説明

液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置および液体金属へのカバーガス巻き込み抑制方法

【課題】ガスの巻き込みを抑制する。自由液面付近に温度成層を生じさせることがなく、また配管から離れた位置にも配置可能にする。
【解決手段】カバーガス1で覆われた液体金属2の自由液面3に生じた流れの中に、流れが垂直に横切る方向の磁場5を発生させる磁石6を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置および液体金属へのカバーガス巻き込み抑制方法に関する。さらに詳述すると、本発明は液体金属の自由液面に生じている流れによってガスが液体金属内に巻き込まれるのを抑制する液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置および液体金属へのカバーガス巻き込み抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、高速炉の原子炉容器内では液体金属冷却材である液体ナトリウムは自由液面を持ち、カバーガスとしてアルゴンガスが用いられている。図13に示すように液体ナトリウム101の自由液面102が波立った場合や、図14に示すように液体ナトリウム101の自由液面102に液中渦103が生じた場合、カバーガス104は液体ナトリウム101中に巻き込まれて配管105内に吸い込まれる。この液体ナトリウム流中のカバーガス104は図示しない中間熱交換器を経て、再び原子炉容器106に戻ってきて炉心を通過するが、その際、炉心の反応度に擾乱を与えることになるので、カバーガス104の液体ナトリウム101中への巻き込みを防止する必要がある。このため、従来、原子炉容器106中の液体ナトリウム101の自由液面102近傍に多孔板やスプリッターを設けてカバーガス104の巻き込みを回避することが考えられている。
【0003】
図15に多孔板107を示す。多孔板107は自由液面102に液体ナトリウム101の流れが発生するのを防止するためのもので、液体ナトリウム101中の自由液面102近傍に当該自由液面102と平行になるように配置されている。多孔板107を自由液面102の近傍に沈めることで、自由液面102の波立ちや液中渦103の発生を抑制してカバーガス104の巻き込みを抑制する。
【0004】
図16にスプリッターの一例としてスプリッター108を示す。スプリッター108は配管105の周囲の自由液面102から液中渦103が発生するのを防止するためのもので、配管105と炉壁106aとの間を垂直に仕切るように設けられている。配管105と炉壁106aとの間にスプリッター108を設けることで、配管105の周囲の自由液面102から液中渦103が発生するのを防いでカバーガス104の巻き込みを防止する。
【非特許文献1】文部科学省 原子力分野の研究開発に関する委員会 原子力研究開発作業部会(第10回)配付資料 資料10−1 論点 炉システムの革新技術の課題と対応策 分割版(1)第5頁(ディッププレート),第6頁(スプリッタ) 平成18年6月14日、[平成19年5月15日検索]、インターネット〈URL:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/shiryo/015/06070313/001.pdf〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の多孔板107は自由液面102近傍の液体ナトリウム101の流れを強く妨げるので、高温の液体ナトリウム101が自由液面102近傍に成層化し、その温度分布によって原子炉容器106の炉壁106aに熱応力が生じる虞がある。また、上述のスプリッター108に見られるように、一般にスプリッターは炉壁106aや配管105などに固定するか、あるいは支持機構を設けて設置しなければならないため、配管105から離れた位置に生じる液中渦103に対応できないとの問題がある。
【0006】
本発明は、自由液面付近に温度成層を生じさせることがなく、また配管から離れた位置にも配置可能な液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置および液体金属へのカバーガス巻き込み抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために請求項1記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置は、カバーガスで覆われた液体金属の自由液面に生じた流れの中に、流れに対して垂直に横切る方向の磁場を発生させる磁石を備えるものである。したがって、液体金属の流れと磁石によって作られた磁場とからフレミングの右手の法則によって液体金属の流れ中に誘導電流が生じ、その誘導電流と磁場とからフレミングの左手の法則によって液体金属の流れ中に電磁力が発生する。この電磁力の向きは液体金属の流れの向きに対して逆向きであり、液体金属の流れを抑制する。即ち、液体金属の流れの中に磁場を作ることで、その磁場を横切る液体金属の流れを利用して当該流れを打ち消す方向の電磁力を発生させることができる。
