説明

液体組成物、硫化物膜の形成方法、表示パネルの製造方法

【課題】 硫化物粒子を分散した液体組成物中の、硫化物粒子の凝集を抑制する。
【解決手段】 液体である分散媒と、分散媒に分散した固体である複数の硫化物粒子とを含有し、分散媒は、メルカプトカルボン酸エステルを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物粒子を含有する液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
FEDやPDP等の表示パネルに用いられる蛍光体膜は、蛍光体粒子を含有する液体組成物を塗布して形成するのが一般的である。従来の蛍光体膜は、主にスクリーン印刷法を用いて、数μm程度の粒子径の蛍光体粒子を含有する液体組成物を塗布して形成されていた。特許文献1には、硫化系蛍光体ペースト組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−125550号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、蛍光体粒子として硫化物粒子を用いた場合、硫化物粒子の粒子径を小さくするほど液体組成物中で硫化物粒子が凝集しやすくなるという問題があった。そこで、本発明は、硫化物粒子を含有する液体組成物中の硫化物粒子の凝集を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の塗布用液体組成物は、液体である分散媒と、前記分散媒に分散した固体である複数の硫化物粒子と、を少なくとも含有し、前記分散媒は下記式(1)の構造の有機硫化物とを少なくとも含有することを特徴とする。
【0006】
【化1】

【0007】
上記式(1)中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜18のアルキル基であり、nは1又は2である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体組成物中の硫化物粒子の凝集を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】表示パネルの一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液体組成物は、液体である分散媒と、分散媒に分散した固体である複数の硫化物粒子とを少なくとも含有した分散系(サスペンション)である。分散媒は下記式(1)の構造の有機硫化物を少なくとも含有する。
【0011】
【化2】

【0012】
式(1)中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜18のアルキル基であり、nは1又は2である。式(1)の構造で表される有機硫化物を、「メルカプトカルボン酸エステル」と呼ぶが、以下、「メルカプトカルボン酸エステル」は上記式(1)の構造に限定する。液体組成物は、その中に分散された硫化物粒子の凝集を抑制することができる。
【0013】
液体組成物は塗布用として好適である。液体組成物を基体上に塗布して塗布膜を形成した後、塗布膜中の分散媒の少なくとも一部を除去することにより、硫化物膜を形成することができる。具体的には、塗布膜中の分散媒を蒸発により乾燥させて乾燥膜を形成する。この乾燥膜を硫化物膜として用いることができる。或いは、塗布膜を焼成して塗布膜中の有機物を熱分解除去することにより焼成膜を形成する。この焼成膜を硫化物膜として用いることができる。なお、焼成膜を形成する前に、塗布膜を乾燥させて乾燥膜を形成しても良い。このようにして形成された硫化物膜は少なくとも硫化物粒子から構成されるものであり、本発明の液体組成物を用いて形成された硫化物膜は、その形成過程での硫化物粒子の凝集が抑制され、2次粒子径が小さい。そのために、硫化物膜中の硫化物粒子の充填率が高く、良好な特性を得ることができる。充填率は、100×(硫化物膜中の硫化物粒子の体積)/(硫化物膜の体積)で規定される。硫化物粒子の体積は、硫化物粒子の密度と、硫化物膜中の硫化物粒子の質量から算出でき、硫化物膜の体積は硫化物膜の厚みと面積から算出できる。
【0014】
分散媒は、少なくともメルカプトカルボン酸エステルを含めば良く、メルカプトカルボン酸エステルが常温で液体である場合には、分散媒がメルカプトカルボン酸エステルのみであってもよい。典型的には、分散媒は有機溶剤を含み、メルカプトカルボン酸エステルを有機溶剤に溶解させたものを用いる。ここで、「有機溶剤」とは、メルカプトカルボン酸エステルとは別の、常温で液体の有機化合物であり、「常温」とは5〜35℃を指す。分散媒は、塗布膜中の硫化物粒子を結着するための結着剤(バインダー)を含むこともできる。塗布膜の焼成を行う場合、結着剤は熱分解性が良好なものを選択する。また、分散媒は、メルカプトカルボン酸エステルや有機溶剤、結着剤の他に、分散剤、酸化防止剤、可塑化剤、平滑剤、消泡剤等を含むこともできる。なお、硫化物膜は、塗布膜から除去されない分散媒の一部として、分散媒に含まれる物質の残渣や、上記した結着剤、酸化防止剤等を含み得る。また、液体組成物は、酸化物粒子(例えば二酸化ケイ素)等の硫化物粒子以外の固体である粒子を含むこともできる。
【0015】
硫化物粒子は、硫黄化合物のうち、硫黄と、硫黄よりも陽性の元素(電気陰性度が低い元素)とが結合した化合物の固体粒子である。硫化物は、酸硫化物を包含するが、硫酸化物は除く。硫化物粒子としては主に金属硫化物の粒子が挙げられる。
【0016】
