説明

液体組成物及びインクジェット用インク

【課題】高い光沢性及び分散性を有する液体組成物及びインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】少なくともグラフト共重合体及び水性溶媒を含有する液体組成物において、該グラフト共重合体が、疎水性の主鎖と、疎水性モノマー及び親水性モノマーが共重合してなるグラフト側鎖とを有する。前記グラフト側鎖は、疎水性モノマー及び親水性モノマーがランダム共重合もしくはグラジエント共重合してなるものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体を含有する液体組成物及びインクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット用インクの色材として、顔料が用いられているが、この顔料には、分散剤を必要としない自己分散タイプと分散剤として樹脂を用いる樹脂分散タイプが存在する。
【0003】
樹脂分散タイプに用いられる分散剤としては、種々のポリマーが提案されている(特許文献1〜3)が、分散安定性の観点からはブロックポリマーを用いることが好ましい。
【0004】
ブロックポリマーにおいては、疎水性セグメントと親水性セグメントを有する両親媒性ブロックポリマーが好ましく用いられるが、この両親媒性ブロックポリマーの分散安定性や顔料吸着性を高めるためには、各セグメントの疎水性及び親水性の向上が有効である。
【特許文献1】特開2004−352819号公報
【特許文献2】特開2005−281691号公報
【特許文献3】特表2005−532470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような両親媒性ブロックポリマーを顔料インク用の分散剤として用いると、かかるインクによって形成される印字物の光沢性が十分でないことがあり、より優れた光沢性を発現可能な分散剤としてのポリマーの開発が望まれていた。また、この光沢性の低下は、優れた分散安定性や吸着性能を有する分散剤を用いたときほど顕著に見られ、分散性能と光沢性の高いレベルでの両立が困難であることがわかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い光沢性及び分散性を有する液体組成物及びインクジェット用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来技術及び課題について鋭意検討した結果、本発明者らは下記に示す本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、少なくともグラフト共重合体及び水性溶媒を含有する液体組成物において、該グラフト共重合体が、疎水性の主鎖と、疎水性モノマー及び親水性モノマーが共重合してなるグラフト側鎖とを有することを特徴とする液体組成物である。
【0009】
また、本発明は、少なくとも顔料、及び上記液体組成物を含有することを特徴とするインクジェット用インクである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い光沢性及び分散性を有する液体組成物及びインクジェット用インクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の液体組成物は、グラフト共重合体及び水性溶媒を含有している。そして、このグラフト共重合体は、疎水性の主鎖と、疎水性モノマー及び親水性モノマーが共重合してなるグラフト側鎖とを有することを特徴としている。従って、本発明で用いるグラフト共重体は水溶性溶媒中において微粒子(ミセル)を形成することができる。更に、液体組成物中に疎水性化合物が存在する場合には、その微粒子中に疎水性化合物を内包することができ、疎水性化合物を水性溶媒中に良好に分散しうる。なお、グラフト共重合体とは、幹部となるポリマー主鎖に、このポリマー主鎖と異なる構成成分からなる枝部となるグラフト側鎖が結合しているものを意味する。
【0012】
本発明におけるグラフト共重合体の主鎖は、繰り返し単位が疎水性ユニットで構成されており、疎水性を有している。このグラフト共重合体の主鎖は、後にグラフト側鎖を導入可能な疎水性モノマーを重合して形成することもでき、グラフト側鎖に相当するポリマーに疎水性モノマーに相当するユニットを有するマクロモノマーを重合して形成することもできる。更に、他の疎水性モノマーを共重合して形成することもできる。重合は、重縮合でも付加重合でもよい。なお、マクロモノマーとは、重合性官能基を有し、単独または他のモノマーと共重合可能なポリマーを意味する。マクロモノマーが有する重合性官能基としてはイオン重合またはラジカル重合可能なものが好ましく、その結合位置は、ポリマー末端であることが好ましい。
【0013】
グラフト共重合体のグラフト側鎖は、主鎖より枝分かれし、主鎖に共有結合で結合しているポリマー鎖を意味する。本発明におけるグラフト側鎖は、例えば、疎水性モノマー及び親水性モノマーがランダム共重合もしくはグラジエント共重合してなり、疎水性ユニット及び親水性ユニットを有するものである。グラフト側鎖は、全体として親水性を有していることが好ましい。グラフト側鎖を構成する共重合体は、リビング重合で合成されることが好ましく、その分子量分布Mw/Mnが1.0〜1.5であることが好ましい。また、グラフト側鎖を形成するための親水性モノマーは、イオン性を有することが好ましい。
【0014】
このようなグラフト共重合体は、グラフト側鎖となる共重合体の末端に疎水性モノマーに相当するユニットを有するマクロモノマーを単独で、もしくは他の疎水性モノマーと共重合して合成することができる。例えば、マクロモノマーが末端に二重結合を有している場合、ビニル系モノマーを共重合することができる。また、重合開始の起点となりうる官能基を有するポリマー(主鎖)を合成してから、その官能基を起点に疎水性モノマー及び親水性モノマーを共重合して合成することもできる。重合開始の起点となりうる官能基としては、二重結合やハロゲンが挙げられる。ただし、本発明で使用するグラフト共重合体の合成方法は、これらに限定されるわけではない。
【0015】
以下、本発明で用いるグラフト共重合体の構造について説明する。
【0016】
図1は、本発明で用いるグラフト共重合体の一例の構造を示す模式図である。このグラフト共重合体の幹部となる主鎖3は、繰り返し単位が疎水性ユニットで構成されており、疎水性を有している。また、このグラフト共重合体の枝部となるグラフト側鎖4は、疎水性モノマー及び親水性モノマーがグラジエント共重合してなるグラジエント共重合体構造を形成している。なお、この図では、親水性モノマーに起因する親水性ユニット2が、疎水性モノマーに起因する疎水性ユニット1に対して、主鎖からグラフト側鎖のポリマー連鎖に沿って傾斜的に増加している状態、すなわちグラジエント構造になっている。
【0017】
図2は、本発明で用いるグラフト共重合体の他の一例の構造を示す模式図である。このグラフト共重合体の幹部となる主鎖5は、繰り返し単位が疎水性ユニットで構成されており、疎水性を有している。また、このグラフト共重合体の枝部となるグラフト側鎖6は、疎水性モノマー及び親水性モノマーがランダム共重合してなるランダム共重合体構造を形成している。
【0018】
図3は、水性溶媒中で用いられる一般的なグラフト共重合体の構造を示す模式図である。このグラフト共重合体の幹部となる主鎖7は、繰り返し単位が疎水性ユニットで構成されており、疎水性を有している。また、このグラフト共重合体の枝部となるグラフト側鎖8は、繰り返し単位が親水性ユニットで構成されており、親水性を有している。
【0019】
図1及び2に示すグラフト共重合体は、図3に示すグラフト共重合体と異なり、グラフト側鎖が疎水性モノマー及び親水性モノマーが共重合してなる構造を有している。この図1及び2に示すグラフト共重合体は、いずれも水性溶媒中に存在する疎水性化合物を幹部によって内包し、疎水性化合物を良好に分散することができる。
【0020】
我々の鋭意検討の結果、樹脂分散インクの画像特性に関し、記録媒体上での色材の露出を低減すれば、画像の光沢が向上することが分かった。そこで、本発明では、親水性ユニットだけでなく疎水性ユニットをも有するグラジエント側鎖とすることで、グラフト共重合体としての両親媒性を保ちつつ、グラフト側鎖の運動性を抑制している。そのため、溶媒が除去される過程で疎水性相互作用等により、グラフト共重合体分子間で側鎖部の絡まり、二次構造体形成が引き起こされると考えられる。従って、溶媒除去後は、グラフト共重合体が疎水性化合物を十分に被覆する形態をとると予想され、良好な画像光沢を得ることができると推測される。
【0021】
以下、本発明で用いるグラフト共重合体を構成する疎水性ユニット及び親水性ユニットの具体例を挙げるが、本発明で用いるグラフト共重合体を構成する疎水性ユニット及び親水性ユニットはこれらに限定されるわけではない。
【0022】
グラフト共重合体の主鎖及びグラフト側鎖を構成する疎水性ユニットは、例えばイソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の疎水基を持つ繰り返し単位が挙げられる。具体的な例でいえば、スチレンやt−ブチルメタクリレート等の疎水性モノマーを重合して得られるユニットである。ただし、本発明に用いられるグラフト共重合体を構成する疎水性ユニットはこれらに限定されない。
【0023】
疎水性ユニットとしては、ポリアルケニルエーテル構造を有する繰り返し単位が好ましい。好ましい具体例としては、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表される繰り返し単位が挙げられるが、本発明に用いられるグラフト共重合体を構成する疎水性ユニットはこれらに限定されない。
【0024】
【化1】