【0008】
また、請求項2記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置は、液体金属中の自由液面近傍に自由液面と平行になるように配置され、複数の貫通孔が設けられた補助板を備えるものである。したがって、液体金属の流れの向きと逆向きの電磁力によって抑制された流れを、更に抑制することができる。
【0009】
また、請求項3記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置のように、磁石を永久磁石としても良い。
【0010】
さらに、請求項4記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制方法は、カバーガスで覆われた液体金属の自由液面に生じる流れの中に、流れに対して垂直に横切る方向の磁場を発生させて流れを打ち消す方向に電磁力を発生させるものである。
【0011】
したがって、液体金属の流れとその流れ中に発生させた磁場とからフレミングの右手の法則によって誘導電流が生じ、その電流と磁場とからフレミングの左手の法則によって電磁力が発生する。この電磁力の向きは液体金属の流れの向きに対して逆向きであり、液体金属の流れを抑制してガスの巻き込みを抑制する。即ち、液体金属の流れの中に磁場を作ることで、その磁場を横切る液体金属の流れを利用して当該流れを打ち消す方向の電磁力を発生させることができる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置では、カバーガスで覆われた液体金属の自由液面に生じた流れの中に、流れが垂直に横切る方向の磁場を発生させる磁石を備えているので、液体金属の流れの中にこれを抑制する電磁力を発生させることができる。このため、液体金属の流れを緩慢にしてガスの巻き込みを抑制することができる。また、液体金属の緩慢な流れは残るので、例えば高温の液体金属が自由液面近傍に成層化するのを防止することができる。さらに、図16のスプリッター108のように設置場所が極端に限定されるといった欠点がなく、設置場所の自由度を大幅に向上させることができる。
【0013】
また、請求項2記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置では、液体金属中の自由液面近傍に自由液面と平行になるように配置され、複数の貫通孔が設けられた補助板を備えているので、液体金属の流れの向きと逆向きの電磁力によって抑制された流れを、更に抑制することができる。このため、たとえ自由液面の流れが激しい場合等であってもガスの巻き込みをより一層確実に抑制することができる。
【0014】
また、請求項3記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置のように、磁石を永久磁石としても良い。この場合には、磁場を形成するための特別の電源を不要にできる。
【0015】
また、請求項4記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制方法では、カバーガスで覆われた液体金属の自由液面に生じる流れの中に磁場を発生させて流れを打ち消す方向に電磁力を発生させるようにしているので、液体金属の流れを緩慢にしてガスの巻き込みを抑制することができる。また、液体金属の緩慢な流れは残るので、例えば高温の液体金属が自由液面近傍に成層化するのを防止することができる。さらに、図16のスプリッター108のように設置場所が極端に限定されるといった欠点がなく、設置場所の自由度を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。本発明は、液体金属2の自由液面3に生じている流れ4の中に、当該流れ4に対して垂直な方向の直流の磁場(時間的に一定の磁場)5を与えることで、当該流れ4を打ち消す方向の電磁力17を発生させて当該流れ4を抑制するものである。また、磁場5の磁力線の方向を異なるものにすることで、抑制できる流れ4の向きを異なるものにすることも可能である。
【0017】
