説明

液体試料吐出方法およびその装置

本発明は、液体試料中の物質のサイズを制御することが可能な液体試料吐出方法およびその装置を提供する。本発明の装置は、液体試料の吐出口および該液体試料の供給口を有するシリンダと、該液体試料を吐出させるための吐出手段とを備え、そして該シリンダに該シリンダの内部空間への不均一電界発生手段が設けられている。この液体試料吐出装置を用いて、シリンダの内部空間に適切な不均一電界を生じさせながら該液体試料を吐出させることによって、吐出される液体試料に含まれる目的物質のサイズを制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、液体試料を吐出する際に、該吐出される液体試料中に含まれる物質のサイズを制御し得る、液体試料吐出方法およびその装置に関する。
【背景技術】
インクジェット式のプリンターは、その高印字/高印画品質を得るために、種々の改良が加えられている。例えば、一印刷周期毎に出力される駆動信号を複数の駆動パルスから構成し、各駆動パルスにそれぞれ対応したパルス選択信号を含む印字データに基づいて1つまたは複数のパルスを選択することによって、同一のノズルから重量の異なるインク滴を吐出する技術が提案されている(例えば、特開平10−81012号公報参照)。
一方、近年、ナノテクノロジーが発展し、高い精度が要求される成形体、例えば、半導体回路、DNAチップ基板、インクジェットヘッドのノズル、センサーなどの微細な構造を有する成形体が製造されている。例えば、上記インクジェットヘッドのノズル径は小さければ小さい程、大量の情報処理が可能となる。近年の加工技術の進歩により、ナノ加工や超微細加工技術が開発され、集束イオンビーム(FIB)技術などによって、任意の複雑な形状の加工も可能になってきている(田中武雄、山田修,「FIB(集束イオンビーム)技術によるナノ加工」,2002年,MATERIAL STAGE,第1巻,第11号,p.18−23)。
このような吐出技術および加工技術の進歩により、微量な液滴の吐出量(あるいは大きさ)を制御することが可能なインクジェット式のプリンターヘッドが種々開発され、プリンターヘッドとしてだけではなく、微量試料の分注にも用いられるようになってきた。
インクジェットノズルとしては、吐出口と試料供給口とを有するシリンダと、試料供給口側に設けられた液滴吐出手段で構成される構造を有するインクジェットノズルが用いられる。このシリンダを通過して吐出される液滴は微量であるため、液滴中に含まれる物質の凝集によるノズル詰まりやヘッド内壁への吸着による吐出液滴中の物質濃度ばらつきが生じる可能性がある。例えば、濃度が低い懸濁液の場合、シリンダを通過して吐出される液滴中に目的の物質が含まれていない場合もあり得る。このような場合、均一な液体試料を吐出できないため、測定誤差が生じ、正確な測定を行うことができない。それにもかかわらず、吐出される液滴内に含まれる物質自体を制御するための検討は全く行われていない。
【発明の開示】
本発明は、液体試料中の物質のサイズを制御することが可能な液体試料吐出方法およびその装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、電気的操作により、上記課題を解決でき、液体試料中の目的物質を効率的に吐出できることを見出した。
本発明は、液体試料の吐出口および該液体試料の供給口を有するシリンダを備えた液体試料吐出手段において、該シリンダの内部空間に不均一電界を生じさせ、該液体試料を吐出させる工程を含む、液体試料吐出方法を提供する。
好適な実施態様では、上記液体試料は、液滴の形態で吐出される。
より好適な実施態様では、上記液体試料吐出手段は、インクジェット駆動デバイスである。
別の好適な実施態様では、上記不均一電界を変化させながら、上記吐出される液体試料中の目的物質のサイズを制御することができる。
他の好適な実施態様では、上記不均一電界の強度の分布の強弱が複数存在する。
さらに好適な実施態様では、上記不均一電界は定常電界である。
好適な実施態様では、上記不均一電界の強度の分布において、前記シリンダの吐出口から供給口の方向に向けて、強い部分が減衰し、強弱の間隔が広くなっている。
別の好適な実施態様では、上記不均一電界は進行波電界である。
さらに他の好適な実施態様では、上記進行波電界周期と前記インクジェット駆動デバイスの駆動周期とは同じであり、そして該電界周期と該駆動周期との位相差は1波長未満である。
