説明

液処理方法、液処理装置および記憶媒体

【課題】基板の表面に形成された凹部の内部を薬液により処理するにあたって、凹部の内部に速やかに薬液を侵入させること。
【解決手段】液処理方法は、薬液より表面張力が小さい有機溶剤を基板に供給して凹部の内部を濡らすプリウエット工程と、その後、薬液からなる洗浄液を基板に供給して、凹部の内部の液体を薬液で置換して、この薬液によって前記凹部の内部を洗浄する薬液洗浄工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の基板の表面に形成された凹部の内部を薬液により処理するにあたって、凹部の内部に速やかに薬液を侵入させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、デバイスの高速化を図るべく配線長さを低減するために半導体チップを厚さ方向に複数個積層する技術(3D−LSIなどと称する)が提案されている。厚さ方向に積層された半導体チップ同士を電気的に接続するために、半導体チップをなすシリコンウエハを厚さ方向に貫通する貫通電極が形成され、これはTSV(Through−Si Via)と呼ばれている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
TSVの形成は、ドライエッチング例えば反応性イオンエッチング(RIE)によりシリコンウエハに有底の穴(例えば、直径が約10μm、深さが約100μmのサイズの穴)を形成するエッチング工程と、この穴に導電体を埋め込む埋め込み工程とが含まれる。エッチング工程と埋め込み工程との間には、少なくとも穴の内面に絶縁膜、バリア膜、シード膜等の薄膜を形成する成膜工程が必要に応じて実施される。ドライエッチングにより穴形成を行うと、穴の内面には、ポリマー等の残渣が付着する。この残渣はその後の埋め込み工程およびその前工程の成膜工程に悪影響を与えるため、完全に除去しておく必要がある。
【0004】
上記残渣を除去するために、薬液による洗浄処理が行われる。TSV用の穴は非常にアスペクト比(穴深さ/穴径)が大きく、穴の奥まで薬液を侵入させるのが困難である。長時間をかければ穴の奥まで薬液を侵入させることができるが、これは半導体デバイスの生産性の低下につながるため好ましくない。しかも、残渣を除去するための薬液は、場合によってはウエハに既に形成されている他の有用な膜(例えばウエハ表面全体を覆う絶縁膜)も、エッチングレートが低いとはいえ、エッチングしてしまうことがある。この点からも長時間の薬液処理は避けることが望ましい。このような問題は、TSVの形成時に限らず、微細な凹部(ホール、トレンチ等)、特に微細かつ高アスペクト比(深さ/径または幅)の凹部を有する基板の処理においても、同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−103195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、基板の表面に形成された凹部の内部を薬液により洗浄するにあたって、凹部の内部に速やかに薬液を侵入させる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板の表面に形成された凹部の内部を薬液からなる洗浄液により洗浄する液処理方法であって、前記薬液より表面張力が小さい有機溶剤を前記基板に供給して前記凹部の内部を前記有機溶剤で濡らすプリウエット工程と、前記プリウエット工程の後に、前記薬液を前記基板に供給して、前記凹部の内部を濡らしている液体を前記薬液で置換して、前記薬液によって前記凹部の内部を洗浄する薬液洗浄工程と、を備えた液処理方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、基板を保持する基板保持部と、薬液からなる洗浄液を吐出する薬液ノズルと、前記薬液より表面張力が小さい有機溶剤を吐出する有機溶剤ノズルと、前記有機溶剤ノズルに有機溶剤を供給する有機溶剤供給機構と、前記薬液ノズルに薬液を供給する薬液供給機構と、前記有機溶剤供給機構および前記薬液供給機構の動作を制御して、前記有機溶剤を前記基板保持部により保持された前記基板に供給するプリウエット工程と、その後、前記薬液を前記基板に供給する薬液洗浄工程とを実施させる制御部と、を備えた液処理装置を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、液処理装置の制御部をなすコンピュータにより読み取り可能なプログラムを記録する