説明

液体試料移動用の注射針

【課題】移送具の内部に収納されている液体試料を他の移送具内に注射針を介して移動させる際、所謂コンタミネーションを生じさせることなく液体試料を移動させることができる液体試料移動用の注射針の提供を課題とする。
【解決手段】液体試料が収納されている移送具120には、両頭針126を具えたニードルホルダ124が装着されている。移送具120内の液体試料は、両頭針126を介して、内部が真空状態となっている気送容器130内に移動する。両頭針126の外部に露出している部分には、その先端部の針先を覆う被覆袋126bは配設されている。この被覆袋126bによって針先が保護されているため、液体試料の移動に際して、針先の汚染に起因する所謂コンタミネーションを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力施設等の施設において、分析設備に送付された原試料に必要な前処理を施して分析可能な状態の液体試料にして分析室に移送する際に使用する液体試料の移送具に装着される液体試料移送用の注射針に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、原子力を扱う施設においては、工程内流体中の目的物質濃度または物理量の値が所定の範囲内であるか否かを、その物質を定期的に採集して分析することによって検査している。
【0003】
放射性物質によって汚染されている現場で採集された原試料は、一旦マニピュレータで作業可能なマニピュレータ室に移送され、ここで分析可能な状態の液体試料に前処理されて、分析作業を行なうグローブボックスに移送されている。
【0004】
図3は、現場から試料が入った容器が移送されてくるマニピュレータ室の概略構成を示した図である。マニピュレータ室100には、現場で採集された原試料が容器に入った状態で移送されてくる搬入ボックス101と、この搬入された原試料をマニピュレータ室100内で希釈等の処理をして分析可能な状態に前処理した分析用の液体試料を分析室であるグローブボックスに移送するための搬出ボックス102とが設けられている。
【0005】
103は、マニピュレータ室100内で前処理された分析用の液体試料を、分析室であるグローブボックスに移送する際に使用する移送具が外部から搬入される移送具搬入ボックスである。
【0006】
ここで、現場から原試料が搬入される際に、原試料が入っている容器自体も現場で汚染されているために、このマニピュレータ室100で作業を行なう作業員Aは、全ての作業をマニピュレータMを用いて行なう。
【0007】
マニピュレータ室100でマニピュレータMを用いる作業員Aは先ず、搬入ボックス101に現場から容器110に入って送られてくる原試料を、その容器110からビーカーに移し、希釈する等の処理を施して分析可能な状態の試料にする作業を行なう。
【0008】
次に、作業員Aは、この分析可能な状態になったビーカー内の液体試料を、移送具搬入ボックス103に送られてくる移送具120内に移し、この移送具120を用いて、搬出ボックス102内の汚染されていない気送容器の内に移して、この気送容器を分析室であるグローブボックスに気送する。
【0009】
ここで、このような現場から容器110に入った状態で送られてくる原試料を扱う作業室であるマニピュレータ室100と、試料を実際に分析する分析室であるグローブボックスとでは、許容される汚染レベルが著しく異なっているために、内部がグローブボックスに繋がっている搬出ボックス102には高い気密性が要求される。このような高い気密性の搬出ボックス102を有するシステムとしては、STS(Solution Transfer System)と言うシステムが既に知られている。
【0010】
このSTSの搬出ボックス102においては、マニピュレータ室100内に在る液体試料を、注射針を用いて搬出ボックス102内の汚染されていない気送容器に移動させる必要がある。このために、マニピュレータ室100で分析可能な状態となった液体試料を、注射針を具えた移送具120内に一旦移す作業が、マニピュレータ室100での必須の作業となっている。
【0011】
ここで、マニピュレータMを用いて、分析可能な状態となった液体試料を、ビーカーから注射針を具えた移送具120に移す従来の方法を図面を用いて説明する。
【0012】
図4は、仏国AREVA NC社にて採用されている従来の液移送方法(以下、AREVA方式という)に使用される部品を示したものである。
【0013】
図4において、120は、内部の気密性が保たれている円筒型の移送具であり、その上部には注射針が貫通可能なゴム栓部120aが設けられている。121は、先端部に注射針が装着可能なシリンジであり、121aはシリンジ121の付属品であるピストンである。122,123は注射針であり、122a,123aはその保護キャップである。124は、移送具120の上部に冠着可能なキャップ部材125と両頭針126とからなるニードルホルダであり、126aは保護キャップである。
【0014】
従来の液移送方法では、、マニピュレータ室100の外部において、先ず、図5(a)〜(c)に示したような手順で組立て作業を行なう。
【0015】