本発明はまた、液体試料の吐出口および該液体試料の供給口を有するシリンダと、該シリンダの該供給口付近に設けられた該液体試料を吐出させるための吐出手段とを備え、そして該シリンダに該シリンダの内部空間への不均一電界発生手段が設けられている、液体試料吐出装置を提供する。
好適な実施態様では、上記吐出手段は、インクジェット駆動デバイスである。
より好適な実施態様では、上記不均一電界発生手段は不均一電界発生電極であり、該シリンダの内壁に同芯軸対称に一定間隔で複数設けられている。
【図面の簡単な説明】
図1は、生体微粒子および金属微粒子を含む液体試料を吐出する場合の、本発明の液体試料吐出装置の模式図である。
図2(a)は、本発明の液体試料吐出装置の一実施態様におけるシリンダの軸と平行な方向からの透視模式図であり、そして図2(b)は、図2(a)におけるA−A’断面模式図である。
図3(a)は、内壁に電極を備えるシリンダの正面模式図であり、図3(b)は、(a)における絶縁部材のA−A’断面模式図であり、そして図3(c)は、(a)における導電部材20のB−B’断面模式図である。
図4は、複数の電極によって定常電界または進行波電界を形成した場合の、本発明の液体試料吐出装置のシリンダの断面模式図である。
図5は、複数の電極によって減衰する定常電界を形成した場合の、本発明の液体試料吐出装置のシリンダの断面模式図である。
図6は、複数の電極によって進行波電界を形成した場合の、本発明の液体試料吐出装置のシリンダの断面模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、誘電泳動力を利用することによって、シリンダ内に供給された液体試料中の目的物質を電気的に1箇所に捕捉集合させ、液体試料中に含まれる物質のサイズを制御することを特徴とする。ここで、誘電泳動力とは、不均一な電解中に存在する粒子が分極し、その結果、発生した分極電荷と不均一電解との相互作用に起因した力であって、その大きさFDEPは、
DEP=2πaεRe[K(ω)]▽(E) (1)
で与えられる。ここで、aは粒子半径を表す。また、K(ω)は印加電圧の周波数ωを用いて、
(ω)=ε−ε/ε+2ε (2)
で与えられ、式(2)中のεおよびεは、それぞれ
ε=ε−jσ/ω (3)
ε=ε−jσ/ω (4)
である。ただし、ε、ε、σ、およびσは、それぞれ目的物質と試料物質の誘電率と導電率であり、上記式において複素量にはを付す。上記式(1)において、
Re[K(ω)]>0 (5)
であれば、目的物質は電界強度の強い方へ移動し(正の誘電泳動)、
Re[K(ω)]<0 (6)
であれば、目的物質は電界強度の弱い方へ移動する(負の誘電泳動)。これらの式からわかるように、目的物質に正の誘電泳動が発生するか、あるいは負の誘電泳動が発生するかは、印加する電圧の周波数、液体試料の導電率および誘電率、目的物質の導電率および誘電率のパラメータにより決定される。したがって、試料に負の誘電泳動力が作用するように上記パラメータを調節することにより、目的物質を1箇所に捕捉集合させることができる。
本発明は、液体試料中の物質の電荷の有無を問わず、例えば、ウイルス、微生物、単細胞生物、動物細胞、植物細胞、ならびにこれらに由来するDNA、タンパク質などの生体微粒子、さらに金属、セラミックス、有機物質、無機物質などを含むあらゆる物質に対して適用することができる。
本発明において、液体試料とは、シリンダに供給される液体をいい、単一または複数の目的物質または種々の物質を含む検体が、そのままあるいは液体の状態にされているものをいう。具体的には、液体試料は、上記のような目的物質が適切な媒体に溶解または懸濁されている。媒体は、誘電特性を考慮して適宜選択され得る。この液体試料は、目的物質以外の物質を含んでいてもよい。
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。
本発明において、液体試料吐出装置は、液体試料の吐出口および該液体試料の供給口を有するシリンダと、該シリンダの該供給口付近に設けられた該液体試料を吐出させるための吐出手段とを備え、そして該シリンダに該シリンダの内部空間への不均一電界発生手段が設けられている(図1を参照のこと)。
