説明

液体試料吸引監視方法及び装置、並びに液体試料分析装置

【課題】 コスト低減を図るとともに、吸引精度を確保することができる液体試料吸引監視方法を提供する。
【解決手段】 内部に長手方向に延びる流路Pを有するとともに、液体試料を吸引する吸引口26が先端付近に形成された吸引管21を用いて液体試料を吸引するに際し、前記吸引管21内への液体試料の吸引を監視する方法。吸引管21により液体試料を吸引し、前記吸引管21のうち、測定に供される液体試料を収容するための領域よりも先端側の領域内の収容物23を、吸引管21の外部に設けられた検出部D4へと送出し、当該検出部D4内で、前記収容物23に液体試料が含まれているか否かを検出する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体試料吸引監視方法及び装置、並びに液体試料分析装置に関する。さらに詳しくは、吸引管を介して装置内に取り入れられる血液や尿等の液体試料(以下、単に試料ともいう)を分析するに際し、所定量の試料が前記吸引管内に吸引されたか否かを監視する方法及びこの方法を行う装置、並びに前記液体試料の分析を行う液体試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や尿等の液体試料を分析する液体試料分析装置が広く知られている。かかる液体試料分析装置は、容器に入れられた状態で供給された液体試料を吸引する試料吸引部(ピペット)を有しており、吸引された試料を分析部によって分析するようになっている。また、このような液体試料分析装置には、試料が正常に吸引されたか否かを監視する機能を有しているものがある。
【0003】
この種の試料吸引装置の一つとして、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1に開示された試料吸引装置は、試料吸引ピペットから吸引された試料を定量するためのサンプリングバルブの両側に第1液センサ及び第2液センサがそれぞれ設けられており、試料吸引後に第1液センサ及び第2液センサが試料を検知するか否かによって試料が正常に吸引されたか否かを監視するようになっている。
【0004】
また、特許文献2には、ピペットの長手方向に沿って所定間隔毎に光透過部と光遮断部とを交互に配設した液量確認用ピペットが開示されている。この液量確認用ピペットは、石英ガラス、硬質透明ガラス等の透明材質で形成され、その表面はアルミ箔等が長手方向に沿って所定間隔毎に蒸着されており、発光素子からピペットを横断して透過するように光を出力し、受光素子によって前記発光素子からの光を受光することにより、液量の確認を行うようになっている。
【0005】
【特許文献1】特公平2−13748号公報
【特許文献1】特開昭62−163968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した特許文献1に開示された試料吸引装置にあっては、サンプリングバルブにより試料を定量する構成であることが必要である。サンプリングバルブは、試料を同時に複数のアリコートに分割して定量するのに適しているが、高価であり、またピペットからサンプリングバルブまでの間に流路が必要なため、分析に用いられない試料の量(デッドボリューム)が多くなる。 また、微量な試料を定量吸引するためにはピペットの加工において精密な加工精度が要求されるが、特許文献2に開示された液量確認用ピペットにあっては、前述したように石英ガラス、硬質透明ガラス等のガラス材料で形成されるため、精密な加工が困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、コスト低減を図るとともに、吸引精度を確保することができる液体試料吸引監視方法及び装置、並びに液体試料分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体試料吸引監視方法(以下、単に監視方法ともいう)は、内部に長手方向に延びる流路を有するとともに、液体試料を吸引する吸引口が先端付近に形成された吸引管を用いて液体試料を吸引するに際し、前記吸引管内への液体試料の吸引を監視する方法であって、吸引管により液体試料を吸引し、前記吸引管のうち、測定に供される液体試料を収容するための領域よりも先端側の領域内の収容物を、吸引管の外部に設けられた検出部へと送出し、当該検出部内で、前記収容物に液体試料が含まれているか否かを検出することを特徴としている。
【0009】