記憶媒体であって、前記液処理装置は、薬液からなる洗浄液より表面張力が小さい有機溶剤を吐出する有機溶剤ノズルと、薬液を吐出する薬液ノズルと、前記有機溶剤ノズルに前記有機溶剤を供給する有機溶剤供給機構と、前記薬液ノズルに前記薬液を供給する薬液供給機構とを備えており、前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記液処理装置を制御して、前記有機溶剤を基板に供給して前記凹部の内部を濡らすプリウエット工程と、その後、前記薬液を基板に供給して、前記凹部の内部の液体を前記薬液で置換して、前記薬液によって前記凹部の内部を洗浄する薬液洗浄工程と、を実行させる記憶媒体を提供する。
【0010】
凹部の内部にある有機溶剤を直接的に薬液に置換することができる。また、凹部の内部の有機溶剤を一旦別の液体に置換した後に、当該別の液体を有機溶剤に置換することもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、凹部の内部に侵入することがより容易な表面張力の低い有機溶剤をまずは凹部に侵入させ、液体が凹部の内部にある状態で薬液を供給して前記液体と置換することにより、最初から薬液を供給した場合に比べて、短時間で凹部の内部を薬液で満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】洗浄方法を実施するための洗浄装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1に示す洗浄装置の一部を示す平面図である。
【図3】第1実験の結果を説明する写真を示す図である。
【図4】第2実験の結果を説明する写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して好適な実施形態について説明する。
【0014】
まず、液処理装置の一実施形態である基板洗浄装置の構成について説明する。基板洗浄装置は、基板、本例では半導体ウエハWを概ね水平に保持して回転するスピンチャック10を有している。スピンチャック10は、基板の周縁部を保持する複数の保持部材12によって基板を水平姿勢で保持する基板保持部14と、この基板保持部14を回転駆動する回転駆動部16とを有している。基板保持部14の周囲には、ウエハWから飛散した処理液を受け止めるカップ18が設けられている。なお、図示しない基板搬送アームと基板保持部14との間でウエハWの受け渡しができるように、基板保持部14およびカップ18は相対的に上下方向に移動できるようになっている。
【0015】
基板洗浄装置はさらに、ウエハWに薬液からなる洗浄液を供給するための薬液ノズル20と、ウエハWに有機溶剤としてのIPA(イソプロピルアルコール)を供給するIPAノズル(有機溶剤ノズル)22と、ウエハに純水(DIW)を供給するDIWノズル24とを有している。薬液ノズル20には、薬液供給源(CHM)から、流量調整弁20aと開閉弁20bとが介設された薬液管路20cを介して薬液が供給される。IPAノズル22には、IPA供給源(IPA)から、流量調整弁22aと開閉弁22bとが介設されたIPA管路22cを介してIPAが供給される。DIWノズル24には、DIW供給源(DIW)から、流量調整弁24aと開閉弁24bとが介設されたDIW管路24cを介してDIWが供給される。なお、流量調整弁20a、開閉弁20bおよび薬液管路20cは薬液供給機構を構成し、流量調整弁22a、開閉弁22bおよびIPA管路22cはIPA供給機構(プリウエット液供給機構)を構成し、流量調整弁24a、開閉弁24bおよびDIW管路24cはDIW供給機構を構成する。
【0016】
薬液ノズル20、IPAノズル22およびDIWノズル24は、ノズル移動機構50により駆動される。ノズル移動機構50は、ガイドレール51と、ガイドレール51に沿って移動可能な駆動機構内蔵型の移動体52と、その基端が移動体52に取り付けられるとともにその先端に薬液ノズル20、IPAノズル22およびDIWノズル24を保持するノズルアーム53とを有している。ノズル移動機構50は、薬液ノズル20、IPAノズル22およびDIWノズル24を、基板保持部14に保持されたウエハWの中心の真上の位置とウエハWの周縁の真上の位置との間で移動させることができ、また、薬液ノズル20、IPAノズル22およびDIWノズル24を平面視でカップ18の外側の待機位置まで移動させることもできる。
【0017】
