液体試薬内蔵型マイクロチップ
【課題】マイクロチップ製造後使用時までの間における意図しない試薬保持部からの液体試薬の流出を効果的に防止でき、遠心力印加時には、液体試薬を試薬保持部から良好に排出させることができる液体試薬内蔵型マイクロチップを提供する。
【解決手段】内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、遠心力の印加により流体回路内に存在する液体を流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、流体回路が液体試薬を収容する試薬保持部201aを含み、試薬保持部201aに連結される、液体試薬を排出するための試薬排出路202aと、試薬保持部201aに連結される、試薬排出路202aとは異なる流路であって、試薬保持部201a内に空気を導入するための空気導入路101とを備える液体試薬内蔵型マイクロチップである。
【解決手段】内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、遠心力の印加により流体回路内に存在する液体を流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、流体回路が液体試薬を収容する試薬保持部201aを含み、試薬保持部201aに連結される、液体試薬を排出するための試薬排出路202aと、試薬保持部201aに連結される、試薬排出路202aとは異なる流路であって、試薬保持部201a内に空気を導入するための空気導入路101とを備える液体試薬内蔵型マイクロチップである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫もしくは血液等の生化学検査、化学合成または環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関し、特には、検査または分析等の対象となる検体等と混合または反応させるための液体試薬を、あらかじめマイクロチップ内の試薬保持部に内蔵している液体試薬内蔵型マイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA、酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスもしくは細胞などの生体物質、または化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で従来行なっている一連の検査・分析操作を、小さなチップ内で行なえることから、検体および液体試薬が微量で済み、コストが低く、反応速度が速く、ハイスループットな検査・分析ができ、検体を採取した現場で直ちに検査・分析結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0004】
マイクロチップとしては、流体回路(あるいはマイクロ流体回路)と呼ばれる、該回路内に存在する検体や液体試薬等の液体に対して特定の処理を行なうための複数種類の部位(室)とこれらの部位を適切に接続する微細な流路とから構成される流路網をその内部に備えたものが従来公知である(たとえば特許文献1)。このような流体回路を内部に備えるマイクロチップを用いた検体の検査または分析などにおいては、その流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体(または検体中の特定成分)やこれと混合される液体試薬の計量(すなわち、計量を行なうための部位である計量部への移動)、検体(または検体中の特定成分)と液体試薬との混合(すなわち、これらを混合するための部位である混合部への移動)、ある部位から他の部位への移動などの種々の処理が行なわれる。
【0005】
なお、マイクロチップ内でなされる、各種液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、またはこれらのうちの2種以上の混合物など)に対してなされる処理を、以下では「流体処理」ともいう。これら種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことができる。
【0006】
上記マイクロチップのうち、液体試薬内蔵型マイクロチップは、検体または検体中の特定成分と混合あるいは反応させるための液体試薬を流体回路内にあらかじめ保持しているマイクロチップであり、その流体回路には、液体試薬を収容する1または複数の試薬保持部が設けられる。液体試薬内蔵型マイクロチップには、通常、その一方の表面に、試薬保持部内に液体試薬を注入するための、該試薬保持部まで貫通する試薬注入口が形成され、該試薬注入口は、液体試薬が注入された後、たとえば封止用ラベル(シール)などの封止層をマイクロチップ表面に貼着することにより封止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−285792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液体試薬内蔵型マイクロチップにおいては、マイクロチップに対して所定方向の遠心力を印加することにより試薬保持部に連結された試薬排出路から液体試薬を排出させ、これを、たとえば計量部に導入して液体試薬の計量を行なうなどの一連の流体処理に供する。しかし、従来の液体試薬内蔵型マイクロチップにおいては、遠心力を印加したとき、液体試薬の排出に伴って試薬保持部の内圧が低下してしまい(減圧状態になってしまい)、試薬保持部から液体試薬が良好に排出されないという問題があった。このような液体試薬の不十分な排出は、正確かつ信頼性の高い検査・分析を阻害し得る。
【0009】
一方、遠心力印加時における液体試薬の排出性を改善するために、試薬排出路の断面積(内径)を大きくすると、液体試薬内蔵型マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)に、環境温度の変化や外気圧変化に伴う試薬保持部の内圧上昇により、液体試薬が容易に試薬保持部から流出してしまうという問題がある。このような液体試薬の意図しない流出もまた、正確かつ信頼性の高い検査・分析を阻害し得る。
【0010】
そこで本発明は、マイクロチップ製造後使用時までの間における意図しない液体試薬の流出を効果的に防止できる一方で、遠心力印加時には、液体試薬を試薬保持部から良好に排出させることができる液体試薬内蔵型マイクロチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、遠心力の印加により流体回路内に存在する液体を流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、流体回路が液体試薬を収容する試薬保持部を含む液体試薬内蔵型マイクロチップに関する。本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、試薬保持部に連結される、液体試薬を排出するための試薬排出路と、試薬保持部に連結される、試薬排出路とは異なる流路であって、試薬保持部内に空気を導入するための空気導入路とを備えることを特徴とする。
【0012】
1つの好ましい実施形態において、試薬保持部と空気導入路との連結部は、液体試薬を試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに液体試薬の全量が形成する液面を基準に、試薬保持部と試薬排出路との連結部とは反対側に位置される。
【0013】
別の好ましい実施形態において、空気導入路の末端は、液体試薬を試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに液体試薬の全量が形成する液面を基準に、試薬保持部と試薬排出路との連結部とは反対側に位置される。
【0014】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、試薬保持部と試薬排出路との連結部と、空気導入路とを接続する流路をさらに備えることができる。
【0015】
さらに別の好ましい実施形態において、試薬保持部と空気導入路との連結部と、試薬保持部と試薬排出路との連結部とは近接しているか、または一致している。この場合において、空気導入路の末端は、液体試薬を試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに液体試薬の全量が形成する液面を基準に、試薬保持部と試薬排出路との連結部とは反対側に位置されることが好ましい。
【0016】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップにおいて、試薬排出路の末端における断面積φ1と空気導入路の末端における断面積φ2とは、φ1<φ2の関係を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)における意図しない液体試薬の流出を効果的に防止できるとともに、遠心力印加時には、液体試薬を試薬保持部から良好に排出させることができ、もって正確かつ信頼性の高い検査・分析を行なえる液体試薬内蔵型マイクロチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する第1の基板の外側表面を示す上面図である。
【図2】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する第2の基板における第1の基板側表面を示す上面図である。
【図3】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する第2の基板における第3の基板側表面を示す上面図である。
【図4】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する第3の基板の外側表面を示す上面図である。
【図5】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの上面図である。
【図6】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの下面図である。
【図7】図5の一部を拡大して示す上面図である。
【図8】図7に示されるVIII−VIII線における断面図である。
【図9】第2の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す上面図である。
【図10】第3の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一例における一部を拡大して示す上面図である。
【図11】第3の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの他の一例における一部を拡大して示す上面図である。
【図12】第4の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す上面図である。
【図13】第5の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<液体試薬内蔵型マイクロチップの概要>
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、各種化学合成、検査または分析等を、それが内部に有する流体回路(内部に形成された空間)を用いて行なうチップであり、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、および、これらのうちの2種以上の混合物など)を遠心力の印加により流体回路内の所定の位置(部位)に移動させることにより、該液体に対して適切な流体処理を行なうことができるものである。このために流体回路は、適切な位置に配置された種々の部位(室)を備えており、これらの部位は微細な流路を介して適切に接続されている。
【0020】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップにおいて流体回路は、上記部位(室)の1つとして、検査または分析などの対象となる検体と混合(または反応)させるための液体試薬を収容する試薬保持部を有している。この試薬保持部には、後で詳述するように、液体試薬を排出するための試薬排出路と、試薬排出路とは異なる流路であって、試薬保持部内に空気を導入するための空気導入路とが連結されている。
【0021】
液体試薬内蔵型マイクロチップは、通常、その一方の表面に、試薬保持部内に液体試薬を注入するための、試薬保持部まで貫通する試薬注入口が設けられる。試薬注入口は、液体試薬が注入された後、たとえば封止用ラベル(シール)などの封止層をマイクロチップ表面に貼着することにより封止される。
【0022】