このようにすることにより、サンプリングバルブがなくても液体試料の吸引監視が可能となり、コスト低減を図ることができる。しかも、容易に精密加工が可能な金属製のピペットを用いることができ、低コストで吸引精度を確保することができる。 また、血液等の粘度の高い液体は、吸引管に吸引したときにその両端(吸引開始部分と吸引終了部分)における定量精度が低くなる。したがって、測定に必要な量よりも多めに試料を吸引しておき、吸引した後、正確に定量するために両端の部分は廃棄するのが通常である。特に、吸引終了部分、すなわち吸引管の先端側における吸引精度が低くなる。吸引する液体試料の量が少ない場合は、必要量だけ液体試料を吸引することができず、吸引終了部分では空気を吸引してしまう(ショートサンプル)。したがって、吸引管のうち、先端側の領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出することによって、ショートサンプルが発生したか否かを監視することができ、測定精度を高めることができる。また、試料吸引監視に用いられる液体試料は、吸引された試料のうち従来から廃棄されていた先端部分のものであるので、試料吸引監視のために余分な試料を必要とせず、デッドボリュームが増加しない。つまり、言い換えれば、従来無駄であった試料を有効に利用できる。
【0010】
前記吸引管のうち、前記測定に供される液体試料を収容するための領域よりも基端側の領域内の収容物を、吸引管の外部に設けられた検出部へと送出し、当該検出部内で、前記収容物に液体試料が含まれているか否かを検出することができる。
異物によって吸引管が詰まると、試料の吸引不良が発生する。この場合には、試料が十分に吸引されず、吸引管のうち基端側の領域、すなわち吸引開始部分まで試料が満たされない。よって、前記構成とすることにより、吸引管のうち基端側の域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出することができ、このような吸引不良の発生を監視することが可能となる。また、吸引された試料のうち従来から廃棄されていた基端部分を利用して試料吸引監視を行うので、試料吸引監視のために余分な試料を必要とせず、デッドボリュームが増加しない。つまり、言い換えれば、従来無駄であった試料を有効に利用できる。
【0011】
前記検出部内で、前記収容物の光学情報を検出することにより、当該収容物に液体試料が含まれているか否かを検出するのが好ましい。血液のような透明度の低い試料の場合、吸光度、濁度、散乱光強度のような光学情報は空気の場合と比べて明確な差が生じる。よって、収容物の光学情報を得ることにより、収容物が試料であるか否かを容易に判別することができ、簡単に試料の吸引監視を行うことができる。
【0012】
液体試料が収容された密閉容器に前記吸引管を刺通し、前記密閉容器内の液体試料を吸引することができる。吸引管の吸引圧力を測定し、圧力変動を監視することにより試料の吸引を監視することも行われているが、密封容器に試料が封入されている場合、この密封容器に吸引管を刺通すと、その圧力変動は不安定となるため、密封容器では圧力測定による正確な試料吸引監視が困難となる。したがって、前記構成とすることにより、密封容器に封入された試料を吸引する場合にも、吸引監視を確実に行うことができる。
【0013】
また、本発明の液体試料吸引監視装置(以下、単に監視装置ともいう)は、液体試料を吸引する吸引口が先端付近に形成された吸引管への液体試料の吸引を監視する液体試料吸引監視装置であって、 前記吸引管のうち測定に供される液体試料を収容するための第1領域内の収容物と、当該第1領域よりも先端側の第2領域内の収容物とを個別に分注する分注部と、 当該分注部によって分注された前記第2領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出する検出部とを備えることを特徴としている。
【0014】
このようにすることにより、サンプリングバルブがなくても液体試料の吸引監視が可能となり、コスト低減を図ることができる。しかも、容易に精密加工が可能な金属製のピペットを用いることができ、低コストで吸引精度を確保することができる。 また、血液等の粘度の高い液体は、吸引管に吸引したときにその両端(吸引開始部分と吸引終了部分)における定量精度が低くなる。したがって、測定に必要な量よりも多めに試料を吸引しておき、吸引した後、正確に定量するために両端の部分は廃棄するのが通常である。特に、吸引終了部分、すなわち吸引管の先端側における吸引精度が低くなる。吸引する液体試料の量が少ない場合は、必要量だけ液体試料を吸引することができず、吸引終了部分では空気を吸引してしまう(ショートサンプル)。したがって、吸引管のうち、先端側の第2領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出することによって、ショートサンプルが発生したか否かを監視することができ、測定精度を高めることができる。また、試料吸引監視に用いられる液体試料は、吸引された試料のうち従来から廃棄されていた先端部分のものであるので、試料吸引監視のために余分な試料を必要とせず、デッドボリュームが増加しない。つまり、言い換えれば、従来無駄であった試料を有効に利用できる。
