説明

液体試料のモニタリング方法およびモニタリングシステム

【課題】簡便で信頼性の高いボーリング孔を利用した地下水の連続サンプリング方法および装置を提供する。
【解決手段】液体試料1はポンプ2により吸引し、微粒子を排除するためフィルターユニット3を通過させた後、バルブ4を介して試料保管流路5に注入し、バルブ4およびバルブ6は開放状態にする。試料保管流路5には、直径6mm、長さ6mの糸巻き状に複数回巻かれているチューブを用いる。液体試料1を回収した後、バルブ4およびバルブ6を閉じた状態で、分析を行う場所まで移送する。その後、バルブ6を介して、水質分析装置7と接続する。その後、バルブ4およびバルブ6を開き、ポンプ2を用いて純水8をフィルターユニット3側から試料保管流路5に送液し、試料保管流路5に保存されていた液体試料を所定の試料保管流路長さに相当する分量毎に水質分析装置7に移送し、水質分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料を対象とするモニタリング技術に係り、特に河川や地下水などの環境に関わる水質モニタリングや、化学合成設備、培養設備、浄水設備、原子力関連設備などの工学設備に関わる水質モニタリング等における液体試料のモニタリング方法およびモニタリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料を対象とするモニタリングは様々な分野で行われており、例えば、河川、湖沼、ダム、地下水などの環境を評価するための水質モニタリングや、化学合成、培養、浄水、原子力などの工学設備における反応制御や、水質異常の感知を目的とした水質モニタリングが行われている。
【0003】
従来、これらのモニタリングにおいては、液体試料をその場でセンサにより分析する方法(特許文献1参照)や、液体試料の一部を採取し分析装置に送液することにより分析する方法(特許文献2参照)が用いられている。
【0004】
【特許文献1】特開2000-121629号公報
【特許文献2】特開2005-66531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような液体試料をその場でセンサにより分析する方法では、小型、低コストでモニタリングシステムを構築することが可能な反面、センサの種類の制約があり、温度、pH、ORP、導電率、濁度、溶存酸素、紫外吸光度といった一般的な水質の検査のみが対象となり、測定可能な濃度範囲についても制約を受けるなどの問題がある。
【0006】
一方、液体試料の一部を採取し分析装置に送液することにより分析する方法では、様々な成分の分析や濃度範囲に対応可能であるものの、装置が大型化するとともに、モニタリングシステム毎に異なる分析装置が必要となるため、機器コストが増加するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、様々な分析項目や濃度範囲に対応可能であり、小型で低コストな液体試料のモニタリング方法およびモニタリングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題は、例えば、モニタリングを行う液体試料の一部を、一次元形状の流路に一定流速で連続的、または一定時間毎に注入することにより、液体試料性状の時間変化を流路中に位置情報として保持し、その後、保持した液体試料を流路の位置毎に分析し、その分析結果から液体試料性状の時間変化を再現することにより解決される。
【0009】
本発明は、水質の時間変化を一次元形状の流路中に位置情報として貯蔵可能であることを見出したことに基づく。
【0010】
液体試料を一次元形状の流路に一定流速で注入すると、試料が流路中を安定した層流として流れ、乱流等による水質成分の混合が抑制される。また、流路断面積が小さいため、近接した部位との拡散による混合についても抑制される。
【0011】
従って、液体試料のモニタリングを一次元流路中へのサンプリングと、流路位置毎の分析に分割することが可能となる。これにより、液体試料のサンプリングについては小型で低コストの装置構成とすることが可能となり、また、分析については、溶液試料が入ったチューブ等の一次元流路を、必要に応じ様々な分析機器に接続し連続的に分析することや、複数のモニタリングにおいても同じ分析機器を共有して用いることが可能となる。
【0012】
また、液体試料の注入時間、注入速度等の記録があれば、容易に流路中の位置毎の分析結果を時間変化に変換することが可能となる。
【0013】
装置の小型化の観点からは、一次元形状の流路を空間的に高密度化することが好ましいが、最も簡便にこれを実現する方法としては、チューブ等の流路を糸巻き状に巻き取ることにより、達成される。
【0014】
サンプリングした流路中の分析を適時行うためには、液体試料を注入する流路に切り替え可能な機構や、着脱可能な機構を設けることが有効であり、これによりモニタリングを継続しつつ、任意の期間において分析結果を得ることが可能となる。