【0025】
(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。Bは炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Dは単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Eは置換されていても良い芳香族環、置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造及びメチレン基のいずれかを表す。R1は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキル基または置換されていても良い芳香族環を表す。mは0から30までの整数を表す。)
上記Aのポリアルケニルエーテル基を構成するアルキレン基としては、炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルレン基が挙げられ、係るポリアルケニルエーテル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記Bのアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。mは、好ましくは1から10までの整数を表す。mが2以上のときはそれぞれのBは異なっていても良い。上記Dのアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン等が例として挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記Eの芳香環としては、フェニル、ピリジレン、ピリミジル、ナフチル、アントラニル、フェナントラニル、チオフェニル、フラニル等が挙げられ、係る芳香環は、アルキル基、アルコキシ基等で置換されていても良い。上記R1の芳香族環としては、フェニル基、ピリジル基、ビフェニル基等が挙げられる。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。また、該芳香族環またはメチレン基のいずれかにおいてR1に置換されていない水素原子は置換されていても良い。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B1は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Jは炭素原子数3から15までの置換されていても良い直鎖状または分岐状のアルキル基、置換されていても良い芳香族環及び置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造のいずれかを表す。mは0から30までの整数を表す。)
上記Aのポリアルケニルエーテル基を構成するアルキレン基としては、炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキレン基が挙げられ、係るポリアルケニルエーテル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記B1のアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。mは、好ましくは1から10までの整数を表す。mが2以上のときはそれぞれのB1は異なっていても良い。上記Jのアルキル基としては、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、芳香族環としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、ビフェニル基等が挙げられ、有してもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0028】
疎水性ユニットの好ましい具体例として、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
【化3】

