説明

液圧ブレーキ装置

【課題】 エンジン停止時にも十分な制動力を得ることができる液圧ブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】 回生制動装置を備えた車両に用いられる液圧ブレーキ装置において、ドライバのブレーキ操作に応じてマスタシリンダから流出したブレーキ液を第1のポンプを用いて昇圧する昇圧部と、第2のポンプを備え、昇圧されたブレーキ液を用いて車輪に設けられたホイルシリンダ毎に液圧制御可能な液圧ブレーキ制御部と、液圧ブレーキ制御部による液圧ブレーキ中に回生制動装置が作動したときに、回生制動装置による制動トルク相当の液圧を第1のポンプを用いて前記ホイルシリンダから回収する液圧回収部と、を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、下記の特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報には、ハイブリッド自動車において回生ブレーキと油圧ブレーキとの協調制御を行っているものが開示されている。油圧ブレーキには、エンジンからの負圧を用いて昇圧するブレーキブースタが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−288905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術では、エンジン停止時にはブレーキブースタで昇圧することができず、十分な制動力を得ることができないおそれがあった。
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、エンジン停止時にも十分な制動力を得ることができる液圧ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本願発明では、回生制動装置を備えた車両に用いられる液圧ブレーキ装置において、ドライバのブレーキ操作に応じてマスタシリンダから流出したブレーキ液を第1のポンプを用いて昇圧する昇圧部と、第2のポンプを備え、昇圧されたブレーキ液を用いて車輪に設けられたホイルシリンダ毎に液圧制御可能な液圧ブレーキ制御部と、液圧ブレーキ制御部による液圧ブレーキ中に回生制動装置が作動したときに、回生制動装置による制動トルク相当の液圧を第1のポンプを用いて前記ホイルシリンダから回収する液圧回収部と、を設けた。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、摩擦トルクの増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の液圧ブレーキ装置の倍力ユニットの液圧回路図である。
【図2】実施例1の液圧ブレーキ装置の液圧制御ユニットの液圧回路図である。
【図3】実施例1の実行制御の種類について説明する図である。
【図4】実施例1の動作例を示すタイムチャートである。
【図5】実施例1の動作例を示すタイムチャートである。
【図6】実施例1の動作例を示すタイムチャートである。
【図7】他の実施例1の液圧ブレーキ装置の倍力ユニットの液圧回路図である。
【図8】他の実施例2の液圧ブレーキ装置の倍力ユニットの液圧回路図である。
【図9】他の実施例3の液圧ブレーキ装置の倍力ユニットの液圧回路図である。
【図10】他の実施例4の液圧ブレーキ装置の倍力ユニットの液圧回路図である。
【図11】他の実施例5の液圧ブレーキ装置の倍力ユニットの液圧回路図である。
【図12】他の実施例6の液圧ブレーキ装置の倍力ユニットの液圧回路図である。
【図13】他の実施例7の液圧ブレーキ装置の倍力ユニットの液圧回路図である。
【図14】他の実施例8の液圧ブレーキ装置の倍力ユニットの液圧回路図である。
【図15】他の実施例8の液圧ブレーキ装置の液圧制御ユニットの液圧回路図である。
【図16】他の実施例9の液圧ブレーキ装置の液圧制御ユニットの液圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
実施例1の液圧ブレーキ装置1について説明する。実施例1の液圧ブレーキ装置1は、ハイブリッド自動車や電気自動車など回生制動装置を備えた車両に用いられるものである。
[液圧回路の構成]