【0015】
前記分注部は、前記第1領域内の収容物と、前記第2領域内の収容物と、前記第1領域よりも基端側の第3領域内の収容物とを個別に分注するように構成されており、 前記検出部は、前記分注部によって分注された前記第3領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出するように構成されたものとすることができる。
異物によって吸引管が詰まると、試料の吸引不良が発生する。この場合には、試料が十分に吸引されず、吸引管のうち基端側の第3領域、すなわち吸引開始部分まで試料が満たされない。よって、前記構成とすることにより、吸引管のうち基端側の第3領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出することができ、このような吸引不良の発生を監視することが可能となる。また、吸引された試料のうち従来から廃棄されていた基端部分を利用して試料吸引監視を行うので、試料吸引監視のために余分な試料を必要とせず、デッドボリュームが増加しない。つまり、言い換えれば、従来無駄であった試料を有効に利用できる。
【0016】
前記検出部は、前記収容物の光学情報を検出することにより、収容物に液体試料が含まれているか否かを検出するのが好ましい。血液のような透明度の低い試料の場合、吸光度、濁度、散乱光強度のような光学情報は空気の場合と比べて明確な差が生じる。よって、収容物の光学情報を得ることにより、収容物が試料であるか否かを容易に判別することができ、簡単に試料の吸引監視を行うことができる。
【0017】
前記吸引管を、液体試料が収容された密閉容器に刺通することが可能であるように構成することができる。吸引管の吸引圧力を測定し、圧力変動を監視することにより試料の吸引を監視することも行われているが、密封容器に試料が封入されている場合、この密封容器に吸引管を刺通すと、その圧力変動は不安定となるため、密封容器では圧力測定による正確な試料吸引監視が困難となる。したがって、前記構成とすることにより、密封容器に封入された試料を吸引する場合にも、吸引監視を確実に行うことができる。
【0018】
さらに、本発明の液体試料分析装置は、液体試料を分析する液体試料分析装置であって、
液体試料を吸引する吸引口が先端付近に形成された吸引管を有し、当該吸引管のうち測定に供される液体試料を収容するための第1領域内の収容物と、当該第1領域よりも先端側の第2領域内の収容物とを個別に分注する分注部と、 当該分注部によって分注された前記第2領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出する検出部と、 前記分注部によって分注された前記第1領域内の収容物を分析する分析部とを備えることを特徴としている。
【0019】
このようにすることにより、前記と同様に、サンプリングバルブがなくても液体試料の吸引監視が可能となり、コスト低減を図ることができる。しかも、容易に精密加工が可能な金属製のピペットを用いることができ、低コストで吸引精度を確保することができる。
また、吸引管のうち、先端側の第2領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出することによって、ショートサンプルが発生したか否かを監視することが可能となる。また、吸引された試料のうち従来から廃棄されていた先端部分を利用して試料吸引監視を行うので、試料吸引監視のために余分な試料を必要とせず、デッドボリュームが増加しない。つまり、言い換えれば、従来無駄であった試料を有効に利用できる。
また、前記分析部が前記検出部として機能するように、前記分析部と前記検出部とを共有化することができる。このようにすることにより、部品点数を少なくすることができ、装置サイズの小型化、及びコストの低減が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の監視方法及び監視装置、並びに液体試料分析装置によれば、コスト低減を図るとともに、吸引精度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の監視方法及び監視装置、並びに液体試料分析装置の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の監視方法は、内部に長手方向に延びる流路25を有するとともに、液体試料又は空気を吸引する吸引口26が先端付近に形成された吸引管21(図7参照)を用いて液体試料を吸引する、ピペット方式の試料吸引方法又は装置に適用され、前記吸引管21内に所定量の液体試料が吸引されたか否かを監視する方法である。液体試料の例としては、血液、尿をあげることができるが、以下、血液を分析対象とする血液分析装置を例にとって、本発明の監視方法及び監視装置、並びに液体試料分析装置の実施の形態を説明する。