図1〜図4に、本発明の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置の第1の実施形態を示す。液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置は、カバーガス1で覆われた液体金属2の自由液面3に生じた流れ4の中に、流れ4に対して垂直に横切る方向の磁場5を発生させる磁石6を備えるものである。また、本発明の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制方法は、カバーガス1で覆われた液体金属2の自由液面3に生じる流れ4の中に、流れ4が垂直に横切る方向の磁場5を発生させて流れ4を打ち消す方向に電磁力17を発生させるものである。本実施形態では、例えば高速炉の原子炉容器7内に設置するガス巻き込み抑制装置・抑制方法を例に説明する。
【0018】
本実施形態のカバーガス1は、例えばアルゴンガス等である。また、液体金属2は、例えば液体ナトリウム等の液体金属冷却材(以下、液体金属冷却材2という)である。図示しない中間熱交換器を通り抜けて低温になった液体金属冷却材2は流入配管8からコールドプレナム9内に流入し、炉心10を冷却して高温になってホットプレナム11内に流入し、排出配管12から原子炉容器7の外へと導かれて中間熱交換器へと循環される。原子炉容器7内の液体金属冷却材2の上方空間にはカバーガス1が封入されており、液体金属冷却材2の自由液面3の上下変動を可能にしている。
【0019】
磁石6は流れ4の中に当該流れ4に対して垂直に横切る方向の直流の磁場5を発生させるものであり、本実施形態では例えば永久磁石である。磁石6の材料としては、必要な磁束密度を得ることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えばサマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石、アルニコ磁石等の使用が考えられる。磁石6の磁束密度は、例えば液体金属冷却材2の自由液面3の流れ4を抑制するのに十分な強さの電磁力17を発生させることができる程度のものであれば良い。本実施形態では、磁石6の磁束密度は、例えば0.1Tである。ただし実際には、自由液面3に生じる流れ4は設置対象となる原子炉容器7毎に異なるので、各原子炉容器7毎に磁石6の磁束密度を適宜決定する。即ち、原子炉容器7の形状や大きさ、液体金属冷却材2の流量や流速や深さ、排出配管12の配置、炉心10や上部構造物13の配置等によってホットプレナム11内に生じる液体金属冷却材2の流れが異なり、その自由液面3の流れ4も異なるので、その流れ4に応じて磁束密度を適宜決定する。磁石6として永久磁石を使用することで、磁場5を形成するための特別の電源を不要にできる。このため、電源故障に起因してカバーガスの巻き込み抑制が不能になるのを防止できると共に、装置の大型化やコストの増大を抑えることができる。
【0020】
磁石6は、例えば有底の円筒形状の容器14内に収容されてルーフデッキ15に取り付けられて吊り下げられている。本実施形態では、図3に示すように、磁極N,Sを上下に配置した複数の磁石6を上下に並べて容器14内に収容している。上下に隣り合う磁石6はN極とS極とを対向させており、全体として最上段の磁石6の上面から容器14の外に飛び出して最下段の磁石6の底面に進入する磁力線の磁場5を発生させる(図2)。ただし、このように液体金属冷却材2中において上から下に向かう磁力線の磁場5に限るものではなく、逆に下から上に向かう磁力線の磁場5を発生させるようにしても良い。各磁石6は容器14の底部に収容されており、容器14の磁石6を収容している部分は液体金属2の中に浸されている。容器14は、磁力線を通し、高温の液体金属冷却材2に接しても溶解しない材料、例えばステンレス鋼SUS304製である。だだし、容器14の材料はSUS304に限るものではなく、例えばSUS316等でも良い。なお、容器14の材料として断熱機能を有する材料を使用することで、磁石6が高温に成り過ぎるのを防止することができ、たとえ液体金属冷却材2の温度が磁石6のキュリー点を超えているような場合であっても、磁石6の温度がキュリー点を超えてしまうのを防止でき、磁場5の形成が困難になるのを防止することができる。
【0021】
