説明

液体記録ヘッド及びにその製造方法

【課題】本願発明は、インク等の液体に対する耐性と接着性に優れる液体記録ヘッドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、シリコン基板の第一の面と反対側の第二の面に、液体に対する耐性を有する保護膜と、接着性向上膜と、が配置され、前記保護膜は、液体供給口の開口の周辺領域に設けられ、液体吐出チップとヘッド基板とが、前記シリコン基板の第二の面側において液体供給口及び液体導入口が連通するように接着剤を用いて接着されている液体記録ヘッドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体記録ヘッド及びその製造方法に関する。また、本発明は、好ましくは、インクを吐出するインクジェットヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、吐出エネルギー発生素子の上方にインクを吐出するタイプのサイドシューター型インクジェットヘッドが知られている。このタイプのインクジェットヘッドは、一般的に、基板からなるインクジェットチップをインク導入口を備えたヘッド基板に接合して製造されている。
【0003】
インクジェットチップを製造する際には一般的にシリコン基板が用いられる。シリコン基板の表面に吐出エネルギー発生素子とインク流路とインクを吐出するノズルを形成し、基板裏面から表面に貫通するインク供給口を形成するものがある。この基板裏面より貫通するインク供給口を介して、インクを基板裏面から基板表面のノズルに供給される。
【0004】
このシリコン基板の裏面から表面に貫通するインク供給口の形成方法としては、例えば、シリコンの異方性エッチングを用いる方法がある。このエッチング方法は、シリコンの結晶方位に対するエッチング速度の差を利用し所望の形状を得るものである。
【0005】
この異方性エッチングを行う際は、エッチングマスクとしてシリコン基板裏面に熱酸化膜を形成することが知られている。熱酸化膜はエッチング液である強アルカリ溶液に対して高い耐性を有しており、異方性エッチングのマスク材として好適である。さらに熱酸化膜は耐インク性にも優れているので、インク中に露出されるシリコン基板のインク保護膜としても熱酸化膜は機能する。
【0006】
異方性エッチングにてインク供給口が形成されたインクジェットチップは、インク導入口を備えたヘッド基板に接着剤等を用いて接合する。
【0007】
しかし、この接着剤による接合を行う際、インクジェットチップの裏面にインク保護膜である熱酸化膜を残存させたまま接合を行うと、高い接着力が得られない場合がある。熱酸化膜の表面には、接着剤と化学結合する官能基が少ないからである。
【0008】
これを回避する手法として、特許文献1に記載されているように、接着部のみ接着力が低いインク保護膜を除去した後に部材の接着を行う方法がある。インク保護膜を除去した部分のシリコン基板は官能基が豊富に存在するシリコンの自然酸化膜となる。そのため、接着剤による接合時にシリコン基板裏面とヘッド基盤の高い接着力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−208383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、シリコンの自然酸化膜を接着面とすることにより高い接着力を得ることができる。しかし、接着性向上膜であるシリコンの自然酸化膜は、接着剤との高い接着力を得られる一方で、インクに対する耐性が低い。昨今のインクにはアルカリ成分が含まれることが多く、シリコンの自然酸化膜はこのアルカリ成分に少なからず溶解する場合がある。このシリコンが溶解したインクがインクを吐出するノズルに供給されると、熱を発する吐出エネルギー発生素子を用いている場合では吐出エネルギー発生素子上にシリコンが析出し、所望の吐出圧力を得られなくなる場合や、析出したシリコンがノズルに詰まる場合がある。
【0011】
このような課題に対する回避策としては、例えば、シリコンの自然酸化膜をインクジェットチップとヘッド基板を接合する接着剤で完全に覆うことにより、シリコンの自然酸化膜をインク中に露出させない手法がある。しかし、インクジェットチップとヘッド基板の接合時の組み立て精度や、それぞれの部品の寸法精度を踏まえると、自然酸化膜を完全に覆うことが困難な場合がある。また、インクの処方にアルカリ成分を含ませないようにする手法もあるが、インク処方の選択肢の幅が狭くなってしまう。
