説明

液冷ヒートシンク

【課題】 ヒートシンク本体をろう付けする際に起こる、荷重によるヒートシンク平坦部周縁の変形を防止すること。
【解決手段】 小フランジ5と立上げ部3を有する皿状に形成されたプレート1、2が向かい合わせて重ね合わされ、その内部にインナーフィン7が配置され、それらの間が液密にろう付けされてなる液冷ヒートシンクに関し、立上げ部3が底部4から開口部に向けて拡開する方向に傾斜される傾斜部3aからなり、両プレート間に厚み方向に外力が加えられた際に、小フランジ5が周縁方向外方に僅かに移動するように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電力用半導体等を取付けて冷却する液冷ヒートシンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液冷ヒートシンク本体8は、図9に示すごとく、一対のプレート1、2をプレス成形によって、底部4の外周に立上げ部3を有する皿状に形成し、その立上げ部周縁に小フランジ5を設け、互いの小フランジ5を介して重ねられる。そして、その内部に偏平な冷却液流通路6が形成されるとともに、その冷却液流通路6中に各種のインナーフィン7が介装される。
一例としてインナーフィン7は、波形に曲折され、その波に沿って冷却液が流通する。それぞれの流通方向両端部には一対のマニホールド部が形成され、それぞれのマニホールド部の長手方向に、図10の如く、一対の冷却液出入口が設けられている。そして、その冷却液出入口に冷却液出入口パイプ9が挿通され、これらの部材間を一体にろう付けしてヒートシンクが完成する。
被冷却体10は、図10に示す如く、このヒートシンク本体8外周の平坦な載置面14に伝熱性のグリス等で接触固定される。そして、ヒートシンク本体8の冷却液流通路6に冷却液13を流入させ、被冷却体10と冷却液13の間で熱交換を行なわせるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述のようなヒートシンクをろう付けする際、図9に示すごとく、ヒートシンク本体8が治具によって垂直方向から押圧された状態で行なわれる。
このような状態で、ろう付けすると、ろう材の溶出により、そのろう材の厚み分、部品間(特にプレート1、2の底部4およびインナーフィン7の垂直方向の間)に隙間が発生し、底部4がインナーフィン7側に向かって移動する。しかしながら、プレート1、2の立上げ部3は、底部4に対して垂直に形成されているため、その立上げ部3は底部4の幅方向中心位置よりも剛性が高い。その結果、ヒートシンク本体8の底部4は、立上げ部3周縁部を残して、インナーフィン7側に凹陥する異常変形を起こしていた。
【0004】
そのため、図11のごとく、載置面14に被冷却体10を設置する時、それらの間に隙間12が発生し、互いの接触面を一様に接触することができず、そこに介装されるグリスの厚みが厚くなり、熱交換効率を悪化させていた。特に、被冷却体10の幅方向の大きさが、ヒートシンク本体8の幅方向と同程度であると熱交換の効率は極端に下がる。
そこで、本発明は係る問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は 一対のプレート(1)(2)のうち、少なくとも一方のプレートがその底部(4)に立上げ部(3)を有する皿状に形成され、その立上げ部(3)の周縁に小フランジ(5)が設けられて、両プレート(1)(2)が小フランジ(5)を介して互いに重ね合わされ、
その内部に偏平な冷却液流通路(6)が形成されるとともに、その流通路(6)中にインナーフィン(7)が配置され、
両プレート(1)(2)およびインナーフィン(7)間を液密にろう付けしてヒートシンク本体(8)が構成され、
その本体(8)外周に一対の冷却液出入口パイプ(9)が設けられるとともに、本体(8)外周の載置面(14)に被冷却体(10)が接触固定され、前記被冷却体(10)と冷却液の間に熱交換がなされる液冷ヒートシンクにおいて、
前記立上げ部(3)が、底部(4)から開口部に向けて拡開する方向に傾斜される傾斜部(3a)からなり、
前記両プレート(1)(2)間に厚み方向の外力を加えてろう付けするとき、
その外力により前記小フランジ(5)が周縁方向外方に移動し、両プレート(1)(2)の底部(4)とインナーフィン(7)間が密着するように構成されたことを特徴とする液冷ヒートシンクである。
【0006】
請求項2に記載の本発明は、請求項1の構成において、