流体回路は、上記の試薬保持部のほか、流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体(検体中の特定成分を含む。以下同じ。)を計量するための検体計量部;液体試薬を計量するための試薬計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査または分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための検出部;廃液(たとえば、計量時に検体計量部や試薬計量部からオーバーフローした検体や液体試薬)を収容する廃液溜め部などを含むことができる。
【0023】
検査または分析の方法は特に制限されず、たとえば、混合液を収容する検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法、検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定を挙げることができる。
【0024】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、上述の例示された部位(室)のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。各部位の数についても特に制限はなく、1または2以上であることができる。
【0025】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を順次印加して、対象の液体を所定位置に配置された所定の部位に順次移動させることにより行なうことができる。たとえば、計量部による検体や液体試薬の計量は、所定の容量(計量すべき量と同じ量)を有する計量部へ、遠心力の印加により計量される検体または液体試薬を導入し、過剰分の検体または液体試薬を計量部からオーバーフローさせることにより実施することができる。オーバーフローした検体または液体試薬は、流路を介して計量部に接続された廃液溜め部に収容させることができる。
【0026】
マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、回転自在なローター(回転子)と、該ローター上に配置された回転自在なステージとを備えることができる。該ステージ上にマイクロチップを載置し、該ステージを回転させてローターに対するマイクロチップの角度を任意に設定したうえでローターを回転させることにより、マイクロチップに対して任意の方向の遠心力を印加することができる。
【0027】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、第1の基板と、該第1の基板上に積層、貼合された第2の基板とから構成することができ、より具体的には、第1の基板上に、表面に溝を備える第2の基板を、当該第2の基板の溝形成側表面が第1の基板に対向するように貼り合わせて構成することができる。かかる2枚の基板からなるマイクロチップは、第2の基板表面に設けられた溝と第1の基板における第2の基板に対向する側の表面とから構成される内部空間からなる流体回路を備える。第2の基板表面に形成される溝の形状およびパターンは、内部空間の構造が、所望される適切な流体回路構造となるように決定される。
【0028】
また、本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、第1の基板と、基板の両表面に設けられた溝を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で積層、貼合したものであってもよい。かかる3枚の基板からなるマイクロチップは、第1の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第1の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される内部空間からなる第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第3の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される内部空間からなる第2の流体回路と、の2層の流体回路を備える。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第2の基板を厚み方向に貫通する貫通穴によって接続することができる。
【0029】
基板同士を貼り合わせる方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)、接着剤を用いて接着させる方法などを挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザー等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法(レーザー溶着);超音波を用いて溶着する方法などを挙げることができる。なかでもレーザー溶着法が好ましく用いられる。
【0030】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0031】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する上記各基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0032】
マイクロチップが第1の基板と、基板表面に溝を備える第2の基板とから構成される場合、第2の基板は、検出光を利用する光学測定のための検出部を構築するために、透明基板とすることが好ましい。第1の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよいが、レーザー溶着を行なう場合には、光吸収率を増大できることから、不透明基板とすることが好ましく、基板を樹脂から構成し、該樹脂中にカーボンブラック等の黒色顔料を添加することにより黒色基板とすることがより好ましい。
【0033】
マイクロチップが第1の基板と、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、第3の基板とから構成される場合、レーザー溶着の効率性の観点から、第2の基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。一方、第1および第3の基板は、検出光を利用する光学測定のための検出部を構築するために、透明基板とすることが好ましい。第1および第3の基板を透明基板とすると、第2の基板に設けられた貫通穴と、透明な第1および第3の基板とから光学測定のための検出部を形成でき、マイクロチップ表面と略垂直な方向から該検出部に検出光を照射して、透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0034】
第2の基板表面に、流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。無機材料を用いて基板を形成する場合には、エッチング法などを用いることができる。溝の形状は適切な流体回路構造となるように決定される。
【0035】
なお、第2の基板以外の基板(第1および/または第3の基板)にも、流体回路を構成する溝や、外側表面に形成される溝や凹部、貫通穴などを適宜設けることができる。
【0036】
以下、実施の形態を示して、本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップについてより詳細に説明する。
【0037】
<第1の実施形態>
本発明に係る液体試薬内蔵型マイクロチップおよびこれを構成する基板の例を図1〜図8に示す。これらの図面によって示される液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、透明基板である第1の基板1、流体回路を形成する溝を両表面に有する黒色基板である第2の基板2、および、透明基板である第3の基板3をこの順で積層、貼合してなる。
【0038】
図1は、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)を示す上面図である。図2は、第2の基板2における第1の基板1側表面を示す上面図であり、図3は、第2の基板2における第3の基板3側表面を示す上面図である。図4は、第3の基板3の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)を示す上面図である。図5は、第1〜第3の基板を貼り合わせてなる液体試薬内蔵型マイクロチップ100の上面図であり、第1の基板1の外側表面に設けられた溝および貫通穴等(図1に示したもの)と第2の基板2における第1の基板1側表面に設けられた溝等(図2に示したもの)とを重ねて表示したものである。図6は、第1〜第3の基板を貼り合わせてなる液体試薬内蔵型マイクロチップ100の下面図であり、第3の基板3の外側表面に設けられた貫通穴等(図4に示したもの)と第2の基板2における第3の基板3側表面に設けられた溝等(図3に示したもの)とを重ねて表示したものである。図7は、図5の一部を拡大して示す上面図であり、図8は、図7に示されるVIII−VIII線における断面図である。
【0039】
なお、図1、3、5および6において点線は、その点線で囲まれた領域が凹部を構成していることを意味している。
【0040】
図1および5を参照して、第1の基板1には、試薬注入口103a,103bを含む、合計11個の試薬注入口が設けられている。これらの試薬注入口は、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である。また、第1の基板1には、検体(たとえば全血)を流体回路内に導入するための、同じく第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である検体導入口105が設けられている。本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、液体試薬を試薬注入口から注入した後、すべての試薬注入口ならびに後述する空気導入路を構成するすべての溝およびすべての貫通穴を封止できるサイズを有する封止用ラベル(シール)などの封止層4を第1の基板1の外側表面に貼着することにより封止して、使用(検体の検査・分析)に供される(図8参照)。なお、図1〜図7では、マイクロチップ表面の構造および流体回路の構造を明確に把握できるよう封止層4を割愛している。
【0041】
本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100の流体回路について説明すると、図2および図3を参照して、第2の基板2には、その両面に形成された溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴が形成されており、これに第1の基板1および第3の基板3を貼り合わせることによって、マイクロチップ内部に2層の流体回路が形成されている。なお、以下では、第1の基板1における第2の基板2側表面および第2の基板2における第1の基板1側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第1の流体回路」、第3の基板3における第2の基板2側表面および第2の基板2における第3の基板3側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第2の流体回路」と称する。これら2つの流体回路は、第2の基板2に形成された厚み方向に貫通するいくつかの貫通穴によって連結している。
【0042】
図2から第1の流体回路の構造を、図3から第2の流体回路の構造を把握することができる。本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、1つの検体について6項目の検査・分析を行なうことができる多項目チップであり、その流体回路は、6項目の検査・分析を行なうことができるよう、6つのセクション〔図2(第1の流体回路)におけるセクション1〜6。図3(第2の流体回路)においても同様。〕に分けられている。ただし、検体計量部設置領域(図3に示される第2の流体回路の上部領域)においてこれらは互いに接続されている。
【0043】
上記各セクションは、およそ同様の構成を有しており、流体処理も同様であるため、以下では、主に「セクション4」を採り上げて説明する。
【0044】
セクション4には、第1の流体回路内において、液体試薬が内蔵された試薬保持部が2つ設けられている(図2、図5における試薬保持部201a、211a)。上記のように各試薬保持部には、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である試薬注入口が設けられている(図1、図5における試薬注入口103a、113a)。また、各試薬保持部の下端には、試薬保持部内の液体試薬を排出するための試薬排出路202a、212aがそれぞれ連結されている(図2および図5参照)。試薬排出路202a、212aは、第2の基板2の厚み方向に延びる貫通穴であり、裏側の第2の流体回路に繋がっている。試薬保持部201a、211aから排出された液体試薬は、第2の流体回路内の試薬計量部301a、311aにそれぞれ導入され、計量される(図3および図6参照)。
