説明

液化物を用いた含水物質の脱水方法

【課題】本発明は、含有する水分の種類、組成、含有量の多少を問わず、様々な含水物質に適用でき、かつ、水分除去を効率良く行うことのできる脱水方法および脱水システムを提供することを目的とする。
【解決手段】常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含水物質に接触させ、該液化物に該含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得る工程(1)、および、該水分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として水分から分離する工程(2)を含むことを特徴とする液化物を用いた含水物質の脱水方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化物を用いた含水物質の脱水方法に関するものであり、さらに詳しくは、外気温度に近い操作温度で、かつ少ない所要動力で水分を効率よく除去でき、しかも水分含量や種類を問わず幅広い分野の含水物質に適用可能な脱水方法並びに脱水システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
含水物質は、含有する水分に起因して自然発火しにくい等特有の利点を発揮する半面、重量がかさみ、また、衛生面での問題が生じる。そして、含水物質を原料または出発材料として何らかの処理を行いたい場合に水分が障害となる。
このような場合に利用される含水物質からの水分除去を目的とした脱水方法としては、含水物質の種類に応じてさまざまな方法が開発され利用されている。
【0003】
紙おむつや生理用品は、自重の数百倍以上の吸水能力を持ち、かつ圧力を加えても保水能力を保つ高吸水性材料を主材料としている。そのため、多量の水分を保水できる点で優れる反面、使用済みの状態では重量がかさみ、廃棄の際の運搬に支障をきたしていた。また、水分を分離できれば、紙おむつの素材を再利用する可能性も開くことができ、廃棄量を全体的に減らすことができ、資源保護の点でも好ましいものと期待される。
こうしたことから、使用済みの紙おむつや生理用品から尿や血液などを除去する技術が提案されつつある。例えば、洗浄剤と塩化カルシウムの水溶液に、尿等の水分を含んだ使用済みの紙おむつ等を浸し、紙おむつから水分を吐き出させると同時に、紙おむつを破砕して、プラスチック、吸水性ポリマーおよびパルプへと湿式の比重分離法で分別し、このうちのパルプを回収して再度紙おむつ等の原材料として利用する技術が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
一方、動物、植物、微生物等の生物はその構成成分の大半を水分が占めており、廃棄、加工、保存等にあたり、水分を除去することにより軽量化を測り処理を容易にすることができる。例えば、クラゲは水力発電の妨げとなるので除去する必要があるが、その大半が水分であることから、水を除去すれば廃棄等の処理が容易になるものと期待され、種々の脱水技術が開発されてきた。
クラゲの脱水技術としては、例えば、陸揚げされたクラゲを主体とする浮遊生物(ネクトン)を破砕し、ミョウバンおよび酸化防止剤を注入し、クラゲ破砕水の水質安定化と臭気抑制を行いながら、凝集剤を用いて、加圧浮上分離装置にて固形分と水分(処理水)に分離させた後、固形分は脱水器を、水分は排水処理装置を使用し、それぞれ処理を行う(例えば、特許文献1参照)。
また、陸揚げされたクラゲを主体とする浮遊生物(ネクトン)を破砕し、クラゲの固形分を、酵素で分解した後に排水処理装置で処理を行う方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【非特許文献1】ケア・ルートサービス株式会社、介護福祉ニュース、http://www.careroot.co.jp/info_copy11.html
【特許文献1】特開2001−187379号公報
【特許文献2】特開2003−53303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の紙おむつ等の脱水方法(非特許文献1参照)は、処理にあたり大量の水を使用する必要があり、資源保護の点で問題があった。また、塩化カルシウムを含む大量の排水が発生するため、水質汚染の問題を回避するためにはさらに排水処理を重ねて行う必要があった。また、紙おむつ等の破砕を湿式条件で行うため、破砕効率が悪く、その上、破砕後の分別を効率良く行うことができなかった。
【0007】
また、上述した従来の脱水方法を、使用済みの生理用品の処理に適用する場合は、血液が塩化カルシウム水溶液の希釈の対象となるので、血液が排水中に希釈される。すなわち、排水において血液のエントロピーがより増大する。そのため、排水の浄化に熱力学的に多くのエネルギーを要するものとなり、排水処理の効率の点でより問題があった。
一方、生理用品の廃棄処理を、上述した従来の脱水方法によらずに、かつ排水処理を回避して行う方法としては、焼却処分が考えられる。しかし、焼却処分の場合、生理用品に含まれる水分に起因して燃焼温度が下がり、ダイオキシンなどの有害物質が生じて燃焼排ガスとして排出される可能性が高まるという問題があった。
【0008】
また、クラゲの脱水技術でも、特許文献1記載の方法は、有機物固形成分のフロックを凝集させてこれを回収する方法であることから、フロックの大きさによっては、効率的な処理が難しい場合があった。すなわち、フロックが大きすぎると固形成分から有機物成分を凝集させた後処理工程の処理時間が長くなる不具合が生じる。逆に、フロックが小さすぎると、液状成分に溶け込む有機物の量が多くなり、液状成分(ろ液)のBODを低減するための後処理工程での処理時間が長くなる不具合が生じることがある。
また、特許文献2記載の方法では、発生する排水の有機分濃度が高く、環境上の問題でそのまま放流できないという問題があった。
【0009】
さらに、既往の技術はいずれも適用対象となる含水物質が限定されており、それぞれが対象とする含水物質に含まれる水分や物質自体の性質に依存して開発された方法であり、広く様々な種類の、様々な水分含量の含水物質に一律に適用できる方法は、現段階ではまったく開発されていなかった。
【0010】