【0030】
グラフト共重合体のグラフト側鎖を構成する親水性ユニットとしては、カルボン酸、カルボン酸塩あるいは親水性オキシエチレンユニットを多く含む構造、更にヒドロキシル基等を有する繰り返し単位が挙げられる。具体的な例でいえば、アクリル酸やメタクリル酸、あるいはその無機塩や有機塩等のカルボン酸塩、またポリエチレングリコールマクロモノマー、またはビニルアルコールや2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の親水性モノマーを重合して得られるユニットである。ただし、本発明に用いられるグラフト共重合体を構成する親水性ユニットはこれらに限定されない。
【0031】
親水性ユニットとしては、ポリアルケニルエーテル構造を有する繰り返し単位が好ましい。具体的には、下記一般式(3)で表されるような非イオン性の親水性ユニットや、下記一般式(4)で表されるようなイオン性の親水性ユニットが挙げられる。ただし、本発明に用いられるグラジエントポリマー構造を形成する親水性ユニットはこれらに限定されない。
【0032】
【化4】

【0033】
(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B’は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。D’は単結合または炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Kは炭素原子数1から3までの置換されていても良い直鎖状または分岐状のアルキル基、またはヒドロキシル基のいずれかを表す。mは0から30までの整数を表す。)
上記Aのポリアルケニルエーテル基を構成するアルケニル基としては、炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられ、係るポリアルケニルエーテル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記B’のアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。mは、好ましくは1から10までの整数を表す。mが2以上のときはそれぞれのB’は異なっていても良い。上記D’のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記Kのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、係るアルキル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。
【0034】
なお、この一般式(3)で表される繰り返し単位は親水性を示す。従って、Kがアルキル基の場合、(B’O)mはある程度長い(mが大きい)オキシアルキレン基であることが必要である。
【0035】
【化5】

【0036】
(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B”は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。D”は単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。E”は置換されていても良い芳香族環、置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造及びメチレン基のいずれかを表す。R2は−COO-Mの(Mは、水素原子、1価または多価の金属カチオンを表す)構造を表す。mは0から30までの整数を表す。)
上記Aのポリアルケニルエーテル基を構成するアルケニル基としては、炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられ、係るポリアルケニルエーテル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記B”のアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。mは、好ましくは1から10までの整数を表す。mが2以上のときはそれぞれのB”は異なっていても良い。上記D”のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記E”の芳香環としては、フェニル、ピリジレン、ピリミジル、ナフチル、アントラニル、フェナントラニル、チオフェニル、フラニル等が挙げられる。上記Mの具体例としての一価の金属カチオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のイオンが、多価の金属カチオンとしては、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、鉄等のイオンが挙げられる。Mが多価の金属カチオンの場合には、MはアニオンCOO-の2個以上と対イオンを形成している。また、上記E”の芳香族環またはメチレン基の、R2に置換されていない水素原子は置換されていても良い。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。好ましくは、カルボン酸基が芳香族炭素と結合した芳香族カルボン酸誘導体を側鎖に有する。
【0037】
非イオン性の親水性ユニットとなる繰り返し単位の好ましい具体例として、以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
【化6】

【0039】
イオン性の親水性ユニットとなる繰り返し単位の具体例好ましいとして、以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
【化7】

【0041】
本発明で用いるグラジエント共重合体における主鎖について、更に詳しく説明する。上述したように、本発明で用いるグラジエント共重合体における主鎖は疎水性であって、用途に応じて重縮合によって形成されてもよく、付加重合によって形成されてもよい。
【0042】
重縮合によって形成される主鎖構造としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン等が挙げられる。付加重合によって形成される主鎖構造としては、例えば、マクロモノマー、CF2=CF2、アクリル、メタクリル、スチレン系の誘導体である重合性ビニルモノマーが重合してなる構造が好ましい。その中でも、スチレンの誘導体である重合性ビニルモノマーが重合してなる構造がより好ましい。
【0043】
本発明で用いるグラジエント共重合体における主鎖構造としては、極性のある未反応点を残さないといった面から、付加重合によって形成されることが好ましい。以下に、本発明で用いるグラジエント共重合体における主鎖構造を形成するためのモノマーの好ましい具体例を記載するが、本発明はこれらのモノマーに限定されるわけではない。
【0044】
【化8】

