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液体試料イオン化法、質量分析法及びそれらの装置
説明

液体試料イオン化法、質量分析法及びそれらの装置

【課題】本願発明の課題は、試料にレーザーを照射することにより、試料をイオン化し、該イオン化した試料を質量分析器に導き、試料の同定を行う方法において、簡便な装置により感度を向上させることである。
【解決手段】本願発明は、イオン化剤を混合した液体試料を噴霧装置により微細液滴(ミスト状)とし、該微細液滴試料にレーザー光を照射した。これにより、単に液滴にレーザー光を照射するのに比べて、感度が数百倍向上した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、物質の質量分析に関するものであり、特に、質量分析に先立つ試料のイオン化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
田中耕一が巨大分子のソフトイオン化質量分析に有効なマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を発明し、ノーベル賞を受賞したことはまだ記憶に新しいところである。しかしながら、このMALDIは、夾雑物の多い環境試料に対しては、フラグメントの発生を避けることができず、十分な分析方法とはなっていない。
【0003】
また、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)及び大気圧イオン化法(APCI)は、比較的多くの対象試料に適用することができるが、環境試料においては夾雑物が障害となり用途が限定されている。1984年国立環境研究所の藤井により気相ラジカル検出を主目的とし、リチウムイオンを気相において付着させる質量分析法が開発され、2000年には、イオン付着質量分析装置(IAMS)として製品化されている。
【0004】
「過去に遡って有害物質が存在しないことを証明したい」、「環境中に在る化学物質の全てをあるがままに測定したい」等といった化学物質のリスク及び動態を解明する研究は、環境インフォーマティクス解析を視野に入れた先端的環境科学における重要な研究課題となっている。
【0005】
環境行政研究機関においても、環境中に存在する有害物質検索のため包括的に検定することの重要性が指摘され、化学物質単位により存在量をアセスメントするため、有害物質の分別抽出法を改善・効率化してスクリーニング、バイオアッセイにより総括評価、データベース化しておく考え方が最近検討され始めている。
【0006】
人体に対する影響が国際的に注目を集めている大気中の浮遊粒子状物質(SPM)は、粒径が数十μmから数nmまで広く分布している。なかでも、粒径0.1μm未満のナノ粒子は、呼吸により肺から直接体内に取り込まれる可能性があり、危険視されている。
【0007】
現在のSPM組成分析においては、微粒子の全ての構成分子をそのまま検出することは困難であり、多成分・同時計測が望まれている。また浮遊粒子については、欧米では粒子1個の計測も可能なレベルになってきたが、前処理に問題を残し、主成分のみで、しかも単純な無機成分しか同定できていない。質量分析困難な環境物質としては、有機ヒ素化合物が最近の代表例である。
【0008】
MALDIやESIなどのソフトイオン化技術は、先端バイオ分野での実用性が高く評価されているが、2003年には、米国ジョンズ・ホプキンス大学Cotter教授によりAP−MALDI法が開発され、大気圧下においてMALDIを行い、母乳中の糖鎖化合物をリチウム付加体として検出し、生化学・医学・薬学へ応用可能なことが示された。
【0009】
米国日本電子は、DART(Direct Analysis in Real Time)イオン源を開発し、低分子量の揮発性試料物質の現場検出に威力を発揮することにより、2005年度ピッツバーグ・コンファレンスにおいて金賞を授与された。このように、質量分析装置関連のソフトイオン化研究は、世界的に著しく進展している。
【0010】
ところで、環境物質は、気体・浮遊粒子・液滴・固体含有等のあらゆる姿となって環境中に存在しているが、この中で、液体のイオン化には、従来は液滴を基板上に滴下し、そこへレーザー光を照射することによりイオン化を行ってきた。
【0011】
しかし、基板上の液滴にレーザー光を照射すると、入射したレーザー光は、試料のみならず、基板にも照射されるので、レーザーエネルギーが試料にどのように吸収されたかの定量的な議論をすることができなかった。
【0012】
このとき、液滴が落下中に、該液滴にレーザー光を照射することにより蒸発・イオン化させ質量分析する技術が開発された(特許文献1参照)。
【0013】