【0015】
モニタリングの精度や信頼性を向上させる観点からは、溶液試料を保管する流路に一定時間毎にマーカー物質等を添加することにより、流路中の近接部位間における水質成分の混合を抑制する効果や、ポンプによる液体試料の注入が適切に行われていることを目視等により簡便に確認できる効果が期待できる。さらに、このマーカー物質が気泡である場合には、水質成分の混合をほとんどなくすることができ、長期のモニタリング等において極めて有効な方法となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液体試料のモニタリングにおいて、様々な分析項目や濃度範囲に対応可能である。また装置の小型化、データの信頼性向上、モニタリングコストの削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態について説明する前に、本発明に至る基本原理について説明する。本発明は、水質の時間変化を一次元形状の流路中に位置情報として貯蔵可能であることを発明者が見出したことに基づく。以下に、図2を参照しながら本発明における水質の時間変化を位置情報として貯蔵する概念を説明する。
【0018】
発明者らは、予め水質成分濃度の時間変化がわかっている液体試料について、その液体試料の一部をポンプにより採取し、流速10cm/hで流路断面積が0.1cmの一次元流路であるチューブに連続的に注入した。その後、チューブの位置毎に液体試料を分析した結果、水質の位置変化のグラフは、水質の時間変化とY軸に対して対称形を保っており、流速、流路断面積の情報に基づき、水質の時間変化を再現可能であることを見出した。
【0019】
これは、液体試料を一次元形状の流路に一定流速で注入したため、試料が流路中を安定した層流として流れ、乱流等による水質成分の混合が抑制される効果があったためと考えられる。また、流路断面積が小さいため、近接した部位との拡散による混合についても抑制される効果があると考えられる。
【0020】
一次元流路であるチューブに液体試料を連続的に注入して採取することにより、液体試料のモニタリングプロセスを、一次元流路中へのサンプリングプロセスと、流路位置毎の分析プロセスと、に分割することが可能となる。これにより、液体試料のサンプリングプロセスに用いる装置を、小型で低コストな構成とすることが可能となり、また、分析プロセスについては、溶液試料が入ったチューブ等の一次元流路を、必要に応じ様々な分析機器に接続し連続的に分析することや、複数のモニタリングにおいても同じ分析機器を共有して用いるなど自由度を高めることが可能となる。
【0021】
尚、一次元流路とは、液体の流速と流路の断面積とを考慮して、液体の流れが乱流にはならず十分に層流であると推定可能な流路である。レイノルズ数Reは、下記の式により表される。
【0022】
Re=(U×L)/ν
【0023】
ここで、Uは代表速さ、Lは代表長さ、νは動粘性係数である。例えば、下記の実施例2において、液体を水と仮定すると、Uは、10cm/hで流路の直径は1cm、Lは3.5m、であるから、Re=8程度となり、乱流となるレイノルズ数Reである2000よりも十分に小さい。従って、液体は層流と推定され、一次元流路であることがわかる。その他の実施例も同様である。
【0024】
以下、本発明の実施の形態による液体試料のモニタリング技術について図面を参照しながら説明を行う。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施例1による液体試料のモニタリング技術について図1を参照しながら説明する。本実施例による液体試料のモニタリング技術について、河川等の水質をモニタリングする例に基づいて説明する。本実施例による液体試料のモニタリング技術は、液体試料を採取するプロセスと、液体試料を分析するプロセスとを有している。
【0026】
図1に示すように、本実施例による液体試料のモニタリングシステムは、液体試料1側から順番に、フィルターユニット3と、ポンプ2と、バルブ4と、試料保管流路5と、バルブ6と、を有している。
【0027】
液体試料1の採取プロセスにおいては(上図)、液体試料1はポンプ2により吸引し、微粒子を排除するためフィルターユニット3を通過させた後、バルブ4を介して一次元流路を形成する試料保管流路5に注入する。この際、バルブ4およびバルブ6は開放状態にする。ポンプ2は、液体試料1を1cm/hの流速で、約1週間、連続的に試料保管流路5に送液した。試料保管流路5には、直径6mm、長さ6mの糸巻き状に複数回巻かれているチューブを用いた。
【0028】
次に、液体試料の分析プロセスにおいては(下図)、液体試料1を回収した後、バルブ4およびバルブ6を閉じた状態で、試料保管流路5を分析を行う場所まで移送した。その後、バルブ6を介して、水質分析装置7と接続した。その後、バルブ4およびバルブ6を開き、ポンプ2を用いて純水8をフィルターユニット3側から試料保管流路5に送液し、試料保管流路5に保存されていた液体試料を所定の試料保管流路長さに相当する分量毎に水質分析装置7に移送し、水質分析を行った。