硫化物粒子の一例としては、例えば、SrS:Eu2+、SrGa、SrCaS:Eu2+、ZnS:Ag、CaS:Eu2+、ZnS:CuAl3+、LaS:Eu3+、CaAl、BaAl:Eu2+からなる第1群から選択された硫化物粒子を用いることができる。また、YS:Eu3+、SrGa:Eu2+、SrBa1−XGa:Eu2+、ZnS:AgAl3+、ZnS:AgClからなる第2群から選択された硫化物粒子を用いることができる。また、また、Na8〜10AlSi242〜4、CdS、HgS、ZnSからなる第3群から選択された硫化物粒子を用いることができる。硫化物粒子は、これらに限定されるものではない。
【0017】
上記した硫化物粒子のうち、第1群と第2群の硫化物粒子は、電子線や紫外線、X線などのエネルギー線の照射により励起発光する蛍光体であり、硫化物蛍光体粒子と呼ぶ。第1群の硫化物粒子は、その粒子径が3〜10μm程度のものが高輝度で発光する。第2群の硫化物蛍光体粒子は、その粒子径が3μm以上のものだけでなく、その粒子径が3μm未満、さらには1μm以下のものも電子線によって高輝度で発光する。なお、YS:Eu3+は赤色、SrGa:Eu2+とSrBa1−XGa:Eu2+は緑色、ZnS:AgAl3+とZnS:AgClは青色に発光する。第3群の硫化物粒子は、顔料として用いることができる。硫化物粒子の用途は蛍光体や顔料に限定されるものではなく、金属硫化物の半導体としての性質、触媒としての性質など利用した硫化物膜の形成に用いることができる。
【0018】
分散媒に添加される粉体の硫化物粒子の粒子径(1次粒子径)は特に限定されるものではなく、数nm〜数100μmの範囲で用いることができる。1次粒子径が小さくなるほど、液体組成物中の硫化物粒子の粒子径(2次粒子径)が大きくなりやすいため、メルカプトカルボン酸エステルを含有することによる凝集抑制の効果が顕著になる。つまり、1次粒子径と2次粒子径との差が小さくなる。特に、粒子径が1μm以下のものを硫化物微粒子と呼び、粒子径及びが100nm以下のものを硫化物ナノ粒子と呼ぶ。硫化物微粒子や硫化物ナノ粒子を用いれば、より微細なパターンの硫化物膜を形成することも可能になる。なお、複数の硫化物粒子といっても、実質的には硫化物粒子は多数である。多数の硫化物粒子の粒子径(1次粒子径及び2次粒子径)について言及する場合には、実用的に、メジアン径で規定することができる。メジアン径は、統計的に求められる値であって、粒子径分布において粒子径Dより大きい粒子径の粒子の個数が全粒子の個数の50%を占めるときの、上記粒子径Dによって定義される。上記粒子径分布は、球相当径に基づく粒子径の個数分布である。1次粒子径の粒子径分布については、例えばSEM観察によって計測することができる。2次粒子径の粒子径分布については、動的光散乱法やレーザー回折散乱法を用いて計測することができる。
【0019】
硫化物微粒子及び硫化物ナノ粒子の製造には、固相法、液相法、噴霧熱分解法、気相法などの方法を用いることができる。固相法は、硫化物粒子を混合し、高温条件で加熱して焼成したものをボールミル等で粉砕して硫化物微粒子を形成する。液相法は、共沈法、ゾルゲル法などの液相反応を利用して硫化物微粒子を形成するものである。噴霧熱分解法は、原料溶液を噴霧して液滴化したのち、キャリアガス中でヒーターによって加熱し、溶媒の蒸発及び原料の熱分解により硫化物微粒子を形成するものである。気相法は、気相反応を利用して硫化物微粒子を形成するものであり、キャリアガスに浮遊させた硫化物原料をプラズマ等の熱源による加熱域を通過させて急速に加熱、冷却することで、硫化物微粒子を形成する方法である。
【0020】
メルカプトカルボン酸エステルは、常温で液体である化合物、或いは、有機溶剤に可溶の液体又は固体である化合物であればよい。非置換のアルキル基の具体例としては、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよく特に制限されない。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。
【0021】
置換のアルキル基は少なくとも一つの置換基を有してもよい。アルキル基が置換基を有する場合に使用できる置換基としては、特に制限されないが、例えば、炭素数16以下のアルコキシル基、炭素数16以下のアリール基、炭素数16以下のアリル基、カルボキシル基または、−COOAで表されるオキシカルボニル基(Aは、炭素数1〜16のアルキル基である)などが挙げられる。
【0022】
メルカプトカルボン酸エステルのうち、n=2の化合物の一例としては、メチル−3−メルカプトプロピオネート(Rの炭素数=1)、エチル−3−メルカプトプロピオネート(Rの炭素数=2)、n−プロピル−3−メルカプトプロピオネート(Rの炭素数=3)、メトキシブチル−3−メルカプトプロピオネート(Rの炭素数=5)、2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート(Rの炭素数=8)、n−ブチル−3−メルカプトプロピオネート(Rの炭素数=4)、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート(Rの炭素数=8)、ステアリル−3−メルカプトプロピオネート(Rの炭素数=18)が挙げられる。
【0023】
メルカプトカルボン酸エステルのうち、n=1の化合物の一例としては、チオグリコール酸メチル(Rの炭素数=1)、チオグリコール酸エチル(Rの炭素数=2)、チオグリコール酸n−ブチル(Rの炭素数=4)、チオグリコール酸メトキシブチル(Rの炭素数=5)、チオグリコール酸n−オクチル(Rの炭素数=8)、チオグリコール酸2−エチルヘキシル(炭素数=8)、チオグリコール酸ステアリル(Rの炭素数=18)が挙げられる。
【0024】
以上、列挙したメルカプトカルボン酸エステルは、何れも常温で液体となりうる。
【0025】
メルカプトカルボン酸エステルのうち、下記式(2)で表される、n=2、炭素数=5のメトキシブチル−3−メルカプトプロピオネートが好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
