説明

液体複合誘電材料

実施形態は、有機性の液相材料中に金属含有分散相材料を含む液体複合誘電材料(LCDM)であって、40Hzにおいて10000以上の誘電体誘電率(ε)および40Hzにおいて1以下の誘電損失(tanδ)を有するLCDMに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年11月10日に出願されたインド特許出願第2748/CHE/2009号に対する優先権を主張する、2009年12月23日に出願された米国特許出願第12/646,435号の利益を主張し、これらの両方は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
電気化学電源に対する現在の研究開発の努力は、一般に燃料セル、電池および電気化学キャパシタに集中しており、比較的低いコストで高いエネルギー密度、高い電力密度、長いサイクル寿命を達成することに向けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
さらに、低い製造コストを依然としてもたらしながら、正常なセル内の電極を損傷する電気化学反応を防止し、マルチセル電池におけるセルバランシング要件を回避する新規のクラスのシステムが必要とされる。また、信頼性のある電気エネルギー貯蔵システムも必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書における実施形態は、有機性の液相材料中に金属含有分散相材料を含む液体複合誘電材料(liquid composite dielectric material)(LCDM)であって、40Hzにおいて10000以上の誘電体誘電率(dielectric permittivity)(ε)および40Hzにおいて1以下の誘電損失(tanδ)を有するLCDMに関する。例えば、金属含有分散相材料は、結晶相境界(morphotropic phase boundary)(MPB)化合物を含む。例えば、有機性の液相材料は、グリコールを含む。例えば、LCDMは、1×10−3Acm−2未満の漏れ電流密度を有する。例えば、LCDMは、均質な溶液である。例えば、MPB化合物は、Pb、ZrおよびTiを含む。例えば、MPB化合物は、強誘電体チタン酸ジルコン酸鉛セラミックを含む。例えば、MPB化合物は、Pb、Mg、Nb、およびTiを含む。例えば、MPB化合物は、PbZrTi1−xを含み、ここで、0.4<x<0.6である。
【0005】
別の実施形態は、先に記載されているLCDMを含む電気化学キャパシタに関する。例えば、電気化学キャパシタは、1〜100Vの動作電圧および40Hz〜10MHzの動作周波数範囲を有する。例えば、電気化学キャパシタは、それぞれ100Whcc−1および1×10Wcc−1を超える、単一の電気化学キャパシタの最大エネルギー密度および電力密度を有する。例えば、最大エネルギー密度および電力密度は、それぞれ約170Whcc−1および約2×10Wcc−1である。
【0006】
別の実施形態は、有機性の液相材料中に金属含有分散相材料を含む複合誘電材料(LCDM)を製造する方法であって、金属含有分散相材料の粉末をゾルゲルルートによって形成することと、金属含有分散相材料の粉末を有機性の液相材料に分散させて均質な溶液を有するLCDMを形成することとを含む方法に関する。例えば、金属含有分散相材料は、結晶相境界(MPB)化合物を含む。例えば、有機性の液相材料は、グリコールを含む。例えば、MPB化合物は、強誘電体チタン酸ジルコン酸鉛セラミックを含む。
【0007】
上記の概要は、単に例示的なものであり、何ら限定的であることは意図されていない。先に記載されている例示的な態様、実施形態、および特徴に加えて、さらなる態様、実施形態、および特徴が、図面および以下の詳細な説明を参照することによって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ゾルゲルルートによるサンプルPZT粉末の調製のためのフローチャートを示す図である。
【図2】サンプルPZT/DEGの液体複合誘電材料の誘電体誘電率および誘電損失を示す図である:(a)周波数依存性および(b)バイアス電圧依存性。
【図3】サンプルPZT/DEGの液体複合誘電材料のJ−E特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の詳細な説明において、本明細書の一部を形成する添付の図面を参照する。図面において、同様の符号は、文脈が別途指示しない限り、同様の構成要素を典型的には特定する。詳細な説明、図面および特許請求の範囲に記載されている例示的な実施形態は、限定的であることは意図されていない。本明細書に提示されている主題の精神または範囲から逸脱することなく、他の実施形態が利用されてよく、他の変更がなされてよい。本明細書に一般に記載され、図において例示されているように、本開示の態様は、広範な種々の構成において配置され、置換され、組み合わされ、分離され、設計されてよく、これらの全てが本明細書において明確に企図されることが容易に理解されよう。
【0010】
「誘電体」または「誘電材料」という用語は、該材料が電気エネルギーを貯蔵することが可能であるように、電界、磁界または電磁界との相互作用の観点から考慮される広域な非金属を指す。したがって、誘電材料は、液体および固体だけでなく気体でもある。誘電材料は、不良な(poor)電気導体である物質であるが、静電界の有効な支持体である。反対の電荷の極の間の電流の流れが、静電磁束線(electrostatic lines of flux)が妨げられずまたは中断されずに最小に維持されると、静電界はエネルギーを貯蔵することができる。この特性は、特に無線周波数で、キャパシタにおいて有用である。誘電材料はまた、無線周波通信線の構成においても用いられる。
【0011】
誘電体の特性は、誘電体が最小エネルギーを熱の形態で散逸させながら静電界を支持する能力である。誘電損失(熱としてのエネルギー損失の割合)が低いほど、誘電材料はより効果的である。別の考慮すべき事項は誘電定数、つまり、物質が静電磁束線を集中させる程度である。低い誘電定数を有する物質として、完全な真空、乾燥空気、ならびにヘリウムおよび窒素などの最も純粋な乾性ガスが挙げられる。中程度の誘電定数を有する材料として、セラミック、蒸留水、紙、マイカ、ポリエチレン、およびガラスである。金属酸化物は、一般に、高い誘電定数を有する。
【0012】
酸化アルミニウムなどの高誘電定数物質の利点は、小さな物理的体積を有する高価値のキャパシタの製造を可能にするという事実である。しかし、これらの材料は、空気などの低誘電定数物質程に強い静電界に耐えることが一般に可能でない。誘電材料を横切る電圧が大きくなりすぎると、すなわち、静電界が強くなり過ぎると、材料が電流を突然伝導し始める。この現象は、誘電体破壊と呼ばれる。気体または液体を誘電体媒質として用いる構成要素において、この状態は、電圧が臨界点未満に減少すると反転する。しかし、固体誘電体を含有する構成要素においては、誘電体破壊が永久的な損傷を通常はもたらす。
【0013】
「キャパシタ」または「コンデンサ」は、誘電体によって分離される1対の導体からなる受動電子部品である。導体間に電位差が存在するとき、誘電体には電界が存在する。この界は、エネルギーを貯蔵し、プレート間に機械的な力を生成する。この効果は、広く、平坦な、平行に狭く分離された導体間で最も大きい。理想的なキャパシタは、ファラッドで測定される、単一の一定値、静電容量によって特徴付けられる。これは、各導体における電荷対導体間の電位差の比である。実際には、プレート間の誘電体は、少量の漏れ電流を通す。導体およびリードは、等価の直列抵抗を導入し、誘電体は、破壊電圧をもたらす電界強度限界を有する。
【0014】
「誘電率」という用語は、電界が媒質にどのように影響し、媒質によってどのように影響されるかを表す物理量を指し、材料が界に応答して分極し、これにより材料内の全電界を低減させる能力によって決定される。したがって、誘電率は、材料が電界を伝達する(または「受容する」)能力に関する。定数εは、自由空間の電気定数または誘電率として知られており、値ε≒8.854,187,817×10−12F/mを有する。「誘電体誘電率」または「相対誘電体誘電率」(ε)は、自由空間の誘電率に対する誘電材料の誘電率、すなわち、静的絶対誘電率(絶対値)を指す。「誘電定数」(ε)という用語は、「誘電体誘電率」または「相対誘電体誘電率」(ε)を称し、誘電定数は、文脈に応じて、静的相対誘電体誘電率または周波数依存性の相対誘電体誘電率のいずれであってもよい。誘電体誘電率(ε)の範囲は:<2000(低い)、2000<5000(中程度)および>10000(非常に高い)である。
【0015】
「誘電損失」という用語は、電界によって発生する熱の形態でのエネルギーの損失によって引き起こされる、誘電体における電力の損失を指す。誘電損失はまた、tanδ、散逸係数または損失正接とも称される。交流(AC)がキャパシタを通過するとき、電流は、電圧を90度リードする。誘電体がキャパシタ間に導入されるとき、誘電体の分子は、交流電界に即座に並ぶことはできない。これらの分子は、変化する界に、同相では並ばない。電流が電圧をリードする角度は、90度のリードから角度φだけ低減される。値90−φは、損失角度として知られており、記号δによって表される。力率は、cosφとして定義され、散逸係数はtanδとして定義される。極性分子は、ある一定の周波数において高い誘電体電力損失を一般に示す。低周波数において、双極子は、電界の変化に合わせて同相となることができ、電力損失は低い。周波数が増大されるにつれ、双極子の配向が可能な時間内に完了され得ずに双極子が同相から外れるようになるポイントに達し、結果として内部摩擦および発熱をもたらす。誘電損失は、1サイクルごとに交流電界から誘電体によって吸収されるエネルギーの尺度である。交流電界の周波数がさらに増大されるとき、実質的な双極子移動のための時間は存在し得ず、そのため誘電損失が低減され得る。誘電損失は、温度に依存する。