【0022】
図1は本発明の一実施の形態に係る監視装置を含む血液分析装置の、外部カバーを除去した状態の斜視図であり、図2は、同じく外部カバーを除去した状態の正面説明図である。
血液分析装置は、開口部がゴム製の栓体3aで密封された密封容器(試料の初期収容容器)である採血管3内に収容されている血液の測定を行う装置である。そして、前記採血管3を所定箇所にセットするだけで自動的に赤血球数等の測定が行われる。血液分析装置は、ディスプレイ、入力装置、CPU、メモリ等を有する処理装置(典型的には、必要なコンピュータプログラムがインストールされたパーソナルコンピュータ)と通信可能に接続されており、前記処理装置には、本発明に係る血液吸引の監視、血液分析装置の操作及び分析に関する各種設定、分析結果の表示等を行うためのソフトウェアがインストールされており、血液分析装置との間での通信により、当該血液分析装置に対して指令を与えたり、当該血液分析装置から測定データを受信したりすることができる。
【0023】
血液分析装置は、前記採血管3を装置内の所定の位置にセットするための試料セット部と、採血管3内の血液を定量、希釈等して分析用の混合試料を調整するための試料調製部と、希釈等された血液の測定(検出)を行う第1検出部D1、第2検出部D2及び第3検出部D3と、前記試料調整部及び第1〜3検出部を電気的に駆動制御する制御部とを備えている。本実施の形態の血液分析装置は、さらに、吸引管21内の先端部(測定に供される液体試料を収容するための第1領域よりも先端側の第2領域)及び/又は基端部(測定に供される液体試料を収容するための第1領域よりも基端側の第3領域)に吸引された収容物の光学情報を検出するための第4検出部D4を備えている。
【0024】
前記採血管(密封容器)3内の血液を吸引する吸引管21は、ステンレス合金等の金属製であり、図7に示されるように、その先端は針状に鋭く尖っている。また、吸引管21の内部には吸引した試料が通流する流路Pが形成されている。このため、密封容器を封止するゴム等からなる栓体3aを吸引管21で刺通し、当該密封容器内に収容されている試料を吸引することができる。金属材料は強度が高く、しかも容易に精密加工が可能であるため、吸引管21は例えば内径が1ミリ以下の非常に細い形状でありながら、前記栓体3aを刺通することが可能となっている。また、このように吸引管21の内径を非常に細くすることにより、試料の微量定量が可能となる。
【0025】
前記第1検出部D1は、赤血球数及び血小板数を、DC検出法により測定することが可能である。この第1検出部D1は、フローセルを有しており、このフローセルに第1混合チャンバMC1(図2参照)から試料が供給されるようになっている。赤血球及び血小板の測定を行う場合には、第1混合チャンバMC1では血液に希釈液を混合した試料が調製される。かかる試料がシース液とともにフローセルに供給され、フローセル中ではシース液によって試料が取り囲まれた液流が形成される。また、フローセル中の流路の途中には電極を有するアパーチャが設けられており、試料中の血球が一つずつ当該アパーチャを通過するときのアパーチャにおける直流抵抗を検出し、この直流抵抗に応じた電気信号を出力するようになっている。前記直流抵抗は、アパーチャを血球が通過するときに増大するため、この電気信号はアパーチャの血球の通過情報を反映しており、この電気信号を信号処理することによって、赤血球及び血小板を計数するようになっている。
【0026】
前記第2検出部D2及び第4検出部D4は、LED等の発光素子LEと、フォトダイオード等の受光素子PEとを備えている。第2検出部D2及び第4検出部D4は、それぞれ第1混合チャンバMC1から延びたチューブ30(31)に接続されており、このチューブ30(31)を介して第1混合チャンバMC1と連通されている。また、第2検出部D2及び第4検出部D4は、測定後の試料を廃棄するための廃棄部WC2(図3参照)に繋がるチューブ32(33)にそれぞれ接続されている。第2検出部D2及び第4検出部D4において、発光素子LEと受光素子PEとは対向して配置されており、その間に混合試料が第1混合チャンバMC1から供給されるようになっている。そして、第1混合チャンバMC1から供給された混合試料に発光素子LEが光を照射し、透過光を受光素子PEが受光することにより、混合試料の濁度を測定するようになっている。第2検出部D2は、この濁度からヘモグロビン濃度を検出し、一方、第4検出部D4は、濁度に基づいて測定対象が試料か否かを判別するようになっている。