基板洗浄装置は、その全体の動作を統括制御する制御部100を有している。制御部100は、ウェットエッチング装置の全ての機能部品(例えば回転駆動部16、弁20a,20b,22a,22b,24a,24b、ノズル移動機構50など)の動作を制御する。制御部100は、ハードウエアとして例えば汎用コンピュータと、ソフトウエアとして当該コンピュータを動作させるためのプログラム(装置制御プログラムおよび処理レシピ等)とにより実現することができる。ソフトウエアは、コンピュータに固定的に設けられたハードディスクドライブ等の記憶媒体に格納されるか、或いはCDROM、DVD、フラッシュメモリ等の着脱可能にコンピュータにセットされる記憶媒体に格納される。このような記憶媒体が参照符号101で示されている。プロセッサ102は必要に応じて図示しないユーザーインターフェースからの指示等に基づいて所定の処理レシピを記憶媒体101から呼び出して実行させ、これによって制御部100の制御の下で基板洗浄装置の各機能部品が動作して所定の処理が行われる。
【0018】
なお、図示されたスピンチャック10の基板保持部14は、可動の保持部材12によってウエハWの周縁部を把持するいわゆるメカニカルチャックタイプのものであったが、これに限定されるものではなく、ウエハの裏面中央部を真空吸着するいわゆるバキュームチャックタイプのものであってもよい。また、図示されたノズル移動機構50は、ノズルを並進運動させるいわゆるリニアモーションタイプのものであったが、鉛直軸線周りに回動するアームの先端にノズルが保持されているいわゆるスイングアームタイプのものであってもよい。また、図示例では、3つのノズル20、22、24が共通のアームにより保持されていたが、それぞれ別々のアームに保持されて独立して移動できるようになっていてもよい。
【0019】
次に、上記の基板洗浄装置を用いて行われる基板洗浄処理の一連の工程について説明する。なお、以下に説明する一連の工程は、記憶媒体102に記憶されたプロセスレシピにおいて定義される各種のプロセスパラメータが実現されるように、制御部100が基板洗浄装置の各機能部品を制御することにより実行される。
【0020】
まず、基板洗浄処理の第1実施形態について説明する。本例において処理対象となるウエハWは、後述する実験結果を説明するための図3、図4の写真に示されたような、その表面側にTSVのための穴(例えば直径が約9μm、深さが約100μmの穴)がドライエッチングによって形成されているシリコンウエハである。なお、レジスト膜は既にドライプロセスであるアッシングにより除去されている。このウエハWの穴の内表面には、シリコン(Si)をエッチングガスとしてSFガス+HBrガスを用いてドライエッチングする際に生じたポリマーが付着している。このポリマーを除去するため、薬液として無機系洗浄液、本例ではDHF(希フッ酸)が使用される。
【0021】
まず、上述した状態のウエハWが、図示しない搬送アームにより基板洗浄装置に搬入されて、スピンチャック10の基板保持部14に保持される。
【0022】
[プリウエット工程(第1プリウエット工程)]
IPAノズル22をウエハ中心の真上に位置させ、ウエハWを所定回転数例えば200〜2000rpmで回転させ、IPAノズル22からプリウエット液として常温のIPAを所定流量例えば10〜500ml/minの流量で所定時間例えば30〜180secの間吐出する。ウエハW中心に供給されたIPAは遠心力により拡散し、ウエハ表面全体を均一に濡らす。ここで、IPAの表面張力は約21.7dyne/cm(21.7×10−3N/m)と小さいため、細く深い穴の底まで容易に侵入し、当該穴の内部を満たすとともに、当該穴の全内表面を濡らす。
【0023】
[DIW置換工程(第2プリウエット工程)]
次に、DIWノズル24をウエハ中心の真上に位置させ、ウエハWを所定回転数例えば100〜2000rpmで回転させ、DIWノズル24からDIWを所定流量例えば300〜1500ml/minの流量で所定時間例えば30〜180secの間吐出する。これにより、ウエハ表面(上面)にあるIPAはDIWに追い出される。また、DIW(水)はIPAとよく混ざりあうため、穴内のIPAもDIWに置換されてゆく。なお、プリウエット工程(第1プリウエット工程)とDIW置換工程(第2プリウエット工程)とを交互に複数回行ってもよい。
【0024】
[薬液洗浄工程]
次に、薬液ノズル20をウエハ中心の真上に位置させ、ウエハWを所定回転数例えば200〜2000rpmで回転させ、薬液ノズル20から無機系洗浄液(本例ではDHF)を所定流量例えば10〜500ml/minの流量で所定時間例えば30〜900secの間吐出する。これにより、ウエハ表面(上面)にあるDIWは無機系洗浄液に追い出される。また、水溶液である無機系洗浄液は、水とよく混ざりあうため、穴内のDIWも無機系洗浄液に置換されてゆく。そして、置換された無機系洗浄液により、穴の内表面に付着したポリマーが除去される。