図1は液圧ブレーキ装置1の倍力ユニット2の液圧回路図である。図2は液圧ブレーキ装置1の液圧制御ユニット3の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1は、ドライバのブレーキペダルBPの操作に応じてマスタシリンダMCから供給されたブレーキ液の昇圧を行う倍力ユニット2と、各車輪のホイルシリンダWCに供給するブレーキ液の液圧を制御する液圧制御ユニット3とを有している。倍力ユニット2は倍力ユニットハウジング20に、液圧制御ユニット3は液圧制御ユニットハウジング30にそれぞれ収容されている。
【0009】
ブレーキペダルBPはドライバの踏力によって操作され、ブレーキペダルBPにはブレーキペダルストロークを検出するブレーキペダルストロークセンサ4が設けられている。マスタシリンダMCは、ブレーキペダルBPのストローク量に応じてリザーバタンク5に貯留されたブレーキ液を液圧回路に供給する。液圧回路は、右前輪、左後輪のホイルシリンダWC(FR),WC(RL)にブレーキ液を供給するプライマリ液圧回路と、左前輪、右後輪のホイルシリンダWC(FL),WC(RR)にブレーキ液を供給するセカンダリ液圧回路により構成されている。図面にはプライマリ液圧回路の構成の符号には「p」を、セカンダリ液圧回路の構成の符号には「s」を付しているが、プライマリ液圧回路と、セカンダリ液圧回路の構成はほぼ同一であるので、以下の説明において特に分けて説明を必要としない箇所についてはプライマリ液圧回路とセカンダリ液圧回路の区別をつけずに説明する。
【0010】
<倍力ユニットの回路構成>
倍力ユニット2は、ドライバのブレーキペダルBP操作によってマスタシリンダMCから供給されたブレーキ液を、ポンプ203により昇圧している。プライマリ液圧回路のポンプ203pもセカンダリ液圧回路のポンプ203sも、1つの電動モータ231によって駆動され、正逆回転可能に構成されている。ポンプ203が正回転するときにはP4からP5に向かってブレーキ液を吐出し、逆回転するときにはP5からP4に向かってブレーキ液を吐出する。
マスタシリンダMCからP1を経由してP2へ至る液路205が形成されている。セカンダリ液圧回路の液路205sにはマスタシリンダMCの液圧を検出する液圧センサ207が設けられている。
P2からP3を経由してポンプ203へ至る液路200が形成されている。この液路200上にはノーマルクローズタイプの比例弁であるゲートインバルブ201、ブレーキ液を貯留するリザーバ202が設けられている。
【0011】
ポンプ203からP4を経由してP5へ至る液路204が形成されている。この液路204にはノーマルクローズタイプのオン/オフ弁であるポンプアウトバルブ206が設けられている。また液路204には、ポンプアウトバルブ206と並列にチェックバルブ208が設けられている。このチェックバルブ208は、P4からP5へ向かうブレーキ液の流れに対しては開弁し、P5からP4へ向かうブレーキ液の流れに対しては閉弁する。
P2からP5へ至る液路209が形成されている。この液路209には、ノーマルオープンタイプの比例弁であるゲートアウトバルブ210が設けられている。また液路209には、ゲートアウトバルブ210と並列にリリーフバルブ211が設けられている。このリリーフバルブ211は、P2からP5へ向かうブレーキ液の流れに対して、P2とP5の圧力差があらかじめ設計された値以上の場合は開弁し、P5からP2へ向かうブレーキ液の流れに対しては閉弁する。この理由は回生協調時にP5の圧力をP2より小さくする場合があるためである。したがって、リリーフバルブ211の開弁圧力差は回生協調にて回収する液圧相当となる。
P5からP6へ至る液路212が形成されている。この液路212には倍力ユニット2から液圧制御ユニット3に供給されるブレーキ液の液圧を検出する液圧センサ213が設けられている。
【0012】
<液圧制御ユニットの回路構成>
液圧制御ユニット3は、ポンプ300や各バルブを制御することによって各ホイルシリンダWCへ供給するブレーキ液を制御し、VDC制御やABS制御を行うVDC/ABS制御ユニットである。ポンプ300は、電動モータ301によって駆動されてP4からP5に向かってブレーキ液を吐出する。
倍力ユニット2のP6からQ1を経由してQ2に至る液路302が形成されている。Q2からQ3を経由してポンプ300に至る液路303が形成されている。この液路303には、ブレーキ液を貯留するリザーバ316が設けられている。
ポンプ300からQ4に至る液路304が形成されている。この液路304にはチェックバルブ305が設けられている。チェックバルブ305は、ポンプ300からQ4へ向かうブレーキ液の流れに対しては開弁し、Q4からポンプへ向かうブレーキ液の流れに対しては閉弁する。
