説明

液体試料の移送具

【課題】作業室であるマニピュレータ室での作業において、所謂コンタミネーションを生じさせることなく試料の移送ができるとともに、その作業を従来に比して簡易に且つ短時間に行うことができ、さらに、1回の移送作業において生じる放射性廃棄物の量を従来に比して少なくすることができる液体試料の移送具の提供を課題とする。
【解決手段】液体試料を収納する移送具本体10は、上部に開口部が形成されている円筒状の容器である。キャップ部材20は、移送具本体10の上部に着脱自在に冠着する。キャップ部材20の天板部21には、漏斗状の流路部材30が配設されている。漏斗状の流路部材30の広口部31は、その周縁部が全周に亘って移送具本体10の内壁に密着するように形成されている。流路部材30の注ぎ口部32には注射針40が装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力施設等の施設において、分析設備に送付された原試料に必要な前処理を施して分析可能な状態の液体試料にして分析室に移送する際に使用する液体試料の移送具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、原子力を扱う施設においては、工程内流体中の目的物質濃度または物理量の値が所定の範囲内であるか否かを、その物質を定期的に採集して分析することによって検査している。
【0003】
放射性物質によって汚染されている現場で採集された原試料は、一旦マニピュレータで作業可能なマニピュレータ室に移送され、ここで分析可能な状態の液体試料に前処理されて、分析作業を行なうグローブボックスに移送されている。
【0004】
図10は、現場から試料が入った容器が移送されてくるマニピュレータ室の概略構成を示した図である。マニピュレータ室100には、現場で採集された原試料が容器に入った状態で移送されてくる搬入ボックス101と、この搬入された原試料をマニピュレータ室100内で希釈等の処理をして分析可能な状態に前処理した分析用の液体試料を分析室であるグローブボックスに移送するための搬出ボックス102とが設けられている。
【0005】
103は、マニピュレータ室100内で前処理された分析用の液体試料を、分析室であるグローブボックスに移送する際に使用する移送具が外部から搬入される移送具搬入ボックスである。
【0006】
ここで、現場から原試料が搬入される際に、原試料が入っている容器自体も現場で汚染されているために、このマニピュレータ室100で作業を行なう作業員Aは、全ての作業をマニピュレータMを用いて行なう。
【0007】
マニピュレータ室100でマニピュレータMを用いる作業員Aは先ず、搬入ボックス101に現場から容器110に入って送られてくる原試料を、その容器110からビーカーに移し、希釈する等の処理を施して分析可能な状態の試料にする作業を行なう。
【0008】
次に、作業員Aは、この分析可能な状態になったビーカー内の液体試料を、移送具搬入ボックス103に送られてくる移送具120内に移し、この移送具120を用いて、搬出ボックス102内の汚染されていない気送容器の内に移して、この気送容器を分析室であるグローブボックスに気送する。
【0009】
ここで、このような現場から容器110に入った状態で送られてくる原試料を扱う作業室であるマニピュレータ室100と、試料を実際に分析する分析室であるグローブボックスとでは、許容される汚染レベルが著しく異なっているために、内部がグローブボックスに繋がっている搬出ボックス102には高い気密性が要求される。このような高い気密性の搬出ボックス102を有するシステムとしては、STS(Solution Transfer System)と言うシステムが既に知られている。
【0010】
このSTSの搬出ボックス102においては、マニピュレータ室100内に在る液体試料を、注射針を用いて搬出ボックス102内の汚染されていない気送容器に移動させる必要がある。このために、マニピュレータ室100で分析可能な状態となった液体試料を、注射針を具えた移送具120内に一旦移す作業が、マニピュレータ室100での必須の作業となっている。
【0011】
ここで、マニピュレータMを用いて、分析可能な状態となった液体試料を、ビーカーから注射針を具えた移送具120に移す従来の方法を図面を用いて説明する。
【0012】
図11は、仏国AREVA NC社にて採用されている従来の液移送方法(以下、AREVA方式という)に使用される部品を示したものである。
【0013】
図11において、120は、内部の気密性が保たれている円筒型の移送具であり、その上部には注射針が貫通可能なゴム栓部120aが設けられている。121は、先端部に注射針が装着可能なシリンジであり、121aはシリンジ121の付属品であるピストンである。122,123は注射針であり、122a,123aはその保護キャップである。124は、移送具120の上部に冠着可能なキャップ部材125と両頭針126とからなるニードルホルダであり、126aは保護キャップである。
