説明

液体酵母組成物

本発明は、パン風味改良組成物(例えば、サワードウまたは中種ベースの組成物)、活性イーストおよびパン改良組成物を含む安定した液体酵母組成物を製造する方法に関する。本発明の安定した液体組成物は、好ましくは残留糖分が低く、好ましくは液体組成物の0.5%w/w以下に保たれ、および/またはpHの著しい低下が防止されるときに得られる。
本発明は、さらに、こうして得られる新規の液体酵母組成物と、例えば、パン、スナックおよびピザなどのベーカリー製品におけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン風味改良組成物、活性イーストおよびパン改良組成物を含むパン、スナック(例えば、クラッカー、プレッツェル、ビスケットなど)およびピザ用途のための新規の安定した液体酵母組成物と、その使用および製造に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パン風味改良系、パン改良組成物およびイーストは、それぞれ別々に添加されている。それにはいくつかの欠点がある。
【0003】
別々の添加は、失敗の危険および前記添加によって引き起こされる作業コストを増加させる。液体製品の場合、全てのパイプ、全てのポンプおよび自動化を別々の添加ポイントの数だけ増やさなければならないため、別々の添加の投資は単一の添加系と比較して大幅に高くなる。
【0004】
他方、粉末添加系はより不正確になり、または自動化のための膨大な投資を必要とする。粉末状の製品の添加による粉塵の生成はそのアレルギー特性のため、ベーカリーで増えつつある問題である。
【0005】
廃棄物処理に関して、別々の梱包はオールインワンの溶液と比較してはるかに多くの廃棄物を生み出す。別々の製品は在庫商品の数を増加させ、ベーカリーのロジスティック組織は複雑になり、在庫に向けられた資本の不動のために有効資本が減少する。
【0006】
パンの品質と風味とを改良するためのいくつかのプロセスが周知である。
【0007】
サワードウの製造と中種の製造は、ベーカリーで製造される発酵系の2つの周知の例である。
【0008】
ホームメイドのサワードウの製造は、ベーカリーにおける多大な組織的な努力と一貫性が低下する危険を意味する。
【0009】
これらの理由で、すぐ使えるサワードウ・ベースの組成物が開発され販売されている。液体サワードウ・ベースの組成物がベーカリー材料として市場に参入している。
【0010】
液状のパン改良系を供給することがベーカリーでの新しい傾向である。このパン改良系は酸化および還元剤、乳化剤、脂質などの化学添加物(生地添加物)、および酵素などを含む。
【0011】
活性イーストは正確な添加、システムの容易な清掃などを可能にする液体製品としてベーカリーに供給され得る。液体イーストは、親水コロイドまたはキサンタンガムなどのガムを添加することで、または連続的な混合(EP−A−0461725を参照)によって安定化され得る。あるいは、イーストの安定化はデキストランなどのエキソポリサッカライドを最終製品で1%使用し、それにより米国特許第6,399,119号に記載されたようにデカンテーションを防止することによって得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来技術の欠点を有しない液体酵母組成物を提供することである。
【0013】
本発明の目的は、すぐ使用できる液体酵母組成物を提供することである。
【0014】
本発明のもう1つの目的は、有利には、新鮮なイーストと同じガス発生力と、通常のパン改良系の生地およびパン改良特性と、サワードウ・プロセスまたは中種プロセスで達成可能な風味改良特性とを有する液体酵母組成物を提供することである。
【0015】
本発明のさらにもう1つの目的は、安定していて、有利にはより長期間保存できる液体酵母組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
液体処方内に少なくともパン風味改良組成物、パン改良組成物および活性イーストを配合または混合して、従来技術の欠点を有せず有利なことに安定している液体酵母組成物を得ることができるという驚異的な発見がなされた。
【0017】
液体イーストまたは酵母組成物に持ち込まれた微量の発酵性基質があるとすぐに、その結果として、時間中不安定なイーストの再発酵が起きる。
【0018】
パン風味改良系のいくつかは、潜在的な炭素源になり得るアルコールを含むが、製品はともかく安定していた。
【0019】
また、パン改良組成物は、添加物の活性が低下し、イーストのガス発生力が低下した状態でイーストが成長を開始するための源(N源)となり得る。
【0020】
一定の残留レベルを超えた発酵性糖分が液体酵母組成物の安定性に負の影響を与えることが発見された。
【0021】
特に、発酵性糖類などの発酵性成分の源としての穀粉の存在は、たとえ微量の穀粉の存在であっても、液体酵母組成物の安定性に支障を与えることがある。
【0022】