Q2からQ4へ至る液路325が形成されている。この液路325にはノーマルオープンタイプの比例弁であるゲートアウトバルブ317が形成されている。また液路325には、ゲートアウトバルブ317と並列にチェックバルブ318が設けられている。このチェックバルブ318は、Q2からQ4へ向かうブレーキ液の流れに対しては開弁し、Q4からQ2へ向かうブレーキ液の流れに対しては閉弁する。
【0013】
Q4からQ5へ至る液路306が形成されている。さらにQ5からQ6へ至る液路307が形成されている。液路307には、ノーマルオープンタイプの比例弁である増圧バルブ319が設けられている。また液路307には、増圧バルブ319と並列にチェックバルブ320が設けられている。このチェックバルブ320は、Q6からQ5へ向かうブレーキ液の流れに対しては開弁し、Q5からQ6へ向かうブレーキ液の流れに対しては閉弁する。
Q6からホイルシリンダWCへ至る液路308が形成されている。またQ6からQ10へ至る液路309が形成されている。液路309にはノーマルクローズタイプのオン/オフ弁である減圧バルブ321が設けられている。Q10からリザーバ316へ至る液路310が形成されている。
Q5からQ7へ至る液路311が形成されている。さらにQ7からQ8へ至る液路312が形成されている。液路312には、ノーマルオープンタイプの比例弁である増圧バルブ322が設けられている。また液路312には、増圧バルブ322と並列にチェックバルブ323が設けられている。このチェックバルブ323は、Q8からQ7へ向かうブレーキ液の流れに対しては開弁し、Q7からQ8へ向かうブレーキ液の流れに対しては閉弁する。
Q8からホイルシリンダWCへ至る液路313が形成されている。またQ8からQ9へ至る液路314が形成されている。液路314にはノーマルクローズタイプのオン/オフ弁である減圧バルブ324が設けられている。Q9からQ10へ至る液路315が形成されている。
【0014】
[倍力ユニットの動作]
実施例1の液圧ブレーキ装置1は回生制動装置とともに制動制御を行う。そのため回生制動の有無によって制御が異なる。以下では、(a)通常増圧制御、(b)通常減圧制御、(c)回生協調減圧制御、(d)回生協調増圧制御、(e)ストローク制御に分けて、各制御について説明する。
(a) 通常増圧制御
通常増圧制御とは、液圧ブレーキ装置1による制動力を増加するときに液圧制御ユニット3へブレーキ液を供給する制御を示す。このときゲートインバルブ201、ゲートアウトバルブ210、ポンプアウトバルブ206、ポンプ203は次のように制御される。
ゲートインバルブ:開弁
ゲートアウトバルブ:閉弁
ポンプアウトバルブ:閉弁
ポンプ:正回転
ブレーキ液は、リザーバタンク5→マスタシリンダMC→ゲートインバルブ201→リザーバ202→ポンプ203→チェックバルブ208→液圧制御ユニット3の順で供給される。
【0015】
(b) 通常減圧制御
通常減圧制御とは、液圧ブレーキ装置1による制動力を減少するときに液圧制御ユニット3側のブレーキ液を回収するときの制御を示す。このときゲートインバルブ201、ゲートアウトバルブ210、ポンプアウトバルブ206、ポンプ203は次のように制御される。
ゲートインバルブ:閉弁
ゲートアウトバルブ:比例制御
ポンプアウトバルブ:閉弁
ポンプ:停止
ブレーキ液は、液圧制御ユニット3→ゲートアウトバルブ210→マスタシリンダMC→リザーバタンク5の順で回収される。
【0016】
(c) 回生協調減圧制御
回生協調減圧制御とは、回生制動中に回生制動により発生した制動トルクに相当する液圧分のブレーキ液を液圧制御ユニット3側から回収する制御を示す。このときゲートインバルブ201、ゲートアウトバルブ210、ポンプアウトバルブ206、ポンプ203は次のように制御される。
ゲートインバルブ:閉弁
ゲートアウトバルブ:閉弁
ポンプアウトバルブ:開弁
ポンプ:逆回転
ブレーキ液は、液圧制御ユニット3→ポンプ203→ポンプアウトバルブ206→ポンプ203→リザーバ202の順で回収される。このときポンプ203は、ポンプ203のP3側の圧力がP4側の圧力よりも高くならないように制御されている。これはポンプ203が正回転制御をするときに、吸入側の液圧が吐出側の液圧よりも高くなるとポンプ203により吐出することができなくなるおそれがあるためである。
【0017】
(d) 回生協調増圧制御
回生協調増圧制御とは、回生制動中に回生制動で不足する制動トルクに相当する液圧分のブレーキ液を液圧制御ユニット3側から回収するときの制御を示す。このときゲートインバルブ201、ゲートアウトバルブ210、ポンプアウトバルブ206、ポンプ203は次のように制御される。
