説明

液分配器

【課題】充填塔の蒸留性能を向上させることが可能な充填塔用の液分配器を提供する。
【解決手段】充填塔の軸方向と垂直な平面の直径上に配設された一本の主流路2と、主流路2と垂直方向に配設され、互いに平行かつ等間隔に配列された複数の副流路3とを備え、副流路3と主流路2の底面に配置された複数の分散孔4が、副流路3に沿った列ごとに等間隔Cで配置されていることを特徴とする液分配器1を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液の向流接触により特定の成分を分離除去あるいは濃縮する装置である充填塔において、その内部に充填された充填物に液を均一に散布するための充填塔用の液分配器に関する。
【背景技術】
【0002】
充填塔は、気液を向流接触させることにより気液間の物質移動を促進し、特定の成分を分離/濃縮する装置であり、蒸留(精留)プロセスや吸収プロセスに広く用いられている。
充填塔内部には、一定の空隙を有する構造体が充填されている。この構造体は充填物と呼ばれ、充填物が充填された空間は充填層と呼ばれている。
【0003】
充填物は、規則充填物と不規則充填物とに大きく分類される。規則充填物は、構造化充填物とも呼ばれ、多くは金属製の網あるいは薄膜シートを一定の形状に加工し、塔内に規則的に積層した構造になっており、例としてメラパックが有名である。不規則充填物は、充填塔塔径に対して比較的小さな構造物を塔内にランダムに充填するものであり、ラシヒリングなど様々な種類がある。
【0004】
充填層内において、液は重力を推進力として充填物表面上を液膜あるいは液滴状に流下し、ガス(蒸気)は塔頂塔底の圧力差を推進力として充填層内の空隙を上昇する。この過程における気液接触により、気相あるいは液相中の特定の成分が分離/濃縮される。
【0005】
気液接触を効率的に行うためには、流下液が充填層内を一様に流れることが理想的である。液分配器はその目的のための機器であり、充填塔内の充填層上部に設置される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
液分配器には多くの種類があり、液分配方法も様々であるが、多くは塔中心部に位置する垂直なスタンドパイプ、および塔の直径上に水平に位置する一本の主流路、主流路から塔壁方向に垂直に伸びる互いに平行かつ等間隔に配列された複数の副流路、副流路上に直線上に配置された複数の分散孔からなる。
なお、主流路は「液分配主管」、「主トラフ」、「メインチャネル」などと呼ばれることがある。副流路は「枝管」、「液分配トラフ」「サブチャネル」などと呼ばれることがある。また、分散孔が配置された場所が、液散布点となる。
【0007】
液分配器の性能は、充填層にどれだけ均一に液を散布できるかで決まる。そのためには分散孔配置(液散布密度[1/m]および配置方法)を適切に決定する必要がある。
【0008】
規則充填物は、不規則充填物と異なり、充填層内の気液流路が規則的になっており、それゆえ、充填層内の液の流れ分布が液分配器の分散孔配置の影響を受けやすい。したがって、規則充填物を用いる場合には、液分配器の分散孔配置を最適化することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3140529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の技術では、充填物の種類により決定された液散布密度に基づき全ての副流路上に一定間隔で散布点を配置していた。これにより充填塔の断面全体を平面視して見ると、図6に示すように、従来の液分配器100では、一様に(規則的に)散布点となる分散孔104が配置されるが、塔壁付近の領域(例えば、図6中の領域A)では、中央部付近の領域と比較して隣接する分散孔104間の間隔を縮めるなどの調整が行なわれていた。これにより、液散布点の配置が充填塔の蒸留性能を向上させるという点で十分に最適化されていないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、充填塔の蒸留性能を向上させることが可能な充填塔用の液分配器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、充填塔の軸方向と垂直な平面の直径上に配設された一本の主流路と、
前記主流路と垂直方向に配設され、互いに平行かつ等間隔に配列された複数の副流路と、を備えた充填塔用の液分配器において、
前記副流路と主流路の底面に配置された複数の分散孔が、副流路に沿った列ごとに等間隔で配置されていることを特徴とする液分配器である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の充填塔用の液分配器によれば、液散布点の配置(すなわち、分散孔配置)が十分に最適化されているため、充填塔の蒸留性能を向上させることができる。これにより充填塔の高さを低くできるため、低コストの製品を提供することができる。また、充填塔の蒸留性能が向上されるため、高純度の製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した一実施形態である液分配器を備えた充填塔の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明を適用した一実施形態である液分配器の(a)斜視図、(b)断面模式図である。
【図3】本発明を適用した他の実施形態である液分配器の(a)斜視図、(b)断面模式図である。
【図4】本発明を適用した一実施形態である液分配器の液散布点(分散孔)の配置を示す平面図である。