【0045】
セクション4には、第2の流体回路内において、検体中の特定成分を計量するための検体計量部401が設けられている。このような検体計量部は各セクションに設けられており、これらの検体計量部は、流路によって直列的に接続されている(図3および図6参照)。
【0046】
また、本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、マイクロチップ内に導入された検体から特定成分(液体試薬と混合される成分)を取り出す(たとえば全血から血球成分を分離し、血漿成分を取り出す)ための分離部501を備えている(図3および図6参照)。分離操作は遠心分離によりなされる。
【0047】
検体導入口105から導入された検体は、分離部501にて特定成分が取り出された後、各セクションに分配されるとともに検体計量部(たとえばセクション4においては検体計量部401)にて計量されると、別途計量された各セクション内の1種または2種の液体試薬と混合されて、それぞれ検出部(たとえばセクション4においては検出部601)に導入される(図2および図3等参照)。検出部に導入された混合液は、たとえば、マイクロチップ表面と略垂直な方向から検出部に検出光を照射し、その透過光の透過率を測定する等の光学的測定に供され、該混合液中の特定成分の検出等がなされる。
【0048】
以上のような流体回路を有する3枚の基板からなるマイクロチップにおいて、本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、各試薬保持部に連結された試薬排出路とは別に、試薬保持部に空気を導入するための空気導入路がそれぞれの試薬保持部に連結されていることを特徴とする。すなわち、セクション4の試薬保持部201aに関していえば、図1、図5、図5におけるセクション4の試薬保持部201a周辺の拡大図である図7、および、図7に示されるVIII−VIII線における断面図である図8を参照して、試薬注入口103aから湾曲して延びる溝101aと、溝101aの末端に接続される貫通穴102aとから構成される空気導入路101が試薬保持部201aに連結されている。空気導入路101は、試薬注入口103aを介して試薬保持部201aに連結されている。セクション4の試薬保持部211aおよび他のセクションの試薬保持部についても同様である(例外については後述)。
【0049】
空気導入路101を構成する溝101aは、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)に形成された溝であり、貫通穴102aは、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である。貫通穴102aは、廃液溜め部701に接続された流路702の直上に位置している。溝101aおよび貫通穴102aの断面形状は特に制限されず、それぞれ長方形、正方形、円形などであることができる。ここで、貫通穴102aは、流路702と空間的に連通しており、したがって流路702は、第1および第2の流体回路を構成する他の流路および部位(室)を介して検体導入口105と接続されているため、貫通穴102aの末端は、マイクロチップ外部と連通している。
【0050】
試薬保持部に連結された試薬排出路とは別に、試薬保持部に連結された上記のような空気導入路を備える本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100によれば、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)における意図しない試薬排出路からの液体試薬の流出を防止するために試薬排出路の断面積を十分小さくしても、液体試薬を試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したとき、液体試薬の排出に伴って空気導入路から空気が補充され、試薬保持部の内圧低下が生じないため、良好に(スムーズに)液体試薬を排出させることができる。
【0051】
マイクロチップ製造後使用時までの間における意図しない試薬排出路からの液体試薬の流出を防止するために、試薬排出路の断面積は100〜500,000μm2とすることが好ましく、100〜10,000μm2とすることがより好ましい。
【0052】
試薬保持部と空気導入路との連結部〔セクション4の試薬保持部201aに関していえば、試薬注入口103aと空気導入路101(より具体的には溝101a)との連結部〕を、試薬保持部のいずれの位置に設定するかについては、後述する他の実施形態が示す如く比較的設計自由度が高いが、本実施形態では、図7を参照して、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力(図7に示される矢印の向きのような、図7におけるおよそ下向きの遠心力)を印加したときに液体試薬Xの全量が試薬保持部201a内において形成する液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に試薬保持部201aと空気導入路101との連結部を設けている。すなわち、試薬保持部201aと空気導入路101との連結部は、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに、該連結部が液体試薬Xに接触しないような位置に設けられている。
【0053】
このような位置に試薬保持部と空気導入路との連結部を設けることにより、液体試薬を試薬排出路から排出させるための遠心力印加時に、サイフォンの原理により試薬保持部内にある液体試薬が空気導入路を通じて、空気導入路の入口側(空気導入路を構成する貫通穴の末端側)に流出することを防止できる。
【0054】
セクション4の試薬保持部201aにおいて空気導入路101(溝101a)は、試薬注入口103aに連結されているが、これに限定されるものではない。たとえば、セクション6の試薬保持部221aのように、試薬注入口103bとは別に、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴104bを試薬保持部221a直上のいずれかの位置に設けて空気導入路を形成してもよい。すなわち、セクション6の試薬保持部221aにおいて、空気導入路は、貫通穴104bと、貫通穴104bに接続され、第1の基板1の外側表面に形成された溝101bと、溝101bに接続される貫通穴102bとからなる(図1および図5参照)。
【0055】
本実施形態において、空気導入路の末端(入口)となる、空気導入路を構成する貫通穴を、流体回路上のいずれの位置に設定するかについては特に制限はなく、図7を参照して、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに液体試薬Xの全量が試薬保持部201a内において形成する液面Yを基準として、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に貫通穴102aを設けてもよいし、同じ側に貫通穴102aを設けてもよい。図7においては、同じ側に貫通穴102aを設けている。
【0056】
ただし、たとえばマイクロチップの出荷輸送時などに、試薬保持部と空気導入路との連結部から液体試薬が空気導入路に入り込み、該液体試薬が空気導入路の末端(入口)から流出して、流体回路内に漏れ出す万一の可能性を考慮して、空気導入路を構成する貫通穴は、流体回路のうち、廃液を収容する廃液溜め部またはこれに接続される流路の直上に設けることが好ましい。セクション4の試薬保持部201aにおいて空気導入路101を構成する貫通穴102aは、液体試薬計量時に試薬計量部301aからオーバーフローした液体試薬を収容するための廃液溜め部701に接続された流路702の直上に設けられている。なお、上記万一の可能性を考慮して、空気導入路の末端(入口)から流出した液体試薬を収容するための部位(室)を、計量部からオーバーフローした廃液を収容するための廃液溜め部とは別途に設けておき、その直上またはそれに接続される流路の直上に空気導入路を構成する貫通穴を設けてもよい。
【0057】
試薬排出路の末端における断面積をφ1、空気導入路の末端における断面積φ2とするとき、φ1<φ2の関係を満たすことが好ましい。これにより、たとえばマイクロチップの出輸送時や保存時などにおいて試薬保持部の内圧が上昇し、万一、液体試薬が試薬保持部から流出する場合においても、液体試薬は空気導入路側から流出し、試薬排出路からは流出しないため、マイクロチップを用いた検査・分析に悪影響を与えない。φ1<φ2の関係を満たすことが好ましいことは後述する他の実施形態でも同様である。
【0058】
「セクション4」を主に採り上げて、本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100による検体(例として全血を採り上げる)の検査・分析方法(流体処理操作)を説明すると次のとおりである。
【0059】
(1)全血導入、液体試薬計量工程
第1の基板1の検体導入口105から全血を導入し、ついで図2における略下向きに遠心力を印加する。これにより全血は、領域10を通って収容部801に導入される(図2参照)。また、この略下向きの遠心力印加により、試薬保持部201a、211a内の液体試薬は、それぞれ試薬排出路202a、212aを通って試薬計量部301a、311aに至り、計量される(図3参照)。各試薬計量部から溢れた液体試薬は、それぞれ貫通穴20、30を通って、廃液溜め部701、710に収容される(図2参照)。
【0060】
前記の封止層4として透明なフィルムを用い、液体試薬として着色水溶液を用いて液体試薬の排出性を確認したところ、上記略下向きの遠心力(3000rpm、15秒)の印加により、すべての試薬保持部から良好に液体試薬の全量が試薬排出路から排出され、試薬計量部に導入されていることが確認された。
【0061】
(2)遠心分離工程
次に、図2における略左向きに遠心力を印加した後、略下向きに遠心力を印加して、収容部801内の全血を、貫通穴40を通して分離部501に導入する。そして引き続き略下向きに遠心力を印加することにより分離部501にて遠心分離を行ない、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離する。
【0062】
(3)検体計量工程
次に、図3における略右向きの遠心力を印加する。これにより、分離部501において分離された血漿成分は、検体計量部401に導入され(同時に他の5つの検体計量部にも導入される)、計量される(図3参照)。検体計量部から溢れた血漿成分は、貫通穴50を通って第1の流体回路に移動する(図2および図3参照)。この略右向きの遠心力により、試薬計量部301a内の液体試薬は、混合部901に移動し、試薬計量部311a内の液体試薬は、流路11に移動する。
【0063】
(4)第1混合工程
次に、図3における略下向きの遠心力を印加する。これにより、計量された液体試薬(試薬保持部201aに保持されていた液体試薬)と、検体計量部401にて計量された血漿成分とが、試薬計量部301aにおいて混合される(第1混合工程第1ステップ、図3参照)。次に、図3における略右向きの遠心力を印加することにより、混合液は、混合部901に残存していた液体試薬とさらに混合される(第1混合工程第2ステップ、図3参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。
【0064】
(5)第2混合工程
次に、図3における略上向きの遠心力を印加する。これにより、混合部900内の混合液は、貫通穴60を通って混合部910に至り、計量されたもう一方の液体試薬(試薬保持部211a内に保持されていた液体試薬)もまた、貫通穴60を通って混合部910に至り、これらが混合される(第2混合工程第1ステップ、図2および図3参照)。次に、図2における略右向きの遠心力を印加することにより、混合液を混合部910内で移動させ、混合を促進させる(第2混合工程第2ステップ、図2参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。
【0065】
(6)検出部導入工程
最後に、図2における略下向きの遠心力を印加する。これにより、混合部910内の混合液は検出部601に導入される。検出部601に充填された混合液は、光学測定に供され、検体(血漿成分)の検査・分析が行なわれる。たとえば、マイクロチップ表面に対して略垂直な方向から光を照射し、その透過光を測定することにより、混合液中の特定成分の検出等がなされる。他の検出部に導入された混合液についても同様である。
【0066】
<第2の実施形態>
図9は、本実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す、図7と同様の上面図である。図9においても、マイクロチップ表面の構造および流体回路の構造を明確に把握できるよう封止層4を割愛している。