例えば、図1は、媒体中に目的物質として生体微粒子および不純物として金属微粒子を含む液体試料を吐出する場合の、本発明の液体試料吐出装置の模式図である。液体試料は、供給口からシリンダ内に導入され、吐出口の方向に移動する。吐出口付近では、シリンダに設けられた不均一電界発生電極により、シリンダの内部空間には任意の不均一電界が形成される。そのため、例えば、媒体の誘電率および導電率を適切な値に調整することによって、生体微粒子を誘電泳動力によってシリンダの中心軸付近に集合させ、かつ、金属微粒子をシリンダの内壁近傍に分布させることができる。この状態で吐出手段を駆動させると、生体微粒子を含むが金属微粒子を含まない液体試料が吐出口から吐出され得る。
試料の吐出手段は、液体試料を連続流として吐出できるものであっても、液滴として吐出できるものであってもよい。液体試料を微量の液滴として吐出可能な駆動装置が好ましく、このような装置としては、代表的には、インクジェット駆動デバイスが挙げられる。インクジェット駆動デバイスを用いると、液体試料の微量吐出が可能である。さらに、高速で吐出できるため、スループットも向上する。
本発明の液体試料吐出装置におけるシリンダの材質は、固体絶縁材料であれば、特に限定されず、試料に応じて選択され得る。例えば、ガラス、セラミックスなどの無機材料;熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの有機材料などが挙げられる。成形が容易である点で、ポリエチレン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、グアナミン樹脂、メラミン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、フラン樹脂、フルフラール樹脂などが挙げられる。この中でも、耐薬品性、耐蝕性のある樹脂が好ましい。シリンダの吐出口の口径は、試料に応じて適宜決定され、例えば、1μm〜100μmのサイズが好ましい。また、シリンダの内径および長さも、後述の電極のサイズおよび数に応じて適宜決定され得る。シリンダの断面形状は、特に限定されず、円形、楕円形、四角形のような多角形などであってもよい。
上記シリンダに設けられる不均一電界発生手段としては、電極が挙げられる。電極の場合、その材質は、導電材料であれば特に限定されない。例えば、アモルファスカーボン、酸化インジウムなどの薄膜電極形成材料、金、銀、銅などの金属が挙げられる。電極の形成のしやすさの点から、アモルファスカーボン、酸化インジウム、および銅が好適に用いられる。
不均一電界発生電極は、シリンダの壁内に埋設されていてもよいが、物質の誘電特性を精密に制御できる点で、電極表面がシリンダの内部空間に露出または突出していることが好ましい。図1に示すように、電極は、好ましくは、シリンダの中心軸方向に垂直に電界を生じるように設けられる。円筒状シリンダを例に挙げて、図2を説明する。図2(a)は、シリンダの中心軸と平行な方向からの透視模式図である。図2(b)は、図2(a)のA−A’断面模式図であり、電極が、シリンダの内壁に沿って同心円状(同芯軸対称)に配置されている。電極は、図2に示すように、同心円がいくつかに分断された形状の多重電極であってもよいし、一連の同心円の形状であってもよい。多重極度が増大するほど、低印加電圧で液体試料中の微量の目的物質を制御することが可能となる。
不均一電界発生電極は、上記のように、シリンダの内部空間に露出するように設けられる。この電極は、例えば、炭素含量が高い(好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上)の樹脂(例えば、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂など)にレーザー光を照射し、炭素を析出させ、炭素の析出部を電極として利用する方法により、形成され得る。あるいは、非導電材料(プラスチック、ガラス、セラミックスなど)に導電性薄膜を設け、これを積層することによって、形成することもできる。
後者のような電極を有するシリンダの製造方法は、例えば、セラミックス、金属間化合物、ガラス、およびアモルファスカーボンからなる群から選択される基材の表面にマイクロメートルからナノメートルまでのサイズのキャビティーおよび/またはコアが設けられている型を用いて、シリンダの壁を構成する分断された形状の複数の絶縁部材を得る工程;該絶縁部材の少なくとも1つの分断面を導電材料でコーティングする工程;および、該コーティングされた絶縁部材を積層して該分断面を接合する工程によって、シリンダを製造することができる。この方法では、シリンダは、型を用いる成形によって得られた絶縁部材に導電材料をコーティングした後、接合することによって製造される。分断された形状の絶縁部材については、成形後に切断したものであってもよい。この絶縁部材の少なくとも1つの分断面を、導電材料でコーティングした後、これらを接合する。この場合、導電材料がコーティングされた部分が導電部材となり得る。コーティングの方法は、特に限定されず、めっき、スパッタリング、イオンプレーティング、CVDなど、コーティングに供する絶縁部材および導電材料に応じて適宜決定され得る。コーティングの厚さも、電極として適切な厚さに適宜決定され得る。