【0014】
従来の液移送方法では、、マニピュレータ室100の外部において、先ず、図12(a)〜(c)に示したような手順で組立て作業を行なう。
【0015】
即ち、図12(a)に示したようにシリンジ121からピストン121aを外し、図12(b)に示したようにシリンジ121の先端部に注射針122を装着して保護キャップ122aを外し、その後、図12(c)に示したようにシリンジ121に装着された注射針122と注射針123とを移送具120の上部のゴム栓部120aに貫通させて組立作業を終了する。
【0016】
ここで、注射針123は、シリンジ121内から移送具120内へ試料を入れる際の通気孔の作用を果たすものである。
【0017】
このようにして、図12(c)に示す状態となった移送具120と、図11に示したニードルホルダ124とが、マニピュレータ室100の移送具搬入ボックス103内に外部から搬入されている。
【0018】
次に、作業室であるマニピュレータ室100内でマニピュレータMを用いて行なう作業について説明する。
【0019】
先ず、作業員は、図13(a)に示したように、分析可能な状態となっているビーカーB内の液体試料Sをシリンジ121内に注ぎ、そのシリンジ121内の試料Sが自然落下して移送具120内に移動するのを待つ。
【0020】
シリンジ121内の試料Sが移送具120内に移動したら、図13(b)に示したように、移送具120からシリンジ121および注射針122を外し、さらに注射針123も外す。
【0021】
次に、図13(c)に示したように、ニードルホルダ124のキャップ部材125を移送具120の上部に冠着させる。この冠着させる作業により、両頭針126のキャップ部材125内に存在する部分が、移送具120の上部のゴム栓部120aを貫通する。このような状態で、保護キャップ126aを外し、この両頭針126の外部に露出している部分を、図14(a)に示したように、搬出ボックス102内の気送容器130の上部のゴム栓部130aに貫通させる。
【0022】
ここで、搬出ボックス102内の気送容器130の構成は移送具120と同様の構成となっており、さらに気送容器130の内部は真空状態にしてあるために、移送具120内の試料Sは速やかに気送容器130内に移動する。
【0023】
試料の移動が終了したら、気送容器130から両頭針126を抜いて、図14(b)に示したように、気送容器130に入った試料Sを,搬出ボックス102内から分析室であるグローブボックスに気送して、マニピュレータ室100での作業を終了する。
【0024】
以上のマニピュレータ室100内での作業においては、この作業以前の作業でマニピュレータM等に付着している汚染物質により液体試料Sが影響を受けないように、すなわち所謂コンタミネーションが生じないようにマニピュレータMを用いる作業員Aには細心の注意が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
以上説明したAREVA方式によって、マニピュレータ室100内での作業を行った場合、分析用の液体試料に所謂コンタミネーションを生じさせることなく、分析室であるグローブボックスに試料を移送することができる。
【0026】
しかしながら、このAREVA方式では、マニピュレータ室100の外部で行う移送具120の組立作業に手間と時間とを要する上に、マニピュレータMを用いて移送具120からシリンジ121や注射針123を外すという細心の注意を要する作業が必要となるという問題点があった。さらにシリンジ121内の試料Sが移送器120内に、注射針122を介して自然落下するまでの待機時間が作業時間に含まれてしまうという問題点もあった。
【0027】
また、1回の分析試料の移送作業を行う度毎に、図11に示した部品の全てが廃棄物となってしまうため多量の廃棄物が生じてしまい、さらに、そのうちのほとんどの部品は前処理の段階で直接使用されて取扱困難な放射性廃棄物となってしまうため放射性廃棄物が多量に生じてしまうという問題点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0028】