【0045】
以下に、本発明において好ましく用いられるグラフト共重合体の具体例を記載するが、本発明はこれらの構造に限定されるわけではない。なお、以下の構造中、「r」はランダム共重合体であること、「gr」はグラジエント共重合体であることを表す。また、k、l、m及びnは、各ユニットの数を示している。
【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
本発明で用いるグラジエント共重合体が有するグラジエント側鎖において、疎水性ユニットと親水性ユニットの平均重合度比は、90:10〜10:90の範囲が好ましく、70:30〜30:70の範囲がより好ましい。
【0050】
上記液体組成物において、グラフト共重合体は水性溶媒中でミセル状態を形成することができる。この液体組成物におけるグラフト共重合体の含有量は、液体組成物全質量に対し、0.1質量%以上90質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1質量%以上80質量%以下である。
【0051】
本発明で用いるグラジエント共重合体の数平均分子量(Mn)は、500以上10000000以下であることが好ましく、1000以上1000000以下であることがより好ましい。10000000を越えると高分子鎖内、高分子鎖間の絡まりあいが多くなりすぎ、溶剤に分散しにくかったりする。500未満である場合、分子量が小さく高分子としての立体効果が出にくかったりする場合がある。
【0052】
本発明の液体組成物は、上記グラフト共重合体及び水性溶媒を含有する。本発明の液体組成物は、インクであることが好ましい。より好ましくはインクジェット用インクである。インクジェット用インクとは、インクジェット法を用いるインク吐出方法により吐出し得る液体組成物のことである。
【0053】
一般的に、インクジェット用インクは、通常のインクに比べて粘度や分散微粒子の大きさ、保存安定性等の、組成物特性の条件が厳しい。インクジェット法による吐出方法では、微細ノズルを通してインクの吐出を行うため、特にインクの粘度が低いこと、インク中の微粒子の大きさは小さく、更に保存安定性が優れていることが好ましい。加えて、光沢媒体に写真画質の画像を形成する場合には、優れた画像の光沢性が要求される。従って、本発明の液体組成物は、インクジェット用インクに非常に好ましく適用することができる。
【0054】
以下、液体組成物の成分について説明する。
【0055】
[溶媒]
本発明の液体組成物は、水性溶媒を含有する。水性溶媒としては、水または水性溶剤を挙げることができる。水としては、金属イオン等を除去したイオン交換水、純水、超純水が好ましい。水性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロビレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、置換ピロリドン、トリエタノールアミン等の含窒素溶媒;等を用いることができる。また、水性分散物の記録媒体上での乾燥を速めることを目的として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール類を用いることもできる。
【0056】
本発明の液体組成物は、有機溶媒を含有していてもよい。有機溶媒としては、炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤等の非水性溶剤が挙げられる。
【0057】
本発明において、有機溶剤および水性溶媒の合計の含有量は、液体組成物の全重量に対して、20〜95質量%であることが好ましい。更に好ましくは、30〜90質量%である。
【0058】
[疎水性化合物]
本発明の液体組成物は、疎水性化合物を含有していてもよい。疎水性化合物とは、水に対して不溶な物質である。水に対して不溶とは、水に溶解、あるいは安定分散しない性質のことである。具体的にいうと、水に対する溶解度が1g/L以下であること、あるいは水に対して安定な分散体を形成しないことを表す。
【0059】
本発明で用いられる疎水性化合物としては、例えば顔料、金属粒子、有機微粒子、無機微粒子、磁性体粒子、有機半導体、導電性材料、光学材料、非線形光学材料等といった疎水性の機能性物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
本発明で用いられる疎水性化合物は、好ましくは顔料または染料等の色材であり、より好ましくは顔料である。なお、本発明に記載の色材とは、有機または無機の有色の化合物と定義でき、好ましくは水又は油性分に対して不溶な化合物が好ましい。具体的な例としては、近赤外線反射材料、酸化触媒、脱臭・抗菌、助熱、排煙脱塩、ダイオキシン抑制、除虫効果、液晶パネルのバックライト用光散乱剤、蛍光材料、光導電材料等が挙げられる。更には、紫外線防止、吸着効果等の化粧品への応用、塗料、トナー、インクといった応用例が挙げられる。
【0061】
無機色材の具体例としては、コバルトブルー、セルシアンブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、ライトレッド、クロムオキサイドグリーン、マルスブラック等の酸化物顔料;ビリジャン、イエローオーカー、アルミナホワイト等の水酸化物顔料;ウルトラマリーン、タルク、ホワイトカーボン等のケイ酸塩顔料;金粉、銀粉、ブロンズ粉等の金属粉;カーボンブラック等が挙げられる。有機色材の具体例としては、βナフトール系アゾ化合物、ナフトールAS系アゾ化合物、モノアゾ型あるいはジスアゾ型アセト酢酸アリリド系アゾ化合物、ピラゾン系アゾ化合物、縮合系アゾ顔料等のアゾ系化合物の他、フタロシアニン系化合物、サブフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、キナクリドン系化合物、イソインドリン系化合物、イソインドリノン系化合物、スレン系化合物、ペリレン系化合物、ぺリノン系化合物、チオインジゴ系化合物、ジオキサジン化合物、キノフタロン系化合物、ジケトピロロピロール系化合物、あるいは新規に合成した化合物が挙げられる。ただし、本発明に使用される色材は上記に限定されるものではない。
【0062】
以下に液体組成物をインクとして使用する場合の顔料の具体例を示す。
【0063】
顔料は、有機顔料及び無機顔料のいずれでもよく、インクに用いられる顔料は、好ましくは黒色顔料、またはシアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料である。なお、上記に記した以外の色顔料、無色または淡色の顔料、または金属光沢顔料等を使用してもよい。また、本発明において、市販の顔料を用いても良いし、あるいは新規に合成した顔料を用いても良い。
【0064】
以下に、黒、シアン、マゼンタ、イエローにおいて、市販されている顔料を例示する。
【0065】