【0029】
図3には、試料保管流路長さ8.49cm(液量2.4cm)毎に水質分析した結果を示す。上図は、縦軸に水質成分濃度、横軸に一次元流路中の位置をとっており、下図は、縦軸に水質成分濃度、横軸に液体試料を吸入してからの経過時間をとっている。この結果から、本実施例によれば、液体試料の水質の時間変化が、試料保管流路5中の位置変化として保管されていることがわかる。すなわち、上図に示す試料保管流路5中の各位置における水質の採取時間は、水質の採取時間=流速/流路断面積により求めることができる。そこで、水質の位置変化として得られたグラフを水質の時間変化に換算したものが下図である。この結果から、液体試料のモニタリングを実施することができた。
【0030】
本実施例によるシステムは、装置がシンプルで小型化が可能である。特に、ポンプを離れた場所に設置できる場合には、液体試料を採取するための流路のスペースだけが確保できればモニタリングが可能となるため、通常、モニタリングが困難な狭隘部や高温、高圧、放射能といった極限環境において用いることも容易である。
【0031】
また、液体試料の採取と分析とを分離して実施することが可能であるため、複数のモニタリングを実施する場合等に例えば複数の採取試料を1台の分析装置で共有することができるため、機器コストを削減することができるという利点がある。さらに、分析プロセスについては、必要に応じて、最も適切な分析装置に採取試料を接続することにより、様々な成分の分析や濃度範囲に対応可能であるという利点もある。
【0032】
尚、ポンプには、プランジャーポンプ、シリンジポンプ、チューブポンプ等の微小流量を制御可能なポンプを用いることが好ましい。また、分析装置については、微量試料で高感度分析が実施可能なイオンクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、ICP発光分析装置、原子吸光分析装置、全有機炭素濃度計、質量分析装置等が適している。
【実施例2】
【0033】
次に、本発明の実施例2による液体試料のサンプリング技術について図4を参照しながら説明する。本実施例は、図4に示すように、化学合成を行う反応槽中の水質モニタリングを行う際の一例である。本実施例では、反応槽9内の液体試料の一部は、試料採取装置10により採取され、試料保管装置11に注入される。試料採取装置10は、内部に、フィルター12と、ポンプ13と、バルブ14と、記録装置Sと、を有している。試料保管装置11は、試料保管流路16およびこれの前後に設けられるバルブ17、バルブ18により構成されている。試料採取装置10と試料保管装置11との接続部位にパイプを接続・分離可能な周知の着脱機構15を備えている。また、ポンプ13の運転に関しては、記録装置Sが液体試料の流路への注入時間、注入速度を制御することにより、試料保管流路16内に時間情報に変換可能な位置情報が記録される機構となっている。記録装置Sには、液体試料の流路への注入時間、注入速度が記録される。
【0034】
液体試料の一部は、フィルター12を介してポンプ13により吸引され、一定の流速で試料保管流路16に注入される。この際、バルブ14およびバルブ17およびバルブ18を開放状態にし、液体試料の注入開始時間、注入速度は、記録装置Sに記録することができる。ポンプ13は、液体試料を10cm/hの流速で、24時間、連続的に試料保管流路16内に送液した。試料保管流路16には、直径1cm、長さ3.5mのチューブを用いた。
【0035】
尚、試料保管流路16を非常に長くする場合には、取り扱いが困難である場合もある。このような場合には、図5に示すようなチューブTを糸巻き状に巻いた試料保管流路を用いることもできる。これにより、試料保管流路16の占有する容積を大幅に低減することができ、モニタリング装置をより一層小型化することができる。また、試料保管流路16の形状を保持する機能も有する。
【0036】
液体試料を24時間にわたって採取した後、試料保管装置11の貯蔵容量が一杯になったため、一旦ポンプ13からの送液を止め、バルブ14、バルブ17、バルブ18を閉じた後、着脱機構15の部分で試料採取装置10から試料保管装置11を外し、別の新しい試料保管装置(11)を装着した。その後、閉じたバルブ14、17、18を再び開き、再度ポンプ13の運転を開始した。
【0037】
一方、図4の下図に示すように、回収した試料保管装置11は、別のポンプ19により、純水20を送液するとともに、試料保管流路16に保存されていた液体試料はフラクションコレクタ21により、所定の試料保管流路長さに相当する分量ずつ分画した。これにより、測定サンプルが作製され、サンプル毎に分析を実施できる。
【0038】