磁石6は、例えば液体金属冷却材2の自由液面3に流れ4が生じる場所に設置される。実際には、自由液面3に生じる流れ4は設置対象となる原子炉容器7毎に異なるので、各原子炉容器7毎に磁石6の配置,数,形状,大きさを決定する。即ち、原子炉容器7の形状や大きさ、液体金属冷却材2の流量や流速や深さ、排出配管12の配置、炉心10や上部構造物13の配置等によってホットプレナム11内に生じる液体金属冷却材2の流れが異なり、その自由液面3の流れ4の発生の仕方も異なるので、自由液面3に流れ4が生じる場所に適切な形状,大きさ,数の磁石6を設置する。磁石6の設置場所は、1箇所の場合も考えられるが、多くは複数箇所になると考えられる。また、複数箇所に磁石6を設置する場合には、全ての設置箇所について磁石6の磁束密度,形状,大きさ,数を同一にしても良く、各設置箇所毎に磁石6の磁束密度,形状,大きさ,数を変化させても良く、一部の設置箇所についてのみ磁石6の磁束密度,形状,大きさ,数を変化させても良い。磁石6の磁束密度を変化させる場合には、設置場所の流れ4の強さに応じた磁束密度にすることができる。
【0022】
ここで、液体金属冷却材2の自由液面3の流れ4には、自由液面3の波立ちや液中渦の発生に伴う流れも含まれる。
【0023】
配管12の近傍は液中渦が発生し易い場所であることから、配管12の近傍に磁石6を設置することが好ましい。また、自由液面3全体に波立ちが生じることから、配管8,12や上部構造物13を避けた位置全体について磁石6を等間隔で複数箇所に設置することも考えられる。
【0024】
本発明は、液体金属冷却材2の自由液面3に生じている流れ4の中に直流の磁場5を作ることで、その磁場5を横切る液体金属冷却材2の流れ4を利用して当該流れ4を打ち消す方向の電磁力17を発生させて当該流れ4を抑制するものである。図4に示すように、流れ4が生じている液体金属冷却材2の自由液面3に流れ4が垂直に横切る方向の磁場5を磁石6によって形成すると、液体金属冷却材2の流れ4と磁石6の磁場5とからフレミングの右手の法則によって液体金属冷却材2の流れ4の中に誘導電流18が生じる。そして、その誘導電流18と磁石6の磁場5とからフレミングの左手の法則によって液体金属冷却材2の流れ4中に電磁力17が発生する。この電磁力17の向きは液体金属冷却材2の流れ4の向きと逆向きであり、液体金属冷却材2の流れ4を抑制する。このため、液体金属2の流れ4が緩慢になり、波立ちや液中渦の発生を抑えてカバーガス1の巻き込みを抑制することができる。
【0025】
本実施形態では、磁石6が作る磁場5は上から下に向かうものであるので、磁場5を垂直に横切る液体金属冷却材2の流れ4は水平方向の流れ4であり、この水平方向の流れ4によって上述の誘導電流18が生じ、その流れ4と逆向きの水平方向の電磁力17が発生する。例えば、波立ちや液中渦等、カバーガス1を巻き込む自由液面3の流れは水平方向に流れるものに限らないが、水平方向の流れ4を抑制することでこれに連続する他の向きの流れも抑制することができ、波立ちや液中渦等も良好に抑制することができる。
【0026】
また、磁石6によって液体金属冷却材2の自由液面3の流れ4を抑制しても、液体金属冷却材2の緩慢な流れは残るので、例えば高温の液体金属冷却材2が自由液面3近傍に成層化するのを防止することができる。即ち、流れ4×磁場5で起電力(電流18)が生じるので(フレミングの右手の法則)、流れ4が止まると電流18×磁場5で表される電磁力17(フレミングの左手の法則)はゼロになる。したがって、流れ4が抑制された状態で、流体の慣性力と電磁力17が釣り合うことになり、緩慢な流れが残ることになる。例えば、流速が1m/sec以下の緩慢な流れが残る。緩慢な流れ4が残ることで高温の液体金属冷却材2が自由液面3近傍に成層化するのを防止することができるので、原子炉容器7の周壁7aが部分的に高温になって熱応力が発生するのを防止することができる。
【0027】
また、磁石6は容器14内に収容されてルーフデッキ15に取り付けられているので、上部構造物13や配管8,12の無い自由液面3に設置することができる。このため、原子炉容器7の周壁7aや配管8,12から離れた位置にも設置でき、設置場所の自由度を向上させることができる。
【0028】
図5に、本発明の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置の第2の実施形態を示す。なお、第1の実施形態と同一の部材には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。自由液面3の流れ4を電磁力17だけでは十分に抑制できない場合や、より一層強く流れ4を抑制したい場合等には、補助板19を補助的に使用することが好ましい。図5の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置は、液体金属冷却材2中の自由液面3近傍に自由液面3と平行になるように配置され、複数の貫通孔19aが設けられた補助板19を備えている。補助板19は、例えばステンレス鋼SUS304製の板材である。ただし、補助板19の材料はSUS304に限るものではなく、例えばSUS316等でも良い。