説明

液体試料保存プレート

【課題】収納性及び取り扱い性に優れる、体液などの液体試料の保存プレートを提供する。
【解決手段】プラスチックプレート表面に、液体試料を保存するための試料貯留部2が複数凹設されてなる液体試料保存プレートであって、前記試料貯留部2は、開口部の面積が底面の面積よりも広くされ、周縁部には、該保存プレート同士をその表面に対して垂直な方向に、試料貯留部2を上向きとして積重可能となるように、積重部5が形成されている液体試料保存プレート1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液試料の保存に好適で収納性及び取り扱い性に優れる液体試料保存プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
医療業界においては、臨床検査に使用した血液などの体液試料は、検査終了後に一定期間保存することが義務付けられている。これは、再検査が必要になった場合に備えるためであり、保存期間は概ね2〜4週間程度であって、この間、体液試料を劣化させること無く保存する必要がある。
そして、体液試料の保存方法として従来は、例えば、蓋付きのガラス製やプラスチック製の試験管などの容器内に体液試料を密封して、これら容器を起立させた状態で保存する方法が採られることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような従来の保存方法では、保存する体液試料が少量であるにもかかわらず容器が大きくてかさばり、容器の積重ねも困難であるため、保存時に大きなスペースを必要とし、収納性が悪いという問題点があった。そして、収納性が悪い故に、体液試料の分類及び整理を十分に行えないという問題点があった。さらに、体液試料の分類及び整理が不十分であるが故に、保存中の体液試料を再検査する必要が生じた時に、所望の体液試料の選別に手間を要するという問題点があった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、収納性及び取り扱い性に優れる、体液などの液体試料の保存プレートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、プラスチックプレートに、液体試料を保存するための試料貯留部を複数設けて、該試料貯留部を特定の形状とすることで、液体試料充填時に液跳ねを防止すると共に、該液体試料を密封後は前記プラスチックプレート同士を積重ねることで、液体試料を省スペースで保存できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、プラスチックプレート表面に、液体試料を保存するための試料貯留部が複数凹設されてなる液体試料保存プレートであって、前記試料貯留部は、開口部の面積が底面の面積よりも広くされ、表面に対して略垂直方向に互いに積重可能となる積重部が設けられていることを特徴とする液体試料保存プレートを提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体試料を分類及び整理して省スペースで保存でき、液体試料使用時には、所望の試料を容易に選別できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は本発明の第一の実施形態に係る液体試料保存プレートを例示する図であり、(a)は斜視図、(b)は、(a)のA−A線における断面図である。
液体試料保存プレート1は、円盤状のプラスチックプレート表面のうち、その周縁部に沿った部位に、複数の試料貯留部2が一列に凹設されてなるものである。試料貯留部2には、液体試料が充填され、封止保存される。
【0009】
ここで液体試料とは、特に限定されるものではないが、各種臨床検査に供される生体由来の成分を含有する液状の試料が好適であり、各種体液や、生体由来の成分を液体に溶解させたものなどが挙げられる。具体的には、例えば、血液や血清などの血液由来の試料、DNA抽出液、尿などが挙げられる。
【0010】
液体試料保存プレート1の厚みは、適宜選択すれば良いが、薄すぎると強度が不足し、厚すぎると重くなって取り扱い性が悪くなることを考慮すると、0.15〜0.35mmであることが好ましい。
また、液体試料保存プレート1の径方向のサイズRも、例えば、保存に供する液体試料の数を考慮して適宜選択すれば良いが、大きすぎると取り扱い性が悪くなることを考慮すると、20cm以下であることが好ましい。
【0011】
試料貯留部2は、開口部の面積が底面の面積よりも広くされた逆円錐台状である。開口部の面積を底面の面積よりも広くすることで、液体試料充填時の液跳ねが抑制される。
【0012】