【0025】
[リンス工程]
次に、DIWノズル24をウエハ中心の真上に位置させ、ウエハWを所定回転数例えば200〜1500rpmで回転させ、DIWノズル24からDIWを所定流量例えば500〜1500L(リットル)/minの流量で所定時間例えば30〜180secの間吐出する。これにより、ウエハWの表面および穴内にある無機系洗浄液が、DIWにより洗い流される。
【0026】
[乾燥用IPA置換工程]
次に、IPAノズル22をウエハ中心の真上に位置させ、ウエハWを所定回転数例えば200〜2000rpmで回転させ、IPAノズル22からIPAを所定流量例えば10〜100L/minの流量で所定時間例えば30〜120secの間吐出する。これにより、ウエハWの表面および穴内にあるDIWが、IPAに置換される。
【0027】
[スピン乾燥工程]
次に、IPAノズル22からのIPAの吐出を停止し、ウエハの回転速度を所定回転数例えば200〜2000rpmとし、所定時間例えば10〜60secの間振り切り乾燥を行う。IPAは揮発性が高いため、ウエハ表面だけでなく穴内も容易に乾燥する。このとき、乾燥を促進するため、Nガス、ドライエアをウエアWに吹き付けてもよい。この場合には、Nガスまたはドライエアを吹き付けるためのノズル(図示せず)が設けられる。
【0028】
以上の一連の工程が終了した後、図示しない搬送アームによりウエハWが基板洗浄装置から搬出される。
【0029】
次に、基板洗浄処理の第2実施形態について説明する。本例において処理対象となるウエハWも、第1実施形態と同様のTSVのための穴がドライエッチングにより形成されたシリコンウエハであるが、穴の内表面には、第1実施形態と異なり、有機系洗浄液による洗浄が適合するポリマー(例えばCF系ポリマー等)が付着している。有機系洗浄液としては、ジメチルスルホキシドと、ジメチルスルホキシドと混和可能な有機溶剤からなるものを用いることができる。ジメチルスルホキシドと混和可能な有機溶剤としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロドリン、N,N−ジメチルイミダゾリジノンからなる群から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0030】
まず、上述した状態のウエハWが、図示しない搬送アームにより基板洗浄装置に搬入されて、スピンチャック10の基板保持部14に保持される。
【0031】
[プリウエット工程]
次に、第1実施形態のプリウエット工程(第1プリウエット工程)と同様の手順で、ウエハWにIPAを供給し、穴の内部をIPAで満たすとともに当該穴の全内表面を濡らす。
【0032】
[薬液洗浄工程]
次に、DIW置換工程(第2プリウエット工程)を行うことなく、薬液洗浄工程を実行する。薬液洗浄工程は第1実施形態の薬液洗浄工程と同じ手順で行うことができる。前述した有機系洗浄液がウエハWに供給され、これによってウエハ表面(上面)にあるIPAは薬液に追い出される。また、有機系洗浄液はIPAとよく混ざりあうため、穴内のIPAも有機系洗浄液に置換され、置換された有機系洗浄液により穴の内表面に付着したポリマーが除去される。
【0033】
[第1リンス工程(有機溶剤リンス工程)]
次に、IPAノズル22をウエハ中心の真上に位置させ、ウエハWを所定回転数例えば200〜1500rpmで回転させ、IPAノズル22からIPAを所定流量例えば50〜500ml/minの流量で所定時間例えば30〜180secの間吐出する。これにより、ウエハWの表面および穴内にある薬液が、IPAにより置換される。なお、この第1リンス工程で用いるリンス液はIPAに限定されるものではなく、薬液洗浄工程で用いた有機系洗浄液および第2リンス工程で用いるDIWと混和性を有している他の有機溶剤を用いることもできる。
【0034】
[第2リンス工程(DIWリンス工程)]
次に、DIWノズル24をウエハ中心の真上に位置させ、ウエハWを所定回転数例えば200〜1500rpmで回転させ、DIWノズル24からDIWを所定流量例えば500〜1500L(リットル)/minの流量で所定時間例えば30〜180secの間吐出する。これにより、ウエハWの表面および穴内にあるIPAが、DIWにより洗い流される。
【0035】