【0067】
本実施形態は、図7に示される空気導入路と異なり、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力(図9に示される矢印の向きのような、図9におけるおよそ下向きの遠心力)を印加したときに液体試薬Xの全量が試薬保持部201a内において形成する液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に、空気導入路101の末端(入口)となる、空気導入路101を構成する貫通穴102aを設けていることを特徴とする。
【0068】
このような位置に空気導入路101を構成する貫通穴102a(空気導入路の末端)を設けることにより、試薬保持部201aと空気導入路101との連結部が上記液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に設けられていない場合であっても、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための遠心力印加時に、サイフォンの原理により試薬保持部201a内にある液体試薬Xが空気導入路101を通じて、空気導入路101の入口側(空気導入路101を構成する貫通穴102aの末端側)に流出することを防止できる。
【0069】
<第3の実施形態>
図10および11は、本実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す、図7と同様の上面図である。図10および11においても、マイクロチップ表面の構造および流体回路の構造を明確に把握できるよう封止層4を割愛している。
【0070】
本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップは、空気導入路101に加えて、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部と、空気導入路101とを接続する流路(導液路)110をさらに備えることを特徴とする。図10は、流路(導液路)110が、〔1〕試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部の直上(すなわち、試薬排出路202aの直上)に設けられた、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴、および、〔2〕該貫通穴から、試薬保持部201a(試薬注入口103a)と空気導入路を構成する溝101aとの連結部まで延びる、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)に形成された溝、から構成された例を示している。
【0071】
一方、図11は、流路(導液路)110が、〔1〕試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部の直上(すなわち、試薬排出路202aの直上)に設けられた、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴、〔2〕該貫通穴から試薬注入口103aまで延びる、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)に形成された溝である第1の導液路110a、および、〔3〕第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である試薬注入口103aと第1の基板1の表面に貼着される封止層4(図11において図示せず)とで形成される角部である第2の導液路110bから構成された例を示している。
【0072】
本実施形態における「導液路」とは、試薬保持部に収容されている液体試薬が通り得る流路である。図10および図11に示されるような、導液路を有する液体試薬内蔵型マイクロチップによれば、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)に、試薬保持部201a内の液体試薬Xの一部が、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部側の末端より侵入して導液路110を伝わり、空気導入路を構成する溝101aの試薬保持部側開口を塞ぐため、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)にマイクロチップが衝撃を受けた場合においても、試薬排出路202aから液体試薬Xが流出することをより効果的に防止することができる。
【0073】
上記のような導液路による液体試薬Xの流出防止効果は、液体試薬Xの濡れ性が高いといほど顕著である。
【0074】
なお、図10の例において流路(導液路)110を、試薬保持部201a(試薬注入口103a)と空気導入路を構成する溝101aとの連結部に接続するのではなく、溝101aのみに接続するようにしてもよい。
【0075】
<第4の実施形態>
図12は、本実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す、図7と同様の上面図である。図12においても、マイクロチップ表面の構造および流体回路の構造を明確に把握できるよう封止層4を割愛している。
【0076】
本実施形態は、図7に示される空気導入路と異なり、試薬保持部201aと空気導入路101との連結部が、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部に近接しているか、またはこれと一致していることを特徴とする。図12に示される例はこれらの連結部が一致している例である。また、前述した試薬保持部221aの空気導入路は、これらの連結部が極めて近接しており、本実施形態の範疇に属するものである。
【0077】
図12に示される例において空気導入路は、〔1〕試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部の直上(すなわち、試薬排出路202aの直上)に設けられた、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴、〔2〕該貫通穴から延びる、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)に形成された溝101a、および、〔3〕溝101aに接続された、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴102aから構成されている。
【0078】
本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップによれば、上記第3の実施形態と同様、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)に、試薬保持部201a内の液体試薬Xの一部が、空気導入路101の試薬保持部201a側の末端より侵入して当該末端開口を塞ぐため、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)にマイクロチップが衝撃を受けた場合においても、試薬排出路202aから液体試薬Xが流出することをより効果的に防止することができる。
【0079】
本実施形態においては、試薬保持部201aと空気導入路101との連結部が、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力(図12に示される矢印の向きのような、図12におけるおよそ下向きの遠心力)を印加したときに液体試薬Xの全量が試薬保持部201a内において形成する液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部と同じ側に設けられることとなる。したがって、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための遠心力印加時に、サイフォンの原理により試薬保持部201a内にある液体試薬Xが空気導入路101を通じて、空気導入路101の入口側(空気導入路101を構成する貫通穴102aの末端側)に流出することを防止するために、上記第2の実施形態と同様、空気導入路101の末端(入口)となる、空気導入路101を構成する貫通穴102aを、上記液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に設けることが好ましい。
【0080】
<第5の実施形態>
図13は、本実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して模式的に示す斜視図である。図13においても封止層4は割愛されている。上記第1〜第4の実施形態では、第1の基板1の外側表面に空気導入路が形成されている一方、本実施形態は、空気導入路101を、試薬排出路202aと同様、第2の基板2の厚み方向に延びる貫通穴として構成している点に特徴を有する。
【0081】
上記第1の実施形態でも触れたように、空気導入路101である貫通穴は、流体回路のうち、廃液を収容する廃液溜め部またはこれに接続される流路の直上に設けることが好ましい。空気導入路101である貫通穴は、流体回路を構成する他の流路および部位(室)を介してマイクロチップ外部と連通させることができる。一方、試薬排出路202aは、上記実施形態と同様、通常、試薬計量部に向けられる。
【0082】
図13に示されるように、試薬排出路202aおよび空気導入路101は、試薬保持部201aにおける互いに対向する位置に配置させることが好ましい。これにより、液体試薬を試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに、空気導入路101から液体試薬が流出することを防止できる。
【符号の説明】
【0083】
1 第1の基板、2 第2の基板、3 第3の基板、4 封止層、11 流路、20,30,40,50,60 貫通穴、100 液体試薬内蔵型マイクロチップ、101 空気導入路、101a,101b 溝、102a,102b,104b 貫通穴、103a,103b,113a 試薬注入口、105 検体導入口、110 流路(導液路)、110a 第1の導液路、110b 第2の導液路、201a,211a,221a 試薬保持部、202a,212a 試薬排出路、301a,311a 試薬計量部、401 検体計量部、501 分離部、601 検出部、701,710 廃液溜め部、702 流路、801 収容部、901,910 混合部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫もしくは血液等の生化学検査、化学合成または環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関し、特には、検査または分析等の対象となる検体等と混合または反応させるための液体試薬を、あらかじめマイクロチップ内の試薬保持部に内蔵している液体試薬内蔵型マイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA、酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスもしくは細胞などの生体物質、または化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で従来行なっている一連の検査・分析操作を、小さなチップ内で行なえることから、検体および液体試薬が微量で済み、コストが低く、反応速度が速く、ハイスループットな検査・分析ができ、検体を採取した現場で直ちに検査・分析結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0004】
マイクロチップとしては、流体回路(あるいはマイクロ流体回路)と呼ばれる、該回路内に存在する検体や液体試薬等の液体に対して特定の処理を行なうための複数種類の部位(室)とこれらの部位を適切に接続する微細な流路とから構成される流路網をその内部に備えたものが従来公知である(たとえば特許文献1)。このような流体回路を内部に備えるマイクロチップを用いた検体の検査または分析などにおいては、その流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体(または検体中の特定成分)やこれと混合される液体試薬の計量(すなわち、計量を行なうための部位である計量部への移動)、検体(または検体中の特定成分)と液体試薬との混合(すなわち、これらを混合するための部位である混合部への移動)、ある部位から他の部位への移動などの種々の処理が行なわれる。
【0005】
なお、マイクロチップ内でなされる、各種液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、またはこれらのうちの2種以上の混合物など)に対してなされる処理を、以下では「流体処理」ともいう。これら種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことができる。