本発明は、液体処方内に、少なくとも風味改良組成物と、改良組成物と活性イーストとを、組み合わされた製品が3つすべての成分の組み合わされた特性を別々に有する安定な液体製品であるように混合するステップを含む安定した液体酵母組成物を製造するプロセスに関する。
【0023】
上記の製品の安定性は、有利には、液体酵母組成物の残留糖分レベルを低く、最小限に、好ましくは液体酵母組成物(最終製品)の0.5%w/w以下に、より好ましくは0.4%、0.3%、0.2%以下にまたは0.1%w/w以下に保つことで得られる。
【0024】
必要であれば、pH3.5以下または4.0以下への低下などのpHの著しい低下を防止するための手段が講じられる。
【0025】
本発明では、安定した液体酵母組成物を製造するためのプロセスであって、
−少なくとも風味改良組成物と、パン改良組成物と、活性イーストとを液体処方中に混合するステップ、および
−安定した液体酵母組成物を得るために、液体酵母組成物の残留糖分レベルを低く、好ましくは前記液体組成物の0.5%w/w以下に保つことを確実にするステップを含むプロセスが開示される。
より好ましくは、液体酵母組成物の残留糖分レベルは前記液体組成物の0.4%、0.3%、0.2%以下にまたは0.1%w/w以下に保たれる。
【0026】
液体処方は、例えば、酵素の安定性のために上記原料を水および/またはアルコールまたはグリセロールのような液体と混合することで得られる。あるいは、液状の上記各原料を混合してもよい。
【0027】
有利には、風味改良組成物は少なくとも1つの「サワードウまたは中種ベースの組成物」を含む風味改良組成物である。したがって、安定した液体酵母組成物を製造する方法またはプロセスであって、
−少なくとも、少なくとも1つのサワードウまたは中種ベースの組成物を含む風味改良組成物と、パン改良組成物と、活性イーストとを液体処方中に混合するステップ、および
−安定した液体酵母組成物を得るために、液体酵母組成物の残留糖分レベルを低く、好ましくは前記液体組成物の0.5%w/w以下に保つことを確実にするステップを含むプロセスが開示される。
より好ましくは、液体酵母組成物の残留糖分レベルは前記液体組成物の0.4%、0.3%、0.2%以下にまたは0.1%w/w以下に保たれる。
【0028】
「サワードウまたは中種ベースの組成物」が意味するのは、風味改良組成物が、サワードウ、サワードウ製品、中種、中種製品、または「サワードウ、サワードウ製品、中種、および/または中種製品の風味改良効果を模倣する風味組成物」のうちの少なくとも1つを含むということである。そのような模倣風味改良組成物の例としては、これに限定はされないが、当業者にとって周知の香料、酸、酸性化剤の混合物などがある。「サワードウまたは中種ベースの組成物」という用語は、(液体)サワードウ、サワードウ製品、中種、および/または中種製品の上清も含む。好ましくは、この上清は濃縮上清である。
【0029】
好ましくは、混合される風味改良組成物は、サワードウ;サワードウ製品;中種;中種製品;サワードウの上清;サワードウ製品の上清;中種の上清または中種製品の上清;香料、酸、および/または酸性化剤の混合物のうちの少なくとも1つを含む。
【0030】
混合される風味改良組成物は、穀粉ベースの改良組成物、すなわち、穀粉を含む風味改良組成物であってもよい。
【0031】
本発明の方法では、スターチから発酵性糖類を遊離させる発酵ステップに先立って前記風味改良組成物中に含まれる穀粉を加水分解することで、残留糖分レベルは、低く、好ましくは液体酵母組成物の0.5%w/w以下に保たれる。これらの遊離した糖類は有利には除かれ、または微生物発酵ステップによって少なくとも液体酵母組成物の0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%w/w以下の残留糖分レベルまで低減される。さらに、微生物発酵ステップは、有利にはすべての必要な風味化合物を生成する。
【0032】
アミラーゼなどの加水分解酵素が穀粉を加水分解できる。
【0033】
本発明の方法では、液体サワードウの上清、サワードウ製品の上清、中種の上清または中種製品の上清のうちの少なくとも1つを含む風味改良組成物を使用する(混合する)ことで残留糖分レベルは、低く、好ましくは液体酵母組成物の0.5%w/w以下に保たれる。
【0034】
この上清は以下のようにして得ることができる。例えば、穀粉スラリーをイーストおよび/または乳酸菌で発酵させて典型的なイースト中種生地またはサワードウが製造され、その後、不溶解部分から液体上清が分離される。液体上清は有利には、例えば、当業者にとって周知の物理プロセスによって濃縮できる。風味改良組成物として使用される(混合される)液体上清は、有利には、液体酵母組成物の0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%w/w以下の残留糖分レベルの液体上清である。
【0035】
本発明の方法では、中種ベースの風味改良組成物を使用する(混合する)ことで残留糖分レベルは、低く、好ましくは液体酵母組成物の0.5%w/w以下に保たれる。前記中種ベースの風味改良組成物に穀粉が全く含まれていなければ、最大10%の量のエタノールを含む中種が混合されてもよい。
【0036】
本発明の方法では、発酵性糖類を含まず、サワードウ、サワードウ製品、中種、および/または中種製品の風味改良効果を模倣する「風味組成物」である風味改良組成物を使用する(混合する)ことで残留糖分レベルは、低く、好ましくは液体酵母組成物の0.5%w/w以下に保たれる。そのような組成物は、香料の混合物、酸、または酸性化剤のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0037】
本発明の方法(上に開示されたもののいずれか)では、最終液体酵母組成物中に残留する発酵性糖類の残留糖分レベルは、有利には、最小限、例えば、最終製品(最終液体酵母組成物)の0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%w/w以下に保たれる。
【0038】
使用される(混合される)パン改良組成物は、化学添加物および/または酵素を含むことができる。
【0039】
化学添加物は、アスコルビン酸(酸化剤の例)、システイン、グルタチオン(還元剤の例)のような酸化剤/還元剤、加水分解グルテン、イースト抽出物、DATEM、SSL、CSL、GMSなどの乳化剤、胆汁酸塩、脂質およびそれらの任意の混合物または配合物からなるグループから選択できる。
【0040】
酵素はアミラーゼ、ヘミセルラーゼ、オキシダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼおよびそれらの任意の混合物からなるグループから選択できる。
【0041】
好ましくは新鮮なイーストが使用される(混合される)。
【0042】
混合されるイーストは、約30%の乾燥物質を含む圧縮イーストの形態で使用でき、および/または好ましくは25%以下の乾燥物質を含む液体イーストの形態で使用できる。
【0043】
本発明の液体酵母組成物は、親水コロイドまたはガム、好ましくはキサンタンガムを含有する溶液を液体酵母組成物に添加する(混合する)ことで、および/または液体酵母組成物を連続して混合することでさらに安定化して、デカンテーションを防止することができる。
【0044】
あるいは、本発明の液体酵母組成物は、最終製品(本発明の液体酵母組成物)に1%レベルのデキストランなどのエキソポリサッカライドを使用することでさらに安定化して、それによりデカンテーションを防止することができる。
【0045】
さらに、例えば、風味改良組成物に緩衝系を添加し、pHを調整し、および/または特定の菌株、特に特定の乳酸菌株を選択することでpH3.5以下またはpH4.0以下へ低下するのを防止することができる。
【0046】
本発明はさらに、本発明の方法によって得られる液体酵母組成物に関する。
【0047】
得られた液体酵母組成物は有利には安定している。
【0048】
新規で創意に富む本発明の液体酵母組成物は、好ましくは、約4℃などの低温でより長期間保存された時に安定状態にある。好ましくは、製品は、これらの温度で少なくとも1週間、より好ましくは少なくとも約4週間安定状態にある。
【0049】
本発明はまた、本発明の液体酵母組成物を含む生地、ベーカリー製品、ピザまたはスナック(例えば、クラッカー、プレッツェル、ビスケットなど)に関する。
【0050】
本発明は、さらに、パン、ピザまたはスナック(例えば、クラッカー、プレッツェル、ビスケットなど)などのベーカリー製品の調製プロセスにおける本発明の液体酵母組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、残留糖分量が低く保たれる本発明の安定した液体酵母組成物を製造する方法の図式的概観を示している。
【0052】
添付の図面を参照しながら以下の例で本発明について詳述するが、これは特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を制限するものでない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本明細書では一貫して以下の用語および定義が使用される。
【0054】
「風味改良系」、「風味改良組成物」、「パン風味改良系」または「パン風味改良組成物」は、サワードウまたはサワードウ製品、ベーカリー中種または中種製品、または場合により、サワードウ、サワードウ製品、中種、および/または中種製品(以下を参照)の風味改良効果を(優先的に)模倣する別のパン風味改良組成物を意味する。
【0055】
「サワードウ」は、乳酸菌および/またはイーストによって発酵される生地を意味し、主として乳酸、酢酸および微量成分を生成する乳酸菌による特徴的な酸性の風味およびイーストによって製造される独特な風味トップノートを有する。
【0056】