ゲートインバルブ:閉弁
ゲートアウトバルブ:閉弁
ポンプアウトバルブ:閉弁
ポンプ:正回転
ブレーキ液は、リザーバ202→ポンプ203→チェックバルブ208→液圧制御ユニット3の順で供給される。
【0018】
(e)ストローク制御
ストローク制御とは、回生制動中にブレーキペダルBPのストロークを確保するために行われる制御を示す。このときゲートインバルブ201、ゲートアウトバルブ210、ポンプアウトバルブ206、ポンプ203は次のように制御される。
ゲートインバルブ:開弁
ゲートアウトバルブ:閉弁
ポンプアウトバルブ:閉弁
ポンプ:停止
ブレーキ液は、リザーバタンク5→マスタシリンダMC→ゲートインバルブ201→リザーバ202の順で送られる。
または次のように制御しても良い。
ゲートインバルブ:閉弁
ゲートアウトバルブ:開弁
ポンプアウトバルブ:開弁
ポンプ:停止
ブレーキ液は、リザーバタンク5→マスタシリンダMC→ゲートアウトバルブ210→ポンプ203→リザーバ202の順で送られる。
【0019】
図3は、状況に応じて上記(a)から(e)で示した制御のうちどの制御を行うかを示した図である。ドライバ制動要求(ブレーキペダルのストローク量)、回生制動量、液圧制動量に応じて制御を選択する。
ドライバ制動要求:減少、回生制動量:減少、液圧制動量:減少のときは制御(b)と制御(d)を行う。ドライバ制動要求:減少、回生制動量:減少、液圧制動量:保持のときは制御(b)と制御(d)を行う。ドライバ制動要求:減少、回生制動量:減少、液圧制動量:増加のときは制御(b)を行う。ドライバ制動要求:減少、回生制動量:保持、液圧制動量:減少のときは制御(b)と制御(d)を行う。ドライバ制動要求:減少、回生制動量:増加、液圧制動量:減少のときは制御(b)と制御(c)を行う。
ドライバ制動要求:保持、回生制動量:減少、液圧制動量:増加のときは制御(d)を行う。ドライバ制動要求:保持、回生制動量:保持、液圧制動量:保持のときはゲートインバルブ201とゲートアウトバルブ210をともに閉弁して液圧を保持する。ドライバ制動要求:保持、回生制動量:増加、液圧制動量:減少のときは制御(c)を行う。
ドライバ制動要求:増加、回生制動量:減少、液圧制動量:増加のときは制御(a)と制御(d)を行う。ドライバ制動要求:増加、回生制動量:保持、液圧制動量:増加のときは制御(a)を行う。ドライバ制動要求:増加、回生制動量:増加、液圧制動量:減少のときは制御(c)と制御(e)を行う。ドライバ制動要求:増加、回生制動量:増加、液圧制動量:保持のときは制御(e)を行う。ドライバ制動要求:増加、回生制動量:増加、液圧制動量:増加のときは制御(a)を行う。
【0020】
[作用]
<動作例>
液圧ブレーキ装置1の制御の動作例について説明する。図4から図6は動作例を示すタイムチャートである。
図4に示す動作例について説明する。時間t1でドライバ制動要求が発生すると、ゲートアウトバルブ210を閉弁し、ゲートインバルブ201を開弁する。時間t2で回生制動による制動力がドライバ制動要求に追従できなくなると、電動モータ231を正回転させドライバ制動要求に対して不足する制動力に相当するブレーキ液を供給する。時間t3で制動力がドライバ制動要求に達すると電動モータ231を停止させるとともにゲートインバルブ201を閉弁する。時間t4で回生制動が減少すると、電動モータ231を正回転させドライバ制動要求に対して不足する制動力分の液圧を発生させる。時間t5で制動力がドライバ制動要求を満たすと電動モータ231を停止する。
図5に示す動作例について説明する。時間t11でドライバ制動要求が発生すると、ゲートアウトバルブ210を閉弁し、ゲートインバルブ201を開弁する。時間t12で回生制動による制動力がドライバ制動要求に追従できなくなると、電動モータ231を正回転させドライバ制動要求に対して不足する制動力に相当するブレーキ液を供給する。時間t13で制動力がドライバ制動要求に達すると電動モータ231を停止させるとともにゲートインバルブ201を閉弁する。時間t14で回生制動による制動力が増加すると、電動モータ231を逆回転させて回生制動による制動力が増加した分の制動力に相当するブレーキ液を回収する。時間t15で回生制動による制動力が減少すると、電動モータ231を正回転させドライバ制動要求に対して不足する制動力に相当するブレーキ液を供給する。時間t16で制動力がドライバ制動要求を満たすと電動モータ231を停止する。