しかしながら、この方法においては、感度が必ずしも上がらず、実用に供するには、不充分であった。
【特許文献1】特開平3−105841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明の課題は、液体試料にイオン化剤を添加してイオン化し、該イオン化した試料を微細化(ミスト化)し、該イオン化した微細液滴試料を質量分析器に導き、試料の同定を行う方法において、簡便な方法により感度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
落下する液滴の中心にレーザー光が照射されると、該液滴は、瞬時に蒸発すると共に、イオン化することが確認されているが、レーザー光が液滴の中心から外れると、レーザーからのエネルギーが液滴に十分に吸収されないために、蒸発が不十分であり、イオン化も不十分であることが確認されている。
【0016】
本件発明は、イオン化剤の添加された液体試料を微細液滴(ミスト状)とし、該微細液滴試料にレーザー光を照射することにより、さらに微細化するとともにイオン抽出効率を向上させて、質量分析するものである。
【発明の効果】
【0017】
本願発明においては、イオン化剤を混合した液滴試料を噴霧装置(ネブライザー)により噴射し、該試料を微細化(ミスト化)し、該微細化された試料にレーザー光を照射することにより、レーザーの照射精度をさほど気にする必要はなく、試料とレーザーとの衝突確率が向上し、液滴にレーザーを照射させる場合と比較して、感度を数百倍向上させることができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本願発明を実施するための最良の形態を示す。
【0019】
装置の概要を説明する。
図1に示すように、本願発明の質量分析装置の概略は、液体試料にイオン化剤を混合するイオン化剤混合部1、該イオン化剤が混合された液体試料を噴霧ガスにより微細液滴化する噴霧装置2、該微細液滴化された液滴試料にレーザー光を照射するレーザー光照射装置3および該微細化された液滴を質量分析する質量分析器(MS)4から構成されている。
【0020】
イオン化剤混合部1においては、液体試料とイオン化剤(Li付加、プロトン付加等)を混合し、液体内においてイオンを生成する。噴霧装置2は、二重管の内側管に液体試料を導入し、外側管に噴霧剤を導入する。噴霧装置2から吹き出された試料は、微細液滴(ミスト状)になっており、この微細液滴にレーザー光照射部3において、レーザー光を照射する。該レーザー照射された液滴は、質量分析器4に導かれて質量分析される。その際、上記質量分析装置には、リペラー電極が設けられており、該電極には、微細液滴イオンを上記質量分析器に導くために電圧が印加されている。
【0021】
分析対象試料としては、種々の物質が対象と成りうるが、非極性溶媒に溶解する試料(テルペン類等、水と相性が悪い物質)が本願発明の分析対象として好ましい。
【0022】
また、高電場によって試料の分解が起こる可能性があり、他の方法では分析が困難である物質も本願発明の方法においては分析が可能である。
【実施例1】
【0023】
試料として、フタル酸ジシクロヘキシル1mM、分子量329を採用し、イオン化剤として、トリフルオロ酢酸(TFA)0.1%(w/w)を添加した場合の結果を示す。
【0024】
噴霧装置としては製作したネブライザー装置を使用し、噴霧ガスとしては窒素を用いた。
【0025】
用いたレーザーは、パルスYAGレーザー(1024nm、60〜100Hz、10ns)である。
【0026】
図2に、試料として、フタル酸ジシクロヘキシル、イオン化剤として、TFAを採用し、レーザーを照射した場合のマススペクトルを示す。
【0027】
図3に、比較のために、試料としてフタル酸ジシクロヘキシル、イオン化剤としてTFAを用い、レーザーを照射しない場合のマススペクトルを示す。
【0028】
図2及び図3を対比すると明らかなように、レーザーを照射しない場合には、80×10カウント/分程度であったが、レーザーを照射した場合には、550×10カウント/分程度となり、レーザーを照射することにより、7倍程度感度が向上している。
【0029】
図4に、試料として、フタル酸ジシクロヘキシル、イオン化剤として、TFAを採用し、レーザーを照射した場合のフタル酸ジシクロヘキシルのピーク強度に関するマスクロマトグラムの時間変化を示す。この図から明らかなように、本願発明の方法は、連続的な質量モニター運転にも好都合であった。

【実施例2】
【0030】
次に、試料として、Dibenzyl-14-crown-4 0.005mMを採用し、イオン化剤として、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素リチウム(LiTFPB)0.025mMを添加した場合の結果を示す。噴霧装置およびレーザーは、実施例1と同じである。