[乾燥用IPA置換工程]
次に、第1実施形態の乾燥用IPA置換工程と同様の手順で、ウエハWにIPAを供給し、ウエハWの表面および穴内にあるDIWをIPAに置換する。
【0036】
[スピン乾燥工程]
次に、第1実施形態のスピン乾燥工程と同様の手順で、ウエハの乾燥を行う。以上により第2実施形態に係る一連の工程が終了する。
【0037】
なお、本発明の実施形態は、上記のものに限定されるものではなく、下記に説明する事項を考慮して改変することができる。
【0038】
上記の第1および第2実施形態では、プリウエット工程で使用する有機溶剤(プリウエット液)はIPAであったが、これに限定されるものではない。プリウエット工程では、他の有機溶剤、例えば、キシレン、IPA+HFE(イソプロピルアルコールとハイドロフルオロエーテルの混合液)を用いることもできる。なお、第1実施形態のように有機溶剤からなるプリウエット液を一旦DIWに置換した後に薬液を供給する際、一般的には、有機溶剤としてはDIWと混和性があるものを用いることが好ましい。但し、キシレンは水との混和性は無いが、水(DIW)は拡散により凹部内にあるキシレンを置換することができるため、プリウエット液として用いることは可能である。しかしながら、IPAは、水との混和性が高いため、凹部内にあるIPAはキシレンと比較してより速やかに水(DIW)で置換されるので、処理時間の短縮の観点からは、IPAをプリウエット液として用いることがより好ましい。また、上記の実施形態においてスピン乾燥工程前に実行される乾燥用IPA置換工程ではIPAを用いるので、装置構成の単純化(ノズルおよび処理液供給系の削減)といった観点からも、プリウエット液としてIPAを用いることがより好ましい。なお、言うまでもなく、プリウエット工程で使用する有機溶剤(プリウエット液)がIPA以外の有機溶剤であり、かつ、乾燥用IPA置換工程ではIPAを用いる場合には、IPA以外の有機溶剤を吐出するノズルおよび当該ノズルに有機溶剤を供給する供給機構が別途設けられることになる。
【0039】
一般的には、薬液が有機系洗浄液の場合には(第2実施形態を参照)、薬液をウエハWに供給する直前にウエハWの穴を満たしている液は有機溶剤であることが好ましい。薬液をウエハWに供給する直前にウエハWの穴を満たしている液がDIWであると、置換効率が低下するおそれがあるからである。
【0040】
薬液が無機系洗浄液の場合においても、上記第1実施形態のように工程順を「プリウエット工程(第1プリウエット工程)」→「DIW置換工程(第2プリウエット工程)」→「薬液洗浄工程」とするのではなく、プリウエット工程(第1プリウエット工程)の後にDIW置換工程を行うことなく薬液洗浄工程に移行することも可能である。実際のところ、薬液が、DHFのようにDIWによって薬液であるHFを希釈したタイプのものである場合、IPAによるプリウエット工程の後に直接的にDHFを供給したとしても、穴内のIPAをDHFに置換することは可能である。しかしながら、DHF(無機系洗浄液)にIPA(有機溶剤からなるプリウエット液)が混ざるとDHFによるエッチングレートが変化するため、安定した処理のためには、無機系洗浄液を用いる場合には無機系洗浄液の供給前に穴を満たしている液体はDIWであることが好ましい。なお、薬液が有機系洗浄液の場合には、有機溶剤からなるプリウエット液をDIWで置換する利点は無く、むしろ悪影響が生じる可能性もあるので、スループット向上の観点からも、DIW置換工程は行わず有機溶剤からなるプリウエット液を直接的に有機系洗浄液で置換する方が好ましい。
【0041】
薬液がウエハWに供給される直前にウエハWに供給される液(すなわち、第1実施形態においてはDIW、第2実施形態に有機溶剤からなるプリウエット液)を加熱した状態で供給することも好ましい。穴を加熱された液(DIWまたは有機溶剤からなるプリウエット液)が満たしている状態で常温の薬液を供給すると、熱対流により置換が進行しやすくなる。具体的に例えば、第2実施形態においては、IPAをその沸点(82.4℃)以下の適当な温度、例えば30℃〜60℃に加熱して供給することが好ましい。この場合、例えば、IPA管路22cにIPAを加熱するヒータ(図示せず)を介設することができる。なお、薬液を供給する前または薬液を供給する際にウエハWを加熱することによっても熱対流を生じさせることができる。このようなウエハWの加熱は、基板保持部14に抵抗加熱ヒータ(図示せず)を設けること、あるいはウエハWの上方にランプヒータ例えばLEDランプヒータ(図示せず)を設けることにより実現することができる。