【0006】
上記マイクロチップのうち、液体試薬内蔵型マイクロチップは、検体または検体中の特定成分と混合あるいは反応させるための液体試薬を流体回路内にあらかじめ保持しているマイクロチップであり、その流体回路には、液体試薬を収容する1または複数の試薬保持部が設けられる。液体試薬内蔵型マイクロチップには、通常、その一方の表面に、試薬保持部内に液体試薬を注入するための、該試薬保持部まで貫通する試薬注入口が形成され、該試薬注入口は、液体試薬が注入された後、たとえば封止用ラベル(シール)などの封止層をマイクロチップ表面に貼着することにより封止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−285792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液体試薬内蔵型マイクロチップにおいては、マイクロチップに対して所定方向の遠心力を印加することにより試薬保持部に連結された試薬排出路から液体試薬を排出させ、これを、たとえば計量部に導入して液体試薬の計量を行なうなどの一連の流体処理に供する。しかし、従来の液体試薬内蔵型マイクロチップにおいては、遠心力を印加したとき、液体試薬の排出に伴って試薬保持部の内圧が低下してしまい(減圧状態になってしまい)、試薬保持部から液体試薬が良好に排出されないという問題があった。このような液体試薬の不十分な排出は、正確かつ信頼性の高い検査・分析を阻害し得る。
【0009】
一方、遠心力印加時における液体試薬の排出性を改善するために、試薬排出路の断面積(内径)を大きくすると、液体試薬内蔵型マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)に、環境温度の変化や外気圧変化に伴う試薬保持部の内圧上昇により、液体試薬が容易に試薬保持部から流出してしまうという問題がある。このような液体試薬の意図しない流出もまた、正確かつ信頼性の高い検査・分析を阻害し得る。
【0010】
そこで本発明は、マイクロチップ製造後使用時までの間における意図しない液体試薬の流出を効果的に防止できる一方で、遠心力印加時には、液体試薬を試薬保持部から良好に排出させることができる液体試薬内蔵型マイクロチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、遠心力の印加により流体回路内に存在する液体を流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、流体回路が液体試薬を収容する試薬保持部を含む液体試薬内蔵型マイクロチップに関する。本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、試薬保持部に連結される、液体試薬を排出するための試薬排出路と、試薬保持部に連結される、試薬排出路とは異なる流路であって、試薬保持部内に空気を導入するための空気導入路とを備えることを特徴とする。
【0012】
1つの好ましい実施形態において、試薬保持部と空気導入路との連結部は、液体試薬を試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに液体試薬の全量が形成する液面を基準に、試薬保持部と試薬排出路との連結部とは反対側に位置される。
【0013】
別の好ましい実施形態において、空気導入路の末端は、液体試薬を試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに液体試薬の全量が形成する液面を基準に、試薬保持部と試薬排出路との連結部とは反対側に位置される。
【0014】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、試薬保持部と試薬排出路との連結部と、空気導入路とを接続する流路をさらに備えることができる。
【0015】
さらに別の好ましい実施形態において、試薬保持部と空気導入路との連結部と、試薬保持部と試薬排出路との連結部とは近接しているか、または一致している。この場合において、空気導入路の末端は、液体試薬を試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに液体試薬の全量が形成する液面を基準に、試薬保持部と試薬排出路との連結部とは反対側に位置されることが好ましい。
【0016】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップにおいて、試薬排出路の末端における断面積φ1と空気導入路の末端における断面積φ2とは、φ1<φ2の関係を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)における意図しない液体試薬の流出を効果的に防止できるとともに、遠心力印加時には、液体試薬を試薬保持部から良好に排出させることができ、もって正確かつ信頼性の高い検査・分析を行なえる液体試薬内蔵型マイクロチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する第1の基板の外側表面を示す上面図である。
【図2】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する第2の基板における第1の基板側表面を示す上面図である。
【図3】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する第2の基板における第3の基板側表面を示す上面図である。
【図4】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する第3の基板の外側表面を示す上面図である。
【図5】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの上面図である。
【図6】第1の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの下面図である。
【図7】図5の一部を拡大して示す上面図である。
【図8】図7に示されるVIII−VIII線における断面図である。
【図9】第2の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す上面図である。
【図10】第3の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一例における一部を拡大して示す上面図である。
【図11】第3の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの他の一例における一部を拡大して示す上面図である。
【図12】第4の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す上面図である。
【図13】第5の実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<液体試薬内蔵型マイクロチップの概要>
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、各種化学合成、検査または分析等を、それが内部に有する流体回路(内部に形成された空間)を用いて行なうチップであり、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、および、これらのうちの2種以上の混合物など)を遠心力の印加により流体回路内の所定の位置(部位)に移動させることにより、該液体に対して適切な流体処理を行なうことができるものである。このために流体回路は、適切な位置に配置された種々の部位(室)を備えており、これらの部位は微細な流路を介して適切に接続されている。
【0020】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップにおいて流体回路は、上記部位(室)の1つとして、検査または分析などの対象となる検体と混合(または反応)させるための液体試薬を収容する試薬保持部を有している。この試薬保持部には、後で詳述するように、液体試薬を排出するための試薬排出路と、試薬排出路とは異なる流路であって、試薬保持部内に空気を導入するための空気導入路とが連結されている。
【0021】
液体試薬内蔵型マイクロチップは、通常、その一方の表面に、試薬保持部内に液体試薬を注入するための、試薬保持部まで貫通する試薬注入口が設けられる。試薬注入口は、液体試薬が注入された後、たとえば封止用ラベル(シール)などの封止層をマイクロチップ表面に貼着することにより封止される。
【0022】
流体回路は、上記の試薬保持部のほか、流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体(検体中の特定成分を含む。以下同じ。)を計量するための検体計量部;液体試薬を計量するための試薬計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査または分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための検出部;廃液(たとえば、計量時に検体計量部や試薬計量部からオーバーフローした検体や液体試薬)を収容する廃液溜め部などを含むことができる。
【0023】
検査または分析の方法は特に制限されず、たとえば、混合液を収容する検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法、検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定を挙げることができる。
【0024】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、上述の例示された部位(室)のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。各部位の数についても特に制限はなく、1または2以上であることができる。
【0025】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を順次印加して、対象の液体を所定位置に配置された所定の部位に順次移動させることにより行なうことができる。たとえば、計量部による検体や液体試薬の計量は、所定の容量(計量すべき量と同じ量)を有する計量部へ、遠心力の印加により計量される検体または液体試薬を導入し、過剰分の検体または液体試薬を計量部からオーバーフローさせることにより実施することができる。オーバーフローした検体または液体試薬は、流路を介して計量部に接続された廃液溜め部に収容させることができる。
【0026】
マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、回転自在なローター(回転子)と、該ローター上に配置された回転自在なステージとを備えることができる。該ステージ上にマイクロチップを載置し、該ステージを回転させてローターに対するマイクロチップの角度を任意に設定したうえでローターを回転させることにより、マイクロチップに対して任意の方向の遠心力を印加することができる。
【0027】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、第1の基板と、該第1の基板上に積層、貼合された第2の基板とから構成することができ、より具体的には、第1の基板上に、表面に溝を備える第2の基板を、当該第2の基板の溝形成側表面が第1の基板に対向するように貼り合わせて構成することができる。かかる2枚の基板からなるマイクロチップは、第2の基板表面に設けられた溝と第1の基板における第2の基板に対向する側の表面とから構成される内部空間からなる流体回路を備える。第2の基板表面に形成される溝の形状およびパターンは、内部空間の構造が、所望される適切な流体回路構造となるように決定される。
【0028】
また、本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップは、第1の基板と、基板の両表面に設けられた溝を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で積層、貼合したものであってもよい。かかる3枚の基板からなるマイクロチップは、第1の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第1の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される内部空間からなる第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第3の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される内部空間からなる第2の流体回路と、の2層の流体回路を備える。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第2の基板を厚み方向に貫通する貫通穴によって接続することができる。