黒色の顔料としては、Raven1060、(コロンビアン・カーボン社製商品名)、MOGUL−L、(キャボット社製商品名)、Color Black FW1(デグッサ社製商品名)、MA100(三菱化学社製商品名)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0066】
シアン色の顔料としては、C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:4、C.I.Pigment Blue−16、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
マゼンタ色の顔料としては、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
イエローの顔料としては、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−128、C.I.Pigment Yellow−129、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
また、本発明のインクでは、水に自己分散可能な顔料も使用できる。水分散可能な顔料としては、顔料表面にポリマーを吸着させた立体障害効果を利用したものと、静電気的反発力を利用したものとがある。市販品としては、CAB−0−JET200、CAB−0−JET300(以上キャボット社製商品名)、Microjet Black CW−1(オリエント化学社製商品名)等が挙げられる。
【0070】
本発明で用いられる顔料の含有量は、インクの全質量に対して、0.1〜50質量%であることが好ましい。顔料の含有量が、0.1質量%以上であれば、好ましい画像濃度が得られ、50質量%以下であれば、好ましい分散が得られる。更に好ましい範囲は0.5〜30質量%である。
【0071】
また、本発明では染料を併用しても良い。
【0072】
なお、上述は疎水性化合物が存在する例で示したが、ミセル構造内に疎水性化合物を有さない形態についても本願発明は包含するものである。この場合には、コーティング剤や、グロスオプティマイザー等の用途として有効である。
【0073】
[添加剤]
本発明では、必要に応じて、種々の添加剤、助剤等を添加することができる。添加剤の一つとして、顔料を溶媒中で安定に分散させる分散安定剤がある。本発明は、グラフトポリマー化合物により、顔料のような疎水性化合物を分散させる機能を有しているが、分散が不十分である場合には、他の分散安定剤を添加してもよい。
【0074】
他の分散安定剤として、親水性疎水性両部を持つ樹脂あるいは界面活性剤を使用することが可能である。親水性疎水性両部を持つ樹脂としては、例えば、親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体が挙げられる。
【0075】
親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、または前記カルボン酸モノエステル類、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート等が挙げられる。疎水性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類等が挙げられる。共重合体は、ランダム、ブロック、及よびグラフト共重合体等の様々な構成のものが使用できる。もちろん、親水性、疎水性モノマーとも、前記に示したものに限定されない。
【0076】
界面活性剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性、両イオン性活性剤を用いることができる。アニオン性活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル等が挙げられる。非イオン性活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。カチオン性活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。両イオン性活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、ホスファジルコリン等が挙げられる。なお、界面活性剤についても同様、前記に限定されるものではない。
【0077】
その他の添加剤としては、例えばインクとしての用途の場合、pH調整剤、浸透剤、防黴剤、キレート化剤、消泡剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線吸収剤等も添加することができる。pH調整剤は、インクの安定化と記録装置中のインクの配管との安定性を得るために使用する。浸透剤は、記録媒体へのインクの浸透を早め、見掛けの乾燥を早くする。防黴剤は、インク内での黴の発生を防止する。キレート化剤は、インク中の金属イオンを封鎖し、ノズル部での金属の析出やインク中で不溶解性物の析出等を防止する。消泡剤は、記録液の循環、移動、あるいは記録液製造時の泡の発生を防止する。
【0078】
更に、本発明では、高分子微粒子を添加しても良い。本発明の高分子微粒子とは、堅牢性、発色性、光沢性、ブロンズ抑制、ブリード抑制等の機能を発現することを目的として添加する化合物であり、具体的には、エマルジョン微粒子、高分子界面活性剤等が挙げられる。
【0079】
エマルジョン微粒子及び高分子界面活性剤を構成する樹脂成分としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられ、またこれらの樹脂の混合系を用いてもよい。これらの樹脂成分の中でより好ましくは、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸−ハーフエステル共重合体等が挙げられる。
【0080】
このような樹脂エマルジョンは、種々の特性を満足するように合成して用いてもよいが、市販品を使用してもよい。なお、高分子微粒子についても同様、前記に限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。また、以下の構造中、「gr」はグラジエント共重合体であることを、「r」はランダム共重合体であることを表す。
【0082】
〔重合開始種の合成〕
(合成例1)
予め45〜50℃/0mmHgの条件での減圧蒸留にて精製しておいたVEMAと、酢酸10モル当量を混合し、1日室温にて攪拌した。得られた反応終了液をヘキサンに溶解し、アルカリ水溶液にて洗浄し、未反応酢酸を除去した。次いで、得られた溶液からエバポレーターにてヘキサンを留去した後、減圧乾燥を1日以上行い、目的とするカチオンリビング重合開始剤(VEM−OAc)を得た。合成した化合物の同定はNMRにより行った。
【0083】
【化12】