本明細書では、「サワードウ製品」は、この製品を通常の生地に添加して、それによりベーカリー内で製造される事前発酵に取って代わることができるように何らかの方法(例えば、乾燥、低温殺菌、冷却、冷凍など)で安定化される上記の製品を指す。
【0057】
「中種」または「中種生地」は、イーストによって発酵した生地を意味し、前記イースト発酵による特徴的な風味を有する生地を意味する。これは、穀粉の一部のイースト発酵に基づく事前発酵製品である。
【0058】
「中種製品」は、通常の生地の風味を改良するために用いられる通常のベーカリー中種発酵の安定した形態を指す。中種抽出物でもよい。
【0059】
上記の「その他の風味改良組成物」または「その他のパン風味改良組成物」は、化学芳香族化合物、酸および/または酸性化剤(酸および/またはガスを発生する)の配合物または混合物を含む、またはそれからなることができる。
【0060】
「改良系」、「パン改良系」、「改良組成物」または「パン改良組成物」は、生地取扱特性を改善し、および/または最終ベークド製品の品質を改善するために生地に添加される化学添加物および/または酵素を含むことができる。化学添加物は、これに限定はされないが、酸化/還元剤(アスコルビン酸、システイン、グルタチオンなど)、加水分解されたグルテン、イースト抽出物、乳化剤、脂質などを含む。パン改良目的で従来使用されてきた広範囲の酵素が存在する。これらの酵素はすべて周知であり、文献に記載されている。
【0061】
「液体イースト」は、ベーカリーの新しい傾向に対応し、最大25%の乾燥物質を有する活性イーストであり、しばしば親水コロイドで安定化する(例えば、EP−A−0461725を参照)。
【0062】
本発明は、少なくとも風味改良組成物、イーストおよびパン改良組成物を含み、各々が別々に添加される改良組成物の成分で作られるパンと同様に最終のパンの風味を改良する液体酵母組成物の製造プロセスに関する。本発明の液体酵母組成物では、イーストは十分に安定しており、いかなる通常の液体イーストにも匹敵するガス発生力を示す。この新規で創意に富む組成物におけるパン改良組成物は十分に安定していて、各成分が各々別々に添加される時に得られるものに匹敵する生地および/またはパン改良特性をもたらす。
【0063】
本発明の風味および酵母の複合系の安定性を確保するために、発酵性基質(発酵性糖類などの)量は、好ましくはできるだけ低く保たれ、例えば、最終製品(得られる液体酵母組成物)の0.5%w/w以下に保たれる。したがって、本発明の液体酵母組成物は、有利には、活性または特性が大幅に失われることなく、少なくとも1週間、または少なくとも約4週間も、約4℃で保存できる。
【0064】
次いで、いかなる処理もせずに通常の穀粉ベースで作られたばかりの通常のサワードウはその中の穀粉成分のためにそのようなものとして使用できなかったことについてさらに説明する。
【0065】
最大10%の量のエタノールを含む中種は全く穀粉がない限り安定性に問題はないと考えられた。穀粉は通常の小麦粉でよいが、ライ麦、麦芽、トウモロコシなどの穀粉などのその他のタイプの穀粉およびそれらの混合物でもよい。
【0066】
サワードウが液体酵母組成物に使用される(混合される)場合、pHの調整が必要になる。
【0067】
以下に、製品(液体酵母組成物)の安定性の問題を解決することができる方法に関する詳細およびいくつかの例を挙げて説明する。
【0068】
本発明の(パン)風味改良組成物または液体酵母組成物中のイーストの安定性のために、残留糖分含有量はできるだけ低い必要があり、好ましくは(最終)液体酵母組成物の0.5%以下、さらに良好には0.4%、0.3%、0.2%以下、さらに0.1%以下とする。
【0069】
これによって、放置すれば深刻な泡立ちの問題を引き起こしイーストの不安定性の原因になる梱包内のイーストによる再発酵が防止される。好ましくは、本発明の組成物におけるイーストは、適切に保存され取り扱われている時にはその酵母活性の90%以上を維持している。
【0070】
例えば、サワードウ製品における大部分の発酵性糖類の除去は様々な方法で獲得できる。
【0071】
発酵前の穀粉の加水分解は第1のオプションである。そのときに、生成された発酵性糖類はサワードウまたは中種プロセスにおいて消費され、すべての必要な風味化合物を生成し、残留(発酵性)糖類を制限することができる。
【0072】
あるいは、例えば、風味改良組成物として液体サワードウの上清だけを使用し、これにより液体酵母組成物への多量のスターチを防止してもよい。液相(上清)内には最小量のスターチしか存在しない。スターチが存在すれば、保存中に微生物活動によってさらに加水分解されガスの発生および不安定性を引き起こすだろう。
【0073】
別の可能性は、上記と同じ組成物を用いながら中種生地ベースの(発酵性糖類の)残留糖分含有量を低減することである。この場合、酸性風味プロファイルは生成されない。
【0074】
発酵性糖類を含まず、例えば、香料、酸および酸性化剤のグループから選択される少なくとも1つの化合物を含むその他のパン風味組成物も使用できる。有利には、上記の製品の任意の配合物または混合物も使用できる。
