存開始1、2、3、6、9、10日に、三角フラスコから抽出液8mlを抜き取り、20mlバイアル瓶に入れて、蓋をし、実施例1同様、ヘッドスペースガスをSPMEファイバーで吸着してGC−MS分析した。アクリル酸エステル検量線は実施例1〜3と同じものを用いた。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
<比較例2>
内容物接触面と反対側から、オフセットニス/オフセットインキ/LDPE(19μm)/紙(400g/m)/接着性ポリエチレン(24μm)/Al(7μm)/接着剤/PET(12μm)/接着剤/LDPE(60μm)である層構成の1.8リットル液体用紙容器スリーブに口栓を付け、製函して、内容物接触面積が1000cmになるように、25%エタノール溶液1000mlを充填した。該液体用紙容器の口栓部は未開封のまま、40℃設定オーブンで保存した。充填直後、保存開始1ヶ月後に、内容液8mlを抜き取り20mlバイアル瓶に入れて、蓋をし、実施例1同様、ヘッドスペースガスをSPME法で吸着してGC−MS分析した。実施例1および2で使用した検量線から、アクリル酸エチルを定量した。結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
表1の実施例1の結果より、n数=5の変動係数は5.8%であり、本発明の定量分析方法における再現性が良好である事が確認された。表2の実施例2の結果より、オフセットニス、オフセットインキ塗工液体用紙容器スリーブでは、50℃保存6日目まではアクリル酸エチル濃度が上昇することが確認された。表3の比較例1の結果より、オフセットインキ、オフセットニス塗工なしの前記液体用紙容器スリーブでは、アクリル酸エチルが未検出であり、経時での上昇傾向がない事がわかった。表4の比較例2の結果より、実包した場合には40℃、1ヶ月後でアクリル酸エチルが上昇しており、実施例2の前記液体用紙容器スリーブを浸漬して抽出した場合と同様の傾向が確認できた。官能評価でも、40℃保存1ヶ月後ではアクリル酸エチル臭が認識できた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により、液体用紙容器の内容物接触面に裏移りしたオフセットインキ、オフセットニス由来のアクリル酸エステルが、アルコール飲料等の内容物を充填した際に、どの程度
内容物中に溶出するかを、紙容器を製函、実包することなしに再現性良く定量分析し、把握することが可能であり、液体用紙容器のアクリル酸エステルによる臭気・味覚クレームの解決、内容物に対し低臭・良味覚である液体用紙容器の開発等に利用可能である。」
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】液体用紙容器の一例を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0050】
11・・・・・・内容物接触面シーラント層
12、14・・・接着剤層
13・・・・・・PET層
15・・・・・・Al箔層
16・・・・・・サンドポリエチレン層
17・・・・・・紙層
18・・・・・・接着剤層
19・・・・・・ポリエチレン層
20・・・・・・オフセットインキ層
21・・・・・・オフセットニス層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体用紙容器の内容物接触面をアルコールを含有する溶液に浸漬して抽出し、ガスクロマトグラフで分離し、質量分析計によりアクリル酸エステルを定量する分析法。
【請求項2】
請求項1において、前記液体用紙容器の内容物接触面をアルコールを含有する溶液に浸漬した抽出液を、固相マイクロ抽出法(SPME法)にて抽出し、ガスクロマトグラフで分離し、質量分析計によりアクリル酸エステルを定量する分析法。
【請求項3】
請求項1乃至2において、前記液体用紙容器の内容物接触面を含むフィルム部と紙部とを剥離し、短冊状に切った内容物接触面を含むフィルム部をアルコールを含有する溶液に浸漬して抽出する方法。
【請求項4】
請求項1乃至3において、前記液体用紙容器の内容物接触面をエタノールを含有する溶液に浸漬して抽出し、ガスクロマトグラフで分離し、質量分析計によりアクリル酸エチルを定量する分析法。
【請求項5】
請求項3乃至4において、前記短冊状に切った内容物接触面を含むフィルム部を、エタノールを含有する溶液に浸漬し、50℃で1日以上放置した抽出液中のアクリル酸エチルをガスクロマトグラフで分離し、質量分析計により定量する分析法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−201057(P2006−201057A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13757(P2005−13757)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】