【0021】
図6に示す動作例について説明する。時間t21でドライバ制動要求が発生すると、ゲートアウトバルブ210を閉弁し、ゲートインバルブ201を開弁する。時間t22で回生制動による制動力がドライバ制動要求に追従できなくなると、電動モータ231を正回転させドライバ制動要求に対して不足する制動力に相当するブレーキ液を供給する。時間t23で制動力がドライバ制動要求に達すると電動モータ231を停止させるとともにゲートインバルブ201を閉弁する。時間t24でドライバ制動要求が増加すると、ゲートインバルブ201を開弁し、電動モータを正回転させドライバ制動要求に対して不足する制動力に相当するブレーキ液を供給する。時間t25で回生制動が減少すると、電動モータ231を正回転させドライバ制動要求に対して不足する制動力分の液圧を発生させる。時間t26で制動力がドライバ制動要求を満たすと電動モータ231を停止する。
【0022】
<倍力機能の確保>
従来、液圧ブレーキ装置では、エンジンの負圧を用いて昇圧を行うブレーキブースタが用いられていた。しかしながら、ハイブリッド自動車ではエンジン停止時にブレーキブースタで昇圧を行うことができず、十分な制動力を得ることができないおそれがあった。またエンジンを有しない電気自動車では、そもそも負圧を用いて昇圧を行うブレーキブースタを搭載することはできない。
そこで実施例1の液圧ブレーキ装置1では、マスタシリンダMCから流出したブレーキ液をポンプ203を用いて昇圧する倍力ユニット2と、倍力ユニット2において昇圧されたブレーキ液を用いてホイルシリンダWC毎に液圧を制する液圧制御ユニット3を設けた。
これにより、エンジン停止時にも倍力ユニット2によって昇圧することができる。
また実施例1の液圧ブレーキ装置1では、回生制動装置による制動トルク相当の液圧をポンプ203により回収するようにした。
これにより、回生制動力が増加したときにもドライバ制動要求の制動力を維持することができる。
【0023】
また実施例1の液圧ブレーキ装置1では、ドライバのブレーキ操作によってマスタシリンダMCから流出したブレーキ液を、リザーバ202に貯留するようにした。
これにより、回生制動時のブレーキペダルBPのストロークを確保することができる。
また実施例1の液圧ブレーキ装置1では、リザーバ202内のブレーキ液をポンプ203により液圧制御ユニット3に送るようにした。
これにより、回生制動が減少したときにもドライバ制動要求の制動力を維持することができる。
また実施例1の液圧ブレーキ装置1では、ホイルシリンダWCのブレーキ液をポンプ203によりリザーバ202に回収してホイルシリンダWCの液圧を減圧するようにした。
これにより、回生制動力が増加したときにもドライバ制動要求の制動力を維持することができる。
また実施例1の液圧ブレーキ装置1では、倍力ユニット2を倍力ユニットハウジング20に収容し、液圧制御ユニット3を液圧制御ユニットハウジング30に収容するようにした。
これにより、液圧制御ユニット3は従来からあるユニットを用いることができる。
【0024】
[効果]
実施例1の液圧ブレーキ装置1の効果について以下に列記する。
(1)回生制動装置を備えた車両に用いられる液圧ブレーキ装置1において、ドライバのブレーキ操作に応じてマスタシリンダMCから流出したブレーキ液をポンプ203(第1のポンプ)を用いて昇圧する倍力ユニット2(昇圧部)と、ポンプ300(第2のポンプ)を備え、昇圧されたブレーキ液を用いて車輪に設けられたホイルシリンダWC毎に液圧制御可能な液制御ユニット3(液圧ブレーキ制御部)と、液圧制御ユニット3による液圧ブレーキ中に回生制動装置が作動したときに、回生制動装置による制動トルク相当の液圧をポンプ203を用いてホイルシリンダWCから回収する回生協調減圧制御(液圧回収部)を設けた。
よって、エンジン停止時にも倍力ユニット2によって昇圧することができる。また回生制動力が増加したときにもドライバ制動要求の制動力を維持することができる。
【0025】