【0029】
基板同士を貼り合わせる方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)、接着剤を用いて接着させる方法などを挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザー等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法(レーザー溶着);超音波を用いて溶着する方法などを挙げることができる。なかでもレーザー溶着法が好ましく用いられる。
【0030】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0031】
本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップを構成する上記各基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0032】
マイクロチップが第1の基板と、基板表面に溝を備える第2の基板とから構成される場合、第2の基板は、検出光を利用する光学測定のための検出部を構築するために、透明基板とすることが好ましい。第1の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよいが、レーザー溶着を行なう場合には、光吸収率を増大できることから、不透明基板とすることが好ましく、基板を樹脂から構成し、該樹脂中にカーボンブラック等の黒色顔料を添加することにより黒色基板とすることがより好ましい。
【0033】
マイクロチップが第1の基板と、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、第3の基板とから構成される場合、レーザー溶着の効率性の観点から、第2の基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。一方、第1および第3の基板は、検出光を利用する光学測定のための検出部を構築するために、透明基板とすることが好ましい。第1および第3の基板を透明基板とすると、第2の基板に設けられた貫通穴と、透明な第1および第3の基板とから光学測定のための検出部を形成でき、マイクロチップ表面と略垂直な方向から該検出部に検出光を照射して、透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0034】
第2の基板表面に、流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。無機材料を用いて基板を形成する場合には、エッチング法などを用いることができる。溝の形状は適切な流体回路構造となるように決定される。
【0035】
なお、第2の基板以外の基板(第1および/または第3の基板)にも、流体回路を構成する溝や、外側表面に形成される溝や凹部、貫通穴などを適宜設けることができる。
【0036】
以下、実施の形態を示して、本発明の液体試薬内蔵型マイクロチップについてより詳細に説明する。
【0037】
<第1の実施形態>
本発明に係る液体試薬内蔵型マイクロチップおよびこれを構成する基板の例を図1〜図8に示す。これらの図面によって示される液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、透明基板である第1の基板1、流体回路を形成する溝を両表面に有する黒色基板である第2の基板2、および、透明基板である第3の基板3をこの順で積層、貼合してなる。
【0038】
図1は、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)を示す上面図である。図2は、第2の基板2における第1の基板1側表面を示す上面図であり、図3は、第2の基板2における第3の基板3側表面を示す上面図である。図4は、第3の基板3の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)を示す上面図である。図5は、第1〜第3の基板を貼り合わせてなる液体試薬内蔵型マイクロチップ100の上面図であり、第1の基板1の外側表面に設けられた溝および貫通穴等(図1に示したもの)と第2の基板2における第1の基板1側表面に設けられた溝等(図2に示したもの)とを重ねて表示したものである。図6は、第1〜第3の基板を貼り合わせてなる液体試薬内蔵型マイクロチップ100の下面図であり、第3の基板3の外側表面に設けられた貫通穴等(図4に示したもの)と第2の基板2における第3の基板3側表面に設けられた溝等(図3に示したもの)とを重ねて表示したものである。図7は、図5の一部を拡大して示す上面図であり、図8は、図7に示されるVIII−VIII線における断面図である。
【0039】
なお、図1、3、5および6において点線は、その点線で囲まれた領域が凹部を構成していることを意味している。
【0040】
図1および5を参照して、第1の基板1には、試薬注入口103a,103bを含む、合計11個の試薬注入口が設けられている。これらの試薬注入口は、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である。また、第1の基板1には、検体(たとえば全血)を流体回路内に導入するための、同じく第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である検体導入口105が設けられている。本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、液体試薬を試薬注入口から注入した後、すべての試薬注入口ならびに後述する空気導入路を構成するすべての溝およびすべての貫通穴を封止できるサイズを有する封止用ラベル(シール)などの封止層4を第1の基板1の外側表面に貼着することにより封止して、使用(検体の検査・分析)に供される(図8参照)。なお、図1〜図7では、マイクロチップ表面の構造および流体回路の構造を明確に把握できるよう封止層4を割愛している。
【0041】
本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100の流体回路について説明すると、図2および図3を参照して、第2の基板2には、その両面に形成された溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴が形成されており、これに第1の基板1および第3の基板3を貼り合わせることによって、マイクロチップ内部に2層の流体回路が形成されている。なお、以下では、第1の基板1における第2の基板2側表面および第2の基板2における第1の基板1側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第1の流体回路」、第3の基板3における第2の基板2側表面および第2の基板2における第3の基板3側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第2の流体回路」と称する。これら2つの流体回路は、第2の基板2に形成された厚み方向に貫通するいくつかの貫通穴によって連結している。
【0042】
図2から第1の流体回路の構造を、図3から第2の流体回路の構造を把握することができる。本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、1つの検体について6項目の検査・分析を行なうことができる多項目チップであり、その流体回路は、6項目の検査・分析を行なうことができるよう、6つのセクション〔図2(第1の流体回路)におけるセクション1〜6。図3(第2の流体回路)においても同様。〕に分けられている。ただし、検体計量部設置領域(図3に示される第2の流体回路の上部領域)においてこれらは互いに接続されている。
【0043】
上記各セクションは、およそ同様の構成を有しており、流体処理も同様であるため、以下では、主に「セクション4」を採り上げて説明する。
【0044】
セクション4には、第1の流体回路内において、液体試薬が内蔵された試薬保持部が2つ設けられている(図2、図5における試薬保持部201a、211a)。上記のように各試薬保持部には、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である試薬注入口が設けられている(図1、図5における試薬注入口103a、113a)。また、各試薬保持部の下端には、試薬保持部内の液体試薬を排出するための試薬排出路202a、212aがそれぞれ連結されている(図2および図5参照)。試薬排出路202a、212aは、第2の基板2の厚み方向に延びる貫通穴であり、裏側の第2の流体回路に繋がっている。試薬保持部201a、211aから排出された液体試薬は、第2の流体回路内の試薬計量部301a、311aにそれぞれ導入され、計量される(図3および図6参照)。
【0045】
セクション4には、第2の流体回路内において、検体中の特定成分を計量するための検体計量部401が設けられている。このような検体計量部は各セクションに設けられており、これらの検体計量部は、流路によって直列的に接続されている(図3および図6参照)。
【0046】
また、本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、マイクロチップ内に導入された検体から特定成分(液体試薬と混合される成分)を取り出す(たとえば全血から血球成分を分離し、血漿成分を取り出す)ための分離部501を備えている(図3および図6参照)。分離操作は遠心分離によりなされる。
【0047】
検体導入口105から導入された検体は、分離部501にて特定成分が取り出された後、各セクションに分配されるとともに検体計量部(たとえばセクション4においては検体計量部401)にて計量されると、別途計量された各セクション内の1種または2種の液体試薬と混合されて、それぞれ検出部(たとえばセクション4においては検出部601)に導入される(図2および図3等参照)。検出部に導入された混合液は、たとえば、マイクロチップ表面と略垂直な方向から検出部に検出光を照射し、その透過光の透過率を測定する等の光学的測定に供され、該混合液中の特定成分の検出等がなされる。
【0048】
以上のような流体回路を有する3枚の基板からなるマイクロチップにおいて、本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100は、各試薬保持部に連結された試薬排出路とは別に、試薬保持部に空気を導入するための空気導入路がそれぞれの試薬保持部に連結されていることを特徴とする。すなわち、セクション4の試薬保持部201aに関していえば、図1、図5、図5におけるセクション4の試薬保持部201a周辺の拡大図である図7、および、図7に示されるVIII−VIII線における断面図である図8を参照して、試薬注入口103aから湾曲して延びる溝101aと、溝101aの末端に接続される貫通穴102aとから構成される空気導入路101が試薬保持部201aに連結されている。空気導入路101は、試薬注入口103aを介して試薬保持部201aに連結されている。セクション4の試薬保持部211aおよび他のセクションの試薬保持部についても同様である(例外については後述)。
【0049】
空気導入路101を構成する溝101aは、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)に形成された溝であり、貫通穴102aは、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である。貫通穴102aは、廃液溜め部701に接続された流路702の直上に位置している。溝101aおよび貫通穴102aの断面形状は特に制限されず、それぞれ長方形、正方形、円形などであることができる。ここで、貫通穴102aは、流路702と空間的に連通しており、したがって流路702は、第1および第2の流体回路を構成する他の流路および部位(室)を介して検体導入口105と接続されているため、貫通穴102aの末端は、マイクロチップ外部と連通している。
【0050】
試薬保持部に連結された試薬排出路とは別に、試薬保持部に連結された上記のような空気導入路を備える本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100によれば、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)における意図しない試薬排出路からの液体試薬の流出を防止するために試薬排出路の断面積を十分小さくしても、液体試薬を試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したとき、液体試薬の排出に伴って空気導入路から空気が補充され、試薬保持部の内圧低下が生じないため、良好に(スムーズに)液体試薬を排出させることができる。
