説明

液体調味料

【課題】にんにくや生ねぎ等のネギ属野菜特有の良好な風味を長期間保持した液体調味料を提供する。
【解決手段】γ−グルタミルペプチドを含有し、γ−グルタミル−S−(アリル)−システイン、γ−グルタミル−S−(2−プロペニル)−システイン及びγ−グルタミル−S−(メチル)−システインの合計量中のγ−グルタミル−S−(メチル)−システイン含有量が10〜27質量%である液体調味料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレッシング類等の液体調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
ドレッシング類等の液体調味料には、にんにく風味、しそ風味、胡麻風味等の種々の風味を有するものが知られている。このうち、にんにくは、特有の風味を有することから、液体調味料に広く使用されている。
【0003】
にんにく中には種々の有機イオウ化合物(以下「含硫化合物」と記載する)が含まれており、これら含硫化合物が多様な化合物に変化することで、にんにくに特徴的な香気を生成することが知られている。
にんにくの特徴成分である含硫化合物は、にんにく中で生合成されたシステイン類が、にんにく中に存在する酵素によりアリイン類やγ−グルタミルペプチド類に変換され、すりおろす等により破砕すると、さらに酵素の作用によりアリシン類その他の物質に変換される。そして、アリシン類から生成する多様な化合物が、にんにく独特の香気を与えることが知られている(非特許文献1)。
アリシン類の前駆体であるγ-グルタミルペプチド類、アリイン類自体の風味に関しては、「水中では風味がないがグルタミン酸、核酸等の旨味成分の存在下でこくみが上昇する」との報告があるが(特許文献1及び非特許文献2)、一方でアリイン類は無臭とされる報告も見られる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−91958号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「にんにくの科学」、齋藤洋監修、朝倉書店、93〜99頁(2000)
【非特許文献2】Y. Ueda et. al., Agric. Biol. Chem., 54, 163(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、にんにくや生ねぎ等のネギ属野菜特有の良好な風味を長期間保持した液体調味料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、にんにく等のネギ属野菜特有の風味の発現とその持続性について種々検討したところ、ネギ属野菜中に含まれていることが知られているγ−グルタミルペプチド組成比を変化させることにより、風味及びその持続性が大きく変化し、その組成を特定のものにすることにより、風味が良好で持続する液体調味料が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、γ−グルタミルペプチドを含有し、γ−グルタミル−S−(アリル)−システイン、γ−グルタミル−S−(2−プロペニル)−システイン及びγ−グルタミル−S−(メチル)−システインの合計量中のγ−グルタミル−S−(メチル)−システイン含有量が10〜27質量%である液体調味料を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体調味料は、にんにくに代表されるネギ属野菜の風味が良好であり、かつ保存後もその風味が持続するため、長期間安定した風味が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液体調味料は、γ−グルタミルペプチドを含有する。本発明でいう、γ−グルタミルペプチドは、γ−グルタミル−S−(アリル)−システイン(GSAC)、γ−グルタミル−S−(2−プロペニル)−システイン(GSPC)及びγ−グルタミル−S−(メチル)−システイン(GSMC)の総称である。これらのγ−グルタミルペプチドは、にんにく等のネギ属野菜に含まれる成分であり、野菜中でγ−グルタミルトランスペプチダーゼ、オキシダーゼ等の作用によりアリインやイソアリインに変化し、すりおろし等の操作により香気成分であるアリシンなどに変化することが知られている。しかし、アリシンではなく、これらγ-グルタミルペプチド類が液体調味料の風味にどのような作用を及ぼすかに関しては詳しくは知られていない。
【0011】
本発明の液体調味料は、GSAC、GSPC及びGSMC含有量の合計中のGSMC含有量が10〜27質量%(以下、単に「%」と記載する)である。当該含有量とすることにより、良好な風味が得られ、その作用が持続する。当該GSMCの含有量はさらに15〜25%、特に16〜22%、殊更18〜22%が好ましい。
これらのγ−グルタミルペプチド類の含有量は、既知のいずれかの方法(液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等)により測定することができる。
【0012】
また、γ−グルタミルペプチドの合計含有量は、水相中0.65〜1.25mg/mL、さらに0.8〜1.2mg/mL、特に0.85〜1.1mg/mL、殊更0.9〜1.1mg/mLであるのが風味及びその持続性の点から好ましい。
【0013】