(2)倍力ユニット2はブレーキ回路中に設けられ、ポンプ203は電動モータ231によって駆動され、ドライバのブレーキ操作によってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダMCと、ブレーキ液圧が作用するように構成されたホイルシリンダWCとを接続する液路205,209,212(第1ブレーキ回路)と、液路205,209,212とポンプ203の吐出側とを接続する液路294(第2ブレーキ回路)と、液路205,209,212上であって、液路205,209,212と液路294との接続位置よりもマスタシリンダMC側に設けられたゲートアウトバルブ210と、ゲートアウトバルブ210よりもマスタシリンダMC側の液路205,209,212と、ポンプ203の吸入側とを接続する液路200(第3ブレーキ回路)と、液路200上であってポンプ203の吸入側に設けられた、マスタシリンダMCから流出したブレーキ液を貯留可能なリザーバ202と、ドライバのブレーキ操作によってマスタシリンダMCから流出したブレーキ液を、リザーバ202内に貯留させるストローク制御(ブレーキ液貯留制御部)と、ゲートアウトバルブ210を閉弁方向に制御し、リザーバ202内に貯留したブレーキ液をポンプ203によりホイルシリンダに送る回生協調増圧制御(増圧制御部)と、回生制動装置の作動時に、ホイルシリンダWCに圧送されたブレーキ液をポンプ203を介してリザーバ202へ流入させてホイルシリンダWCの液圧を減圧する回生協調減圧制御と、を設けた。
よって、回生制動時のブレーキペダルBPのストロークを確保することができる。また、回生制動が減少したときにもドライバ制動要求の制動力を維持することができる。また、回生制動力が増加したときにもドライバ制動要求の制動力を維持することができる。
【0026】
(3)倍力ユニット2を収容する倍力ユニットハウジング20(第1のハウジング)と、液圧制御ユニット3を収容する液圧制御ユニットハウジング30(第2のハウジング)を設けた。
よって、液圧制御ユニット3は従来からあるユニットを用いることができる。
【0027】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施例1に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
[他の実施例1]
図7は倍力ユニット2の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1では、ポンプ203のP3側の圧力がP4側の圧力よりも高くならないように制御していたが、ポンプ203のP3側の圧力がP4側の圧力よりも高くならないように圧力解放回路を設けるようにしても良い。
図7に示すように、リザーバ202からP4へ至る液路214が形成されている。液路214にはチェックバルブ215が設けられている。このチェックバルブ215は、リザーバ202からP4へ向かうブレーキ液の流れに対しては開弁し、P4からリザーバ202へ向かうブレーキ液の流れに対しては閉弁する。
これにより、ポンプ203のP3側の圧力がP4側の圧力よりも高くなることを防ぐことができる。
【0028】
[他の実施例2]
図8は倍力ユニット2の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1では、倍力ユニット2のゲートアウトバルブ210に並列にリリーフバルブ211を設けていたが、リリーフバルブ211に代えてフェールセーフバルブ217を設けるようにしても良い。図8に示すように、P7からP8へ至る液路216を形成し、この液路216にノーマルオープンタイプのオン/オフ弁であるセーフバルブ217を設けても良い。
[他の実施例3]
図9は倍力ユニット2の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1では、倍力ユニット2の液路204にポンプアウトバルブ206を設けていたが、図9に示すようにポンプアウトバルブ206を設けなくとも良い。この場合、ポンプ203は常に駆動させておく必要がある。
【0029】
[他の実施例4]
図10は倍力ユニット2の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1では、倍力ユニット2プライマリ液圧回路のポンプ203pもセカンダリ液圧回路のポンプ203sも、1つの電動モータ231で駆動していた。この構成を図10に示すように、プライマリ液圧回路のポンプ203pは電動モータ231pにより、セカンダリ液圧回路のポンプ203sは電動モータ231sによってそれぞれ駆動するようにしても良い。
これにより電動モータ231の冗長性を確保することができる。
[他の実施例5]
図11は倍力ユニット2の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1では、倍力ユニット2のプライマリ液圧回路とセカンダリ液圧回路にそれぞれ1つのポンプ203を設けていた。この構成を図11に示すように、ポンプ203に並列に液路219を形成し、この液路219にポンプ218を設け、電動モータ232により駆動するようにしても良い。