【0075】
本発明のパン改良組成物または液体酵母組成物を安定化するために、pHはサワードウ製造中に低下しすぎてはならない(すなわち、pHは好ましくはpH3より低下してはならない)。
【0076】
例えば、アミラーゼなどの酵素を使用する場合、緩衝容量がサワードウ製造で最適に改善されて、pHの著しい低下を防止するべきである。パン改良系の活性の低下を防止するため、pHはこの場合、好ましくはpH3.5を下回らないようにすべきで、好ましくはpH4を下回らないようにすべきである。pH3.5を下回るほど酸性化しない特別の乳酸菌の使用がもう一つの可能性である。これは、酸性化時にpHプロファイルに従ってpHメータを用いて容易に検査できる。その時点で残留糖類は風味形成中に存在するイーストによって消費される。
【0077】
上記条件、すなわち、残留糖分含有量を低く、好ましくは(最終)液体酵母組成物の0.5%w/w以下に保つこと、および/または著しい望ましくないpHの低下を防止することを考慮すると、成分の各々が別々に添加された場合に得られる特性に匹敵する特性を示す安定した液体酵母組成物が得られる。
実施例
【0078】
実施例では、以下の物質と方法とが使用された。
【0079】
典型的なイースト中種生地が、穀粉スラリーをイーストで数時間発酵させることで製造された。不溶解部分から液体上清が分離され、物理プロセスによって濃縮される。残留糖分レベルは0.5%以下である。
【0080】
あるいは、サワードウ製品が、図1に示す特別の穀粉抽出方法を用いて製造された。
【0081】
使用された(典型的な)パン改良剤の成分:
ビタミンC:アスコルビン酸
Bel’ase A75:カビ・アミラーゼ(BELDEM、ベルギー)
Bel’ase B210:キシラナーゼ菌(BELDEM、ベルギー)
Bel’ase XL1:ホスホリパーゼ(BELDEM、ベルギー)
【0082】
30%乾燥物質含有量の新鮮な圧縮イースト、または、最大25%乾燥物質含有量であって連続混合により懸濁状態に維持された液体イーストが使用された。
実施例1
【0083】
図1に示す方法に従って液体サワードウが製造された。第1のステップは、下記の加水分解プロトコルの後の穀粉(小麦、ライ麦、麦芽などまたはそれらの任意の組み合わせ)の糖化を含んでいた。
【0084】
加水分解プロトコル:通常の小麦だけでなくライ麦、麦芽、トウモロコシなどの穀粉などの他のタイプの穀粉またそれらの混合物である穀粉が水に添加され、穀粉スラリーが得られる。このスラリーの好ましい乾燥物質含有量は20〜50%で、より詳しくは30〜35%である。次いでスラリーは、好ましくは75〜95℃の温度に、より詳しくは約90℃±2%の温度に加熱され、pHが5.5±0.5に調整される。スラリーは常時混合されている。アミラーゼ、例えばThermamyl SC(登録商標)(Novozymes、DK)などが乾燥物質量の0.4〜0.5kg/トンの割合で添加される。その他のアミラーゼも使用できる。加水分解のプロセス中、温度は約90℃に維持され、Thermamyl SC(登録商標)の場合、反応時間は約90分であった。反応時間は使用する基質と酵素とに依存する。それに応じて上記プロトコルを適合させる方法は当業者に知られている。
【0085】
この加水分解ステップの後で、温度が下げられ、pHが調整され、デキストリニゼーションが起こり、オリゴデキストリンを発酵性糖類に分解する第2の酵素が添加される。この場合、dextrozyme GA(0.8kg/T乾燥物質)(Novozymes,DK)が温度約60℃、pH約4.3で使用された。この第2の加水分解は22時間実行された。基質と酵素とに応じて、これらの条件は当業者によって合わせられる。
【0086】
加水分解および加水分解酵素の失活のステップの後に、以下の酸性化ステップが実行された。
【0087】
酸性化ステップ:穀粉の糖化後に、乳酸菌が添加される。発酵前にスラリーが水で希釈される。この実施例では、約10%の糖類含有量が得られるようにスラリーが希釈された。このスラリーは、乾燥物質が10E+7/gの割合で乳酸菌(Lactobacillus plantarum sp)を接種される。酸性化は、約24時間の間、約35℃で実行される。これらの発酵条件は使用する菌株と目標の風味プロファイルに従って適合させることができる。発酵温度を下げると一般により多くの酢酸が生成され、一方、温度を上げるとより多くの乳酸が生成される。
【0088】
酸性化ステップ後に残留糖類を発酵させるために、イーストが添加される。このイーストは糖分を0.5%w/w以下の値にまで消費し、その後の混合物の安定性を確保する。
【0089】
このステップ後に、製品は加熱されて不活性化され、この場合、約85℃で約30分間加熱されて得られる。
【0090】
上記の発酵製品に、標準の液体イーストがここで添加され得る。
【0091】
この第1の実施例で使用されるパン改良組成物の組成を以下の表1に示す。
【表1】