あるいは、所望の形状に成形された導電部材を電極として用い、この導電部材と絶縁部材とを積層してシリンダを形成してもよい。
このようなシリンダの製造方法は、例えば、セラミックス、金属間化合物、ガラス、およびアモルファスカーボンからなる群から選択される基材の表面にマイクロメートルからナノメートルまでのサイズのキャビティーおよび/またはコアが設けられている型を用いて、シリンダの壁を構成する分断された形状の複数の絶縁部材を得る工程;セラミックス、金属間化合物、ガラス、およびアモルファスカーボンからなる群から選択される基材の表面にマイクロメートルからナノメートルまでのサイズのキャビティーおよび/またはコアが設けられている型を用いて、該絶縁部材の間に挟持され得る形状の導電部材を得る工程;および、該絶縁部材と該導電部材とを積層して接合する工程、を含む。すなわち、絶縁部材および導電部材の両方とも、それぞれ型を用いて得、それらを接合することによって、シリンダを製造する。
このような方法によるシリンダの製造方法を、以下に簡単に説明する。
まず、シリンダ材料である絶縁材料または導電材料を、それぞれ適切な溶媒に溶解または分散させ、例えば、インクジェットノズルを用いて型に注入し、必要に応じて、型を加熱し、または減圧して、溶媒を蒸発させる。型にシリンダ材料が充填されるまで、この操作を繰り返す。シリンダ材料が充填されたら、必要に応じて、固化、硬化、重合、溶融、焼結などの方法を、単独でまたは組合せて用いて成形することにより、所望の成形体として、絶縁部材または導電部材が得られる。なお、絶縁部材または導電部材の製造に際しては、常圧または減圧下行われることが好ましい。常圧で行う場合、型を予め暖めておくと、溶媒の蒸発が直ちに行われるので、連続してシリンダ材料を注入することができる。アモルファスカーボンまたは金属間化合物を型として用いる場合は、通電するだけで、発熱体として用いることができる。
あるいは、型を用いてサイズおよび外形のみ制御された導電部材を得、次いで、例えば、集束イオンビーム(FIB)を用いて切削することによって、所望の微細構造を有する導電部材を得ることもできる。具体的には、例えば、導電部材として、アモルファスカーボン、金属(例えば、銅)などの導電性物質のディスク(例えば、直径200μm、厚さ10〜20μm)を用い、その中心部に、シリンダの内部空間に露出すべき任意の形状のホール(穴)を形成する。
得られた絶縁部材または導電部材は、そのまま次の接合工程に供してもよい。また、得られた絶縁部材または導電部材を切断して、例えば、薄片にした後、接合に供してもよい。切断手段は、特に限定されず、例えば、レーザー、FIBなどが挙げられる。
絶縁部材または導電部材は、次いで、導電部材を絶縁部材間に挟持するように接合される。接合手段は、絶縁部材および導電部材の種類に応じて適宜選択される。例えば、有機または無機の接着剤を用いる方法、ろう付けによる方法などが挙げられる。
上記のようにして成形して得られた絶縁部材および導電部材を接合する場合について、図3によって具体的に説明する。
図3(a)は、内壁に電極を備えるシリンダの正面模式図である。シリンダの壁を構成する絶縁部材10は、図3(a)では、4つに分断されている。そして分断された各絶縁部材10は、それぞれ導電部材20を挟持するように配置されている。これらの部材間は上記の接合手段によって接合される。接合される面は、平坦な面であってもよく、あるいは嵌合するように適切な凹凸が設けられていてもよい。図3(b)は、図3(a)における絶縁部材のA−A’断面模式図である。図3(c)は、図3(a)における導電部材20のB−B’断面模式図である。図3(b)に示すように、絶縁部材10は、シリンダの内部空間を形成するための貫通孔12が設けられている。図3(c)に示すように、導電部材20は、シリンダの内部空間を形成するための貫通孔26が設けられ、そしてシリンダの内壁に備えられる電極22が、例えば、貫通孔26に突出するように備えられる。