このようなγ−グルタミルペプチドの組成は、ネギ属野菜の配合又は加熱処理により調整することができる。用いられるネギ属野菜としては、にんにく、たまねぎ、ネギ、ニラ、アサツキ、ワケギ、エシャロット、リーキ、エレファントガーリック、ギョウジャニンニク、ラッキョウ、ニラネギなどが用いられる。このうち、にんにく、たまねぎが特に好ましい。より具体的には、にんにく/たまねぎの質量比を固形物換算で1/0.15〜1/2.5とすることで、γ−グルタミルペプチドの組成を本発明の規定範囲内に調整することができる。にんにく/たまねぎの質量比は、さらに1/0.3〜1/1.8、特に1/0.6〜1/1.5、殊更1/0.8〜1/1.3とすることが、風味の点から好ましい。
また、これらのネギ属野菜は生の状態で液体調味料に配合するのが好ましい。さらに、生の状態のものと、乾燥した状態のものとを併用して液体調味料に配合しても良い。
【0014】
ここで、生ネギ属野菜には、生のもの及び生の状態で冷蔵又は冷凍したものが含まれる。生の野菜の形態は、特に限定されず、切断、破砕(すりおろしを含む)したものが挙げられるが、液体調味料に良好な風味を付与する点から、破砕処理したものが好ましい。このうち、にんにくやたまねぎは、細かく破砕するのが好ましく、特にすりおろしたもの(ペースト状になったもの)を用いるのが好ましい。また、たまねぎは平均粒径が数mm程度になるよう細断したものを用いることが、食感の観点から好ましい。
【0015】
ネギ属野菜のうち、にんにくの配合量は、風味の点から、液体調味料の水相中に湿質量として5〜11%、さらに6〜10%、特に7〜9%とするのが好ましい。たまねぎの配合量は、風味の点から、液体調味料の水相中に湿質量として10〜45%、さらに20〜40%、特に25〜35%とするのが好ましい。ネギ属野菜の配合量の調整によってもγ−グルタミルペプチドの組成比を調整できる。ここで、水相中の配合量とは、液体調味料が水相だけの場合には、液体調味料全量中の配合量を意味し、液体調味料が油相と水相を含む場合は、水相中の配合量を意味する。
【0016】
本発明において、液体調味料製造時の加熱は、特に制限されず、例えば加熱殺菌工程における加熱であってもよい。この際の加熱温度は、ドレッシングなど開放系で加熱する場合は、75〜90℃以上、さらに80〜90℃、特に80〜85℃が好ましく、加熱時間は1〜15分間、特に5〜12分間行うのが、風味・殺菌性の点から好ましい。
【0017】
本発明の液体調味料は、液体状の調味料であれば特に制限されないが、酸性液体調味料が好ましく、特にドレッシング類(サラダ用の液体調味料)が好ましい。また、液体調味料は、容器詰液体調味料の形態が好ましい。
【0018】
本発明の液体調味料は、油相及び水相を含む酸性液体調味料であるのが、ネギ属野菜の風味を生かす点で特に好ましい。
【0019】
本発明の液体調味料が油相を含む場合、例えば、水相として水を主成分として用い、油相を上層、水相を下層とした分離型、水中油型の乳化物からなる乳化型、又は水中油型の乳化物に油相を積層した分離型が挙げられるが、嗜好性の点から分離型が好ましい。
本発明の液体調味料中の油相は5%以上、さらに20%以上、特に30〜50%含有するのが好ましい。
【0020】
本発明の液体調味料に用いることのできる油相は、食用油脂が主成分であり、動物性、植物性のいずれでも良く、例えば、動物油としては牛脂、豚脂、魚油等、植物油としては大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、米油、胡麻油等が挙げられるが、風味、実用性の点から、大豆油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、胡麻油等の植物油を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の液体調味料に用いることのできる水相は、水が主成分であり、その他の成分として食酢、塩、醤油、味噌、香辛料、糖、蛋白質素材、有機酸、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、動植物エキス、発酵調味料、酒類、澱粉、増粘剤、安定剤、乳化剤、着色料等の各種添加剤等を適宜含有させることが好ましい。特に、乳化物を安定化させるためには、増粘剤、安定剤、乳化剤を含有させることが好ましい。増粘剤の具体例としては、キサンタンガム、カラギーナン、グアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、モナトウガム、アラビアガム、アルギン酸塩類、トラガントガム、ポリデキストロース、セルロース類、プルラン、カードラン、ペクチン、ゼラチン、寒天、大豆多糖類等の天然物や加工澱粉類、並びにカルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等の化学合成品のガム類等が挙げられる。安定剤の具体例としては、ラクトアルブミン等の乳蛋白、澱粉類等が挙げられる。乳化剤の具体例としては、卵黄液、カゼイン、ゼラチンの他、モノグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等、一般に食品に使用可能な乳化剤が挙げられる。
【0022】
また、水相のpHは5.5以下であることが保存性の点から好ましく、さらに4.7〜3、特に4.5〜3.5、殊更4.2〜3.7の範囲が好ましい。この範囲にpHを低下させるためには、食酢、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、レモン果汁等の酸味料を使用することができるが、保存性を良くする点、加工直後の具材の風味成分を維持する点から食酢を用いることが好ましい。食酢は穀物酢、りんご酢、ビネガー類など様々な種類を用いることができ、その配合量は、液体調味料中に、3〜20%、さらに5〜15%、特に6〜10%が好ましい。