【0031】
図5に、レーザーを照射した場合のマススペクトルを示す。
図6に、比較として、レーザーを照射しない場合のマススペクトルを示す。
【0032】
図5及び図6を対比すると明らかなように、レーザーを照射しない場合には、50×10カウント/分程度であったが、レーザーを照射した場合には、140×10カウント/分程度となり、レーザーを照射することにより、3倍程度感度が向上している。
【0033】
図7に、比較として、Dibenzyl-14-crown-4 0.5mM、LiTFPB 5mMの液滴を微細化せずに、直接レーザーを照射した場合のマススペクトルを示す。この場合には、20×10カウント/分程度であったので、試料の濃度を考慮すると、本願発明による微細液滴(ミスト)にレーザーを照射した場合に、感度は700倍程度向上している。逆に言えば、液滴にレーザー光を照射する方法においては同定不可能な微量の試料に対しても、本願発明においては試料の同定が可能である。また、高繰り返し周波数のレーザーを用いるとさらなるイオン抽出効率の向上が得られると考えられる。

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本願発明に係る装置の概略図
【図2】試料としてフタル酸ジシクロヘキシル、イオン化剤としてトリフルオロ酢酸(TFA)を採用し、微細化した液滴にレーザーを照射した場合のマススペクトル
【図3】試料としてフタル酸ジシクロヘキシル、イオン化剤としてTFAを採用し、微細化した液滴のマススペクトル(レーザーの照射なし)
【図4】試料としてフタル酸ジシクロヘキシル、イオン化剤としてTFAを採用し、微細化した液滴にレーザーを照射した場合のフタル酸ジシクロヘキシルのピーク強度に関するマスクロマトグラムの時間変化
【図5】試料としてDibenzyl-14-crown-4、イオン化剤としてテトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素リチウム(LiTFPB)を採用し、微細化した液滴にレーザーを照射した場合のマススペクトル
【図6】試料としてDibenzyl-14-crown-4、イオン化剤としてLiTFPBを採用し、微細化した液滴のマススペクトル(レーザーの照射なし)
【図7】試料としてDibenzyl-14-crown-4、イオン化剤としてLiTFPBを採用し、液滴にレーザーを照射した場合のマススペクトル(微細化せず)
【符号の説明】
【0035】
1 イオン化剤混合部
2 液滴噴霧装置
3 レーザー光照射部
4 質量分析器
5 液体試料
6 イオン化剤
7 噴霧剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料のイオン化法において、イオン化剤を付与した液体試料を微細液滴とし、該微細液滴にレーザー光を照射することを特徴とする液体試料のイオン化法。
【請求項2】
上記試料の微細化は、噴霧装置により行うことを特徴とする請求項1に記載の液体試料のイオン化法。
【請求項3】
上記イオン化剤は、リチウム化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体試料のイオン化法。
【請求項4】
上記レーザーは、YAGレーザー又はロングパルスレーザーであることを特徴とする請求項1に記載の液体試料のイオン化法。
【請求項5】
質量分析方法であって、請求項1に記載の液体試料のイオン化法によりイオン化された微細液滴試料を質量分析器に導き、該試料の同定を行うことを特徴とする質量分析方法。
【請求項6】
液体試料のイオン化装置であって、該イオン化装置は、該液体試料にイオン化剤を注入し混合する混合装置、該試料を微細液滴として供給する噴霧装置及び該噴霧装置より供給された該微細液滴にレーザー光を照射するレーザー光照射装置を備えることを特徴とする液体試料のイオン化装置。
【請求項7】
質量分析装置であって、請求項6に記載の液体試料のイオン化装置よりイオン化された微細液滴試料を質量分析器に導き、該試料の同定を行うことを特徴とする質量分析装置。
【請求項8】
上記質量分析装置は、リペラー電極を備えており、該電極には、液滴イオンを上記質量分析器に導くために電圧が印加されていることを特徴とする請求項7に記載の質量分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−14539(P2010−14539A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174611(P2008−174611)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】