即ち、図5(a)に示したようにシリンジ121からピストン121aを外し、図5(b)に示したようにシリンジ121の先端部に注射針122を装着して保護キャップ122aを外し、その後、図5(c)に示したようにシリンジ121に装着された注射針122と注射針123とを移送具120の上部のゴム栓部120aに貫通させて組立作業を終了する。
【0016】
ここで、注射針123は、シリンジ121内から移送具120内へ試料を入れる際の通気孔の作用を果たすものである。
【0017】
このようにして、図5(c)に示す状態となった移送具120と、図4に示したニードルホルダ124とが、マニピュレータ室100の移送具搬入ボックス103内に外部から搬入されている。
【0018】
次に、作業室であるマニピュレータ室100内でマニピュレータMを用いて行なう作業について説明する。
【0019】
先ず、作業員は、図6(a)に示したように、分析可能な状態となっているビーカーB内の液体試料Sをシリンジ121内に注ぎ、そのシリンジ121内の試料Sが自然落下して移送具120内に移動するのを待つ。
【0020】
シリンジ121内の試料Sが移送具120内に移動したら、図6(b)に示したように、移送具120からシリンジ121および注射針122を外し、さらに注射針123も外す。
【0021】
次に、図6(c)に示したように、ニードルホルダ124のキャップ部材125を移送具120の上部に冠着させる。この冠着させる作業により、両頭針126のキャップ部材125内に存在する部分が、移送具120の上部のゴム栓部120aを貫通する。このような状態で、保護キャップ126aを外し、この両頭針126の外部に露出している部分を、図7(a)に示したように、搬出ボックス102内の気送容器130の上部のゴム栓部130aに貫通させる。
【0022】
ここで、搬出ボックス102内の気送容器130の構成は移送具120と同様の構成となっており、さらに気送容器130の内部は真空状態にしてあるために、移送具120内の試料Sは速やかに気送容器130内に移動する。
【0023】
試料の移動が終了したら、気送容器130から両頭針126を抜いて、図7(b)に示したように、気送容器130に入った試料Sを,搬出ボックス102内から分析室であるグローブボックスに気送して、マニピュレータ室100での作業を終了する。
【0024】
以上のマニピュレータ室100内での作業においては、この作業以前の作業でマニピュレータM等に付着している汚染物質により液体試料Sが影響を受けないように、すなわち所謂コンタミネーションが生じないようにマニピュレータMを用いる作業員Aには細心の注意が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
以上説明したように、作業室であるマニピュレータ室100内においては、所謂コンタミネーションが生じないように液体試料の移送作業が行なわれる。
【0026】
しかしながら、このような従来の移送作業においては、以下のような問題点があった。
【0027】
その問題点とは、図8(a)で示したように、移送具120内の液体試料を、搬出ボックス102内の気送容器130に両頭針126を介して移動させる際に生じる。
【0028】
すなわち、図8(b)に示したように、搬出ボックス102の壁面には、両頭針126の針先を、両頭針126が貫通可能な所定位置に誘導するための案内孔102aが設けられており、作業員Aは、この案内孔102aに沿って両頭針126の針先を移動させ、針先が所定位置に達した段階で針先に圧力を加えて、図8(c)に示したように、シール材102bおよびゴム栓部130aに両頭針126を貫通させている。この作業の際、先に説明した従来の方式においては両頭針126の針先が、汚染されている案内孔102aの壁面に接触するため、ここで両頭針126の針先が汚染されて所謂コンタミネーションが生じてしまう虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0029】
以上の問題点を解消するために、本発明は、液体試料の移送具の内部に収納された液体試料を他の移送具内に移動される際、前記他の移送具に貫通可能な注射針を使用して前記他の移送具内に前記液体試料の移動を行なう前記液体試料の移送具に装着される液体試料移動用の注射針であって、該注射針を前記液体試料の移送具に装着した際、当該注射針の外部に露出する部分の先端部となる前記注射針の針先に針先被覆手段が設けられ、当該針先被覆手段は、前記針先に前記注射針の長さ方向に前記針先方向に向かって所定の圧力以上の圧力が加わった場合、前記注射針が貫通可能となる強度を有することを特徴とするものである。ここで、前記針先被覆手段は、前記液体試料の移送具に装着した際、前記液体試料移動用の注射針を前記注射針の外部に露出している部分の前記針先から基端部までを覆い、その開口部分が前記基端部に固定されている袋状の被覆袋であってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、移送具の内部に収納されている液体試料を他の移送具内に注射針を介して移動させる際、所謂コンタミネーションを生じさせることなく液体試料を移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例1の使用方法の説明図である。
【図3】従来の液体試料の移送方法の説明図である。
【図4】従来の液体試料の移送具に使用される部品を示す斜視図である。