即ち、高速炉に適用する場合、液体金属冷却材2中での耐用性(耐腐食性)があるステンレス鋼であれば使用可能である。補助板19は、例えば磁石6の容器14よりも50cm下の高さに配置されている。ただし、この高さに限るものではなく、例えば、1m程度でも良い。即ち、自由液面から例えば1〜2m位の高さに配置されている。また、補助板19には、配管8,12や上部構造物13との干渉を回避する孔が設けられている。当該孔の形状や大きさは配管8,12や上部構造物13の横断面形状やその大きさとほぼ同じであり、補助板19と配管8,12,上部構造物13との間の隙間から液中渦や波立ちが生じるのを防止している。補助板19は、例えばルーフデッキ15から吊り下げられている。なお、補助板19には板形状の部材の他、2次元的に広がりその一側の空間と他側の空間とを連通させる孔,切り欠き,スリット類が設けられた板状の部材例えば網、すのこ等も含まれる。
【0029】
補助板19は、液体金属冷却材2の流れ4がかなり速い流速(例えば2m/s以上)になる場合に使用することが好ましく、補助板19の使用によって液体金属冷却材2の流れ4を例えば2m/s以下に抑制する。貫通孔19aの直径は例えば50mm程度である。また、各貫通孔19aは、例えば四角形状あるいは三角形状に並べるように配置されている。ただし、これら以外の配置でも良い。各貫通孔19aの配列ピッチと貫通孔19aの直径の比は例えば2程度である。ただし、2程度に限るものではない。また、補助板19の厚さは例えば20mm程度である。ただし、20mm程度以外であっても良い。なお、貫通孔19aが設けられる密度は補助板19の全ての部分で均一であっても良いが、例えば流れ4が激しいところでは密度を小さくし、流れ4が緩やかなところでは密度を大きくする等、部分的に変化させても良い。
【0030】
補助板19によって液体金属冷却材2の自由液面3の波立ちや液中渦等の原因となる激しい流れは補助板19によって抑制される。したがって、電磁力17だけでは十分に抑制できない場合や、より一層強く流れ4を抑制したい場合等には、補助板19を補助的に使用することで更に抑制することができる。ただし、補助板19は液体金属の流れ4を強く妨げるものではなく、液体金属冷却材2が補助板19の貫通孔19aを通過して流れることを許容する。そのため、例えば高温の液体金属冷却材2が自由液面3近傍に成層化するという弊害の発生を防ぐことができる。
【0031】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0032】
例えば、上述の説明では、磁石6の磁極N,Sを上下に配置していたが、必ずしも上下に配置する必要はなく、流れ4の中にこれを垂直に横切る方向の磁場5を発生させることができるものであれば他の配置としても良い。例えば図6〜図8に示すように、磁石6の磁極N,Sを水平に配置し、流れ4の中にこれを垂直に横切る方向の磁場5を発生させるようにしても良い。この例では、複数の磁石6をそれらの磁極N,Sを揃えて上下に重ねて容器14内に収容しており、全体としてN極側の側面から容器14の外に飛び出して水平に旋回しS極側の側面に進入する方向の磁場5を発生させる。即ち、磁場5の方向は水平に旋回するものとなるので、液体金属冷却材2の水平方向の流れ4の他に上下方向の流れ4も磁場5の方向を垂直に横切る流れであり、これらによって誘導電流18が生じ、それぞれ逆向きの電磁力17が発生する。したがって、水平方向の流れ4と上下方向の流れ4を抑制することができ、自由液面3の波立ちや液中渦等を良好に抑制することができる。なお、図8においては、水平方向の流れ4を代表的に記載し、上下方向の流れ4についての記載を省略している。
【0033】
なお、磁場5の向きを図2に示すように上下方向(縦方向磁場型)とするか、図6に示すように水平方向(横方向磁場型)とするかは、各原子炉容器7毎に適宜決定する。即ち、適用する原子炉容器7の形状や大きさ、液体金属冷却材2の流量や流速や深さ、排出配管12の配置、炉心10や上部構造物13の配置等に応じて縦方向磁場型とするか横方向磁場型とするかを決定する。
【0034】
また、上述の説明では、磁石6は永久磁石であったが、流れ4の中にこれを垂直に横切る方向の磁場5を発生させることができるものであれば必ずしも永久磁石6に限るものではなく、例えば直流の磁場5を発生させる電磁石であっても良い。図9に磁石6として上下方向の磁場5を発生させる電磁石を採用した場合の例を、図10に磁石6として水平方向の磁場5を発生させる電磁石を採用した場合の例をそれぞれ示す。磁石6として電磁石を使用する場合には電源が必要となるが、永久磁石の場合と同様に液体金属冷却材2の流れ4を抑制する電磁力17を発生させることができる。