【0016】
「インピーダンス」または「電気インピーダンス」という用語は、電気電流に対抗するものの尺度を表す。電気インピーダンスは、AC回路に対する抵抗の概念を拡大して、電圧および電流の相対振幅だけでなく、相対位相も表す。回路が直流(DC)によって駆動されるときには、インピーダンスと抵抗との間に差異はなく、後者は、ゼロの位相角を有するインピーダンスと考えることができる。インピーダンスは、AC回路における電圧対電流の周波数領域比として定義される。換言すると、インピーダンスは、特定の周波数ωにおける単一複素指数関数についての電圧−電流比である。一般に、インピーダンスは、複素数であるが、この複素数は、SI単位がオームである抵抗と同じ単位を有する。正弦波電流または電圧入力について、複素インピーダンスの極形態は、電圧および電流の振幅および位相を関連づける。特に、複素インピーダンスの大きさは、電圧の振幅対電流の振幅の比であり、複素インピーダンスの位相は、電流が電圧に先行する位相シフトである。インピーダンスの逆数は、アドミタンスである(すなわち、アドミタンスは、電流対電圧比であり、モー(mho)またはジーメンス(Siemens)の単位を慣例的に有する)。
【0017】
誘電材料における「漏れ電流密度」(J)という用語は、単位面積あたりで可動電荷(すなわち、電子)が絶縁誘電材料を通してトンネルすることとして定義される。高い漏れ電流は、J>1×10−3Acm−2を意味し、中程度の漏れ電流は、1×10−3Acm−2程度のJを意味し、低い漏れ電流は、J<1×10−3Acm−2を意味する。
【0018】
「破壊電界(breakdown field)」という用語は、誘電材料の電気抵抗の迅速な低減が起こる電界である。
【0019】
システムの「最大エネルギー密度」という用語は、質量、体積または面積の単位あたりでキャパシタにおいて貯蔵され得る最大エネルギーである。
【0020】
システムの「最大電力密度」という用語は、質量、体積または面積の単位あたりでキャパシタにおいて貯蔵され得る最大電力である。
【0021】
エネルギーは、力、つまり保存則を受ける物体およびシステムの属性によって実施され得る仕事の量を表すスカラー物理量であり、電力は、仕事が実施されるまたはエネルギーが変換される率であり、それは、単位時間あたりのエネルギーである。ウルトラキャパシタまたはスーパーキャパシタは、高い最大エネルギー密度または高い最大充填密度を有する。
【0022】
「圧電係数」、「圧電率」または「d33」という用語は、圧電材料が電界に付されるときの体積変化を定量化する。圧電性は、圧電材料(とりわけ、骨を含めた結晶およびある一定のセラミック)が、印加された機械的応力に応答して電界または電位を発生させる能力である。この効果は、材料の体積内での分極密度の変化に密に関係する。材料が短絡されないと、印加された応力は、材料を横切って電圧を誘発する。
【0023】
「セルバランシング」という用語は、直列に接続された、バランシングされていないセルを補正する現象である。例としての実施形態において、セル間の内部インピーダンス(または電圧)差は、電池におけるマルチセルが直列に接続されているとき、充電または放電プロセスの間、セルバランシングされた電池において約15%であるべきであり、そうでなければ電池におけるセルはバランシングされていない。バランシングされていないセルは、より高い電圧によってセルを即座にまたは徐々にバイパスすることによって補正され得る。この現象は、セルバランシングとして知られている。
【0024】
セルバランシングは、電池パックにおける複数のセルが直列に接続されているときに考慮される。セルバランシングは、並列接続のセルにおいては必要とされない、なぜなら、この構成はセルフバランシングであるからである。電池パックのセルは、電池パックにおける全てのセルが完全に充電または放電された状態にありながら1セルあたり同一の一致した電圧を有するときにバランシングされる。パック内のセルの1個または複数個が一致していないと、電池パックは、バランシングされない。電池パックにおけるセルがバランシングされないとき、電池パックは、より小さな有効容量を有する、なぜなら、直列の一連のものにおける最も弱いセルの容量が全体のパック容量を決定するからである。バランシングされていない電池パックにおいて、充電時間の間に、1個または複数個のセルが、直列の一連のものにおける残りのセルの前に最大充電レベルに達する。放電の間には、完全に充電されていないセルが、一連のものにおける他のセルの前に枯渇される。