【0023】
本発明の液体調味料においては、抗酸化剤を添加することが好ましい。抗酸化剤は、通常、食品に使用されるものであればいずれでもよいが、天然抗酸化剤、トコフェロール、カテキン、リン脂質、アスコルビン酸脂肪酸エステル、BHT、BHA、TBHQから選ばれる1種以上が好ましく、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビン酸パルミチン酸エステルから選ばれる1種以上がより好ましい。抗酸化剤は、油脂の風味劣化を抑制する点から油相へ添加することが好ましい。特に好ましい抗酸化剤の含有量は、油相中50〜5000ppm、さらに200〜2000ppmである。さらに、ジアシルグリセロールを含む油脂と水相を含有する液体調味料において、保存により異味(金属味)が生じるのを防止する点から、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを実質的に含まず、δ−トコフェロールを200ppm以上含有させることが好ましい。
【実施例】
【0024】
試験例1〜7
〔液体調味料の調製〕
水、醸造酢、しょう油、にんにく、たまねぎ、砂糖、食塩、チキンエキス、キサンタンガムを表1に示した量配合し、撹拌混合して溶解した。次に、常温から加熱して85℃に到達してから10分間保持することにより加熱処理(殺菌処理)を行った後、冷却し、常温とした後に容器に充填することにより試験例1〜7の液体調味料をそれぞれ調製した。各液体調味料のγ−グルタミルペプチドの含有量及びGSMC比率を表1に示した。また、調製した液体調味料について、次に示す官能評価を行った。
【0025】
〔官能評価〕
市販レタスを20〜30mmの大きさに切断した。試食直前に酸性液体調味料をよく攪拌し、速やかにレタス約100g当たり酸性液体調味料15gを均一に分散するようにかけ、試食することにより評価を行った。
評価は、酸性液体調味料の「にんにくの風味」及び「まろやかさ」についての評価を行った。
各評価は5段階評価とし、専門パネル5名により行い、平均を求めた。各液体調味料の評価は次に示す基準に従って行った。
結果を表1に示す。
【0026】
〔にんにくの風味の評価基準〕
5:にんにく風味を強く感じる
4:にんにく風味を感じる
3:にんにく風味をやや感じる
2:にんにく風味をあまり感じない
1:にんにく風味を感じない
【0027】
〔まろやかさの評価基準〕
「まろやかさ」とは、種々の風味が個別に感じられるのではなく、全体に調和がとれ、まとまって感じられることである。
5:とてもまろやかである
4:まろやかである
3:ややまろやかである
2:あまりまろやかではない
1:まろやかではない
【0028】
液体調味料の水相部中のγ−グルタミルペプチド類の含有量は、非特許文献(山崎賀久ら、日食工誌、52、160-166(2005).)に順じて、次の条件によりHPLC(Agirent社、1100series)を用いて測定した。
液体調味料の水相部約5gを精秤し、90%メタノール(0.01N塩酸)にて25mLにメスアップし、室温にて10分静置後、0.45μmのフィルターにてろ過し、HPLC分析に供した。
・カラム:Capcell Pak SCX UG(資生堂、250×4.6mm)
・流量:1.0mL/分
・検出:210nm
・溶離液:20mMリン酸カリウムバッファー(pH2.5)
GSACは標品を用いて帰属を行った。GSPC、GSMCは、非特許文献に記載されるリテンションタイム・溶出順を参考に帰属した。GSACは標品(米国薬局方USP標準品、USP1294848)を用いて外部検量線にて定量した。GSPC、GSMCは、非特許文献(L. D. Lawson et. al., J. Nat. Prod., 54, 436-444(1991))に報告されている210nmにおけるGSACとの吸光度の比率から算出した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、γ−グルタミルペプチド中のGSMC比率が10%未満である試験例1はにんにくの風味及びまろやかさのいずれも良くなかった。これに対し、GSMC比率が10〜27%である試験例2〜7は、にんにくの風味をより強く感じ、まろやかさも良好であった。
なお、試験例2〜7のにんにくの風味及びまろやかさは40℃で20日間保存した後も良好に維持されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−グルタミルペプチドを含有し、γ−グルタミル−S−(アリル)−システイン、γ−グルタミル−S−(2−プロペニル)−システイン及びγ−グルタミル−S−(メチル)−システインの合計量中のγ−グルタミル−S−(メチル)−システイン含有量が10〜27質量%である液体調味料。
【請求項2】
γ−グルタミルペプチドの含有量が水相中0.65〜1.25mg/mLである請求項1記載の液体調味料。
【請求項3】
ネギ属野菜を配合したものである請求項1又は2記載の液体調味料。

【公開番号】特開2011−41508(P2011−41508A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191476(P2009−191476)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】