この場合は、電極22は、シリンダの内部空間に突出し、同心円がいくつかに分断された形状となる。絶縁部材10と導電部材20との断面形状が、全く同じであってもよく、この場合、電極22は内壁を1周するように露出した形状となる。あるいは、例えば、絶縁部材10がアモルファスカーボン前駆体に相当するポリマーからなる場合には、導電部材20は、必ずしもシリンダの外壁に露出または突出していなくてもよい。この場合は、レーザー光の集光照射による炭素析出によって、電極22からシリンダ外壁まで電気回路を形成することが可能である。さらに、各絶縁部材10または導電部材20を、正確な位置に配置して接合させるために、各部材には位置合わせ用の孔14および24が設けられていてもよい。あるいは、位置合わせ用の孔として、液体試料の流路となるシリンダの内部空間20を用いてもよい。
接合した後、例えば、絶縁部材に挟持された導電部材において、シリンダの内部空間に露出した各電極間の絶縁を確保するために、シリンダの外壁をFIBなどを用いて任意の深さで切削してもよい。例えば、図3(c)の断面において各電極22間の導電部材を外壁側から切削して、各電極22をそれぞれ絶縁することが好ましい。このように、絶縁した各電極22に外壁側から適切に配線を施し、不均一電界発生装置と接続することによって、導電部材に通電して、シリンダの内部空間に不均一電界を生じさせることができる。
上記のようなシリンダの液体試料供給口付近に、適切な吐出手段を取り付けることにより、本発明の液体試料吐出装置が得られる。
本発明の装置を用いると、シリンダの内部空間に形成する不均一電界の強度を変化させて、吐出される液体試料中の物質のサイズを制御することができる。ここで、サイズというときは、検体の大きさ(嵩)および/または数をいう。嵩は、各電極に印加する電圧を調整することにより制御し得る。例えば、負の誘電泳動の場合、電圧を高くすることによって吐出試料中の物質のサイズ(嵩)を小さくすることができる。数は、シリンダに設けられた電極の数あるいは間隔を調整することによって制御し得る。シリンダ内での不均一電界の形成は、液体試料中に含まれる物質の誘電特性を予めコンピュータに入力することよって調節され得、高精度に所望サイズの物質を含む液体試料を吐出できる。吐出手段としてインクジェット駆動デバイスを用いると、吐出される1滴中に目的物質を必ず含むように設定することも可能である。例えば、各電極の電圧強度および周波数、電界強度分布の強い部分の間隔、インクジェットの吐出量および駆動周期などを制御することにより、物質を1分子レベルあるいは1細胞レベルで吐出することも可能である。また、上記の図1に示す例のように、液体試料中の微粒子凝集によるノズル詰まりを防止することもできる。
不均一電界発生電極は、シリンダの中心軸方向に一定間隔で複数設けることもできる。不均一電界の強度の強い部分と弱い部分とが、シリンダの中心軸方向に複数存在するように、各電極に印加する電圧が調整されていてもよい(図4〜図6を参照のこと)。
例えば、図4に示すように、各電極に印加する電圧の強度を等しくすることによって、定常電界を形成することができる。液体試料中の目的物質は、定常電界の強度の弱い部分のシリンダ中心軸付近に集合する。次いで、例えば、インクジェット駆動デバイスを駆動させ、集合した目的物質を確実に含む液体試料を液滴として順次吐出させることによって、均一な液体試料を連続的に高速で吐出させることができる。また、図5に示すように、シリンダの吐出口から供給口に向けて不均一電界の強度の分布の強い部分が減衰し、強弱の間隔が広くなっている定常電界であってもよい。
目的物質が液体試料の供給口から吐出口の方向に移動するように進行波電界を形成してもよい。進行波電界とは、電界の強い部分の1つに着目したときに、この電界の強い部分が供給口から吐出口に向かって移動する電界をいう。進行波電界は、液体試料の供給口から吐出口の方向に、時間をずらしながら、同一周期でシリンダに設けられた電極に電圧を印加することによって形成される。それによって、目的物質が液体試料の供給口から吐出口の方向に移動する。例えば、図4の場合は、目的物質の集合体は、シリンダの中心軸方向に隣接する電極の間隔で配置され、順次吐出口方向に移動する。図6の場合は、電界の強度分布の強い部分が隣接しない電極の位置で形成されるので、シリンダの中心軸方向に整列する目的物質の集合体の間隔を広くすることができる。