【0042】
第1および第2実施形態において、穴のアスペクト比があまり大きくない場合には、スピン乾燥工程の前の乾燥用IPA置換工程を省略することができる。しかしながら、穴の中がIPAで満たされている状態から乾燥を開始することにより乾燥を迅速かつ確実に行うことができるため、乾燥用IPA置換工程を設けることが好ましい。
【0043】
第2実施形態において、第1リンス工程と第2リンス工程とを繰り返し複数回実行することも好ましい。
【0044】
第2実施形態において、第2リンス工程を行わずに第1リンス工程のみを行ってもよい。この場合、第1リンス工程で用いる有機溶剤がIPAであり乾燥用IPA置換工程で用いられる有機溶剤と同じであるなら、そのまま乾燥に移行することができるので、処理時間の短縮の観点からは有利である。但し、DIWによる第2リンス工程を行わずにIPA等の有機溶剤による第1リンス工程のみによりリンス処理を行うとすると、第1リンス工程によって穴内の有機系洗浄液を完全に除去する必要があるため、有機溶剤の消費量が増大してしまうおそれがある。第2実施形態で説明したように、IPA等の有機溶剤による第1リンス工程およびDIWによる第2リンス工程を行うことにより、有機溶剤の消費量を低減しつつ、穴内の有機系洗浄液の残渣を低減することが可能となる。
【0045】
また、上記の実施形態では、洗浄対象の凹部は、半導体ウエハからなる基板のシリコン層(Si層)に形成されたTSV用の穴であったが、これに限定されるものではなく、半導体ウエハに形成される他の種類の凹部、具体的には穴(ビアホール、スルーホール)および溝(トレンチ)であってもよい。上記の実施形態に係る洗浄方法は、とりわけ高アスペクト比の凹部を効率良く洗浄することができる。
【0046】
また、洗浄対象の凹部は、シリコン層に形成された凹部に限定されるものではなく、SiN層、SiO層、poly−Si層に形成された凹部であってもよい。なお、凹部が形成される層の材料に応じて、凹部を形成するためのドライエッチング工程において用いるエッチングガスが異なる。そして、被エッチング層の材質、エッチングガスの種類、エッチングマスクの材質に依存して、凹部内に残存するエッチング残渣(ポリマー)の組成は異なる。ポリマーとして、塩素系ポリマー、酸化物系ポリマー、CF系ポリマー、カーボン系ポリマーなどの様々なポリマーが考えられる。薬液洗浄工程で使用される薬液は除去対象のエッチング残渣に応じて最適なものが選択される。すなわち、薬液洗浄工程で使用される薬液は、第1実施形態で用いた無機系洗浄液であるDHFや第2実施形態で用いた有機系洗浄液に限定されるものではない。無機系洗浄液として、例えば、(1)SC−1液、(2)SC−2液、または(3)HF液、NHF液およびNHHF液からなる群から選択された1つの液あるいは2以上の液の混合液をDIWで希釈したHF系薬液を用いることができる。
【0047】
また、洗浄対象の基板は、半導体ウエハに限定されるものではなく、他の基板、例えばLCD用のガラス基板であってもよい。
【0048】
また、基板の処理にあたって、基板を回転させる必要は必ずしもなく、例えば細長いいわゆるスリットノズルを用いて、各処理液をスキャン塗布してもよい。
【実施例】
【0049】
<第1試験>
以下にプリウエットの効果を調べた試験結果について説明する。
直径10μm(穴の入口で測定)、深さ100μmの有底の穴をドライエッチングにより形成したシリコンウエハを用意し、これに対して薬液洗浄を行った。実施例として、IPAによるプリウエット工程(第1プリウエット工程)、DIWによるDIW置換工程(第2プリウエット工程)を行った後、DHFによる薬液洗浄工程を実施した。第1プリウエット工程は、ウエハ回転数を300rpm、IPA温度を常温、IPA流量を35ml/minとして、60sec行った。第2プリウエット工程は、ウエハ回転数を300rpm、DIW温度を常温、DIW流量を1000ml/minとして60sec行った。薬液洗浄工程は、ウエハ回転数を300rpm、DHF流量を1500ml/minとして60sec行った。薬液洗浄工程の後、上記のリンス工程、IPA置換工程およびスピン乾燥工程を行った。また、上記一連の工程から第1プリウエット工程および第2プリウエット工程を省いたものを比較例とし、薬液洗浄工程の時間が60secのものを比較例1、薬液洗浄工程の時間が180secのものを比較例2とした。
【0050】