これによりポンプの冗長性と、ポンプ吐出の応答性を確保することができる。
【0030】
[他の実施例6]
図12は倍力ユニット2の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1では、倍力ユニット2のプライマリ液圧回路とセカンダリ液圧回路にそれぞれ1つのポンプ203を設けていた。この構成を図12に示すように、液路204に並列に液路220を形成し、この液路220にチェックバルブ221、ポンプ222を設け、電動モータ223により駆動するようにしても良い。ポンプ222はP3からP5に向けた吐出のみを行う。
これによりポンプ222は正回転のみを行えればよいため、ポンプ222の構成を簡単にしつつ、ポンプの冗長性と、ポンプ吐出の応答性を確保することができる。
【0031】
[他の実施例7]
図13は倍力ユニット2の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1では、ポンプ203はリザーバ202に接続していた。この構成を図13に示すようにポンプ203をリザーバタンク5に接続させるようにしても良い。
リザーバタンク5からポンプ203へ至る液路224が形成されている。また液路205には、ノーマルオープンタイプのオン/オフ弁であるゲートアウトバルブ210が設けられている。また図13のP8からリザーバ226へ至る液路229を形成し、この液路229にノーマルクローズタイプの比例弁であるストロークシミュレータバルブ227を形成している。ストロークシミュレータバルブ227に並列してチェックバルブ228が設けられている。
ドライバのブレーキペダルBPの操作によりマスタシリンダMCから流出したブレーキ液は全てリザーバ226に回収され、ブレーキペダルBPのストロークを確保することができる。また液圧制御ユニット3へのブレーキ液の供給および回収は全てポンプ203によって行う。
【0032】
[他の実施例8]
図14は倍力ユニット2の液圧回路図である。図15は液圧制御ユニット3の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1では、液圧制御ユニット3のポンプ300は、倍力ユニット2内のポンプ203によって昇圧したブレーキ液を吸入するようにしていた。この構成を、液圧制御ユニット3のポンプ300は、マスタシリンダMCからブレーキ液を吸入するようにしても良い。
倍力ユニット2のP7からP8へ至る液路230が形成されている。また倍力ユニット2のP8から液圧制御ユニット3のQ11を経由してリザーバ202へ至る液路326が形成されている。
倍力ユニット2のポンプ203から吐出されたブレーキ液は、液圧制御ユニット3のQ4へ送られる。また液圧制御ユニット3のポンプ203から吐出されたブレーキ液も、液圧制御ユニット3のQ4へ送られる。これにより、液圧ブレーキ装置1のポンプ吐出能力は、倍力ユニット2のポンプ203と液圧制御ユニット3のポンプ300との合計とすることができるため、倍力ユニット2のポンプ203の吐出能力を低くすることができる。
【0033】
[他の実施例9]
図16は液圧制御ユニット3の液圧回路図である。実施例1の液圧ブレーキ装置1では、液圧制御ユニット3ではVDC/ABS制御ユニットを用いていたが、ABS制御ユニットを用いるようにしても良い。
倍力ユニット2のP6からQ21を経由してQ22に至る液路330が形成されている。Q22からQ23へ至る液路331が形成されている。Q23からQ25へ至る液路333が形成されている。この液路333には、ノーマルオープンタイプの比例弁である増圧バルブ334が設けられている。また液路333には、増圧バルブ334と並列にチェックバルブ340が設けられている。このチェックバルブ340は、Q25からQ23へ向かうブレーキ液の流れに対しては開弁し、Q23からQ25へ向かうブレーキ液の流れに対しては閉弁する。Q25からQ27へ至る液路335が形成されている。この液路335には、ノーマルクローズタイプの比例弁である減圧バルブ336が設けられている。