【0012】
そこで、本願発明は、インク等の液体に対する耐性と接着性に優れる液体記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
液体を吐出するための液体吐出口及び該液体吐出口に連通する液体流路を構成する流路形成層と、前記液体流路に前記液体を供給するための液体供給口を含み、かつ前記液体を吐出するための吐出エネルギー発生素子を第一の面側に有するシリコン基板と、を有し、前記シリコン基板の前記第一の面側に前記流路形成層が配置されている液体吐出チップと、
前記液体供給口に前記液体を供給するための液体導入口を含むヘッド基板と、
を備える液体記録ヘッドであって、
前記シリコン基板の前記第一の面と反対側の第二の面に、前記液体に対する耐性を有する保護膜と、接着性向上膜と、が配置され、
前記保護膜は、前記液体供給口の開口の周辺領域に設けられ、
前記液体吐出チップと前記ヘッド基板とが、前記シリコン基板の前記第二の面側において前記液体供給口及び前記液体導入口が連通するように接着剤を用いて接着されていることを特徴とする液体記録ヘッドである。
【0014】
また、本発明は、
少なくとも液体供給口を有する液体吐出チップの製造方法であって、
(1)液体を吐出するための吐出エネルギー発生素子を第一の面側に有し、前記第一の面と反対側の第二の面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板を用意する工程と、
(2)前記シリコン基板の前記熱酸化膜の上に樹脂層を形成する工程と、
(3)前記樹脂層のうち前記液体供給口の形成領域に相当する部分を除去し、前記樹脂層に第一のパターンを施す工程と、
(4)前記第一のパターンの底部に露出する前記熱酸化膜を前記樹脂層をマスクとして用いて除去する工程と、
(5)前記樹脂層を少なくとも前記第一のパターンの周辺領域を残して除去し、第二のパターンを施す工程と、
(6)前記熱酸化膜及び前記樹脂層をマスクとして用いて前記シリコン基板を異方性エッチングし、前記第二の面から前記第一の面に連通する前記液体供給口を前記シリコン基板に形成する工程と、
(7)前記第二のパターンの底部に露出する熱酸化膜を前記樹脂層をマスクとして用いて除去する工程と、
(8)前記樹脂層を除去する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出チップの製造方法である。
【0015】
また、本発明は、
前記製造方法により得られた液体吐出チップと、前記液体供給口に液体を供給するための液体導入口を含むヘッド基板と、を接着剤を用いて接着させる液体記録ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、インク等の液体に対する耐性との接着性に優れる液体記録ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の液体記録ヘッドの構成例を示す概略断面図である。
【図2】本実施形態の液体記録ヘッドの構成を説明するための模式的斜視分解図である。
【図3】本実施形態の液体吐出チップの製造方法の例を説明するための模式的な断面工程図である。
【図4】本実施形態の液体吐出チップの製造方法の例を説明するための模式的な断面工程図である。
【図5】図4に続き、本実施形態の液体吐出チップの製造方法の例を説明するための模式的な断面工程図である。
【図6】本実施形態の液体記録ヘッドの構成例を示す概略断面図である。
【図7】本実施形態の液体記録ヘッドの構成例を示す概略断面図である。
【図8】本実施形態の液体記録ヘッドの構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を用い説明する。なお、本明細書では、本発明の適用例としてインクジェットヘッドを例に挙げて説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、バイオッチップ作製や電子回路印刷用途の液体記録ヘッド等にも適用できる。液体記録ヘッドとしては、インクジェットヘッドの他にも、例えばカラーフィルター製造用ヘッド等も挙げられる。