処理の終了後、穴の表面が確認できるようにウエハを切断して、穴の内面を走査型電子顕微鏡により観察した。その結果を図3に示す。図3において、(a)は比較例1、(b)は比較例2、(c)は実施例である。ポリマーが残存している部分は、絶縁物であり電子線によりチャージアップするので、白く写っている。比較例1では、穴内に十分に薬液が侵入しておらず、穴の底の部分が洗浄できていないことがわかる。また、比較例2では、穴の底まで薬液は達しているが、穴の表面の一部に白い部分があり、洗浄が不十分であることがわかる。これに対して実施例では、穴の全域が十分に洗浄できていることがわかる。この試験により、薬液洗浄工程前にプリウエット工程を実行することにより、短時間で、薬液を深穴の内部に十分に侵入させることができることがわかった。
【0051】
<第2試験>
実施例として、上述した第1試験における実施例と同じ条件で、IPAによる第1プリウエット工程、DIWによる第2プリウエット工程、DHFによる薬液洗浄工程、リンス工程、IPA置換工程およびスピン乾燥工程を順次行った。また、上記一連の工程からIPA置換工程を省いたものを比較例とした。実施例および比較例のウエハに対して、CVD法により絶縁膜を成膜した。
【0052】
成膜後、穴の表面が確認できるようにウエハを切断して、穴の内面を走査型電子顕微鏡により観察した。その結果を図4に示す。図4において、左欄は比較例、右欄は実施例である。穴の入口部分(上段写真参照)および中央部分(中段写真参照)においては比較例と実施例の成膜状態に有意差は認められなかった。一方、穴底(下段写真参照)においては、比較例では成膜がされていないのに対して、実施例では良好な膜が成膜されていた。比較例においては穴底の乾燥が十分ではないため、成膜に不具合が生じたものと思われる。これより、IPA置換工程は深穴洗浄後の乾燥の前処理として有益であることがわかった。
【符号の説明】
【0053】
14 基板保持部
20 薬液ノズル
22 有機溶剤ノズル
24 DIWノズル
20a,20b,20c 薬液供給機構
22a,22b,22c 有機溶剤供給機構
24a,24b,24c DIW供給機構
100 制御部
101 記憶媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に形成された凹部の内部を薬液からなる洗浄液により洗浄する液処理方法であって、
前記薬液より表面張力が小さい有機溶剤を前記基板に供給して前記凹部の内部を前記有機溶剤で濡らすプリウエット工程と、
前記プリウエット工程の後に、前記薬液を前記基板に供給して、前記凹部の内部を濡らしている液体を前記薬液で置換して、前記薬液によって前記凹部の内部を洗浄する薬液洗浄工程と、
を備えた液処理方法。
【請求項2】
前記有機溶剤は、IPA(イソプロピルアルコール)、キシレン、またはIPAとHFE(ハイドロフルオロエーテール)との混合物である、請求項1に記載の液処理方法。
【請求項3】
前記薬液が無機系洗浄液である、請求項1または2に記載の液処理方法。
【請求項4】
前記プリウエット工程の後であって前記薬液洗浄工程の前に、DIW(純水)を基板に供給して、前記凹部の内部を濡らしている前記有機溶剤をDIWで置換するDIW置換工程を更に備え、前記薬液洗浄工程において、前記凹部の内部を濡らしているDIWが前記薬液により置換される、請求項3に記載の液処理方法。
【請求項5】
前記DIW置換工程において加熱したDIWが供給される、請求項4に記載の液処理方法。
【請求項6】
前記無機系洗浄液が、
− DHF(希フッ酸)液、
− SC−1液、
− SC−2液、または
− HF液、NHF液およびNHHF液からなる群から選択された1つの液あるいは2以上の液の混合液をDIWで希釈したHF系薬液、
のうちのいずれかである、請求項4または5に記載の液処理方法。
【請求項7】
前記薬液が有機系洗浄液である、請求項1または2に記載の液処理方法。
【請求項8】
前記薬液洗浄工程において、前記凹部の内部を濡らしている前記有機溶剤が直接的に前記有機系洗浄液で置換される、請求項7に記載の液処理方法。
【請求項9】
前記有機系洗浄液は、ジメチルスルホキシドと、ジメチルスルホキシドと混和可能な有機溶剤とを含む混和物からなる、請求項7または8に記載の液処理方法。
【請求項10】
前記ジメチルスルホキシドと混和可能な有機溶剤として、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロドリン、N,N−ジメチルイミダゾリジノンからなる群から選択される少なくとも1つが用いられる、請求項9に記載の液処理方法。
【請求項11】