メルカプトカルボン酸エステルのうち、下記式(3)で表される、n=2、炭素数=8の2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネートも好ましい。
【0028】
【化4】

【0029】
メルカプトカルボン酸エステルは、硫化物粒子の種類に応じて使い分けることが好ましい。例えば硫化物粒子としてYS:Eu3+のような酸硫化物粒子を用いた場合、メルカプトカルボン酸エステルは、比較的、極性の高いものを用いることが好ましい。ここで極性の高いメルカプトカルボン酸エステルとは、式(1)中のRにおいて、炭素数6以下の非置換アルキル基、もしくは置換アルキル基で表されるものである。YS:Eu3+は、Y3+とO2−の電気陰性度の差が大きく、結合はイオン結合性が高い。この為極性の高いメルカプトカルボン酸エステルを用いた方が微粒子表面の濡れ性が良くなり、メルカプトカルボン酸エステルが微粒子表面に吸着しやすくなる。具体的には上記式(2)のメトキシブチル−3−メルカプトプロピオネートなどが好適に用いられる。
【0030】
また、硫化物粒子としてSrGa:Eu2+のような酸化物でない硫化物粒子を用いた場合には、メルカプトカルボン酸エステルは、比較的、極性の低いものを用いることが好ましい。ここで極性の低いメルカプトカルボン酸エステルとは、式(2)中のRで表されるアルキル基において、炭素数7以上の置換もしくは非置換のアルキル基で表されるものである。例えば、SrGa:Eu2+は、Ga3+とS2−の電気陰性度の差が小さく、結合は共有結合性が高い。この為、極性の低いメルカプトカルボン酸エステルを用いた方が微粒子表面の濡れ性が良くなり、メルカプトカルボン酸エステルが微粒子表面に吸着しやすくなる。具体的には上記式(3)の2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネートなどが好適に用いられる。
【0031】
有機溶剤は、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物、テトラヒドロフラン、1、2−ブトキシエタン等のエーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、4−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリジノン等のケトン化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BCA)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、セバシン酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリブチル等のエステル化合物、イソプロピルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、テルピネオール、2−フェノキシエタノール等のアルコール化合物、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等を挙げることが出来る。これらは単独で用いても、混合して用いてもよい。
【0032】
メルカプトカルボン酸エステルの沸点をTb1[℃]、有機溶剤の沸点をTb2[℃]とした時、Tb1−50≦Tb2≦Tb1+50とすることが好ましく、Tb1−50≦Tb2≦Tb1とすることがより好ましい。ここで、「沸点」とは、1atmにおける沸点(標準沸点)である。一般的な液体はその沸点が低いほど、蒸発しやすくなる。そのため、メルカプトカルボン酸エステルの沸点が有機溶剤の沸点よりも極端に低いと、塗布した後にメルカプトカルボン酸エステルの大部分が有機溶剤より先に蒸発してしまう。その結果、分散媒中のメルカプトカルボン酸エステルの濃度が著しく低下し、塗布膜中での硫化物粒子の凝集が生じやすくなる。有機溶剤の沸点がメルカプトカルボン酸エステルの沸点と同程度(±50℃以内)であれば、メルカプトカルボン酸エステルの濃度を好適に保つことができるため、塗布膜中での硫化物粒子の凝集を抑制することができる。
【0033】
上記したメルカプトカルボン酸エステルのうちチオグリコール酸エチル(分子量M=120.2)の沸点は約156℃である。この場合、有機溶剤の沸点は106℃以上206℃以下であることが好ましい。より実用的には、メルカプトカルボン酸エステルの沸点は190℃以上290℃以下であることが好ましい。Rの炭素数は4以上であると好ましい。Rの炭素数が4であるチオグリコール酸n−ブチル(M=148.2)の沸点は約194℃である。
【0034】
メトキシブチル−3−メルカプトプロピオネート(M=192.28)の沸点は約256℃、2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート(M=218.36)の沸点は約240℃である。上記した有機溶剤の中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの沸点は約245℃である。そのため、メルカプトカルボン酸エステルがメトキシブチル−3−メルカプトプロピオネート、2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネートである場合には、有機溶剤として、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを好ましく用いることができる。
【0035】
塗布方法は特に限定されず、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法等の印刷法や、スピンコート法、バーコート法、ディッピング法、スリットコート法などを用いることができる。特に、後述する表示パネルを製造する場合には、印刷法を用いることが好ましい。特に、インクジェット法を用いる場合には、液体組成物をインクジェットノズルから良好に吐出させるために、硫化物粒子を含む液体組成物中の粒子のメジアン径が1μm以下の微粒子であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましい。