【0025】
「液体複合体」という用語は、2相、つまり連続液相に分散された固相を含有する材料を指す。
【0026】
「均質な溶液」または「均質な混合物」という用語は、混合物の代表的な体積要素において明確な一貫した化学組成および物理的特性を有する混合物を指す。粒子は、混合物に存在するとき、均一に広げられる。代表的な体積要素(RVE)は、混合物の典型的な材料特性を統計的に表示する、混合物の体積要素である。それは、微細構造についての十分な情報を含有するのに十分であるが混合物の巨視的な構造的寸法より十分に小さい体積を有するべきである。
【0027】
「金属錯体」という用語は、周囲の分子またはアニオン(配位子、錯化剤)アレイに結合した中心原子またはイオン(通常は金属)からなる構造を指す。周囲の分子アレイが少なくとも有機分子を含むとき、金属錯体は、「金属有機錯体」である。
【0028】
「PZT」という用語は、少なくともPb、ZrおよびTiを含む化合物を指す。
【0029】
「結晶相境界」(MPB)という用語は、固体材料、例えばPZTにおける正方晶相レジームと菱面体晶相レジームとの間の分離を指す。
【0030】
「ゾルゲルルート」という用語は、別々の粒子またはネットワークポリマーのいずれかの一体化されたネットワーク(またはゲル)のための前駆体として作用する化学溶液から出発して材料を作製する方法を指す。
【0031】
実施形態は、有機性の液相材料中に金属含有分散相材料を含む液体複合誘電材料(LCDM)であって、40Hzにおいて高い誘電体誘電率(ε)および40Hzにおいて低い誘電損失(tanδ)を有するLCDMに関する。一実施形態において、金属含有分散相材料は、結晶相境界(MPB)化合物、例えば、Pb、ZrおよびTiを含む化合物である。
【0032】
一実施形態は、安定な低いインピーダンス、高い誘電体誘電率および低い誘電損失不均一を有するLCDMに関する。マルチセルキャパシタの文脈における低いインピーダンスは、マルチセルキャパシタの個々のセルの内部インピーダンス間に15%未満の差しかないことを意味する。高い誘電体誘電率(ε)は、40Hzにおいて少なくとも10000のεを意味し、低い誘電損失(tanδ)は、1未満のtanδを指す。
【0033】
一実施形態において、LCDMは、PbZr0.52Ti0.48/ジエチレングリコール(PZT/DEG)を含む。LCDMにおいて用いられ得るPZTまたはDEG以外の他の化合物は、PZTよりも優れた誘電特性、圧電特性性および強誘電特性を有する0.65Pb(Mg1/3Nb2/3)O−0.35PbTiOなどのMPB化合物、およびDEGの代わりにポリエチレングリコール(PEG)または他の複合ポリマーを含む。
【0034】
LCDMを、例えば、2重量%のPZT粉末(約45nmのサイズ)をDEGに分散させ、50℃の浴温で約2時間加熱しながら撹拌して均質な溶液を得ることによって調製した。こうして得られたLCDMは、40Hzで測定して、室温で、非常に高い誘電体誘電率(≒13593)および低い誘電損失(≒0.9)を有した。LCDMの漏れ電流密度は低く(100Vの印加電圧において2.9×10−4Acm−2)、破壊電界は1.7kVcm−1であった。LCDMの最大エネルギー密度および最大電力密度は、それぞれ、170Whcc−1および2×10Wcc−1であった。
【0035】
他の実施形態は、検知、作動およびエネルギー貯蔵用途に用いられ得る、例えばPbZrTi1−x(PZT)などの強誘電体チタン酸ジルコン酸鉛セラミックを含むMPBに関する。一般に、組成の範囲は、x=0.40〜0.60、x=0.45〜0.57、またはx=0.48〜0.54を含み、これは正方晶相を菱面体晶の相から分離する結晶相境界(MPB)に相当する。xが約0.48では、すなわち、MPB領域では、PZT材料が、高い誘電特性および圧電特性を有する優れた特性を生ずる。この例において、最適な圧電特性および誘電特性は、MPB領域の付近における組成で得られた。
【0036】
現在利用可能なウルトラキャパシタ材料に対しての、サンプルPZT材料の利点は以下の通りである:
【0037】
