説明

液剤硬化防止構造

【課題】液剤の硬化を確実に防止できるようにする。
【解決手段】液剤流路16内の硬化剤(液剤)が、支持孔17と弁棒18(可動部材)の隙間を通って液剤流路16とは反対側の充填室24へ漏出しても、充填室24には可塑剤28が充填されているので、漏出した硬化剤が空気と接触することはない。また、可塑剤28は、溶剤に比べて揮発性が低いので、可塑剤28が揮発することに起因して充填室24内に空気層が生じることもない。これにより、硬化剤が、空気中の水分との接触によって硬化する性質を有するものであっても、硬化剤の空気接触に起因する硬化を確実に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液剤が空気中の水分との接触によって硬化するのを防止するための液剤硬化防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主剤と硬化剤を混合して得られるウレタン二液塗料の場合、硬化剤として用いられるイソシアネートは空気中の水分に触れると硬化する性質を有するため、本願出願人は、特許文献1に記載されているように、硬化剤の硬化を防止するための構造を備えた開閉弁装置を出願した。
この開閉弁装置は、硬化剤の流路内に弁口を設け、ボディの支持孔に貫通させた弁杆の先端部を弁口に対応させ、シリンダ内に設けたピストンに弁杆の後端部を固着した形態であり、ピストンを移動させて弁杆を進退させることにより、弁口を開閉させるようになっている。また、支持孔の内周と弁杆の外周との間にはパッキンを設け、これにより、硬化剤が支持孔を通ってピストン側へ移動することを防止している。
さらに、硬化剤の空気接触を回避する手段として、ボディ内に、支持孔の後端に連通する空室を設け、この空室内に溶剤を充填している。これにより、硬化剤が支持孔と弁杆の隙間を通って支持孔の後方へ漏出したとしても、その漏出した硬化剤は、溶剤に接触するだけであって、空気とは非接触の状態に保たれるので、空気内の水分と接触して硬化する虞はない。
【特許文献1】特許第3053601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記公報の硬化防止構造では、空室に溶剤を充填しているが、溶剤は、揮発性を有することから、空室内の溶剤の量が経時的に減少する虞がある。この場合、空室内に空気が進入することになるため、溶剤内に混入した硬化剤の一部が、空室内の空気と接触して硬化してしまうことが懸念される。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、液剤の硬化を確実に防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、ボディに、液剤が流動する液剤流路と、前記液剤流路とは独立した充填室と、前記液剤流路と前記充填室とを連通させる支持孔と、前記支持孔内を貫通する可動部材と、前記支持孔の内周と前記可動部材の外周との隙間をシールするパッキンとを備えた液剤硬化防止構造において、前記充填室内に可塑剤を充填したところに特徴を有する。
【0005】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記可塑剤の粘度が、13〜130mPa・s(at20℃)であるところに特徴を有する。
【0006】
請求項3の発明は、請求項2に記載のものにおいて、前記可塑剤が、アルキルスルフォン酸フェニルエステルであるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
<請求項1の発明>
液剤流路内の液剤が、支持孔と可動部材の隙間を通って液剤流路とは反対側の充填室へ漏出しても、充填室には可塑剤が充填されているので、漏出した液剤が空気と接触することはない。また、可塑剤は、溶剤に比べて揮発性が低いので、可塑剤が揮発することに起因して充填室内に空気層が生じることもない。これにより、液剤が、空気中の水分との接触によって硬化する性質を有するものであっても、液剤の空気接触に起因する硬化を確実に防止できる。
【0008】
<請求項2の発明>
溶剤の粘度は、一般的に8mPa・s(at20℃)程度であるのに対し、本発明の可塑剤は、13〜130mPa・s(at20℃)という高い粘度であるので、液剤流路から漏出して充填室内に浸入した液剤は、可塑剤中に拡散することを抑制される。したがって、仮に充填室内に空気層が発生したとしても、可塑剤中に混入した液剤が空気層に接触する虞はない。
【0009】