本発明は、このような現状に鑑みて、含有する水分の種類、組成、含有量の多少を問わず、様々な含水物質に適用でき、かつ、水分除去を効率良く行うことのできる脱水方法および脱水システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ね、その過程で、石炭の脱水技術に着目した。安価な石炭は水分を多く含有しているため、発電用原料とする際には事前に水分を除去する必要があるが、本発明者らは、このような石炭の水分を、外気温度に近い温度条件、即ち、おおよそ0℃〜50℃の範囲で脱水を行うとともに、脱水に使用する化学物質を効率的に回収することにより、効率よく脱水する技術を開発してきた(国際公開WO03/101579号公報参照)。
【0012】
本発明者らは、この石炭の脱水技術が、石炭だけでなく、様々な組成の水分を様々な濃度で含有する含水物質に幅広く適用でき、しかも種々の含水物質から水分をほぼ完全に除去できることを見出して、本発明に到達した。
【0013】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
〔1〕 常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含水物質に接触させ、該液化物に該含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得る工程(1)、および、該水分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として水分から分離する工程(2)を含むことを特徴とする液化物を用いた含水物質の脱水方法。
〔2〕 前記工程(2)において気化され分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を回収し、該気体を液化させて液化物を得る工程(3)をさらに含み、該工程(3)で得られる液化物を前記工程(1)において再び使用することを特徴とする上記〔1〕に記載の脱水方法。
〔3〕 常温常圧の条件下で気体である物質は、25℃および1気圧において気体である物質であることを特徴とする上記〔1〕に記載の脱水方法。
〔4〕 常温常圧の条件下で気体である物質は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、およびアセトアルデヒドから選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする上記〔1〕に記載の脱水方法。
〔5〕 含水物質が、使用済みの高吸水体、生物、又はバイオマス原料であることを特徴とする上記〔1〕に記載の脱水方法。
〔6〕 前記工程(1)における接触は、前記液化物と前記含水物質とが向流接触させるようにして行うことを特徴とする上記〔1〕に記載の脱水方法。
〔7〕 前記工程(1)における含水物質と接触させる液化物の量は、含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得るのに少なくとも必要とされる理論量であることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載の脱水方法。
〔8〕 一連の脱水操作を、−10℃〜50℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の脱水方法。
〔9〕 上記〔1〕に記載の脱水方法により得られる水分が除去された物質。
〔10〕 常温常圧の条件下で気体である物質の気体を加圧する圧縮機と、加圧された前記気体を凝縮して液化物とする凝縮器と、前記液化物を含水物質と接触させ該含水物質中の水分を溶解させ水分高含有の液化物とする脱水器と、該水分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させる蒸発器と、気化した前記物質の気体と水分とを分離する分離器とが、直列に連結して構成されることを特徴とする含水物質の脱水システム。
〔11〕 前記凝縮器と前記蒸発器とが、熱交換器で接続されて構成されることを特徴とする上記〔10〕に記載の脱水システム。
〔12〕 さらに、前記気化した常温常圧の条件下で気体である物質の気体を膨張させる膨張機が前記圧縮機に直列に連結して構成され、該膨張機の外界に行う仕事が回収され、該仕事が前記圧縮機の動力の一部として投入されるように構成されていることを特徴とする上記〔10〕または〔11〕に記載の脱水システム。
〔13〕 前記圧縮機、凝縮器、脱水器、蒸発器および膨張機は回路を形成し、該回路を、常温常圧の条件下で気体である物質が循環するように構成されることを特徴とする上記〔10〕〜〔12〕のいずれか一つに記載の脱水システム。
〔14〕 前記分離器で分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を脱気し回収するための脱気塔が前記分離器に連結され、脱気された気体を回収し回路に戻されるように構成されていることを特徴とする上記〔10〕〜〔13〕のいずれか一つに記載の脱水システム。
〔15〕 前記脱水器は、前記液化物と前記含水物質とを向流接触させることを特徴とする上記〔10〕〜〔14〕のいずれか一つに記載の脱水システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、含有する水分の種類、組成、含有量の多少を問わず、様々な含水物質に適用でき、しかも効率よく水分を除去することができ、含水物質の再利用や廃棄を促進し資源保護のために有用な脱水方法、ならびに、該方法を効率良く実施するための脱水システムが提供される。
本発明の脱水方法においては、水分除去の媒体として、常温常圧で気体である物質、すなわち、水分との相互溶解性が高く、かつ、大気圧下、外気温度に近い温度で気体である物質の液化物を用いるので、水分との接触および水分との分離に際し過酷な条件を必要とせず、従来の技術に比して、外気温度に近い操作温度で脱水ができる。また、水分と液化物の分離の際、水分側を蒸発させる必要がなく、水分の蒸発潜熱の回収が全く不要であり、省エネルギーでの水分除去が可能である。
【0015】
さらに、水分から分離された常温常圧で気体である物質の気体は、回収も容易である。回収された気体は、再び液化することにより循環して使用することができるので、エネルギー効率の点でも優れている。そして、分離された排水を脱気処理することにより、液化物が簡単に取り除かれ、環境への負荷も軽減できる。
【0016】
さらに、本発明の脱水システムによれば、常温常圧で気体である物質を用いた水分除去をより効率よく進めることができる。