このようにして得られた分析結果は、試料保管流路16の位置毎の水質の分析結果であるが、これらを記録装置Sに記録された液体試料の流路への注入時間、注入速度のデータから、元の液体試料の時間変化に換算する。これにより、液体試料のモニタリングを実施することができる。
【0039】
本実施例による液体試料のサンプリング技術では、着脱機構15により試料採取装置10と試料保管装置11とを分割することができる。試料保管装置11の着脱が可能であるため、新たな試料保管装置11に交換しながら、長期のモニタリングができるとの特徴を有する。
【0040】
また、複数の反応槽をモニタリングする際などに、例えば1台の分析装置を共有して用いることが可能である。さらに、分析試料はフラクションコレクタ21により、試料保管流路16の位置毎に分画したサンプルが作製されるため、直接分析機器に接続できない分析方法についても適用することができ、より広範囲な分析方法の中から適切な手法を選定することが可能であるという利点を有する。
【実施例3】
【0041】
次に、本発明の実施例3による液体試料のモニタリング技術について図6を参照しながら説明する。本実施例は、原子力関連設備の配管中の水質モニタリングを行う際の一例である。
【0042】
本実施例による液体試料のモニタリングシステムは、配管22中の液体試料の一部は、試料採取装置23により採取され、試料保管流路50−1に注入される構成を有している。試料採取装置23は、内部に、配管22側から、フィルター24、第1のポンプ25、流路切り替え機構26、第2のポンプ27、マーカー物質タンク28を有している。第1のポンプ25、流路切り替え機構26、第2のポンプ27は、制御装置29によって運転が制御される機構となっている。流路切り替え機構26は、例えば、1つの入力位置に対して回転することにより複数の出力位置が対応するように回転式の入力−出力切り替え機構など周知の機構を利用することが可能である。
【0043】
制御装置29は、所定の時間に第1のポンプ25を動作させ、フィルター24を介して液体試料の一部を採取し、一定の流速で試料保管流路50に注入する。同時に、制御装置29により、第2のポンプ27は、一定の時間間隔でマーカー物質を流路中に添加するように制御する。
【0044】
試料をある時間だけ採取した後、制御装置29により第1のポンプ25および第2のポンプ27は停止され、試料の採取およびマーカー物質の添加を中断する。その後、再び所定の時間に制御装置29により第1のポンプ25および第2のポンプ27を動作させ、試料の採取およびマーカー物質の添加を行った。この際、マーカー物質には目視が可能なように着色溶液を用いた。
【0045】
このように、試料の採取と中断とを繰り返す連続運転を行った後に、制御装置29により流路切り替え機構(バルブ)26を作動させ、試料保管流路50−1が貯蔵容量を超える前に別の系統の試料保管流路50−2又は50−3に切り替える。
【0046】
試料を貯蔵した試料保管流路50−1は、バルブ30−1およびバルブ31−1を閉じた後に試料採取装置23から切り離され、分析室まで移送される。その後、下図に示すように、試料保管流路50−1は伸ばされて、それぞれの位置毎の放射能をしゃへい板32に設けられた計測孔33を通して放射線検出器34により測定することができる。測定結果は、制御装置29の運転記録とマーカー物質の数と位置とから、元の液体試料の時間変化に換算される。これにより、液体試料のモニタリングを実施することができた。
【0047】
本実施例による液体試料のモニタリング技術を用いると、制御装置による自動運転が可能であり、さらに一定時間間隔で液体試料を採取することで、連続的に液体試料を採取する場合に比べて測定時間を短くすることが可能である。また、流路の切り替え機構を備えることにより、モニタリングを継続しつつ、任意の期間において分析結果を得ることが可能となる。
【0048】
尚、モニタリングの精度や信頼性を向上させる観点からも、溶液試料を保管する流路にある時間毎にマーカー物質を添加することにより、流路中の近接部位間における水質成分の混合を抑制することができるととともに、液体試料の注入位置の確認が目視等により簡便化することができる。マーカー物質には、蛍光物質を含む溶液や着色溶液など、分析が容易な様々な物質を用いることが可能である。例えば、マーカー物質に、蛍光物質を用い、これを蛍光検出器により検出しても良い。或いは、マーカー物質に、溶液試料とは屈折率の大きく異なる物質を用い、光源と光量センサの組み合わせにより、溶液試料とマーカー物質とを区別することができるようにして良い。或いは、マーカー物質に不活性ガスなどの気体を利用しても良い。このようなマーカー物質の利用により、分析時間を任意に区切ることができるため、作業を自動化することが容易になる。
【0049】
また、本実施例によれば、常時サンプリングを行わなくても、例えばタイマーなどを利用してある時間に液体試料をサンプリングし、次いで、マーカー物質を注入し、ある時間サンプリングを中断した後に、再びサンプリングを開始する工程を実施することも可能である。