【0036】
液体組成物の粘度は、塗布方法に応じて適宜調整する。例えば、インクジェット法を用いて塗布する場合には、液体組成物の粘度は30mPa・s以下にし、典型的には10mPa・s程度にする。スクリーン印刷法を用いて塗布する場合には、液体組成物の粘度は1Pa・s以上、1000Pa・s以下にし、典型的には100Pa・s程度にする。本発明では、粘度が30mPa・s以下の液体組成物を便宜的にインクと呼び、粘度が1Pa・s以上、1000Pa・s以下の液体組成物を便宜的にペーストと呼ぶ。なお、粘度は、パラレルプレート型のジオメトリーを備えた回転型粘度計を用いて、1[1/s]のせん断速度にて計測したものとする。
【0037】
熱分解性が良好な結着剤は、例えば、アクリル系、スチレン系、セルロース系、メタクリル酸エステルポリマー、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いられても、混合して用いてもよい。
【0038】
液体組成物の粘度は、分散媒中のメルカプトカルボン酸エステル、有機溶剤、結着剤等の材料によって調整することができる。ペーストの場合には、有機溶剤として、高粘度の有機溶剤であるテルピネオール、特にα−テルピネオールを用いることが好ましい。α―テルピネオールの沸点は218℃であり、メトキシブチル−3−メルカプトプロピオネート、2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネートと混合しても好適である。結着剤として、分散媒にチキソロトピー性を付与するセルロース系ポリマー、特にエチルセルロースを用いることが好ましい。また、液体組成物の粘度は、液体組成物中の硫化物微粒子の濃度、分散媒中のメルカプトカルボン酸エステル、有機溶剤、結着剤等の混合比に応じて調整することもできる。
【0039】
液体組成物において、硫化物粒子の質量に対するメルカプトカルボン酸エステルの質量が、0.1倍以上(10質量%以上)、10倍以下(1000質量%以下)とすることが好ましい。硫化物粒子の質量に対して、メルカプトカルボン酸エステルの質量が10質量%未満になると、硫化物粒子表面に吸着するメルカプトカルボン酸エステルの量が少なくなりすぎて、凝集抑制効果に乏しくなる。一方、硫化物粒子に対して、メルカプトカルボン酸エステルの量が1000質量%を超えると、液体組成物中の硫化物粒子の濃度が低くなるため、単位面積あたりにより多くの量の液体組成物を塗布しなければならなくなる。そのため、乾燥時間の増大を招いたり、硫化物膜の均一性が低下したりする。なお、有機溶剤の質量は、硫化物粒子の質量の100倍以下であることが好ましい。それ以外の成分(結着剤や分散剤等)の質量は、硫化物粒子の質量の100倍以下であることが好ましい。
【0040】
本発明の液体組成物は、表示パネルの製造に用いると好適である。図1を用いて、カソードルミネッセンスを利用した表示パネル(FED)の一例について説明する。
【0041】
図1(a)において、表示パネル1000は、表示部材10と、電子源20とを備えており、表示部材10と電子源20とが対向している。そして、表示部材10と、電子源20とを透明基板1と絶縁基板21と枠部材300とで構成される外囲器が取り囲んでいる。
【0042】
図1(a)において、フェイスプレート100は、透明基板1と、透明基板1上に設けられた表示部材10を備えている。詳細には、図1(b)、(c)で示すように、表示部材10は、マトリックス状に配列された複数の発光素子11と遮光膜5を備えている。複数の発光素子11は、ブラックマトリックスと呼ばれる黒色の遮光膜5によって分離されている。
【0043】
図1(b)の第1の形態では、発光素子11は、透明基板1の上に設けられたカラーフィルター2と、カラーフィルター2の上に設けられた蛍光体膜3と、蛍光体膜3の上に設けられたアノード電極4とを備えている。第1の形態では、アノード電極4はメタルバックと呼ばれる金属膜である。
【0044】
図1(c)に示した第2の形態では、発光素子11は、透明基板1の上に設けられたカラーフィルター2と、カラーフィルター2の上に設けられたアノード電極4と、アノード電極4の上に設けられた蛍光体膜3とを備えている。第2の形態では、アノード電極4は、ITO等の透明導電性膜を用いる。
【0045】
なお、第1の形態及び第2の形態において、カラーフィルター2は省略することもできるが、表示色の純度を高くするために設けておくことが好ましい。
【0046】
図1(a)において、リアプレート200は、絶縁基板21と、絶縁基板21上に設けられた電子源20とを備えている。電子源20は、マトリックス状に配列された複数の電子放出素子22と、複数の電子放出素子22に接続されたマトリックス配線23とを備えている。マトリックス配線23は、列配線231と行配線232とからなり、列配線231と行配線232とは不図示の絶縁層で互いに絶縁されている。電子放出素子22は、SCE型、Spindt型、CNT型、MIM型、MIS型、BSD型等、特に限定されるものではない。
【0047】
マトリックス配線23に駆動電圧を印加することによって電子放出素子22から電子が放出さる。さらにアノード端子30を介してアノード電極4をアノード電位Vaに規定することにより、放出された電子は加速され、蛍光体粒子を発光させるのに十分なエネルギーが付与される。図1(b)に示した形態では、電子はアノード電極4を透過して蛍光体膜3を照射し、図1(c)に示した形態では、電子は蛍光体膜3を直接照射する。駆動電圧を印加する列配線231と行配線232とを適宜選択することにより、任意の位置の電子放出素子22を駆動し、当該駆動された電子放出素子22に対向する位置の発光素子11が発光する。