<請求項3の発明>
アルキルスルフォン酸フェニルエステルは、100〜130mPa・s(at20℃)という高い粘度を有しているので、可塑剤中に混入した液剤が充填室中の空気層に接触することを確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1及び図2を参照して説明する。図に示すのは、硬化剤(本発明の構成要件である液剤)の供給経路に設けた開閉弁装置である。硬化剤は、水性二液ウレタン塗料の原料として用いられるものであって、この開閉弁装置を通過した硬化剤は、主剤と混合されるようになっている。かかる硬化剤は、空気中の水分に接触すると硬化する性質を有するイソシアネートからなる。
【0011】
開閉弁装置のボディ10内には、弁口13を介して連通する一次室11と二次室12とが形成され、一次室11には、逆止弁15を備えた流入孔14が連通している。この一次室11と二次室12と流入孔14は、本発明の液剤流路16を構成する。一次室11の後方(図1における右方)には、前後方向に直線状に延びる円形断面の支持孔17が形成され、この支持孔17には、円形断面の弁棒18(本発明の構成要件である可動部材)が前後方向に移動し得るように貫通されている。弁棒18の外径は支持孔17の内径よりも僅かに小さく、この寸法差(クリアランス)によって弁棒18の円滑に移動が確保されている。弁棒18の前端部に設けた弁体19は一次室11内に配置されており、弁棒18が前進すると、弁体19が弁シート20に対して後方から当接することで、弁口13が閉じられるようになっている。
【0012】
支持孔17のうち後端側のほぼ2/3の領域は拡径部21となっており、この拡径部21の略前半部分には、円筒状をなすパッキン22が拡径部21の前端面に当接した状態で取り付けられており、拡径部21の略後半部分には、パッキン22が後方へ移動するのを規制するための円筒状をなすリテーナ23が組み付けられている。パッキン22の外周は拡径部21の内周面に密着し、パッキン22の内周は弁棒18の外周面に密着しており、このパッキン22のシール機能により、一次室11(液剤流路16)内の硬化剤がパッキン22よりも後方(後述する充填室24側)へ漏出することを防止している。
【0013】
支持孔17の後方には、充填室24が形成されている。充填室24は支持孔17の拡径部21と連通しており、充填室24には、ボディ10の外面(下面)に連通する連通口25が形成されている。そして、この連通口25には、透明若しくは透光性を有する材料からなる略L字形のパイプ26の一方の開口端部が液密状を保って接続されている。また、パイプ26の他方の開口端部には封止部材27が液密状に取り付けられている。かかる充填室24内には、空気が混入しないようにして可塑剤28が充填されている。
【0014】
可塑剤28は、アルキルスルフォン酸フェニルエステルからなり、粘度は、100〜130mPa・s(at20℃)であり、無臭で、淡黄色である。また、この可塑剤28は、EDC(内分泌攪乱物質・環境ホルモン物質)を含有していない。
【0015】
上記した弁棒18は充填室24を横切っており、弁棒18の後端部は、シリンダ29内に前後移動可能に設けたピストン30に固着されている。また、シリンダ29内は充填室24から隔絶されている。ピストン30は圧縮コイルバネ31によって前方へ付勢され、常には、圧縮コイルバネ31の付勢にしたがってピストン30と弁棒18が前進して弁体19を弁シート20に当接させることにより、開閉弁装置が閉弁状態に保たれている。また、シリンダ29内に作動エアを供給すると、圧縮コイルバネ31の付勢に抗してピストン30と弁棒18が後退し、弁体19が弁シート20から離間して開閉弁装置が開弁状態となる。開弁状態では、硬化剤が、流入孔14、一次室11、弁口13、二次室12を順に通過する経路で流動する。
【0016】
本実施形態においては、パッキン22の摩耗によって一次室11内の硬化剤が弁棒18の外周面を伝って充填室24側(後方)へ漏出しても、充填室24には可塑剤28が充填されているため、漏出した硬化剤が空気に触れる虞はない。したがって、硬化剤が空気中の水分に接触して硬化することがなく、硬化剤の硬化に起因してパッキン22が傷付けられることが防止される。
また、可塑剤28は、溶剤とは異なり、揮発性が低いため、充填室24内の可塑剤28の量が揮発によって減少する虞がない。したがって、可塑剤28の減少に伴って充填室24内に空気が流入することがなく、硬化剤の空気接触を、より確実に防止できる。