合成の容易性:焼成温度を変動させるだけで、種々の粒径(40〜200nm)を有するPZT粉末がゾルゲル法によって容易に合成され得る。PZT/DEG複合体の誘電体誘電率は、複合体中のPZTの種々の粒径および種々の重量%によって容易に調整され得る。硝酸鉛(Pb(NO)、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl8HO)およびチタン(IV)イソプロポキシド(TiC1228)から出発して、結晶相境界化合物PbZr0.52Ti0.48(PZT)をゾルゲルルートによって粉末形態で容易に合成した。これらの原料を100mlの脱イオン水に溶解する。続いて5mlのHNOを上記の溶液に撹拌しながら添加した。次いで、この溶液を30分間撹拌した後に約2時間還流した。得られた前駆体を600℃で3時間焼成し、粉末を粉砕した。PZT粉末を1〜6時間の種々の継続時間で僅かにより高い温度(750〜900℃)で加熱して、種々の粒径を有するPZT粉末を得ることができる。
【0038】
低いコスト:PZT/DEGのLCDMにおいて必要とされるPZTの量は、LCDMの1〜5重量%と少ない。そのため、PZT/DEGのLCDMは、比較的低いコストで容易に作製することができる。
【0039】
誘電体誘電率の変動の容易性:種々の粒径を有するPZT粉末は、誘電体誘電率の変化につながり得る。PZT/DEG含有LCDMの誘電体誘電率は、複合体中のPZTの種々の粒径および種々の重量%を用いることによって容易に調整され得る。PZT粉末の粒径範囲:45〜200nm、DEGにおけるPZT粉末の重量%:1〜5重量%。
【0040】
PZT/DEG含有LCDMは非腐食性であり、不活性としてほぼ挙動するため、あらゆる電極材料を用いることができる。例えば、Cu電極は、図2の試験結果で用いられてきた。また、Agおよび炭素黒鉛系の電極は、PZT/DEG含有LCDMと共に用いられ得る。
【0041】
本明細書における実施形態のLCDMを用いたエネルギー貯蔵デバイスは、以下の利点を有する:
【0042】
いずれのハイブリッドシステムも用いない高いエネルギー密度。
【0043】
マルチセルシステムにおいては、高い信頼性を有することに加え、セルの不具合および損傷を回避するのにセルバランシングは必要とされない。
【0044】
腐食、自己放電および低いエネルギー密度の不利点を有さない薄膜スーパーキャパシタ材料上にコーティングされた、ゲル形態の液体電解質の形態での固体状態のスーパーキャパシタにおける有用性。
【0045】
動作限界:エネルギー貯蔵デバイスは、高い電圧(100V)および広い周波数範囲(40Hz〜10MHz)で動作され得る。PZT/DEG含有LCDMは、この混合物を高い動作電圧(1〜100V)および広い周波数範囲(40Hz〜10MHz)において有用にする、低い誘電損失、低い漏れ電流密度および高い破壊電界を有する。
【0046】
本明細書における実施形態のウルトラキャパシタ材料は液相中にあるため、エネルギー貯蔵デバイスは、いずれの形態、サイズまたは形状であり得る。
【実施例】
【0047】
硝酸鉛(Pb(NO)、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl8HO)およびチタン(IV)イソプロポキシド(TiC1228)から出発して、結晶相境界化合物PbZr0.52Ti0.48(PZT)をゾルゲルルートによって粉末形態で合成した。これらの原料を100mlの脱イオン水に溶解した。続いて5mlのHNOをPZTおよびDEGの混合物に撹拌しながら添加した。次いで、この溶液を30分間撹拌した後に約2時間還流した。反応の終わりに得られた(ゲル形態の)金属有機錯体を600℃で3時間焼成し、粉末を粉砕した。粉末を僅かにより高い温度、750℃で3時間再び加熱した。PZT粉末の調製のためのフローチャートを図1に示す。
【0048】
2重量%のPZT粉末をジエチレングリコール(DEG)に、得られる溶液を加熱しながら磁気によって撹拌しさらに超音波振動に付すことによって、分散させた。PZTの最小重量%は1重量%であり得、PZTの最大重量%は5重量%であり得る。PZT粉末の粒径は、45±5nmであった。
【0049】
LCDMの最終的な均質な溶液を、液体キャパシタのサンプルホルダに移し、LCDMの誘電体誘電率および漏れ電流特性を試験した。
【0050】
LCDMの誘電特性をインピーダンスアナライザ(Agilent 4294A、USA)によって調査した。空の液体サンプルホルダおよびPZT/DEG溶液が充填されたサンプルホルダの静電容量(C)および誘電損失(D)を測定した。次いで、方程式ε=C/Cを用いて、PZT/DEG溶液の誘電定数(ε)を算出した。ここで、CおよびCは、PZT/DEG溶液が充填されたサンプルホルダおよび空のサンプルホルダのそれぞれの静電容量である。LCDMについてのバイアス電圧=0Vによって、40Hzにおける非常に高い誘電体誘電率(ε)=13593が測定された。誘電体誘電率は、最大で20Vのバイアス電圧の増大に伴って7114の値まで徐々に減少した。しかし、誘電損失(D)は、図2aおよび2bに示されるように、バイアス電圧の増大に伴って増大することが分かる。PZT/DEG混合物の抵抗は、誘電体誘電率の減少および誘電損失の増大に基本的につながるバイアス電圧の増大に伴って減少する。