【0051】
マイクロチップ製造後使用時までの間における意図しない試薬排出路からの液体試薬の流出を防止するために、試薬排出路の断面積は100〜500,000μm2とすることが好ましく、100〜10,000μm2とすることがより好ましい。
【0052】
試薬保持部と空気導入路との連結部〔セクション4の試薬保持部201aに関していえば、試薬注入口103aと空気導入路101(より具体的には溝101a)との連結部〕を、試薬保持部のいずれの位置に設定するかについては、後述する他の実施形態が示す如く比較的設計自由度が高いが、本実施形態では、図7を参照して、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力(図7に示される矢印の向きのような、図7におけるおよそ下向きの遠心力)を印加したときに液体試薬Xの全量が試薬保持部201a内において形成する液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に試薬保持部201aと空気導入路101との連結部を設けている。すなわち、試薬保持部201aと空気導入路101との連結部は、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに、該連結部が液体試薬Xに接触しないような位置に設けられている。
【0053】
このような位置に試薬保持部と空気導入路との連結部を設けることにより、液体試薬を試薬排出路から排出させるための遠心力印加時に、サイフォンの原理により試薬保持部内にある液体試薬が空気導入路を通じて、空気導入路の入口側(空気導入路を構成する貫通穴の末端側)に流出することを防止できる。
【0054】
セクション4の試薬保持部201aにおいて空気導入路101(溝101a)は、試薬注入口103aに連結されているが、これに限定されるものではない。たとえば、セクション6の試薬保持部221aのように、試薬注入口103bとは別に、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴104bを試薬保持部221a直上のいずれかの位置に設けて空気導入路を形成してもよい。すなわち、セクション6の試薬保持部221aにおいて、空気導入路は、貫通穴104bと、貫通穴104bに接続され、第1の基板1の外側表面に形成された溝101bと、溝101bに接続される貫通穴102bとからなる(図1および図5参照)。
【0055】
本実施形態において、空気導入路の末端(入口)となる、空気導入路を構成する貫通穴を、流体回路上のいずれの位置に設定するかについては特に制限はなく、図7を参照して、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに液体試薬Xの全量が試薬保持部201a内において形成する液面Yを基準として、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に貫通穴102aを設けてもよいし、同じ側に貫通穴102aを設けてもよい。図7においては、同じ側に貫通穴102aを設けている。
【0056】
ただし、たとえばマイクロチップの出荷輸送時などに、試薬保持部と空気導入路との連結部から液体試薬が空気導入路に入り込み、該液体試薬が空気導入路の末端(入口)から流出して、流体回路内に漏れ出す万一の可能性を考慮して、空気導入路を構成する貫通穴は、流体回路のうち、廃液を収容する廃液溜め部またはこれに接続される流路の直上に設けることが好ましい。セクション4の試薬保持部201aにおいて空気導入路101を構成する貫通穴102aは、液体試薬計量時に試薬計量部301aからオーバーフローした液体試薬を収容するための廃液溜め部701に接続された流路702の直上に設けられている。なお、上記万一の可能性を考慮して、空気導入路の末端(入口)から流出した液体試薬を収容するための部位(室)を、計量部からオーバーフローした廃液を収容するための廃液溜め部とは別途に設けておき、その直上またはそれに接続される流路の直上に空気導入路を構成する貫通穴を設けてもよい。
【0057】
試薬排出路の末端における断面積をφ1、空気導入路の末端における断面積φ2とするとき、φ1<φ2の関係を満たすことが好ましい。これにより、たとえばマイクロチップの出輸送時や保存時などにおいて試薬保持部の内圧が上昇し、万一、液体試薬が試薬保持部から流出する場合においても、液体試薬は空気導入路側から流出し、試薬排出路からは流出しないため、マイクロチップを用いた検査・分析に悪影響を与えない。φ1<φ2の関係を満たすことが好ましいことは後述する他の実施形態でも同様である。
【0058】
「セクション4」を主に採り上げて、本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップ100による検体(例として全血を採り上げる)の検査・分析方法(流体処理操作)を説明すると次のとおりである。
【0059】
(1)全血導入、液体試薬計量工程
第1の基板1の検体導入口105から全血を導入し、ついで図2における略下向きに遠心力を印加する。これにより全血は、領域10を通って収容部801に導入される(図2参照)。また、この略下向きの遠心力印加により、試薬保持部201a、211a内の液体試薬は、それぞれ試薬排出路202a、212aを通って試薬計量部301a、311aに至り、計量される(図3参照)。各試薬計量部から溢れた液体試薬は、それぞれ貫通穴20、30を通って、廃液溜め部701、710に収容される(図2参照)。
【0060】
前記の封止層4として透明なフィルムを用い、液体試薬として着色水溶液を用いて液体試薬の排出性を確認したところ、上記略下向きの遠心力(3000rpm、15秒)の印加により、すべての試薬保持部から良好に液体試薬の全量が試薬排出路から排出され、試薬計量部に導入されていることが確認された。
【0061】
(2)遠心分離工程
次に、図2における略左向きに遠心力を印加した後、略下向きに遠心力を印加して、収容部801内の全血を、貫通穴40を通して分離部501に導入する。そして引き続き略下向きに遠心力を印加することにより分離部501にて遠心分離を行ない、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離する。
【0062】
(3)検体計量工程
次に、図3における略右向きの遠心力を印加する。これにより、分離部501において分離された血漿成分は、検体計量部401に導入され(同時に他の5つの検体計量部にも導入される)、計量される(図3参照)。検体計量部から溢れた血漿成分は、貫通穴50を通って第1の流体回路に移動する(図2および図3参照)。この略右向きの遠心力により、試薬計量部301a内の液体試薬は、混合部901に移動し、試薬計量部311a内の液体試薬は、流路11に移動する。
【0063】
(4)第1混合工程
次に、図3における略下向きの遠心力を印加する。これにより、計量された液体試薬(試薬保持部201aに保持されていた液体試薬)と、検体計量部401にて計量された血漿成分とが、試薬計量部301aにおいて混合される(第1混合工程第1ステップ、図3参照)。次に、図3における略右向きの遠心力を印加することにより、混合液は、混合部901に残存していた液体試薬とさらに混合される(第1混合工程第2ステップ、図3参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。
【0064】
(5)第2混合工程
次に、図3における略上向きの遠心力を印加する。これにより、混合部900内の混合液は、貫通穴60を通って混合部910に至り、計量されたもう一方の液体試薬(試薬保持部211a内に保持されていた液体試薬)もまた、貫通穴60を通って混合部910に至り、これらが混合される(第2混合工程第1ステップ、図2および図3参照)。次に、図2における略右向きの遠心力を印加することにより、混合液を混合部910内で移動させ、混合を促進させる(第2混合工程第2ステップ、図2参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。
【0065】
(6)検出部導入工程
最後に、図2における略下向きの遠心力を印加する。これにより、混合部910内の混合液は検出部601に導入される。検出部601に充填された混合液は、光学測定に供され、検体(血漿成分)の検査・分析が行なわれる。たとえば、マイクロチップ表面に対して略垂直な方向から光を照射し、その透過光を測定することにより、混合液中の特定成分の検出等がなされる。他の検出部に導入された混合液についても同様である。
【0066】
<第2の実施形態>
図9は、本実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す、図7と同様の上面図である。図9においても、マイクロチップ表面の構造および流体回路の構造を明確に把握できるよう封止層4を割愛している。
【0067】
本実施形態は、図7に示される空気導入路と異なり、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力(図9に示される矢印の向きのような、図9におけるおよそ下向きの遠心力)を印加したときに液体試薬Xの全量が試薬保持部201a内において形成する液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に、空気導入路101の末端(入口)となる、空気導入路101を構成する貫通穴102aを設けていることを特徴とする。
【0068】
このような位置に空気導入路101を構成する貫通穴102a(空気導入路の末端)を設けることにより、試薬保持部201aと空気導入路101との連結部が上記液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に設けられていない場合であっても、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための遠心力印加時に、サイフォンの原理により試薬保持部201a内にある液体試薬Xが空気導入路101を通じて、空気導入路101の入口側(空気導入路101を構成する貫通穴102aの末端側)に流出することを防止できる。
【0069】
<第3の実施形態>
図10および11は、本実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す、図7と同様の上面図である。図10および11においても、マイクロチップ表面の構造および流体回路の構造を明確に把握できるよう封止層4を割愛している。
【0070】
本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップは、空気導入路101に加えて、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部と、空気導入路101とを接続する流路(導液路)110をさらに備えることを特徴とする。図10は、流路(導液路)110が、〔1〕試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部の直上(すなわち、試薬排出路202aの直上)に設けられた、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴、および、〔2〕該貫通穴から、試薬保持部201a(試薬注入口103a)と空気導入路を構成する溝101aとの連結部まで延びる、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)に形成された溝、から構成された例を示している。
【0071】
一方、図11は、流路(導液路)110が、〔1〕試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部の直上(すなわち、試薬排出路202aの直上)に設けられた、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴、〔2〕該貫通穴から試薬注入口103aまで延びる、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)に形成された溝である第1の導液路110a、および、〔3〕第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である試薬注入口103aと第1の基板1の表面に貼着される封止層4(図11において図示せず)とで形成される角部である第2の導液路110bから構成された例を示している。
【0072】