【0048】
表示パネルの表示面に室内照明や太陽光などの外光が入射する場合、蛍光体膜3で拡散反射が生じる。表示面の観察者は、拡散反射によって生じる拡散反射輝度と蛍光体膜3の発光輝度との和で表される輝度(表示輝度)を観察することになる。外光が入射する環境下において、コントラスト比は、表示輝度を拡散反射輝度で除した値で表される。外光の照度が高くなるほど、拡散反射輝度が高くなるため、コントラストが低下してしまう。そのため、蛍光体膜3の拡散反射率を低くすることが好ましい。
【0049】
ところで、蛍光体粒子の粒子径が蛍光体粒子の発光波長以下となると、蛍光体粒子の内部で反射を繰返して蛍光体粒子の内部に閉じ込められる光が減少し、蛍光体粒子の外部に放射される光の割合を高くすることができる。なお、上記発光波長とは、ピーク波長として定義される。また、蛍光体粒子の粒子径を小さくすれば、より微細なパターンを高精度に形成でき、表示パネルを高精細にすることができる。さらに、蛍光体粒子の充填率が増加すると、外光に対する蛍光体膜3の拡散反射が低下するという傾向がある。そのため、蛍光体粒子の充填率を高くすることによって、拡散反射を低減することができる。
【0050】
一方で、蛍光体膜3内での拡散反射も小さいために、蛍光体膜3内や透明基板1内で反射を繰返し、透明基板1側から鑑賞者の方向に出射する光が小さくなることがある。そこで、図1(c)で示すように、アノード電極4と透明基板1との間にフォトニック結晶構造6を設けることが好ましい。フォトニック結晶構造6は、屈折率が互いに異なる材料を、透明基板1と平行な面内で交互に配置した構造であり、好ましくは屈折率が互いに異なる材料を、透明基板1と平行な面内で周期的に配列した構造である。フォトニック結晶構造6を設けることにより、蛍光体膜から透明基板1側へ出射する光を多くし、発光輝度を高くすることができる。従って、拡散反射輝度を低くして、発光輝度を高くできるために、良好な表示品質を得ることができる。
【0051】
第1の形態の表示部材10の形成方法及び、フェイスプレート100の製造方法の一例を説明する。まず、透明基板1を用意する。透明基板1の上に、スクリーン印刷法等の塗布方法を用いて、遮光層用の液体組成物を塗布する。遮光層用の液体組成物は無機顔料又は有機顔料を含む。無機顔料として黒色の硫化物粒子を用いる場合には、遮光層用の液体組成物はメルカプトカルボン酸エステルを含有すると好適である。塗布した液体組成物を乾燥後、焼成して開口を有する遮光膜5を形成する。遮光膜5の開口内であって、透明基板1の上に、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等の塗布方法を用いて、カラーフィルター用の液体組成物を塗布する。カラーフィルター用の液体組成物は無機顔料又は有機顔料を含む。無機顔料として第3群の硫化物粒子を用いる場合には、カラーフィルター用の液体組成物はメルカプトカルボン酸エステルを含有すると好適である。塗布した液体組成物を乾燥後、焼成してカラーフィルター2を形成する。
【0052】
次に、カラーフィルター2の上に、スクリーン印刷法、インクジェット法等の塗布方法を用いて、蛍光体膜用の液体組成物を塗布する。蛍光体膜用の液体組成物は、蛍光体粒子として第1群(ただし、SrGa、CaAlを除く)、又は第2群の硫化物粒子と、メルカプトカルボン酸エステルを含有する先述の液体組成物を用いる。塗布した液体組成物を乾燥後、焼成して蛍光体膜3を形成する。
【0053】
次に、蛍光体膜3の上に、スクリーン印刷法等の塗布方法を用いて不図示のフィルミング層を形成する。次いで、フィルミング層の上に、スパッタ法等の成膜方法によって、アルミニウム等の金属膜をアノード電極4として形成する。そして、フィルミング層を熱分解除去する。以上のようにして表示部材10が形成されたフェイスプレート100を製造することができる。
【0054】
第2の形態の表示部材10の形成方法及びフェイスプレート100の製造方法の一例を説明する。カラーフィルター2を形成する工程までは第1の形態と同様に行うことができるので、説明を省略する。カラーフィルター2の上に、透明基板1上にスパッタ法等の成膜方法及びフォトリソグラフィ法等の加工方法を用いて、フォトニック結晶構造6を形成する。次に、フォトニック結晶構造6の上に、スパッタ法等の成膜方法によって、ITO等の透明導電性膜をアノード電極4として形成する。アノード電極4の上に、スクリーン印刷法等の塗布方法を用いて、隔壁8を形成する。
【0055】
次に、隔壁8の間であって、アノード電極4の上に、スクリーン印刷法、インクジェット法等の塗布方法を用いて、蛍光体膜用の液体組成物を塗布する。蛍光体膜用の液体組成物は蛍光体粒子を含む。インクジェット法を用いる場合には、液体組成物中の蛍光体粒子は、メジアン径が1μm以下の粒子(微粒子)を用いることが好ましく、メジアン径が400nm以下の粒子を用いることがより好ましい。また、蛍光体膜3中の蛍光体粒子の粒子径が、蛍光体膜3の発光波長以下であることが好ましく、発光波長の半分以下であることがより好ましい。なお、上記発光波長とは、ピーク波長として定義され、蛍光体膜3のピーク波長と蛍光体粒子のピーク波長は実質的に一致する。表示パネルでは、赤色、緑色、青色に発光する蛍光体が典型的に用いられるため、メジアン径が400nm以下の蛍光体粒子を用いれば、インクジェット法を好適に用いることができるとともに、高い発光輝度を得ることができる。ここで、蛍光体粒子として先述した第2群から選ばれた硫化物微粒子と、メルカプトカルボン酸エステルとを含有する先述の液体組成物を用いることで、硫化物微粒子の凝集を抑制することができる。したがって、液体組成物に添加する粉体の蛍光体粒子の粒子径(1次粒子径)と、液体組成物中の蛍光体粒子の粒子径(2次粒子径)と、蛍光体膜3中の蛍光体粒子の粒子径とで、粒子径の変化が小さい。そのため、蛍光体膜3中の蛍光体粒子の粒子径を小さくする上で効果的である。塗布した液体組成物を乾燥後、焼成して蛍光体膜3を形成する。以上のようにして表示部材10が形成されたフェイスプレート100を製造することができる。