以上の問題点を解消するために、本発明は、上部に開口部が形成された円筒状の移送具本体と、該移送具本体の上部に冠着可能なキャップ部材と、漏斗状の流路部材であって、当該漏斗状の流路部材の広口部が前記キャップ部材の内部に位置し注ぎ口部が前記キャップ部材の天板部の外側上方に位置するように前記キャップ部材の天板部に配設され、前記キャップ部材を前記移送具本体の上部に冠着させた際、前記広口部が前記移送具本体の内部に位置し且つ当該広口部の周縁部がその全周に亘って前記移送具本体の内壁に密着する流路部材と、該流路部材の前記注ぎ口部に装着された注射針とを具えることを特徴とするものである。ここで、前記キャップ部材の外周壁には、他の部分よりもその径が大きい鍔部が全周に亘って形成されていてもよいし、また、前記注射針を保護する保護キャップをさらに具え、当該保護キャップの上部には、外周方向に突出するような突出部が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、作業室であるマニピュレータ室での作業において、所謂コンタミネーションを生じさせることなく試料の移送ができるとともに、その作業を従来に比して簡易に且つ短時間に行うことができ、さらに、1回の移送作業において生じる放射性廃棄物の量を従来に比して少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例1の内部構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例1の構成を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の実施例1の使用方法の説明図である。
【図5】本発明の実施例1の使用方法の説明図である。
【図6】本発明の実施例1の使用方法の説明図である。
【図7】本発明の実施例1の使用方法の説明図である。
【図8】本発明の実施例1の使用方法の説明図である。
【図9】本発明の実施例2の構成を示す斜視図である。
【図10】従来の液体試料の移送方法の説明図である。
【図11】従来の液体試料の移送具に使用される部品を示す斜視図である。
【図12】従来の液体試料の移送具の使用方法の説明図である。
【図13】従来の液体試料の移送具の使用方法の説明図である。
【図14】従来の液体試料の移送具の使用方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の実施例1の構成を示した斜視図であり、図2はその内部構成を示した断面図、図3は分解斜視図である。
【0033】
図1ないし図3において、10は、円筒状の移送具本体であり、その上部には開口部11が形成されている。この移送具本体10の形状は完全な円筒状の形状にする必要はなく、図2および図3で示したように下部の直径よりも上部の直径が小さくなるようにテーパー部が設けられている円筒状の形状であってもよい。
【0034】
20は、移送具本体10の上部に着脱自在に冠着可能なキャップ部材であり、21はその天板部である。また、キャップ部材20の外周壁には、他の部分よりもその径が大きい鍔部22が全周に亘って形成されている。
【0035】
図2に示すように、キャップ部材20の天板部21には、漏斗状の流路部材30が配設されている。この流路部材30は、その広口部31がキャップ部材20の内部に位置し、注ぎ口部32が天板部21を貫通してその外側上方に位置するように天板部21に配設されている。さらに、図2に示したように移送器本体10の上部にキャップ部材20を冠着させた状態においては、流路部材30の広口部31は移送器本体10の内部に位置し、広口部31の周縁部がその全周に亘って移送器本体10の内壁に密着するように流路部材30の広口部31は形成されている。なお、本実施例1においては、この漏斗状の流路部材30と天板部21とは一体的に形成されている。
【0036】
この流路部材30の注ぎ口部32の先端部には注射針40が装着されている。41は注射針40を保護する保護キャップである。
【0037】
以上のように構成された本実施例1においては、移送具本体10にキャップ部材20を冠着させて、保護カバー41の付いた注射針40を装着するだけで組み立て作業が終了する。このようにして組み立てられた本実施例1に係る移送具は、従来と同様に作業室であるマニピュレータ室の外部から図4に示したマニピュレータ室100内の移送具搬入ボックス102内に搬入される。
【0038】
次に、本実施例1を用いたマニピュレータ室100内での液体試料の移送方法の作業手順について図面を用いて説明する。
【0039】
ここで、図4に示したように、本実施例1においては、マニピュレータ室100内すなわち作業室内の壁面に固定された「コ」の字状金具50を予め設置しておき、さらに移送器本体10の載置台60を予め設置しておく。
【0040】
「コ」の字状金具50は、図5(a)に示したように、2本の腕部51,52が水平方向に延在するように作業室の壁面に固定されている。この2本の腕部51,52の間隔は、キャップ部材20の直径と略等しい間隔に選ばれている。移送器本体10の載置台60は、図5(b)に示したように、その上部に移送器本体10の下部が嵌入可能な袴部61が形成されている。
【0041】