【0084】
〔グラフトポリマー前駆体(マクロモノマー)の合成〕
(合成例2)
ポリ(フェノキシエチルビニルエーテル〔PhOVE〕−r−4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸〔VEEtPhCOOH〕の合成
三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃に加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、モノマーとして、フェノキシエチルビニルエーテル〔PhOVE〕10mmol(ミリモル)と4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸(t−ブチルジメチルシリル)エステル〔VEEtPhCOOTBDMSi〕15mmolを添加した。更に、酢酸エチル160mmol、VEM−OAc0.5mmol、及びトルエン110mlを加え、反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を2.0mmol加え重合を開始した。NMR及びGCにより重合率をモニタリングしながら反応を行い、系内の昇温操作により反応速度を制御した。
【0085】
VEEtPhCOOTBDMSiモノマーが約70mol%重合したところで、重合反応を停止した。重合反応の停止は、系内に0.3質量%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固し、真空乾燥させたものより、目的物である高分子化合物を単離した。
【0086】
この高分子化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。Mn=6000、Mw/Mn=1.27であり、重合度比はPhOVE:VEEtPhCOOTBDMSi=1:1であった。また、モニタリング時のNMR及びGC分析により、重合は、おおよそPhOVE:VEEtPhCOOTBDMSi=1:1で進行していた。
【0087】
得られた高分子化合物1gに対し、THF30mlに溶解させ、3規定HCl/エタノール溶液5mlを加え、室温(23℃)で3時間撹拌した。その後エタノールを20ml加えて更に3時間攪拌した。反応はNMRによってモニタリングし、加水分解が100%完了してから炭酸ナトリウムで中和し、反応を終了した。化合物の同定は、NMRおよびIRを用いて行った。透析により過剰な塩を除去し、エバポレーターで濃縮・乾固することで、VEEtPhCOOTBDMSiユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーであるグラフトポリマー前駆体1を得た。
【0088】
(合成例3)
ポリ(トリシクロデカンモノメチルビニルエーテル〔TCDVE〕−r−4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸〔VEEtPhCOOH〕の合成
合成例2と同様の手法で、モノマーをトリシクロデカンモノメチルビニルエーテル〔TCDVE〕10mmolとVEEtPhCOOTBDMSi15mmolに変えて重合を行った。NMR及びGCにより重合率をモニタリングしながら反応を行い、系内の昇温操作により反応速度を制御した。VEEtPhCOOTBDMSiモノマーが約70mol%重合したところで、重合反応を停止した。重合反応の停止は、合成例2と同様の手法で行った。
【0089】
この高分子化合物の同定は、NMRおよびGPCを用いて行った。Mn=6200、Mw/Mn=1.22であり、重合度比はTCDVE:VEEtPhCOOTBDMSi=1:1であった。また、モニタリング時のNMR及びGC分析により、おおよそTCDVE:VEEtPhCOOTBDMSi=1:1で進行していた。
【0090】
合成例2と同様の後処理により、VEEtPhCOOTBDMSiユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーであるグラフトポリマー前駆体2を得た。
【0091】
(合成例4)
ポリ(2−ナフトキシエチルビニルエーテル〔NpOVE〕−gr−4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸〔VEEtPhCOOH〕の合成
合成例2と同様の手法で、モノマーを2−ナフトキシエチルビニルエーテル〔NpOVE〕10mmolに変えて重合を行った。反応中更に、15mmolのVEEtPhCOOTBDMSi/トルエン溶液を連続的に滴下し、重合反応を続行した。NMR及びGCにより重合率をモニタリングしながら反応を行い、VEEtPhCOOTBDMSiモノマーの滴下速度及び系内の昇温操作により反応速度を制御した。VEEtPhCOOTBDMSiモノマーが10mmol反応したところで、重合反応を停止した。重合反応の停止は、合成例2と同様の手法で行った。
【0092】
この高分子化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。Mn=6500、Mw/Mn=1.22であり、重合度比はNpOVE:VEEtPhCOOTBDMSi=1:1であった。また、モニタリング時のNMR及びGC分析の結果、重合するに従い、VEEtPhCOOTBDMSiの割合が増加していたことから、モノマー組成比がポリマー連鎖に沿って徐々に変化しているポリマーの生成を確認した。
【0093】
合成例2と同様の後処理により、VEEtPhCOOTBDMSiユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーであるグラフトポリマー前駆体3を得た。
【0094】
(比較合成例1)
ポリ(4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸〔VEEtPhCOOH〕の合成
合成例2と同様の手法で、モノマーを4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸(t−ブチルジメチルシリル)エステル〔VEEtPhCOOTBDMSi〕15mmolに変えて重合を行った。NMR及びGCにより重合率をモニタリングしながら反応を行い、系内の昇温操作により反応速度を制御した。VEEtPhCOOTBDMSiモノマーが約70mol%重合したところで、重合反応を停止した。重合反応の停止は、合成例2と同様の手法で行った。
【0095】
この高分子化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。Mn=3500、Mw/Mn=1.21であった。
【0096】
合成例2と同様の後処理により、VEEtPhCOOTBDMSiユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーであるグラフトポリマー前駆体4を得た。
【0097】
〔グラフトポリマーの合成〕
(合成例5)
主鎖:ポリ(スチレン〔St〕−r−VEMA)
グラフト側鎖:ポリ(〔PhOVE〕−r−〔VEEtPhCOOH〕)
からなるグラフトポリマーの合成
窒素雰囲気下で、スチレン〔St〕を200mmol、グラフトポリマー前駆体1を5mmol、THF300mlに混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)0.5mmolを加え、80℃で重合反応を行った。重合反応はGPC及びGCにより、重合率を確認しながら行った。反応液を室温に冷却後、メタノールに加え、上澄みを除去後、回収した沈殿を減圧乾燥し、高分子化合物1を得た。得られた高分子化合物1をGPCにより解析したところ、Mn=60000、Mw/Mn=2.5であった。また、酸価を測定したところ94mgKOH/gであった。
【0098】
(合成例6)
主鎖:ポリ(イソボルニルメタクリレート〔IBMA〕−r−VEMA)
グラフト側鎖:ポリ(〔PhOVE〕−r−〔VEEtPhCOOH〕)
からなるグラフトポリマーの合成
合成例5と同様の方法で、イソボルニルメタクリレート〔IBMA〕を100mmol、グラフトポリマー前駆体1を5mmol、THFに混合し、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて重合反応を行った。後処理方法も合成例5と同様に行い、高分子化合物2を得た。得られた高分子化合物2をGPCにより解析したところ、Mn=56000、Mw/Mn=2.7であった。また、酸価を測定したところ105mgKOH/gであった。
【0099】
(合成例7)
主鎖:ポリVEMA
グラフト側鎖:ポリ(〔PhOVE〕−r−〔VEEtPhCOOH〕)
からなるグラフトポリマーの合成
合成例5と同様の方法で、グラフトポリマー前駆体1を5mmol、THFに混合し、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて重合反応を行った。後処理方法も合成例5と同様に行い、高分子化合物3を得た。得られた高分子化合物3をGPCにより解析したところ、Mn=49000、Mw/Mn=2.5であった。また、酸価を測定したところ110mgKOH/gであった。
【0100】
(合成例8)
主鎖:ポリ(スチレン〔St〕−r−VEMA)
グラフト側鎖:ポリ(〔TCDVE〕−r−〔VEEtPhCOOH〕)
からなるグラフトポリマーの合成
合成例5と同様の方法で、スチレン〔St〕を200mmol、グラフトポリマー前駆体2を5mmol、THFに混合し、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて重合反応を行った。後処理方法も合成例5と同様に行い、高分子化合物4を得た。得られた高分子化合物4をGPCにより解析したところ、Mn=52000、Mw/Mn=2.7であった。また、酸価を測定したところ99mgKOH/gであった。
【0101】
(合成例9)
主鎖:ポリ(スチレン〔St〕−r−VEMA)
グラフト側鎖:ポリ(〔NpOVE〕−gr−〔VEEtPhCOOH〕)
からなるグラフトポリマーの合成
合成例5と同様の方法で、スチレン〔St〕を200mmol、グラフトポリマー前駆体3を5mmol、THFに混合し、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて重合反応を行った。後処理方法も合成例5と同様に行い、高分子化合物5を得た。得られた高分子化合物5をGPCにより解析したところ、Mn=52000、Mw/Mn=2.7であった。酸価を測定したところ95mgKOH/gであった。
【0102】
(合成例10)
主鎖:ポリ(スチレン−r−クロロメチルスチレン)
グラフト側鎖:ポリ(〔St〕−r−〔AA〕)(AA:Acrylic Acid)
からなるグラフトポリマーの合成
窒素雰囲気下で、スチレン10ミリモル、クロロメチルスチレン5ミリモル、トルエン20gを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)1ミリモルを加え、80℃で重合反応を行った。重合反応はガスクロマトグラフィーにより、重合率を確認しながら行った。反応液を室温に冷却後、メタノールに加え、上澄みを除去後、回収した沈殿を減圧乾燥した。得られた高分子化合物(ポリ(スチレン−r−クロロメチルスチレン))をGPCにより解析したところ、Mn=12000、Mw/Mn=2.5であった。
【0103】
次に、窒素雰囲気下、得られた高分子化合物を1ミリモル、第一塩化銅を1.5ミリモル、ビピリジン1.5ミリモル、スチレン5ミリモル、t−ブチルアクリレート(tBA)5ミリモル、トルエン20g、ジメチルフォルムアミド2gを混合した。得られた混合物の溶存酸素を窒素で置換した後、90℃で重合反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、t−ブチルアクリレートが4ミリモル以上反応したことを確認したところで、液体窒素で急冷して反応を停止した。
【0104】
反応液をアルミナのカラムに通し、銅触媒を除去した後、高分子溶液をメタノール中に加え、上澄みを除去した後、沈殿物を減圧乾燥した。
【0105】
更に、得られた高分子化合物をTHFに溶かし、濃塩酸を加え、還流条件で加水分解反応を行った。反応液をメタノール中に加え、上澄みを除去後、沈殿物を減圧乾燥して、グラフト側鎖のtBAユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になった高分子化合物6を得た。得られた高分子化合物6をGPC及びNMRにより解析したところ、Mn=47000、Mw/Mn=2.6であった。また、酸価を測定したところ104mgKOH/gであった。
【0106】
(比較合成例2)
主鎖:ポリ(スチレン〔St〕−r−VEMA)
グラフト側鎖:ポリ(〔VEEtPhCOOH〕)
からなるグラフトポリマーの合成
合成例5と同様の方法で、スチレン〔St〕を350mmol、グラフトポリマー前駆体4を5mmol、THFに混合し、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて重合反応を行った。後処理方法も合成例5と同様に行い、高分子化合物7を得た。得られた高分子化合物7をGPCにより解析したところ、Mn=62000、Mw/Mn=2.6であった。また、酸価を測定したところ108mgKOH/gであった。
【0107】
(比較合成例3)
主鎖:ポリ(スチレン〔St〕−r−クロロメチルスチレン)
グラフト側鎖:ポリ(アクリル酸〔AA〕)
からなるグラフトポリマーの合成
窒素雰囲気下、合成例10で合成したポリ(スチレン−r−クロロメチルスチレン)を1ミリモル、第一塩化銅を1.5ミリモル、ビピリジンを1.5ミリモル、t−ブチルアクリレート30ミリモル、トルエン10g、ジメチルフォルムアミド1gを混合した。得られた混合物の溶存酸素を窒素で置換した後、80℃で重合反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、t−ブチルアクリレートが4ミリモル以上反応したことを確認したところで、液体窒素で急冷して反応を停止した。
【0108】
反応液をアルミナのカラムに通し、銅触媒を除去した後、高分子溶液をメタノール中に加え、上澄みを除去した後、沈殿物を減圧乾燥した。
【0109】
更に、得られた高分子化合物をTHFに溶かし、濃塩酸を加え、還流条件で加水分解反応を行った。反応液をメタノール中に加え、上澄みを除去後、沈殿物を減圧乾燥して、グラフト側鎖のtBAユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になった高分子化合物8を得た。得られた高分子化合物8をGPCにより解析したところ、Mn=52000、Mw/Mn=2.8であった。酸価を測定したところ110mgKOH/gであった。
【0110】
【化13】

【0111】
(実施例1)
カーボンブラック(商品名:M880、キャボット社製)5部、合成例5で合成した高分子化合物1 5部を100部のテトラヒドロフランに共溶解し、蒸留水400部を用いて水相へ変換しインクを得た。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液を0.1ml加え更に超音波ホモジナイザーで10分間分散した後、減圧蒸留によりテトラヒドロフランを除去後、次いで1μmのフィルターを通して加圧濾過することでポリマー分散体を製造した。次いで得られたポリマー分散体67部に7部のグリセリン、5部のジエチレングリコール、7部のトリメチロールプロパン、0.5部のアセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)、13.5部のイオン交換水を用いて、インクを調製した。
【0112】
(実施例2)
合成例6で合成した高分子化合物2を使用した以外は、実施例1記載の方法で、インクを調製した。
【0113】
(実施例3)
合成例7で合成した高分子化合物3を使用した以外は、実施例1記載の方法で、インクを調製した。
【0114】
(実施例4)
合成例8で合成した高分子化合物4を使用した以外は、実施例1記載の方法で、インクを調製した。
【0115】
(実施例5)
合成例9で合成した高分子化合物5を使用した以外は、実施例1記載の方法で、インクを調製した。
【0116】
(実施例6)
合成例10で合成した高分子化合物6を使用した以外は、実施例1記載の方法で、インクを調製した。
【0117】
(比較例1)
比較合成例2で合成した高分子化合物7を使用した以外は、実施例1記載の方法で、インクを調製した。
【0118】
(比較例2)
比較合成例3で合成した高分子化合物8を使用した以外は、実施例1記載の方法で、インクを調製した。
【0119】
(評価)
キヤノン(株)製バブルジェット(登録商標)プリンタ(商品名:BJF800)のインクタンクに実施例1〜6並びに比較例1及び2で調製したインクを充填した。そして、光沢紙(商品名:PR−101、キヤノン製)上に、5cm×5cmのベタ画像を吐出し、次いで室温で1時間静置することで、記録印字物を得た。
【0120】
どのインクにおいても吐出速度は良好であった。また、実施例1〜6で調製されたインク中の顔料は、非常に良好に分散されていた。更に、記録印字物を観察したところ、実施例1〜6で調製されたインクにより得られた記録印字物は十分な光沢があり、色濃度も良好であった。
【0121】
これに対し、比較例1及び2で調製されたインクにより得られた記録印字物は、実施例1〜6で調製されたインクにより得られた記録印字物に比べ、光沢と色濃度が劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明で用いるグラフト共重合体の一例の構造を示す模式図であって、グラフト側鎖がグラジエント共重合体構造を形成しているものである。
【図2】本発明で用いるグラフト共重合体の一例の構造を示す模式図であって、グラフト側鎖がランダム共重合体構造を形成しているものである。
【図3】水性溶媒中で用いられる一般的なグラフト共重合体の構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0123】
1 疎水性ユニット
2 親水性ユニット
3 疎水性ユニットで構成された主鎖
4 グラジエント共重合構造を有するグラフト側鎖
5 疎水性ユニットで構成された主鎖
6 ランダム共重合構造を有するグラフト側鎖
7 疎水性ユニットで構成された主鎖
8 親水性ユニットで構成されたグラフト側鎖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともグラフト共重合体及び水性溶媒を含有する液体組成物において、該グラフト共重合体が、疎水性の主鎖と、疎水性モノマー及び親水性モノマーが共重合してなるグラフト側鎖とを有することを特徴とする液体組成物。
【請求項2】
前記グラフト側鎖は、疎水性モノマー及び親水性モノマーがランダム共重合してなる請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記グラフト側鎖は、疎水性モノマー及び親水性モノマーがグラジエント共重合してなる請求項1に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記グラフト側鎖を構成する疎水性モノマーに起因する疎水性ユニットが下記一般式(1)または(2)で表される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体組成物。
【化1】

(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。Bは炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Dは単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Eは置換されていても良い芳香族環、置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造及びメチレン基のいずれかを表す。R1は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキル基または置換されていても良い芳香族環を表す。mは0から30までの整数を表す。)
【化2】

(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B1は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Jは炭素原子数3から15までの置換されていても良い直鎖状または分岐状のアルキル基、置換されていても良い芳香族環及び置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造のいずれかを表す。mは0から30までの整数を表す。)
【請求項5】
前記グラフト側鎖を構成する親水性モノマーに起因する親水性ユニットが下記一般式(3)または(4)で表される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体組成物。
【化3】

(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B’は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。D’は単結合または炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Kは炭素原子数1から3までの置換されていても良い直鎖状または分岐状のアルキル基、またはヒドロキシル基のいずれかを表す。mは0から30までの整数を表す。)
【化4】

(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B”は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。D”は単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。E”は置換されていても良い芳香族環、置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造及びメチレン基のいずれかを表す。R2は−COO-Mの(Mは、水素原子、1価または多価の金属カチオンを表す)構造を表す。mは0から30までの整数を表す。)
【請求項6】
少なくとも顔料、及び請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体組成物を含有することを特徴とするインクジェット用インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−195768(P2008−195768A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30395(P2007−30395)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】