【0056】
次に、表示パネルの製造方法の一例を説明する。フェイスプレート100とリアプレート200とを、閉ループ状の枠部材300を間に挟んで、表示部材10と電子源20とが対向するように配置する。なお、リアプレート200の製造方法は特に限定されない。フェイスプレート100とリアプレート200とをそれぞれ封着剤を用いて枠部材300に接着する。アノード端子30を、絶縁基板21を貫通してアノード電極4と電気的に接続する。フェイスプレート100とリアプレート200と枠部材300とで囲まれる空間を真空に排気する。このようにして、表示パネル1000を作製することができる。
【0057】
以下、本発明の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
硫化物粒子として、SEM観察での1次粒子径がメジアン径で180nmのYS:Eu3+の粉体、分散剤として変性アクリル系ブロック共重合物であるBYK社製Disperbyk−2000(商品名)、メルカプトカルボン酸エステルとしてメトキシブチル−3−メルカプトプロピオネート(SC有機化学社製MBMP(商品名))、有機溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを用意した。
【0059】
粉体の1次粒子径は、粒子径をSEM観察で撮像した個々の硫化物粒子像の面積と同等の面積を有する円の直径を求め、撮像した硫化物粒子はこの直径を有する球体と同じ体積を有すると仮定した(球相当径)。このようにして100個の硫化物粒子の球相当径を求め、その粒子径分布からメジアン径を算出した。
【0060】
2.5gのメトキシブチル−3−メルカプトプロピオネートと、1.25gのDisperbyk−2000と、45gのジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートと、よく混合して分散媒を作製した。次に、分散媒に5gのYS:Eu3+の粉体を加えて、超音波分散機で分散させた。このようにして液体組成物を作製した。
【0061】
粒子径測定機(Malvern社製ZetasizerNano(商品名))を用いて、液体組成物中の硫化物粒子の2次粒子径を測定したところ、メジアン径で210nmの単一分散であり、凝集が抑制された液体組成物が得られた。また、この液体組成物の粘度をパラレルプレート粘度計(TA Instrμments社製AR2000)にて測定したところ、せん断速度1[1/s]における粘度は5.5mPa・sであった。
【実施例2】
【0062】
実施例1で作製した液体組成物をインクとして用いて、硫化物膜を作製した。インクをバーコーターを用いてガラス基板上に塗布し、焼成炉で450℃、1時間保持にて焼成した。得られた硫化物膜の厚みは1μmであって、硫化物粒子の充填率は48%であった。分光光度計(島津製作所製SolidSpec−3700(商品名))を用いて基板面からの拡散反射率を測定したところ、拡散反射率は19%であった。
【0063】
(比較例1)
実施例1のメトキシブチル−3−メルカプトプロピオネートを加えない以外は、実施例1と同様にして液体組成物を作製した。液体組成物中の2次粒子径を測定したところ、メジアン径で260nmとなり、液体組成物中で硫化物粒子が凝集していることが分かった。また、この液体組成物の粘度は、せん断速度1[1/s]にて10.2mPa・sであった。実施例2と同様にして硫化物膜を作製した。充填率は39%であった。基板面からの拡散反射率を測定したところ、硫化物膜の膜厚1μmでの拡散反射率は24%であった。
【実施例3】
【0064】
硫化物粒子として、SEM観察でのメジアン径で280nmのSrGa:Eu2+の粉体、メルカプトカルボン酸エステルとして2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート(SC有機化学社製EHMP(商品名))を用いた以外は実施例1と同様にして液体組成物を作製した。液体組成物中の粒子径を測定したところ、メジアン径で290nmであった。また、この液体組成物の粘度は、せん断速度1[1/s]にて6.8mPa・sであった。
【0065】
(比較例2)
実施例3の2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネートを加えない以外は、実施例3と同様にして液体組成物を作製した。液体組成物中の粒子径を測定したところ、メジアン径で350nmとなり、液体組成物中で硫化物粒子が凝集していることが分かった。また、この液体組成物の粘度は、せん断速度1[1/s]にて11.5mPa・sであった。
【実施例4】
【0066】
硫化物粒子として、SEM観察でのメジアン径で180nmのYS:Eu3+の粉体、分散剤としてBYK社製Disperbyk−2000、メルカプトカルボン酸エステルとしてメトキシブチル−3−メルカプトプロピオネート(SC有機化学社製MBMP)、バインダーとしてエチルセルロース、溶媒としてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよびα−テルピネオールを用いてペーストを作製した。
【0067】
12gのメトキシブチル−3−メルカプトプロピオネート、6gのDisperbyk−2000に、17gのジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよび11gのα−テルピネオールを加えて混合溶液とし、さらに10gのエチルセルロースを溶解させて分散媒とした。よく混合させた後に24gのYS:Eu3+の粉体を加えてペーストとした。撹拌機および3本ロールミルで分散させた後、グラインドゲージで確認したところ、1μm以上に凝集物は見られなかった。また、このペーストの粘度は、せん断速度1[1/s]にて98Pa・sであった。