【0051】
5.5MHzにおける周波数共鳴は、誘電損失曲線において明らかに見られ、これはPZT部位とDEG部位との間のイオンホッピング(または相互作用)に起因し得る。PZT/DEG溶液は、広い周波数範囲にわたって用いられ得る。PZT/DEG複合体の誘電体誘電率は、複合体中のPZT含量の重量%を変動させるだけで容易に調整され得る。この特徴は、PZT/DEG溶液の誘電特性を変更するのに用いて、これらの溶液を広い周波数および動作電圧範囲にわたって有用にすることができる。
【0052】
複合体の高い誘電体誘電率は、互いに並列に接続された導電層(DEG分子)によって覆われた非導電層(コアとしてのPZT粒子)の形成の結果であり得る。この特徴は、PZTのみの約2000からPZT/DEGのLCDMの約14000(特に、一例においては13593)まで誘電定数(ε)を増大させる予想外の結果を生ずる。
【0053】
印加電界(E)によるLCDMの漏れ電流密度(J)を、プレシジョンプレミア(強誘電体ループトレーサ)(precision premier ferroelectric loop tracer)(Radiant Technologies、USA)を用いて測定した。PZT/DEG溶液(すなわち、例としてのLCDM)のI−V特性をプレシジョンプレミア(強誘電体ループトレーサ)(Radiant Technologies、USA)を用いて測定した。PET/DEGのJ−E特性を電極の面積(A)および電極の分離(d)を用いて導いた。
【0054】
LCDMのJ−E測定は、図3に見られるようなJ−E特性を示した。例としてのLCDMは、100Vの印加電圧において2.9×10−4Acm−2の低い漏れ電流密度および1.7kVcm−1の破壊電界を有した。PZT/DEG含有LCDMの最大エネルギー密度および最大電力密度は、それぞれ、170Whcc−1および2×10Wcc−1であることが見出された。
【0055】
比較結果
【0056】
【表1】

【0057】
詳細な説明において、本明細書の一部を形成する添付の図面を参照する。図面において、同様の符号は、文脈が別途指示しない限り、同様の構成要素を典型的には特定する。詳細な説明、図面および特許請求の範囲に記載されている例示的な実施形態は、限定的であることは意図されていない。本明細書に提示されている主題の精神または範囲から逸脱することなく、他の実施形態が利用されてよく、他の変更がなされてよい。本明細書に一般に記載され、図において例示されているように、本開示の態様は、広範な種々の構成で配置され、置換され、組み合わされ、分離され、設計されてよく、これらの全てが本明細書において明確に企図されることが容易に理解されよう。
【0058】
本開示は、種々の態様の例示として意図されている、本出願に記載されている特定の実施形態の点から限定されるべきではない。当業者に明らかであるように、その精神および範囲から逸脱することなく多くの変更および変形がなされ得る。本開示の範囲内で機能的に均等な方法および装置は、本明細書に列挙されているものに加えて、上記の説明から当業者に明らかであろう。かかる変更および変形は、添付の特許請求の範囲内にあると意図される。本開示は、添付の特許請求の範囲が付与される均等物の全範囲と共に、かかる特許請求の範囲の条件によってのみ限定されるべきである。本開示は、当然ながら変動し得る特定の方法、試薬、化合物、組成物または生体系に限定されないことが理解されるべきである。また、本明細書において用いられている術語は、特定の実施形態を記載する目的のみであり、限定的であることは意図されないことも理解されるべきである。
【0059】
本明細書における実質的にすべての複数形および/または単数形の用語の使用に対して、当業者は、状況および/または用途に適切なように、複数形から単数形に、および/または単数形から複数形に変換することができる。さまざまな単数形/複数形の置き換えは、理解しやすいように、本明細書で明確に説明することができる。
【0060】