進行波電界を形成することにより、シリンダ内で一旦集合した目的物質をスムーズに吐出口に向けて一定の速度で送り出して吐出させることができる。吐出した1滴の液滴試料中に目的物質を必ず含有させるために、進行波電界周期とインクジェット駆動デバイスの駆動周期とを同じにし、さらにこの電界周期と駆動周期との位相差を1波長未満とすることが好ましい。電界発生と吐出駆動とは、コンピュータ制御によって容易に連動させることができる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、液体試料に含まれる目的物質を、誘電特性に基づいて選択的に吐出することができる。例えば、生体微粒子と金属微粒子とを区別することが可能である。これは、媒体の誘電率および導電率を適切な値に調整することによって達成され得る。さらに、生体微粒子をシリンダの中心軸に集合させることによって、ノズル詰まりを防止し、そしてシリンダ内壁に試料中の物質が吸着することを防止することができる。吐出される1滴中に目的物質を必ず含むように設定することもでき、すなわち、媒体中の吐出試料を高均一化し得る。さらに、物質を1分子レベルあるいは1細胞レベルで吐出することも可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料の吐出口および該液体試料の供給口を有するシリンダを備えた液体試料吐出手段において、該シリンダの内部空間に不均一電界を生じさせ、該液体試料を吐出させる工程を含む、液体試料吐出方法。
【請求項2】
前記液体試料が、液滴の形態で吐出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体試料吐出手段が、インクジェット駆動デバイスである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記不均一電界を変化させて、前記吐出される液体試料中の目的物質のサイズを制御する、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記不均一電界の強度の分布の強弱が複数存在する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記不均一電界が定常電界である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記不均一電界の強度の分布において、前記シリンダの吐出口から供給口の方向に向けて、強い部分が減衰し、強弱の間隔が広くなっている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記不均一電界が進行波電界である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記進行波電界周期と前記インクジェット駆動デバイスの駆動周期とが同じであり、そして該電界周期と該駆動周期との位相差が1波長未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
液体試料の吐出口および該液体試料の供給口を有するシリンダと、該シリンダの該供給口付近に設けられた該液体試料を吐出させるための吐出手段とを備え、そして該シリンダに該シリンダの内部空間への不均一電界発生手段が設けられている、液体試料吐出装置。
【請求項11】
前記吐出手段が、インクジェット駆動デバイスである、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記不均一電界発生手段が不均一電界発生電極であり、該シリンダの内壁に同芯軸対称に一定間隔で複数設けられている、請求項10または11に記載の装置。

【国際公開番号】WO2004/059295
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【発行日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562884(P2004−562884)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016411
【国際出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【出願人】(597067404)クラスターテクノロジー株式会社 (17)
【Fターム(参考)】