また、熱交換器を接続することにより、蒸発潜熱を回収し有効利用することができる。さらに、膨張機において、膨張による仕事を回収することにより、さらなる省エネルギーが達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、含水物質の脱水に関するものであり、最大の特徴は、常温常圧で気体である物質の気液相転移現象を利用して、水の溶解度を著しく変化させることに特徴がある。即ち、常温常圧で気体である物質に加圧、冷却等の処理を施して液体状態とし、得られる液化物に、該含水物質中の水分を溶解させた後、温度と圧力を僅かに変化させると、溶剤だけが選択的に蒸発し、水と溶剤の気体が容易に分離されるのである。
【0018】
このような本発明の対象となる含水物質としては、水分を含有する物質であれば特に制限はない。
「水分」とは、水又は水溶液を意味し、その組成、由来等は特に問わない。例えば、水、血液、体液、汚水を挙げることができる。
「含有する」とは、上述の水分が何らかの物質に含まれていることを意味する。何らかの物質としてはサイズ、成分共に特に限定されないが、含水物質として固体やスラリー状の形態となることが好ましい。
【0019】
含水物質中における水分の存在態様についても特に限定されず、内部に包接されている水分や外表面に、固体粒子間、場合によっては固体粒子の内側にある細孔に存在するものであっても良い。そして、含水物質中における水分の含有割合についても限定されない。
このような含水物質としては、具体的には例えば、高吸収体(使用済みの紙おむつ、生理用品など)、生物(雑草、花束、クラゲ等)、バイオマス原料(ウッドチップ、残飯、生ごみ、その他いわゆる廃棄物)、下水汚泥、土壌等を挙げることができる。
【0020】
以下に、本発明の脱水方法、および脱水システムについて説明する。
A.本発明の脱水方法
本発明の液化物を用いた含水物質の脱水方法は、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含水物質に接触させて、該液化物に該含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得る工程(1)、および、該水分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として水分から分離する工程(2)を含むことを特徴とする。以下、工程(1)および(2)について説明する。
【0021】
まず、工程(1)では、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含水物質に接触させて、該液化物に該含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得る。
【0022】
常温常圧の条件下で気体である物質とは、常温かつ常圧の範囲内に含まれる任意の温度および圧力条件下において少なくとも気体状態で存在する物質を意味する。すなわち、常温かつ常圧の範囲内に含まれる温度Aおよび圧力Bの条件下において気体状態を示す物質であれば、常温常圧の条件下で含まれる温度A以外の温度および圧力B以外の圧力においては気体状態を示さないものであっても良い。
【0023】
ここで常温とは外気温に近い温度を意味し、一般には−10〜50℃、特に0〜40℃の範囲を意味する。また、常圧とは外気圧に近い圧力を意味し、一般に1気圧前後の範囲を意味する。
常温常圧の条件下で気体である物質としては、具体的には、25℃および1気圧の条件下で気体である物質、0℃および1気圧の条件下で気体である物質が好ましく、特に、25℃および1気圧の条件下で気体状態であり、かつ0℃および1気圧の条件下でも気体である物質がもっとも好ましい。
【0024】
常温常圧の条件下で気体である物質は、少ない所要エネルギーでの脱水を可能とする観点から、沸点が常温付近またはそれ以下である物質であることが好ましい。特に沸点が25℃以下、中でも10℃以下、さらに−5℃以下が好ましい。沸点が常温を超える物質であると、後述の工程(2)において該物質を気化させるために高温のエネルギー源が必要となり、脱水に要するエネルギーが増大することが予想されるので、好ましくない。
【0025】
常温常圧の条件下で気体である物質として、具体的には、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒド、ブタン、プロパンなどが挙げられる。これらは1種で用いても、または2種以上混合して用いてもよい。中でも好ましいのは、ジメチルエーテル単独、およびジメチルエーテルと具体例として上述した他の物質との混合物である。
ジメチルエーテルは、1気圧における沸点が−24.8℃であり、−10℃〜50℃の大気圧において気体である。高効率なジメチルエーテルの製造方法および製造装置は、例えば特開平11−130714号公報、特開平10−195009号公報、特開平10−195008号公報、特開平10−182535号〜特開平10−182527号の各公報、特開平09−309850号〜特開平09−309852号の各公報、特開平09−286754号公報、特開平09−173863号公報、特開平09−173848号公報、特開平09−173845号公報などに開示されており、これらに開示された技術に従い容易に得ることができる。
一方、本発明において、液化物とは、後述する液化により気体から得られる液体を意味する。すなわち、本発明においては、上述した常温常圧の条件下で気体である物質を液体状態にて利用する。
【0026】
本工程(1)では、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含水物質に接触させて該液化物に該含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得る。
すなわち、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含水物質に含まれる水分、すなわち、含水物質の外表面や内部に存在する水分に接触させることにより、含水物質中の水分を液化物に溶解させ、水分を高濃度で含有する液化物とさせる。
ここで、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を、含水物質に接触させるには、該物質を液体状態のまま維持する必要がある。液化状態のまま維持するための方法は、特に限定されないが、液化物を飽和蒸気圧で維持することが望ましい。特に、工程(1)の温度条件は、−10℃〜50℃、中でも0〜40℃の範囲で適宜設定することが望ましい。
【0027】
含水物質に対する常温常圧の条件下で気体である物質の液化物の接触方式、液化物の接触量、接触時間等の温度及び圧力以外の条件は、含水物質中の水分が該液化物に溶解するような条件を適宜設定することができる。
接触方式は、含水物質を液化物に浸漬する、含水物質に液化物を流通させるなど通常の脱水法で採られるどのような方法でもよいが、向流接触とすることが望ましい。すなわち、含水物質に対し、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を向流的に接触させることが好ましい。また、向流接触後、含水物質を液化物に浸漬してから、再び向流接触を行なうなど、向流接触を他の接触方式と適宜組み合わせて実施することも可能である。
【0028】
また、含水物質と接触させる液化物の量は、適宜定めることができるが、含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得るのに少なくとも必要とされる理論量であることが好ましい。理論量とは、例えば、常温常圧の条件下で気体である物質としてジメチルエーテルを用い、水分が水1gである場合、水1gの溶解に必要な理論量の液化ジメチルエーテルは、20℃におけるジメチルエーテルの飽和蒸気圧は0.51Mpa、20℃における液化DMEに対する水の飽和溶解度は6.7wt%であるから、14.9gである。
接触時間(脱水時間)は、含水物質や液化物の種類や量、接触方式等の条件に左右され、一義的に規定することは困難であるが、含水物質中の水分が液化物に十分に溶解する時間を適宜設定することができる。
【0029】
向流接触の場合の一般的な条件を示すと、液化物の流速を10L/h以上、好ましくは30L/h以上、更に好ましくは50〜3L/時間とすることができ、また、接触時間は、5分以上、好ましくは8分以上、より好ましくは10分〜5時間とすることができる。
また、浸漬接触の場合の一般的な条件を示すと、含水物質85gに対し、液化物10Lを1〜3時間接触させることができる。
【0030】
このようにして、工程(1)では、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含水物質に接触させて、該液化物に該含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得ることができ、同時に、含水物質中に含まれていた水分は除去される。
【0031】
次に、工程(2)においては、前記(1)で得られる水分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として水分から分離する。すなわち、工程(1)で得られる水分高含有の液化物は、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物と含水物質に由来する水分とが混合した状態にあるが、その中から常温常圧の条件下で気体である物質の液化物のみを選択的に気化させることにより、含水物質に由来する水分から分離することができる。
【0032】
気化とは、液体(液化物)を気体に変化させることを意味する。水分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質の気化は、温度条件および/または圧力条件を、工程(1)における各条件よりも上昇させることにより行うことができる。
温度条件を上げる場合は、常温常圧の条件下で気体である物質の沸点を超える温度まで上昇させることが好ましいが、本発明では、常温常圧の条件下で気体である物質を利用するので、通常は、常温付近、すなわち外気温に近い温度条件で気化することができる。つまり、加熱よりむしろ工程(1)の冷却状態から常温状態に戻すだけで気化することが可能である。気化の温度条件としては、使用する液化物や圧力条件にもよるが、常温状態、−10℃〜50℃、特に0〜40℃とすることが好ましい。工程(2)において圧力条件を低下させる場合、その条件は飽和蒸気圧未満であり、温度条件に応じて適宜定めることができる。
【0033】
このようにして、工程(2)においては常温常圧の条件下で気体である物質を過酷な条件とすることなく、容易に気化して液体(液化物)から気体へと変換させることができ、同時に、この気体を含水物質に由来する水分から容易に分離することができる。
【0034】
以上説明したように、本発明の脱水方法では、上記工程(1)および(2)により、含水物質から水分を除去することができるが、さらに、工程(2)において気化され分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を回収し、該気体を液化させて液化物を得る工程(3)を含めることもできる。
【0035】
液化は、常温常圧の条件下で気体である物質の気体を液体に変換することを意味する。常温常圧の条件下で気体である物質の液化は、加圧および/または冷却、すなわち、加圧、または冷却、あるいは加圧と冷却との併用により行うことができ、具体的な実施条件は、使用する物質の標準沸点などを考慮して、適宜有利な条件を選択することができる。特に冷却を採用する場合は、冷却温度は、標準沸点に留めることが好ましく、また、脱水を簡便に行う観点から、常温、すなわち外気温の範囲、例えば−10〜50℃、特に0〜40℃の範囲で設定することが好ましい。
例えば、常温常圧の条件下で気体である物質として、1気圧での沸点が0℃の物質の液化は、0℃以下での冷却によることが好ましい。さらに加圧を組み合わせることが好ましい。加圧せず冷却のみで液化を行うと、液化物の温度が0℃以下となってしまい、脱水ができなくなるおそれがあるからである。
また、1気圧での沸点が0℃を超える物質を用いる場合は、沸点以上での冷却により液化を行うことが好ましい。これは、標準沸点以下では物質の飽和蒸気圧が1気圧未満であり、これが原因で装置の内部圧力が1気圧未満となるため、装置の製造コストの増大や、ハンドリングが困難になるためである。
加圧の条件については、一般化することは困難であるが、加圧下の沸点が常温、すなわち外気温の範囲、例えば−10〜50℃、特に0〜40℃の範囲で設定することが好ましい。冷却と併用する場合には冷却温度に応じて、定めることができる。
【0036】
このような工程(3)において得られる液化物は、前記工程(1)において再び使用することにより、本発明の脱水方法において追加すべきDME量を減少すると同時に廃棄量を減らすことができるので、資源保護の点で好ましい。
【0037】
本発明の脱水方法では、脱水の媒体として液体を使用するので、液化物への水分の飽和溶解度と、液化物中の水分濃度の差が脱水のドライビングフォースとなる。そして、液化物中に溶解しうる水分量の理論最大値は、水分の飽和溶解度・水分の密度・液化物の体積に比例する。これを、従来石炭の脱水に用いられていた乾燥不活性気体中に蒸発しうる水分量の理論最大値と比較すると、水分の飽和溶解度は20℃近辺でおよそ6%であり、同温度での空気中の水蒸気の飽和蒸気圧分圧(およそ2%)に対して非常に高い。このような極めて高い混合比率は気体では不可能であるとともに、液体を脱水の媒体として用いる特色がここにある。また、水の密度は水蒸気の密度に対して非常に大きいので、少量の液化物での脱水が可能となる。
【0038】
一方、乾燥不活性気体で脱水する場合、この気体中に混合した水蒸気は希釈されるため、蒸発潜熱の密度が小さくなり、蒸発潜熱を回収することが困難になる。大量の物質を脱水するプロセスの実用化においては、蒸発潜熱の効果的な回収こそが重要であり、気体を媒体として脱水する方法が用いられるのは小規模なプロセスに限られる。
これに対し、本発明の脱水方法のように、脱水の媒体として液体を用いると、水分を蒸発させることなく除去可能となり、蒸発潜熱の回収自体が全く不要となる。また、液体として、常温常圧、すなわち、外気条件で気体の物質の液化物を用いるので、外気条件、すなわち、−10℃〜50℃位の温度範囲で、必要に応じて1気圧前後で調整することにより一連の脱水操作をすることができ、省エネルギーでの脱水が可能である。
【0039】
本発明の脱水方法により水分が除去された物質は、素材として再利用することができ、また、廃棄する場合は水分を除去した分減量され廃棄が容易となり、資源保護の点で好ましいものと期待される。
【0040】
B.本発明の脱水システム
本発明は、液化物を用いた脱水システムをも提供するものである。
本発明の脱水システムは、常温常圧の条件下で気体である物質の気体を加圧する圧縮機と、加圧された前記気体を凝縮して液化物とする凝縮器と、前記液化物を含水物質と接触させ該含水物質中の水分を溶解させ水分高含有の液化物とする脱水器と、該水分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させる蒸発器と、気化した前記物質の気体と水分とを分離する分離器とが、直列に連結して構成されることを特徴とする。
このような本発明の脱水システムは、上記(A)にて説明した本発明の脱水方法を実践するのに適しており、本システムを利用することにより、上記本発明の脱水方法を効率よく進めることができる。
【0041】
本発明の脱水システムの構成の一例の概略を、図1に示す。
本例では、常温常圧の条件下で気体である物質としてジメチルエーテルを用いた場合を想定しているが、本発明のシステムはこれに限定されるものではない。ジメチルエーテルは、前記(A)にて説明したように、1気圧における沸点がおよそ−25℃であり、0℃〜50℃の大気圧において気体であることから、液体状態のジメチルエーテル(ジメチルエーテルの液化物)を常温にて得るためには、加圧下での操作が必要である。
【0042】
図1に示す脱水システムは、ジメチルエーテル蒸気を加圧するための圧縮機1、1’、加圧された蒸気を液化するための凝縮器2、液化されたジメチルエーテル(液化ジメチルエーテル)を含水物質と接触させ、水分を溶解させ水分高含有の液化物(水分を含有した液化ジメチルエーテル)とすることによって脱水を行う脱水器3、および、脱水の結果得られた水分を含有した液化ジメチルエーテルからジメチルエーテルを選択的に気化させる蒸発器4が、この順序で配管により直列に連結されたものである。このうち、凝縮器2と蒸発器4は、熱交換器5で接続されている。
【0043】
図1に示すシステムにおいては、さらに蒸発器4において気化されて得られたジメチルエーテル蒸気と水分とを分離する分離器(気液分離器)6、および、分離器6で分離されたジメチルエーテル蒸気を断熱膨張させる膨張機7が、この順序で、蒸発器4に隣接して配管により直列に連結されている。膨張機7は、更に圧縮機1に連結され、システム全体として閉回路(循環路)を形成している。この回路を、ジメチルエーテルが、気体−液体の状態変化をしながら循環し、水分との分離及び接触を繰り返している。
また、冷却器4’およびは減圧弁4”が、脱水器3に隣接して直列に連結されている。これらは、液化ジメチルエーテルを気化させる際の温度、圧力を調整するものであり、蒸発器1の一部と位置づけられ得る。
【0044】
さらに図1に示すシステムにおいては、脱気塔8が分離器6に連結されている。脱気塔8は、分離器6でジメチルエーテルから分離された水分に溶存するジメチルエーテルを脱気するためのものであり、具体的には、保圧弁8’で脱気塔内部の圧力を下げ、ジメチルエーテルを気化させ回収している。気液分離器6の内部の圧力を大気圧よりも高圧とした場合、気液分離器6で分離した水分にはジメチルエーテルガスが溶存する。よって、この水分をそのまま排出すると環境への負荷が大きく、さらにジメチルエーテルの損失量を大きくする。そこで、脱気塔8においては、水分に溶存するジメチルエーテルを回収し、環境への負荷並びにジメチルエーテルの損失量を最小限にするものである。
脱気塔8は、前記の回路に連結されており、塔内で脱気され回収されたジメチルエーテルは、図示していない配管により再び回路に戻される。
なお、脱気塔8の下部には、水分を加熱するための加熱缶8aを設けることにより、水分からのジメチルエーテルの分離を促進し、ジメチルエーテルの回収率を向上させることもできる。
【0045】
膨張機7においては、ここで外界に行う仕事が回収され、この仕事は、ジメチルエーテルを加圧する圧縮機1の動力の一部として投入され利用される。また、圧縮機1は、第1圧縮機1および第2圧縮機1”の2段とし、第1圧縮機1には膨張機7と連結し、膨張機7で行われた仕事が回収され、第1圧縮機1の動力として利用される。膨張機7において外界に行う仕事とは、ジメチルエーテルガスが体積膨張に伴って行うものを主に指す。また、蒸発機4を出たジメチルエーテルの過熱ガスには、過熱ガスの流れに巻き込まれた飛沫の混入があり得ることから、膨張機7では、混入した飛沫の気化による仕事が得られる場合もあり、これも外界に行う仕事として含まれる。
また、凝縮器2と蒸発器4は熱交換器5で接続されているので、液化ジメチルエーテルの蒸発潜熱が回収され有効利用されている。
一方、第2圧縮機1’は、電動機9により動力を供給されており、外部から仕事の投入はこの第2圧縮機1’に対してのみ行われることとなる。
【0046】
また、図1のシステムには、冷却器10が設置されている。冷却器10は、膨張機7から出た気体温度を圧縮機1の入口の最適温度に調整するものであり、液化ジメチルエーテルの利用条件等により必要に応じて設置されるものである。
【0047】
図1のシステムには、含水物質、該物質に含まれる水分、および液化ジメチルエーテルの3つが関与する。各物質に着目して、本システムのフローを説明する。
まず、含水物質は、図1中に点線で示されている通り、脱水器3に充填され、液化ジメチルエーテルと接触することにより脱水された後、容器から取り出されて処理を終了する。
【0048】
次に、図1のシステムにおける含水物質に含まれる水分のフローについて、以下説明する。図1において、含水物質に含まれる水分のフローは、二重線で示されている。
水分は、含水物質に含有される水分として、脱水器3からシステムに供給される。まず、脱水器3で含水物質から液化ジメチルエーテル中に溶出した後、液化ジメチルエーテル中に溶存する形態で蒸発器4に到達する。蒸発器4で大部分の液化ジメチルエーテルが気化し、液化ジメチルエーテル中に溶存していた水分が分離され、気液分離器6に到達する。さらに、気液分離器6において、ジメチルエーテル蒸気と水分に分けられ、水分は排水として残る。
続いて、水分は脱気塔8に導入される。脱気塔8に水分が導入されると、入口の保圧弁8’により脱気塔8の内部の圧力が低下し、ジメチルエーテルが回収され、気液分離器6で分離された水分をそのまま排出することによる環境への負荷並びにジメチルエーテルの損失を最小限にすることができる。なお、脱気塔8の下部に設けた加熱缶8aで水分を加熱することにより、ジメチルエーテルの回収率を向上させることもできる。
脱気された水分は、缶出液として排出されるが、この排水から気液分離機6において分離されたジメチルエーテル蒸気は、再び、脱水システムの回路内に戻し使用することができる。
【0049】
次に、図1のシステムにおけるジメチルエーテルのフローについて、説明する。図1において、ジメチルエーテルのフローは実線で示されている。
ジメチルエーテルガスは圧縮機1、1’で加圧されて過熱ガスになった後、凝縮器2で過冷却液になる。液化ジメチルエーテルの過冷却液は脱水器3に供給されて含水物質と接触し、その水分を溶解し、蒸発器4へと向かう。蒸発器4で液化ジメチルエーテルは水分と分離され再び過熱ガスとなる。この際、凝縮器2と蒸発器4は熱交換器5で連結されているので、液化ジメチルエーテルの蒸発潜熱が回収され有効利用される。蒸発器4を出たジメチルエーテルの過熱ガスは膨張機7にて仕事をし、圧縮機動力の一部として回収される。膨張機7を出たジメチルエーテルガスは再び圧縮機1へと送られ、システム内を循環する。
【0050】
図2に、本発明のシステムの1例における、ジメチルエーテルを用いた場合の相状態、圧力、温度、飽和温度の設定例を示す。圧力と温度の設計を簡便化するため、水からのジメチルエーテルガスの脱気塔8を省略し、気液分離器6で水とジメチルエーテルとが完全に分離できると仮定した。また、脱水器3で処理された含水物質はジメチルエーテルを含まないと仮定した。さらに、含水物質は、水分として水のみを含むと仮定した。
【0051】
まず、第1圧縮機1の入口での温度を起点として、温度、圧力条件を設定した。第1圧縮機1入口(1)での温度が25℃で、飽和温度より10℃過熱された時、圧力は0.44MPaとなる。過熱度が小さいほど第1圧縮機1での圧力が上がるため、圧縮機1の動力が減少するが、その反面、圧縮機入口より前の段階で、外気によってジメチルエーテルガスが冷やされて凝縮する危険性が増す。また、ジメチルエーテルの熱容量比は1.11と小さいので、断熱圧縮時に温度が上昇しにくい。このため、第1圧縮機1および第2圧縮機1’でのそれぞれの圧縮機出口(2)、(3)における過熱度は、圧縮機入口の過熱度よりも小さくなる。本システムにおいては、圧縮機入口の過熱度を決める際には、圧縮機出口における過熱度にも注意する必要がある。
【0052】
第2圧縮機1’の出口(3)の圧力は、蒸発器4の手前の冷却器4’に用いられる冷却水の温度から決まる。ここで、外気温を20℃とし、冷却水の温度が外気温に等しいとする。冷却器4’でのアプローチ温度を5℃とすると、冷却器4’の出口(蒸発器入口)(6)での液化ジメチルエーテルの温度は25℃となる。さらに凝縮器2と蒸発器4とのアプローチ温度を5℃とすると、凝縮器2の出口(4)での温度は30℃となる。脱水器3内でのジメチルエーテルが液体として安定に存在できるよう、凝縮器2の出口(脱水器3の入口および脱水器3内)で5℃の過冷却度を設けると、凝縮器2の操作圧力(圧縮機出口の圧力)が決まる。この場合、飽和温度が35℃なので、凝縮器2の出口(4)および圧縮機1’の出口(凝縮器入口)(3)は0.78MPaとなる。また、断熱圧縮を仮定すると、第2圧縮機1’の出口(3)の温度は43℃となり、圧縮機出口でジメチルエーテルの飽和温度を上回ることを確認した。
【0053】
蒸発器4の飽和温度は30℃であるので、蒸発器4の入口(6)で30℃における飽和圧力まで減圧する必要がある。ここでの飽和圧力とは、水と液化ジメチルエーテルの混合液の飽和圧力であり、0.62MPaである。また、凝縮器2と蒸発器4の温度差が5℃であるので、蒸発器4の出口(膨張機入口)(7)の温度は38℃である。ここでの過熱度は8℃であるので、ジメチルエーテルガスを8℃加熱するのに要するエネルギーの範囲内での熱損失を第2圧縮機1’の出口以降、膨張機7の入口手前の範囲で許容できる。
【0054】
気液分離器6でジメチルエーテルガスを水から分離した後、膨張機7で断熱膨張する。膨張機7の出口(8)の圧力は、第1圧縮機1入口での圧力に等しい。断熱膨張によりジメチルエーテルガスは26℃に冷却される。第1圧縮機1の入口に比して1℃温度が高いため、冷却が必要である。膨張機7ではエネルギーが回収されて、第1圧縮機の動力として用いられる。膨張機7と第1圧縮機1における断熱効率を80%と仮定すると、第1圧縮機出口の温度は32℃、圧力は0.55MPaと定まる。
【0055】
さらに、すでに定めた温度圧力設定に従い、膨張機7と2つの圧縮機1,1’における断熱効率を様々に変えて、第2圧縮機1’における所要動力を計算する。
まず、2つの圧縮機1,1’が必要とする仕事の合計は(2つの圧縮機1,1’が要する理論仕事)÷(断熱効率)である。一方、膨張機7が回収し、第1圧縮機1の動力として投入される仕事は、(膨張が行う理論仕事)×(断熱効率)である。従って、第2圧縮機1’に要する仕事は、(2つの圧縮機1,1’が要する理論仕事)÷(断熱効率)−膨張が行う理論仕事)×(断熱効率)である。更に、この仕事は動力の形で導入する必要があるので、その変換効率を0.35とすると、第2圧縮機1’が必要とする仕事)÷0.35が第2圧縮機1’が必要とする総エネルギーとなる。なお、この変換率は、油中改質法の動力推算で用いられた、水蒸気の潜熱回収のための圧縮動力の変換効率と同じ値である。
【0056】
ここでジメチルエーテルを理想気体と近似し、断熱圧縮を仮定すると、膨張機7の断熱効率と圧縮機1の断熱効率に対して、図3に示すような第2圧縮機1’に要する動力が得られる。
圧縮機1と膨張機7の断熱効率がともに0.8の場合、本システムの所要動力は948kJ/kg−水となる。なお、この圧縮効率は、油中改質法の動力推算で用いられた水蒸気の潜熱回収のための圧縮機の圧縮効率〔財団法人 エネルギー総合工学研究所 新エネルギーの展望 低品位炭の改質技術(1997)〕と同じである。
この推算結果から、本発明の脱水システムによれば、少ない所要エネルギーで脱水が達成できることを理論的に確認できた。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1(紙おむつの脱水試験)
紙おむつ(乾燥平均重量0.455g)10枚を使用して、以下の組成からなる尿模擬液を1枚あたり600g(2枚)、500g(4枚)、250g(4枚)染み込ませ、これを1バッチとして7バッチからなる試験に供した。なお、紙おむつ10枚に吸水させた尿模擬液の1バッチあたりの合計量は、いずれも4.2kgであった。
【0059】
〔尿模擬液の組成:1019.2g(1L)中の分量〕
イオン交換水:984g
尿素:20.7g
NaCl:6.48g
KCl:0.64g
2SO4:3.21g
Na3PO4:2.55g
NH4Cl:1.58g
【0060】
上記のようにして調整された含水状態の紙おむつを、図1に示す脱水システムの試作機により純度99%以上の液化ジメチルエーテル(DME)を用いて脱水した。
すなわち、含水状態の紙おむつを、図1の脱水器3に相当する容器に充填し、容器込みの重量の重量をバッチごとの合計として測定し、紙おむつ自体の重量を算出した。図1の凝縮器2と脱水器3の間に位置に設けたステンレス容器に液化DMEを充填し、これを凝縮器2において0.7〜0.9MPaの圧縮窒素により押し出して、脱水器3(容器)に流通させた。そして、脱水器3と冷却器4’の間に配置した液化DMEを溜める空の密閉容器で液化DMEを回収した。
なお、試作機は、試験物10Lを1回のバッチ処理にて脱水する処理能力を有し、その際の脱水時間は、確実性の観点から80分〜3時間の範囲で設定可能である。また、圧縮機動力は、発電効率0.35と仮定した場合に2291kJ/kg水分とした。
【0061】
実験は室温下で行い、液化DMEの流通速度および流通時間(脱水時間)は表1に示す通りバッチごとに様々な組み合わせとした。1バッチの試験は、同じ条件で試験を5回行い、それらの平均値を結果とした。
脱水処理終了後、紙おむつの脱水前重量および脱水後重量、脱水処理前後で減少した分の重量(減少量重量)、並びに排水の重量を測定した。表1に、結果を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から明らかなように、いずれのバッチにおいても、処理後の紙おむつの重量は処理前に比べて著しく減少し、また、排水(尿模擬液)重量から、吸水させた尿模擬液の大部分が排出されたことが分かる。なお、減少量の重量を排水量が上回る場合が多いが、これは、処理後の紙おむつや排水の中にDMEが含まれるからと推測される。
このことから、本発明によれば、尿を含んだ状態の紙おむつから、短時間に、外気温に近い条件で容易に多量の尿を除去できることが確認できた。
【0064】
実施例2(生理用品の脱水試験)
生理用品(乾燥平均重量36.7g)32枚を使用して、以下の組成からなる血液模擬液を1枚あたり60g染み込ませて試験に供した。なお、生理用品32枚に吸水させた尿模擬液の合計量は、1.92kgであった
【0065】
〔血液模擬液の組成:1059.9g(1L)中の分量〕
イオン交換水:852g
尿素:0.22g
ブドウ糖:0.65g
NaCl:3.96g
KCl:0.18g
牛ヘモグロビン:163g
牛アルブミン:23.1g
牛グロブリン:16.8g
【0066】
脱水処理の条件は、紙おむつの代わりに生理用品を用い、かつ、流通速度100L/時間、脱水時間2時間とした他は、実施例1と同様に行った。なお、同じ条件で試験を7回行い、それらの平均値を結果とした。
その結果、生理用品32枚から、1.71kgの血液模擬液を除去することができ、当初吸水させた量の大部分が排水されたことが分かった。
このことから、本発明によれば、血液を含んだ状態の生理用品から、短時間で容易に、多量の血液分を効率よく除去できることが確認できた。
【0067】
実施例3(ウッドチップの脱水試験)
湿潤状態のウッドチップ3.11kgを用い、かつ、流通速度100L/時間、脱水時間3時間とした他は、実施例1と同様に脱水試験を行った。同じ条件で試験を5回行った結果、平均で1.99kgが排出された。
このことから、本発明によれば、含水(湿潤)状態のウッドチップから、短時間で容易に、多量の水分を除去できることが確認できた。
【0068】
実施例4(雑草の脱水試験)
湿潤状態の雑草2.94gを用い、かつ、流通速度100L/時間、脱水時間80〜90分とした他は、実施例1と同様に脱水試験を行った。同じ条件で試験を3回行った結果、排水重量は平均で2.97kgであった。なお、排水重量が当初の雑草の重量を上回るのは、DMEが含まれているからであると推測される。
このことから、本発明によれば、含水(湿潤)状態の雑草から、短時間で容易に、多量の水分を除去できることが確認できた。
【0069】
実施例5(残飯の脱水試験)
残飯(うどん、山菜ご飯)6.28kgを用い、かつ、流通速度100L/時間、脱水時間2時間とした他は、実施例1と同様に脱水試験を行った。その結果、脱水後の排水重量4.15kgであった。
また、残飯(食品名:ミックスフライ定食、カレーライス)5.71kgを用い、かつ流通速度100L/時間、脱水時間2〜3時間とした他は、実施例1と同様に脱水試験を行った。同じ試験を2回行った結果、3.40kgの水分を脱水することができた。
このことから、本発明によれば、含水(湿潤)状態の残飯から、短時間で容易に、多量の水分を除去できることが確認できた。
【0070】
実施例6(花束の脱水試験)
花束(無作為に10種類の品種を選択)0.09kgを用い、脱水処理をまず15分間、流通速度100L/時間として行った後、ジメチルエーテルの流れを止めて脱水槽内にジメチルエーテルを滞留させた条件で3時間浸漬したほかは、実施例1と同様にした脱水試験を行った。その結果、脱水後重量は0.02kgであり、当初の重量から0.07kg減少した。
一方、花束(無作為に10種類の品種を選択)0.58kgを用い、かつ、流通速度100L/時間、脱水時間3時間とした他は、実施例1と同様に脱水試験を行った。その結果、脱水後重量は0.13kgであり、当初の重量から0.45kg減少した。
このことから、本発明によれば、花束からも、短時間で容易に、多量の水分を除去できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明にかかる含水物質中の脱水方法は、多様な含水物質に適用でき、どのような含水物質であっても、低動力で短時間に簡便に水分を除去することができる。
従って、本発明は、様々な含水物質から水分を除去することにより軽量化を図り、廃棄物としての処理、再利用、バイオマスとしての利用等を容易にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の脱水システムの構成の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の脱水システムの一例の温度圧力条件を示す概略図である。
【図3】本発明の脱水システムにおける膨張機の断熱効率と圧縮機の断熱効率に対する第2圧縮機に要する動力を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1、1’ 圧縮機
2 凝縮器
3 脱水器
4 蒸発器
4’ 冷却器
4” 減圧弁
5 熱交換器
6 分離器
7 膨張機
8 脱気塔
8’ 保圧弁
8a 加熱缶
9 電動機
10 冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含水物質に接触させ、該液化物に該含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得る工程(1)、および、該水分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として水分から分離する工程(2)を含むことを特徴とする液化物を用いた含水物質の脱水方法。
【請求項2】
前記工程(2)において気化され分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を回収し、該気体を液化させて液化物を得る工程(3)をさらに含み、該工程(3)で得られる液化物を前記工程(1)において再び使用することを特徴とする請求項1に記載の脱水方法。
【請求項3】
常温常圧の条件下で気体である物質は、25℃および1気圧において気体である物質であることを特徴とする請求項1に記載の脱水方法。
【請求項4】
常温常圧の条件下で気体である物質は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、およびアセトアルデヒドから選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の脱水方法。
【請求項5】
含水物質が、使用済みの高吸水体、生物、又はバイオマス原料であることを特徴とする請求項1に記載の脱水方法。
【請求項6】
前記工程(1)における接触は、前記液化物と前記含水物質とが向流接触させるようにして行うことを特徴とする請求項1に記載の脱水方法。
【請求項7】
前記工程(1)における含水物質と接触させる液化物の量は、含水物質中の水分を溶解させて水分高含有の液化物を得るのに少なくとも必要とされる理論量であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の脱水方法。
【請求項8】
一連の脱水操作を、−10℃〜50℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の脱水方法。
【請求項9】
請求項1に記載の脱水方法により得られる水分が除去された物質。
【請求項10】
常温常圧の条件下で気体である物質の気体を加圧する圧縮機と、加圧された前記気体を凝縮して液化物とする凝縮器と、前記液化物を含水物質と接触させ該含水物質中の水分を溶解させ水分高含有の液化物とする脱水器と、該水分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させる蒸発器と、気化した前記物質の気体と水分とを分離する分離器とが、直列に連結して構成されることを特徴とする含水物質の脱水システム。
【請求項11】
前記凝縮器と前記蒸発器とが、熱交換器で接続されて構成されることを特徴とする請求項10に記載の脱水システム。
【請求項12】
さらに、前記気化した常温常圧の条件下で気体である物質の気体を膨張させる膨張機が前記圧縮機に直列に連結して構成され、該膨張機の外界に行う仕事が回収され、該仕事が前記圧縮機の動力の一部として投入されるように構成されていることを特徴とする請求項10または11に記載の脱水システム。
【請求項13】
前記圧縮機、凝縮器、脱水器、蒸発器および膨張機は回路を形成し、該回路を、常温常圧の条件下で気体である物質が循環するように構成されることを特徴とする請求項10〜12のいずれか一つに記載の脱水システム。
【請求項14】
前記分離器で分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を脱気し回収するための脱気塔が前記分離器に連結され、脱気された気体を回収し回路に戻されるように構成されていることを特徴とする請求項10〜13のいずれか一つに記載の脱水システム。
【請求項15】
前記脱水器は、前記液化物と前記含水物質とを向流接触させることを特徴とする請求項10〜14のいずれか一つに記載の脱水システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−83122(P2007−83122A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272634(P2005−272634)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】