通常、本明細書において、特に添付の特許請求の範囲(例えば、添付の特許請求の範囲の本体部)において使用される用語は、全体を通じて「オープンな(open)」用語として意図されていることが、当業者には理解されよう(例えば、用語「含む(including)」は、「含むがそれに限定されない(including but not limited to)」と解釈されるべきであり、用語「有する(having)」は、「少なくとも有する(having at least)」と解釈されるべきであり、用語「含む(includes)」は、「含むがそれに限定されない(includes but is not limited to)」と解釈されるべきである、など)。導入される請求項で具体的な数の記載が意図される場合、そのような意図は、当該請求項において明示的に記載されることになり、そのような記載がない場合、そのような意図は存在しないことが、当業者にはさらに理解されよう。例えば、理解の一助として、添付の特許請求の範囲は、導入句「少なくとも1つの(at least one)」および「1つまたは複数の(one or more)」を使用して請求項の記載を導くことを含む場合がある。しかし、そのような句の使用は、同一の請求項が、導入句「1つまたは複数の」または「少なくとも1つの」および「a」または「an」などの不定冠詞を含む場合であっても、不定冠詞「a」または「an」による請求項の記載の導入が、そのように導入される請求項の記載を含む任意の特定の請求項を、単に1つのそのような記載を含む実施形態に限定する、ということを示唆していると解釈されるべきではない(例えば、「a」および/または「an」は、「少なくとも1つの」または「1つまたは複数の」を意味すると解釈されるべきである)。同じことが、請求項の記載を導入するのに使用される定冠詞の使用にも当てはまる。また、導入される請求項の記載で具体的な数が明示的に記載されている場合でも、そのような記載は、少なくとも記載された数を意味すると解釈されるべきであることが、当業者には理解されよう(例えば、他の修飾語なしでの「2つの記載(two recitations)」の単なる記載は、少なくとも2つの記載、または2つ以上の記載を意味する)。さらに、「A、BおよびC、などの少なくとも1つ」に類似の慣例表現が使用されている事例では、通常、そのような構文は、当業者がその慣例表現を理解するであろう意味で意図されている(例えば、「A、B、およびCの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AおよびBを共に、AおよびCを共に、BおよびCを共に、ならびに/またはA、B、およびCを共に、などを有するシステムを含むが、それに限定されない)。「A、B、またはC、などの少なくとも1つ」に類似の慣例表現が使用されている事例では、通常、そのような構文は、当業者がその慣例表現を理解するであろう意味で意図されている(例えば、「A、B、またはCの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AおよびBを共に、AおよびCを共に、BおよびCを共に、ならびに/またはA、B、およびCを共に、などを有するシステムを含むが、それに限定されない)。2つ以上の代替用語を提示する事実上いかなる離接する語および/または句も、明細書、特許請求の範囲、または図面のどこにあっても、当該用語の一方(one of the terms)、当該用語のいずれか(either of the terms)、または両方の用語(both terms)を含む可能性を企図すると理解されるべきであることが、当業者にはさらに理解されよう。例えば、句「AまたはB」は、「A」または「B」あるいは「AおよびB」の可能性を含むことが理解されよう。
【0061】
さらに、開示の特徴または態様がマーカッシュグループの点から記載される場合、当業者には、開示はしたがってマーカッシュグループのいずれの個々のメンバーまたはメンバーの下位グループの点からも記載されていることが認識されよう。
【0062】
当業者によって理解されるように、いずれかおよび全ての目的で、例えば書面による明細書を付与する点から、本明細書に開示されている全ての範囲はまた、いずれかおよび全ての可能な下位範囲およびこれらの下位範囲の組合せも包含する。列挙したいずれの範囲も、少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分解された同範囲を十分に記載しこれを可能にするとして容易に認識され得る。非限定的な例として、本明細書において議論されている各範囲は、下部3分の1、中部3分の1、および上部3分の1などに容易に分解され得る。また当業者によって理解されるように、全ての語、例えば「最大で」、「少なくとも」、「超える」、「未満」などは、列挙した数値を含み、先に議論されているように、後に下位範囲に分解され得る範囲を指す。最後に、当業者によって理解されるように、範囲は、それぞれ個々のメンバーを含む。したがって、例えば、1〜3個のセルを有する群とは、1、2、または3個のセルを有する群を指す。同様に、1〜5個のセルを有する群とは、1、2、3、4、または5個のセルを有する群を指す、などである。