【0035】
また、上述の説明では、容器14の磁石6を収容している部分(以下、磁石部分という)を液体金属冷却材2の中に配置していたが、縦方向磁場型の場合、必ずしも磁石部分を液体金属冷却材2の中に配置しなくても良い。例えば図11に示すように、液体金属冷却材2の流れ4の中に磁場5を作ることができるのであれば、磁石部分を液体金属冷却材2の自由液面3の上に浮かせた状態で配置しても良い。さらに、自由液面3の変動にともなって磁石部分が液体金属冷却材2の中に没したり、その上に浮上したりしても良い。
【0036】
また、上述の説明では、高速炉の原子炉容器7に適用した場合を例にしていたが、適用できるものはこれに限るものではなく、カバーガス1で覆われた自由液面3に流れ4が生じている液体金属であれば適用可能である。例えば図12に示すように、液体金属冷却材2の自由液面3を有する中間熱交換器20についても適用可能である。即ち、中間熱交換器20内においても液体金属である液体金属冷却材2が貯められており、その自由液面3がカバーガス1で覆われる場合には、原子炉容器7の場合と同様の効果が得られる。また、例えばアルミニウム等の金属の精錬における溶湯の自由液面3に適用しても良い。この場合にも、自由液面3を覆う空気やカバーガスが溶湯内に巻き込まれるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】同装置の磁石を示す概念図である。
【図3】同装置の磁石を示し、(A)はその横断面図、(B)はその縦断面図である。
【図4】同装置によって電磁力が発生する原理を説明するための図である。
【図5】本発明の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図6】磁石の第1の変形例を示す概念図である。
【図7】同磁石を示し、(A)はその横断面図、(B)はその縦断面図である。
【図8】同磁石によって電磁力が発生する原理を説明するための図である。
【図9】磁石の第2の変形例を概念的に示し、その側面図である。
【図10】磁石の第3の変形例を概念的に示し、その平面図である。
【図11】磁石の第4の変形例を概念的に示し、その側面図である。
【図12】本発明の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図13】液体金属冷却材の自由液面が波立つことで、カバーガスが液体金属冷却材に巻き込まれる様子を説明するための図である。
【図14】液体金属冷却材の自由液面に液中渦が発生することで、カバーガスが液体金属冷却材に巻き込まれる様子を説明するための図である。
【図15】従来の多孔板を示し、(A)はその平面図、(B)は原子炉容器に設置された状態の縦断面図である。
【図16】従来のスプリッターを原子炉容器に設置した様子を示し、(A)はその平面図、(B)はその側面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 カバーガス(ガス)
2 液体金属冷却材
3 自由液面
4 流れ
5 磁場
6 磁石
17 電磁力
19 補助板
19a 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバーガスで覆われた液体金属の自由液面に生じた流れの中に前記流れに対して垂直に横切る方向の磁場を発生させる磁石を備えることを特徴とする液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置。
【請求項2】
前記液体金属中の前記自由液面近傍に前記自由液面と平行になるように配置され、複数の貫通孔が設けられた補助板を備えることを特徴とする請求項1記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置。
【請求項3】
前記磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体金属へのカバーガス巻き込み抑制装置。
【請求項4】
カバーガスで覆われた液体金属の自由液面に生じる流れの中に前記流れに対して垂直に横切る方向の磁場を発生させて前記流れを打ち消す方向に電磁力を発生させることを特徴とする液体金属へのカバーガス巻き込み抑制方法。

【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−298483(P2008−298483A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142496(P2007−142496)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)