【0019】
まず、図2は、本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの模式的分解図である。インク導入口(液体導入口)105を有するヘッド基板101上に、インク供給口(液体供給口)、ノズル及び吐出エネルギー発生素子を備えた液体吐出チップとしてのインクジェットチップ113が接着剤にて接合される。さらに、インクジェットプリンタ本体とインクジェットチップ113とを電気的に接続するための配線基板112がヘッド基板に接合される。配線基板112とインクジェットチップ113は電気的に接続される(不図示)。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの模式的断面図である。図1において、インクジェットチップ113は、インク供給口106を有するシリコン基板100と、流路形成層111と、からなる。シリコン基板100の表面側(流路形成層111が配置される側、以下第一の面側とも称す)には吐出エネルギー発生素子が配置されており(不図示)、該吐出エネルギー発生素子で生ずる吐出エネルギーによりインクがインク吐出口(液体吐出口)から吐出される。インク供給口106からインク流路(液体流路)にインクが供給される。ノズルはインク吐出口とインク流路を含む概念である。流路形成層はインクを吐出するためのインク吐出口及び該インク吐出口に連通するインク流路を構成する。
【0021】
インクジェットチップ113は、接着剤102を用いて、インク供給口106とインク導入口105とが連通するように、ヘッド基板101に接合されている。ヘッド基板101に設けられたインク導入口105からインクジェットチップのインク供給口106にインクが供給される。そして、インクジェットチップのインク供給口106からインク流路にインクが供給される。インクジェットチップのインク吐出口の下方には、吐出エネルギー発生素子が設けられている(不図示)。
【0022】
インクジェットチップのシリコン基板100の裏面(第一の面と反対側の面、以下第二の面とも称す)には、熱酸化膜等のインク保護膜104と、自然酸化膜等の接着性向上膜103とが配置されている。つまり、シリコン基板100のヘッド基板101との接着面には、インク保護膜104と接着性向上膜103とが配置されている。
【0023】
ここで、インク等の液体に対して耐性を有する保護膜が液体供給口の開口の周辺領域に設けられていることにより、シリコンの溶出を抑制することができる。
【0024】
シリコンの溶出は液体供給口の開口の端から進む傾向があるため、保護膜は、液体供給口の開口端に沿って設けられていることが好ましい。
【0025】
保護膜の材料としては、例えば、SiO,SiOC,SiON,Ta,Au等が挙げられる。また、SiOとしては、シリコン基板の熱酸化による熱酸化膜が好ましい。
【0026】
接着性向上膜は、接着剤との接着性を向上させることができる膜であればよく、例えば、シリコン基板の自然酸化膜,Ni,Al,Cu等が挙げられる。これらの中でも、接着性向上膜としては、シリコン基板の自然酸化膜が好ましい。
【0027】
接着性向上膜は、シリコン基板の裏面であって前記保護膜が配置される領域以外の領域に配置されることが好ましい。これにより、シリコン基板の液体供給口の開口周辺を保護膜によって保護しつつ、接着性向上膜によりシリコン基板とヘッド基板との接着力を向上させることができる。
【0028】
図1に示すように、インクジェットチップ113をヘッド基板101に接着した際、それぞれの部品公差と組み立て精度により、インクジェットチップのインク供給口106の端部がヘッド基板101のインク導入口105上にはみだしてしまう場合がある。
【0029】
また、ヘッド基板101に接着剤102を塗布してからインクジェットチップを接着させると、それぞれの寸法公差と組み立て公差によるずれにより、図1に示すように、インク供給口106の端部が接着剤102で覆われず、インク中に露出される場合が生じる。しかし、本実施形態では、図1に示すように、このはみだした端部、つまりインク供給口の開口の周辺には熱酸化膜等のインク保護膜104が配置されている。したがって、インク供給口106とインク導入口105にインクを流入してもシリコンがインク中に溶解することが抑制される。さらに、ヘッド基板101との接合部の中央には接着性向上膜である自然酸化膜103が配置されているのでインクジェットチップとヘッド基板101の接着性に優れる。