【実施例4】
【0050】
本発明の実施例4による液体試料のモニタリング技術について図7を参照しながら説明する。本実施例による液体試料のモニタリング技術は、地質ボーリング孔内の水質モニタリングを行う際の一例である。
【0051】
本実施例による液体試料のモニタリング技術では、地層35中の液体試料の一部は、試料採取装置36により採取され、試料保管流路37に注入される。これらの装置は、例えば直径10cm程度のボーリング孔内に挿入されている。試料採取装置36は、内部に地層35側から順番に、地下水採取機構38、フィルター39、第1のポンプ40、ガスボンベ41、第2のポンプ42を有している。第1のポンプ40および第2のポンプ42を制御する制御装置43が設けられ、これによって運転が制御される機構となっている。
【0052】
制御装置43は、所定の時間に第1のポンプ40を動作させ、液体試料の一部をフィルター39を介して採取し、例えば一定の流速で試料保管流路37に注入する。同時に制御装置43により、第2のポンプ42は例えば一定の時間間隔で不活性ガスからなる気泡を流路中に添加するように制御される。所定時間の連続運転の後、制御装置43により第1のポンプ40および第2のポンプ42の運転を停止し、液体試料の回収工程と気泡の添加工程を終了する。
【0053】
その後、下図に示すように、試料保管流路37は、ボーリング孔内から地上に回収され、バルブ45を介して、水質分析装置46と接続される。次いで、バルブ44およびバルブ45を開き、新たなポンプ47を用いて純水48を試料保管流路37に送液し、試料保管流路37に保存されていた液体試料を所定の試料保管流路長さに相当する分量毎に水質分析装置46に移送し、水質分析を行う。
【0054】
ここで得られた分析結果は、試料保管流路37の位置毎の水質の分析結果である。これらを制御装置43で設定した液体試料の流路への注入時間、注入速度のデータに基づいて元の液体試料の時間変化に換算することにより、液体試料のモニタリングを実施することができる。
【0055】
本実施例によれば、試料の採取プロセスと分析プロセスとを分離して行うことが可能であるため、装置の小型化が容易であり、狭隘なボーリング孔中でのモニタリングに適用できる。また、気泡を添加することにより、流路中の気泡が液体試料の混合を抑制するため、試料保管溶液を長期保管した場合にも、水質の変化が精度良く流路中の各位置に保存されるという利点を有する。さらに、気泡個数により試料の採取が適切に行われたかを確認することができる。尚、この気泡を生成するガスには、空気や不活性ガスなど様々なガスを用いることが可能である。
【0056】
以上に説明したように、本実施の形態による液体試料のサンプリング技術によれば、様々な分析項目や濃度範囲に対応可能な液体試料のモニタリング方法およびモニタリングシステムが実現でき、装置の小型化、データの信頼性向上、モニタリングコストの削減が可能となるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、液体試料のサンプリングシステムに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例に用いたモニタリングシステムを説明する図である。
【図2】本発明の作用の説明に用いた水質の時間変化を位置情報として貯蔵する概念を説明する図である。
【図3】本発明の実施例に用いたモニタリング方法を説明する図である。
【図4】本発明の別の実施例に用いたモニタリングシステムを説明する図である。
【図5】本発明の別の実施例に用いた試料保管流路を説明する図である。
【図6】本発明の別の実施例に用いたモニタリングシステムを説明する図である。
【図7】本発明の別の実施例に用いたモニタリングシステムを説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
1…液体試料、2…ポンプ、3…フィルターユニット、4…バルブ、5…試料保管流路、6…バルブ、7…水質分析装置、8…純水、9…反応漕、10…試料採取装置、11…試料保管装置、12…フィルター、13…ポンプ、14…バルブ、15…着脱機構、16…試料保管流路、S…記録装置、17…バルブ、18…バルブ、19…ポンプ、20…純水、21…フラクションコレクタ、22…配管、23…試料採取装置、50…試料保管流路、24…フィルター、25…ポンプ、26…流路切り替え機構、27…ポンプ、28…マーカー物質タンク、29…制御装置、30…バルブ、31…バルブ、32…遮蔽板、33…計測孔、34…放射線検出器、35…地層、36…試料採取装置、37…試料保管流路、38…地下水採取機構、39…フィルター、40…ポンプ、41…ガスボンベ、42…ポンプ、43…制御装置、44…バルブ、45…バルブ、46…水質分析装置、47…ポンプ、48…純水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次元流路を形成する液体保管流路と、