【0027】
また、前記第3検出部D3は、光学式のフローサイトメータであり、白血球を半導体レーザによるフローサイトメトリー法により測定することが可能である。かかる第3検出部D3は、試料の液流を形成するフローセルを備えている。フローセルは、透光性を有する石英、ガラス、合成樹脂等の材料によって管状に構成されており、その内部が試料及びシース液が通流する流路となっている。第2混合チャンバMC2(図2参照)で調整された試料がシース液とともにフローセルへ導入され、フローセルの内部でシース液が試料を取り囲んで細い液流が形成される。第3検出部D3は、半導体レーザ光源、受光素子、及びレンズ等の光学ユニットを有しており、フローセルに試料が流れると、その試料に向けてレーザが照射され、レーザ光により発生した散乱光及び蛍光の光信号を受光素子が検出する。そして、この検出結果を処理することにより、試料中に含まれる白血球を所定の分類項目に分類し、また計数するようになっている。
【0028】
図3〜6は、本実施の形態に係る血液分析装置の流体回路図を示しており、同図に示されるように、血液分析装置には、各種の容器やチャンバが配設されている。具体的には、赤血球、ヘモグロビン及び血小板に関する測定をするための混合試料を調整する第1混合チャンバMC1、白血球に関する測定をするための混合試料を調整する第2混合チャンバMC2、赤血球に関する測定を行う第1検出部D1、ヘモグロビンに関する測定を行う第2検出部D2、白血球に関する測定を行う第3検出部D3及び吸引管21内の先端部及び/又は基端部に吸引された収容物の光学情報を検出するための第4検出部D4が配設されている。また、試薬を収容するための試薬容器として、希釈液(洗浄液)EPKを収容するための希釈液容器EPK−V、ヘモグロビン溶血剤SLSを収容するためのヘモグロビン溶血剤容器SLS−V、白血球分類用溶血剤FFDを収容するための白血球分類用溶血剤容器FFD−V、及び、白血球分類用染色液FFSを収容するための白血球分類用染色液容器FFS−Vが配設されている。
【0029】
また、血液分析装置は、流路開閉用の電磁弁SV1〜SV38、SV50(これらの電磁弁は、通常は閉じられている、常閉タイプのバルブである)や各種ポンプ・モータSP1〜2(血液の吸引及び供給をするためのシリンジポンプ)、P、V、DP1〜5(希釈液、溶血剤、染色液等の液体を定量するためのダイヤフラムポンプ)等を備えており、これらの電磁弁等は前記制御部により駆動、制御される。なお、図3においてCSは吸引管の洗浄をするための洗浄スピッツである。
【0030】
つぎに、前記血液分析装置において血液吸引を監視する方法について説明をする。
(1)まず、装置内の所定の位置にセットされた採血管3より吸引管21を用いて設定量の血液を吸引する。この吸引は、分注部(吸引管のうち、測定に供される液体試料を収容するための第1領域内の収容物と、当該第1領域よりも先端側の第2領域内の収容物と、前記第1領域よりも基端側の第3領域内の収容物とを個別に分注する手段)として機能するシリンジポンプSP1により行われる。「設定量」とは、血液分析装置において実際の測定に供される量(所定量)に、吸引の監視をするために用いられる量を加えた量であり、血液の測定項目や検出部の構成(血液分析のための機構)等に応じて適宜選定することができる。具体的には、図7に示されるように、測定用試料22として15μL(WBC用の11μLと、RBC及びHGB用の4μL)必要な場合、監視用として前記測定用試料22の前後それぞれに2.5μL設定すると、前記「設定量」は20μLとなる。なお、監視用に吸引する量は、測定用試料の定量性を確保するために必要とされる量で十分であり、これは測定に供される量に比べて僅かである。なお、この吸引監視用の試料は、本実施の形態に係る吸引監視を行なわなくとも、もともと測定用試料を正確に定量するために余分に吸引され、定量後に廃棄されていたものであるため、吸引監視のためにさらに試料を消費することがなく、試料の無駄が抑えられる。
【0031】