【0030】
尚、インクジェットチップ側に接着剤102を塗布して、インクジェットチップとヘッド基板101とを接着させる方法もある。この方法を用いればインクジェットチップの接着面を接着剤102で覆うことが可能となる。
【0031】
液体供給口は、シリコン基板を裏面側(第二の面側)から異方性エッチングすることにより形成することができる。この異方性エッチングとしては、結晶異方性エッチングであることが好ましい。結晶異方性エッチングを利用すれば、液体供給口の側壁の面方位が(111)となるので、インク等の液体に対する耐性が向上する。
【0032】
図7において、流路形成部層3は、空間的にそれぞれ連通するインク吐出口及びインク流路及びインク供給口からなるノズル列を複数有する。つまり、インク流路5及び吐出口6が複数配置され、複数のノズル列を形成している。また、シリコン基板1を貫通するインク供給口8がノズル列毎に形成されている。また、ノズル列は列状に配置されている。一つのノズル列は同一のインクを保持及び吐出することができる。図8は、図7に示すインクジェットチップの裏面側を示す模式的平面図である。図8において、104はインク保護膜を示し、103は接着性向上膜を示す。図8に示すように、インク保護膜104はインク供給口の開口端に沿ってインク供給口の周辺領域に配置されていることが好ましい。また、接着性向上膜103は、少なくともノズル列の間に配置されていることが好ましい。つまり、隣接するインク供給口間(液体供給口間)におけるシリコン基板の裏面において、一方のインク供給口の周辺領域に配置された保護膜と、もう一方のインク供給口の周辺領域に配置された保護膜との間に、接着性向上膜が配置されていることが好ましい。接着性向上膜103がノズル列の間に配置されていることにより、接着の問題が起きやすいノズル列の間においても接着力を向上することができるためである。
【0033】
(実施形態及び実施例)
以下に、上記本発明の実施形態に係る製造方法について説明する。また、合わせてその実施例を説明する。
【0034】
まず、図3(a)に示すように、流路形成層111を表面側に有するシリコン基板100を用意する。図3(a)において、シリコン基板100の表面側(図において基板下側)にはノズルを有する流路形成層111が配置されている。シリコン基板100の裏面には熱酸化膜104が形成されている。
【0035】
本実施例では、熱酸化膜104は、シリコン基板100を700℃で熱処理することで形成した。
【0036】
流路形成層111の形成方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、無機膜や有機膜を用いて形成する方法が挙げられる。
【0037】
有機膜を用いた流路形成層111の形成方法の例について以下に具体的に説明する。まず、シリコン基板100の表面に吐出エネルギー発生素子に合わせてポジ型の感光性樹脂を積層する。ポジ型感光性樹脂としては、例えば、ジアゾナフトキノン系の樹脂やイソプロペニルケトン系などの樹脂を用いることができる。ポジ型感光性樹脂を積層した後、この樹脂をインク流路のパターンにフォトリソ法にて形成し、インク流路パターンを形成する。次に、このインク流路パターンの上にネガ型の感光性樹脂を積層する。ネガ型感光性樹脂としては、耐インク性の観点より、エポキシ系樹脂が好適である。ネガ型感光性樹脂を積層後、フォトリソ法にてネガ型感光性樹脂にインク吐出口を形成する。次に、インク流路パターンを溶剤を用いて溶解除去する。
【0038】
本実施例では、この有機膜を用いた形成方法によって流路形成層を形成した。本実施例ではインク流路パターンとなるポジ型感光性樹脂としてイソプロペニルケトン系の樹脂を用い、流路形成層となるネガ型感光性樹脂として光カチオン重合型の脂環式エポキシ樹脂を用いた。
【0039】
次に、シリコン基板100にインク供給口106を形成する工程について説明する。
【0040】
まず、シリコン基板100の表面側に形成された流路形成層111を溶剤による除去が容易に可能な樹脂で保護しておく(不図示)。
【0041】
図3(b)に示すように、シリコン基板100の裏面に、つまり熱酸化膜104の上に樹脂層からなるマスク材107を配置する。
【0042】
マスク材107として用いる樹脂は、熱酸化膜104を溶解除去するために用いる溶液(例えばフッ酸)に耐性のある樹脂を用いることができ、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、薬品に対する耐性が高いという観点から、ポリアミド樹脂が好ましい。また、マスク材107としては、フォトリソ法によるパターン形成が可能な感光性樹脂を用いることもできる。
【0043】
本実施例では、マスク材107としてポリアミド樹脂を用いた。
【0044】
次に、図3(c)に示すように、マスク材107をフォトリソ技術によりパターニングしてマスク材のうち液体供給口の形成領域に相当する部分を除去し、マスク材に第一のパターン108を施す。
【0045】
マスク材107として熱可塑性樹脂を用いる場合は、フォトリソ技術によるパターニングを施すために、別の感光性樹脂を用いる。この場合は、別の感光性樹脂をマスク材107上に配置し、感光性樹脂をフォトリソ技術によりパターニングし、該パターニングされた感光性樹脂を用いてマスク材107をエッチングし、第一のパターン108を形成する。感光性樹脂は溶剤にて除去することができる。
【0046】
この第一のパターン108は、図3(c)に示すように、後に形成するインク供給口106を形成するためのインク供給口形成用パターンである。
【0047】
次に、図3(d)に示すように、シリコン基板100をフッ酸に浸漬させ、第一のパターン108を有するマスク材107を用いて、第一のパターンの底部に露出する熱酸化膜104を除去する。熱酸化膜104が除去された領域は、シリコン面となるが、このシリコン面には空気中の酸素によりシリコンが酸化されて自然酸化膜103が形成される。
【0048】
次に、図3(e)に示すように、マスク材107に第二のパターン109を形成する。第二のパターンは、少なくとも第一のパターンの周辺領域を残してマスク材を除去して形成する。つまり、第二のパターンは、第一のパターンの周辺領域以外の領域の少なくとも一部を除去することにより形成する。また、第二のパターン109は第一のパターン108を形成した際と同様の手順で形成することができる。第二のパターン109は、図3(e)に示すように、インク供給口形成用パターンとはマスク材107を介して隔たれた領域に形成される。この際、第二のパターン109の領域にある熱酸化膜の溶解除去は行わない。
【0049】
次に、シリコン基板100をアルカリ溶液に浸漬させる。熱酸化膜104が除去された第一のパターンの領域では、アルカリ溶液によるシリコン基板100のエッチングが進行し、図3(f)に示すように、シリコン基板100の表面に向けてインク供給口106が形成される。エッチングは第一の面に到達するまで実施する。このシリコンの結晶異方性エッチングにより、インク供給口106の側壁は結晶方位(111)に倣って形成される。該側壁の角度は、基板の面に対して54.7度となる。
【0050】
尚、第二のパターン109の領域には熱酸化膜が存在するので、シリコン基板100のアルカリによるエッチングは生じない。
【0051】
また、インク供給口106の形成時、シリコン基板100の表面にはエッチングストップ層を設けておいてもよい。本実施例ではシリコン基板100の表面にエッチングストップ層として熱酸化膜を配置しておいた(不図示)。エッチングストップ層としては例えばシリコン酸化膜を用いることができる。
【0052】
次に、インク供給口106が形成されたシリコン基板100をフッ酸に浸漬させる。このフッ酸によりマスク材107の第二のパターン109の底部に露出している熱酸化膜104を除去し、図3(g)に示すようにシリコンを露出させる。
【0053】
尚、実施例では、このフッ酸による熱酸化膜の除去時、前述のエッチングストップ層である熱酸化膜も同時に除去した。
【0054】
第二のパターン109の底部に露出されたシリコンは空気中の酸素により酸化されて自然酸化膜103となる。
【0055】
次に、図3(h)に示すように、ドライエッチングによりマスク材107を除去し、インクジェットチップを得る。
【0056】
このインクジェットチップは、シリコン基板裏面のインク供給口106の開口の周囲に熱酸化膜104が残存している。この熱酸化膜104はインク保護膜として機能するので、インク供給口106にインクが流入しても、インクによるシリコン基板100の溶解が抑制される。また、シリコン基板裏面のインク供給口106周囲の熱酸化膜104を隔てた平面部には自然酸化膜103が存在するので、インクジェットチップを接着剤102によりヘッド基板101に接合する際には高い接着力を得ることができる。また、本実施例で作製したインクジェットチップは、加工精度や部品精度の都合上でヘッド基板101にずれて接合されても高い接着強度と優れた耐インク性を両立することが可能である。
【0057】
次に、得られたインクジェットチップを、接着剤102を用いてヘッド基板101に接合する。ヘッド基板101に接合するための接着剤102としては、例えば、エポキシ系やアクリル系等の接着剤102を用いることができるが、優れた耐インク性と接着性の観点よりエポキシ系の接着剤102が好適に用いられる。
【0058】
本実施例では熱硬化型のエポキシ接着剤を用いてインクジェットチップとヘッド基板の接合を行い、インクジェットヘッドを得た。また、本実施例では、ヘッド基板101に接着剤102を塗布して、インクジェットチップを接合した。
【0059】
本実施例により得られたインクジェットヘッドは、シリコン基板の溶解も起こさず、さらにインクジェットチップとヘッド基板101との接着性に優れ、高い信頼性を有するものであった。
【0060】
(実施形態2)
インク供給口を形成する際、図4に示すように、熱酸化膜104が除去された部分にレーザによる穴加工を行った後、シリコンの結晶異方性エッチングを行うこともできる。これにより、図5に示すように、<>形状のインク供給口を形成することができる。
【0061】
レーザにより先導孔を形成しておくことにより、シリコンを異方性エッチングする際のエッチング時間を大幅に短縮することが可能となる。これは、予め図4に示すようにレーザ穴110が開けられた状態でシリコン基板100をアルカリ液に浸漬させると、穴にアルカリ液が浸透し、シリコン基板内部からもエッチングが行われるので大幅なタクトの短縮が可能となるためである。
【0062】
尚、この手法を用いた以外上記実施例と同様にして作製したインクジェットチップは、図5に示すような、<>形状を有するインク供給口106が形成された。図5に示すレーザによる穴加工を施したインクジェットチップのヘッド基板101との接合面は、上記実施例と同様にインク供給口106の周囲に熱酸化膜104が配備されており、インク露出部において高いインク耐性を得ることができている。さらに熱酸化膜104を隔てた平面部はシリコンの自然酸化膜103となっているので、ヘッド基板101との高い接着力を得ることができる。このようにして、本実施例でも図6に示すようにインクジェットチップの高い接着性と優れたインク耐性を有するインクジェットヘッドを得ることができた。
【符号の説明】
【0063】
100 シリコン基板
101 ヘッド基板
102 接着剤
103 自然酸化膜
104 熱酸化膜
105 インク導入口
106 インク供給口
107 マスク材
108 第一のパターン
109 第二のパターン
110 レーザ穴
111 ノズル
112 配線基板
113 インクジェットチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための液体吐出口及び該液体吐出口に連通する液体流路を構成する流路形成層と、前記液体流路に前記液体を供給するための液体供給口を含み、かつ前記液体を吐出するための吐出エネルギー発生素子を第一の面側に有するシリコン基板と、を有し、前記シリコン基板の前記第一の面側に前記流路形成層が配置されている液体吐出チップと、
前記液体供給口に前記液体を供給するための液体導入口を含むヘッド基板と、
を備える液体記録ヘッドであって、
前記シリコン基板の前記第一の面と反対側の第二の面に、前記液体に対する耐性を有する保護膜と、接着性向上膜と、が配置され、
前記保護膜は、前記液体供給口の開口の周辺領域に設けられ、
前記液体吐出チップと前記ヘッド基板とが、前記シリコン基板の前記第二の面側において前記液体供給口及び前記液体導入口が連通するように接着剤を用いて接着されていることを特徴とする液体記録ヘッド。
【請求項2】
前記保護膜は、前記液体供給口の開口端に沿って設けられている請求項1に記載の液体記録ヘッド。
【請求項3】
前記接着性向上膜は前記シリコン基板の前記第二の面であって前記保護膜が配置される領域以外の領域に設けられている請求項1又は2に記載の液体記録ヘッド。
【請求項4】
前記流路形成層は、空間的にそれぞれ連通する前記液体吐出口及び前記液体流路からなるノズル列を複数有し、
前記液体供給口は前記ノズル列毎に形成され、
隣接する前記液体供給口間における前記第二の面において、一方の前記液体供給口の周辺領域に配置された前記保護膜と、もう一方の前記液体供給口の周辺領域に配置された前記保護膜との間に、前記接着性向上膜が配置されている請求項1乃至3のいずれかに記載の液体記録ヘッド。
【請求項5】
前記保護膜がSiO,SiOC,SiON,Ta及びAuのいずれかである請求項1乃至4のいずれかに記載の液体記録ヘッド。
【請求項6】
前記接着性向上膜が、前記シリコン基板の自然酸化膜,Ni,Al及びCuのいずれかである請求項1乃至5のいずれかに記載の液体記録ヘッド。
【請求項7】
前記液体としてインクを吐出するインクジェットヘッドである請求項1乃至6のいずれかに記載の液体記録ヘッド。
【請求項8】
少なくとも液体供給口を有する液体吐出チップの製造方法であって、
(1)液体を吐出するための吐出エネルギー発生素子を第一の面側に有し、前記第一の面と反対側の第二の面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板を用意する工程と、
(2)前記シリコン基板の前記熱酸化膜の上に樹脂層を形成する工程と、
(3)前記樹脂層のうち前記液体供給口の形成領域に相当する部分を除去し、前記樹脂層に第一のパターンを施す工程と、
(4)前記第一のパターンの底部に露出する前記熱酸化膜を前記樹脂層をマスクとして用いて除去する工程と、
(5)前記樹脂層を少なくとも前記第一のパターンの周辺領域を残して除去し、第二のパターンを施す工程と、
(6)前記熱酸化膜及び前記樹脂層をマスクとして用いて前記シリコン基板を異方性エッチングし、前記第二の面から前記第一の面に連通する前記液体供給口を前記シリコン基板に形成する工程と、
(7)前記第二のパターンの底部に露出する熱酸化膜を前記樹脂層をマスクとして用いて除去する工程と、
(8)前記樹脂層を除去する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出チップの製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)〜(8)をこの順で有する請求項8に記載の液体吐出チップの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂層が熱可塑性樹脂からなる請求項8又は9に記載の液体吐出チップの製造方法。
【請求項11】
前記シリコン基板の前記第一の面側であって前記異方性エッチングが到達する領域にエッチングストップ層としてのシリコン酸化膜が形成されており、前記工程(7)における前記熱酸化膜の除去と前記シリコン酸化膜の除去を同時に行う請求項8乃至10のいずれかに記載の液体吐出チップの製造方法。
【請求項12】
前記熱酸化膜の除去をフッ酸を用いて行う請求項8乃至11のいずれかに記載の液体吐出チップの製造方法。
【請求項13】
請求項8乃至12のいずれかに記載の製造方法により得られた液体吐出チップと、前記液体供給口に液体を供給するための液体導入口を含むヘッド基板と、を接着剤を用いて接着させる液体記録ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記接着剤を前記ヘッド基板の接着面に配置させて前記液体吐出チップと前記ヘッド基板とを接着させる請求項13に記載の液体記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−59904(P2013−59904A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199499(P2011−199499)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】