図4に示す作業員Aは、先ず、現場から搬入された原試料を分析可能な状態に前処理して、分析室に送る液体試料を作っておき、その液体試料をビーカー内に用意しておく作業をする。次に、作業員は、本実施例1に係る移送器を「コ」の字状金具50の設置場所まで運び、図5(a)に示すようにキャップ部材20を、鍔部22が「コ」の字金具50の上側に位置するように2本の腕部51,52の間に挿入する。
【0042】
次に、図5(b)に示すように、移送器本体10を下方に引き抜いて、載置台60の袴部61に嵌入させる。このような状態では、キャップ部材20は、その鍔部22が「コ」の字状金具50によって係止されているので、汚染されない状態で空中に保持される。
【0043】
次に、図6(a)に示すように作業員Aは、ビーカーB内の試料Sを移送器本体10の開口部11から適量注ぎ込み、図6(b)に示すように、「コ」の字状金具50によって空中に保持されていたキャップ部材20を移送器本体10の上部に冠着させる。
【0044】
キャップ部材20を移送器本体10に冠着させた後、移送器本体10を上方に移動させ(図7(a)参照)、注射針40の保護キャップを外し(図7(b)参照)、従来と同様に、搬出ボックス102内の気送容器130の上部のゴム栓部130aに注射針40を貫通させて(図8(a)参照)、内部が真空状態の気送容器130内に移送器本体10内の試料Sを移動させる。
【0045】
気送容器130内に試料が移動したら、気送容器130から注射針40を抜いて、図8(b)に示したように、気送容器130に入った試料Sを,搬出ボックス102内から分析室であるグローブボックスに気送して、マニピュレータ室100での作業を終了する。
【0046】
以上、説明したように、本実施例1によれば、従来のような細心の注意を必要とする作業を行うことなく、また所謂コンタミネーションを生じさせることなく短時間の内にマニピュレータ室100での作業を行なうことができる。
【0047】
さらに、本実施例1においては、前処理を施した液体試料を移送器本体10に移すとき以外に所謂コンタミネーションが発生する要素がなく、シリンジ121が暴露された状態で長時間操作しなければならない従来のAREVA方式に比して、そのリスクをより低くすることができる。
【0048】
本出願人が実験した結果、準備から廃棄作業完了までの作業時間は、従来方式では、約8分であったのに対して本実施例1の方式では約3分弱であった。
【0049】
ここで、マニピュレータ室100内での1回の移送作業が終わった段階で発生する放射性廃棄物は、本願発明に係る移送具を用いた場合には、図3に示した物品だけであるのに対して、従来の方式では、図11に示した物品のほとんどの物品が放射性廃棄物となるために、本発明によれば従来に比して放射性廃棄物の量を減少させることができる。
【実施例2】
【0050】
図9に示したように、上述した実施例1の注射針40の保護キャップ40の上部に、外周方向に突出するような突出部41aを形成しておけば、マニピュレータMを用いて保護キャップ40を外す際、より簡単に保護キャップ40を外すことができる。
【符号の説明】
【0051】
10 移送具本体
11 開口部
20 キャップ部材
21 天板部
22 鍔部
30 流路部材
31 広口部
32 注ぎ口部
40 注射針
41 保護キャップ
41a 突出部
50 「コ」の字金具
51,52 腕部
60 載置台
61 袴部
100 マニピュレータ室
101 搬入ボックス
102 搬出ボックス
103 移送具搬入ボックス
A 作業員
B ビーカー
M マニピュレータ
S 液体試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に開口部が形成された円筒状の移送具本体と、
該移送具本体の上部に冠着可能なキャップ部材と、
漏斗状の流路部材であって、当該漏斗状の流路部材の広口部が前記キャップ部材の内部に位置し注ぎ口部が前記キャップ部材の天板部の外側上方に位置するように前記キャップ部材の天板部に配設され、前記キャップ部材を前記移送具本体の上部に冠着させた際、前記広口部が前記移送具本体の内部に位置し且つ当該広口部の周縁部がその全周に亘って前記移送具本体の内壁に密着する流路部材と、
該流路部材の前記注ぎ口部に装着された注射針とを具えることを特徴とする液体試料の移送具。
【請求項2】
前記キャップ部材の外周壁には、他の部分よりもその径が大きい鍔部が全周に亘って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体試料の移送具。
【請求項3】
前記注射針を保護する保護キャップをさらに具え、当該保護キャップの上部には、外周方向に突出するような突出部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体試料の移送具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate