説明

液化バイオマスの製造方法及びその方法で製造された液化バイオマス並びに熱硬化性樹脂

【課題】現在公知の手法に比べ、工業的利用に格段に適合した形でバイオマスを液化し、結果として実用的物性が画期的に備えた熱硬化性樹脂を与えうる合成方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る液化バイオマスの製造方法は、バイオマス100部と、液化調整剤である一価或いは多価アルコール類1000〜5部と、液化媒体であるグリセリン、グリセリン・エチレングリコール混液、グリセリン・メチルアルコール混液、グリセリン・メチルアルコール混液のいずれか、あるいはメチルアルコール、エチルアルコールのみ 5〜1000部と、酸触媒であるプロトン酸を必要に応じメチルエステルなどに変性して、密閉容器内で混合し、90〜160℃の温度範囲で5〜300分間加熱することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系廃棄物や農業廃棄物、食品工業廃棄物等のバイオマスを液化する技術に関し、詳しくは、ポリウレタン製造用ポリエーテルポリオールに適した液化バイオマスの製造方法及びその方法で製造された液化バイオマス並びに熱硬化性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀の中葉から現在に至る石油化学の発展により、耐久性が高く使いやすい人工の合成樹脂が多様に、大量に使われる様になり、人類の生活は随分と便利で快適なものとなってきている。その反面で、大気中の二酸化炭素の増大等、環境問題が著しくなり、石油資源の減少、枯渇といった資源問題も意識される様になってきている。そのような背景のもとで、再生産可能な資源である植物を中心とするバイオマスを、材料やエネルギー源としてより多く活用することが現在世界的に強く求められている。
【0003】
ここでバイオマスとは、木材工業およびパルプ工業等の木材工業における木質系廃棄物、間伐材、建築解体材や稲ワラ、さやガラ等の農業廃棄物等、各種のリグノセルロース類、さらには古古米、酒米磨き粕、大規模パン製造工場などでの床落ち小麦粉など食品工業廃棄物等を指し、本明細書中では、特にことわらない限りこれらの物質を一括してバイオマスという。
【0004】
このようなバイオマスを樹脂化して工業的な利用を促進するために、バイオマスの液化技術の開発研究が進められている。公知技術としては、ベンジル化やアセチル化等、化学的に修飾された木質材を液化対象とし、それらを多価アルコール媒体と酸触媒存在下で120〜180℃の温度範囲で処理する技術がある(例えば、特許文献1)。また、他の公知技術として、木材質をそのままフェノール類またはビスフェノール類の存在下で液化する技術(例えば、特許文献2)や、多価アルコール類の存在下で、木材質をはじめとするバイオマスを液化させて成形物、接着剤、発泡体の調製を試みた技術(例えば、特許文献3)がある。さらに本願発明者らが先に出願し、公開された特許文献4には、バイオマスの液化に広く用いられている硫酸を主とするプロトン酸を一価低級アルコール類である液化調整剤と反応させて得られるプロトン酸エステルが、効果的な液化触媒として機能し得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−171701号公報
【特許文献2】特開昭61−261358号公報
【特許文献3】特許2060161号公報
【特許文献4】特開2007−92008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の公知技術は、化学修飾を行う製造工程が複雑で、高コストとなり、工業化や実用性に乏しいという問題がある。特許文献2及び3に開示されている他の公知技術ではこの問題は解消されているが、バイオマスの液化反応中に一旦低分子化したバイオマス成分の再縮合反応(特にバイオマスがリグノセルロースの場合の低分子化したリグニンの反応性に基づく再縮合反応、バイオマスが澱粉である場合の再縮合反応)、多糖成分の還元性末端部位のアルデヒド構造への異性化に起因するアルドール縮合反応、低分子化糖の脱水反応により生ずるフルフラール類の高分子樹脂化、さらにはフェノール、PEG400(ポリエチレングリコール400)といった液化媒体の必要以上のエーテル化反応が起こり、生成したバイオマス液化物の高分子化と粘度の増大をもたらし、加工性を悪くするといった問題が生じている。また、それらのバイオマス成分に起こる脱水反応による収率の低下、炭化物や発色物質の生成による暗色化さらには不溶解物が生じるといった問題がある。
【0007】
本発明者らは、バイオマスの液化反応中に低分子化されたバイオマス成分の再重縮合などを抑制することが、バイオマス液化技術の進展のために重要であると考え、特許文献4に示すようなプロトン酸エステルを触媒に用いる方法を先に提案した。その効能は確かであり、バイオマスを高能率に、しかも不液化残渣を殆どゼロにするまでの液化を実現させた。このことは、液化媒体中で沈殿を生ずるほどの再重縮合が起こらなくなったことを意味する。すなわち、特許文献4の技術段階で、液化中の再重縮合を格段に抑えて液化しうることが明らかになったが、液化物の示す粘度値がなお高いという点から見て、不十分であり、バイオマス液化技術の工業的実用化の推進のためには改善が求められる状況にあった。
【0008】
これに対して、本発明者は、多量の、一価アルコールを中心とする液化調整剤の存在のもと、十分量の多価アルコール等の液化媒体を共存させた条件下でバイオマスの液化を試み、液化物中で低分子化成分の再重縮合生成が大きく抑制されるという新事実を見出した。そして、反応条件を中心に広く検討した結果、新規な液化バイオマス、その製造方法、及び熱硬化樹脂を見出し、前記再重縮合生成度の十分な低減という課題を解決することが出来た。
【0009】
このようにして得られた液化物のうち多価アルコールによる加溶媒分解液化物の場合はウレタン樹脂調製用のポリオールとしての用途が大きい。しかし、特許文献2〜4に記載されているこれまでの手法で得られたポリオールの場合、すなわち加溶媒分解媒体がPEG400、エチレングリコール、グリセリンなどといったものの場合、たとえ液化が好適に進み、得られた液体の常温での粘度が十分低く、その意味では、ウレタン発泡がより容易に行いえたとしても、樹脂化の反応性、及び、ウレタン樹脂発泡体の物性は現行の工業生産ポリオールを用いるウレタン樹脂発泡体の場合と比べて見劣りし、実用には不十分と判定せざるを得ないものとなる。それらを改善するためには、該液化バイオマスポリオールに石油系の市販ウレタン樹脂用ポリオールを、何種も、量的にも多く添加、ブレンドしなければならないという状況が多く認められた。これらはポリオールの含有するバイオマス量比、すなわち、バイオマス度をかなりの程度低減させることとなり、バイオポリオールを調製し、ウレタン発泡に用いるという石油の使用量削減、更にはCO排出量削減に益するといった意義を低下させる結果となるということを意味し、その根本的解決が求められることとなる。
【0010】
本発明は、このような問題や要求を解決することを課題とし、バイオマスポリオールを得たのち石油系の市販ウレタン樹脂用ポリオールを多量にブレンドしないでも物性の優れた製品化に結び付けうる液化バイオマスの製造方法を提供するものである。それにより、バイオマス度の高い、しかも物性の優れたウレタン樹脂製品の製造を実現させうる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、まず、一価アルコールを中心とする液化調整剤の存在のもと、多価アルコールを各種量比で共存させ、酸触媒存在下で130〜160℃に5〜120分加熱することにより、バイオマスの液化を実現できるという新事実を見い出した。また、その究極の液化形態として、一価の低級アルコールのみの存在下、酸触媒存在下で同様に加熱することにより、バイオマスの液化を実現できるという新事実も見い出した。さらに、天然油脂を加水分解または加アルコール分解して得られるクルードグリセリン等、植物由来のグリセリンを用い得ることに着目すると、多価アルコールとしてグリセリンを用いる場合は、メタノール留去後はバイオマス液化物が100%植物由来のものとなり、好適である。
【0012】
この場合の問題点は、該液化物、たとえば澱粉液化物はグリセリンの高粘度特性(892.2mPa・s)を反映し、取り扱いにくい高粘度物になってしまうということである。例えば液比3で調製した澱粉液化物から、共存しているメタノールなど揮発性成分を留去した生成物は調製・計測した限りで9640mPa・s以上と十倍以上粘度が高まったものとなりその後の取り扱いが困難になった。この問題を解決するためにグリセリンとエチレングリコールなど多価アルコール混合液を液化媒体として用いる方法を見い出した。なお、グリセリンと混合して用いる多価アルコールはウレタン樹脂用ポリオール製造の開始剤として用いられてきたものが好適である。
【0013】
このようにして得られた液化物はそのままでは水酸基価が大きすぎたり、低反応性であったりするといった問題があり、最終製品としてのウレタン樹脂成形品に望ましい物性を与え得ないなど問題を生ずることが知られた。そこで、上記のように得られた各種液化物について、共存している低級アルコールを中心とする揮発性成分の留去或いは共存アルコールの脱水縮合反応によるポリエーテルポリオール化を必要に応じて行った後、触媒の存在下でアルキレンオキシドを付加重合することによるポリエーテルポリオール化を行った。関連の多くの反応条件を中心に広く検討した結果、好適にウレタン樹脂ポリオールなどとして用い得、実用的物性を有する最終成形製品を与え得るバイオマス由来ポリオールを見い出し、前記課題を大きく解決した本特許の出願に至った。
【0014】
即ち、本発明に係る液化バイオマスの製造方法の第1の態様は、バイオマス100部と、一価アルコール類1000〜5部と、液化主媒体である多価アルコール類0〜1000部、酸触媒とを密閉容器に混合し、90〜160℃の温度範囲で5〜300分間加熱反応させることにより液化バイオマスを製造する方法である。この場合、残存一価アルコールを減圧留去するか、或いは多価アルコール類又はバイオマス低分子化物の水酸基と脱水縮合させた上で、触媒の存在下にアルキレンオキシドを付加重合すると良い。場合によっては、一価アルコールの脱水縮合だけで、液化物の多価イソシアネートとの混合性、反応性が高まり、最終ウレタン樹脂製品の発現しうる物性を工業製品として受け入れ得るものとしうる場合もある。
【0015】
また、本発明の第2の態様は、一価アルコール類を欠いた系であり、各種組成の二種以上の多価アルコール類の混合体と酸触媒とを密閉容器内で混合し、90〜160℃の温度範囲で5〜300分間加熱反応させて液化バイオマスを製造する方法である。この場合、通常、液化バイオマス中に共存する揮発成分を減圧蒸留で留去した上で、触媒の存在下にアルキレンオキシドを付加重合すると良い。
【0016】
上記の製造方法により得られる液化バイオマスは、その調製により、多価イソシアネートとの混合性、反応性が高く、好適にウレタン樹脂ポリオールなどとして用いることができ、実用的物性を有する最終成形製品を与え得るバイオマス由来ポリオールを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る液化バイオマスの製造方法は、液化バイオマスの製造の迅速化かつ高収率化を実現できると共に、多価イソシアネートとの混合性、反応性が高く、好適にウレタン樹脂ポリオールなどとして用いることができ、実用的物性を有する最終成形製品を与え得るバイオマス由来ポリオールを現出させた点に重要な意味を持つ。液化に引き続き低沸点の一価アルコール類を留去したり、或いは一価アルコール類を多価アルコール類又はバイオマス低分子化物の水酸基と脱水縮合反応させた上で、触媒の存在下でアルキレンオキシドを付加重合したりして得られる液化バイオマスは、植物由来度の高い樹脂原料として極めて優れた反応性などの特性を有するとともに、バイオマス低分子化成分量に対する液化媒体量の比率(液比)を小さく出来る。
【0018】
また、一価アルコール類を欠いた系で、各種組成の二種以上の多価アルコール類の混合体と酸触媒とを共に密閉容器内で混合し、90〜160℃の温度範囲で5〜300分間加熱反応してバイオマス液化物を得る場合には、液化物中に共存する揮発成分を減圧蒸留で留去した上で、触媒の存在下にアルキレンオキシドを付加重合して得た液化バイオマスも植物由来度の高い樹脂原料として極めて優れた反応性などの特性を有するとともに、バイオマス低分子化成分量に対する液化媒体量の比率(液比)を小さく出来る。これらのことは、多価イソシアネートとの混合性、反応性を高くし、ウレタン樹脂ポリオールとして好適に用いることができ、最終成形製品に実用的物性を与えることを可能とする。このため、工業的に使い勝手の良いウレタン樹脂を実現できることになり、その点でもこれまでになく新規で且つ画期的なバイオマスの材料化を実現し得るということになる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の出発原料として用いられるバイオマスには、木粉、木材繊維、木材チップや間伐材及び単板屑樹皮等を粉砕したリグノセルロース類一般、ワラやモミガラ等の植物繊維、工業澱粉、古古米、酒米磨き粕、大規模パン製造工場などでの床落ち小麦粉、廃糖蜜など食品廃棄物等広範なものが含まれる。
【0020】
本発明に用いられる液化調整剤は、バイオマスの液化時には液化調整剤本来の働きをし、ポリオールとしての物性付与時にはグリセリンなどと脱水縮合して粘度低下調整剤として働く。このような液化調整剤としては低級から高級アルコールを含む一価或いは多価アルコールが用いられるが、特に一級アルコールが好適である。一級アルコールとしては低沸点から高沸点までのものを用いることができる。
【0021】
低級から高級アルコールを広く含む一価のアルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール(ドデシルアルコール)、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、プロパルギルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、シンナミルアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−デカノール、1−ドデカノール、2−ドデカノール、1−トリデカノール、2−トリデカノール、1−テトラデカノール、2−テトラデカノール、7−テトラデカノール、1−ヘキサデカノール、2−ヘキサデカノール、1−オクタデカノール、カテコール、イソデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、シクロヘキサノール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、フェノール、p−エチルフェノール、ナフトール、キシリレノール、グアヤコール、グエトール、p−(α−クミル)フェノール、クレゾール、p−t−ブチルフェノール、フェニルフェノール、4−フェノキシフェノール等が挙げられる。
【0022】
これらのうち、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテルが好ましいが、メチルアルコール及びエチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテルが価格の点から、及びそのもの自体がバイオマスから近年工業的にも誘導し得るようになったという点から、特に好ましい。
これらの一価アルコール類は、それぞれ単独で用いられるが、2種以上の混合物として用いても良い。また、本発明の目的に適した他の適当なアルコール類或いは溶媒との混合物として用いることもできる。
【0023】
多価のアルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、イソソルビド、ビスフェノールA、カテコール、4−t−ブチルカテコール、ハイドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、レゾルシン、p−ヒドロキシフェネチルアルコール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシアントラキノン、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられる。
【0024】
これらのうち、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、グリセリン、トリメチロールプロパンが好ましいが、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール400が価格の点から、及びグリセリン、及びエチレングリコールはそのもの自体がバイオマスから誘導し得るようになったという点から、特に好ましい。
これらの多価アルコール類は、それぞれ単独で用いられるが、2種以上の混合物として用いたほうが良い場合も多い。また、本発明の目的に適した他の適当なアルコール類或いは溶媒との混合物として用いることもできる。
【0025】
次にバイオマスの液化に関して更に説明すべきことを述べる。本発明に用いられるバイオマス液化用触媒としては、アルカリ触媒、酸触媒、固体酸触媒など公知の触媒を使用することが好ましい。
【0026】
アルカリ触媒としては、ナトリウム、リチウム,カリウム、カルシウム、セシウムもしくはマグネシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩もしくは酸化物など、トリス〔トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデン〕ホスホリックトリアミド(PZO)、テトラキス〔トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニデンアミノ〕ホスホニウムヒドロキシド(PZN)、トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスフィンスルフィド(PZS)などのホスファゼン触媒などが挙げられる。
【0027】
酸触媒としては、無機酸および有機酸のいずれを用いてもよい。無機酸としては、たとえば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、過塩素酸等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、蓚酸、モノクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、ナフタリンスルホン酸、ホウ酸、タングステン酸、モリブデン酸、バナジン酸、クロム酸、ヘテロポリ酸(12−タングストリン酸、12−タングストケイ酸、12−モリブドリン酸、12−モリブドケイ酸、12−タングストモリブドリン酸、12−バナドモリブドリン酸、11−モリブド−1−タングストリン酸、10−モリブド−2−タングストリン酸、8−モリブド−4−タングストリン酸、5−モリブド−7−タングストリン酸、3−モリブド−9−タングストリン酸、1−モリブド−11−タングストリン酸、11−モリブド−1−タングストケイ酸、8−モリブド−4−タングストケイ酸、6−モリブド−6−タングストケイ酸、3−モリブド−9−タングストケイ酸、1−モリブド−11−タングストケイ酸、11−タングスト−1−バナドリン酸、10−タングスト−2−バナドリン酸、8−タングスト−4−バナドリン酸、11−モリブド−1−バナドリン酸、10−モリブド−2−バナドリン酸、8−モリブド−4−バナドリン酸等)等が挙げられる。
【0028】
固体酸触媒としては、たとえば、下記(A)〜(F)の触媒が挙げられる。
(A)層構造を有する珪酸塩に酸を含浸させ、乾燥した触媒(以下、「触媒A」という)。
(B)Fe、Ti、Zr、Hf、Mo、W、V、Sn、Si、Al、Zn、MgおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む無定型または結晶性の金属酸化物に酸を吸着させて焼成した触媒(以下、「触媒B」という。)。
(C)焼成前の上記無定型または結晶性の金属酸化物の水酸化物(部分水酸化物を含む)に酸根含有のシランカップリング剤またはチタンカップリング剤を反応させた触媒(以下、「触媒C」という。)。
(D)酸型のカチオン交換樹脂(以下、「触媒D」という。)。
(E)Cu、Zn、B、Al、Fe(II)、NiおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む無機酸塩を焼成した触媒(以下、「触媒E」という。)。
(F)ヘテロポリ酸の不溶性酸性塩(以下、「触媒F」という。)。
【0029】
これらのうち、本発明における液化用触媒としては、プロトン酸が好適に用いられる。プロトン酸としては、特に実用性の高い硫酸が挙げられる。この場合、液化調整剤として挙げたメチルアルコールと反応させて得たメチル硫酸を使うことが特に好適である。他にフェノールスルフォン酸が好適に使われる。
【0030】
前記したバイオマス、液化調整用の一価アルコール、液化媒体、及び酸触媒の混合物の各成分量は、それらの種類や液化バイオマスの使用目的等に応じて適宜変化するが、通常はバイオマス100部に対して酸触媒(プロトン酸)0.1部〜10部、好ましくは1〜5部とし、液化調整用一価アルコール類1000〜0部、好ましくは750〜3部、液化媒体(多価アルコール類或いはその混合物)10〜1000部、好ましくは20〜300部、とすることができる。
【0031】
なお、特異例として、液化媒体を用いず、液化調整用の一価アルコールのみを酸触媒と共に用いてバイオマスを液化しうる場合もある。この場合、液化調整用の一価アルコールとしてメチルアルコールを用いると、バイオマスが変性しつつ低分子化してメチルアルコールに溶解した状態となり、生成液化物は液体バイオ燃料としても用いうるものとなる。
【0032】
いずれにしても、本発明の液化バイオマスは、バイオマス、液化調整剤、液化媒体、及び酸触媒の混合物を耐圧反応容器に仕込み、110〜160℃の温度範囲で5〜300分間、攪拌または非攪拌下、加熱させて生成する。必要があれば、予め酸触媒を液化調整剤、又は液化調整剤と液化媒体の混合物、又は液化媒体と40〜100℃の温度範囲で3〜150分反応させて用いる。反応後、必要に応じて、中和、液化調整剤の留去、回収を行う。このようにして生成された液化バイオマスのバイオマス成分の含有率は、前記した混合物の各成分量に応じて重量%で5〜95%の範囲である。
【0033】
前記した混合物の各成分の割合や添加順序は、バイオマスの種類、反応意図・製造設計によって適宜選択されるべきものである。プロトン酸触媒が、もっとも良く使われる硫酸である場合、バイオマスと混合する前に、予め液化調整剤(一価アルコール類)のみ、又はそれら及び/又は液化媒体(多価アルコール類)のそれぞれ一部又は全部と、酸触媒である硫酸とを混合し、密閉容器で40〜100℃、好ましくは50〜60℃で、3〜150分、好ましくは15〜60分反応させて硫酸エステルを含有する反応液を作成する。このようにして、予め硫酸エステルを生成させた反応液中に、合計で、硫酸触媒0.1〜10部、バイオマス100部、液化調整剤1000〜0部、液化媒体10〜1000部となるように必要成分を混合させて、耐圧密閉容器において90〜160℃の温度範囲で5〜300分間加熱することにより液化バイオマスを生成させる。
【0034】
つまり、液化調整剤の全部又は一部と硫酸触媒、液化媒体の全部又は一部と硫酸触媒、液化調整剤と液化媒体とを足したものの全部又は一部と硫酸触媒とを先に混合して硫酸エステルを生成させ、残りの液化調整剤及び液化媒体を加えた反応液を予め作成し、この作成された反応液にバイオマスを混合し、生成している硫酸エステルを液化触媒として作用させてバイオマスを液化することになる。また、液化調整剤の全部又は一部と、酸触媒の全部とから反応液を作成し、この反応液に、液化媒体の全部と、バイオマスと、残りの液化調整剤とを混合させる場合もある。またバイオマスを先に秤りとって、上記のように調製される反応液を適宜に加えてもよく、それらの順序にはこだわらない。
【0035】
なお、一般にバイオマスが多価アルコール類、及び/又は一価アルコール類と反応し固相から液相へ少なくとも75%程度変換すると、外観上、液化物が得られたといえる状態になる。本発明で得られた手法によれば、そのような75%変換は容易に達成できる特徴を有している。
【0036】
液化のための耐圧密閉容器としては、この反応を実施できるものであれば良く、通常反応中は密閉され、その後常圧及び減圧濃縮が可能なものが望ましい。液化の初期には反応に関与する物質の全体が良く混和し、その後期には十分な攪拌が可能な装置や、反応の必要に応じてそのような混和と攪拌が効果的に行われ得る装置を用いると、液化を助長し、反応条件を緩和することができるので望ましい。例えば、エックストルーダ等を用いれば、トルクにより反応液がバイオマスに圧入されて反応液とバイオマスとの混和が促進される。そうすると、バイオマスの液化が助長され、小さい液比でも液化が達成されることになる。
【0037】
続いて、本発明における反応系の重要と思われるプロセスについて検討する。
特に前記した一価アルコール類と、さらに市販ポリオール類、多価アルコール類、といったアルコールと硫酸とを混合するとモノアルキル硫酸が容易に生成し、共存するバイオマス多糖及び/またはリグニンのグリコシド化、及び/またはエーテル化をより強く触媒するものとなる。このようなグリコシド化、及び/またはエーテル化試薬としての特性は、このモノアルキル硫酸よりも、さらにアルコールと反応してなるジアルキル硫酸のほうが強いことが知られている。このジアルキル硫酸は単に硫酸とアルコールを混合させただけでは生成しないので、生成させるために、50〜100℃で20〜50分加熱反応させることになる。
【0038】
グリコシド結合の解裂に伴って、及び/または水酸基との反応で、グリコシド、及び/またはエーテルがそれぞれ生成する反応は、これら硫酸エステルが多糖などのグリコシド結合、及び/またはアルコールに反応するとともに、別のアルコールにより硫酸が引き出されて(硫酸エステルが再生して)、反応が進行することになる。この反応は、硫酸エステルから安定な硫酸アニオン(HOSO3−)が脱離することが駆動力になっている。
このためアルコールを前もって硫酸と処理して硫酸エステルとしておけば、木材中の水酸基をエーテル化したり、木材成分中のグリコシド結合やエーテル結合部位を加アルコール分解したりすることが効果的に達成されることになり、バイオマスの液化が促進される。このように硫酸エステルのような反応性の高い試薬を用いる結果、バイオマスの液化反応の反応温度を引き下げることも可能である。なお、本来的にはアルコールの硫酸エステル化はアルコールと硫酸を室温に放置しても徐々に進行するが、実際的には50〜60℃で、数十分加熱ですることにより短時間で達成されるものである。
【0039】
次に、硫酸エステル(プロトン酸エステル)がバイオマスの液化反応において有効な液化触媒として作用することについて、発明者の一人がかつて行った、単糖(D-(+)-グルコース(Glc)、メチル-α-D-グルコシド(m-Glc))を用いた実験をもとにして説明する(Mariko Yoshioka, Atsushi Miyata, Yoshiyuki Nishio: Preparation of liquid polyesterpolyols from glucose and its methyl derivative, Journal of Wood Science, 50 (6), 504-510 (2004);Mariko Yoshioka, Atsushi Miyata, Tadashi Yagi, Yoshiyuki Nishio: Preparation of polyols from methyl-α-D-glucoside and cyclic esters for design and fabrication of biodegradable polyurethane foams, Journal of Wood Science, 50 (6),511-518 (2004))。
【0040】
ここで、Glcとm-Glcをそれぞれ150℃でε-カプロラクトンと反応させたところ、Glcでは反応液の顕著な褐色化、著量の高分子量物質の副生、pHの酸性側へのシフト、多量の水の生成、著しい水酸基価の減少が起こった。これに対し、m-Glcでは褐色化は進まず、高分子物や水の副生、そしてpHや水酸基価の変化といった副反応は認められず、カプロラクトンのグラフトのみが起こった。
【0041】
すなわち、Glcにおいては、その還元性末端部位においてアルデヒド構造へ異性化したものの行うアルドール縮合等、アルデヒド基由来の反応、Glcからの脱水反応により生ずるフルフラール類の高分子樹脂化、Glc変性物間での縮重合等を起因とする高分子化物の生成や反応液の粘度の増大、収率の低下、発色物質の生成といったことが起こるのに対し、m-Glcではそれらが起こらないということである。すなわち、Glcは、メチルグルコシド化されてm-Glcになることにより、安定化することが示唆される。
これらの差異が生じる理由は、Glcが一種のヘミアセタールであり、アルデヒド構造への異性化が起こり変性しやすいのに対し、m-Glcは安定なアセタール構造をとっているため異性化が困難であるためと考えられる。
【0042】
従って木材や澱粉等、バイオマスの液化反応を進める際に、セルロースやヘミセルロース及び澱粉の主鎖グルコシド結合の加溶媒分解により生成する還元性末端のメチルグリコシド化を進めることは、低分子化されたものを含め、望ましくない副反応を抑制することにつながり、優れた液化を実現することになる。これが、特許文献4の発明において不完全ながら優れた特性を有する液化バイオマスが得られたことの説明である。
【0043】
なお、硫酸やフェノールスルフォン酸を触媒として、90℃以上の温度でメタノールをGlcに反応させてm-Glcが合成されることは公知であり、特許文献4の発明に係る液化バイオマスの製造方法においてはこの反応の応用を意識して行われた。しかし、それでもなお、バイオマス液化過程では減じたとはいえ、なお、多くの一旦低分子化したバイオマス成分の再重縮合が認められ、粘度が予期より高くなる傾向が認められて問題視されてきた。溶液粘度や溶融粘度が基準値よりも高いということは、加工性を損ない、工業原料として致命傷を持つことにもなりがちである。
【0044】
そこで、その後、特許文献4の発明の改良を、生成バイオノボラック樹脂及びバイオポリオールの粘度の低減に目標を絞って種々検討してきた。
その中で、液化調整剤(メチルアルコール)の量を大きくした実験の結果、思いがけなく低粘度のバイオマス液化液が得られた。そこで、本願発明者は、液化調整剤を多量に仕込んでの液化実験を系統的に検討した。この検討結果は、本願発明者による先の出願(特願2009-6705、出願日:2009年1月15日。以下、「先行特許出願5」という)につながった。
【0045】
通常、液化媒体によるバイオマス構成成分の加溶媒分解によってバイオマス液化は進むと考えられており、このようなバイオマス液化の結果として、反応性が十分高いノボラック樹脂用ポリオールやウレタン樹脂用ポリオールが生成されることを期待している。それに対して、液化調整剤(メチルアルコール)を添加すると、バイオマス成分の水酸基を中心とする官能基と反応してその数を減らし、液化生成物の反応性の低減をもたらすことになる。したがって、液化調整剤(メチルアルコール)は、メチル硫酸触媒の調製に必要な量を意識して行う添加するのが(つまり、できるだけ添加量を少なく抑えるのが)、通常の考え方である。
【0046】
ところが、メチルアルコールを多く加えることにより、水酸基数が減ることが系内の水素結合を減らし、その結果、凝集性が減じて上記のように粘度を低減させるなど、従来とは明確に逆の結果が先行特許出願5で得られたわけである。
なお、先行特許出願5の検討の中で、メチル硫酸エステル触媒の使用は必須でなく、代わりにフェノールスルフォン酸を使い、液化調整剤(メチルアルコール)を多く加えても低粘度で使い勝手の良いバイオマス液化液を合成しうることも明らかになった。
【0047】
このようにして先行特許出願5に係る発明は、プロトン酸エステル(硫酸エステル)やフェノールスルフォン酸を液化触媒として用い、液化調整剤(メチルアルコール)を液化媒体(フェノール、PEG400-エチレングリコールなど)とともに加えて用いることにより、容易に粘度が低く、使い勝手のよいバイオマス液化物を得ることが出来ることを見い出し完成された。そして、先行特許出願5に係る発明により製造された液化バイオマスは均一な液状物を構成することになった。さらに、バイオマスの液化過程で高分子化物の生成や再重縮合が起こらないため、不溶解残渣量が無視できる値に低下するとともに、液化収率も高まった。同時に、得られた液化バイオマスは、粘度が低くなるため、取り扱いの容易な物性が得られることにもなった。さらに、今回、液化調整剤(メチルアルコール)のみによる液化が可能なことを見い出し、検討を行った。
【0048】
他方で、従来から行われているように液化媒体としてPEG400とエチレングリコール混液、PEG400とグリセリン混液といった一般的化成品としての多価アルコールを用いてバイオマスを加溶媒分解して得られたポリオールの場合にも、先行特許出願5に示されているように、液化バイオマスは、少なくともバイオマス中の水酸基よりも反応性の高い液化媒体(多価アルコール類)が導入されて活性化され、また、それらが反応し得ない部位も含め液化調整剤(メチルアルコール)も反応しているので、その使用に際し必要に応じ添加される市販ポリオールとの親和性にも優れている。また、液化調整剤が十分量仕込まれ反応されたものであるので、未反応のメタノールなどの留去、回収により、バイオマス由来成分量が多いポリオールという特徴も容易に与えることもできる。
【0049】
しかしながら、これらポリオールをウレタン樹脂用ポリオールとして使用しようとした場合なお、解決すべき重大な問題点が存在することが明らかになってきている。その一つは、多価イソシアネートとの反応性が足りないという点である。二つ目は、これらポリオールから得られる製品の靭性の不足など物性に問題が現れ、その解決が困難であるという点である。特に半硬質や軟質のウレタン樹脂といった使用頻度の高い発泡体をこれらポリオールから製造することが困難という問題点が明らかになってきている。これまでは、市販の半硬質及び/又は軟質のポリオールを添加、ブレンドすることで上記問題点を解決しようとしてきた。しかし、均一にブレンドすることは困難であり、界面活性剤を添加することでは解決できないこと、製品のバイオマス含量が望ましくない程度まで低下することといった問題を引き起こしてきた。
【0050】
そこで、上記問題点を解決する手法として、本発明者は、従来からの本発明者による発明を踏襲しつつ、新たに、液化に引き続き低沸点の一価アルコール類を留去したり、或いは一価アルコール類を多価アルコール類又はバイオマス低分子化物の水酸基と脱水縮合反応させるといったことをまず行った上で、触媒の存在下にアルキレンオキシドを付加重合してポリエーテルポリオールを製造するという方法を検討した。その結果、最終的に得られた液化バイオマスは植物由来度を高度に維持しつつ、ウレタン樹脂原料ポリオールとして極めて優れた特性を有すること、また、該液化バイオマスから得られるウレタン樹脂発泡体など生成物の物性を高め、バイオマス低分子化成分量に対する液化媒体量の比率(液比)を小さく出来ることを見い出し、本発明を完成させた。
【0051】
本発明方法によれば、バイオマスをより有効にかつ容易に、樹脂原料として利用可能なバイオマス液化物に変換することができる。従って、本発明の液化バイオマスの製造方法、並びに本発明の方法によって得られたバイオマス液化物は、容易でかつ付加価値の高いバイオマスの有効利用の可能性を与えるものと言える。
【0052】
ここで、一価アルコール類を多価アルコール類又はバイオマス低分子化物の水酸基と脱水縮合反応について、簡単に説明する。例えばグリセリンはウレタン樹脂用開始剤として繁用されているが、それ自身粘度が高い。それを液化媒体としてバイオマスを液化すると、液比が3の場合でも前出のように粘度は10倍以上大きくなり、ウレタン樹脂原料ポリオールとして使いにくいものとなる。そのため、粘度を低減させ高官能かつ低粘度のポリエーテルポリオールの実現は強く要望されている。そのための手法の一つとして、グリセリンと1価および/または2価のアルコールとを、これらの合計100モル%に対してグリセリンが50モル%を超える割合で脱水縮合させる方法がWO2008/053780号公報に開示されている。
【0053】
次に、触媒の存在下にアルキレンオキシドを付加重合してポリエーテルポリオールを製造するという方法について述べる。この方法は、上記問題点を解決する方法の主軸となる。ポリウレタンフォームを製造の原料の一つとして用いられるポリエーテルポリオールは、開始剤の活性水素化合物とアルキレンオキシドを塩基性触媒の存在下で反応させることにより製造される。
アルキレンオキサイドの付加は常法に従い、水酸化カリウム等のアルカリ触媒0.05〜0.50%(対出発原料)の存在下、温度110〜130℃、圧力2.5〜6.0kg/cm2の条件下で行う。複数のアルキレンオキシド種を付加する場合も多いが、その付加方法はランダムでもブロックでもよい(特開平9−194588号公報参照)。
【0054】
硬質ポリウレタンフォームの製造に使用されるポリエーテルポリオールの開始剤となる活性水素化合物として、多官能化による物性向上という点から、蔗糖に代表される糖類のような多官能開始剤が使用されてきている。蔗糖などは常温で固体であるため、アルキレンオキシドを反応させ、ポリエーテルポリオールを製造する際には、有機溶媒や、水又はグリセリン等に代表される低分子アルコールによる希釈重合法が用いられる。有機溶媒を使用する方法として、ジメチルホルムアミドを使用して固体の開始剤(蔗糖)を溶解する方法があるが、ジメチルホルムアミドのような溶媒はポリウレタン樹脂の製造には不必要なものであり、また、ポリエーテルポリオールの製造時やポリウレタン製造時、溶剤の臭気は作業者の健康に悪影響を及ぼす。また、溶媒の除去には多大な労力を要し、工業的にも好ましいものではない。
【0055】
水やグリセリン等に代表される低分子アルコールを固体開始剤(蔗糖)の溶媒として用いることもできるが、このような溶媒に対してはアルキレンオキシドが付加し、溶媒の分子量が増大するため、製品から溶媒を除去することができない。ただし、溶媒として用いる水や低分子アルコール、及び/又はそれらのアルキレンオキシドの付加物は活性水素を有するため、ポリウレタン製造の際に、実質的にイソシアネートと反応して樹脂形成に寄与する。しかし、溶媒として用いる水や低分子アルコール、及び/又はそれらのアルキレンオキシドの付加物はポリエーテルポリオール製品中におけるモル濃度が高いため、糖類が高い官能基数を有するにもかかわらず平均官能基数を著しく低下させ、ポリウレタン樹脂の物性の向上に寄与しない。
【0056】
活性水素化合物にアルキレンオキシドを付加する反応に使用される塩基性触媒としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が最も一般的である。これらの触媒は安価であること、工業的に使い得る十分な反応速度を与えること、燐酸等による中和により製品に不溶の塩を形成し、ろ過により簡便に除去できること等、工業的に有利な点を有している。
【0057】
しかしながら、糖類のような固体開始剤の希釈重合においては、開始剤全体に占める固体開始剤の比率や製品の水酸基価の設定によって、アルキレンオキシド付加終了後、しばしば反応液中に未反応の開始剤が残存する。また、開始剤が残存しない場合においても、中和精製後の製品中に未反応の開始剤が溶解し、時間と共に析出することがある。この残存する未反応開始剤はポリエーテルポリオール製造工程において、中和精製時のろ過不良を引き起こすことがあり、また、ポリエーテルポリオール製品中に析出した場合、機械成形においてポリウレタンフォームを製造する際、発泡装置内での析出物による反応ラインの閉塞等を引き起こす恐れがある。
【0058】
これら問題点を考慮し、より改善された蔗糖のような固体開始剤のアルキレンオキシド付加法が見い出され、使われてきている。例えば、糖類100重量部を平均分子量が300以上で平均官能基数が3以上のポリエーテルポリオール20〜400重量部に溶解した上で、触媒の存在下にアルキレンオキシドを付加し、ポリエーテルポリオールを製造するといった方法が使われてきている。触媒としては次に示すアミン化合物、或いは該アミン化合物とアルカリ金属水酸化物との混合物が使用されている。
【0059】
溶媒として用いられるポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、公知の開始剤に対するプロピレンオキシドとエチレンオキシドのブロック及び/又はランダム共重合物等、ポリテトラメチレングリコール等の平均分子量300以上で平均官能基数が3以上のものが用いられている。分子量が600以上で平均官能基数が5以上のものが更に望ましいとされている。また、分子中にエステル基やアミド基を含むものも用いられている。これらポリエーテルポリオールを2種以上、任意の割合で混合して用いる例もあるが、分子量が小さいポリエーテルポリオールを溶剤として用いると、そのモル濃度が高くなり、平均官能基数を低下させてしまうという問題が起こる。
【0060】
溶媒の使用量は糖類100重量部に対して、30〜200重量部が望ましいとされている。この範囲より少ないと、反応系の撹拌負荷が大きく実際の製造に困難をきたすことがあり、範囲を越えると、そのモル濃度が高くなり、平均官能基数をあまりに低下させてしまうことになる。
【0061】
触媒としての、アミン化合物としては、ジメチルオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルスチリルアミン、ジメチルパルメチルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルリノレイックアミン、ジメチルリノレニックアミン等が用いられてきている。その使用量は反応物総量に対し、0.01〜5.0重量%、好ましくは0.1〜1.0重量%であり、アルカリ金属水酸化物触媒の場合は0.01〜5.0重量%、好ましくは0.01〜1.0重量%の量が使用されている。
【0062】
使用されるアルキレンオキシドには、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド等が含まれ、それぞれ単独あるいは2種以上が混合して用いられる。反応温度としては、60〜150℃、望ましくは、80〜130℃とされている。反応時の圧力は10kg/cm以下にされている。
【0063】
このような糖類のアルキレンオキシド化反応を更に広げるものとしても本発明は機能する。即ち、糖類として澱粉、セルロース、ヘミセルロースを考えた場合、それらは必ずしも、或いはまったく上記の溶媒として用いられているポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、公知の開始剤に対するプロピレンオキシドとエチレンオキシドのブロック及び/又はランダム共重合物等、ポリテトラメチレングリコール等の平均分子量300以上で平均官能基数が3以上のものといったポリエーテルポリオールには溶解しない。したがって、アルキレンオキシド化が逐次溶解反応的に推移し不十分なものとなることが多い。この点も本発明は改良、解決するものであり、その意味は大きい。即ち、澱粉、セルロース、ヘミセルロースなど高分子バイオマスは、本発明の主要発明部分であるバイオマス液化によって低分子化され液状化することが出来るが、これは溶解状態でのアルキレンオキシドの付加重合反応を可能にするものである。
【0064】
以下、本発明を、実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。これら実施例及び比較例で使用される木粉は、LIGNOCEL,S150 TR(独 J.Rettenmaier & Soehne社製)を、セルロースはKC-フロックW-400G(日本製紙ケミカル株式会社製)を、それぞれ一度真空乾燥し、デシケーター中に保存したものである。澱粉は食品用市販品(日清製粉株式会社製薄力粉)及び古米からの米粉をそのまま使用した。
【実施例1】
【0065】
(液化バイオマスの製造)
メチルアルコール50gを100ml容フラスコに秤りとり、外部より氷水で冷やし60℃以下に保つようにしながら、攪拌下で30mlの硫酸を滴下し、一旦十分安定化させた後、フラスコの上部に還流コンデンサーを接続したうえで、60℃で30分間攪拌下に加熱反応させ硫酸メチルエステルに変換させた。
【0066】
その上で、グリセリン43.3g、エチレングリコール19.4gと、あらかじめ上記のように調製した硫酸エステル5.28g(グリセリンとエチレングリコール合計量の3%相当の硫酸と5%相当のメチルアルコールから調製) をマグネチック回転子を挿入した50ml容のテフロン(登録商標)内筒密閉容器TAF-SR50(耐圧硝子工業株式会社製)に秤りとり、直ちに混合し、引き続いて澱粉(日清製粉株式会社製薄力粉)22gを加え、攪拌したのち密栓した(澱粉の2.85倍重量量の媒体(グリセリン+エチレングリコール)を加えたことになる;液比 2.85)。
【0067】
密封後直ちに140℃の油浴に沈めて、マグネチックスターラーによる攪拌下に60分反応させた。その際テフロン(登録商標)内筒密閉容器は油浴内の定められた箇所に垂直に立て、容器全体が完全に油浴内に沈むようにした。
【0068】
60分の液化反応終了後、油浴から容器を引き上げ、氷水中で十分冷却した。反応容器の外部に付着した熱媒油(シリコーンオイル)を除去した上で開栓し、先ず均一に攪拌した状態で内容物約5gを200 ml容ビーカーに精秤した。このビーカーに約100 mlのメチルアルコールを加え、12時間以上攪拌した上で、ガラス繊維濾紙(TOYO "GA100")を用いてこの希釈反応液を濾過し、液化物と不溶解残渣とを分離した。不溶解残渣はさらにメチルアルコールを用いて数回洗浄し、予備乾燥の後、105℃で一夜、真空乾燥し、秤量して不液化残渣率を求めた。また、残った液化物はすべて1 L容ビーカーにメチルアルコールを用いて洗い出し全量を約600mlとして、酸化マグネシウムを加えて中和した後、12時間以上攪拌した上でガラス繊維濾紙(TOYO "GA100")を用いて濾過し、ついで、ロータリーエバポレーターでメタノール、水など揮発成分を取り除き、粘度及び水酸基価測定に供した。
【0069】
得られた不溶解残渣率は0.248% と低く、ほとんど完全に液化が実現されたといえる値であった。
【0070】
なお、上述のように、液化後、中和・濾過し、揮発性成分を留去して得られた生成反応液(液化バイオマス)の粘度を25 ℃で測定した。粘度計としては、東機産業株式会社製のRE80U型粘度計を標準ロータ(1°34′×R24)とともに用いた。その結果、得られた粘度値は2,304mPa・sであった。これは、後述の実施例2における、グリセリンのみを液化媒体として得られた同種澱粉の液化バイオマスの粘度値(13,620mPa・s)に比べて約1/6低い値であった。これら2つの粘度値の比較から、ウレタン樹脂用のポリオールとして使いやすい粘度をもつ液化バイオマスを製造するためには、液化媒体をグリセリンのみとせず、グリセリンとエチレングリコールとを適切に混合したものとすることが極めて合目的な手法であるといえる。
【0071】
また、上述のように、液化し、精製して得られた生成反応液(液化バイオマス)の水酸基価を、JIS K 1557-1 に準拠するフタル化法で測定した。測定は、フタル化した液化バイオマスを、京都電子工業株式会社製電位差自動滴定装置AT-510を用いた中和滴定法により2回行った。2回の測定値の平均として1,385mgKOH/gの水酸基価が得られた。なお、JIS K 1557-2 に準じて求めた水分量は1.02%であった。
【0072】
(ポリエーテルポリオールの調製)
上記の手法で複数回調製して得た澱粉液化物50gとジメチルパルミチルアミン0.54gを内容積200mlのオートクレーブに装入し、オートクレーブ内を乾燥窒素で置換し、撹拌、昇温を開始し、90℃で、反応機の内圧が4.0kg/cm2G以下に保たれるように43.9gのプロピレンオキシドを徐々に装入し、反応を行った。3時間でプロピレンオキシド装入終了後、110℃に昇温し、内圧の低下が認められなくなるまで5時間攪拌した。反応終了後、残存するプロピレンオキシドを減圧により除去し、内容物を取り出した。得られたポリエーテルポリオール製品は89gで黒褐色の液体であり、水酸基価は446mgKOH/gであった。
【0073】
(硬質ポリウレタン発泡体の作製)
上記調製で得た本実施例1の(ポリエーテルポリオールの調製)で得られたポリエーテルポリオール20部に、触媒(発泡触媒・主として樹脂化剤)としてカオライザー No.1(1,6-N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサンジアミン;花王株式会社製)0.36部、触媒(発泡触媒・主として泡化剤)としてカオライザーNo.3(N,N,N’,N’’,N’’-ペンタジメチルジエチレントリアミン;花王株式会社製) 0.73部、発泡剤として水 0.4部(上記の液化物中に存在する水分量も合算して)、整泡剤としてシリコーン系X20-1328(信越化学株式会社製) 0.4部を混合し、レジンプレミックスを調製した。このレジンプレミックスにポリメリックMDI(基本物質:ジフェニルメタン4,4’-ジイソシアネート;三井化学株式会社製)25部を加え、T.K.ロボミックス(プライミクス株式会社製)を用いて3000rpmで5秒攪拌した後、混合液を100mm×100mm×180mmのフリー発泡用BOXに注入したところ、硬質ポリウレタン発泡体を得ることができた。計測したクリームタイム(CT)は8秒、ゲルタイム(GT)は24秒、ライズタイム(RT)は73秒であった。調製した発泡体は、24時間放置後、60mm角の立方体を切り出し、圧縮強度測定に供した。圧縮強度は株式会社島津製作所製のオートグラフ(圧縮モード)で測定し、25%歪み時圧縮応力値として51.6MPaの値を得た。
【0074】
この実施例1で調製されたポリエーテルポリオールを使用することにより後述の実施例2や比較例1に比較してプレミックスの粘度が低くなり、セル状態も微細である安定なフォームが得られた。従って、実施例1のポリエーテルポリオールの発泡特性及びフォーム物性は極めて良好といえる。
【実施例2】
【0075】
(液化バイオマスの製造)
液化バイオマスの製造実施例2では、液化媒体をグリセリンのみ62.7gとするという変更の他は実施例1の(液化バイオマスの製造)に準じて液化物を製造した。その結果、不溶解残渣率は0.20%であった。実施例1の不溶解残渣率(0.25%)との比較から、液化媒体をグリセリンのみとしても、ほぼ同等の液化をなし得ることが分かった。
【0076】
なお、この液化バイオマスについて、実施例1の場合と同じ方法で測定した粘度は13,620mPa・sであり、上記したように実施例1で得られた値の約6倍大きな値である。従って、液化媒体をグリセリンのみとした実施例2で得られる液化バイオマスは、液化媒体をグリセリンとエチレングリコールとの混合液とした実施例1の液化バイオマスに比べると、粘度の点でウレタン樹脂用ポリオールとしては使い勝手が悪いといえる。実施例2の液化バイオマスの水酸基価は1,478mgKOH/gであった。また、水分量は1.68%であった。
【0077】
実施例1及び2の液化バイオマスの製造方法では、植物油などの天然油脂から製造しうるグリセリン、植物由来物質であるヘミセルロースから製造しうるエチレングリコールを液化媒体として用いることで、得られるポリオールを100%植物由来にすることができる。
【0078】
(ポリエーテルポリオールの調製)
本実施例2の(液化バイオマスの製造)法に従い、複数回調製して得た澱粉液化物を用いる以外、実施例1の(ポリエーテルポリオールの調製)法に従い反応した。得られたポリエーテルポリオール製品は91gで黒褐色の液体であり、水酸基価は453mgKOH/gであった。
【0079】
(硬質ポリウレタン発泡体の作製)
本実施例2の(ポリエーテルポリオールの調製)で得られたポリエーテルポリオールを20部用いる以外、実施例1の(硬質ポリウレタン発泡体の作製)法に従い硬質ポリウレタン発泡体を得た。その際、計測したクリームタイム(CT)は9秒、ゲルタイム(GT)は27秒、ライズタイム(RT)は75秒であった。調製した発泡体は、24時間放置後、 60 mm 角立方体を切り出し、圧縮強度測定に供した。圧縮強度の測定はオートグラフ(株式会社島津製作所製)を圧縮モードで用い、25%歪み時圧縮応力値として55.1MPaの値を得た。
この実施例2で調製されたポリエーテルポリオールを使用することにより実施例1や比較例1での場合に比較してプレミックスの粘度が高くなるが、得られたフォームのセル状態も微細である安定なフォームが得られた。本発明のポリエーテルポリオールの発泡特性及びフォーム物性は良好といえる。
[比較例1]
【0080】
(液化バイオマスの製造)
液化媒体としてグリセリン/エチレングリコール混合液、或いはグリセリンのみを使用せず、従来からバイオマス液化の検討の際に用いられてきたものの代表である、PEG400とエチレングリコール8:2重量比の混液を用いる他は実施例1の(液化バイオマスの製造)に準じて行った液化結果を 比較例1(液化バイオマスの製造)として示す。すなわち、マグネチックスターラーを挿入した100 ml容のテフロン(登録商標)内筒密閉容器TAF-SR50(耐圧硝子工業株式会社)にPEG400とエチレングリコールの重量比で8:2の混合液 62.7 g とあらかじめ実施例1の(液化バイオマスの製造)の欄の冒頭で述べた仕様で調製した硫酸エステル5.28 gを混合しながら秤りとったのち、澱粉(日清製粉株式会社製薄力粉)22gを加えた(澱粉の2.85倍重量量の媒体(PEG400とエチレングリコール)を加える;液比 2.85)。それを 実施例1(液化バイオマスの製造)に準じて、140℃で、60分反応させ、不溶解残渣率を求めたところ 2.65 % の値が得られた。ほぼ完溶しているが、実施例1及び2の(液化バイオマスの製造)の対応する結果と比べると一桁大きな値になっている。得られた液化物の25 ℃ での粘度は5,632mPa・sであり、水酸基価は632mgKOH/g、また、水分量は2.30%であった。
【0081】
(ポリエーテルポリオールの調製)
上記の比較例1の(液化バイオマスの製造)法に従い、複数回調製して得た澱粉液化物を用いる以外、実施例1の(ポリエーテルポリオールの調製)法に従い反応した。得られたポリエーテルポリオール製品は87gで黒褐色の液体であり、水酸基価は431mgKOH/gであった。
【0082】
(硬質ポリウレタン発泡体の作製)
本比較例1の(ポリエーテルポリオールの調製)で得られたポリエーテルポリオールを20部用いる以外、実施例1の(硬質ポリウレタン発泡体の作製)法に従い、硬質ポリウレタン発泡体を得た。その際、計測したクリームタイム(CT)は14秒、ゲルタイム(GT)は32秒、ライズタイム(RT)は88秒であった。調製した発泡体は、24時間放置後、60mm角の立方体を切り出し、圧縮強度測定に供した。圧縮強度の測定はオートグラフ(株式会社島津製作所製)を圧縮モードで用い、25%歪み時圧縮応力値として58.7MPaの値を得た。
【0083】
この比較例1で調製されたポリエーテルポリオールを使用することにより実施例1や実施例2に比較して反応活性が低下し、同じ触媒量で調製した硬質スラブフォーム(フリーフォーム)の発泡倍率や発泡高さが低減する。得られたフォームのセル状態も粗大なものが微細なものに散在したものであり、物性の計測に向かないものであった。本比較例のポリエーテルポリオールの発泡特性及びフォーム物性は実施例1及び2の場合と比較すると相対的に劣るといえる。
【実施例3】
【0084】
(液化バイオマスの製造)
バイオマス試料を米粉とし、液化媒体のグリセリンとエチレングリコールの重量比を8:2とするという変更の他は実施例1の(液化バイオマスの製造)に準じて液化物を製造した。その結果、2.60 %の不溶解残渣率が得られた。実施例1の場合の不溶解残渣率が0.25 %であったことを勘案すると一桁大きな値になっているが、バイオマス種の違いによると考えられる。この米粉には中白糠が含まれていることが影響していると考えられる。
【0085】
なお、この液化バイオマスについて、実施例1の場合と同じ方法で測定した粘度は 2,966 mPa・sであり、実施例1で得られた値(2,304 mPa・s)よりやや大きな値となった。いずれにしても、ウレタン樹脂用ポリオールとして粘度的に使い勝手のよいものが得られている。また、この液化バイオマスについて測定して得られた水酸基価も1,494 mgKOH/gであった。なお、JIS K 1557-2に準じて求めた水分量は2.24%であった。
【実施例4】
【0086】
(液化バイオマスの製造)
バイオマス試料を米粉とし、液化媒体のグリセリンとエチレングリコールの重量比を7:3とするという変更の他は実施例1の(液化バイオマスの製造)に準じて液化物を製造した。その結果、3.19 %の不溶解残渣率が得られた。不溶解残渣率にバイオマス種の影響が実施例3と同様に現れている。
【0087】
なお、この液化バイオマスについて、実施例1の場合と同じ方法で測定した粘度は1,504mPa・sであり、実施例1で得られた値(2,304mPa・s)よりやや小さな値となった。いずれにしても、ウレタン樹脂用ポリオールとして粘度的に使い勝手のよいものが得られている。また、この液化バイオマスについて測定して得られた水酸基価は1,474mgKOH/gであった。また、水分量は3.77%であった。
【実施例5】
【0088】
(液化バイオマスの製造)
バイオマス試料を米粉とし、液化媒体のグリセリンとエチレングリコールの重量比を6:4とするという変更の他は実施例1の(液化バイオマスの製造)に準じて液化物を製造した。その結果、2.53 %の不溶解残渣率が得られた。不溶解残渣率にバイオマス種の影響が実施例3と同様に現れている。
【0089】
なお、この液化バイオマスについて、実施例1の場合と同じ方法で測定した粘度は1,255mPa・sであり、実施例1で得られた値(2,304 mPa・s)より小さな値となった。いずれにしても、ウレタン樹脂用ポリオールとして粘度的に使い勝手のよいものが得られている。また、この液化バイオマスについて測定して得られた水酸基価も1,490 mgKOH/gであった。つまり、実施例3を比べると、グリセリンとエチレングリコールの混液を液化媒体とする場合、グリセリン量を減らし、その分エチレングリコールを多くするほど、液化生成物の粘度は明確に低下するが、水酸基価への影響は殆ど認められないことが分かる。また、水分量は2.23%であった。
【実施例6】
【0090】
(液化バイオマスの製造)
液化媒体をグリセリンとメチルアルコールの重量比を6:4の混液とするという変更の他は実施例1の(液化バイオマスの製造)に準じて液化物を製造した。その結果、1.91 %の不溶解残渣率が得られ、殆ど完溶することが示された。実施例5の連想でこのグリセリンとメチルアルコールの重量比が6:4の混液による澱粉(日清製粉株式会社製薄力粉)の液化を試した結果完全液化が可能という事実を見い出した。さらに、この延長上で、グリセリンとメチルアルコールを9:1〜1:9に渡る全範囲での重量比で、澱粉の液化が可能なことが予想された。
【実施例7】
【0091】
(液化バイオマスの製造)
液化媒体のグリセリンとメチルアルコールの重量比を0:10に変更した他は実施例1の(液化バイオマスの製造)に準じて液化物を製造した。その結果、2.30%の不溶解残渣率が得られ、殆ど完溶することが示された。この結果は、澱粉をメチルアルコールだけ、液比3で殆ど完全液化できるというものであり、メチルアルコールが安価であり、植物、炭酸ガスなどを含むいろいろな原料から合成可能であるということを勘案すると、材料及びエネルギー両方の点で活用の可能性が大きい。
【実施例8】
【0092】
(液化バイオマスの製造)
バイオマス試料をLIGNOCEL,S150 TR(木粉; 独 J.Rettenmaier & Soehne社製)とするという変更の他は実施例1の(液化バイオマスの製造)に準じて液化物を製造した。その結果、14.4 %の不溶解残渣率が得られた。不溶解残渣率にバイオマス種の影響が実施例3と同様に現れている。
【実施例9】
【0093】
(液化バイオマスの製造)
バイオマス試料をKC-フロックW-400G(セルロース粉末; 日本製紙ケミカル株式会社製)にするという変更の他は実施例1の(液化バイオマスの製造)に準じて液化物を製造した。その結果、12.0 %の不溶解残渣率が得られた。不溶解残渣率にバイオマス種の影響が実施例3と同様に現れている。
【実施例10】
【0094】
(液化バイオマスの製造)
実施例1〜6及び8〜9の液化バイオマスの製造において、別途、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなど高沸点アルコールを全アルコールに対し30mol%添加する他は同様に液化した。
【0095】
(ポリエーテルポリオールの調製)
上記のように製造された液化バイオマス中に残存しているジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなど高沸点アルコールを引き続き、200℃、60kPaで反応し、さらに脱水縮合させた。12時間経過後、留出物が少なくなったため温度を上げて減圧し、220℃、45kPaの条件でさらに脱水縮合させ、ポリエーテルポリオール前駆生成物を得た。その上で、複数回調製して得た該ポリエーテルポリオール前駆生成物50g とジメチルパルミチルアミン0.54g を内容積200 mlのオートクレーブに装入し、オートクレーブ内を乾燥窒素で置換し、撹拌、昇温を開始して、90℃で反応機の内圧が4.0kg/cm2G以下に保たれるように 43.9gのプロピレンオキシドを徐々に装入し、反応を行った。3時間でプロピレンオキシド装入終了後、110℃に昇温し、内圧の低下が認められなくなるまで5時間攪拌した。反応終了後、残存するプロピレンオキシドを減圧により除去し、ポリエーテルポリオールを調製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン、グリセリン・エチレングリコール混液、グリセリン・メチルアルコール混液、グリセリン・メチルアルコール混液から選ばれる少なくとも1種の液化媒体を、
一価アルコール及び多価アルコールから選ばれる少なくとも1種の液化調整剤の存在下で、0.1〜10重量パーセント量のプロトン酸、その低級アルコールエステル、或いはフェノールスルフォン酸、リン酸から選ばれる少なくとも1種の酸触媒及びバイオマスと混合し、
密閉容器内において90〜160℃の温度範囲で5〜300分間加熱することを特徴とする液化バイオマスの製造方法。
【請求項2】
酸触媒であるプロトン酸と、
液化調整剤である一価或いは多価アルコール類1000〜5部の一部又は全部と、
液化媒体であるグリセリン、グリセリン・エチレングリコール混液、グリセリン・メチルアルコール混液、グリセリン・メチルアルコール混液のいずれかの一部と、
それらに対し0.1〜10重量パーセント量のプロトン酸、その低級アルコールエステル、或いはフェノールスルフォン酸、リン酸 5〜1000部の一部又は全部と、を混合し、40〜100℃の温度範囲で3〜150分反応させた後、
残りの前記液化媒体と、
バイオマス100部とを混合し、密閉容器内において90〜160℃の温度範囲で5〜300分間加熱することを特徴とする液化バイオマスの製造方法。
【請求項3】
前記液化調整剤である一価或いは多価アルコール類が、80℃以下の加温下で減圧留去されることを特徴とする請求項2に記載の液化バイオマスの製造方法。
【請求項4】
密閉容器において90〜160℃の温度範囲で5〜300分間加熱した後、液化調整剤である一価或いは多価アルコール類を200℃、60kPaで反応させ、さらに液化物成分と脱水縮合させた上で、アルキレンオキシッドを付加することを特徴とする請求項2に記載の液化バイオマスの製造方法。
【請求項5】
前記液化調整剤及び前記液化媒体が、メチルアルコール及びエチルアルコールから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液化バイオマスの製造方法。
【請求項6】
前記液化調整剤及び前記液化媒体が、いずれもメチルアルコールであることを特徴とする請求項5に記載の液化バイオマスの製造方法。
【請求項7】
前記一価アルコール類は、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、グリセリン、トリメチロールプロパンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の液化バイオマスの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造された液化バイオマス。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造された液化バイオマスから合成された熱硬化性樹脂。

【公開番号】特開2011−224462(P2011−224462A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96381(P2010−96381)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(509016221)
【出願人】(510109822)株式会社白石バイオマス (2)
【出願人】(591063154)
【Fターム(参考)】