【図5】従来の液体試料の移送具の使用方法の説明図である。
【図6】従来の液体試料の移送具の使用方法の説明図である。
【図7】従来の液体試料の移送具の使用方法の説明図である。
【図8】従来の液体試料の移送具の使用方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明の実施例1の構成を示した斜視図である。
【0034】
図1において、図4(d)に示した従来のニードルホルダ124と同一符号のものは同一のものを示している。即ち、図1に示したニードルホルダ124は、移送具120(図4(a)参照)の上部に冠着可能なキャップ部材125と両頭針126とを具えている。また、126aは従来と同様の保護キャップである。
【0035】
ここで、図1に示した本実施例1に係るニードルホルダ124においては、両頭針126のキャップ部材125の外部に露出している部分の針先から基端部までを覆う被覆袋126bが設けられている。
【0036】
この被覆袋126bは、合成樹脂からなる変形自在な袋状の形態のものであり、その開口部分は、両頭針126の外部に露出している部分の基端部に固定されている。また、この被覆袋126bは、両頭針126の針先に、その長さ方向に針先に向かって所定の圧力以上の圧力が加わった場合にのみ、換言すれば、使用者が両頭針126の針先に貫通させる意図を持って力を加えた場合にのみ、両頭針126が貫通可能となる強度を有するように形成されている。
【0037】
次に、以上のように構成された本実施例1の動作について説明する。
【0038】
図2(a)に示したように本実施例1に係るニードルホルダ124を装着した移送具120内の液体試料を、搬出ボックス102内の気送容器130に移動させる場合、使用者(作業員)は、図2(b)に示したように、搬出ボックス102の壁面の案内孔102aに沿って両頭針126の針先を所定位置に移動させる。
【0039】
このとき、本実施例1においては、両頭針126の針先が被覆袋126bによって覆われているので、両頭針126の針先が汚染されることはない。
【0040】
案内孔102aに沿って所定位置まで両頭針126の針先を移動させた段階で、使用者(作業員)が針先に力を加えると、汚染されていない両頭針126の針先が被覆袋126b,シール材102b,ゴム栓部130aを貫通して、両頭針126が気送容器130の内部に侵入する。
【0041】
このように、針先が汚染されていない両頭針126が気送容器130の内部に侵入するために、本実施例1においては、両頭針126を介して液体試料を移動させる際に、所謂コンタミネーションが生じることはない。
【0042】
以上説明した実施例1においては、ニードルホルダ124の両頭針126のキャップ部材125の外部に露出している部分を被覆袋126bを覆う構成となっているが、本発明は、このような構成にのみ限定されるものではない。すなわち、移送具に装着した際に外部に露出する注射針であれば、どのような注射針であってもよく、特に両頭針の注射針に限定されるものではない。
【0043】
さらに、注射針の針先を被覆する針先被覆手段は、図1に示した被覆袋126bに限られるものではなく、例えば、所定の圧力以上の圧力が加わると注射針が貫通する強度を有する合成樹脂製の球体を注射針の針先に配設しておき、この球体を針先被覆手段としてもよい。
【符号の説明】
【0044】
100 マニピュレータ室
101 搬入ボックス
102 搬出ボックス
102a 案内孔
102b シール材
103 移送具搬入ボックス
120 移送具
120a,130a ゴム栓部
124 ニードルホルダ
125 キャップ部材
126 両頭針
126a 保護キャップ
126b 被覆袋
130 気送容器
A 作業員
B ビーカー
M マニピュレータ
S 液体試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料の移送具の内部に収納された液体試料を他の移送具内に移動される際、前記他の移送具に貫通可能な注射針を使用して前記他の移送具内に前記液体試料の移動を行なう前記液体試料の移送具に装着される液体試料移動用の注射針であって、
該注射針を前記液体試料の移送具に装着した際、当該注射針の外部に露出する部分の先端部となる前記注射針の針先に針先被覆手段が設けられ、
当該針先被覆手段は、前記針先に前記注射針の長さ方向に前記針先方向に向かって所定の圧力以上の圧力が加わった場合、前記注射針が貫通可能となる強度を有することを特徴とする液体試料移動用の注射針。
【請求項2】
前記針先被覆手段は、前記液体試料の移送具に装着した際、前記液体試料移動用の注射針を前記注射針の外部に露出している部分の前記針先から基端部までを覆い、その開口部分が前記基端部に固定されている袋状の被覆袋であることを特徴とする請求項1に記載の液体試料移動用の注射針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−197328(P2010−197328A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45360(P2009−45360)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(591045976)株式会社コクゴ (4)
【Fターム(参考)】