【0092】
使用された添加レベルは穀粉総重量の0.5%であった。
【0093】
次いで以下に記載されるレシピに従ってパンが焼かれた。この第1の実施例では、本発明の新規の酵母組成物を用いて調製されたパン(レシピ3)とすべての異なる成分が別々に添加されたパン(レシピ1および2)との比較がなされた。別々に添加された圧縮および液体イーストの使用の両方が比較された。表2はパン製造プロセスで使用された成分とその量の概要を示している。
【表2】

(1):パン改良組成物の組成が表1に示されている。
(2):本発明の液体酵母組成物の組成が以下の表3に示されている。
($):適用されたプロセス条件が以下の表4に示されている。
【表3】

【表4】

【0094】
使用前に1週間保存した液体酵母組成物でパンが調製された時に以下の観察が行われた(表5)。従来の成分を用いて、すなわち、別々に添加された各成分を用いて製造されたパン(レシピ1および2)との比較がなされた。評価/得点表作成は当該技術分野の技術者が行った。
【0095】
表6は、風味組成物、液体イーストおよび改良組成物を含む約4℃で4週間保存された液体酵母組成物で実行した試験の結果の概要である。4週間後、活性の低下なしに再び焼かれた。パン製造のための従来のレシピとの比較が再びなされた(レシピ1および2)。
【表5】

【表6】

【0096】
上記から、新規の液体酵母組成物は約4℃で4週間保存した後でさえ極めて安定しているといえる。生地およびパンの特性は別々に添加された配合物(レシピ1および2)と比較して変わらなかった。圧縮または液体イーストのいずれを使用しても、酵母組成物は安定していることが分かった。
実施例2
【0097】
第2の実施例では、2つの異なるレシピに従ってパンが製造された。一方のレシピでは各成分が別々に添加されて製造され(レシピ1)、他方のレシピでは新規の液体酵母組成物で製造された(レシピ2)(表7)。
【表7】

【0098】
パン改良系(1)の組成は、上記実施例1で記載されたものと同じである。
【0099】
レシピ(2)で使用された液体酵母組成物(3)の組成は以下の表8に示されている。
【表8】

【0100】
適用されたプロセス条件($)は表9にまとめられている。
【表9】

【0101】
パン製造レシピ2で使用された液体酵母組成物がそれぞれ1週間、4週間の保存の後に再び使用された。その結果はそれぞれ表10および11にまとめられている。
【表10】