前記傾斜部(3a)が横断面折れ線状に、少なくとも1回傾斜角度を変更する変更点(3d)を介して形成され、
前記プレート(1)(2)の小フランジ(5)に近いほど傾斜が急に、底部(4)に近いほど傾斜が緩やかに形成されたことを特徴とする液冷ヒートシンクである。
請求項3に記載の本発明は、請求項1の構成において、
前記傾斜部(3a)の両端部が、滑らかな曲部で形成されることを特徴とする液冷ヒートシンクである。
【0007】
請求項4に記載の本発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の液冷ヒートシンクにおいて、
前記インナーフィン(7)は、並列された多数の縦リブ(7b)と、その各縦リブ(7b)間を連結する横リブ(7c)が面一に形成された網目状のフィン要素(7a)を有し、隣接する横リブ(7c)の位置が異なる複数の前記フィン要素(7a)が、縦リブ(7b)どうしは整合し、横リブ(7c)は位置ずれして積層されることを特徴とする液冷ヒートシンクである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液冷ヒートシンクは、一対のプレート1、2の立上げ部3が、底部4から開口部に向けて拡開する方向に傾斜する傾斜部3aを有し、ろう付けの際に、厚み方向の荷重によって小フランジ5が周縁方向外方に僅かに移動するように構成している。
このような構成により、立上げ部3が底部4に対して垂直状態にある場合に比べて、底部4周縁部の剛性が低下する。即ち、加えられた外力は傾斜部3aを通して小フランジ5の方向に移動するため、底部4と傾斜部3aとの付根が自在に上下動でき、底部4中心部の動きに追従することができる。そのため、載置面14をその周縁部まで平坦に維持し、底部4と立上げ部3との境界近傍に異常変形を起こさずに、被冷却体10と載置面14とが一様に接触され、熱交換効率の低下が起こらないヒートシンクを提供することができる。
【0009】
上記構成において、請求項2のように、前記傾斜部3aが横断面折れ線状に、少なくとも1回傾斜角度を変更する変更点3dを介して形成され、その変更点3dから見て底部4側の傾斜を緩やかにし、小フランジ5側の傾斜を急に形成した場合、効率よく外力を小フランジ5の方向に移動させることができる。
上記構成において、請求項3のように、傾斜部3aの両端部が滑らかな曲部で形成される場合には、効率よく外力を小フランジ5の方向に移動させることができる。
上記構成において、請求項4のように、インナーフィン7として、並列された多数の縦リブと、その各縦リブ間を連結する横リブとが面一に形成された網目状フィン要素を有し、隣接する横リブの位置が異なる複数の前記フィン要素が積層された場合には、ヒートシンクの厚み方向の精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施例の液冷ヒートシンクの載置面14に被冷却体10を載置した状態を示す横断面図。
【図2】同ヒートシンクのろう付け時の作用を示す説明図。
【図3】第1実施例の他の例を示す横断面図。
【図4】本発明の第2実施例を示す横断面図。
【図5】本発明の第3実施例の液冷ヒートシンクを示す横断面図。
【図6】本発明の第4実施例の液冷ヒートシンクを示す分解斜視図。
【図7】同内部平面図。
【図8】同横断面図。
【図9】従来型液冷ヒートシンクをろう付け後の被冷却体の載置面14の異常変形を示す図。
【図10】従来型液冷ヒートシンクに被冷却体10を載置面14に取付けた状態を示す要部斜視図。
【図11】図10のXI-XI矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の第1実施例を示す横断面図である。
本発明のヒートシンク本体8は、一対のプレート1、2がプレス成形により、その周縁の立上げ部3と底部4とで皿状に形成し、その立上げ部3の周縁に小フランジ5を設け、それらの小フランジ5どうしが向き合うように、重ねられる。そして、その内部に偏平な冷却液流通路6が形成され、その流通路6中にインナーフィン7が介装される。
【0012】
このインナーフィン7は薄い帯状金属板を波形に曲折したものであり、その各波の間を冷却液が流通するようになっている。そして、その冷却液流通方向両端部には一対のマニホールド部が形成されており、それぞれのマニホールド部の長手方向端部の側面には、図示しないが、冷却液出入口パイプの外径に整合する一対の冷却液出入口が設けられ、そこに冷却液出入口パイプが挿通される。なお、互いに接触する部品の一方には予め、ろう材が被覆または塗布されている。
このように組立てられたヒートシンク本体8は、高温の炉内で一体にろう付けされる。このとき、ヒートシンク本体8は、治具により各プレート1、2の厚み方向に荷重をかけられながらろう付けされる。
【0013】
(第1実施例)
本発明は、各プレート1、2の立上げ部3に特徴部分がある。
図1に示すごとく、立上げ部3は、夫々のプレート1、2の底部4から開口端に向けて拡開する方向に傾斜する傾斜部3aにより構成される。
その傾斜部3aには、傾斜角度を変更する変更点3dが設けられている。その変更点3dと底部4を連設する第1傾斜部3bは、傾斜角度が比較的緩やかに形成されているとともに、変更点3dと小フランジ5を連設する第2傾斜部3cは、傾斜角度が急に形成されている。
【0014】
このように立上げ部3を形成することで、立上げ部3の剛性は、底部4に対してそれが垂直に形成されているときよりも低下し、ろう付け時に底部4に受ける荷重で、立ち上部3が幅方向へ伸びるように力を吸収する。即ち、図2に示す如く、傾斜部3aが存在することによって、ヒートシンク本体8の周縁部が実線の位置から鎖線の位置へと、外側に広がるため、底部をその周縁部まで含めて平坦に維持できる。
【0015】
図2(A)は、ろう付け時にヒートシンク本体8に垂直方向の圧力をかけたときの力の移動方向を示している説明図であって、(B)は図2(A)の幅方向端部のB部拡大図である。
図2のごとく、ろう付け時にヒートシンク本体8に図において垂直方向(プレートの厚み方向)の圧力をかけると、ヒートシンク本体8を圧縮する力はプレートの底部4から、第1傾斜部3b、第2傾斜部3cを通じて、小フランジ5へと伝わり、小フランジ5は周縁方向外方に鎖線の如く、僅かに移動する。このため、立上げ部3と底部4の付根が、プレートの底部4の移動に追従することができる。そして、底部4が歪みのない状態で、プレート内面はインナーフィン7の上下両端に密着し、液密にろう付けされる。
【0016】
このようにすることで、被冷却体10をヒートシンクに載置する時、被冷却体10と載置面14とが一様に接触されるため、熱交換性能の低下が起こらないヒートシンクを提供することができる。
【0017】
上記の構成に替えて、図3のごとく、一方のプレートを加工しない平坦なプレート2としてヒートシンク本体8を構成することもでき、また、図4のように、傾斜角度の変更点3dを省いて一定角度の傾斜面でプレートの底部4と小フランジ5をつなげることもできる。
【0018】
(他の実施例)
図5は本発明の他の実施例を示し、これが第1実施例と異なるところは、傾斜部3aの両端部が滑らかな曲部で形成されており、傾斜部3aとプレートの底部4とが第1曲部Rで、傾斜部3aと小フランジ5とが第2曲部Rとでつなげられている点である。開口下端縁から載置面14までの高さをhとしたとき、その高さhは、RとRの半径長さの和より小さくなるように形成されている。
これは、立上げ部3の断面が滑らかなS字状を形成していることを意味し、プレートの底部4と小フランジ5とがS字状立上げ部3によって連設されている。
立上げ部3をこのように形成することにより、第1実施例と同様に、受けた外力を効率的に外方へ移動させることができる。それにより、底部4の周縁に歪みを起こすことなくろう付けできる。
【0019】
上記4つの実施例において、幅方向断面について、立上げ部3の構造について説明してきたが、これは長手方向両端の立上げ部3についても同じ構造がとられていることは言うまでもない。即ち、ヒートシンク本体8の全周にわたって、立上げ部3が前述のように傾斜された構造をとる。
【0020】
なお、図面ではインナーフィン7として矩形波状のストレートフィンを用いているが、これに限らず、公知の各種フィンを用いることもできる。例えば、オフセットフィンやヘリボーン型のフィンを用いることもできる。また、インナーフィン7の長さは、最大で、長手方向および幅方向ともにヒートシンク本体8の傾斜部と底部4との境界までとする。
【0021】
次に、図6〜図8は、本発明の液冷ヒートシンクの他の実施例であり、ヘリボーン型のフィンを使用している。具体的には、インナーフィン7が複数のフィン要素7aの積層体からなる。このフィン要素7aは並列された多数の縦リブ7bと、各縦リブ7b間を連結する横リブ7cとが面一に形成された網目状のものである。それぞれのフィン要素7aの縦リブ7bどうしは整合するように積層され、横リブ7cは隣接するフィン要素に対して互いに異なるように配置されている。冷却液13は横リブ7cの存在により、各縦リブ7b間を流通するとき、上下に蛇行するので、効率よくフィンを冷却することができる。