本実施の形態では、前記吸引管21ののうち、測定に供される液体試料を収容するための第1領域よりも先端側の第2領域内の収容物である第1の部分23、及び測定に供される液体試料を収容するための第1領域よりも基端側の第3領域内の収容物である第2の部分24の両方を監視用としているが、基端側の第3領域内の収容物である第2の部分24を省略することも可能である。ただし、測定用試料22の前後に監視用の試料部分23、24を設定するのが好ましく、この場合は、実際に分析に供される試料部分22の前後の両方をチェックすることで、より確実に所定量の試料が吸引管内に吸引されたか否かを監視することができる。すなわち、前後の部分の濁度を測定した結果、両者の濁度が所定値以上であれば、かかる前後の部分に挟まれた部分には所定量の試料が存在すると判断することができる。なお、図7において、27及び28はそれぞれエアギャップ及び希釈液を示している。
【0032】
(2)つぎに、希釈液を用いて第4検出部D4のセル内の洗浄を行う。
(3)希釈液をセルから排出したのち、当該セル内に希釈液を供給して前記第4検出部D4を用いて当該希釈液の濁度を測定する。第4検出部D4は、前記セル以外に、測定用の光を放射するLED等の発光素子LEと、この発光素子LEから放射され、前記セル内の試料を透過した光を受光するフォトダイオード等の受光素子PEとを備えており、前記発光素子LEから放射される光量と受光素子PEで受光される光量との差に基づいて前記試料の濁度を測定することができる。測定終了後、希釈液を一旦セルから排出する。
【0033】
(4)つぎに、1.0mLの希釈液が供給された第1混合チャンバMC1に前記第1の部分の血液2.5Lを吐出して監視用の混合試料を作製し、ついでこの混合試料を第4検出部D4に送り、当該混合試料の濁度を測定する。 (5)第1混合チャンバMC1洗浄後、1.0mLの希釈液が供給された第1混合チャンバMC1にRBC用の血液4Lを吐出し、RBC測定用の混合試料を得る。そして、この混合試料の一部を第1検出部D1に送り、DC検出法により赤血球に関する測定を行う。
【0034】
(6)赤血球に関する測定と並行して、第2混合チャンバMC2に白血球分類用溶血剤0.5mLが供給され、WBC用の血液11μLを第2混合チャンバMC2に吐出し、白血球分類用染色液20μLが供給されて、WBC測定用の混合試料を得る。そして、この混合試料を第3検出部D3に送り、光学法により白血球に関する測定を行う。
(7)赤血球に関する測定用に調製した混合試料の残り0.5mLにヘモグロビン溶血剤0.25mLを加えHGB用の混合試料を作製し、この混合試料を第2検出部D2に送り、ヘモグロビンに関する測定を行う。
(8)第1混合チャンバMC1を洗浄した後、吸引管21に残っている第2の部分24の血液2.5Lを、1.0mLの希釈液が供給された第1混合チャンバMC1に吐出して監視用の混合試料を作製し、ついでこの混合試料を前記第4検出部D4に送り、当該混合試料の濁度を測定する。
【0035】
希釈液の濁度と、前記第1の部分23及び第2の部分24のそれぞれの濁度とを比較することにより、前記第1の部分23及び第2の部分24が、測定対象の血液であるか否かの判断をすることができる。例えば、希釈液の濁度と、前記第1の部分23及び第2の部分24のそれぞれの濁度との差が一定値(この値は、予め血液の濁度と希釈液の濁度の両方を測定して設定しておく必要がある)以上ある場合に、前記第1の部分23及び第2の部分24が血液であると判断することができる。なお、濁度の差に代えて比を判断基準とすることもできる。
【0036】
監視用の前記第1の部分23及び第2の部分24が、測定対象の血液であると判断されると、この両部分の間には測定に必要な所定量の血液が存在していると判断することができる。こうして、血液吸引の監視を行うことで、所定量に満たない血液に基づく分析等を回避することができ、分析の精度及び信頼性を向上させることができる。
【0037】
一方、所定量の血液が吸引されていないと判断された場合に、当該血液の分析を中止させることができる。無用の分析を中止することで、分析に必要な試薬等の無駄使いをしなくて済むとともに、分析装置の効率的な利用を図ることができる。所定量の血液が吸引されない主な原因としては、採血管内の血液の量が少なすぎること(ショートサンンプル)、血液の凝固、血液中の異物の存在をあげることができる。より詳細には、吸引管21の先端側端部の第1の部分23に血液が存在していない場合は、ショートサンンプルが原因である可能性が高く、また吸引管21の根元側端部の第2の部分24に血液が存在していない場合は、前記異物等に起因して吸引管が詰まっている可能性が高い。
【0038】