Q23からQ24へ至る液路332が形成されている。Q24からQ26へ至る液路351が形成されている。この液路351には、ノーマルオープンタイプの比例弁である増圧バルブ337が設けられている。また液路351には、増圧バルブ337と並列にチェックバルブ341が設けられている。このチェックバルブ341は、Q26からQ24へ向かうブレーキ液の流れに対しては開弁し、Q26からQ24へ向かうブレーキ液の流れに対しては閉弁する。Q26からQ28へ至る液路338が形成されている。この液路338には、ノーマルクローズタイプの比例弁である減圧バルブ339が設けられている。
【0034】
Q25からホイルシリンダWCへ至る液路342が形成されている。Q26からホイルシリンダWCへ至る液路343が形成されている。Q28からQ27至る液路344が形成されている。Q27からリザーバ346へ至る液路345が形成されている。リザーバ346からQ22へ至る液路347が形成されている。この液路347にはポンプ348とチェック弁349が直列に設けられている。ポンプ348は電動モータ350によって駆動されており、リザーバ346内のブレーキ液を倍力ユニット2側へ排出する。
【符号の説明】
【0035】
1 液圧ブレーキ装置
2 倍力ユニット(昇圧部)
3 液圧制御ユニット(液圧ブレーキ制御部)
20 倍力ユニットハウジング(第1のハウジング)
30 液圧制御ユニットハウジング(第2のハウジング)
203 ポンプ(第1のポンプ)
300 ポンプ(第2のポンプ)
MC マスタシリンダ
WC ホイルシリンダ
200 液路(第3ブレーキ回路)
202 リザーバ
205 液路(第1ブレーキ回路)
209 液路(第1ブレーキ回路)
210 ゲートアウトバルブ
212 液路(第1ブレーキ回路)
294 液路(第2ブレーキ回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回生制動装置を備えた車両に用いられる液圧ブレーキ装置において、
ドライバのブレーキ操作に応じてマスタシリンダから流出したブレーキ液を第1のポンプを用いて昇圧する昇圧部と、
第2のポンプを備え、前記昇圧されたブレーキ液を用いて車輪に設けられたホイルシリンダ毎に液圧制御可能な液圧ブレーキ制御部と、
前記液圧ブレーキ制御部による液圧ブレーキ中に前記回生制動装置が作動したときに、前記回生制動装置による制動トルク相当の液圧を前記第1のポンプを用いて前記ホイルシリンダから回収する液圧回収部と、
を設けたことを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液圧ブレーキ装置において、
前記昇圧部はブレーキ回路中に設けられ、
前記第1のポンプは電動モータによって駆動され、
ドライバのブレーキ操作によってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダと、前記ブレーキ液圧が作用するように構成された前記ホイルシリンダとを接続する第1ブレーキ回路と、
前記第1ブレーキ回路と前記第1のポンプの吐出側とを接続する第2ブレーキ回路と、
前記第1ブレーキ回路上であって、前記第1ブレーキ回路と前記第2ブレーキ回路との接続位置よりも前記マスタシリンダ側に設けられたゲートアウト弁と、
前記ゲートアウト弁よりもマスタシリンダ側の前記第1ブレーキ回路と、前記第1のポンプの吸入側とを接続する第3ブレーキ回路と、
前記第3ブレーキ回路上であって前記第1のポンプの吸入側に設けられた、前記マスタシリンダから流出したブレーキ液を貯留可能なリザーバと、
ドライバのブレーキ操作によって前記マスタシリンダから流出したブレーキ液を、前記リザーバ内に貯留させるブレーキ液貯留制御部と、
前記ゲートアウト弁を閉弁方向に制御し、前記リザーバ内に貯留したブレーキ液を前記第1のポンプにより前記ホイルシリンダに送る増圧制御部と、
前記回生制動装置の作動時に、前記ホイルシリンダに圧送されたブレーキ液を前記第1のポンプを介して前記リザーバへ流入させて前記ホイルシリンダの液圧を減圧する減圧制御部と、
を設けたことを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液圧ブレーキ装置において、
前記昇圧部を収容する第1のハウジングと、
前記液圧ブレーキ制御部を収容する第2のハウジングと、
を設けたことを特徴とする液圧ブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−201137(P2012−201137A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65152(P2011−65152)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】