【実施例5】
【0068】
硫化物粒子として、SEM観察でのメジアン径で280nmのSrGa:Eu2+の粉体、メルカプトカルボン酸エステルとして2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート(SC有機化学社製EHMP)を用いた以外は実施例4と同様にしてペーストを作製した。
【0069】
10gの2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート、6gのDisperbyk−2000に22gのジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよび13gのα−テルピネオールを加えて混合溶液とし、さらに11gのエチルセルロースを溶解させて分散媒とした。よく混合させた後に20gのSrGa:Eu2+の粉体を加えてペーストとした。撹拌機および3本ロールミルで分散させた後、グラインドゲージで確認したところ、1μm以上に凝集物は見られなかった。また、このペーストの粘度は、せん断速度1[1/s]にて111Pa・sであった。
【実施例6】
【0070】
実施例5で作製したペーストを用いた以外は実施例2と同様にして硫化物膜を作製した。充填率は50%であった。基板面からの拡散反射率を測定したところ、硫化物膜の膜厚1μmでの拡散反射率は18%であった。
【0071】
(比較例3)
メルカプトカルボン酸エステルとして2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート(SC有機化学社製EHMP)を加えない以外は実施例4と同様にしてペーストを作製した。撹拌機および3本ロールミルで分散させた後、グラインドゲージで確認したところ、15μmに凝集物が見られ、硫化物粒子がペースト中で凝集していることが分かった。また、このペーストの粘度は、せん断速度1[1/s]にて125Pa・sであった。実施例5と同様にして硫化物膜を作製した。充填率は40%であった。基板面からの拡散反射率を測定したところ、硫化物膜の膜厚1μmでの拡散反射率は24%であった。
【実施例7】
【0072】
数種類の硫化物粒子の粉体の各々と、数種類のメルカプトカルボン酸エステルの各々と、有機溶剤と、分散剤を混合して、液体組成物を作製した。また、比較用の液体組成物として、メルカプトカルボン酸エステルを含まないものを作製した。
【0073】
硫化物粒子としては、実施例1で用いたYS:Eu3+の粉体、実施例3で用いたSrGa:Eu2+の粉体と、メジアン径で260nmのZnS:AgAl3+の粉体をそれぞれ1g用いた。
【0074】
各粉体に対し、表1に示す種類及び質量のメルカプトカルボン酸エステルと、液体組成物の総質量が15gとなるように、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点は約231℃)を加えて液体組成物1〜24を作製した。
【0075】
これらの液体組成物1〜24をガラス基板上にそれぞれ塗布した後、乾燥させて乾燥膜を形成し、各乾燥膜の充填率を求めた。評価方法としては、比較用の液体組成物を用いて形成した比較用の乾燥膜の充填率とを比較し、充填率が比較用の乾燥膜の充填率の110%以上のものを○とし、充填率が比較用の乾燥膜の充填率より高く、110%未満であるものを△とした。なお、比較用の乾燥膜の充填率以下となるものはなかった。また、いずれの組合せにおいても、乾燥膜の拡散反射率は、比較用の乾燥膜よりも高いことを確認した。
【0076】
【表1】

【0077】
上記した硫化物粒子以外の硫化物粒子についても、同様に評価を行った。
【0078】
第1群として挙げた硫化物粒子については、1次粒子径がメジアン径で5μm程度の粉体を用いて、同様に液体組成物を作製した。レーザー回折散乱法で2次粒子径を測定したところ、1次粒子径と、メジアン径で良い一致を示した。
【0079】
第2群の硫化物粒子として挙げた、SrBa1−XGa:Eu2+については、SrGa:Eu2+のSrの一部を、Srと同じくアルカリ土類金属元素のBaに置換した点で異なるが、SrGa:Eu2+と同様の結果が得られた。ZnS:AgClについては、ZnS:AgAl3+のドーパントが異なる点で異なるが、ZnS:AgAl3+と同様の結果が得られた。
【0080】
第3群として挙げた、CdS、HgSについては、ZnSと同様に12族の金属硫化物であり、ZnSと同様の結果が得られた。
【0081】
メルカプトカルボン酸エステルは、メルカプトカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル化反応により合成することができる。このエステル化反応によって合成されたメルカプトカルボン酸エステル化合物中のメルカプト基は、エステル基の電子吸引性の効果を受けにくく、硫黄原子が負に、水素原子が正に分極しやすいと思われる。これにより硫化物微粒子表面の金属原子には硫黄原子で、硫黄原子には水素原子で配向し、凝集を抑制すると推測される。
【0082】
脂肪族カルボン酸とメルカプト基が置換した脂肪族アルコールとのエステル化反応によっても類似構造の化合物が合成できる。しかしながら、この化合物中のメルカプト基は、エステル基より電子吸引性効果を受けやすい。このため、硫黄原子の電子密度が低下して硫黄原子と水素原子の分極が弱まり、硫化物微粒子表面への吸着性も弱まり、凝集抑制効果が小さいと推測される。
【実施例8】
【0083】