【表11】

【0102】
この例もまた、中種抽出物、新鮮なイーストおよびパン改良組成物を含む本発明の液体酵母組成物が約4℃で約4週間安定していることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定した液体酵母組成物を製造するためのプロセスであって、
−少なくとも、少なくとも1つのサワードウまたは中種ベースの組成物を含む風味改良組成物;パン改良組成物;および活性イーストを液体処方中に混合するステップ、および
−安定した液体酵母組成物を得るために、前記液体酵母組成物の残留糖分レベルを前記液体組成物の0.5%w/w以下に保つことを確実にするステップを含む前記プロセス。
【請求項2】
得られた液体酵母組成物が、新鮮なイーストと同じガス発生力、通常のパン改良系の生地およびパン改良特性、およびサワードウ・プロセスおよび中種プロセスで達成可能な風味改良特性を有する請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
混合される前記風味改良組成物が、サワードウ;サワードウ製品;中種;中種製品;サワードウ、サワードウ製品、中種または中種製品の上清;香料、酸、および/または酸性化剤の配合物のうちの少なくとも1つを含む前記請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項4】
混合される風味改良組成物が、穀粉ベースの改良組成物である前記請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記液体酵母組成物の残留糖分レベルが、発酵ステップに先立って前記風味改良組成物に含まれる穀粉を加水分解することにより、0.5%w/w以下に保たれて、スターチから発酵性糖類を遊離させ、これらの遊離した糖類が微生物発酵ステップによって除かれる請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
アミラーゼなどの加水分解酵素が穀粉を加水分解するために使用される請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
微生物発酵が遊離した糖分をなくし、すべての必要な風味化合物を生成する請求項5または6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記残留糖分レベルが、液体サワードウの上清、サワードウ製品の上清、中種の上清または中種製品の上清のうちの少なくとも1つを含む風味改良組成物を混合することにより、0.5%w/w以下に保たれる請求項1から3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
混合される前記上清が濃縮上清である請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記残留糖分レベルが、中種ベースの風味改良組成物を混合することにより、0.5%w/w以下に保たれる請求項1から3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
穀粉が全く含まれていないならば、混合される中種ベースの風味改良組成物が、最大10%のアルコールを含むことができる請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記残留糖分レベルが、発酵性糖類を含まない風味改良組成物を混合することにより、0.5%w/w以下に保たれる前記請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記成分が香料、酸、酸性化剤の混合物のうちの少なくとも1つを含む請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
混合されるパン改良組成物が、化学添加物および/または酵素を含む前記請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
混合される前記化学添加物が、アスコルビン酸、システイン、グルタチオンなどの酸化剤/還元剤、イースト抽出物、加水分解グルテン、DATEM、SSL、CSL、GMSなどの乳化剤、胆汁酸塩、脂質およびそれらの任意の混合物からなるグループから選択される請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
混合される前記酵素が、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、オキシダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼおよびそれらの任意の混合物からなるグループから選択される請求項14に記載のプロセス。
【請求項17】
新鮮なイーストが混合される前記請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記混合されるイーストが、約30%の乾燥物質を含む圧縮イーストの形態で使用され、および/または好ましくは、25%以下の乾燥物質を含む液体イーストの形態で使用される請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記液体酵母組成物が、親水コロイドまたはガム、好ましくはキサンタンガムを含有する溶液を液体酵母組成物に混合することにより、および/または前記液体酵母組成物を連続して混合することにより、さらに安定化して、デカンテーションを防止する前記請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記液体酵母組成物が、最終製品に1%レベルのデキストランなどのエキソポリサッカライドを使用することによりさらに安定化して、それによりデカンテーションを防止する請求項1から18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】
さらに3.5以下、好ましくは4.0以下へのpHの低下が防止される前記請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
風味改良組成物に緩衝系を添加し、pHを調整し、および/または特定の乳酸菌株を選択することにより前記pHの低下が防止される請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記請求項のいずれか1項に記載の方法によって得られる液体酵母組成物。
【請求項24】
約4℃でより長期間、好ましくは少なくとも1週間、最も好ましくは少なくとも約4週間保存された時に安定状態にある請求項23に記載の製品。
【請求項25】
パン、ピザまたはスナックなどのベーカリー製品の調製プロセスにおける請求項23または24に記載の液体酵母組成物の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2007−515173(P2007−515173A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545852(P2006−545852)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/BE2004/000181
【国際公開番号】WO2005/060757
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(505090469)
【Fターム(参考)】