また、可塑剤28は一般的に溶剤に比べて粘度が高く、本実施形態では、可塑剤28の中でも特に粘度の高いアルキルスルフォン酸フェニルエステルを用いているので、充填室24内に混入した硬化剤は、可塑剤28の中で拡散し難く、弁棒18の外周の近傍位置に留まることになる。しかも、リテーナ23の後端部が充填室24内に大きく突出していて、充填室24内における弁棒18の露出領域を囲む環状空間32(リテーナ23の後端面と充填室24の後面壁との間の空間)は狭い空間となっているため、この環状空間32では可塑剤28が流動し難く、硬化剤もこの環状空間32の外へ流出し難い形態となっている。したがって、万一、充填室24内の上端部に空気層が生じたとしても、硬化剤が空気層に触れる虞はない。
また、充填室24には透明又は透光性を有するパイプ26を接続して、このパイプ26中にも可塑剤28を充填しているのであるが、可塑剤28は、淡黄色を呈しているので、可塑剤28が充填されているか否かを目視によって確認することができる。
【0017】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では充填室を開閉弁装置に設けた場合について説明したが、本発明は、開閉弁以外のバルブ装置、ピストン式ポンプ、ギヤポンプ、ディスペンサ等、液剤流路に連通する支持孔に可動部材(例えば、ロッド、ニードル、回転軸等)を貫通させて、支持孔の内周と可動部材の外周との隙間をパッキンでシールする構造を有する装置や機器に適用できる。
(2)上記実施形態では液剤が水性二液ウレタン塗料の原料である硬化剤(イソシアネート)である場合について説明したが、本発明は、硬化剤(イソシアネート)に限らず、空気中の水分との接触によって硬化する性質を有する他の液剤にも適用できる。
(3)上記実施形態では可動部材がその軸方向に往復移動するものである場合について説明したが、本発明は、可動部材がその軸線周りに回転するものである場合にも適用できる。
(4)上記実施形態では可塑剤としてアルキルスルフォン酸フェニルエステルを用いたが、本発明によれば、これに限らず、フタル酸エステル類であるフタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジノニル(DNP)、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジノルマルオクチル(DnOP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)や、アジピン酸エステル類であるアジピン酸ジオクチル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)や、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、リン酸トリクレシル(TCP)、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、トリメリット酸トリオクチル(TOTM)等を可塑剤として用いることができる。
(5)上記実施形態では可塑剤の粘度を100〜130mPa・s(at20℃)としたが、本発明によれば、粘度が13〜130mPa・s(at20℃)である可塑剤を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1の断面図
【図2】図1の部分拡大図
【符号の説明】
【0019】
10…ボディ
16…液剤流路
17…支持孔
18…弁棒(可動部材)
22…パッキン
24…充填室
28…可塑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディに、
液剤が流動する液剤流路と、
前記液剤流路とは独立した充填室と、
前記液剤流路と前記充填室とを連通させる支持孔と、
前記支持孔内を貫通する可動部材と、
前記支持孔の内周と前記可動部材の外周との隙間をシールするパッキンとを備えた液剤硬化防止構造において、
前記充填室内に可塑剤を充填したことを特徴とする液剤硬化防止構造。
【請求項2】
前記可塑剤の粘度が、13〜130mPa・s(at20℃)であることを特徴とする請求項1記載の液剤硬化防止構造。
【請求項3】
前記可塑剤が、アルキルスルフォン酸フェニルエステルであることを特徴とする請求項2記載の液剤硬化防止構造。

【図1】
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【図2】
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