そして、所定量の血液が吸引されていないと判断された場合に、エラーメッセージを発するようにしてもよい。エラーメッセージを発することで、分析者に血液吸引の不具合を知らせることができる。これにより、分析者は、分析装置の点検をしたり、試料の再採取を依頼したりする等の対策を早期にとることができる。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態では、前記吸引管21のうち、測定に供される液体試料を収容するための第1領域よりも先端側の第2領域内の収容物(第1の部分23)及び測定に供される液体試料を収容するための第1領域よりも基端側の第3領域内の収容物(第2の部分24)のそれぞれを、当該吸引管21の外部に設けられた第4検出部D4へと送出し、当該第4検出部D4内で、前記収容物に液体試料が含まれているか否かを検出することで、吸引管21への液体試料の吸引を監視していることから、従来技術におけるサンプリングバルブがなくても液体試料の吸引監視が可能となり、コスト低減を図ることができる。しかも、容易に精密加工が可能な金属製のピペットを用いることができ、低コストで吸引精度を確保することができる。
【0040】
また、血液等の粘度の高い液体は、吸引管21に吸引したときにその両端(吸引開始部分と吸引終了部分)における定量精度が低くなる。したがって、測定に必要な量よりも多めに試料を吸引しておき、吸引した後、正確に定量するために両端の部分は廃棄するのが通常である。特に、吸引終了部分、すなわち吸引管21の先端側における吸引精度が低くなる。吸引する液体試料の量が少ない場合は、必要量だけ液体試料を吸引することができず、吸引終了部分では空気を吸引してしまう(ショートサンプル)。したがって、吸引管21のうち、先端側の領域内の収容物(第1の部分23)に液体試料が含まれているか否かを検出することによって、ショートサンプルが発生したか否かを監視することができ、測定精度を高めることができる。
【0041】
さらに、異物によって吸引管21が詰まると、試料の吸引不良が発生し、この場合には、試料が十分に吸引されず、吸引管21のうち基端側の第3領域、すなわち吸引開始部分まで試料が満たされないが、本実施の形態のように、吸引管21のうち基端側の第3領域内の収容物(第2の部分24)に液体試料が含まれているか否かを検出することにより、このような吸引不良の発生を監視することが可能となる。
【0042】
また、試料吸引監視に用いられる前記第1の部分23及び第2の部分24は、吸引された試料のうち従来から廃棄されていたものであるので、試料吸引監視のために余分な試料を必要とせず、デッドボリュームが増加しない。つまり、言い換えれば、従来無駄であった試料を有効に利用できる。
【0043】
また、本実施の形態では、前記第1の部分23及び第2の部分24の光学情報である濁度を検出することにより、当該第1の部分23及び第2の部分24に液体試料が含まれているか否かを検出しているが、血液のような透明度の低い試料の場合、濁度のような光学情報は空気の場合と比べて明確な差が生じるので、かかる光学情報を得ることにより、前記第1の部分23及び第2の部分24が試料であるか否かを容易に判別することができ、簡単に試料の吸引監視を行うことができる。
【0044】
さらに、本実施の形態では、液体試料が収容された採血管3に吸引管21を刺通し、前記採血管3内の液体試料を吸引している。従来より、吸引管の吸引圧力を測定し、圧力変動を監視することにより試料の吸引を監視することも行われているが、密封容器に試料が封入されている場合、この密封容器に吸引管を刺通すると、その圧力変動は不安定となるため、密封容器では圧力測定による正確な試料吸引監視が困難となる。これに対し、本実施の形態では、吸引管21の先端側の第1の部分23及び基端側の第2の部分24の濁度を測定することで当該吸引管21内への液体試料の吸引を監視しているので、密封容器に封入された試料を吸引する場合にも、吸引監視を確実に行うことができる。
【0045】
なお、本実施の形態においては、ヘモグロビン測定用の第2検出部D2とは別に、試料吸引監視用の第4検出部D4を設ける構成について述べたが、これに限定されるものではなく、第2検出部D2をヘモグロビン測定と試料吸引監視で共用してもよい。
また、本実施の形態においては、混合試料の濁度により試料吸引監視を行う構成について述べたが、吸光度、散乱強度等、他の光学情報を検出することによって試料吸引監視を行う構成であってもよい。また、希釈液の他、試料に溶血剤等の他の試薬を混合し、その上で濁度等の光学情報を検出してもよい。
【0046】
さらに、試料吸引監視は、第1検出部D1にてDC検出法で赤血球を計数することにより行なうこともできる。また、第1混合チャンバMC1に電極を設けて、電気伝導度を測定することにより、試料吸引監視を行なうこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施の形態に係る液体試料吸引監視装置を含む血液分析装置の、外部カバーを除去した状態の斜視図である。
【図2】図1に示される血液分析装置の正面説明図である。
【図3】本発明の監視方法が適用される血液分析装置の一例の流体回路図の前半部分である。
【図4】同じく流体回路図の後半部分である。
【図5】排液チャンバ回りの流体回路図である。
【図6】ダイヤフラムポンプ回りの流体回路図である。
【図7】本発明における吸引管の断面説明図である。
【図8】本発明における第2(第4)検出部の説明図である。
【符号の説明】
【0048】
2装置本体
3採血管
21吸引管
22測定用試料
23第1の部分(先端収容物)
24第2の部分(基端収容物)
D1第1検出部
D2第2検出部
D3第3検出部
D4第4検出部
MC1第1混合チャンバ
MC2第2混合チャンバ
SP1シリンジポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に長手方向に延びる流路を有するとともに、液体試料を吸引する吸引口が先端付近に形成された吸引管を用いて液体試料を吸引するに際し、前記吸引管内への液体試料の吸引を監視する方法であって、吸引管により液体試料を吸引し、前記吸引管のうち、測定に供される液体試料を収容するための領域よりも先端側の領域内の収容物を、吸引管の外部に設けられた検出部へと送出し、当該検出部内で、前記収容物に液体試料が含まれているか否かを検出することを特徴とする液体試料吸引監視方法。
【請求項2】
前記吸引管のうち、前記測定に供される液体試料を収容するための領域よりも基端側の領域内の収容物を、吸引管の外部に設けられた検出部へと送出し、当該検出部内で、前記収容物に液体試料が含まれているか否かを検出する請求項1に記載の液体試料吸引監視方法。
【請求項3】
前記検出部内で、前記収容物の光学情報を検出することにより、当該収容物に液体試料が含まれているか否かを検出する請求項1又は2に記載の液体試料吸引監視方法。
【請求項4】
液体試料が収容された密閉容器に前記吸引管を刺通し、前記密閉容器内の液体試料を吸引する請求項1〜3のいずれかに記載の液体試料吸引監視方法。
【請求項5】
液体試料を吸引する吸引口が先端付近に形成された吸引管への液体試料の吸引を監視する液体試料吸引監視装置であって、
前記吸引管のうち測定に供される液体試料を収容するための第1領域内の収容物と、当該第1領域よりも先端側の第2領域内の収容物とを個別に分注する分注部と、
当該分注部によって分注された前記第2領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出する検出部と
を備えることを特徴とする液体試料吸引監視装置。
【請求項6】
前記分注部は、前記第1領域内の収容物と、前記第2領域内の収容物と、前記第1領域よりも基端側の第3領域内の収容物とを個別に分注するように構成されており、
前記検出部は、前記分注部によって分注された前記第3領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出するように構成されている請求項5に記載の液体試料吸引監視装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記収容物の光学情報を検出することにより、収容物に液体試料が含まれているか否かを検出する請求項5又は6に記載の液体試料吸引監視装置。
【請求項8】
前記吸引管は、液体試料が収容された密閉容器に刺通することが可能であるように構成されている請求項5〜7のいずれかに記載の液体試料吸引監視装置。
【請求項9】
液体試料を分析する液体試料分析装置であって、
液体試料を吸引する吸引口が先端付近に形成された吸引管を有し、当該吸引管のうち測定に供される液体試料を収容するための第1領域内の収容物と、当該第1領域よりも先端側の第2領域内の収容物とを個別に分注する分注部と、
当該分注部によって分注された前記第2領域内の収容物に液体試料が含まれているか否かを検出する検出部と、
前記分注部によって分注された前記第1領域内の収容物を分析する分析部と
を備えることを特徴とする液体試料分析装置。
【請求項10】
前記分析部が前記検出部として機能するように、前記分析部と前記検出部とが共有化されている請求項9に記載の液体試料分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−64680(P2007−64680A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248091(P2005−248091)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】