本実施形態における「導液路」とは、試薬保持部に収容されている液体試薬が通り得る流路である。図10および図11に示されるような、導液路を有する液体試薬内蔵型マイクロチップによれば、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)に、試薬保持部201a内の液体試薬Xの一部が、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部側の末端より侵入して導液路110を伝わり、空気導入路を構成する溝101aの試薬保持部側開口を塞ぐため、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)にマイクロチップが衝撃を受けた場合においても、試薬排出路202aから液体試薬Xが流出することをより効果的に防止することができる。
【0073】
上記のような導液路による液体試薬Xの流出防止効果は、液体試薬Xの濡れ性が高いといほど顕著である。
【0074】
なお、図10の例において流路(導液路)110を、試薬保持部201a(試薬注入口103a)と空気導入路を構成する溝101aとの連結部に接続するのではなく、溝101aのみに接続するようにしてもよい。
【0075】
<第4の実施形態>
図12は、本実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して示す、図7と同様の上面図である。図12においても、マイクロチップ表面の構造および流体回路の構造を明確に把握できるよう封止層4を割愛している。
【0076】
本実施形態は、図7に示される空気導入路と異なり、試薬保持部201aと空気導入路101との連結部が、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部に近接しているか、またはこれと一致していることを特徴とする。図12に示される例はこれらの連結部が一致している例である。また、前述した試薬保持部221aの空気導入路は、これらの連結部が極めて近接しており、本実施形態の範疇に属するものである。
【0077】
図12に示される例において空気導入路は、〔1〕試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部の直上(すなわち、試薬排出路202aの直上)に設けられた、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴、〔2〕該貫通穴から延びる、第1の基板1の外側表面(第2の基板2側とは反対側の表面)に形成された溝101a、および、〔3〕溝101aに接続された、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴102aから構成されている。
【0078】
本実施形態の液体試薬内蔵型マイクロチップによれば、上記第3の実施形態と同様、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)に、試薬保持部201a内の液体試薬Xの一部が、空気導入路101の試薬保持部201a側の末端より侵入して当該末端開口を塞ぐため、マイクロチップ製造後使用時までの間(保管時、輸送時など)にマイクロチップが衝撃を受けた場合においても、試薬排出路202aから液体試薬Xが流出することをより効果的に防止することができる。
【0079】
本実施形態においては、試薬保持部201aと空気導入路101との連結部が、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力(図12に示される矢印の向きのような、図12におけるおよそ下向きの遠心力)を印加したときに液体試薬Xの全量が試薬保持部201a内において形成する液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部と同じ側に設けられることとなる。したがって、液体試薬Xを試薬排出路202aから排出させるための遠心力印加時に、サイフォンの原理により試薬保持部201a内にある液体試薬Xが空気導入路101を通じて、空気導入路101の入口側(空気導入路101を構成する貫通穴102aの末端側)に流出することを防止するために、上記第2の実施形態と同様、空気導入路101の末端(入口)となる、空気導入路101を構成する貫通穴102aを、上記液面Yを基準に、試薬保持部201aと試薬排出路202aとの連結部とは反対側に設けることが好ましい。
【0080】
<第5の実施形態>
図13は、本実施形態に係る液体試薬内蔵型マイクロチップの一部を拡大して模式的に示す斜視図である。図13においても封止層4は割愛されている。上記第1〜第4の実施形態では、第1の基板1の外側表面に空気導入路が形成されている一方、本実施形態は、空気導入路101を、試薬排出路202aと同様、第2の基板2の厚み方向に延びる貫通穴として構成している点に特徴を有する。
【0081】
上記第1の実施形態でも触れたように、空気導入路101である貫通穴は、流体回路のうち、廃液を収容する廃液溜め部またはこれに接続される流路の直上に設けることが好ましい。空気導入路101である貫通穴は、流体回路を構成する他の流路および部位(室)を介してマイクロチップ外部と連通させることができる。一方、試薬排出路202aは、上記実施形態と同様、通常、試薬計量部に向けられる。
【0082】
図13に示されるように、試薬排出路202aおよび空気導入路101は、試薬保持部201aにおける互いに対向する位置に配置させることが好ましい。これにより、液体試薬を試薬排出路202aから排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに、空気導入路101から液体試薬が流出することを防止できる。
【符号の説明】
【0083】
1 第1の基板、2 第2の基板、3 第3の基板、4 封止層、11 流路、20,30,40,50,60 貫通穴、100 液体試薬内蔵型マイクロチップ、101 空気導入路、101a,101b 溝、102a,102b,104b 貫通穴、103a,103b,113a 試薬注入口、105 検体導入口、110 流路(導液路)、110a 第1の導液路、110b 第2の導液路、201a,211a,221a 試薬保持部、202a,212a 試薬排出路、301a,311a 試薬計量部、401 検体計量部、501 分離部、601 検出部、701,710 廃液溜め部、702 流路、801 収容部、901,910 混合部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、遠心力の印加により前記流体回路内に存在する液体を前記流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、
前記流体回路は、液体試薬を収容する試薬保持部を含み、
前記試薬保持部に連結される、前記液体試薬を排出するための試薬排出路と、
前記試薬保持部に連結される、前記試薬排出路とは異なる流路であって、前記試薬保持部内に空気を導入するための空気導入路と、
を備える液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項2】
前記試薬保持部と前記空気導入路との連結部が、前記液体試薬を前記試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに前記液体試薬の全量が形成する液面を基準に、前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部とは反対側に位置している請求項1に記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項3】
前記空気導入路の末端が、前記液体試薬を前記試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに前記液体試薬の全量が形成する液面を基準に、前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部とは反対側に位置している請求項1に記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項4】
前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部と、前記空気導入路とを接続する流路をさらに備える請求項1〜3のいずれかに記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項5】
前記試薬保持部と前記空気導入路との連結部と、前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部とが近接しているか、または一致している請求項1に記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項6】
前記空気導入路の末端が、前記液体試薬を前記試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに前記液体試薬の全量が形成する液面を基準に、前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部とは反対側に位置している請求項5に記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項7】
前記試薬排出路の末端における断面積φ1と前記空気導入路の末端における断面積φ2とが、φ1<φ2の関係を満たす請求項1〜6のいずれかに記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項1】
内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、遠心力の印加により前記流体回路内に存在する液体を前記流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、
前記流体回路は、液体試薬を収容する試薬保持部を含み、
前記試薬保持部に連結される、前記液体試薬を排出するための試薬排出路と、
前記試薬保持部に連結される、前記試薬排出路とは異なる流路であって、前記試薬保持部内に空気を導入するための空気導入路と、
を備える液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項2】
前記試薬保持部と前記空気導入路との連結部が、前記液体試薬を前記試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに前記液体試薬の全量が形成する液面を基準に、前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部とは反対側に位置している請求項1に記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項3】
前記空気導入路の末端が、前記液体試薬を前記試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに前記液体試薬の全量が形成する液面を基準に、前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部とは反対側に位置している請求項1に記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項4】
前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部と、前記空気導入路とを接続する流路をさらに備える請求項1〜3のいずれかに記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項5】
前記試薬保持部と前記空気導入路との連結部と、前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部とが近接しているか、または一致している請求項1に記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項6】
前記空気導入路の末端が、前記液体試薬を前記試薬排出路から排出させるための所定方向の遠心力を印加したときに前記液体試薬の全量が形成する液面を基準に、前記試薬保持部と前記試薬排出路との連結部とは反対側に位置している請求項5に記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【請求項7】
前記試薬排出路の末端における断面積φ1と前記空気導入路の末端における断面積φ2とが、φ1<φ2の関係を満たす請求項1〜6のいずれかに記載の液体試薬内蔵型マイクロチップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−92384(P2013−92384A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232741(P2011−232741)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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