【0022】
このヘリボーン型フィンの特徴は、通常のヘリボーン型のものと異なり、縦リブ7bの先端が曲折されている。このフィンの折れ曲がり部分により、フィンの各部を流通する流量を可及的に均一にすることができる効果がある。
即ち、各流路の冷却水の出口から出口パイプまでの距離により、その曲折方向が決められている。出口パイプまでの距離が遠いところにある曲折部は、冷却液の流通を促進させる方向に、近いところにある曲折部は流通を妨げる方向に曲げられている。
【0023】
この例では、入口パイプに近いマニホールド部側に曲折部が設けられ、冷却水の入口に近い位置にある部分がその入口に対して遠のくように曲折され(冷却液の流通の抵抗になる)、遠い部分はその逆である(冷却液の流通を促進する)。これに限らず、出口パイプに近いマニホールド部側に曲折部を設けることもできる。また、流通を促す曲折部を省き、流通を阻害する曲折部を冷却水入口の近い部分に設けてもよい。
また、プレートの冷却液出入口部は、それぞれのマニホールド部の同方向に設けられているが、これに替えて、一方の出入口部を他方の出入口部と異なる方向に突設しても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 プレート
2 プレート
3 立上げ部
3a 傾斜部
3b 第1傾斜部
3c 第2傾斜部
3d 変更点
R1 第1曲部
R2 第2曲部
【0025】
4 底部
5 小フランジ
6 冷却液流通路
7 インナーフィン
7a フィン要素
7b 縦リブ
7c 横リブ
8 本体
9 冷却液出入口パイプ
10 被冷却体
12 隙間
13 冷却液
14 載置面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のプレート(1)(2)のうち、少なくとも一方のプレートがその底部(4)に立上げ部(3)を有する皿状に形成され、その立上げ部(3)の周縁に小フランジ(5)が設けられて、両プレート(1)(2)が小フランジ(5)を介して互いに重ね合わされ、
その内部に偏平な冷却液流通路(6)が形成されるとともに、その流通路(6)中にインナーフィン(7)が配置され、
両プレート(1)(2)およびインナーフィン(7)間を液密にろう付けしてヒートシンク本体(8)が構成され、
その本体(8)外周に一対の冷却液出入口パイプ(9)が設けられるとともに、本体(8)外周の載置面(14)に被冷却体(10)が接触固定され、前記被冷却体(10)と冷却液の間に熱交換がなされる液冷ヒートシンクにおいて、
前記立上げ部(3)が、底部(4)から開口部に向けて拡開する方向に傾斜される傾斜部(3a)からなり、
前記両プレート(1)(2)間に厚み方向の外力を加えてろう付けするとき、
その外力により前記小フランジ(5)が周縁方向外方に移動し、両プレート(1)(2)の底部(4)とインナーフィン(7)間が密着するように構成されたことを特徴とする液冷ヒートシンク。
【請求項2】
請求項1の構成において、
前記傾斜部(3a)が横断面折れ線状に、少なくとも1回傾斜角度を変更する変更点(3d)を介して形成され、
前記プレート(1)(2)の小フランジ(5)に近いほど傾斜が急に、底部(4)に近いほど傾斜が緩やかに形成されたことを特徴とする液冷ヒートシンク。
【請求項3】
請求項1の構成において、
前記傾斜部(3a)の両端部が、滑らかな曲部で形成されることを特徴とする液冷ヒートシンク。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の液冷ヒートシンクにおいて、
前記インナーフィン(7)は、並列された多数の縦リブ(7b)と、その各縦リブ(7b)間を連結する横リブ(7c)が面一に形成された網目状のフィン要素(7a)を有し、隣接する横リブ(7c)の位置が異なる複数の前記フィン要素(7a)が、縦リブ(7b)どうしは整合し、横リブ(7c)は位置ずれして積層されることを特徴とする液冷ヒートシンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−65609(P2013−65609A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201990(P2011−201990)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)
【Fターム(参考)】