【図5】本発明を適用した一実施形態である液分配器の液散布点(分散孔)の配置を説明するための部分拡大図である。
【図6】従来の充填塔用液分配器の液散布点(分散孔)の配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した一実施形態である液分配器について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0016】
図1は、本発明を適用した一実施形態である液分配器を備えた充填塔の一例を示す断面模式図である。なお本実施形態では、充填塔の一例として粗アルゴン塔を例に説明する。
図1に示すように、粗アルゴン塔(充填塔)10は、規則充填物が充填されて充填層20が形成され、かつこの充填層20が横方向(水平方向)に沿って二分割されて、上部ベッド20Aと下部ベッド20Bとに分かれている。
【0017】
上部ベッド20Aの上部には、還流液を均一に分散して上部ベッド2Aに流すための液分配器1が設けられている。
また、上部ベッド20Aと下部ベッド20Bとの間には、上部ベッド20Aから流下する還流液を集液し、この還流液を再度均一に分散して下部ベッド20Bに流すための液捕集再分配器40が設けられている。
【0018】
この粗アルゴン塔10では、図示しない深冷空気分離装置の低圧塔の中間部から管11を介して抜き出されたガスが、粗アルゴン塔10の塔下部に供給される。
一方、粗アルゴン塔10の上部には、コンデンサ12が配されており、管13を経て粗アルゴン塔10からの上昇ガスが送られる。上昇ガスはここで液化し、還流液として管14、液供給管15を経て充填層20に流下し、上昇ガスと連続的に気液接触して蒸留が行われる。
そして、コンデンサ12からの還流液は液供給管15から液分配器1に供給され、さらに、液分配器1により均一に分配されて上部ベッド20Aを流下し、液捕集再分配器40に一旦集められたのち、再度均一に分配されて下部ベッド20Bに流下する構成となっている。
【0019】
次に、液分配器1の構成について、説明する。
図2は、本発明を適用した一実施形態であるパイプ式の液分配器の断面模式図である。図2に示すように、本実施形態の液分配器1は、粗アルゴン塔10内に設けられ、この液分配器1の上方に設けられた液供給管15から供給された液を、当該液分配器1の下方に均一に分配するために設けられた部材である。この液分配器1は、一つの主流路2と、複数の副流路3・・・から概略構成されている。
【0020】
主流路2は、図2(a)に示すように、円形または矩形の断面を持つパイプ状の中空部材である。また、主流路2の中央上部には、スタンドパイプ2aが設けられている。
この主流路2は、粗アルゴン塔(充填塔)10の内部の、軸方向と垂直平面上であって、この粗アルゴン塔の中心を含む一の方向に延在されて設けられている。ここで、アルゴン塔の中心を含む一の方向とは、いずれか一の方向の直径を意味している。
【0021】
副流路3は、図2(a)に示すように、パイプ状の中空部材である。複数の副流路3は、主流路2と直交する方向に主流路2の側面に接続されている。また、副流路は、その中央部で主流路2と内部空間が連通するように固定されている。複数の副流路3は、等間隔に配置されており、それぞれ長さが異なるように設けられている。具体的には、両端部が短く、中央部が長く、中央部から両端部に向かって漸次短くなるように設けられている。
【0022】
また、各副流路3および主流路2の底面には、副流路が延在する方向に、所定の間隔で所定数の分散孔4がそれぞれ設けられている。
なお、図2に例示された液分配器の各副流路3の断面は円形であるため、液分配器1の底面は平面ではない。しかし、各副流路3に設けられた複数の液分散孔4は、すべて同一平面上に配置されることになる。
また、分散孔が配置された平面内において、分散孔が配置された各地点が、液散布点となる。
【0023】
このような構成により、主流路2のスタンドパイプ2aの上方に配置された外部供給ノズル15からスタンドパイプ2aを介して主流路2内に液が供給される。これにより、図2(b)に示すように、この主流路2内は、液で満たされる。
次に、主流路2内の液は、各副流路3の中央の接続部を介して主流路2から各副流路3内に分配される。
そして、各副流路3において、それぞれの分散孔4から液が下方に排出されることになる。
【0024】
なお、本発明の分散器は、上述のパイプ式の液分配器1に限定されるものではない。具体的には、図3に示すようなトラフ式の液分配器1’を用いてもよい。
この例の液分配器1’は、一つの主流路2’と、複数の副流路3’・・・から概略構成されている。
【0025】
主流路2’は、図3(a)に示すように、有底の溝状部材である。また、主流路2’の上部は前面開放されている。
この主流路2’は、粗アルゴン塔(充填塔)10の内部の、軸方向と垂直平面上であって、この粗アルゴン塔の中心を含む一の方向に延在されて設けられている。ここで、アルゴン塔の中心を含む一の方向とは、いずれか一の方向の直径を意味している。
【0026】
副流路3’は、図3(a)に示すように、有底の溝状部材である。複数の副流路3’・・・が、主流路2’と直交する方向に主流路2’の側面に接続されている。また、副流路3’は、その中央部で主流路2’と内部空間が連通するように接続されている。複数の副流路3’は、互いに等間隔に配置されており、それぞれ長さが異なるように設けられている。具体的には、両端部が短く、中央部が長く、中央部から両端部に向かって漸次短くなるように設けられている。
【0027】
また、各副流路3’および主流路2’の底面には、副流路が延在する方向に、所定の間隔で所定数の分散孔4’がそれぞれ設けられている。