試料貯留部2の容積は適宜選択すれば良いが、例えば、臨床検査には通常200〜500μl程度の試料が必要とされることが多いので、このような量の液体試料が充填可能であれば良い。そして、容積が大きすぎると、液体試料保存プレート1の1枚当たりに保存できる液体試料の数が少なく制限されてしまうだけでなく、例えば、保存中の液体試料を採取する時の該保存プレート1の取り扱い性も悪くなってしまう。このような観点から、試料貯留部2の容積は2ml以下であることが好ましく、1ml以下であることがより好ましい。
【0013】
液体試料保存プレート1の周縁部には、該保存プレート1同士をその表面に対して略垂直な方向に、試料貯留部2を上向きとして積重可能となるように、積重部5が形成されている。積重部5は、液体試料保存プレート1周端部が試料貯留部2の開口方向とは反対向きとなるように、該周縁部に一段の段差が形成されてなるものである。
【0014】
積重部5のうち、試料貯留部2の開口方向とは反対側の段差面52の水平面52aは、試料貯留部2の開口側とは反対側の表面2aよりも下部に位置することが必要である。このようにしないと、液体試料保存プレート1を後記するように安定して積重できないからである。
【0015】
また、積重部5のうち、試料貯留部2の開口方向の段差面を符号51とした場合、前記段差面52の高さH及び前記段差面51の高さHは、液体試料保存プレート1の径方向のサイズR等を考慮して適宜設定すればよいが、後記するように該保存プレート1を安定して積重するためには、前記サイズRの2〜7%程度であることが好ましい。高さH及びHが小さ過ぎると、積重させた前記保存プレート1同士にずれが生じ易くなる。また、高さH及びHが大き過ぎると、多数の前記保存プレート1を積重した積重体の高さが高くなって、積重体の安定性が低下するだけでなく、収納スペースが大きくなって液体試料の収納効率が低下してしまう。
そして、高さH及びHは同じであることが好ましい。このようにすることで、一方の前記保存プレート1の段差面51と、他方の前記保存プレート1の段差面52との接触面積が最大になるので、最も安定して前記保存プレート1を積重できる。
【0016】
さらに、前記段差面51の水平面51aの幅L、及び前記段差面52の水平面52aの幅Lは、液体試料保存プレート1の径方向のサイズRや、前記高さH及びH等を考慮して適宜設定すれば良い。例えば、液体試料保存プレート1の厚みと同程度でも良いが、これよりも大きい方が前記保存プレート1を安定して積重できる。ただし、大き過ぎると、収納スペースが大きくなって液体試料の収納効率が低下してしまう。
【0017】
液体試料保存プレート1には、四つの取っ手孔3,3・・が穿設ざれている。そして、該取っ手孔3,3・・のいずれか又はすべてに指を差し入れて把持することで、液体試料保存プレート1を持ち上げたりするなどの取り扱いを容易に行えるようになっている。すなわち、取っ手孔3,3・・の大きさ、形状、配置位置などは、片手で液体試料保存プレート1を把持できるように、手のサイズを考慮して決定することが好ましい。
【0018】
液体試料保存プレート1の略中心部には、棒状のスタンドを挿通可能なスタンド孔4が穿設されている。そして、後記するように液体試料保存プレート1をがたつきなく安定して積重するためには、スタンド孔4の径方向の形状は、スタンドの径方向断面の形状と相似形である方が好ましく、スタンド孔4の内表面とスタンドとの間の隙間が数mm程度、好ましくは2〜3mm程度となるように調整することが好ましい。そして、スタンド孔4のサイズは、棒状のスタンドのサイズを考慮して選択すれば良い。
【0019】
隣り合う試料貯留部2,2間の距離は15mm以上であることが好ましい。このように一定値以上の間隔を設けることで、液体試料の充填時や、保存中の液体試料を該試料貯留部2より採取する時に、液体試料同士のコンタミネーションを抑制する効果が高くなる。なお、ここで言う「隣り合う試料貯留部2,2間の距離」とは、「隣り合う試料貯留部2,2の開口部周縁の間の距離のうち最短のもの」のことを指す。
【0020】
図1では、試料貯留部2が液体試料保存プレート1表面の周縁部に沿って一列に設けられた例を示しているが、本発明においてはこれに限定されない。例えば、試料貯留部2の配置位置は、周縁部に沿った部位でなくても良いし、一列ではなく、複数列に配置されても良い。
そして、試料貯留部2の数も特に限定されず、保存に供する液体試料の数や種類、液体試料保存プレート1のサイズ等を考慮して適宜選択すれば良い。
【0021】
試料貯留部2の形状も、図1に示したような逆円錐台状に限定されず、開口部の面積が底面の面積よりも広ければいずれでも良く、例えば、逆角錐台状でも良い。そして、底面積がゼロ、すなわち、逆円錐状や逆角錐状等であっても良い。
【0022】
取っ手孔3の数も特に限定されず、四つ以外でも良い。そして、必ずしも取っ手孔3が液体試料保存プレート1に穿設されていなくても良いが、穿設されている方が該保存プレート1の取り扱いが容易となるので好ましい。
【0023】
さらに、液体試料保存プレートの外形も、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、円盤状以外の外形でも良い。
【0024】
液体試料保存プレート1の材質は、各種プラスチックから選択できる。試料貯留部2に充填した液体試料は、目的に応じて、例えば、−70〜−20程度の低温で凍結保存に供されることがあり、解凍時には加熱に供されることもある。また、例えば、保存後に再検査に供されることもあり、液体試料保存プレート1には各種薬品が付着する可能性もある。この様な観点から、液体試料保存プレート1の材質としては、なかでも液体試料の密封性、耐熱性・耐冷蔵性及び耐薬品性に優れることから、ポリエチレンテレフタレート又はポリスチレンが好ましい。そして、液体試料保存プレート1は、一種の材質からなる単層プレートでも良いし、複数種の材質のプラスチックプレートが積層されてなる複合プレートでも良い。
また、保存中の液体試料の光による劣化を抑制するために、液体試料保存プレート1は、前記プラスチックプレートとアルミニウムシートとが積層されてなる複合プレートであることが好ましい。そして、液体試料の接触面がアルミニウムシート層とならないように構成することが好ましい。
【0025】
液体試料保存プレート1は、試料貯留部2に所望の液体試料を充填した後、該試料貯留部2の開口部をトップシール(図示略)で封止することにより、液体試料を密封できる。トップシールの材質は、液体試料保存プレート1と同様で良い。そして、液体試料保存プレート1と共に、前記プラスチックからなるシートとアルミニウムシートとが積層されてなる複合シールを用いれば、保存中の液体試料を遮光できるので、液体試料の劣化を抑制でき好適である。この場合トップシールは、封止時における液体試料の接触面が、アルミニウムシート層とならないようにすることが好ましい。
トップシールによる封止は、公知の方法で行えば良い。例えば、液体試料保存プレート1表面をトップシールで被覆し、該保存プレート1表面の試料貯留部2を除く部位とトップシールとを熱融着させても良いし、当該部位とトップシールとを、接着剤を用いて接着しても良い。
【0026】
試料貯留部2に密封した液体試料を採取する場合には、例えば、トップシールを剥離させて採取するか、又はトップシールを剥離させずにシリンジの針を該トップシールに穿通させ、試料貯留部2内に挿入して吸引することにより採取すれば良い。
このように、シリンジの針を試料貯留部2内に挿入することを考慮すると、トップシールの厚みは、0.1〜0.3mmであることが好ましい。
【0027】
液体試料保存プレート1には、必要に応じて、充填された液体試料の履歴を特定するための情報を付加しても良い。情報付加は、例えば、液体試料保存プレート1の所定箇所に直接印字することで行っても良いし、バーコードラベルを貼付することで行っても良い。さらには、情報を記録したICタグを取り付けても良い。そしてこれら情報付加は、トップシールに対して行っても良い。
【0028】
液体試料保存プレート1は、公知の方法で製造できる。例えば、先に挙げた材質の材料及び所望の金型を用いて、圧縮成形、射出成形、真空成形などを行うことにより製造できる。
【0029】
液体試料保存プレート1は、試料貯留部2に所望の液体試料を密封した後、表面に対して略垂直方向に積重することで、大きな保存スペースを必要とせずに多数の液体試料を分類及び整理して保存できる。そして、保存中の液体試料が必要な時には、所望の試料が充填された液体試料保存プレート1を取り出して、試料を採取すれば良い。また、一つの液体試料保存プレート1には、例えば、被験者一人分の試料のみを保存しておくようにすれば、試料を採取した液体試料保存プレート1を試料採取後に廃棄しても、他の被験者の試料採取に支障が無いので好適である。
【0030】
液体試料保存プレート1の積重は、トップシールで試料貯留部2を封止した二つの液体試料保存プレート1について、これらの積重部5同士を契合させることで達成される。すなわち、一方の前記保存プレート1の積重部5のうち、試料貯留部2の開口方向とは反対側の段差面52を、他方の前記保存プレート1の積重部5のうち、試料貯留部2の開口方向の段差面51に契合させれば良い。このようにして複数の液体試料保存プレート1を積重した状態を図2に示す。(a)は斜視図、(b)は、(a)のB−B線における断面図である。
【0031】
図2に示すように、複数の液体試料保存プレート1が、積重部5を介して、該保存プレート1の表面に対して略垂直方向に安定して積重される。なお、図2においては、液体試料保存プレート1同士の積重の様子を見易くするために、積重部5間に隙間を設けて示している。また、液体試料保存シート1を封止するトップシールの図示は省略している。
さらに、略正方形状の底板部61と該底板部61の中心部に突設された略円柱状の支持部62からなるスタンド6を用い、すべての液体試料保存プレート1を、そのスタンド孔4に前記支持部62を挿通させて積重することにより、一層安定して液体試料保存プレート1を収納できる。
【0032】
なお、液体試料保存プレート1の積重に用いるスタンドは、図2に示すものに限定されない。例えば、底板部61の形状は略正方形以外の形状でも良いが、底板部61の、前記保存プレート1を載置する面のサイズは液体試料保存プレート1の径方向のサイズRよりも大きいことが好ましい。そして、支持部62の形状も略円柱状以外でも良い。スタンド6の材質は、液体試料保存プレート1を支持できる強度を有するものであればいずれでも良く、例えば、金属、プラスチック等が挙げられるが、比重の大きいものが好ましく、鉄などの金属が好ましい。
なお、図2では、複数の液体試料保存プレート1を、スタンド6を用いて積重した例を示しているが、本発明の液体試料保存プレートは、スタンドを用いなくても安定して積重できる。
【0033】
ここまでは、液体試料保存プレートの積重部が、該プレート周縁部に設けられた例を挙げて説明したが、本発明においては、積重部を他の部位に設けても良く、例えば、円盤状のプラスチックプレートのうち、試料貯留部が設けられていない部位に、該プレート周縁と同芯となるように設けても良い。また、積重部を同芯状に複数設けても良い。そして、積重部は必ずしも連続して設ける必要はなく、一部に切欠を有していても良い。ただし、液体試料保存プレートを安定して積重するためには、少なくとも該プレートの周縁部または周縁部近傍に連続して設けることが好ましい。
【0034】
また、積重部の段差面の形態も、液体試料保存プレートを安定して積重できるものであればいずれでも良い。
そして、積重部の形態も、ここに示したような段差面を利用して契合させるものに限定されない。例えば、一方の液体試料保存プレートに凸部を好ましくは複数設け、他方の液体試料保存プレートを中心が一致するように重ねた時に前記凸部と一致する位置に、該凸部と嵌合可能な凹部を設けて、これら凸部および凹部を嵌合させて液体試料保存プレートを積重させるようにしても良い。
【0035】
本発明の液体試料保存プレートには、一つあたり複数の液体試料を密封でき、さらにトップシールで封止後の該保存プレートを、表面に対して略垂直方向に複数積重することで、多数の液体試料を省スペースで容易に保存できる。
また試料貯留部は、例えば、図1に示すように開口部の面積が底面の面積よりも広くなっているので、液体試料充填時の液跳ねが抑制される
そして、充填された液体試料は、トップシールで封止されて密封されるので、保存中に漏洩することがない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、臨床検査で使用する液体試料の保存に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る液体試料保存プレートを例示する図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る液体試料保存プレートを、スタンドを用いて積重した状態を例示する図である。
【符号の説明】
【0038】
1・・・液体試料保存プレート、2・・・試料貯留部、5・・・積重部、51,52・・・段差面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックプレート表面に、液体試料を保存するための試料貯留部が複数凹設されてなる液体試料保存プレートであって、
前記試料貯留部は、開口部の面積が底面の面積よりも広くされ、
表面に対して略垂直方向に互いに積重可能となる積重部が設けられていることを特徴とする液体試料保存プレート。
【請求項2】
隣り合う試料貯留部間の距離が15mm以上である請求項1に記載の液体試料保存プレート。
【請求項3】
前記プラスチックプレートの略中心部に棒状のスタンドを挿通可能な孔が穿設されている請求項1又は2に記載の液体試料保存プレート。
【請求項4】
ポリエチレンテレフタレート又はポリスチレンからなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体試料保存プレート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−121884(P2009−121884A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294396(P2007−294396)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(500272347)DICプラスチック株式会社 (27)
【Fターム(参考)】