該液体保管流路の一端側に設けられる第1のバルブ及び他端側に設けられる第2のバルブと、
前記第1のバルブの前記一端側に設けられる液体吸入部と
を有することを特徴とする分析用液体試料採取装置。
【請求項2】
前記液体吸入部による吸入量を前記液体保管流路内における液体試料の流れが層流であるように制御する制御部を有することを特徴とする請求項1に記載の分析用液体試料採取装置。
【請求項3】
前記液体保管流路への液体吸入開始時点を基準とした経過時間と前記液体保管流路への注入速度とを記憶する記憶部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析用液体試料採取装置。
【請求項4】
前記一次元流路の形状がチューブを巻き取った形状であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の分析用液体試料採取装置。
【請求項5】
前記液体保管流路の一端側であって前記液体吸入部の他端側に、前記液体試料を注入する流路を切り替え可能な切り替え機構を有することを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の分析用液体試料採取装置。
【請求項6】
前記液体吸入部の一端側に、マーカー物質を前記液体保管流路に添加するマーカー物質添加機構を有することを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の分析用液体試料採取装置。
【請求項7】
前記マーカー物質添加機構はマーカー物質として気泡を添加する機能であることを特徴とする請求項6に記載の分析用液体試料採取装置。
【請求項8】
一次元流路を形成する液体保管流路と、
該液体保管流路の一端側に設けられる第1のバルブ及び他端側に設けられる第2のバルブと、
前記第1のバルブの前記一端側に設けられる液体吸入部と、
前記他端側に設けられた分析装置と
を有することを特徴とする液体試料分析装置。
【請求項9】
前記液体保管流路への液体吸入開始時点を基準とした経過時間と前記液体保管流路への注入速度とを記憶する記憶部を備えることを特徴とする請求項8に記載の液体試料分析装置。
【請求項10】
前記一次元流路の形状がチューブを巻き取った形状であることを特徴とする請求項8又は9に記載の液体試料分析装置。
【請求項11】
モニタリングを行う液体試料を、一次元形状の流路に注入する採取ステップと、
保持した前記液体試料を前記流路の位置毎に分析する分析ステップと
を有することを特徴とする液体試料のモニタリング方法。
【請求項12】
前記採取ステップは、前記流路に対して、一定流速で、連続的又は一定の時間毎に液体試料を注入するステップであることを特徴とする請求項11に記載の液体試料のモニタリング方法。
【請求項13】
前記液体試料の流路への注入時間と、注入速度と、を記録するステップと、記録した注入時間と注入速度とに基づいて、前記液体試料の特性の時間変化を評価するステップと
を有することを特徴とする請求項11又は12に記載の液体試料のモニタリング方法。
【請求項14】
前記一次元流路の形状がチューブを巻き取った形状であることを特徴とする請求項11から13までのいずれか1項に記載の液体試料のモニタリング方法。
【請求項15】
前記液体試料を注入する流路を切り替えるステップを有することを特徴とする請求項11から14までのいずれか1項に記載の液体試料のモニタリング方法。
【請求項16】
前記液体試料を注入する流路を着脱させるステップを有することを特徴とする請求項11から15までのいずれか1項に記載の液体試料のモニタリング方法。
【請求項17】
ある時間毎にマーカー物質を前記流路に添加するステップを有することを特徴とする請求項11から16までのいずれか1項に記載の液体試料のモニタリング方法。
【請求項18】
前記マーカー物質を気泡とすることを特徴とする請求項17に記載の液体試料のモニタリング方法。
【請求項19】
モニタリングを行う液体試料を、一次元形状の流路に注入することにより、液体試料の時間変化を流路中に位置情報として保持するステップと、
前記流路内に保持した前記液体試料を流路の位置毎に分析し、その分析結果から液体試料性状の時間変化を再現するステップと
を有することを特徴とする液体試料のモニタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−147322(P2007−147322A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338844(P2005−338844)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】