本実施例では、実施例1で作製したインクを用いて、インクジェット法を用いて、フォトニック結晶構造6を有するフェイスプレート100の蛍光体膜3を形成した。なお、蛍光体膜3の発光輝度や拡散反射輝度を調べるために、図1(c)示す、カラーフィルター2や遮光膜5、隔壁8は省略した。以下にフェイスプレート100の作製工程を記載する。
【0084】
石英ガラス基板1に2次元正方格子状に略円筒状の凹部を多数形成した。凹部間のピッチは1700nm、凹部の直径は920nm、凹部の深さは880nmとした。石英ガラス基板の屈折率は1.46であった。次に、四塩化チタンを用いて化学気相蒸着法(CVD法)によりTiO膜を堆積し、凹部に充填した。TiO膜の屈折率は、2.2であった。その後、アニールを行った。次に、化学機械研磨法(CMP法)により表面研磨を行った。表面研磨を行った後の凹部の深さは670nmであった。このようにして、フォトニック結晶構造6を形成した。次に、フォトニック結晶構造6の上に、スパッタ法を用いてアノード電極4としてITO膜を250nm堆積した。ITO膜の屈折率は1.9であった。
【0085】
次に、ITO膜上に、インクジェット法を用いて、実施例1で作製したインクを、インクジェット法を用いて塗布した。その後、550℃にて1時間、焼成を行った。焼成後の蛍光体膜3の厚さは820nmであった。
【0086】
公知の方法で電子源20を形成したリアプレート200を用意し、フェイスプレート100とリアプレート200とを、枠部材300をそれらの間に介して真空チャンバー内で封着した。このようにして表示パネル1000を作製した。
【0087】
次に、表示パネル1000の発光輝度及び拡散反射輝度を測定した。アノード電極4に10kVのアノード電位を付与し、マトリックス配線23を介して、電子放出素子22にパルス幅20μsec、パルス周波数100Hzの駆動パルスを印加し、電子放出素子22から電子を放出した。このパルス電流密度は4.1mA/cmであった。蛍光体膜3は赤色に発光した。また、比較例1で作製したインクを用いて、同様に作製したフェイスプレート100を使って比較用の表示パネルを作製した。
【0088】
本実施例で作成した表示パネル1000と比較用の表示パネルとを暗室で発光させたところ、実施例1のインクを用いた表示パネルが比較用の表示パネルより発光輝度が高かった。また、外光のある状態で、表示パネルの右半分の領域の電子放出素子22のみに駆動パルスを印加して表示を行った。その結果、実施例1のインクを用いた表示パネルは、画面上の左右のコントラスト比が高く、また、比較用の表示パネルに比べて、良好な視認性が得られた。また、外光の照度を段階的に高くしていったところ、実施例1のインクを用いた表示パネルは、コントラスト比の変化が、比較用の表示パネルに比べて小さかった。
【符号の説明】
【0089】
1000 表示パネル
3 蛍光体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体である分散媒と、前記分散媒に分散した固体である複数の硫化物粒子とを含有し、前記分散媒は、少なくとも下記式(1)の構造の有機硫化物を含有することを特徴とする液体組成物。
【化1】


前記式(1)中、Rは置換または非置換の、炭素数が1〜18のアルキル基であり、nは1又は2である。
【請求項2】
前記硫化物粒子は酸硫化物粒子であって、前記有機硫化物のRの炭素数が6以下であること、又は、前記硫化物粒子は酸化物粒子でない硫化物粒子であって、前記有機硫化物のRの炭素数が7以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記有機硫化物は常温で液体であって、前記分散媒は、前記有機硫化物とは異なる、常温で液体の有機化合物を含有し、前記有機硫化物の沸点をTb1[℃]、前記有機化合物の沸点をTb2[℃]として、Tb1−50≦Tb2≦Tb1+50であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記有機硫化物が下記式(2)の構造の有機硫化物であること、又は、前記有機硫化物が下記式(3)の構造の有機硫化物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体組成物。
【化2】


【化3】

【請求項5】
前記分散媒が、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを含有することを特徴とする請求項4に記載の液体組成物。
【請求項6】
前記有機硫化物の質量が、前記硫化物粒子の質量の0.1倍以上、10倍以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体組成物を基体に塗布する工程と、前記分散媒の少なくとも一部を前記基体上から除去する工程を有することを特徴とする硫化物膜の形成方法。
【請求項8】
前記塗布する工程をインクジェット法により行うことを特徴とする請求項7に記載の硫化物膜の形成方法。
【請求項9】
透明基板と、前記透明基板の上に設けられた蛍光体膜を含む表示部材と、前記表示部材に対向する電子源と、を備える表示パネルの製造方法において、
前記蛍光体膜を、請求項1乃至6の何れか1項に記載の液体組成物であって、前記硫化物粒子が蛍光体である液体組成物を用いて形成することを特徴とする表示パネルの製造方法。
【請求項10】
前記蛍光体膜中の硫化物粒子のメジアン径が、前記蛍光体膜の発光波長以下であることを特徴とする請求項9に記載の表示パネルの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−122033(P2011−122033A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279909(P2009−279909)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】