前記プリウエット工程において加熱した有機溶剤が供給される、請求項8〜10のいずれか一項に記載の液処理方法。
【請求項12】
前記薬液洗浄工程の後に、有機溶剤からなる第1リンス液を前記基板に供給して、前記凹部の内部の前記薬液を前記第1リンス液で置換する第1リンス工程と、
前記第1リンス工程の後、DIWからなる第2リンス液を前記基板に供給して、前記凹部の内部の前記第1リンス液を前記第2リンス液で置換する第2リンス工程と、
前記第2リンス工程の後、前記基板を乾燥させる乾燥工程と、
をさらに備えた、請求項7〜11のいずれか一項に記載の液処理方法。
【請求項13】
前記乾燥工程においてIPAが前記基板に供給される、請求項12に記載の液処理方法。
【請求項14】
前記薬液洗浄工程の後に、リンス液を前記基板に供給して、前記凹部の内部の前記薬液を前記リンス液で置換するリンス工程と、
前記リンス工程の後、前記基板を乾燥させる乾燥工程と、
をさらに備え、
前記乾燥工程においてIPAが前記基板に供給される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の液処理方法。
【請求項15】
基板を保持する基板保持部と、
薬液からなる洗浄液を吐出する薬液ノズルと、
前記薬液より表面張力が小さい有機溶剤を吐出する有機溶剤ノズルと、
前記有機溶剤ノズルに有機溶剤を供給する有機溶剤供給機構と、
前記薬液ノズルに薬液を供給する薬液供給機構と、
前記有機溶剤供給機構および前記薬液供給機構の動作を制御して、前記有機溶剤を前記基板保持部により保持された前記基板に供給するプリウエット工程と、その後、前記薬液を前記基板に供給する薬液洗浄工程とを実施させる制御部と、
を備えた液処理装置。
【請求項16】
DIW(純水)を吐出するDIWノズルと、
前記DIWノズルにDIWを供給するDIW供給機構と、
を更に備え、
前記制御部は、DIW供給機構の動作を制御して、前記プリウエット工程と前記薬液洗浄工程の間に、前記基板にDIWを供給して前記基板上にある前記有機溶剤をDIWで置換するDIW置換工程を更に実施させるように構成されている、請求項15に記載の液処理装置。
【請求項17】
前記制御部は、薬液洗浄工程において前記薬液を前記基板に供給することによって前記基板上にある前記有機溶剤が直接的に前記薬液で置換されるように、前記薬液洗浄工程を実施させるように構成されている、請求項15に記載の液処理装置。
【請求項18】
液処理装置の制御部をなすコンピュータにより読み取り可能なプログラムを記録する記憶媒体であって、前記液処理装置は、薬液からなる洗浄液より表面張力が小さい有機溶剤を吐出する有機溶剤ノズルと、薬液を吐出する薬液ノズルと、前記有機溶剤ノズルに前記有機溶剤を供給する有機溶剤供給機構と、前記薬液ノズルに前記薬液を供給する薬液供給機構とを備えており、前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記液処理装置を制御して、前記有機溶剤を基板に供給して前記凹部の内部を濡らすプリウエット工程と、その後、前記薬液を基板に供給して、前記凹部の内部の液体を前記薬液で置換して、前記薬液によって前記凹部の内部を洗浄する薬液洗浄工程と、を実行させる記憶媒体。
【請求項19】
前記液処理装置が、DIW(純水)を吐出するDIWノズルと、前記DIWノズルにDIWを供給するDIW供給機構と、を更に備えており、前記記憶媒体は、前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記液処理装置を制御して、前記プリウエット工程と前記薬液洗浄工程の間に、前記基板にDIWを供給して前記基板上にある前記有機溶剤をDIWで置換するDIW置換工程を更に実施させる、請求項18に記載の記憶媒体。
【請求項20】
前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記液処理装置を制御して、薬液洗浄工程において前記薬液を前記基板に供給することによって前記基板上にある前記有機溶剤が直接的に前記薬液で置換されるように、前記薬液洗浄工程を実施させる、請求項19に記載の記憶媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−231116(P2012−231116A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277159(P2011−277159)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】