なお、各副流路3’と主流路2’とは、一体化された溝形状となっているため、液分配器1’の底面全体は平面である。すなわち、各副流路3’に設けられた複数の液分散孔4’は、すべて同一平面上に配置されることになる。
【0028】
このような構成により、主流路2’の上方に配置された外部供給ノズル15から主流路2内に液が供給される。これにより、図3(b)に示すように、この主流路2’内は、液で満たされる。
次に、主流路2’内の液は、各副流路3’との接続部を介して主流路2’から各副流路3’内に分配される。
そして、各副流路3’において、それぞれの分散孔4’から液が下方に排出されることになる。
【0029】
本発明では、このような液分配器を構成する副流路および主流路の底面に設けられる分散孔の配置が重要である。
具体的には、図4に示すように、互いに間隔B[m]で等間隔に配設された各副流路3・・・の底面に配置された複数の分散孔4・・・が、副流路ごとに等間隔C[m]に配置されている。
ここで副流路は、副流路と垂直な直径上から延伸するものと考える。すなわち図4に示すように、一部の分散孔は、すべての副流路を連通させるために設置されている主流路上にも配置される。
【0030】
このとき、各副流路3の分散孔数nは、図5に示すように、副流路3のもっとも外郭に配置する分散孔4の、主流路2の幅方向の中心線と該副流路3の幅方向の中心線との交点Oからの距離L[m]と、該液分配器1の正味散布密度A[1/m]および副流路の幅方向中心線の間隔B[m]から求められる平均孔間隔Cav[m]から以下の式(1)〜(3)を用いて算出する。
av[m]=A[1/m]×B[m] ・・・(1)
[−]=round−up((L[m]+Cav[m]/2)/Cav[m]) ・・・(2)
[m]=L[m]/(n[−]−0.5) ・・・(3)
【0031】
充填塔の液分配器の性能は、分散孔配置(液散布密度A[1/m]および配置パターン)および液散布の均一性で決まる。
液散布密度A[1/m]は、充填物ごとに適した値が用いられ、規則充填物の場合、概ね150乃至250[1/m]程度である。
液散布密度Aは、副流路間隔B[m]と、副流路上に1列に配列される分散孔の配置間隔Cavとにより、A=1/B/Cavで表されるため、AとBを定めれば式(1)により自ずとCavは求まる。
【0032】
一方、各副流路の長さ、すなわち最も塔壁近くに配置できる分散孔4の中心線Oからの位置L[m](=副流路の実効長さ、図5を参照)は、液分配器の製作据付上必要な塔壁と液分配器の隙間の大きさからおのずと決定される。
【0033】
ここで、各副流路上に配置する分散孔の数nは、平均間隔Cavと副流路の実効長さLから式(2)で求める。式(2)は液散布密度Aが設計値を下回らないよう、小数部を切り上げてnを求める。
【0034】
本発明において、副流路i上の分散孔は式(3)で求めた分散孔間隔Cで等間隔に配置する。これにより、副流路ごとに分散孔間隔は異なり、塔断面全体で見ると分散孔配置は必ずしも規則的ではない。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の液分配器1によれば、従来技術に比べて、充填塔の蒸留性能を向上させることができる。これにより、充填塔の高さを低くできるので低コストの製品を提供することができる。また、充填塔の蒸留性能を向上させることができることにより、高純度の製品を提供することができる。
【0036】
以下に具体例を示す。
(実施例)
総充填高さ10350mm(ディスクレイヤ数50)、塔径1540mmの二つのベッドから構成される図1に示すような粗アルゴン塔について、塔底蒸気組成アルゴン10vol%、酸素90vol%、還流比32の条件でセルモデルによる蒸留シミュレーションを行った。上部下部それぞれのベッドの液分配器で同一の液分配器を使用した。
【0037】
比較例1については従来技術の液散布配置(図6)、実施例1については本発明による液散布配置(図4)を採用し、上部ベッドと下部ベッドの充填高さに対する蒸留性能:理論段数相当高さ(HETP)を比較した結果、表1に示すような結果が得られた。
【0038】
【表1】

【0039】
ここで、HETPの値は、蒸留性能を表す指標であり、この値が小さいほど性能がよいことを示している。
表1に示すように、従来技術を使用した充填塔に比べ、本発明の技術を使用した充填塔の方が蒸留性能の点で優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1,1’・・・液分配器
2,2’・・・主流路
3,3’・・・副流路
4,4’・・・分散孔
10・・・粗アルゴン塔(充填塔)
15・・・液供給管
20・・・充填層
・・・分散孔の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填塔の軸方向と垂直な平面の直径上に配設された一本の主流路と、
前記主流路と垂直方向に配設され、互いに平行かつ等間隔に配列された複数の副流路と、を備えた充填塔用の液分配器において、
前記副流路と主流路の底面に配置された複数の分散孔が、副流路に沿った列ごとに等間隔で配置されていることを特徴とする液分配器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−206681(P2011−206681A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77047(P2010−77047)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】