【0063】
種々の態様および実施形態を本明細書に開示したが、他の態様および実施形態が当業者に明らかであろう。本明細書に開示した種々の態様および実施形態は、例示の目的であり、限定的であることは意図されず、真の範囲および精神が以下の特許請求の範囲によって示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性の液相材料中に金属含有分散相材料を含む液体複合誘電材料(LCDM)であって、40Hzにおいて10000以上の誘電体誘電率(ε)および40Hzにおいて1以下の誘電損失(tanδ)を有するLCDM。
【請求項2】
前記金属含有分散相材料が、結晶相境界(MPB)化合物を含む、請求項1に記載のLCDM。
【請求項3】
前記有機性の液相材料が、グリコールを含む、請求項1に記載のLCDM。
【請求項4】
1×10−3Acm−2未満の漏れ電流密度を有する、請求項1に記載のLCDM。
【請求項5】
均質な溶液である、請求項1に記載のLCDM。
【請求項6】
前記MPB化合物が、Pb、ZrおよびTiを含む、請求項2に記載のLCDM。
【請求項7】
前記MPB化合物が、強誘電体チタン酸ジルコン酸鉛セラミックを含む、請求項2に記載のLCDM。
【請求項8】
前記MPB化合物が、Pb、Mg、Nb、およびTiを含む、請求項2に記載のLCDM。
【請求項9】
前記MPB化合物が、PbZrTi1−xを含み、ここで、0.4<x<0.6である、請求項2に記載のLCDM。
【請求項10】
請求項1に記載のLCDMを含む電気化学キャパシタ。
【請求項11】
1〜100Vの動作電圧および40Hz〜10MHzの動作周波数範囲を有する、請求項10に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項12】
それぞれ100Whcc−1および1×10Wcc−1を超える、単一の電気化学キャパシタの最大エネルギー密度および電力密度を有する、請求項10に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項13】
前記最大エネルギー密度および前記電力密度が、それぞれ約170Whcc−1および約2×10Wcc−1である、請求項12に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項14】
有機性の液相材料中に金属含有分散相材料を含む複合誘電材料(LCDM)を製造する方法であって、前記金属含有分散相材料の粉末をゾルゲルルートによって形成することと、前記金属含有分散相材料の前記粉末を前記有機性の液相材料に分散させて均質な溶液を有する前記LCDMを形成することとを含む方法。
【請求項15】
前記金属含有分散相材料が、結晶相境界(MPB)化合物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記有機性の液相材料が、グリコールを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記LCDMが、1×10−3Acm−2未満の漏れ電流密度を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記MPB化合物が、強誘電体チタン酸ジルコン酸鉛セラミックを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記MPB化合物が、Pb、Mg、Nb、およびTiを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記MPB化合物が、PbZrTi1−xを含み、ここで、0.4<x<0.6である、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−510413(P2013−510413A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538425(P2012−538425)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【国際出願番号】PCT/IB2010/002787
【国際公開番号】WO2011/058406
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(512041436)インディアン インスティテュート オブ テクノロジー マドラス (4)
【Fターム(参考)】